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大好きな故郷・渋川市は「帰る」場所 『榎田貿易堂』主演、渋川清彦さんインタビュー

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大好きな故郷・渋川市は「帰る」場所
『榎田貿易堂』主演、渋川清彦さんインタビュー
 
『菊とギロチン』『ルームロンダリング』をはじめ、今年だけでも出演作多数で圧倒的な存在感をみせる俳優、渋川清彦と、『荒川アンダーザブリッジ』シリーズをはじめ、最新作『虹色デイズ』が7月公開となる飯塚健監督。群馬県渋川市出身の同郷コンビによるコミカルな大人の群像劇『榎田貿易堂』が、6月9日(土)から新宿武蔵野館で絶賛公開中だ。
(6月16日(土)シネマテークたかさき、テアトル梅田、今夏~元町映画館、出町座他全国順次公開)
 
ゴミ以外なら何でも扱うことが信条のリサイクルショップ「榎田貿易堂」の店長、榎田洋二郎(渋川清彦)と、彼のもとに集まる人妻のアルバイト・千秋(伊藤沙莉)、仕事が早くてクールな青年、清春(森岡龍)、終活中で熱愛中の客・ヨーコ(余貴美子)、東京から出戻り、今は実家の旅館を手伝う自称スーパーチーフ助監督・丈(滝藤賢一)。たわいもない日常が続くと思われたが、ある日店の看板の一部が落下し、洋二郎はすごいことが起きる予兆を感じる。少しずつ動き出すそれぞれの運命と、それぞれの選択は…。
群馬県を舞台にしたオリジナル脚本による地域映画は、あっと驚き、最後はしみじみとする心憎い作品に仕上がっている。
 
本作の主演、渋川清彦さんに、故郷・渋川市で撮影した本作について、お話を伺った。
 

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■大好きな渥美清さんに重なる芸名「渋川清彦」

――――故郷の名前を芸名にするのは勇気が要ると思うのですが、モデルデビューした時の芸名「KEE」から「渋川清彦」に変えた時はどんな心境でしたか?
渋川:勇気は全く要らなかったですね。30歳になるのを機に芸名を変えようとしたとき、本名(田中)は普通だし、他にコレという名前もなかった。それなら「渋川」でいいじゃないかと。当時、渥美清さんに心酔していたのですが、渥美さんも苗字と名前に「さんずいへん」が付いているので、「渋川清彦」にすれば苗字、名前共に「さんずいへん」が付いていいなと思ったのです。渥美さんに重ねた感じですね。 
 
――――なるほど。以前のインタビューでも渥美清さんが好きとおっしゃっていましたが、ここで繋がるとは思いませんでした。

 

渋川:当時初めて『男はつらいよ』を観て、渥美さんの存在やお芝居、全てに魅力を感じてました。そういう時の熱は大きいですよね。
 

■高校の後輩、飯塚監督との初タッグ。

――――今回は渋川市で映画を作るということで、渋川さんと同じく、渋川市出身の飯塚監督との初タッグですが、面識はあったのですか?
渋川:お互いに存在を知ってはいたのですが、群馬県で撮った作品『お盆の弟』のプロデューサーだった狩野さんが、今回も声を掛けて頂き、飯塚監督と引き合わせてくれました。
 
――――本作はありそうで、なかなかない、いい意味で風変わりな大人の群像劇ですね。
渋川:そうですね。飯塚監督は助監督経験がなく、自分自身で勉強してここまでやってきた人。努力家ですね。飯塚監督は脚本も書いています。今まで様々な制約があったみたいですが、今回はそれが全くなかった。本人は自称「一字一句野郎」で、脚本通りに台詞を言わせていたそうですが、今回はそこまでしなくてもいいと考え、今までの演出を変えようとしていたみたいです。「辞めるとは言わないでくれ。進むと言ってくれ」と丈役の滝藤さんが言っているのが、まさに映画のテーマですね。
 
 
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■渋川市で昔から知っていた場所、気になる場所を映画のロケ地に。

