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子どもたちとの作業が本当に楽しい。『わたしたち』ユン・ガウン監督インタビュー

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『わたしたち』ユン・ガウン監督インタビュー
 

~親友が一番大事だった小学生時代のほろ苦い記憶~

 
小柄でおかっぱ頭の女子、ソンは、ドッジボールが始まるやいなや、ボールを当てられ、コート外に出る羽目となる。一度出たら、半永久的にコートの中には戻れない。だって、ボールは運動神経のいい子たちの間を行き来し、ソンには回ってこないのだから…。
 
クラス内の力関係を露わにするオープニングで一気に惹き込まれるユン・ガウン監督の長編デビュー作、『わたしたち』。自身の体験を基に、シナリオ開発段階からイ・チャンドン監督(『シークレット・サンシャイン』)が加わり、女子小学生特有の友達関係の揺らぎを丁寧に映し出す。1学期の終わりから始まり、夏休みという非日常での友情を育んだ瑞々しい思い出と、2学期が始まり、学校生活に戻った途端に訪れる現実の対比も鮮やか。おとなしいソン、転校生のジア、そしてクラスで一目置かれるボラという3人の小学4年生を中心にした物語は、現代の小学生にも降りかかる格差問題や、学校生活以上に濃密な塾生活など、彼女たちの日常をリアルに描写。両親や弟たちと共に、ソンがジアを自宅に招いて過ごす夏休みのキラキラした日々は、友情が永遠に続くように思える輝きを放つ。一方、友情にヒビが入り、二人がふたたび「わたしたち」と呼べるまでの辛い日々も果敢に描いた秀作。ドキドキハラハラしながら、在りし日の自分を重ねて見入ってしまう人も多いだろう。
 
本作のユン・ガウン監督に、本作を作るきっかけや、役に込めた思い、子どもたちと映画を作り上げる過程についてお話を伺った。
 

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■イ・チャンドン監督と1年かけて、シナリオを開発

━━━まず、このプロジェクトのきっかけについて教えてください。
ユン監督:私が卒業した韓国芸術総合学校とCJエンタテイメントが手を組んだ産学協同プロジェクトがあり、『わたしたち』は第2期の当選作品でした。私を含めて4人の卒業生が企画書を提出し、それを基にイ・チャンドン監督がシナリオ開発から指導者として加わり、1年かけてシナリオを開発しました。そのプロジェクトに私が残ったのです。まだ、その時にはイ・チャンドン監督が教授として学校に残っておられたので、授業も受けています。
 
━━━イ・チャンドン監督の授業はどのようなものだったのですか?
ユン監督:実際に映画の授業を受けたのは修士課程に通っていた頃で、卒業制作の短編映画のシナリオの指導をしていただくものでした。それ以外にも学部で演技に関する授業や、演出論も聴いたことがあります。
 
━━━イ・チャンドン監督の演出論で、映画を撮る際に取り入れたものはありましたか?
ユン監督:実践の授業ではありませんが、演技とはどういう作業を経て作られていくのかを話して下さいました。メソッド演技が誕生した背景や、演技の歴史の中でそれがどのように変化してきたのかという講義もありました。理論の紹介をしつつも、ご自身の体験や、演技に対する考えもお話してくださったので、映画を撮る際に非常に参考になりました。
 
━━━なぜ初長編でご自身の体験を基にした小学生女子の物語に臨んだのですか?
ユン監督:私の人生の中で大小様々な出来事がありましたが、中でも強烈に影響を与えた出来事が元になっています。もちろんそれは幼い頃の経験なので、人生の中で長い時間をかけて何度も修復を試みたり、気持ちの整理をしました。1年ぐらいの経験でしたが、長い間修復し、熟成する期間があった訳です。私にとっては既に慣れ親しんでいる出来事でありながら、未だに解けない問題として残っていた強烈な経験。それを初めての長編作品で描きたいと思いましたし、知っている話の方が安心して準備できるとも思ったからです。
 
