レポートインタビュー、記者会見、舞台挨拶、キャンペーンのレポートをお届けします。

『天使のいる図書館』ウエダアツシ監督インタビュー

DSCN4895.JPG

 

~小芝風花(『魔女の宅急便』)×香川京子の新旧ヒロインが贈る、ズレズレ女子の成長物語~

 
史跡や自然の豊かな奈良県葛城地域を舞台に、周りとズレているために仕事やコミュニケーションがうまくいかない新米司書の成長を描くヒューマンストーリー『天使のいる図書館』が、2月11日(土)からTOHOシネマズ橿原、イオンシネマ西大和、18日(土)から大阪ステーションシティシネマ、シネマート心斎橋にて公開される。
 
監督は、『リュウグウノツカイ』(14)でゆうばり国際ファンタスティック映画祭オフシアター・コンペティション部門「北海道知事賞」を受賞、『桜の雨』(16)で合唱を通して成長する高校生たちを瑞々しく描いた奈良県出身の新鋭ウエダアツシ。『魔女の宅急便』以来の主演作となる小芝風花をヒロイン、さくらに、巨匠たちに愛され、今も現役の大女優・香川京子を、さくらが図書館で出会い大きく心動かされていく女性・礼子に配し、世代を超えた友情と、時を越えた愛の詰まった優しい物語に仕立て上げた。
 
 
tenshitoshokan-550.jpg
 
周りとズレているさくらのコミカルなキャラクター造詣や、忘れられない人を胸に抱き続ける礼子の人生が滲み出る演技など、両女優の演技に惹き込まれる本作。図書館を舞台にしているだけあり、司書の仕事ぶりや図書館の日常だけでなく、名書『天の夕顔』(中川与一著)に重なるエピソードや、『海辺のカフカ』(村上春樹著)の主人公を彷彿とさせるような謎めいた青年(横浜流星)も登場。本好き、図書館好きの楽しめるツボが満載だ。また、奈良県民の日常が垣間見える細やかなエピソードも随所に盛り込まれているのも見どころだ。
 
本作のウエダアツシ監督に、小芝風花×香川京子の新旧ヒロインを起用した理由や、撮影での印象的なエピソード、本作の見どころについてお話を伺った。
 

■『ミツコ感覚』山内ケンジ監督の「フィクションでリアリティを突き詰める」演出法に影響を受ける

―――ウエダ監督は、映画は独学で撮り方を身に付けてこられたとのことですが、映画監督を目指したきっかけや経緯を教えてください。
ウエダ監督:大学は経済学部でしたが、この4年間で何かしら掴みたいと思っていました。当時は楳図かずおや手塚治虫にはまっていたので、漫画家になれなくても、自分で面白いお話を書きたいという欲求が芽生えていたのです。その頃、同級生から映画研究会の上映会に誘われ、映画は観るものと思いこんでいたのに作れることを知り、「僕でもできるかもしれない」と2年生から映画研究会に所属しました。そこからは映画ばかり撮る生活でしたね。その後関西で情報誌の編集をしていたのですが、東京事務所から「昔映画を撮っていたらしいな」と声をかけてもらい、映画関係の記者会見、インタビュー動画や出版社が作るWEBシネマのメイキング、出版物につけるDVD映像を手がけるようになりました。誰に教えてもらった訳でもありませんが、仕事をしながら映像のノウハウを身につけました。演出もメイキングで映画現場に入ったときに、監督の手法を学んでいきましたね。 
 
