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『三度目の殺人』是枝裕和監督インタビュー

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『三度目の殺人』是枝裕和監督インタビュー

(2017年8月29日(火)大阪弁護士会館にて)

 
現代版“罪と罰”――「人が人を裁けるのか?」
法廷サスペンスの枠を超えた、人間の哲理に迫る衝撃作


『誰も知らない』『そして父になる』『海街diary』『海よりもまだ深く』と家族をテーマに、現代を生きる人々の愛情の変化や孤独や不安を浮き彫りにしてきた是枝裕和監督。脚本・編集も手掛けるその手腕は、物語の枠を超えた予想外の感動で観る者の心を大きく拡げてきた。まさに日本映画界屈指の映像作家である。そんな是枝監督の最新作は、累犯者の殺人事件をめぐる弁護士と被告人との心理戦を描いた法廷サスペンス。人が人を裁けるのか?真実の行方は?『三度目の殺人』というタイトルが意味するものとは?――サスペンスという枠を超えた人間の哲理にも迫る衝撃作に、あなたはどんな答えを見出すだろうか?


sandomesatujin-550.jpg【オリジナル脚本の発想について】
是枝監督は8年前から犯罪を繰り返す累犯者に興味を抱いて調べ始めたそうだ。『そして父になる』の法律監修に携わった弁護士たちから、「法廷は真実を追求する場所ではなく、利害調整をする場所」という話を聞いて、一般人とのズレを感じ、累犯者の殺人事件を担当することになった弁護士を主人公にした物語を思い付く。真実の追求より勝訴することに重点を置いていたエリート弁護士が、供述を二転三転させる容疑者に翻弄されていく。今回は7人の弁護士の協力を得て、接見室での弁護士と容疑者との会話や、法廷での想定問答などを実演してもらって、脚本にまとめていったそうだ。法律の専門用語や弁護士の思考回路などを知ることが出来て、短期間で緻密な脚本が書けたのも7人の弁護士たちの協力の賜物だという。


【力強い映像について】
「今回は法廷劇ということで、どんな風に撮るとテーマやモチーフにふさわしい映像になるか、カメラマンと一緒に考えながら撮りました」――今までの家族の心情を優しく包み込むような映像と違って、一人一人のキャラクターが際立つ映像で圧倒する。接見室や法廷のシーンが多い中、その閉塞感を打破するような北海道での雪のシーンの美しさは、過酷な現実を生きる事件関係者の悲愴感を和らげているようだ。また、本作の真価が象徴されるような最後の接見室での効果的な映像など、『そして父になる』『海街diary』に続く3本目のコラボとなる瀧本幹也カメラマンの力によるものであると絶賛。


sandomesatujin-500-1.jpg【キャスティングについて】
最初から福山雅治を当て書きにした脚本は、エリート弁護士が容疑者・三隅に翻弄され、弁護士としてだけでなく人間として成長する姿を繊細に捉えている。その福山雅治を追い詰めて苛めていく難役・三隅を演じた役所広司のパワーを秘めた重量級の存在感に、主人公と同様に監督も翻弄されたという。その役所広司には、まだ脚本も完成していない段階でオファーしたにもかかわらず、「人が人を裁けるのか?この三隅という男は善人なのか悪人なのか?最後まで分からない存在として主人公の前に現れて、そして消えていく」という説明だけで、あり得ないような謙虚なお返事をもらったそうだ。その安定感は本作の要となっている。


【テーマについて】
「人が人を裁けるのか、裁くとはどういうことなのだろう」ということも重要なテーマだが、司法の限界を描いた映画ではないという。「その先に、私達自身の問題としてどれだけ掘り下げられるか、人をどれだけ理解できるのか、 裁くとはどういうことなのだろうとちゃんと問わなければ、誰が犯人なのか悪い人なのかだけに終始してしまう恐れがある」。そこが、説明過剰になりがちな“神の目線”を排除して描いた本作の大きな特徴となっている。

 

是枝裕和監督は、新作が発表される度に様々な国際映画祭に招待され、またフランスの女優イザベル・ユペール(『エル/ELLE』主演)が是枝監督作への出演を切望するなど、国内外で高い評価を受けている。音楽は、監督のたっての希望で、フランス映画『最強のふたり』の音楽を手掛けたイタリアの作曲家、ルドヴィコ・エイナウディが担当。自らのオリジナル脚本で、希望するキャストやスタッフで映画作りができる監督は、日本にはそうはいない。今年はベネチア国際映画祭に出品されている。

(河田 真喜子)


