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『彼女の人生は間違いじゃない』廣木隆一監督インタビュー

kanojonojinsei-1.jpg『彼女の人生は間違いじゃない』廣木隆一監督インタビュー


kanojonojinsei-550.jpg■2017年 日本 1時間59分(R-15)
■原作:廣木隆一 「彼女の人生は間違いじゃない」(河出書房新社)
■監督:廣木隆一(『ヴァイブレータ』『さよなら歌舞伎町』)  脚本:加藤正人  撮影:鍋島淳裕
■出演:瀧内公美、光石 研、高良健吾、柄本時生、篠原篤、蓮佛美沙子
■公開情報:2017年7月15日(土)~ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館、テアトル梅田、京都シネマ、シネ・リーブル神戸 他全国順次ロードショー
公式サイト: http://gaga.ne.jp/kanojo/
■コピーライト:(C) 2017『彼女の人生は間違いじゃない』製作委員会

■配給:ギャガ



「福島だけでなく今の日本が抱えている矛盾を描きたい」
~未来が見えず、満たされない想いに光を~

 

東日本大震災後、被災地を題材にした映画やTVドラマやドキュメンタリーが沢山作られてきた。そんな中、家族や仕事を失った喪失感や未来の見通しもつかない虚無感に苛まれながら、それでも日々の暮らしを慎ましく生きる人々の現状を、これほど濃密な映像で表現した作品はあっただろうか。物語の背後には原発事故後の福島の現状が数多く映しこまれている。それをも豊かな情景として、徐々に前進しようとする人々の精いっぱいの生き様を浮き彫りにしている。その静かだが力強い捉え方に惹き付けられる。


kanojonojinsei-2.jpg年に2~4本の新作が公開されている日本で一番忙しい映画監督、廣木隆一監督、63歳。今年だけでも『PとJK』『彼女の人生は間違いじゃない』『ナミヤ雑貨店の奇蹟』が公開、来年早々には『伊藤くん AtoE』の公開が控える。あらゆるジャンルの作品を手掛け、日本映画界になくてはならない存在である。そんな廣木監督が、東日本大震災後の原発事故により、復興の目途さえつかない福島に生きる人々を主人公にした小説を書き上げた。福島県出身の廣木監督にとって、「整理しきれない気持ち」を小説に書いて映画化したという。他の被災地より復興が長期に渡り、「再生」という一言では済まされないより一層の忍耐を強いられる現状。福島だけではなく誰にでも起こりうる普遍的試練がそこにはある。まさに廣木隆一監督の渾身作である。


仮設住宅で父親と二人暮らしのみゆき(瀧内公美)は、市役所に勤務しながら毎週日曜日になると高速バスで東京へ行きデリヘルの仕事をしている。母親は津波にさらわれ遺体も発見されず、父親(光石研)は酒が入ると母親とのなれ初めを語り、「助けてあげられなかった」と嘆く。放射能汚染で農業ができなくなり、その補償金でパチンコの日々。同じく市役所務めの新田(柄本時生)は、変なカルト教にはまり家庭放棄した祖母と母に代わり、小学生の弟の面倒をみている。スナックで知り合った女子大生に無神経な質問をされて、ひと言では語れない想いが沸き上がり言葉を詰まらせる。一方、大切な思い出の地を写真に収めたいというカメラマン・紗緒里(蓮佛美沙子)との出会いは、新田だけなく多くの人々に思わぬ光をもたらすことになる。


kanojonojinsei-500-1.jpg早朝のバスに乗って東京へ向かうみゆきの目に、福島原発からの巨大な送電線やスカイツリーが見えてくる。暗く停滞したままの福島から、明るく何事もないような東京の風景。みゆきを演じた瀧内公美の、風景に溶け込む福島での素朴な顔と、デリヘルの仕事をしている東京での顔の違いに、身の置き所を求めようとする心の隙間に悲哀を滲ませる。デリヘル嬢の送迎担当の三浦を演じた高良健吾の爽やかな眼差しが救いとなる。


それぞれの俳優は役作りのために取材したという。役になりきらなければ臨めないという緊張感のある現場を仕切った廣木監督。常連の役者が殆どだが、主演の瀧内公美は初参加とあって、その緊張たるや如何ばかりか。どんどん痩せていく彼女をスタッフが心配したほどだったとか。だが、その期待以上に実物大の“みゆき”を生きていたように思う。


廣木隆一監督に作品に込めた想いや現場での様子などについてお話を伺った。詳細は下記の通りです。



――年に2,3本は撮っておられるようなお忙しさですが?
新しい企画が出てきた時に僕が撮ったらどうなるか、と言ってくれるプロデューサーたちがいるので、この歳になってもオファー頂けるのはとてもありがたいことだと思っています。


――福島を扱った作品が多い中、物語の背後に映しこまれた情景の豊かさに驚きました。その濃密な映像について?
最初自分で小説を書いている時に、漠然とですが福島の情況について聞いていました。それらをうまく映像化して、2016年に撮った福島の風景を記録できればいいなと思いました。


