レポートインタビュー、記者会見、舞台挨拶、キャンペーンのレポートをお届けします。

「是枝組と過ごした時間、温度はまだ自分の中に残っている」。 安藤サクラが語る『万引き家族』

DSCN7030.JPG

「是枝組と過ごした時間、温度はまだ自分の中に残っている」。
安藤サクラが語る『万引き家族』
 
第71回カンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールを受賞した是枝裕和監督の『万引き家族』が、6月8日(金)から全国ロードショーされる。受賞を記念し、6月4日(月)NHK大阪放送会館で行われた記者会見では、一家の母親的存在である信代を演じた安藤サクラが登壇し、パルムドール受賞の報告を受けた時の様子や、今回の“家族”への思いについて語った。
 

「本当にすごいですね。『おめでとうございます』ですね」。

DSCN7010.JPG

花で飾られた演台を前に、戸惑いと喜びを滲ませながら最初の挨拶をした安藤。受賞の瞬間を生中継で観るつもりが眠ってしまい、共演のリリー・フランキーのメールや、マネージャーからパルムドール受賞を知らされたという。「信じられなくて、すぐにテレビをつけ、(受賞のニュースを)残さなきゃと、使い捨てカメラで一生懸命テレビ画面の写真を撮りました。今は、(共演者たちのいる関東ではなく)私だけ大阪にいるので、感動を分かちあったり、監督に『おめでとう』も言えていない。まだふわふわした気持ちです」と、現在の心境を明かした。
 
今回の受賞で、是枝監督から、一緒にカンヌに行った母の安藤和津によるエッセーが送られてきたそうで、「久しぶりに母の仕事をみて、母親として喜んでくれているのが分かり、とてもうれしかった」と離れて暮らす母の気持ちに胸を熱くする一幕もあった。
 
 
manbiki-550.jpg

■是枝組と過ごした時間は、「おつりがくる」どころじゃない。

今回演じた信代は、「生い立ちといい、現在の生き方といい、台本を読んで共感して演じるというより、現場で生まれた家族と過ごした時間がフィルムに映っている」と、撮影を振り返った安藤。「すごく楽しい時間を是枝組『万引き家族』と過ごせました。まだ自分の中にその温度が残っています。信代さんが『おつりがくるどころじゃないよ』と劇中で言いますが、それどころじゃないぐらい。 パルムドールと聞いて、なんという瞬間を一緒に過ごしたのだろうと思いました。運動会で一等賞を取って、やったね!というのと同じぐらいに、是枝監督はパルムドールの喜びを皆で分かち合っているのが、カッコイイなと思うし、その輪の中に、一緒にいさせてもらえたことが、すごくうれしかった」
 
 

■母性が溢れ出ている産後間もない時に演じた、真逆な境遇の信代。

DSCN7053.JPG

現在一児の母である安藤は、出産後初の仕事が本作の撮影だったという。演じた信代は過去を持つ女であるだけでなく、子どもを産めない女性という設定だった。
「出産後初めて外に出たのが昨年夏の撮影で、(初めての出産で)自分からあふれでる母性や母乳をコントロールするところまではいたらない状況でした。妊娠中や出産後は、極力子どもと一緒にいる方がいいと思っていたけれど、このタイミングで『万引き家族』の信代に出会えたことが良かったし、是枝組でしか成り立たなかったでしょう。 役柄としては(今の自分の状況と)真逆だけど、産後間もない体で、信代を演じるのはおもしろいなと思いました」
 
 

■公開して、この家族で会うことがないのかと思うと、たまに泣きたくなる。

祥太役の城桧吏や、ゆり役の佐々木みゆという二人の子役と演じたのも、安藤にとってはかけがえのない体験となったようだ。「今は、二人のビデオを見ているだけで、たまらなくなって泣いてしまいます。カンヌに行ってから、この家族が本当に大事な家族のようになっているんです。すごいご縁だと思うのは、みゆちゃんが私の娘と全く同じ誕生日だったこと。血のつながりではないけど、何かのつながりを感じています。劇場公開し、この家族で会うことがもうないのかと思うと、たまに泣きたくなるのです」
 
 
manbiki-500-2.jpg
 

■きちんと生きていなければ、どんな人物も演じられない。

今年のカンヌ国際映画祭審査委員長、ケイト・ブランシェットは「インビジブルピープル(社会で見過ごされている人)」がテーマだったと総括していた。それについて、女優としてどういう感想を持ったかという質問には、「難しく考えてないですし、人としてきちんと、色々なところに目を向けながらも、自分自身をきちん生きる。演じる側として、(テーマを念頭に入れる等)そういう風に考えて演じるのは向いていないし、これからもしません。考えられるなら監督になっているかもしれません。きちんと生きていなければ、どんな人物も演じられない。だから、きちんと生きたい」と断言。日常をきちんと過ごすことの積み重ねを大事にしたいという気持ちが、随所に垣間見えた。
 
DSCN7040.JPG
最後に、公開時の舞台挨拶で是枝監督と久々の再会を果たすにあたり、安藤は「自分の中でできるかぎり、全身で、この瞬間を体験できたことへ、感謝の気持ちを150%で伝えたいと思っています。6月8日に公開となります。久しぶりに是枝監督にお会いできるので、みなさんで監督を祝福しましょう!」と力強いメッセージを送った。
21年ぶりとなる日本人監督のパルムドール受賞。カンヌでの受賞の興奮を胸にした状態で、劇場鑑賞できることがいかに素晴らしく、感動的なものであるかをぜひ体験してほしい。そして、唯一無二の『万引き家族』に会いに行ってほしい。
(江口由美)
 

『万引き家族』
(2018年 日本 2時間)
監督・脚本・編集:是枝裕和
出演:リリー・フランキー、安藤サクラ、松岡茉優、池松壮亮、城桧吏、佐々木みゆ、緒方直人、森口瑤子、山田裕貴、片山萌美/柄本明、高良健吾、池脇千鶴/樹木希林他
2018年6月8日~全国ロードショー 
 

月別 アーカイブ