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フランス映画祭観客賞受賞作『夜明けの祈り』主演ルー・ドゥ・ラージュさんインタビュー

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~第二次世界大戦後のポーランド、悲劇を乗り越え、新しい命のため一つになる女性たちの絆~

 
『ココ・ヴァン・シャネル』『ボヴァリー夫人とパン屋』のアンヌ・フォンテーヌ監督が、第二次世界大戦後のポーランドで起こった修道院での悲劇と、修道女たちの窮地を救ったフランス人女医の実話を映画化した。若手女優ルー・ドゥ・ラージュを主演に迎えた『夜明けの祈り』は、ソ連軍の蛮行により集団妊娠してしまった修道女たちを救うため、宗教や言葉の壁を越えて手をとりあう女性たちの強さと、生まれてくる命の輝きを映し出す。雪深い修道院の神秘的な映像に修道女たちが歌う讃美歌が重なり、厳粛な気持ちになる一方、蛮行の記憶や妊娠に対する恐怖におびえる修道女たちの苦悩の深さが描かれる。彼女たちの光となる女医マチルドの奮闘ぶりは、命に国境はないことを教えてくれるのだ。
 

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『夜明けの祈り』はフランス映画祭2017で、見事エールフランス観客賞を受賞。本作で、行動力のあるマチルドを熱演したルー・ドゥ・ラージュさんが映画祭ゲストとして来日し、インタビューに応えてくれた。

 


■ポーランドでは、悲しい歴史を引きずっている雰囲気を感じた。

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―――第二次世界大戦直後のポーランドを舞台に、実在の人物をモデルにした物語ですが、主人公マチルドを演じるにあたり、どんな準備をして臨んだのですか?
マチルド役に決まってから撮影に入るまでわずかな時間しかなかったので、マチルドは女医ですから、まずは医者という職業を身に付けなければなりませんでした。外科医や助産婦の方に帝王切開の仕方や、お腹の触診の仕方などを教えてもらいました。その後、ポーランドのロケ地に入りましたが、既にセットとなる修道院は出来上がっていましたし、ポーランド人女優のみなさんが修道女役として、そこにいてくださったのです。自然とその中に入ることができ、大変幸運でした。ただ、ポーランドに着いた時はなんとなく悲しい感じを覚えました。ポーランドは第二次世界大戦中に様々な国の侵略を受けましたし、その後も大変な時代を過ごしていますから、悲しい歴史を引きずっている雰囲気が感じられました。
 
―――修道院ではフランス語の分かる人がほとんどいない設定でしたが、実際のキャストはどうでしたか?
私はフランス語しか話しませんし、共演したポーランド人女優の皆さんはほとんどフランス語を話さない方ばかりだったので、そういう意味では私はマチルドと同じ立場になった気がします。マチルドは修道女のことを知りませんでしたが、修道院に入り、修道女たちの世界を知ることになります。マチルドの方がよほど大変で複雑だったとは思いますが、私もフランス語を話さない人たちの中に一人で入って行った訳で、少しはマチルドの感覚が捉えられたと思います。

 

■女性に対する暴力は戦時中も今も起こっている。その状況下で女性たちがどのように再生していくかが大事。

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―――本作は今まで知られなかった戦時下の女性にとって衝撃的な事実も明らかにしていますが、ルー・ドゥ・ラージュさんがそのことを知った時どんな感情を抱きましたか?
シナリオが非常に良く出来ていて、心動かされました。真実がグサリと刺さる感じで、女性に対する暴力は衝撃的ですが、それは戦時中も今も起こっています。そのような状況下で、女性たちがどのように再生していくかが大事だと思います。マチルドは医者としての科学的な信念を持っていましたし、修道女たちは信仰という信念を持っていました。その二者が連帯し、再生しようとすることが大事ではないでしょうか。今はあまりにも運命論者が多く、そういう傾向を描いた映画も多いです。でも、本作は暴力に暴力をぶつけていくのではないということを描いていますし、そこが良かったと思います。
 
―――マチルド役を演じるプレッシャーはありませんでしたか?
マチルドのモデルとなる実在の医者、マドレーヌ・ボーリアックに関しての資料はほとんどなかったのですが、彼女に書かれた手紙が残っていました。そこには「あなたは社会の影のヒロインだから、あなたのことがいつか日の当たる場所に出て、皆に知られるようになればいいのに」と書かれていたのですが、今回それが叶い、しかも私がマチルド役となって世界にこのような人がいたことを知らせることができました。大変光栄で、誇りに思っています。
 
 

■マチルド役の演出は、とにかくクールに。

「目の前の状況、戦争や修道院の悲惨な状況に飲み込まれてはいけない」

―――寒い冬の撮影や、特にセリフが少ない中マチルドの表情で語るというシーンが多かったのですが、撮影で苦労した点、工夫した点は?