――――原案段階で、渋川さんもアイデアを出されたのですか?
渋川:最初に大まかな話を監督が書いてきて、そこに面白そうなものということで、僕が昔から知っている珍宝館が映画に出たら面白いんじゃないかと提案すると、飯塚監督もそれに繋がる話を書いてくれました。なかなか、珍宝館が映画に出ることはないですからね。
 
――――全体的に、昭和の匂いが色濃く残っている町という印象を受けましたし、地域映画としては、攻めているなと感じます。
渋川:渋川市としては、中心部の新しい建物が建っている場所を映してほしいと思っていたかもしれませんし、「渋川市全面協力」となると珍宝館はさすがに出せない。そこは、フィルムコミッションの方が柔軟に対応してくれ、今の形で完成させることができました。せっかく渋川市で撮影したので、協力してくれた地元ボランティアの方や、近所の方を集めて無料上映会をしたときは、僕の親も親戚も来ましたし、高校の同級生やら、高齢者の方も含めて300人集まりました。市長、副市長までいらして、皆で珍宝館のシーンも観たんですよ(笑)。30年前からずっと変わらない名物館長がいて、上映会でも花束を頂きました。館長は「私はずっと美術館だと思ってやっているの」とおっしゃっていて、展示されている置物や春画も、きちんと展示品用の光で、いわゆるいやらしい光を当てていないんです。
 
――――個性的といえば、何といっても「榎田貿易堂」の舞台となったお店が、懐かしい物に溢れ、とてもいい雰囲気でしたね。
渋川:車でいつも通り過ぎながら、この店は何だろう?と思っていました。店が開いているのを見たことがなくて。実は営業時間が日曜の12時から15時までだけだったのです。僕とプロデューサーで営業時間中にロケ場所としてお借りできるかをお願いしに行き、平日は好きに使っていいよと快諾してくださいました。江戸時代の籠もあったし、本当に色々なものがあって、店内で映っているものはほぼお店のものです。脚本をもらった時点でなんでも屋という設定だったので、僕の中ではこの店だとピンときました。
 
 
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■何でも面白がってくれる大女優、余貴美子さん。

――――今作は、伊藤沙莉、片岡礼子、余貴美子という幅広い世代の女優陣が、女性の性欲をコミカルに体現しているのも特徴的ですが、現場ではどんな様子でしたか?
渋川:余さんは現場でも気さくな方で、楽しかったですよ。何でも面白がってくれ、とても柔軟な方だと思いました。あれだけのキャリアがあって、あそこまでやってくれる女優さんはなかなかいない。きっと今まで飯塚監督の作品に出演され、監督の面白さを分かっているので、今回も出演されたのだと思います。珍宝館館長は挨拶代わりに男性の股間を触るのですが、撮影で一緒に訪れた時、余さんも僕らと同様に触られていたので、強烈な思い出になっていると思います。片岡さんは、とても真面目で全力で演じる方なので、今回の役柄はすごく合っていると思います。
 

■撮影後は飲みに誘って、台本持参で台詞合わせ。

――――物語の核となるのは、なんでも屋「榎田貿易堂」の日常で、店主の榎田洋二郎とバイトの清春、千秋の掛け合いも見どころです。森岡龍さん、伊藤沙莉さんとどのように台詞合わせをしていったのですか?
渋川:時間が合う時に、森岡君、伊藤さんと飲みに行き、一応台本持ってきてねという感じで、飲みながら「ちょっと台詞、合わせてみない?」と。台詞がカラダに入っていたら酔っぱらっていても言えるから、それできちんと言えたら少々何があっても大丈夫だろうと試していました。
 
――――撮影の後、キャストを飲みに誘ってコミュニケーションを深めるのは、お手本になる先輩がいたのですか?
渋川:昔の映画俳優の皆さんはよく飲みに行かれていたらしいですからね。先日、初めて石橋蓮司さんと共演させて頂いたのですが、70代半ばでも本当にお元気で、飲みもタバコもやるので、カッコいいですよ。そんな諸先輩を真似ながらやっている部分はあります。
 