★インタビューの詳細は下記の通りです。



是枝裕和監督②-1.jpg―― タイトルにもある「3」という数字が効果的に使われていますね。弁護士・被告人・少女、弁護姿勢の違う3人の弁護士、法廷での弁護士・検事・裁判官という具合に。その発想はどこから?また、弁護士のどこに興味を持ったのですか?
最初に累犯者に興味を持って2009年位から調べ始め、1度目は金銭目的で人を殺し、出所して今度は誰かを守るために殺人を犯して死刑の判決を受ける、という犯罪者の物語を作りたいと思いました。中断を経て、『そして父になる』の時に法律監修で入って頂いた弁護士さんたちから、「法廷は真実を追求する場所ではなく、利害調整をする場所」という現実的な捉え方をしているのを聞いて、誠実だなと思う反面、怖いなと感じたのです。「法廷は真実を明らかにしてくれる場所ではないのか」と思い込んでいる一般の我々とのズレが興味深いと。法廷を利害調整だと信じている弁護士が、今度は真実を知りたいと思うようになる物語を思い付き、その被告人を累犯者にしてみようと思ったのがこの企画の成り立ちです。


―― 法廷での三者のバランスに違和感がありました。裁判官のキャラクターだけ掘り下げが足りなかったような? 裁判員制度では期限内に結審するという制約がありますが…?
裁判には期限があるというシステムをあの三者が担っていますが、それを告発する映画ではありません。ですが、裁判にはそういう背景があるということは描きたいと思いました。


―― 今までの優しい映像の作風と違ってミステリアスな作品になっていますが、絵作りで工夫された点は?
撮影監督は『そして父になる』『海街diary』に続く3本目のコラボとなる瀧本幹也カメラマンですが、彼の幅の中でここまでタイプの違う映画になるとは驚きでした。カメラマンの力だと思います。今回は法廷劇ということで、どんな風に撮るとテーマやモチーフにふさわしい映像になるか、カメラマンと一緒に考えながら撮りました。僕が目指したのは1950年代のモノクロのフィルムノワールのような光と影が際立ったコントラストの強いものでしたが、今回はカラーですし、窓の外から光が斜めに差し込むようなものを基本コンセプトにして、照明や美術も工夫して頂きました。


―― キャラクターを強調した作風になっているようですが、その変化について?
作風を変えたというより、水彩とかデッサンで描いていたものが油絵になったという感じでしょうか…今回は意図的に人物や物語の輪郭をやや強めに作って、ストーリーラインに人物描写と画が負けないようにしました。使っている画材が違うだけで、そんなに変えてはいないつもりです。ホームドラマでも同様の緻密な構成は必要ですし、むしろ日常的な描写の中でそれをさりげなく撮るのは結構難しいことなんです。


―― キャストについて?
福山雅治さんとは『そして父になる』の撮影終了時から、「次何やりますか?」「こんなのどうでしょう?」と相性も良かったせいもあり、キャッチボールをしながらこの作品に着地した訳です。最初から福山さん当て書きで脚本を書いていきました。彼をどうやって追い詰めて苛めていくかが縦軸になっています。広瀬すずさんも最初からです。大まかなプロットができたところで、「この難役の被告人を誰にお願いしようか? 役所広司さんにオファーしたいなあ」ということになりました(笑)。


―― 役所広司さんにオファーなさった時、どう説明されたのですか?
手紙を書きました。「人は人を裁けるのだろうか?この三隅という男は善人なのか悪人なのか? 誰かを救おうとしたのか? 最後まで分からない存在として主人公の前に現れて、そして消えていく」。まだその時点では脚本ができてなかったのでどこまでプレゼンできたか分かりませんが、そのようなことを書いたような気がします。


―― それに対して役所広司さんの答えは?
「面白いですね。僕にできるかどうか分かりませんが、精一杯やらせて頂きます」と、あり得ないような謙虚なお返事を頂きました(笑)。撮影途中に脚本を変えたり、編集の段階でも紆余曲折がありいくつかのバージョンが出来たりしたのですが、最終的に作品を観て頂いた時に、「僕が最初にもらった手紙にすごく近い作品になったと思います」と言って頂けたので、ブレずにできたのかなと思いました。たけど、その手紙を具体的に思い出せないんです(笑)。多分そんなことを書いたんだと思います。


―― 役者さんたちへ役作りについて何かアドバイスされたのですか?
何人かは一緒に法廷へ行って傍聴したり、裁判官や弁護士のドキュメンタリーを見てもらったり、弁護士さんとも会って頂いたりとかしました。


sandomesatujin-500-2.jpg―― 主演の福山さんの細やかな演技にも驚かされましたが、脇役のキャスティングにもこだわりを感じました。ご自身で決めておられるのですか?
基本的には僕の方からお願いしています。中にはスタッフやキャスティング・プロデューサーから「こんな面白い人がいるのですが…」とプレゼンを受けて決めている人たちも何人かいます。満島真之介君は『紙の月』を観てオファーしました。3人の弁護士のバランスを考えて、一人は“やめ検”(元検事)にして、一人は司法試験制度改革後の若い弁護士という設定にしたのです。


