監督も太鼓判の笑顔で、中島裕翔と等身大の“うるキュン愛”を熱演。
『僕らのごはんは明日で待ってる』新木優子さん、市井昌秀監督インタビュー
あるきっかけから恋人同士となった性格が正反対の男女の7年に渡る愛を描いた、瀬尾まいこ原作の『僕らのごはんは明日で待ってる』。前作の『箱入り息子の恋』でも内気男子の恋愛模様を描き反響を呼んだ市井昌秀監督が、主演に中島裕翔(Hey! Say! JUMP)と新星・新木優子を迎えて映画化、2017年1月7日(土)から全国ロードショーされる。
中島裕翔演じる亮太と、新木優子演じる小春が付き合うきっかけとなった体育祭の「米袋ジャンプ」や、二人がデートで食べる様々なごはんが、距離が近づく様子をリアルに映し出す。一方、幸せの絶頂で突然小春から告げられた別れに傷つく亮太のその後や小春の抱えた秘密が少しずつ明らかになるにつれ、観ている側も様々な感情が沸き上がり、まさに“うるキュン”状態。体育祭の競技や応援の生徒たちの描写一つをとっても、非常にリアルで懐かしい気分にさせてくれる、観ている人の記憶に寄り添うような優しいラブストーリーだ。
本作の市井昌秀監督とヒロイン小春を演じた新木優子さんに、内気男子の魅力や7年に渡るラブストーリーを演じた感想、本作の「ごはん」に込められた思いについてお話を伺った。
■初めての共同作業、体育祭での「米袋ジャンプ」で結束。
―――二人が出会い、初めて共同作業をする大事な場面として、高校体育祭での競技、米袋ジャンプが登場します。二人の悪戦苦闘ぶりがコミカルで、一気に惹きこまれました。
市井監督:小春側は恋心がありながらもまだまだ恋が芽生えたとは言い難い時期に、正反対な性格の二人が一つの米袋に入り、密着せざるを得ない状況の中競技をしなければならない米袋ジャンプは、すごく楽しいし、原作を読んでコミカルだと感じていました。二人で協力しなければ進まないところが面白いです。体育祭の撮影は、皆すごく結束した日だったので、鮮明に記憶に残っています。
新木:最初衣装合わせの時に、中島さんと二人で米袋に入ってジャンプしたのと、学校で練習するシーンの時に軽く数回飛んで、その後本番でしたから、たくさん練習したという印象はないのですが、私が前にいた方が飛びづらいのは、二人とも感じていましたね。リアルに飛びにくさがでていたと思います。中島さんが前になってくれたらスイスイ進み、すぐに息もあって、すんなりと二人で米袋ジャンプの世界に入っていけました。
■中島裕翔は褒めないことを探す方が難しい“ジェントルマン”
―――新木さんのイメージと小春がリンクしますね。ちなみに、初対面での中島さんの印象は?
新木:本読みの時は、本当に寡黙で物静かな方なのかと思いました。シャイな部分もあるのかなと思っていましたが、実際に現場で時間を重ねていくとスタッフの皆さんやキャストの皆さんと本当にきさくに、自分から話しかけていくような方でした。本当にジェントルマンで、女性に対する気配りも素晴らしい方です。
市井監督:褒めすぎじゃない?
新木:本当にそうでした。褒めないことを探す方が難しい(笑)。どんな行動をしても、優しさにつながるんですね。現場でいじられもしていましたが、それは私との空気感を和やかにしてくれるためのものでしたから。
―――なるほど、市井監督は「たそがれ感」が中島さん起用の決め手だったそうですが、俳優としての魅力はどんなところにありますか?また、どのような演出をしたのですか?
市井監督:会った時から、テレビの先に見ているアイドルの中島裕翔ではなく、男前だけどその辺にいそうな気さくな人でした。物憂げで陰のあるところも合わせ持っていますから、中島裕翔君のままでやってほしかった。葉山亮太という着ぐるみに入るようなお芝居ではなく、例えばせりふを口にするだけで、勝手に感情が乗ってくるから、深く役作りをしないようにと伝えました。
―――小春は超ポジティブ女子ですが、亮太と同じく家族を失った過去を持つ陰の面もあります。演じる上で大事にしたことは?