 
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■一見楽しそうに見えるドッジボールで、孤軍奮闘し、生き残りたいと思っている少女の姿を描きたかった。

━━━冒頭、校庭でクラス全員参加のドッジボールの様子が映し出され、物語に入りやすくかつ、非常に印象的でした。このシーンを取り入れた意図は?
ユン監督:まず、この映画の中に体育の時間を入れたいという思いがありました。学校生活としてクラスの授業やお昼の時間、休み時間を描くのは意味があることですが、体育の時間を描くのも意味があるのではないか。シナリオをブラッシュアップさせる際も、オープニングのドッジボールのシーンは最初からずっとあったものです。日差しが照りつける運動場で、ドッジボールという一見楽しそうに見えるゲームの中に、緊張の面持ちで孤軍奮闘し、友達の中に入りたい、この中で生き残っていきたいと思っている少女の姿を描きたかった。実際、ドッジボールは韓国の子どもたちの間でとても人気のあるスポーツで、私も子どもの頃よくやりましたが、ドッジボールは苦手な記憶もありました。だから自然にこの映画の中に取り入れることができたのです。 
 
━━━子どもたちの自然な表情が魅力的でした。キャスティングやワークショップといった撮影までのプロセスは?

 

ユン監督:私とプロデューサーが、最初書類オーディションで500~600人の中から第1次面接に来てもらう子どもたちを選びました。面接では、30分ほど時間を取り、1対1で応募してきた子どもの話を聞き、どんな子か、その性格を掴んでいきました。次のステップでは私が先生、子どもたちが生徒という風にして演劇遊びをする5~6人のグループオーディションでした。体をほぐしてから即興劇をしてもらい、その後みんなで一緒に即興劇を作っていきます。彼女たちには演劇の授業に思えたでしょうが、演出部が全て撮影しており、後で彼女たちの反応を映像から分析しました。さらに第5次まで審査を重ねたのです。主要登場人物のソン、ジア、ボア、ジア ボラの友達2人という5人は、撮影の2ヶ月前から集まってもらい、週に3~4回、4~8時間の練習を重ねています。皆に仲良くなって欲しいという意図もありましたが、シーンごとに説明し、即興で演じてもらう練習をしました。映画でも、原則即興で演じています。 
 
 

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■子どもたちが繰り返す即興劇から、よく使う言葉を集めて、磨き上げていった台詞

━━━即興を重視していたようですが、元々台詞は設定されていたのでしょうか? 
ユン監督:台詞を強制したわけでもないのに、台詞と同じやりとりをしていて私が驚いたこともありました。逆に台詞と全く違うやりとりをしていた時は、私の方がシナリオを修正しました。完成した作品は、どれが私の書いた台詞で、どれが子どもたちの口から出た言葉なのか分からないぐらい、ミックスされています。 というのも、撮影に入る前、子どもたちは即興劇を繰り返す中で、よく使う言葉、言いやすい言葉をどんどん集めて磨きあげ、台詞を作っていたからです。中でも、ソンとジアが遊んでいるシーンは、ほとんど彼女たち自らが発した言葉でした。例えば「大人になったら何になりたい?」という会話で、ジアが同時通訳者になりたいと言うシーンは、ジア役のソル・ヘインさん自身の夢を語っています。また、キムチチャーハンを食べるシーンは3人とも本当に美味しそうに食べてくれ、食べながら自然と出た台詞なのです。
 
 
 
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━━━ソンの母親や弟など家族の描写が豊かですが、母親の描写でこだわったことは?
ユン監督:シナリオ段階では、映画で描かれているほど愛情表現をしない母親像にしていました。というのも、家計は苦しく、夫も様々な問題を起こしているので、当初は人生に疲れ、あまりうまく愛情表現ができないという設定にしていたのです。母親役の女優、チャン・ヘジンさんは、ご自身もソンと同じぐらいのお子さんがいらっしゃるので、母親役について色々なアドバイスを下さいました。その結果、もう少し健全で、しっかり者として描いてもいいと思いました。辛くても子どもたちには愛情を持って接する努力をするような母親像にしてみたのです。私自身も時間はかかりましたが、自分の母親がそのようなタイプの人であったことを思い出すことができましたし、私が最初書いていた母親は映画的な母親でしたが、現実の母親はとても健康で、面白くて、子どもに愛情を持ち、その反面厳格なところがあるものだと思います。
 
