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地方でお金に翻弄される家族を描いた『ひかりのたび』澤田サンダー監督インタビュー

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地方でお金に翻弄される家族を描いた『ひかりのたび』澤田サンダー監督インタビュー
 
爽やかな女子高生が物言いたげにこちらを見つめるポスターに、少し胸騒ぎを覚える映画『ひかりのたび』が、11月25日(土)より第七藝術劇場で公開中だ。
 

「不謹慎なものを皆が観ることができる、説得力のある構成にすることが得意」という澤田サンダー監督。商業映画デビュー作で描くのは、地方でお金に翻弄される家族の物語だ。不動産ブローカー、植田(高川裕也)とその娘奈々(志田彩良)を主人公に据え、地域に入り込んで淡々と自らの仕事を遂行する植田と、父親が開発に加担した場所を故郷にすると決めた奈々、それぞれの思いが交差する。地域の人たちの植田に向けた反発も、背に腹は代えられぬ状況に陥った時、むしろ頼みの綱のような存在となる。先の読めない展開や植田の不気味な存在感が、サスペンスのような味わいを醸し出す意欲作だ。

 
本作の澤田サンダー監督に、『ひかりのたび』に込めた狙いについて、お話を伺った。
 

 

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―――映画を撮る前に07年、絵本「幼なじみのバッキー」で岡本太郎現代芸術賞に入選しています。大人が沁みる絵本ですが、元々物語を作るのが好きだったのですか?
澤田監督:野島伸司、山田太一、倉本聰らに憧れ、青森から上京した19歳ぐらいから大学に通う傍ら、シナリオセンターに通いました。95年のオウム真理教事件が起きた後で、僕から見てカッコいいドラマを作る時代は終わり、自粛してつまらないドラマを作るような時代になってしまった。シナリオの勉強をしたけれど、ドラマの世界ではもう自分が作りたい作品が書けないと、一旦シナリオの勉強を辞めたんです。大学卒業後、父の知り合いの会社で債務整理の仕事もしていましたし、その後商社でクレーム処理にも携わりました。チャールズ・ブコウスキーというアメリカの作家が、「話を書くなら、面白い仕事をした方がいい」と語っていたので、仕事をしながらどこか「この体験はシナリオに使える」と思っていたのです。
 
 
―――社会経験を積んだ後、10年に東京芸術大学大学院映像研究科に入学。再びシナリオの勉強を始めると同時に、伊参スタジオ映画祭の脚本賞を受賞と、過去の経験を見事に活かしていますね。
澤田監督:東京芸術大学の学部長で、ユーロスペース代表でもある堀越謙三さんが、学生たちに紙を配って、「この紙に書いてある主要な映画祭で賞を2つ取れば、奨学金を免除します」と。僕は、そこに書かれている映画祭の中から2つ(伊参スタジオ映画祭、函館港イルミナシオン映画祭)受賞し、200万円免除してもらいました。僕は社会人から入学し、自主映画の作品がなかったので、監督コースではなく脚本コースでしたが、自らが監督することに関しては、何の迷いもなかったですね。
 
 
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―――『ひかりのたび』は、伊参スタジオ映画祭で2度目の脚本賞を受賞したシナリオを映画化したものですが、長編にするにあたり、大きく変わった点や付け加えた点は?
澤田監督:元々、志田彩良さん演じる奈々が主役ではなく、最後に少し登場する程度のキャラクターでした。山田真歩さん演じる道子と、高川さん演じる不動産ブローカーで、奈々の父親の植田が主人公だったのを変えたのです。植田さんは出ずっぱりだけど、その家族の姿は見せませんでした。植田の普通じゃない人というキャラクターを際立たせたかったので、あまり不動産ブローカーの家族を描きたくなかったのです。とはいえ、かなり頭でっかちな話だったと思います。
 
 
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―――決して明るい話ではありませんが、志田彩良さんの透明な存在感がある種の救いになっていた気がします。
澤田監督:プロデューサーからは、「(観客に)届かなければ意味がない」と言われ、真夜中に美少女の持っているパワーがいかに強いかを説教されましたから(笑)。この話自体はアメリカの軍事統計本がベースになっています。アメリカは戦争をするときに、必ず統計で計算をするのです。敵とアメリカ軍のそれぞれの命の値段を算出し、これ以上の死者がアメリカ軍に出ると関連協会や父母の会が動き出し、政局に影響を与えるという人数をあらかじめ決めてから戦争をするそうです。広告業界やしいては映画業界にも大きな影響を与えているという話を読み、僕もその話をベースにシナリオを練っていきました。事故で子どもが死んだけれど、そのことで大きなお金(利益)が動くことを知っている男の話です。
 