―― いつもオリジナル脚本の作品をコンスタントに撮っておられますが、本作のような緻密なリサーチが必要な作品では何に一番時間がかかったのですか?
今回は脚本です。7人の弁護士さんに脚本作りに参加して頂きました。元検事の弁護士さんには起訴状を作って頂いたり、接見室での問答を実際に演じて頂いたりしたものを、脚本にまとめるという作業でした。それを去年の1月から春ぐらいにかけて行い、夏ごろには法廷シーンも実演してもらいました。裁判長に裏に呼ばれるあたりも、「ここで否認をしたらどうなりますか?」「裁判長に裏に呼ばれて怒られますね」とかね。法廷での言葉遣いや弁護士の思考回路など僕の中からは出てこないものでしたので、法律監修のレベルを越えた共同作業となりました。それがうまくいって、短期間で密度の濃い脚本を書くことができたと思っています。


―― 「サスペンスや法廷劇は本来、神の目線がないと成り立たないジャンルですが、今回は登場人物にジャッジを下さないために神の目線を持ちたくなかった」と語っておられますが、映画作りにおいて「神の目線」が意味するものとは?
主人公や作り手が真実を知っていて、最後に謎解きされるのが「神の目線」。つまり、タイムマシーンを持っている全能の視点が作品の中にあるのが「神の目線」だと思います。今回は、普通の弁護士が手にできる情報以上のものを観客も手にはしない。本当は現場で何が起きたのか、動機は何だったのか、真実までは辿り着かない。推測のまま終わり、主人公の弁護士にも観客にも釈然としないものが残ることを目指したのです。それが「神の目線」を排除して描くスタンスなのです。


―― そこが他の日本映画とは大きく違うところですね?
「人が人を裁けるのか、裁くとはどういうことなのだろう」とか大変重要なテーマですが、司法の欠陥だけを描いた映画だと思われては負けだと思っています。その先に、私達自身の問題としてどれだけ掘り下げられるか、人をどれだけ理解できるのか、 裁くとはどういうことなのだろう。この物語は誰が誰を裁いたのだろう。そこをちゃんと問わなければ、誰が犯人なのか悪い人なのかだけに終始してしまうので、注意深くラインを考えたつもりです。


――構成上、7回の接見シーンはテーマを語る上で大きなポイントになっていますね。特に最後の接見シーンに本作の真価が象徴されているように感じましたが?
実は脚本ではあの流れではなかったのです。編集で作った流れなんですよ。あのシーンは、カメラマンがライティングを調整していて見つけてくれたもので、それは象徴的な画になると思い採用してみました。僕も福山さんと同じように役所さんに翻弄されながら撮っていたので、着地が分からなくなってしまい、いくつか幅のあるバージョンを作っていました。結果的にあのラストしかないなと、今ではそう思っています。

 
―― これからご覧になる方へのメッセージをお願いします。
そんなに難しいことを考えずに、二人の男の対決を観に来て頂ければ、それだけでも楽しめると思います。非常に緊迫感のあるドラマになっております。あの表情の微妙な変化は大きなスクリーンの方がより伝わると思いますので、是非映画館で観て頂きたいです。

 



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『三度目の殺人』

■(2017年 日本 2時間04分)
■原案・監督・脚本・編集:是枝裕和(『誰も知らない』『そして父になる』『海街diary』『海よりもまだ深く』)
■撮影:瀧本幹也  ■音楽:ルドヴィコ・エイナウディ ■美術:種田陽平
■出演:福山雅治、役所広司、広瀬すず、吉田鋼太郎、斉藤由貴、満島真之介、市川実日子、橋爪功
2017年9月9日(土)~全国ロードショー
公式サイト⇒ http://gaga.ne.jp/sandome
■(C)2017フジテレビジョン アミューズ ギャガ

 


【STORY】
30年前に2人を殺し無期懲役の判決を受けた三隅(役所広司)は、仮出所中に再び殺人を犯してしまう。真実よりも勝訴を重視する敏腕弁護士の重盛(福山雅治)は、元検事の摂津弁護士(吉田鋼太郎)と新人の川島弁護士(満島真之介)の3人で、裁判に勝つための戦法を打ち出す。ところが、接見の度に供述を二転三転させる三隅に翻弄されるうちに、心から真実を知りたいと心境を変化させていく。依頼人への理解や共感などは不要と考えていた重盛だったが、殺害動機を知るために三隅の過去や事件関係者の再調査を始める。そこに被害者の娘・咲江(広瀬すず)が大きく関わっていることが判明するが、裁判は真実の解明が為されぬまま結審を迎えてしまう。