―――演出で一番参考にしている監督は? 
ウエダ監督:DVD特典映像のディレクションをしたのが山内ケンジ監督の『ミツコ感覚』で、監督インタビューも撮らせてもらいました。アドリブかと思うようなリアリティのあるお芝居ですが、脚本を見ると全てきちんと書かれているんです。わざと言い間違いをする台詞まであり、フィクションできちんとリアリティを突き詰めているところは影響をすごく受けましたね。 
 
 
tenshitoshokan-500-1.jpg

■小芝風花へのお題は、「コメディーで通用する女優に」「香川さんとの共演から学んで」

―――『天使のいる図書館』というタイトルから想像すると、気持ちの良い地域映画のように思えましたが、作品を観ると、小芝風花さん演じるさくらのキャラクターがかなり個性的で驚きました。コメディエンヌの素質がありますね。 
ウエダ監督:角川映画を観ていた世代なので、自分の作品のヒロインには羽ばたいてほしい。時間は限られていましたが、色々なアイデアを小芝さんと出し合いながら、キャラクターを作り込んでいきました。小芝さんが、新垣結衣さんみたいなコメディエンヌが似合う女優になってくれればうれしいですし、関西弁がしゃべれるので、大阪でも活躍してほしいですね。
 
―――小芝さんと初対面時の印象は? 
ウエダ監督:『魔女の宅急便』を初めて観たときは、お芝居以上に伝わる懸命さ、観ている側に芝居を越えて訴えかけてくる純粋さみたいなものを感じました。それは、主演女優の素質です。実際にお会いすると、お芝居がしたくてたまらない時期の人だという印象がありました。今回、小芝さんがさくらを演じるにあたって、2つのお題を出しました。一つは、彼女は今までまじめな役が多かったそうですが、僕は絶対にコメディーに向いていると思うので、コメディーで通用する女優になってほしい、挑戦してほしいということ。もう一つは、香川京子さんとの共演は、僕にとっても小芝さんにとっても勉強になることがたくさんある。 学んでほしいということでした。
 
tenshitoshokan-500-2.jpg
 

■監督人生、この作品で終わってもいいと思えるぐらい感動的な香川京子の出演と、『夜明けの歌』採用秘話

―――さくらが図書館で出会い、心を通わせていく老婦人礼子役、香川京子さんの存在感が物語を豊かにしていますね。 
ウエダ監督:僕が香川京子さんの大ファンだったので、出演していただけるのならと、オファーさせていただきました。ずっと香川さんの作品を拝見していましたし、撮影前にも25本ぐらいは見直しました。成瀬巳喜男監督の『おかあさん』や、今井正監督の『ひめゆりの塔』は特に好きな作品です。 
 
―――礼子のエピソードの中で、中河与一の小説『天の夕顔』が大きな役割を果たします。まさに小説のヒロインの晩年の姿は礼子演じる香川京子さんと重なりました。 
ウエダ監督:今でもすっとした佇まいをされていて、お美しいですし、僕の中では「スクリーンの中の人」なので、初めてお会いしたときは、同じ空間にいるんだと感激しました。日本映画界で伝説の女優ですから。溝口、小津、成瀬、黒澤という4人の巨匠と仕事をされ、今現役の女優は香川さんしかいらっしゃらないのではないでしょうか。そんな方が僕の作品に、しかも僕の生まれ育った奈良県まで来てくださったのですから、僕の監督人生、この作品で終わってもいいと思えるぐらい、感動的なことでした。  
 
―――香川さんには、どんな演出をされたのですか? 
ウエダ監督:「お任せされるより、ご指摘いただいた方がいい」とおっしゃっていただいたので、こちらから色々とご提案させていただきました。例えば、劇中で礼子が『夜明けの歌』を歌うシーンがありますが、実は脚本にはなかったのです。撮影前に香川さんの出演作を観たり、調べものをしていたときに、2年ぐらい前に香川さんが出演されたテレビ番組「サワコの朝」で歌を紹介するコーナーがありました。そこで思い出の歌として挙げておられたのが、この『夜明けの歌』。歌詞の内容も礼子のことを歌っているような、「悲しみに暮れている女性が、前を向いて生きていこうとしている」ものでした。僕の中では、『ひめゆりの塔』のように香川さんは劇中で歌っているイメージがあったので、本読みの時に、劇中で『夜明けの歌』を歌っていただけないかとお願いしました。香川さんも喜んでいただいて、「練習してきます」とおっしゃってくださり、あのシーンが出来たのです。 
 
