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"人たらし"監督の演出術とは?『のみとり侍』鶴橋康夫監督インタビュー

nomitori-di-500-1.jpg“人たらし”監督の演出術とは?『のみとり侍』鶴橋康夫監督インタビュー

(2018年4月27日(金)大阪市内にて)

 

「作品を語るのと同じくらい、相手の気持ちを聴くのが好き」
鶴橋康夫監督の新作は、江戸庶民の人情の機微に触れる艶笑痛快時代劇


阿部寛が、五色幕のようなど派手な衣装を着流し、江戸の街を颯爽と闊歩するのみとり侍』。生真面目すぎる性格がたたって左遷された元エリート侍を、「阿部さんは、真面目にやればやるほど哀愁と滑稽さが出てくる」と、ずばり特徴を捉えた監督の期待に応えて、痛快に熱演。その監督とは、TVドラマや映画『愛の流刑地』『後妻業の女』などの演出で、日常の中に潜む“恐怖”を人生観や時代性から滲み出る“おかしみ”をドラマチックに表現する鶴橋康夫監督である。ベテラン俳優たちは勿論、初めて鶴橋組に参加するキャストやスタッフからも絶大な人望を集め、物語の人物像にも親しみと愛着を感じさせる。


そんな鶴橋康夫監督に、映画の見所やキャストの魅力を訊ねると共に、監督自身の“人たらし”術についても迫ってみたいと思う。


nomitori-550.jpg―― 脚本も手掛けた「のみとり侍」という物語について?
江戸時代にこんな職業があったのか!? と驚くような題材を集めた小松重男さん原作の短編集から、三篇をひとつにまとめてみました。不測の事態に陥り、人情深い町人に助けられながらも正義を貫こうと奮闘する侍たちの生き様がテーマです。

主君の逆鱗に触れ、「猫の蚤とり」(女性に奉仕する裏稼業)を仰せつかった寛之進(阿部寛)を主役に、女にかけては手練手管の恐妻家の清兵衛(豊川悦司)や、無償で読み書きを教える清貧の友之介(斎藤工)と、3人の不遇の元侍たちが同じ時代で奮闘する姿を描いてみました。


―― キャスティングについて?
原作を読み終える頃には、大体のキャスティングは決まっていました。後は、俳優たちの顔を思い浮かべながら当て書きし、現場では雑談の中で役柄のヒントとなるようなことを話していました。


nomitori-making-1.jpg―― 阿部寛さんについて?
阿部寛さんは、どこかでコメディをやりたがっていたようですが、それは間違いだと思いました。既に、真面目にやればやるほど哀愁と滑稽さが滲み出てくる年齢にきていて、ちょっとしたヒントでも一気に様相が変わる伸び代を持っています。芝居熱心で、とにかく芝居が巧い。一生懸命やればやるほど、哀愁が滲み出て色気に繋がるんです。そんな阿部さんの特徴が毅然としたラストに活きてきたのです。


―― 豊川悦司さんについて?
豊川悦司さんは、私に忖度した芝居をしてくれます(笑)。こうすれば監督が喜ぶのでは…もう任せていても安心できる俳優さんです。鰻屋で寛之進と清兵衛が会話するシーンでは、阿部さんも豊川さんもお互いの芝居の邪魔にならないような反応を見せて、僕はその少年のようなチャーミングさが可笑しくて仕方なかったです。


nomitori-500-4.jpg―― 風間杜夫さんと大竹しのぶさんは、右往左往する元侍たちを鼓舞するような威勢の良さを見せていましたね?
お二人とは40年来の付き合いで、気風の良さと色気があります。イナセな人情家の江戸っ子の代表みたいな存在になりました。


nomitori-500-7_r1_c1.jpg―― 大竹しのぶさんや寺島しのぶさんに負けない猛女ぶりをハツラツと演じていた前田敦子さんについては?
ある授賞式で初めて会った時に、「これ位まで脱げるかね?」とバストアップの位置に腕を置いて訊いたら、「ウソだろう!? アッちゃんにそんなこと訊くなんて」ってな感じで、周りが固まっちゃいました(笑)。でも、その時の受け答えが実に男っぽくて、そういう思考回路を持っている人は色気があり、意外と慎ましやかだったりするのではと思いました。

