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簡単ではなかったからこそ、思い入れのある作品になった。『ろくでなし』主演大西信満さんインタビュー

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簡単ではなかったからこそ、思い入れのある作品になった。
『ろくでなし』主演大西信満さんインタビュー
 
『東京プレイボーイクラブ』『クズとブスとゲス』の奥田庸介監督が、大西信満、渋川清彦を迎え、渋谷の街に流れ着いた訳あり男たちの生き様を描く最新作『ろくでなし』。流れ着いた渋谷の街で、クラブで働く優子(遠藤祐美)に一目惚れし、クラブの用心棒になる一真(大西信満)、優子の妹で女子高生の幸子(上原実矩)と交際、遠山の仕事を手伝うひろし(渋川清彦)、クラブのオーナーで裏社会の顔も持つ遠山(大和田獏)と、渋谷で生きる様々な事情を抱えた男女をリアルに描いている。現代の生きづらさや、その中で愛を求める姿を表現する、激しくも切ない傷ついた大人のラブストーリーが誕生した。
 
8月12日(土)より第七藝術劇場、元町映画館、京都みなみ会館の3館で同時公開される本作の主演、大西信満さんに、奥田監督と作り上げた一真像や、作品の魅力、撮影エピソードについてお話を伺った。
 

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■ふだんは“ろくでなし”だから、演じる時の緊張感を保つことができる

―――一真役のオファーから撮影までの期間が短かったそうですが、撮影に入るまでの様子を教えてください。 
大西:撮影までの期間というのは作品によって様々で、撮影まで半年時間をもらえる場合もあれば、極端な話、撮影3日前にオファーがくることもあります。当初、一真役は外見もプロレスラーのような体でないと成立しないような物語になっていたのですが、なかなかオファーできる俳優がおらず、キャスティングが難航していたそうです。村岡プロデューサーからの推薦で、急遽自分が一真役をやることになったのは、撮影の1ヶ月弱前でした。そこから監督と話し合い、一真を何もかも一瞬でぶち壊すようなタイプから、周りを壊すのではなく、自分を壊し、生きづらい世の中に居場所を探すという風に、役の捉え方を変換していきました。 
 
―――一この作品は渋谷を映し出した映画でもありますが、一真が田舎から都会へ出る際、渋谷を選んだのはなぜでしょうか? 
大西:映画では説明されていないので何とでも解釈できるのですが、想像するに、人口密度の高い大都市で、雑踏に紛れたいという気持ちがあったのではないかと。人が多ければ多いほど、周りに関心を持たなくなりますし、彼の身の上であれば、紛れてしまいたいという気持ちが働くのではないかと解釈しています。 
 
―――今まで同じ作品に出演することも多かった渋川清彦さんとの共演シーンが今回は多いですね。 
大西:キーさん(渋川さんは以前「KEE」名義で活動していた)とは事務所も同じだし、昔からの古い友人です。常に一緒にいるわけではないけれど、忘れた頃にどちらともなく「飲みに行こう」と誘うような関係が10年以上続いています。キーさんはいわゆるパブリックイメージから遠くない人ですね。みなさんがイメージしているような感じと近いと思います。 
 
―――なるほど。渋川さんと正反対で、大西さんはいつも寡黙かつ、目が物語るような、内に情熱を秘めた男を演じることが多いですね。
大西:演じる役として異様な緊張感が求められる場合が多いので、そういう時ほど〝ろくでなし〟に生きてバランスを保ったりしています。まぁ〝ろくでなし〟と言っても自分の場合なんてかわいいものですけど。
 

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■演じていくうちにラブストーリーの要素が濃くなっていった撮影現場

―――本作のタイトルも『ろくでなし』ですが、大西さん、渋川さんが演じる二人には愛おしさも感じれば、彼らが抱えている孤独も感じます。ラストのラブシーンは、そんな孤独で不器用な男女の魂がぶつかる映画のクライマックスの一つですが、どのように撮影したのですか? 
大西:あのシーンはワンカットの長回しでしたし、車がこないようにスタッフが止めていますが、何が起こるか分からない状況でした。しかもかなり体力的、精神的に消耗するシーンなので、この映画の中で皆が一番緊張していたシーンだと思います。シーンの性質上リハーサルができないので、ある程度の導線を作って臨みました。カメラマンが一番大変で、どう動くか分からないので、手持ちカメラで追って、いくつかの約束ごとだけを事前に決め、あとは役柄に身を委ね互いに自由に演じました。一発勝負で撮ったシーンで、監督はOKを出すのをずっと悩んでいましたが、欠けているものはあっても2テイク目で全体の勢いやエネルギーが減るのは目に見えていて、全体として何かが伝わる事の方が大事だという判断で、結局OKを出しました。 
 
―――ハードボイルドな作品ではありますが、かなりラブストーリーの要素が入っています。これも大西さんが監督と話し合われた結果ですか? 
大西:当初はラブストーリーの要素は薄かったのですが、優子役の遠藤さんとやりとりをしていくうちに、勝手にその要素が濃くなっていきました。キーさんと幸子を演じる上原さんも、演じているうちにラブストーリーの要素がどんどん濃くなっていって、二次元が三次元になったとき、思わぬ方向に膨らんでいく。映画においては、よくあることだと思います。 
 
 
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■奥田監督は繊細さ、純粋さのある一真役のような生きづらさを抱えた男