━━━ボラは一見いじめっ子のように見えますが、実は彼女自身も成績が一番であることを親に強いられ、追い詰められているように感じられました。
ユン監督:最初、ソンとジアとボラを描く割合を考えた時、ソンが60%で、ジア、ボラを20%で描こうと想定していました。ボラにはボラの事情があることも描こうとしていたのです。実際はソンに集中してしまったため、ボラのことがうまく伝えきれないところがあったかもしれません。ボラ役のイ・ソヨンさんとも話し合いましたが、ボラはいじめたくていじめたのではなく、彼女の事情があったのだと。おそらく両親はボラが可愛いが故に、もっと頑張って欲しいと塾に通わせ、期待をしているのでしょう。だからボラは気持ち的にいつも焦り、緊張し、その気持ちを友達に発散させていた。ボラとしては学校では、心を許して遊ぶ友達だけでいたいのに、自分たちの仲間に入ってきたがっているように見えるソンが邪魔だった。ボラは親からのストレスを友達で発散してしまったのでしょう。そしてきっとボラ自身もそのことに気付いていたのです。
 

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■主要登場人物の中で一番心の傷が大きかったジア。だからこそ、ソンのように自分が傷つけても、また寄り添ってくれる子が必要だった。

 
━━━子どもの行動は親の影響を大きく受けます。ジアも両親の離婚で環境を変えられてしまった子どもですが、夏休み中と、夏休みが終わってからとソンに対する態度を一変させます。そんなジアを通して表現したかったことは?
ユン監督:ジアは一番現実的な子だったと思います。映画を通して、三人の主要登場人物の中で、一番心の傷が大きかった。でも、自分の気持ちを表現することを学ぶ余力すらなく、とにかく生き残ることに必死でした。両親が離婚したせいで家を転々とし、ジアを取り巻く環境を知ったクラスメイトは弱点と捉えて、仲間はずれにしてしまう。それがジアの中で深い傷となって残ってしまうのです。だから早く状況を認識できるようになっていった。ソンに対する態度が夏休み後に変化するのも、生存本能からくるものです。これ以上一人ぼっちになりたくないという思いからの行動でした。最も早く現実を認識できる子なので、だからこそソンのような友達。自分が傷つけても、また寄り添ってくれる子が必要だったのです。
 
 

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■子どもたちとの作業が本当に楽しい。自分の中にある子どもの頃の気持ちを分かち合える。

 
━━━最後に、ユン・ガウン監督は今までも子どもの人間関係を描いていますが、そのテーマにこだわる理由は?
ユン監督:この質問に答えるのは本当に難しいのですが、今一番言えることは、子どもとの作業が本当に楽しいのです。一緒に作っていると私が知らないことを気付かせてくれることもありますし、映画を作る上で私は子どもたちの同伴者のようになっています。経験が豊富になり、成人した今でもまだその実感を持てないのは、子どもの頃の気持ちが残っているからだと思います。外に気持ちを出したくても出せず、理解してほしくてもなかなか理解してもらえないところがある。でも、子どもたちと作業をする事で、それを分かち合う意思の疎通ができ、私はそこに喜びを感じるのです。
(江口由美)
 

<作品情報>
『わたしたち』(2015年 韓国 1時間34分)
監督:ユン・ガウン 
出演:チェ・スイン、ソル・へイン、イ・ソヨン、カン・ミンジュン、チャン・ヘジン
※第17回東京フィルメックス観客賞、フィルマークス賞、スペシャル・メンション受賞
2017年9月23日(土・祝)~YEBISU GARDEN CINEMAにて公開中、10月7日(土)~シネ・リーブル梅田他全国順次公開
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