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故郷と向き合うのは、髄の部分で自分に向き合うこと 『望郷』主演大東駿介さんインタビュー 

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故郷と向き合うのは、髄の部分で自分に向き合うこと
『望郷』主演大東駿介さんインタビュー
 
湊かなえが故郷の因島を舞台に描いた連作短篇集『望郷』より「夢の国」「光の航路」を、デビュー作『ディア―ディア―』、今年公開の『ハローグッバイ』共に国際映画祭で高い評価を受けている菊地健雄監督が映画化。9月16日(土)より新宿武蔵野館、9月30日(土)よりテアトル梅田、京都シネマ、元町映画館ほか全国拡大上映される。
 
 
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古いしきたりを重んじる家庭に育ち、結婚後も島で暮らし続ける夢都子(貫地谷しほり)と、本土から転任で9年ぶりに島に戻ってきた中学校教師の航(大東駿介)。確執を抱えたまま生きる2組の親子が、真実を知り、未来に向かって歩むまでを二つの時代をクロスさせながら描いたヒューマンストーリー。故郷の光と闇、親子だからこそ抱く複雑な感情など、湊かなえらしい人間描写を、菊地健雄監督がさらに深く、そしてどこか温かく見つめ、役者の表情をつぶさに捉えて映し出す。
 
本作のプロデューサー辻村和也さんは本作の狙いについて、「同世代のスタッフ、本作品を共に作っていける監督、俳優をキャスティングすることを意識しました。作品の世界感を一番に考えた丁寧な作品を作り、映画ファンが多く集まるミニシアターにかけていくというのが最初に出していた方針でした」。菊地監督に関しては「助監督経験が豊富にあり、役者に芝居をつけることに定評がある事に加え、起用に作品制作に向き合えること。」また監督が動きやすいチーム編成にする事が絶対条件とも考えてました。、そして大東さんについては「演技力には定評がありながら、まだ重厚な作品で主演されるイメージがないため、そんな一面を見てみたかった」と起用の理由を語ってくれた。また、因島が舞台の全く独立した二つの話(「夢の国」「光の航路」)を、双方の主人公を同級生の設定にすることで、一つの作品になるような台本に仕上げたという。「石の十字架」で登場した十字架のある白綱山が重要なシーンで登場しているのも見どころだ。
 
キャンペーンで来阪した主演、大崎航役の大東駿介さんに、亡き父親と対峙する航役について、また初タッグとなった菊地監督との撮影についてお話を伺った。

 


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■菊地監督の島と故郷と人間を丁寧に描く姿に共感。「周りの筋肉は柔らかくて、骨だけむちゃくちゃしっかりしている感じ」が信頼感に。

―――『望郷』は『白ゆき姫殺人事件』以来の湊かなえ作品出演ですが、航役のオファーがあった時どんな印象を持ったのですか?
『望郷』は他の湊かなえさん作品とは世界観が違うとよく聞くのですが、僕はとても湊さんらしさが出ているという印象があります。湊さんの作品はミステリーでも人間性が際立っています。この『望郷』は、ミステリー要素がありながらも、菊地監督が島と故郷と人間を丁寧に描こうとされていたので、航役を是非演じたいと思いました。
 
―――菊地監督とは本作が初タッグとなりますが、一緒に仕事をして感じたことは?
菊地監督は細部まで見てくれ、信頼感があります。僕はよく現場で、信頼しあえる人間関係をどう構築していくかを考えます。映画を作る時は、毎回知らない人が集まって作っていくので、その中で信頼感はあるに越したことはない。もちろん仕事に対する熱意は、信頼を得る大きな材料ですが、ちょっとした方向性のズレが生じると衝突が生じてしまいます。菊地監督は、熱意もあり、その場で生まれて来るものに対しても柔軟なんです。逆にそれをキャッチして面白いと思ってくれる。偶発的なものも含めて、監督が描こうとしている人間や、島の現実と捉えてくれました。人を描くのに適した監督です。我がない訳ではなく、我の部分が映画の芯になる。周りの筋肉は柔らかくて、骨だけむちゃくちゃしっかりしている感じが、信頼感に繋がり、スタッフ、キャスト全員が菊地監督のためにいい作品を作ろうというスタンスになっていました。
 
