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韓国伝統芸術で日本のてっぺんへ!大阪の高校生のアツい夏に密着。『でんげい』チョン・ソンホ監督トークショー

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『でんげい』チョン・ソンホ監督トークショー
登壇者:チョン・ソンホ監督(16.11.5 シネ・ヌーヴォ)
 

大阪アジアン映画祭では『いばらきの夏』というタイトルで上映され、生徒たちのパフォーマンスと共に大反響を呼んだ青春ドキュメンタリー映画が、『でんげい』とタイトルを改め、大阪・九条シネ・ヌーヴォで11月5日(土)より先行ロードショーされている。

 
タイトルの「でんげい」とは、大阪市住吉区にある建国高等学校・伝統芸術部の通称。民族学校である同校の「でんげい」は、大阪代表として全国高等学校総合文化祭に2016年現在で12年連続出場を果たし、また総合文化祭でも常にトップクラスの評価を得ている。この「でんげい」に出会った韓国のテレビ局・釜山MBCのプロデューサー、チョン・ソンホ監督が、本番に向けて練習に励む部員たちの日々に密着。テレビドキュメンタリーとして放映され、その後映画版に編集、韓国で公開された本作が、キノ・キネマ配給により、日本にも届けられることになった。
 
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『でんげい』大阪先行ロードショー初日初回上映後には、チョン・ソンホ監督が登壇し、キノ・キネマ代表岸野令子さん司会のトークショーが開催された。冒頭で、日本劇場公開を祝って、建国高等学校・伝統芸術部員の皆さんが花束を持って駆けつけ、ソンホ監督に花束が贈られた。
 

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部員を代表して、本作でも撮影当時高校1年生ながら必死で練習に励む姿を見せていたカン・ソナさんが、「今日はこうして私たちの映画を観に来てくださり、本当にありがとうございます。私たちはご覧のとおり毎日伝統芸術部で一生懸命活動しています。2年前ドキュメンタリーとして作られたのが、こうして映画となり、日本にきて私たちもいい経験をさせていただいていると思います。ソンホ監督にも感謝しています。映画を観て、私たちのことを知っていただいた皆さんには、これからも頑張るので私たちのことを応援してください。よろしくお願いします」と日本と韓国語で挨拶。大きな拍手が沸き起こった。

 
渡された花束を、「韓国には持って帰れないのが残念。この花束を是非お渡ししたい人がいる」と配給を手掛けている岸野さんに贈呈したソンホ監督から、引き続き、本作をなぜ撮ったのか、そのいきさつや観客とのQ&Aが行われた。その内容を、追加インタビューを交えてご紹介したい。
 

 


■「韓国でも高校でこれほど熱心に伝統芸術に取り組む学校はない」という驚き。

ソンホ監督:最初は建国高校の伝統芸術部を全く知りませんでした。もともとは韓国の週刊誌「ハンギョレ21」に日本の朝鮮学校の写真が載っており、それが今、自分たちの子どもの運動会でも見られない、昔の運動会の雰囲気でした。当時自分が経験した運動会を感じたドキュメンタリーを作りたいと思い、2014年に会社の安息月制度(1ヶ月の休み)を利用し、写真に掲載されていた大阪の学校を訪ねました。ただ、そこでは「南北関係が非常に難しい時期なので撮影できない」と断られてしまいました。そこで、現地コーディネーターの方に勧めていただいたのが、建国学校だったのです。
 
当時の校長先生から、「運動会よりも伝統芸術部の方が10年以上大阪代表で全国大会に出場しているので、案内します」と申し出をいただき、練習を見学できるとのことだったので、皆が練習している柔道場に案内してもらいました。2月で寒いのに半袖半ズボンで汗をかきながら練習している姿に、私は本当に驚きました。 韓国では、大学では伝統芸術部はありますが、高校でこんなに熱心に伝統芸術を練習しているところはなく、無条件に「これは撮ろう」と思いました。 
 

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■伝統が継承されていくことへの興味。マイノリティの伝統は、守る側も少数。

ソンホ監督:伝統芸術の全国大会があるなんて、韓国では考えられません。考えようによっては、日本が持っている文化の底力です。伝統芸術部の先生はどこの学校の先生も厳しいそうです。伝統をそのまま継承するには、その厳しさが必要なのです。もう一つ驚いたのは、大阪代表で韓国の伝統芸術が選ばれていることです。例えば韓国で日本の和太鼓のチームが韓国の地区代表に選ばれることはないでしょう。というのは、韓国は日本に植民地支配された被害者意識があるからです。だから、建国学校の学生たちが大阪代表に選ばれて全国大会に出場し、演技の素晴らしさが認められて賞を獲得するということが、新鮮な驚きでした。私の考えですが、マイノリティの伝統は、守る側も少数です。そういうものに、日本側も力を貸してほしいというのが私の願いです。

 

■政府からの支援金を得て、本格的に撮影。テレビ局制作のドキュメンタリーが劇場映画となり、日本で公開されるのは初めて。

ソンホ監督:撮影すると決めると、校長先生に「韓国できちんと準備をします。MBCの上司を説得し、韓国政府から映画制作支援金をもらい、十分な制作費で準備をしてから戻ってきます」と宣言し、一旦韓国に戻りました。こんな素晴らしい話に、制作支援金をもらえないなんて、ありえませんから。もちろん支援金をきちんとゲットしました!「でんげい」部員と顧問の先生の前で映画を撮ると報告し、皆さんの許可を得たことは、今でも覚えています。