新木:幼い頃両親に見放されたという事実は小春にとって悲しいことではあっても、その悲しさを乗り越えている。過去を受け止めた上で明るい小春がいることを監督とも話しましたし、原作からもインスピレーションを受けました。後は、役を演じながら小春を感じることができたので、小春と私との共通点を探し、「小春だったらどうするだろう」ということを一番に考えて、自分の口で、自分の言葉で言うことを大切にしました。「それが、小春の言葉になる」と監督から言ってもらっていたので、とにかく私は小春のことを考えよう、と。そう思って取り組んでいましたね。
■新木優子の“突出した笑顔”は武器。
―――本当に新木さんと小春がシンクロするような、実感のある演技でしたね。監督からみて、新木さんの一番の魅力は?
市井監督:やっぱり、本当に笑顔が素敵だなと思っています。色々な表情がある中で、笑顔が突出しているのは、武器ですね。中島裕翔さんは多様さや、寡黙だから出てくる表情が色々あるのですが、新木さんは笑顔が突出しており、この物語のスパイスになっています。心底からの笑顔がラストに繋がっていくのですが、前半のラストの笑顔は思い返してみるとどうだろうか。そういう見方をしてもらえると嬉しいですね。
■内気男子の恋愛下手を肯定したい。大事なのは下手なりにきちんと伝えること。
―――新木さん演じる小春の笑顔が、中島さん演じる内気男子、亮太の心を開かせていきましたね。市井監督は前作『箱入り息子の恋』でも内気男子の成長を描いていますが、内気男子の魅力とは?
市井監督:『箱入り息子の恋』も恋愛下手な男性を描いていますが、僕自身は恋愛において下手なのは別にいいと思っています。恋愛下手だから会える人もいるわけで、上手くなろうと思わなくていい。「恋愛下手」を肯定したいですし、大事なのは下手なりにきちんと相手に伝えることだと思っています。どうしても、自分と共通項があるので、恋愛下手な人を応援したくなりますね。
新木:私は自分から話しかけるタイプなので、内気な男性の方が魅力的に映っていたかもしれません。自分にしか見せないものを持っている方が安心しますし、そこを分かりあえたからこそできる信頼感もあり、そして強い絆で結ばれる気がします。おしゃべりな人だと、どうしても慌ただしくて、駆け抜ける恋愛になりそうですが、寡黙なタイプの人なら一つ一つを大事にした恋愛ができる気がします。
―――本作は主人公二人が高校生から社会人になり、別れを乗り越えての七年に渡る愛を描いていますが、演じる上で大変でしたか?
新木:7年越しというお話は、私が演じた中でも長いスパンの物語だったので、撮影前には不安もありました。高校生と大学生と社会人、私自身が一番違いを感じていた年代でしたが、振り返ると自分自身の軸はあまり変わっていないということにも気付け、そんなに気張らなくてもいいと思えるようになりました。撮影に入れば、現場の空気感やエキストラの皆さん、クラスの雰囲気を作ってくれたクラスメイトの皆さんのおかげでナチュラルに高校時代から社会人を演じることができたので、私が何かをしたというより、皆さんに助けていただいて演じられた7年間だと思います。私の中でも、高校生と社会人の意識の違いで、自分自身の体験から来るものもあれば、衣装を着るだけで出てくるエネルギーもたくさんあり、それらが一体となって演技に変化を付けていくことができました。
■新木優子としては本当に辛かった別れのシーン。
―――七年愛の中でも一番衝撃的だったのは、大学時代ファミレスで突然小春が別れを切り出すシーンですが、どんな気持ちであのシーンに臨んだのですか?
新木:あのシーンは私、新木優子としては本当に辛かったですね。小春が別れを告げてしまう気持ちは分かりますが、自分だったら、もしくは普通の人だったら「実は・・・」と告白するシーンだと思うのです。そこで別れだけを切り出す小春は、なんて強い女の子なんだろうと、小春の気持ちを思えば苦しくなってしまいました。あのシーンを撮影した日はさらりと亮太に「別れよう」と言えたのですが、撮影前日の方が本当に辛くて、台本に書いてないけれど亮太に告白してしまおうかと思ったぐらいでした。優しさゆえに突き放す。周りから見れば、もう少し何とかできなかったのかと思わせる不器用な小春が愛しいシーンでもありました。そして、どこか清々しさもあったんです。別れを切り出し、自分は自分で生きていく。いつも通りの言葉で亮太に思いを告げる強さもあれば、亮太との関係を終わらせて前に進もうとしている気持ちの強さもヒシヒシと感じました。
■本当に起こっていることを大事に描くことが、芝居のアプローチにつながる。
―――オープニングの屋上遊園地風景や、二人が手にしたポカリスエット、物語の鍵を握るカーネル・サンダースなどが多数登場しているのに、胸キュンでしたが、それらを取り入れた意図は?