―――香川さんと小芝さんは共演シーンが多かったですが、現場ではどのような感じでしたか? 
ウエダ監督:小芝さんは役柄もそうですが、物怖じしない人でしたね。前半はあの大女優の香川さんに対してすごく無礼ですが(笑)、そこは役柄として遠慮なくやっていただきました。二日目ぐらいから二人のシーンを撮りましたが、最初から安心して観ていられましたし、小芝さんも長セリフをすぐに覚えてくれたので、撮影期間が限られた中プラスアルファの演出も色々できました。大変なことをやらせたかったので、突然左利きに変えてみたりもしましたね。
 

tenshitoshokan-500-4.jpg

■「映画女優の中で引き継がれていくものがある」と感じた香川×小芝の撮影エピソード

―――お二人のシーンで、特に印象に残ったエピソードは?
ウエダ監督:最後、すすきの原で、さくらが泣くシーンがあるのですが、小芝さんは気持ちがなかなか入らず、苦労していました。日没も近づき、リテイクしてもダメで、しばらく時間を置くことにしたのですが、その時に小芝さんの隣で、香川さんが自分の台詞を小さな声でやさしく呟き続けてくださったのです。撮影中に香川さんから、「役者には浮き沈みがある」というお話を伺っていたので、小芝さんのためにずっとそれをやって下さっている風景を見て、手を差し伸べてくれているのだなと。こうして映画女優の中で、引き継がれていくものがあるのだと感激しました。小芝さんもずっとその声を聞いて、感情を高めた後に撮ったのが、映画のシーンに使われています。
 
―――本作はリファレンスサービスをはじめ、図書館員の日々の仕事や、図書館の日常が細やかに描かれ、図書館映画の一面もあります。
ウエダ監督:色々な世代が集い、本を借りるだけではないコミュニケーションスペースとして図書館は成立していますし、それが必ずどの地域にもあるというのは、とてもいいことだと感じます。さくらという偏った知識を持つ女の子がコミュニケーションによって心が開けるようになり成長していく物語ですから、そういう意味でも図書館という場所の意義を改めて認識しました。
 

tenshitoshokan-500-3.jpg

■「大阪の食い倒れ、京都の着倒れ、奈良は寝倒れ」奈良の空気感を大事に

―――舞台となっているのは、奈良でもいわゆる修学旅行で行くような観光地ではない、非常にのどかな場所ですね。
ウエダ監督:舞台の葛城地域は、のどかで、歴史のある場所や綺麗な景色がたくさんあります。奈良県は少し歩けば、歴史の教科書に載っているようなものがある場所ですから、「ここに竹取物語の場所があったんだ」とか、調べていても楽しかったです。奈良は昔から悠然としていますから、小芝さんにも「大阪の食い倒れ、京都の着倒れ、奈良は寝倒れ」と、のんびりと穏やかな人たちがたくさんいて、そのような空気感をこの映画では出したいという話をしましたね。
 
―――最後にメッセージをお願いします。
ウエダ監督:奈良県葛城地域の魅力が詰まっていますし、更に図書館の普段利用しているだけでは分からない司書のお仕事も取り上げているのも魅力の一つです。ヒロイン映画としては、小芝風花さんをぜひ観ていただきたいし、85歳で現役の香川京子さんも観ていただきたい。魅力がたくさん詰まった作品です。
(江口由美)
 

<作品情報>
『天使のいる図書館』(2017年 日本 1時間48分)
監督:ウエダアツシ 
出演:小芝風花、森永悠希、小牧芽美、飯島順子、吉川莉早、籠谷さくら、櫻井歌織、松田岳、美智子/内場勝則、森本レオ、香川京子 
2017年2月11日(土)~TOHOシネマズ橿原、イオンシネマ西大和、18日(土)~大阪ステーションシティシネマ、シネマート心斎橋他全国順次公開
※2月12日(日)15時~の回、上映前舞台挨拶あり(登壇者:小芝風花、ウエダアツシ監督)
(C) 2017「天使のいる図書館」製作委員会
 

月別 アーカイブ