スタジオにはいつも1番乗り、ひとりポツンと坐っているんです。今どきの女優さんにしては珍しく距離感のある人だなと思いました。「休みの日はどうしているの?」と訊くと、「アウトドア派じゃないので、家で本を読んだりDVDを見たりしています」。その話し方が妙に雰囲気があり、これは凄い女優さんになるなと予感しました。


―― 前田敦子さんと豊川悦司さんとの“絡み”のシーンは?
あのシーンは1カットで撮ったのですが、1回戦でOK!さすが度胸がある!豊川さんのリードも良かったのですが、「アッちゃんは、体も柔らかくてしなやか、大竹さん相手にする時とは随分違う!」と豊川さんも喜んでました(笑)。

 

nomitori-500-8.jpg―― 斎藤工さんについて?
斎藤さんとはTV対談で初めて会って、その知的な風貌に惹かれてオファー。彼の初監督作『blank13』を観て、誰かに未来を託さなければと思いました。阿部さんも豊川さんも斎藤さんも背が高くて、3人の侍たちを「ハンサムタワー」と呼んでました(笑)。


―― キャストとキャラクターがとてもマッチしていましたが、「人」の見方について?
僕は初めて会う人には、飲み会などでの雑談で出身地や家族構成などを訊きます。その人がどこでどんな育ち方をして、どんな人生観を持って生きてきたのか…作品を語るのと同じくらい、相手の気持ちを聴くのが好きなんです。


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鶴橋康夫監督の魅力は、「聴き上手な“人たらし”」にあるようだ。初対面でもソフトな話し方で懐深く受け入れ、相手の心の内を開かせる。とかく年齢を重ねると自分の意見を押し付けがちだが、むしろ相手に考える空間を創り出すのが巧いのではないか。そして、「笑い」の絶えない和やかな雰囲気にすっかり魅了されてしまう。


「不測な事態に陥った時の生き方」を、艶笑喜劇を見せながら勧善懲悪調で締める。生真面目な阿部寛ならではの寛之進は、困惑の連続でもいざという時には武士力を発揮させて、一気呵成に正義を貫くお白洲のシーンへと至る。「映画は〈1対0〉の投手戦!」という監督のこだわりと映画愛の詰まった作品。かなりメリハリの効いた、新しい時代劇の誕生である。

 
 


『のみとり侍』

~エリート侍が“のみとり”稼業に!?~
 

nomitori-pos.jpg【物語】
老中・田沼意次が権勢をふるう江戸時代の中頃。越後長岡藩の勘定方で重役を担っていた小林寛之進(阿部寛)は、生真面目すぎる性格がたたって主君の逆鱗に触れ、「猫の蚤とり」を仰せつかる。「猫の蚤とり」が何たるかも知らず、その稼業の親分である甚兵衛夫婦(風間杜夫と大竹しのぶ)を訪ね、女性たちに奉仕する裏稼業に奮闘することとなる。


武士の面子も男としてのメンツも打ち砕かれた寛之進が、亡き妻に生き写しのおみね(寺島しのぶ)や恐妻家の清兵衛(豊川悦司)に寝技の手ほどきを受けながら、清廉潔白ゆえに困窮する友之介(斎藤工)や甚兵衛夫婦などの江戸庶民の人情に支えられて、時代の荒波を越えていく。

 

■2018年 日本 1時間50分
■原作:小松重男「蚤とり侍」(光文社文庫刊)
■監督・脚本:鶴橋康夫
■出演:阿部寛 寺島しのぶ 豊川悦司 斎藤工 風間杜夫 大竹しのぶ 前田敦子 松重豊 桂文枝
公式サイト⇒ http://nomitori.jp/
■コピーライト: ©2018「のみとり侍」製作委員会

全国東宝系にて絶賛公開中!
 


(河田 真喜子)