―――菊地監督が曲げない部分というのは、どういう点ですか?
映画のビジョン、「こういう作品にしたい」という思いはしっかり持っていらっしゃいました。でも、こういう芝居をしてという押し付けは一切なかったですね。
 
―――菊地監督が大東さんらキャストを信頼していたのでしょうね。
僕も、衣装合わせで初めて監督に会った瞬間に信頼したんですよ。というのも僕は台本を読んで、この話は因島で撮れたらいいなと思っていたところ、監督が因島で撮りたいと強くおっしゃっていたと聞いたのです。その時点で僕は、この作品の芯を捉えている気がしました。それでいながら熱望した因島の撮影を終え、いざ出来上がった作品を見ると、島の風景はそこで育った人を構築する一部のパーツとなっていて、決して島を前面に押し出したりはしていない。『望郷』という作品にとって、因島はどういう存在なのか。あくまで湊かなえさんの『望郷』を映画化したという核から絶対にズレず、きちんと芯を捉えているところが凄いと思いました。

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■上京する時に感じていたこと、故郷に今感じることは『望郷』に似ている。

―――芯となるのは、「故郷との関係を描く」ということでしょうか?
因島は例え話で、僕も堺市出身、堺のことが大好きだけど、上京する時に感じていたことと、今感じることは『望郷』に似ています。堺のことは大好きなのだけど、本当に離れたかった。自分の未来はそこにはなかった。僕の中で、故郷はずっと居る場所ではなかったですね。役者になりたかったし、広い世界を見たかったので、最初は「やっと故郷を出れた」と思うのですが、結局いつも故郷のことを思い、故郷の居心地の良さを感じているんですよ。そことの比較で、少しずつ大人になっていっているのかなと。
 
―――航役を演じるにあたり、内面を掘り下げるために自らの故郷や父親との関係を振り返ったりもしたのですか?
もちろんこの台本を読んで自分と向き合うことが多く、父親や故郷について考えましたが、それで役を構築すると、結局航の話ではなく自分の話になってしまいます。内面を作るのは周りの人、兄弟や家族、育った環境が大きくあると思うのです。だから因島を自分の中に溶け込ませる作業、当たり前にその島にいることができる、ということもやっていきました。撮影中の空き時間は、とにかく因島で友達を増やし、路地裏もくまなく廻り、島の本当の声や、どういう時間が流れているのかをキャッチしましたね。
 

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■島の廃墟には栄えていた頃の活気が残っている。

―――映画でも沿岸部だけでなく、造船所跡など印象的な建物が登場し、因島の雰囲気が感じられました。
僕は廃墟や古い建物が好きで、よく写真を撮りに行きます。廃墟は人がいなくなった瞬間に時が止まる気がするけれど、止まってからの時間が廃墟に残っている。因島は造船が栄えた時期があり、その時の活気が建物に残っているんですよ。僕の知らない因島の時間がそこに流れていて、歩いているだけでも子どもの頃の航がいた時間を感じることができました。たまに実家に帰ると、今まであったスーパーがなくなっていて、結構ショックを受け、これが大人になっていくことかと思うのですが、この『望郷』でそういう喪失がきちんと描かれているのも菊地監督の凄いところです。
 
―――ちなみに今回初めて因島を訪れたとのことですが、島の印象は?
観光で行ったら、素直に色々楽しめると思うのですが、俳優という職業の辛いところで、役を与えられて行くと、なんとも思えないですね。十字架がたくさんある白綱山も、いつもならそういう場所が大好きなので写真を撮りまくると思うのですが、携帯を見ても一枚も写真がなくて。航にとっては当たり前の景色なので、写真を撮ろうという感覚が全くない。だから、今楽しみなのは因島に舞台挨拶に行って、「いい島やったな!」と言うこと(笑)。ただ、その分感じられる魅力は、島にいて落ち着くんですよ。自分の中でよそ者感がないので、故郷のように落ち着くし、路地裏を歩くだけでもホッとする。お呼ばれ感がないというのが、逆に言えばこの仕事の魅力かもしれませんね。
 
 
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■絶対的な存在感、父親であり教師としての存在を感じた緒方直人さんの芝居

