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子どもたちの無垢な心、子どもの視点でみた世界を伝える『草原に黄色い花を見つける』ヴィクター・ヴー監督インタビュー

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『草原に黄色い花を見つける』ヴィクター・ヴー監督インタビュー
 

~80年代後半ベトナム、瑞々しい映像で紡ぐ子ども時代と初恋の苦い思い出~

 
緑溢れる大地と穏やかな川に囲まれた、牧歌的なベトナムの村が冒頭からスクリーンに広がり、一気に作品の世界に誘われる。1980年代後半のベトナムの村を舞台に、貧しくも家族が揃って暮らすティエウとその弟、そして父親と住む幼馴染のムーンの瑞々しい初恋や村のエピソードを描いた『草原に黄色い花を見つける』。
 

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ベトナム映画界で今やヒットメーカーとなっているアメリカ生まれのヴィクター・ヴー監督が、ベトナムのベストセラー作家グエン・ニャット・アインの原作を映画化、子どもたちの視線で当時のベトナムの人々の暮らしや、子どもたちの世界を繊細に描写し、心に響く感動作を紡ぎ出した。電気もコンピューターもない村での素朴な遊びの風景や、村に出ると噂の幽霊話、弟と仲の良いムーンに嫉妬した主人公ティエウの自己中心的な行動など、懐かしさとほろ苦さが思わず込み上げる。今、勢いが著しいベトナムから生まれた、心の故郷を思い出すような作品だ。
 
大阪アジアン映画祭2015で日本初公開されたときは撮影のため来日が叶わなかったというヴィクター・ヴー監督が、今回はキャンペーンで来阪。本作への思いや、現在準備中の作品についてお話を伺った。
 

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■私のキャリアの中で、人間の気持ちや心の動き等の感情面を深く掘り下げる作品を作る時期が来たと感じた。

―――本作を撮ることになったいきさつは?
何年も前にプロデューサーが脚本を持ちこんでいた企画でしたが、その時は私自身のタイミングが合わず実現せずに終わりました。その後再び脚本が持ち込まれた時に原作を読んでみると、感情描写が繊細で、深く感銘を受けました。私には弟がいるのですが、子どもの頃を思い出し、まるで自分の話のように感じられたので、この話を映画にしたいと思いました。今まで作っていた映画とは全く違う傾向の作品ですが、人間の気持ちや心の動き等の感情面を深く掘り下げるものになると思いましたし、私のキャリアの中で、いよいよそのような作品を作る時期が来たのだと感じたのです。
 
―――それまではエンターテイメント作品が多かったようですね。
私の一番好きなジャンルはスリラーです。その範疇で、コメディーやアクション、ホラーなど作ってきました。どちらかと言えば技術面に凝った作品を作ってきたのですが、今回は心を開放し、人間の思いを描きだすことに魅力を感じた訳です。

 

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■自分が体験できなかったベトナムでの子ども時代や、代々引き継がれてきたベトナムの伝統に近づく。

―――監督はアメリカで生まれ育ったベトナム人ですが、自分の原点に戻る狙いがあったのでしょうか?
多くの映画人が自分たちの故郷に関する映画を撮りたいと思っていますが、ベトナムではプロデューサーがいない、資金調達が難しい、劇場公開しても興行成績が思うように伸びないなどの理由から、なかなか撮れないのが現状です。私自身は幸運にもこの作品を作ることができました。ただ子ども時代をベトナムではなくアメリカで過ごしているので、本で読んだりしながら知っていき、自分が体験できなかったベトナムでの子ども時代や、今まで代々引き継がれてきたベトナムの伝統に近づけた気がします。
 
―――作品の舞台になった80年代後半のベトナムについて、様々なことを調べる必要があったのですね。
とても有名で、ファンの多い作品ですから、それを映画化することにプレッシャーはありました。また外国育ちの私が、真にベトナム的なこの作品を作れるかに不安もありました。ですから、とても細かいところまでこだわりました。衣装やセットだけでなく、音楽もベトナムらしいものを採用しています。
 
 

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■原作のエッセンスは子どもたちの無垢な心、子どもの視点でみた世界。

―――プレッシャーが大きかったとのことですが、その中で特に描きたかった部分や、原作に付けくわえた部分はありますか?
原作者のグエン・ニャット・アインさんにお会いした時、「映画は映画、本は本なので、本と同じような映画にしなくてもいい」とおっしゃって下さり、私もホッとしました。原作から絞る作業をする際には、心の動きや子どもたちの感情面にフォーカスしました。ストーリーを追うだけでなく、この原作のエッセンスに光を当てる作業だったのです。そのエッセンスというのは子どもたちの無垢な心であり、子どもの視点でみた世界です。それを伝えるために俳優たちの演技だけでなく、シンプルだけど伝わる会話や、周りの景観を大事にするようにしました。
 
