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ムンバイ同時多発テロ、被害者少女の目線でその恐怖と孤独を映し出す 『パレス・ダウン』ニコラ・サーダ監督インタビュー 

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ムンバイ同時多発テロ、被害者少女の目線でその恐怖と孤独を映し出す 『パレス・ダウン』ニコラ・サーダ監督インタビュー

今年のフランス映画祭2016で、社会派作品として大きな注目を集めたのが、2008年11月インドのムンバイで勃発した同時多発テロ事件による惨劇の実話を映画化したニコラ・サーダ監督の『パレス・ダウン』だ。  

 

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テロの一部始終を語ることに重点を置くのではなく、標的の一つとなったタージマハル・ホテルでテロの被害者となったフランス人高校生、ルイーズの視点で、彼女が体験した恐怖や孤独、家族との絆を真摯に描き出した。ルイーズ役には、『ニンフォマニアック』でヒロインの少女時代を演じ、話題をさらったステイシー・マーティン。真っ暗な部屋の中、テロリストに包囲され、いつ銃撃されるか分からないサバイバルな状況で両親からの電話だけを頼りに脱出しようとするルイーズの心の動き、事故後彼女を襲う孤独を繊細に表現し、見事な存在感をみせる。父親役には、フランス映画祭2016上映作品『めぐりあう日』にも出演のルイ=ド・ドゥ・ランクザン、母親役にジーナ・マッキー、ホテルのイタリア人客ジョヴァンナ役にアルバ・ロルヴァケルと実力派俳優が脇を固めた。本作の舞台となっているムンバイの街並みや群衆の映像も、独特の雰囲気を醸し出している。  

フランス映画祭2016のゲストとして来日したニコラ・サーダ監督に、テロを題材にした実話をどのような視点で描いたのか、その表現方法についてお話を伺った。


―――この作品は、サーダ監督の友人の姪の実話が基になっているそうですが、その体験を聞いて一番心動かされたことは?

ニコラ・サーダ監督(以下、サーダ監督):一番印象的だったのは、彼女が他から全く孤立してしまい一人であったという事実です。外とのコンタクトがまるっきり途切れ、唯一のつながりは外から聞こえてくる(銃撃などの)音、そして両親との電話のやりとりだけでした。  
 
―――『パレス・ダウン』はテロを題材にはしていますが、実行犯の様子を描写するのではなく、テロに巻き込まれた側からの視点で描かれています。今まで、一個人のテロ被害者に焦点を当てた映画はあまりありませんが、このような手法でテロを描いた理由は?
サーダ監督:私はある特定の分野の映画を模倣するのではなく、自分自身のスタイルで映画を撮ることに関心があります。テロをテーマにした時も、客観的にどんなテロであったかのディテールを描くことにはあまり関心がありません。テロと分からせるために警察官や新聞記者、その他さまざまな登場人物で説明するという手法は、視点を明確に定めているかのようでありながら、実はテロに対する視点をズレさせていると思います。今回私は、 ヒロインのルイーズが体験したのと近い状態を描くことで、観客に彼女の孤立感を感覚的に味わってもらえるような撮り方をしました。私が重要視したのは、音と光です。  
 
