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『PARKS パークス』瀬田なつき監督インタビュー

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~吉祥寺・井の頭公園を舞台にした青春音楽映画がつなぐ過去、現在、そして未来~

 
橋本愛がギターの弾き語りをし、染谷将太が等身大の若者の言葉をラップにのせて歌いあげ、永野芽郁が公園中の音を拾い集める。トクマルシューゴをはじめ、高円寺、西荻窪、吉祥寺など中央線沿線で活動するミュージシャンたちが、そこここに現れ、ライブでその音色や歌声を響かせる。公園愛、そして音楽愛に溢れた瑞々しい青春映画が誕生した。
 
今年で100周年を迎える吉祥寺・井の頭公園を舞台に、瀬田なつき監督が脚本・編集も手がけたオリジナル長編映画『PARKS パークス』。彼氏と別れ、大学も留年の危機を迎えた純(橋本愛)、亡き父の学生時代の恋人、佐知子の消息を探す高校生のハル(永野芽郁)、佐知子の孫、トキオ(染谷将太)の3人が、佐知子の遺品から見つけたオープンリールのテープに録音された歌を完成させようと動き出す。過去と現在をつなぎ、さらに未来へと遺す物語は、瀬田監督らしい軽やかさと風が吹いたような爽やかさを運んでくれる。何者にもなれず、もがいてしまう青春時代のモヤッツとした気持ち、それを吹っ切り走り出す瞬間が役者たちの豊かな表情から感じ取れることだろう。第12回大阪アジアン映画祭のクロージング作品としてワールドプレミア上映された本作の瀬田監督に、物語の成り立ちや橋本愛をはじめとするキャストたち、様々なミュージシャンと作り上げた音楽についてお話を伺った。
 

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■「(井の頭)公園が映っていれば、好きにやっていい」

  100周年を迎える井の頭公園を映画に遺すプロジェクトで、オリジナル作品を撮る。

―――井の頭公園を舞台にした映画を撮ることになったいきさつは?
瀬田:吉祥寺にはバウスシアターという映画館があり、そこに行けば邦画、洋画問わずいい映画を観ることができたり、特集上映をしてくれる場所だったのですが、2014年5月に閉館してしまいました。バウスシアターのオーナーだった本田拓夫さんは生まれも育ちも吉祥寺で、100周年を迎える井の頭公園の映画を遺したいと企画を立ち上げ、色々なつながりから私に監督のお声がかかったのです。是非やってみたいと快諾し、脚本も自分で書いたオリジナル作品を撮ることができました。
 
―――音楽が重要な要素となる映画ですが、最初から音楽をメインにしようと考えていたのですか?
瀬田:公園が映っていれば好きにやっていいとのことだったので、公園の中で何かを完成させるようなものにしようと考えていました。最初は何かを探すお話にしようと、小説だとか色々考えていたのですが、音楽を作り上げる話を思いついたのです。ゼネラルプロデューサーの樋口泰人さんから、音楽の部分を最初から誰かに頼んで、シナリオを書く段階から参加してもらい、同時に作っていけばいいのではないかとの提案があり、トクマルシューゴさんに最初から参加してもらうことになりました。歌詞も一緒に考えましたし、色々なイメージが膨らんでいきました。
 
―――音楽監修をされたトクマルシューゴさんについて、教えてください。
瀬田:トクマルさんも、井の頭公園は小さい頃から遊びに行っていた思い出深い公園だそうです。一人での活動だけでなく、様々なアーティストさんとコラボをしたり、一緒にライブもされてもいるので、トクマルさんのお知り合いで、吉祥寺を中心として中央線沿線の西荻窪や高円寺などのミュージシャンの方も巻き込んでいただきました。トクマルさんには劇中で演奏する曲を何曲か作ってもらい、たくさんのミュージシャンも参加し、面白い形の音楽映画が作れたと思います。

 

■過去や現在、その先の事も見える映画に。ビートルズが上陸する前の音楽を再現。

―――ファンタスティックな部分を併せ持つ作品ですが、物語はどのように作り上げたのですか?
瀬田:結構不思議な世界になっていますね(笑)。「100年」というのがキーワードになっているので、過去や現在、その先のことも見える映画にしたいなと思い、それらがサッとつながる見せ方になりました。過去は1964年という設定ですが、忠実に再現するのではなく、イメージの60年代という世界で面白いものを美術や衣装などで表現してもらいました。音楽も60年代のメロディーのコードなどを調べて下さり、ビートルズが上陸する前の音楽で、その時代の楽器の編成も再現しつつ作ってもらいました。
 
―――60年代の物語ではオープンリールテープが使われていますね。録音するのも一苦労だった当時の様子が伝わってきます。
瀬田:操作を覚えると結構楽しいのですが、撮影中でもたまにテープが切れることがあり、セロファンテープでくっつけたりしました。テープが劣化して続きが聴けなくなるというところから、過去の曲を現代で完成させ、次の時代につなげると面白くなるのではないかと。公園も色々な人の過去の記憶があるけれど、それを今の人が更新していく。そうやってつながっていくといいなと思いました。
 

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■主演、橋本愛の力の抜けたその表情も取り入れ、重さと軽さの両面を映画で見せる。

―――主演、純役の橋本愛さんもギターの弾き語りを披露していましたが、結構練習されたのですか?
瀬田:ご自分でギターを持っていらして、弾いたりされてたようですし、音楽が好きで色々な歌手の歌を歌っていたそうです。こちらが提示した曲も家で練習してくださり、「音楽がちょっと好きだけど、プロフェッショナルほどではない」という丁度いい塩梅で、純役に合っていました。
 