―――大西さんが思う奥田監督の良さとは? 
大西:繊細さや純粋さですね。僕が演じた一真役のような部分がある男です。奥田監督でなかったら、こういう役作りにはなっていません。脚本を読むだけでなく、実際に奥田監督とディスカッションしていく中で、一真の生きづらさは何なんだろうと考えていきました。奥田監督は何かを壊したり、傷つけるための暴力ではなく、どちらかと言えば自分が消えてなくなってしまいたい絶望感のようなものを抱えているように感じたので。
 
―――グロテスクなシーンやエロスを前面に出したようなシーンがあまり登場せず、そのさじ加減が絶妙でした。これも奥田監督らしさと言えるのでは?
大西:奥田監督は色々な意味で下品なことが嫌いなのでしょう。潔癖症と言えるぐらいにそういう類のものが苦手で、だから生きづらい。どうしても世の中は汚れている部分を目の当たりにする機会だってあるから、当たり前にある雑菌を飲み込み切れない生きづらさがあるんじゃないかなと思います。奥田監督が生きづらさから解放される手段が映画しかないのであれば、何とかして作品を撮って欲しいと思うし、自分が俳優として作品に参加するなら、出来る限りそれを体現できるように、監督の考えていることを掬い取る努力をしました。
 
 
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■現場で起きていることをきちんと掬い取る力、自分の想定より良ければ採用する気概を感じた

―――先ほどのラブストーリー要素が増えたことといい、本作での奥田監督は、脚本に書かれていないような部分が膨らむことを受け入れてくれたということですね。 
大西:現場で起きていることをきちんと掬いとる力、想定外のことも自分の想定より良ければ採用するという気概がある監督でした。 現場で脚本のセリフ以外のことが出てきて、違った展開になっても、そちらにリアリティーがあれば、OKを出してくださいました。ある意味柔軟で、ある意味頑なな部分のある方ですね。
 
―――ラストシーンも、最初想定していたものとはかなり違うものになったそうですが。
大西:撮っていく過程で様々なズレが出てくるのが撮影ですから、ラストを決めてしまうと途中の修正が利かなくなってしまいます。1か月間ほぼ順撮りでやってきて、結果だけ当初決めていたものに落とし込むのは不自然になってしまう。だから現場で話し合いを重ね、今の形に落ち着いたのです。
 
―――今回のように、撮影を重ねるうちにラストを変えることになるという映画作りは、よくあることなのですか?
大西:現場やプロデューサーにもよりますし、基本的にはあまりないでしょうね。物語である以上、始まりから終わりは決まっているのですが、脚本の通りに進んでいけば相応しいラストでも、撮っていくとどうしても違和感が出てきたときにどうするかは監督の判断だと思います。

 

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■簡単ではなかったからこそ、思い入れのある作品『ろくでなし』

―――自分の意見が反映された作品として、『ろくでなし』は思い入れのある作品になったのでは?
大西:『ろくでなし』に限らず、どの作品でも自分が演じる以上、自分の意見は反映されている訳ですから、思い入れはもちろんあります。特に『ろくでなし』は、そんなに簡単にできた映画ではありませんから。
 
―――簡単ではなかったというのは、どういう点ですか?
大西:撮り終わった時点で配給や公開日が決まっている作品もあれば、撮ったものの公開されるかどうか分からない作品もあります。そういう意味では、『ろくでなし』は後者に属する作品だったので、それでも撮ったという部分が思い入れに繋がっているのかもしれません。もしかしたら撮ってもどうにもならないかもしれないという不安を皆が抱えながら臨んで、それでもきちんと形になったという感慨があります。
 
―――今回の一真を演じるにあたり、参考にした映画やキャラクターはありましたか?寡黙という点では、高倉健さんを彷彿させるキャラクターでもありましたが。
大西:役作りにおいて、何かを参考にすることはあまりないですね。この作品の場合、脚本を読むととてもいびつな人物で、そのまま演じると単調になってしまうので、ストローで飲むときに「あれあれ」と探す仕草をしてみたり、ただのドヤ顔でギラギラした目をした男にはしないように心掛けました。シンプルに言えば、かっこいい男にしたくなかった。生きづらさやみっともなさを抱えた一真を、かっこ悪くても人間味のあるキャラクターにしたかったのです。
 

■緊張と弛緩の振り幅を大事に、目の前にある現場の質を上げる努力をしていく

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―――40代になり、俳優としても脂が乗り、日本映画を支える存在となりつつある中、大西さんご自身で心掛けていることは?
大西:今、観客の方も映画館以外で映画を観る選択肢が増えた中、1800円を払って映画館に来ていただくだけの質をきちんと維持していかなければ、観客はより手軽で安価な方に流れていってしまいますから、目の前の現場を精一杯、質を上げる努力をしていくことに尽きると思います。
 
演じる面で言えば、俳優を始めたばかりの頃は、この針の穴の先がどれだけ細いか、深いかという集中力で勝負しなければならなかったけれど、場数を重ねていくうちに、それだけではないなと思うようになりました。今は、緊張と弛緩の振り幅が大事だと思っています。集中するためにはどれだけ緩めるかということを考えますし、これからもどうすればいい状態で現場に臨めるかを、ずっと追及していくことになるのでしょう。
(江口由美)
 

<作品情報>
『ろくでなし』(2017年 日本 1時間46分)
監督:奥田庸介
出演:大西信満、渋川清彦、遠藤祐美、上原実矩、毎熊克哉、大和田獏、他
2017年8月12日(土)~第七藝術劇場、元町映画館、京都みなみ会館にて公開
※8月12日(土)第七藝術劇場、元町映画館、8月13日(日)京都みなみ会館にて、主演大西信満、渋川清彦による舞台挨拶あり
(C) Continental Circus Pictures