―――父親役の緒方直人さんとは、共演シーンはほとんどありませんが、撮影現場をご覧になっていたそうですね。
緒方さんの芝居を見て、言葉に責任を持つというのは凄いなと思いました。台詞をちゃんと相手に届ける。それを当たり前に、自然にできるというのは経験値というより、器の大きさを感じます。親父の事は分からないという航が、それでも同じ先生という職業を目指してしまう絶対的な存在感であり父親像を、一役者として緒方さんに感じました。同時に思ったのは、台本を開いた時に父親と書かれていても、父親という役はないなと。父親も元々は一人の男で、父親以外の人生があるという当たり前のことを、緒方さんを見ていて感じました。父親芝居ではなく、教師としての存在がしっかりしている。緒方さんは教師として生徒に向き合っているだけですが、それが航の見ている親父なのかと思いました。緒方さんの力ですし、それをきちんと理解して切り取った菊地監督の力でもあります。
 
―――仲たがいしたまま亡くなった父親の真意をようやく知り、自殺未遂の生徒に語りかけながら、その目は遠くを見つめているシーンは、父親への気持ちも表現しています。どのような気持ちで演じたのですか?
親父がどういう人だったのかを航は理解できたと思うのです。いざ同じ問題に僕が向き合った時、僕も同じような気持ちになり、親父の偉大さを知りました。だから回想シーンで本当はその場にいなかった子ども時代の航が、親父に言われているんです。親父と同じ仕事を追いかけた時、初めて親父の言葉をもらえた。人はいつか死ぬけれど、覚えている人がいる限り、その人は永遠に死なないと思うのです。航は親父が死んだけれど、死んだのではなく、その瞬間に時間が止まったままで、親父の真実を知った瞬間に時間が動き出した。航の中で親父と共に生きていくのだろうという生命力を感じました。

 

■「死んだ親父の話をすることで、親父は生き続ける」~航の体験と重ねて

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―――父親の偉大さを知ったというのは、ご自身の体験にも重なったのですか?
今までインタビューで自分の親父の事を話したことはなかったのですが、この作品で話すようになりました。死んだ親父の話をすることで、親父は生き続けるのかと思うと、僕がこの作品に出会った意味はそういうところにもある気がします。
 
僕は小学校ぐらいから親父に会っていなくて、親父がどんな人なのか本当に分からなかった。航の気持ちがよく分かりました。3年前ぐらいに親父が見つかった時、僕は妙な意地を張って逢わなかったんです。その翌年、親父が亡くなったので結局合わずじまい。それから親父のことを親戚から聞くうちに、自分の中で今まで影だった親父に、人柄や温かさ、ぬくもりが見えてきて、生きていたときよりも温度を感じるようになりました。死んでからでも人は生きることを緒方さんの演技でも感じました。緒方さんに親父のぬくもりを感じ、それが自分の人生にも重なりました。自分も何かを乗り越えなければならない瞬間がくるような手法で撮ってくれ、人間の心理描写にこだわり抜いた菊地監督だからこそできたことだと思います。褒めすぎと思われるかもしれませんが(笑)。
 
―――最後に、これからご覧になる皆さんにメッセージをお願いします。
湊かなえさんの原作を丁寧に映像化した作品です。『望郷』というタイトルの通り、皆さんそれぞれ故郷があると思うのですが、故郷と向き合うのは、髄の部分で自分に向き合うことではないかと感じます。この作品を観てくれた方が、ちょっと地元や実家に帰ろうかなと思ってもらえると、うれしいです。
(江口由美)
 

<作品情報>
『望郷』(2017年 日本 1時間52分)
監督:菊地健雄
原作:湊かなえ「夢の国」「光の航路」(『望郷』文書文庫所収)
出演:貫地谷しほり、大東駿介、木村多江、緒方直人、森岡龍、浜野謙太、伊東蒼、川島鈴遥、片岡礼子、相島一之、白川和子他
主題歌:moumoon「光の影」(avex trax)
2017年9月16日(土)~新宿武蔵野館、9月30日(土)~テアトル梅田、京都シネマ、元町映画館ほか全国拡大上映
公式サイト⇒http://bokyo.jp/
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