―――いつもヒロインの女の子がとても瑞々しく描かれていますが、今回の橋本愛さんも、ナチュラルな彼女の魅力が引き出されていました。初めて一緒に仕事をしたそうですが、キャスティングの経緯は?
瀬田:前からずっと一緒にお仕事をしたいという気持ちがありました。橋本さんは、普段は割と陰があったり、気の強い役が多いと感じていたのですが、何かの映画のメイキングを観た時に、力の抜けた素の表情を見せていて、日頃見るような凛とした表情とギャップがありました。その両面を映画で見せることができれば、モヤッとしている重さと軽さをうまく演じてくれるのではないかと思い、オファーさせていただきました。橋本さんは自称「風を操れる人」で、彼女がベランダに出ると風がふわっと吹いて、カーテンが揺れたりするんですよ。話してみると、とてもチャーミングな方でしたね。
 
―――瀬田監督の作品で「軽さ」はキーワードのように感じますね。
瀬田:この作品は特に軽やかに撮りたいという部分がありました。永野芽郁さんが演じたハルも普通だと悩みそうな役ですが、過去に行っても、現在でも溶け込んでいて柔軟な表現力がありました。現実なのか、幻想なのかという部分を、永野さんだからふわっと演じてくれました。
 
 
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■大人でも子どもでもないキャラクター、トキオ役を自分で作り、共演者を巻き込んでくれた染谷将太の存在。

―――瀬田監督は、染谷将太さんをよく起用されていますが、染谷さんの魅力はどんなところですか
瀬田:染谷さんは本当にプロフェッショナルな役者さんで、トキオ役を自分でふくらませて作ってくださり、橋本さんや永野さんをうまい具合に巻き込んでくれ、信頼できる人だなと思っています。私からは軽やかにと伝えただけですが、大人でも子どもでもないキャラクターでちょっとテンション高めの男の子になりましたね。
 
―――染谷さんはラップを披露していましたね。即興っぽいラップもありましたが。
瀬田:染谷さんは、園子温監督の『TOKYO TRIBE』でラップをされていたので、トクマルさんと染谷さんに何をやってもらおうかと考えていた時、「きっと染谷さんならラップできるよ」と、フリースタイルで勝手に言葉を選んで歌ってもらおうと考えていたんです。でも、染谷さんから「いや、できないですよ」と言われて(笑)。最後に歌うものは、ceroの高城さんにリリッックを書いて頂いたのですが、そこまでのラップは「池にはカモ」とか、「空には雲」と素人の私が勉強しながら書いて、染谷さんに添削してもらって、トクマルさんも巻き込みながら一緒に考えていく作業でしたね。シナリオ段階は結構不安でしたけれど、染谷さんの技術で歌いこなしてくれました。韻の踏み方も上手でしたね。
 
―――瀬田監督の映画で外せないといえば自転車のシーンですが、今回も冒頭からヒロインの純が桜満開の井の頭公園を疾走していきます。
瀬田:走っているよりもすっと映る疾走感やスピード感があるので、自転車のシーンは好きですね。自転車を撮っているだけで、背景も変わっていくので、一気に街や公園も見せられます。公園は自動車で走れないので、撮影の時もカメラマンの方が電動自転車の後ろにつけたリアカーにカメラを載せて撮影する撮り方を考えてくれました。橋本さんもいい距離感で自転車を漕いでくれましたね。桜のシーンから始めたいというのは、企画の本田さんの希望で、それだけは外せないと。
 

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■編集は表情を重視。鈴木清順監督のような、予想を裏切る展開を心がけて。

―――瀬田監督は脚本だけでなく、編集もご自身でされていますが、心がけている点は?
瀬田:役者の方の表情や動きが1回限りしかできないような形に切り取りたい。その瞬間しか出ないところを残し、魅力的に見せたいという点を重視しています。表情を重視していますね。あとは、驚きのある、予想を少し裏切れるような繋ぎ方を心がけています。鈴木清順監督も大好きで、こういう風にしてもいいんだと勉強になります。
 
―――鈴木清順監督の名前が挙がりましたが、他に影響を受けた監督は?
瀬田:ヌーヴェルヴァーグの監督、初期のゴダールや、フランソワ・トリュフォーやエリック・ロメールは、少ない人数で街に出て、さっと撮っているスタイルや、自然光で撮るなどが参考になっています。街に出てカメラを回せば物語ができる。今回はまさしく公園が撮り放題でしたから。
 
―――クライマックスは、公園を舞台に軽やかなミュージカル風のシーンが用意され、最後まで楽しめました。ミュージカル映画への布石にもなりそうですね。
瀬田:トクマルさんが作ってくれた曲が壮大で盛り上がる曲だったので、エキストラの人にも踊ってもらおうと少しずつ豪華になって、ビデオコンテを作って、公園に人が少ない時間を狙って3日ぐらいに分けて撮りました。音楽がいつの間にか始まり、人が台詞ではなく、音楽で動き始めるようなミュージカル映画も好きですし、日本ではなかなか難しいのですが、街で想像外のことが起こるミュージカル、いわば『ラ・ラ・ランド』のようにもっと音楽の要素を入れた作品にも挑戦してみたいです。
(江口由美)
 

<作品情報>
『PARKS パークス』(2017年 日本 1時間58分)
監督・脚本・編集:瀬田なつき
出演:橋本愛、永野芽郁、染谷将太/石橋静河、森岡龍/佐野史郎他
2017年4月22日(土)~テアトル新宿、5月6日(土)~シネ・リーブル梅田、5月13日(土)~神戸国際松竹、初夏~京都シネマ他全国順次公開
公式サイト⇒http://parks100.jp/  
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