―――植田の娘で、本作のヒロイン奈々は、両親が離婚後、父親の仕事のために住む場所を転々とし、時にはイジメも受け、故郷と呼べる場所がありませんでした。普通なら反発する年頃ですが、父親に対する敬意が感じられます。
澤田監督:親子関係において、親の仕事はそんなに大事ではありません。僕の場合、親父は学者で、4回結婚していますが、その業績と、僕を育ててくれたことを混ぜこぜにして考えるのかどうかと思っていますから。リアルに立ち返れば、その部分はドライな気がします。
 
 
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―――奈々の故郷に対する思いや、村の人たちの故郷に対する様々な思いが交差する物語ですが、“故郷”というキーワードをどう物語に織り込んでいったのですか?
澤田監督:僕は今、都内で働いているのですが、外国人がすごく増えています。一時期は日本人が外国に行くことで国際化していましたが、今は外国人を日本に呼び寄せる奇妙な国際化が進んでいます。そうなると、今の子どもたちは海外に行こうとするだろうかと思うのです。敗戦の影響や教育の影響もあるでしょうが、昔は留学もしにくく、お金もなかったけれど、海外に行こうとしたし、海外で外国語をしゃべるメリットも大きかった。映画の舞台となった村でも外国人労働者雇用問題や、外国人による土地、水源の買い占め問題が登場するのはそういうことから着想しています。
 
―――不動産ブローカーによる外国人への土地転売など、生々しい題材を取り上げていますが、モノクロの映像や、役者の抑えた演技、タイトな編集で生々しさが軽減されていますね。
澤田監督:例えばレトロな喫茶店が高級な雰囲気を出したいと思えば、50年ぐらい前のオールディーズの音楽を流すと効果的です。映画をモノクロにしたのも、そのような効果を狙っています。音も人物と離れたところで出るようなアフレコにしています。内容が内容なので、今風の演出をしてはいけないと思っていました。後は裏話になりますが、不動産の価値は場所によって違うことは、不動産ブローカーのプロが見れば分かります。カラーだと、映っている土地の価値が分かってしまうので、そういう情報を排除するという狙いもありました。物語では外国人が買い占めるという設定ですが、「外国人はそんな場所は買わない」という指摘がないように(笑)。不動産に詳しい方も映画を観ていただきたいですから。
 
 
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―――表情を変えず、冷徹な雰囲気の不動産ブローカーを演じる高川裕也さんの存在感が大きかったですね。
澤田監督:普段高川さんはヤクザや暴力的な役が多いですが、そういう役をやる人が親切そうで礼儀正しい役をすれば気持ち悪く見えることは、分かっていました。作品中では、かなり不気味ですよね。
 
―――陰ながら村人の信頼を集め、土地やお金を動かしてきた植田が後半「お金の向こうに見えるものがある」と語りますが、その意図は?
澤田監督:「人間は平等だ」だと言いますが、不動産ブローカーの仕事をしてきた植田には、お金の向こう側に「人間は平等ではない」ことが横たわっていると分かる訳です。人間は見た目も容姿も違いますし、育ちも違えば生涯賃金も変わってきます。努力できる部分があるかもしれませんが、それだけでは無理な部分もあります。良家の子どもは何代にも渡って親たちが頑張ってきたのだから、その恩恵を受けてもいいはずだけれど、平等だという意識があるから、悪い奴のように見える場合もあります。特に金融や不動産業の人からすれば、そういうものの敷居が外れて見えるんですよ。
 
 
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―――なるほど、キレイごとではない現実を突きつけられます。そういう部分でも生々しさを感じますが、タイトルの『ひかりのたび』は真逆な印象を受けますね。
澤田監督:『ひかりのたび』は、映画の最後に出てきた「思い出」という曲が収録された三富栄治さんのアルバム名です。このタイトルは、ひらがな6文字でえげつなさを軽減した、柔らか作戦の一つですね(笑)。曲の印象がとても強かったです。
 
―――映画の最後に、奈々がアルバイトしている角地のレストランをしばらく映し出しているシーンがあります。車が往来する中、暗闇で輝いていて印象的でした。
澤田監督:あのラストシーンのイメージは、当初からありました。お金のあるところに群がってくる家族の話ですから、電燈に寄ってくる蛾のような解釈もあっていいかなと思います。
 

<作品情報>
『ひかりのたび』(2017年 日本 1時間31分)
脚本・監督:澤田サンダー 
出演:志田彩良、高川裕也、瑛蓮、杉山ひこひこ、萩原利久、山田真歩、浜田晃他
2017年11月25日(土)~第七藝術劇場、今冬元町映画館他全国順次公開
公式サイト⇒http://hikarinotabi.com/
(C) 『ひかりのたび』製作委員会