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『セザンヌと過ごした時間』ダニエル・トンプソン監督インタビュー

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『セザンヌと過ごした時間』ダニエル・トンプソン監督インタビュー

~セザンヌとゾラ。神格化されたイメージを覆し、知られざる二人の友情を描く~

 
近代絵画の父と呼ばれる画家セザンヌと、不朽の名作『居酒屋』で知られる小説家ゾラの40年に渡る友情を描いた『セザンヌと過ごした時間』が、9月2日(土)からBunkamuraル・シネマ他で全国順次公開される。
 
 
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監督は、『モンテーニュ通りのカフェ』のダニエル・トンプソン。幼馴染ながら、正反対の生き方をするセザンヌ(ギヨーム・ガリエンヌ)とゾラ(ギヨーム・カネ)の友情のみならず、衝突、嫉妬など様々な感情が、濃密な映像の中浮き彫りになる。また、セザンヌが長きに渡って絵を描き続けたエクス・アン・プロヴァンスの風景や、後年ゾラが邸宅を構えたパリ郊外のメダン等、セザンヌやゾラが実際に滞在したロケーションでの撮影を敢行。二人をはじめとするサロン仲間たちの会話から、フランス社会や絵画における主流の変化、写真のような新しい技術に心揺れ動く様子まで描かれ、19世紀後半のフランスにタイムトリップした気分になる、味わい深い作品だ。
 
フランス映画祭2017のゲストとして来日したダニエル・トンプソン監督に、作品についてお話を伺った。
 

 

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―――監督は、元々セザンヌ、ゾラに対してどんな印象を持っていましたか?また、本作を作る過程で、その印象や二人の関係への解釈はどう変わっていきましたか?
セザンヌとゾラの間に友情関係があるとは全く知りませんでした。15年前にそれを知って驚いたことが、二人の事を調べるきっかけになっていきました。おそらく皆さんが思っているのと同じ、19世紀の偉大なる作家であり、アーティストで、髭を生やしている動かないアイコンのような存在だったのです。でも本作では、そのように一般の人が抱いているような二人に対するイメージを覆してやろうと思っていました。我々はどうしても過去の偉人を神格化してしまうところがあり、遠い存在の人だと思ってしまいますし、私自身もそうでしたから。
 
―――その事実を知ってから、映画ができるまで15年かかった理由は?
15年間ずっと二人の事を調べていた訳ではありません。他の作品を撮ったり、脚本を書いたりしていましたが、それらが終わる度に、このタイミングでセザンヌの話に取り組めるか、そもそもこの企画をやりたいかどうかを自問自答していました。脚本を書く以前に、セザンヌとゾラの話で映画ができるかどうか確かめるために、数ヶ月間費やしてみようと決意したのが、この作品のはじまりでした。 ですから結果的に15年もかかってしまったのです。
 
―――40年以上に渡るセザンヌとゾラの関係をきめ細かく、かつ2時間で描くのはとても挑戦的なことだと思いますが、どのように脚本を作り上げていったのですか?
冒頭に始まり、何度か挿入される1888年の再会を、セザンヌとゾラの友情における「まとめ」のようなシーンにしました。まさに映画の中心部分です。実際の二人は、あのような形で再会していないかもしれませんが、再会した時、二人は復讐をするかのように言いたいことをぶつけ合い、自分たちの友情を思い返し、疑念を抱くシーンにしました。子ども時代、青年時代に二人が分かち合った楽しい時代を組み込みながら、一方で友情の中にも不吉で暗い部分を盛り込む。このような構成は私にとってはとてもロジックなものでした。
 
 
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―――ギヨーム・ガリエンヌさんとギヨーム・カネさんは二人とも自身で監督もこなす名俳優ですが、二人はどのように役を作り込んでいったのですか? 
不思議なことに私が今まで一緒に仕事をしてきた俳優は、結構監督を兼ねていることが多いのです。アルベール・デュポンテル、シドニー・ポラックや、ダニー・ブーン、息子のクリストファー・トンプソンもそうですね。実際に彼らが私の現場で演じる時は、監督としてではなく俳優として集中してくれます。彼らが監督もする人であることを忘れさせてくれますし、「僕だったらこう演じる」という考えはないのです。そういう意味ではとてもやりやすく、快適でした。 
 
 
―――本作は、ロケーション(エクス・アン・プロヴァンス、パリ、メダン)や暗い室内のシーンがとても印象的です。撮影(映像)面での工夫やこだわりは? 
まさにコントラストを強く出そうとおもっていました。ゾラが仕事をしている書架だけではとても閉鎖的で暗く、物が多いですし、演劇的なシーンだけになってしまいます。そういうシーンがあるかと思えば、一気に光りあふれる自然の中に観客を誘います。片や暗くて閉鎖的、片や広々として明るいというシーンを行ったり来たりすることは、観客の皆さんにもすごく快感を覚えていただけると思います。ゾラとセザンヌの話は一つの戯曲として舞台でも上演できるような内容ですが、映画だからこそできるのが光溢れるシーンではないでしょうか。そのような映画ならではの表現で、観客を旅に誘ったのです。 
 
 
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―――南仏エクス・アン・プロヴァンスの景色に魅せられましたが、監督自身がその場に立たれた時、感じたことは?