 

■会社主導ではなく、自ら映画化、劇場公開へと動く。

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ソンホ監督:このようにして、まずはテレビのドキュメンタリーが制作されました。その作品がここまでくるとは思いも寄りませんでした。韓国でテレビ局がテレビ用に制作したドキュメンタリーが劇場映画として上映されるのは珍しいですし、ましてや日本で公開されるというのは初めてのことです。
 
ただテレビ用ドキュメンタリーを劇場公開用素材にする別予算は会社にはなく、また劇場公開する体制もありませんでした。ですから、素材に関することや、編集面では釜山国際映画祭関係者の知り合いにアドバイスをもらいながら、自分で進めていきました。特に苦労したのは編集です。テレビ放映では2部構成だったロングバージョンを、劇場用に短くした訳ですが、「テレビ的だ」と指摘されました。映画の文法とテレビの文法は違います。8回編集し直しましたが、私は20年間テレビ畑を歩んできた人間ですから限界があります。でも、本作のコンテンツが持っている力、子どもたちが持っている力で勝負しようと思ったのです。編集する間に、劇場公開する投資会社を自分で見つけ、会社の支援なしに劇場公開にこぎ着けることができました。
 
 
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■この映画には3つのタイトルがある。

ソンホ監督:大切なのは、この映画には3つのタイトルがあるということ。韓国で放映したテレビ用のタイトルは、『17歳、鮮華(ソナ)の挑戦』でした。ただ、韓国で劇場公開をするときに、インパクトが弱いので、集客のためにタイトルを変えた方がいいという投資家たちの意見をうけて『いばらきの夏』と改題したのです。そして、今回岸野さんが日本で劇場公開してくださるので、いろいろ考えた末、伝統芸術部の通称「でんげい」を映画のタイトルにした方がいいのではないかということで『でんげい』となりました。 
 
岸野さん:大阪では「いばらき」というと「茨城」ではなく「茨木」を連想されますし、『でんげい』と聞いて、「え?これ何」というところから興味を持ってもらいたいという狙いもありました。

 

■顧問の先生が怒っているシーンから滲む、生徒との信頼関係。

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ソナさん:(「チャ先生は人情に厚いが、最初から厳しく怒られたりしたのか?」 との問いに)練習するにあたり、普段からどんどん詰めていくところに向かって、私たちがもっといいものを出せるように指導してくださっています。そのおかげで、もっと上にいけると思っているので、(映画では)怒っているイメージがついていますが、とてもありがたいことだと思っています。 
 
ソンホ監督:いつも怒っていたからそうなりました(笑)。先生の真心と生徒の真心がかみ合っていたから、撮ることができた訳で、変なことになっていたら私は撮らなかったと思います。 
 
岸野さん:チャ先生の愛情や、生徒との信頼関係が出ていました。日本の学校では今、先生と生徒の関係が希薄になっているような気がするので、ここにはアツいものがあるというのは一つの発見でした。在日の方だけで留まるのではなく、日本の方にも観ていただきたいです。今、日本は色々な民族、宗教、文化の方が一緒に住んでいる社会なので、お互いがもっと仲良くなり、理解し合える社会になるために、この映画の果たせる力がある。そう思ったのが、配給を引き受けた大きな狙いです。 様々な偶然が積み重なっての結果ですが、それも運命かなと思います。
 

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■テーマは「子どもたちの成長」

ソンホ監督:私のドキュメンタリーのテーマは「子どもたちの成長」です。 (演技が)技術的に優れているのに賞をもらわないということは、私の関心外です。最後の川の土手に生徒たちが座っている場面は、私が映画的に演出した場面です。子どもたちがあのように集中的に練習するのは夢のよう。彼らの日常は、夏休みになればラフな服装でアイスクリームを食べながらおしゃべりをするものだと考えました。 子どもたちのありふれた日常や、熾烈な経験を経たことで日本の社会で生きる力を身につけたと思うし、それを撮りたかったのです。在日韓国人がどのような思いで根をおろして子どもたちを育てているかというところを観てほしいですね。 

 

■ソンホ監督からのメッセージ

ソンホ監督:日本の方がご覧になっても、説明なしで感じてもらえると思います。受験で一生懸命な時期にでんげいのようなクラブ活動で一生懸命だったことが、きっと後々役に立ちます。これは現在子育てをしている父兄たちへのメッセージとしても残せると思います。
(江口由美)
 

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<作品情報>
『でんげい』
(2015年 韓国 1時間37分)
監督・プロデューサー:チョン・ソンホ  撮影:キム・ウクチン  ナレーション:パク・チョルミン(「もうひとつの約束」)
出演:キム・ヒャンスリ、コ・スンサ、ソ・ヌンヒャン、チャン・スギョン、イ・スンオン、カン・ソナ、キム・ソンファ、イ・サフェ、イム・モジョン、チャ・チョンデミ、パク・ジョンチョル
2016年11月5日(土)~シネ・ヌーヴォにて先行ロードショー、以降、元町映画館、京都みなみ会館、名古屋シネマスコーレ他全国順次公開
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