―――子どもたちの日常描写で、ゴム飛びや凧揚げ、石投げなどの昔懐かしい遊びをする様子が多く描かれているのも本作の見どころですが、監督ご自身はこのような遊びを小さい頃にしたことはあるのですか?
私自身の子ども時代にはどれも体験したことのないものでした。セットを作りながら、昔のベトナムの遊びや生活を学んだ部分が大きかったです。例えば子どもたちが着ているシャツなども、今売られているような新しい素材のものではスクリーンで観たときに感触が違うと感じ、当時のものに見えるように作り直したりもしました。
 
―――作品で重要な役割を果たす詩集は、原作でもあったものですか?
『愛の詩集』は原作でも引用されているとても有名なものです。現物を入手できたので、映画にも登場させました。映画の最後の部分は私たちが創作しました。ティエウが成長して大人になり、改めて詩集を読みなおすことで、ムーンの本当の気持ちが分かるという意味があります。最初読んだときには全然意味が分からず、ムーンと仲の良い弟に嫉妬したり、ムーンを突き放したりしますが、最後に自分のことがずっと好きだった事を知り、にっこりと笑うのです。ムーンの方が詩のことを最初から理解していた訳です。
 
 

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■毎日の生活がより素朴で、人々の生活がより近くに感じられる時代があったことを感じてもらいたい。

―――日本でも昔あったモーターサイクルサーカスが登場し、このサーカスは世界共通なのかと思いましたが。
モーターサイクルはベトナムでも人気がありました。映画に出演しているのはベトナムで最後のモーターサイクルサーカスです。ご夫婦でされていたのですが、この映画の出演を最後に引退されたそうです。
 
―――モーターサイクルサーカスも含めて、時代の終わりを象徴するような狙いもあったのでしょうか?
小説の原作者がどう考えていたか分かりませんが、原作もムーンが引っ越すところで終わります。ムーンは現代に移っていくけれど、兄弟たちは村に取り残される訳で、毎日の生活がより素朴で、人々の生活がより近くに感じられた時代があったことを感じていただけるでしょう。
 
―――全体的にベトナム戦争の影をほとんど感じない中で、ダン叔父さんだけは戦争で負ったと思われる右腕のない姿でした。ダン叔父さんを描くにあたって、どのような思いを込めたのですか?
原作にも戦争の影はありませんし、原作者も意図したことだと思います。ダン叔父さんの存在は、村から疎外されている可哀そうな人のように映るかもしれませんが、ご覧のとおり、とても楽観的に描かれていますし、兄弟の両親よりもポジティブ思考な存在なのです。
 
 

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■自分の民族や文化の映画を作り、世界の観客に観ていただける可能性を日本映画から感じた。

―――日本映画には、どのような印象がありますか?
アメリカで育ったので、アジア映画を観る機会はあまりありませんでしたが、中国と日本の映画は観ていました。私が一番影響を受けた映画監督はヒッチコックですが、黒澤明監督も私の師と言えます。大学でも日本の古典的な映画をたくさん鑑賞しましたので、影響を受けたと言えますし、自分の民族や文化の映画を作り、ベトナムの人たちだけでなく、世界の観客に観ていただける可能性があることを感じました。
 
―――次回作はエンターテイメント作に戻るのでしょうか?
2作品がポストプロダクション中です。私自身の映画作りの姿勢としては、エンターテイメント作品とか商業作品と分けて考えるのではなく、自分にインスピレーションを与えてくれる作品を作るようにしています。1本目は『Lôi Báo(ロイバオー)』というアクションスリラーです。『草原に黄色い花を見つける』が自分の文化的ルーツへの回帰作とすれば、『ロイバオー』は生まれ育ったアメリカ的な作品です。2本目は『The Immortal(ザ・インモータル)』で、超自然的、オカルト的な作品です。ただ単なるスリラーではなく、『草原に黄色い花を見つける』の経験に基づき、ベトナムの歴史や文化を掘り下げる側面もあります。時代設定は百年ほど前のフランスの植民地時代で、撮影はベトナムの北部から南部まで広範囲に渡り、苦労も多かったですが、今まで私が作った中で一番美しい映画になりました。

 

■ベトナムの観客は、物語の中に自分を投影できる作品を待っていた。

―――今までエンターテイメント作品がヒットしていたベトナムで、本作は若い観客たちに受け入れられたそうですが、そのことがベトナム映画界にどんな影響を与えたのでしょうか?
この映画が公開された年、ベトナム映画の中で興行第一位に輝きました。ベトナムの若者たちはエンターテイメント作品に慣れていたので、この結果に皆驚きましたが、ベトナム映画界全体にとって、このように人間の感情を取り上げるような作品、観た人が物語の中に自分を投影できる作品を待っていたことが証明されたと思います。
(江口由美)
 

<作品情報>
『草原に黄色い花を見つける』(2015年 ベトナム 1時間43分)
監督:ヴィクター・ヴー
原作:グエン・ニャット・アイン
出演:ティン・ヴィン、チョン・カン、タイン・ミー、マイ・テー・ヒエップ他
2017年9月16日(土)~シネマート心斎橋、今秋~京都みなみ会館、元町映画館他全国順次公開
公式サイト⇒http://yellow-flowers.jp/  
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