 

圧倒される感じでした。自然保護地区ですし、監督にとっては夢のような場所でした。普通、歴史映画を撮るときは電信柱やドラッグストアの緑色のランプなど、何かと現在社会を彷彿とさせるものが映り込んでしまうのですが、エクス・アン・プロヴァンスでは一切そのようなことがありませんでしたから。素晴らしい景色で、まるでセザンヌの絵のようであり、大きなインスピレーションを与えてもらいました。
 
―――お父様(ジェラール・ウーリー)も映画監督ですが、映画の道で生きていこうと決めたきっかけは? 
最初は弁護士や美術士を目指していた頃もあったのですが、やはり父が映画監督ですからその影響を受けました。父も、何か私の中に脚本家としての才能を見ていたようで、父の勧めで脚本を書いてみたら、それがとても面白かったのです。その時に私は脚本家になろうと決めました。 
 
―――これからご覧になる観客の皆さんにメッセージをお願いします。
私たちは激動の時代を送っています。そういう意味では過去にタイムトラベルすることはとても重要なことです。過去に身を置くことで、そこで与えられる心地よさがあります。もちろん戦争や暴力は存在しましたが、過去から現在に受け継がれている不変のものはアートや自然であります。私たちは、そういうものを今、必要としているのではないでしょうか。
 

6月24日、フランス映画祭2017の上映後に行われたダニエル・トンプソン監督トークショーの模様を一部ご紹介したい。
 

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―――本作では手紙も多く登場しますが、どんなリサーチをしたのですか?
セザンヌとゾラの書簡が多数残っているので、子どもの頃から大人になってからの最後の手紙まで読みました。ただ、「最後の手紙」が新たに発見されたので、本当に決定的な二人の別れとなる再会のシーンは、私自身が想像して付け加えました。確かなことは、本当にたくさんの書簡を交わしていた二人が、いつの間にか疎遠になってしまったことです。私が描いたほどの出来事はなかったかもしれませんが。
 
こういう芸術的な作品にリサーチは欠かせません。それはまるで井戸から水をくみ上げるように何度も何度もくみ上げていく作業でした。ゾラやセザンヌの伝記もたくさん読みましたし、そういう作業の中から私自身のフィクションの部分を膨らませ、構築していきました。史実はもちろん大事にしますが、私の作家としてのフィクションとして忘れてはならない題材は、ゾラが書いた「制作」という作品です。この作品が発表されたことで二人の関係はややこしくなっていきます。私自身、今回映画のリサーチをするまで読んだことはありませんでした。
 
 
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―――ギヨーム・ガリエンヌとギヨーム・カネの二人の会話や刻々と変わる緊張感が、セザンヌとゾラの微妙に変化する関係を見事に表現していましたが、監督から二人にどんな指示をだしたのですか?
大好きな二人と共同作業で作り上げた感じです。私がやりたいことが全てできました。教務深かったのは、二人は撮影現場ではとても和気藹々とやっていたのですが、後半の再会のシーンが近づくにつれ、二人の役者の関係もややこしそうな関係になっていくのを「そういうこともあるのだな」という思いで見ていました。ゾラとセザンヌの関係性が、ガリエンヌとカネの関係性に重なり、それを見てワクワクしました。一つのカップルについての作品なのでこういうことが起こるのは当然なのかもしれません。
 
 
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―――ギヨーム・ガリエンヌさんにセザンヌ役をオファーしたきっかけは?
前作『モンテーニュ通りのカフェ』で小さい役ながら出演いただき、マルチな才能を見せてくれました。ガリエンヌさんはコメディーフランセーズに所属している舞台俳優でもあり、親しくしていたのですが、そのうち監督業にも乗り出し、『不機嫌なママにメルシィ』でセザール賞6冠を達成し、大スターになったのです。私自身は今回シナリオを書いてオファーした時、ゾラ役でのオファーだったのですが、ガリエンヌから戻ってきた答えは「ぜひ出演したい。でも僕がやりたいのはセザンヌなんだ」と。それから読み合わせをしたとき、すぐに彼がセザンヌ役に相応しいと納得できました。あれほど日ごろは軽やかな人が、数時間も立たないうちに、私が書いたセザンヌになりきっていたのです。
 

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―――セザンヌとゾラの言葉の応酬が印象的でしたが、監督はどのようにセリフづくりをされたのですか?
この作品を作るのが一つのアドベンチャーだとすると、台詞を作るのはワクワクする瞬間です。まさにゾラのおかげという部分もありますが、それはゾラの小説にあったセリフを拝借している部分もあるからです。ただ、書斎でゾラとセザンヌが言い争うシーンは、私が想像して描いたシーンです。「開花しなかった天才」とゾラは最後に言いますが、実は画商ボラールの回想録に、ゾラがそのように言ったと人づてに聞いたセザンヌが、とても傷ついたと書き残しています。その部分は史実なのです。
 
今回の作品は史実をベースにしながら、私自身のイマジネーションを混ぜ、ゾラの小説の部分も混ぜ、エピソードを作り上げた、コンフィチュール(ジャム)のようなものです。だから気難しいセザンヌの反抗的な人物像を作り上げることができました。監督、脚本家としてこういうパズルを組み立てるような作業は、本当にワクワクしました。
(江口由美)
 
 
 

<作品情報>
『セザンヌとすごした時間』“Cézanne et moi”
(2016年 フランス 1時間54分)
脚本・監督:ダニエル・トンプソン
出演:ギヨーム・カネ、ギヨーム・ガリエンヌ、アリス・ポル、デボラ・フランソワ、フレイア・メーバー、サビーヌ・アゼマ、イザベル・カンドリエ
9月2日(土)~Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開