 

アンヌ・フォンテーヌ監督からずっと言われてきたのは、「とにかくクールでいなさい。目の前の状況、戦争や修道院の悲惨な状況に飲み込まれるようなことがあってはならない」。医者としてのスタンスを守るために、修道女たちと距離を取るようにとも言われていましたし、硬い表情をしていました。マチルドは最初、科学的に全て解決しようとしますが、途中で彼女たちが負った心の傷は、薬を塗って治る類のものではないことに気付きます。医者として妊婦のお腹を触るのは当然のことなのに、(修道女たちが)触らせてくれないのはどういうことなのか分からなかった。でも修道女たちにとって体に触らせないことには意味がある。そのことにマチルドが気付くプロセスを見せるのは難しかったです。距離を置いた関係でありながら、少しずつ理解していくところを観客に見せる訳ですから。
 
 
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■マチルドと修道女たちは違う世界にいるように見えても、「命を大事にする」という同じ目標に向かっていた。

―――観客もマチルドと同様に、なぜ妊婦の修道女たちが診察の必要な状況にも関わらず、体に触ることを拒絶するのか分かりません。マチルドと共に修道女たちの信念に気付くようになっていますね。
マチルドは無宗教だったので、修道女が持つ信仰への知識はありませんでした。一方でマチルドは行動の人ですから、妊娠したのなら子どもをきちんと出産させることだけを考えるような、医者としての立場を取っていました。ただ修道女はそうではなかったのです。私は修道女の方から実際にお話しを伺ったのですが、修道女になるということは長い間のためらいがありますし、修道院に入る時には「男性とも関わらず、母親にもならない」という決断をする訳です。長い迷いの末の決断はとても大きなもので、だからこそ全てを拒絶するという行動に出たのでしょう。修道女をレイプすることは、女性を犯すだけでなく、男性を拒否する誓願を立てた人を犯すという、二重のレイプです。
 
最初は二つの世界が全く違って見えました。一つは非常に実用的で医者としての信念を持って行動するマチルドがいる世界。もう一つの修道院は全く世間的なことを捨て去り、神の事のみを信じて生きる世界です。でも結局「命を大事にする」という同じ目標があり、その目標に向かって、やり方は違ったけれど同じ言葉をしゃべっていたのです。
 
―――言葉も違うポーランドでの撮影はかなり大変だったと思いますが、どのようにしてその撮影を乗り越えましたか?
私にとって仕事は、人生の中でカッコ付きの期間だと思っています。カッコ付きの期間で様々な人と出会い、様々な体験をするのですが、その次にはぐっと成長したと感じられます。今回のテーマは非常に深いものでしたから、それを通り抜けることで自分の中に成長した部分があると思います。シスター・マリア役のアガタ・ブゼクさんはフランス語を少し話せるので、よく撮影中に話をしたのですが、最後にはほとんど完璧に話せるようになっていました。こういう関係を構築して、全く言葉の通じない人と映画を撮ることができたのは、本当に素晴らしい経験でした。
 

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■根っこの部分で命の大事さや愛という信念があれば、考え方が違っても相互理解できる。

―――日本の女性に、この作品のどんなところを感じてほしいですか?
この映画は宗教ではなく、信念を描いた映画だと思っています。マチルドも確固たる信念を持って行動していますが、無宗教のマチルドと修道女たちが出会い、相互理解ができたことがとても大事なのです。今の時代は考え方の違う人とは相入れない風潮にありますが、意見が違う人でも分かり合うことができる。根っこの部分で命の大事さや愛という信念があれば、それは可能であることをみなさんに分かっていただけたらと思います。
 
―――最後にルー・ドゥ・ラージュさんはお母様が画家だそうですが、幼い頃に親しんだアートや、母親から学んだことは?
母はずっとだまって絵を描いていました。そんな母から学んだことは、沈黙の意味です。もう一つは、絵を見る時は、頭で見るのではなく心で見るものだと教えてくれました。
(江口由美)
 

<作品情報>
『夜明けの祈り』“THE INNOCENTS”
監督:アンヌ・フォンテーヌ
出演:ルー・ドゥ・ラージュ、アガタ・ブゼク、アガタ・クレシャ、ヴァンサン・マケーニュ他
2017年8月5日(土)~ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、シネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸、8月26日(土)~京都シネマ他全国順次公開
公式サイト⇒http://yoake-inori.com/ 
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