市井監督:結果的には芝居のアプローチにつながると思うのですが、先ほど内気男子の話でも「背伸びせずに」と言いましたが、僕は本当に起こっていることを一番大事にしています。ケンタッキーやポカリスエットは、瀬尾さんの原作にある描写ですが、カーネル・サンダースは原作から出た僕のオリジナルアイデアです。誰しもが知っているアイテムは馴染みやすいですし、本当に今この時に起こっていることをきちんと描写したかったんですね。
―――カーネル・サンダースは、絵的にもインパクトがありました。小春がカーネル・サンダースと握手をするシーンもありましたね。
新木:人生初の体験で、本当に元気をもらえる気がしました。クリスマスの時期など、一年に一度は必ずカーネル・サンダースを思い出すし、知らない人はいない存在です。いざ向き合うと「みんなのおじいちゃん」のようなカーネル・サンダースと、意外にみんな握手をしたくても気恥ずかしくてできないんじゃないかな(笑)。でも冷たいけれど温かい、分厚い手で。カーネル・サンダースがなぜ手を差し伸べて立っているんだろうと思うと、小春はその気持ちを汲み取って手を握ったのかなと、色々なことを考えました。温かい気持ちになれたシーンですね。
―――二人の思い出の場所として登場する屋上遊園地のシーンで、双眼鏡を覗いた先に老夫婦や警官などの日常が映し出されます。二人の未来を暗示しているようにも見えましたが、その意図は?
市井監督:例えば米をひと粒だけ取ろうとしても何粒もついてくるように、人は一人で生きている訳ではないということが主題として僕の中にあります。先ほど新木さんがおっしゃっていた「高校時代のクラスメイト」もそうですが、双眼鏡から覗く先の人にも二人と同じ時代や時間を生きているということを、少しでもさりげなく見せていけたらという狙いがありました。
■ファーストフードからファミレスへ、笑えるぐらい同じ道を辿ったごはんシーン。
―――タイトルにも「ごはん」という言葉が入っていますが、ごはんシーンで印象的だったことは?
新木:高校時代はファーストフード、そこからファミレスになり、次は温かい定食屋さんに行くようになる。この段階が皆そうだなと思うし、笑えるぐらい私も同じ道を辿っていて、日常だなとすごく安心しました。背伸びをしたレストランに最初から行くのではなく、学生時代に好きだったのがケンタッキーというのが微笑ましければ、少し背伸びをしたのがファミレスというのもかわいいと思いました。一番印象に残っているのは定食屋さん。私自身初めてのキスシーンだったので緊張しましたし、出していただいたご飯が本当に美味しかったです。
―――ごはんが登場するシーンに込めた思いは?
市井監督:新木さんが言うように段階を踏むという部分や、小春とえみり(美山加恋)の差を描いた部分もありますが、すごく大きく見ると、米袋ジャンプから始まり、最後はお米で終わるという日常のサイクルみたいなものを映画でも表すことができれば。そういう思いを込めています。
―――最後にこの映画の一番の見どころは?
新木:この映画はご飯が食べられるという当たり前のこと、親や家族、思い合える人がいるという今まで自分が当たり前と思って生きてきた日常が、どれだけ奇跡的なことなのかを実感することができます。温かい気持ちになれますし、日常の中だからこそキュンとするシーンがたくさん詰まっています。そういうところに注目していただきながら、ぜひ、劇場で「うるキュン」していただきたいと思います。
(江口由美)
<作品情報>
『僕らのごはんは明日で待ってる』
(2017年 日本 1時間50分)
監督・脚本:市井昌秀
原作:瀬尾まいこ『僕らのごはんは明日で待ってる』幻冬舎文庫刊
出演:中島裕翔、新木優子、美山加恋、岡山天音、片桐はいり、松原智恵子
2017年1月7日(土)から全国ロードショー
公式サイト⇒http://bokugoha.com/
(C) 2017「僕らのごはんは明日で待ってる」製作委員会