■故郷に「帰る」と「戻る」ではニュアンスが違う。

――――それぞれの過去に向き合う後半は、紆余曲折を経た大人だからこそ言える味わい深い台詞が多かったですが、渋川さんが好きな台詞はありますか?
渋川:旅館の女将役の根岸季衣さんと、今は家業を手伝っている息子・丈役の滝藤君のやりとりで、「あんた、いつ東京に帰るの?」と聞かれた息子が、「帰るか…。帰ってきてるんだけどな」みたいな事を言っています。僕も実家の群馬、渋川市が好きなので、東京から群馬に行くときは、「帰る」と言うんです。群馬から東京に行くときは、「戻る」という言い方を意識的にしています。だから滝藤君の台詞には共感できます。普通はあまりその違いを気にしないけど、「帰る」と「戻る」はニュアンスが違いますから。
 
――――どちらをホームと思うかで言い方が違ってきますね。『AMY SAID エイミー・セッド』のインタビューで三浦誠己さんが「KEE(渋川)さんは、『俺、やっぱ俳優やめて、群馬で畑するべ』と言いそう」とおっしゃっていたのが納得できます。本当に故郷がお好きなんですね。
渋川:離れているから余計にそう思うのかもしれません。時間があるときは、月1度ぐらい帰っています。息子がまだ小さいので一緒に帰ることもありますし、一人の時は高速バスで帰ると2時間半ぐらいで帰れます。電車で移動する時も、車窓からの風景を眺めるのが好きで、やっぱり田舎が好きなんですね。
 
――――渋川市での撮影は、他の場所で撮影するのとは違う感慨がありましたか?
渋川:今回は休みなしで9日間程撮影しましたが、楽しかったですよ。主演ということで、ちょっとプレッシャーもありましたけど、地元で映画の撮影というのは不思議な気分で、いい時間でした。それこそドイツ(ニッポンコネクション)での上映で「ドイツで故郷・渋川の景色が映っているんだ」と思うと、感無量でした。
 
――――今回は群像劇なので、主演の洋二郎はアイコン的存在ではあるけれど、個性的なメンバーを受けるような役割でしたね。
渋川:一人でガッツリとした主役だと出番も台詞も多くて大変ですし、そういう点では今回台詞が多かったけど、皆同じぐらいありましたから。それぞれのキャラクターが立っている映画の方が僕は好きですね。
 

■飯塚監督から出た続編話、洋二郎が主人公でなくてもいい。

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――――今回初タッグを組んだ飯塚監督と実際に仕事をしての感触はいかがでしたか?
渋川:飯塚監督は高校の後輩なので、先輩の僕としてはもっと突っ込んでいじりたいのですが、それをさせない空気がある(笑)。だけどそれを含めての飯塚監督なので、急がず少しずつでも一緒にやっていけたらと思っています。
 
――――続編をやりたいという話も出ているそうですね。
渋川:現場でも話していたのですが、次は僕(榎田洋二郎)が主人公じゃなくてもいいんですよ。森岡龍が演じている清春の実家が新潟なので、例えば清春の親が危篤になって、みんなで新潟に行こうという話でも一つ映画ができるじゃないですか。伊藤沙莉演じる千秋の夫婦問題にこちらがチャチャを入れても、一つのストーリーができるでしょう。ドイツの映画祭から帰る時、空港で二人でビールを飲んだのですが、飯塚監督は「いやぁ、これは(続編を)やりたいですね」と真剣に言っていました。やはり、ドイツでの反応が良かったこともあるでしょうね。
 
――――最後に、映画のテーマ「辞める」にちなんで、渋川さんご自身、今までの俳優人生の中で、「辞めたい」と思ったことはありましたか?
渋川:自分から辞めたいと思ったこと一度もないですね。どこかでダメな時がくるのかなと思うことがあっても、いつもなんとかなるかなと思うんです。だけど故郷がどうしても恋しくなったら、その時はまた考えますけどね(笑)
(江口由美)
 

<作品情報>
『榎田貿易堂』(2017年 日本 1時間50分) 
監督・脚本・編集:飯塚健
出演:渋川清彦、森岡龍、伊藤沙莉、滝藤賢一、片岡礼子、根岸季衣、余貴美子他
2018年6月9日(土)~新宿武蔵野館、6月16日(土)~シネマテークたかさき、テアトル梅田、今夏~元町映画館、出町座他全国順次公開
 (C) 2017映画「榎田貿易堂」製作委員会