――誰もいない桜並木や海上から捉えた福島第一原発のシーンだったり、さらには登場人物の背景に汚染土壌置場があったりと、かなり危険な状況の中で生きている現状がリアルに迫ってきましたが?
原発は絶対撮りたいと思っていたところ、禁漁区域になっている海域に漁船を出して下さる地元の人々の協力もあって、ある程度の近さで撮影することができました。それより危険な場所は、入場時間制限のある帰還禁止区域の町でした。桜並木もその町の一部で、住民の皆さんは未だに仮設住宅などで避難生活をされています。

美術監督の丸尾さんがいわき出身でその人脈にかなり助けられ撮影できてます。


kanojonojinsei-500-4.jpg――未来を見出せずにいる人々の情況が痛い程滲み出ていましたが、みゆきがデリヘルの仕事を選んだ理由が今一つよく理解できませんでした?
三浦との関係は恋愛でも何でもなく、ただ“いい人”という存在です。原作では説明しているのですが、映画では特に説明はしていません。ただ、彼女の“決意”が見えればいいかなと思いました。


――「内面に悩みを抱える女優を選びたかった」といって、瀧内公美さんを選んだ理由は?
瀧内さんはいろんな映画に出ていて、自分の年齢や役の大きさなど役者としての悩みを抱えていました。単純に芝居が巧いとかの理由ではなく、そういう内面性を持った女優がいいなと思ったのです。みゆきの気持ちを理解して役になりきってくれればいいなと。


――みゆきの日常を描くのにお料理するシーンが多かったようですが?
瀧内さん自身はそんなまめに料理するようなタイプではないかも知れませんが(笑)。でも、みゆきが食事をきちんと作るような娘だと思ってもらえるよう理解して演技してくれました。


kanojonojinsei-500-2.jpg――父親が補償金をパチンコにつぎ込んだり、霊感商法に騙されそうになったり、ネガティブな題材が多いように感じましたが?
すべて小説を書いている時に聞いた事柄です。


――それまでパチンコばかりしていた父親がトラクターで畑を耕しているシーンに込めた想いは?
補償金をパチンコにつぎ込んで一見愚かに見える父親ですが、彼にも前向きに生きようと思うまでの時間が必要だったということを理解して頂ければいいなと思います。


kanojonojinsei-500-3.jpg――新田がスナックで出会う女子大生とカメラマンの沙緒里との対比が面白いと思いました。他所から来た者の無神経さが示されていたようですが?
震災後のドキュメンタリーやニュースなどで「今のお気持ちは?」と被災者に普通に訊いて聞いているのを見て、「それはどうかな?」と疑問に感じていました。シナリオライターの加藤正人と相談しながら被災者と温度差の違いを描いていきました。


――東日本大震災の被災者の皆さんは地域によって復興の仕方が違いますね。特に、福島の場合、放射能汚染という問題を抱え、即復興に踏み切れない特別な事情があります。現実問題として本作を通じて特に見てほしい点は?
全部です。福島で静かに生活している人々の生活の中に、今の日本の様々な矛盾や問題を含む現状が表れていると思うのです。どこにいても起こりうる問題として読み取ってほしいです。


kanojonojinsei-3.jpg――福島県郡山出身の廣木監督はずっと福島の映画を撮りたいと思っておられたのですか?
そんなことはありません。津波や原発事故が起きなければ福島の映画を撮りたいとは思わなかったでしょう。自分の中で整理しきれない気持ちを小説に書き、映画化するに当たっては客観的な見方を取り入れるために脚本は他の人にお願いして、そして自分で監督したのです。


――福島を描き切った感はありますか?
僕自身、そんなに映画で描き切ったとは思っていません。映画監督をやる上で作品のひとつとして、メッセージ性の強いものを撮ってみたいなと思いました。映画を撮る限り、「生きていくこととは?」をテーマにした作品を創り続けたいと思っています。


――“廣木監督らしい”と言われることについて?
自分らしさを目指している訳ではなく、むしろそれを無くしたいと思っています。サンダンスに留学している時に「廣木が好きなものを撮っているのだから、廣木らしいと言われるのは当たり前でしょう」と言われたことがあり、普通に意識せずに撮っています。映画は、「自分らしさ」より「何を伝えたいか」が重要だと思いますので。


――キャストについて?
高良健吾とは久々だったのですが、役者としての存在感が出てきて凄いなと思いました。撮影中は緊張感を持ってやってもらわないといけないので、特に今回初めてだった瀧内公美は厳しく感じたのではないでしょうか。柄本時生は、彼が14歳の時から公私共に交流がありましたが、近年の成長は著しいですね。光石研さんとは、彼がデビューの頃から知っていますが、今までの人生を役に反映できるいい役者さんだなと思っています。


――役柄になりきらせるための工夫は?
現場で自分の考えが変化するかもしれないので、自分の考えを理解してくれる役者さんがいいと思いました。東京から新幹線に乗ってやって来てタイトな時間で演技するのではなく、なるべく現場で過ごして、役柄の意味を汲み取ってほしい。ですが、僕は打ち合わせや相談などはしません。現場で悩んでいても仕方ないので、取りあえずやってもらいます。台本読んでイメージ膨らませて演技するのがプロの役者さんなんですよ。


(河田 真喜子)