 
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―――ホテルの部屋に閉じ込められ、暗闇の中一人でなんとか逃げようと闘うルイーズを演じるステイシー・マーティンの存在感に惹きこまれました。ルイーズ役を演じるにあたり、監督と二人でどのような準備をしたのですか?
サーダ監督:まずはマーティンさんには、実際に本作のモデルになったルイーズさんに会ってもらい、質問を投げかけ、色々話してもらいました。その後、マーティンさんに恐怖や不安を題材にした本を何冊か読んでもらいました。そこから、そのような極限な状態に置かれた時の人間の反応で典型的なものを拾っていくと、「常に犠牲者の中で女性の反応が顕著に出てくる」ということが分かってきたのです。例えば、叫び声が上がったかと思うと、いきなりその声が途絶える(殺されている)。そういう典型的な反応を書きだし、あえてそのような表現はこの映画の中で使わないようにしました。自分は死んでしまうという恐怖感があり、声を出したい。でも出せない状況にあるのです。たとえばおとぎ話でも、狼がやってきたと言われ、女の子がベッドの下に隠れたとき、狼の姿は見ていないけれど、物音から恐怖感や孤立感に襲われます。そのような感覚をいかに描くのかが重要で、マーティンさんにも理解してもらった上で、演じてもらいました。いわゆる紋切り型の叫びなどを排除し、そうではない部分をどう表現するか。観客の皆さんには、叫び声も出ないような恐怖感を味わってほしいです。  
 
―――監督がおっしゃる通り、部屋の暗闇で一人きりのルイーズが銃撃音や煙に反応し、恐怖感と闘っているシーンは、観客もその怖さを体感します。
サーダ監督:マーティンさんがホテルで一人恐怖の中、脱出を画策するシーンでは、前もって録音技師やエキストラに入ってもらい、実際に聞こえるであろう銃撃音や爆発音、悲鳴などを録音し、録音音源をイヤホンでマーティンさんに聞いてもらいながら、演じてもらいました。  
 
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―――ルイーズが脱出するまでの心の支えになったのは、電話を通じて励まし続けた両親や、同じホテルで取り残されたイタリア人女性ジョヴァンナであり、家族の絆や同じ状況に置かれた者同士の絆の物語でもありますが、どのように撮影を進めたのですか?
サーダ監督:彼たちへの演出は特殊なものが必要でした。それぞれのシーンを断片的に撮り、最後に再構成しているため、基本的に外のシーンはボンベイ、中のシーンはパリのスタジオで撮影しています。テロリストがホテルを攻撃した時、父親とルイーズが電話でやり取りをしますが、父親はムンバイの街を走りながら実際には別のエキストラと話をしている訳です。マーティンさんの撮影はもっと後で、パリで父親と話をしているように演じてもらいました。ジョヴァンナ役のアルバ・ロルヴァケルさんの撮影はマーティンさん同様順撮りでした。だから、ジョヴァンナが登場するシーンまで、ルイーズ演じるマーティンさんはずっと一人で撮影に臨んでいたのです。ルイーズがジョヴァンナと会うシーンで初めて、マーティンさんは自分以外の共演者と演技するという形をとっています。  
 
―――ムンバイならではの風景や人々の営み、文化が本作の背景として非常に重要な役割を果たしています。ムンバイの撮影で苦労はありましたか?
サーダ監督:来日してからムンバイでの撮影について質問されたのは初めてです。少し長くなりますが、いいですか?(笑)27年前、ニューデリー映画祭に参加するために初めてインドを訪れ、タージマハルパレスを観光した時のことです。インドの映画監督、バニー・カウル氏と会う機会があり、カウル氏と仕事をしていた撮影のピュース・カウ氏に出会いました。寒い時期だったのでジャケットを着ていたのですが、そのタグに「タージマハル香港」と偶然書かれており、それを見たカウ氏から「きっと、あなたがまた仕事でインドに来るという何かの啓示かもしれないよ」と言われたのです。以来そのことはすっかり忘れていましたが、今回この映画を作るため初めてムンバイに行き、カウ氏のことを思い出して連絡してみると、彼はまだインドで撮影の仕事を続けていました。25年ぶりに再会し、ムンバイでの撮影を彼にお願いすることができたのです。本当に運命としか考えられませんし、ムンバイでは私の目となって撮ってくれました。ムンバイの映像は彼でなければ撮れなかったし、ムンバイのシーンを観たインドの方は、作り物の映像ではなく、インドそのものを映し出していると評価してくれました。  
 
―――当初、ムンバイという異国ならではの孤独感が常にルイーズを覆っていましたが、テロに巻き込まれた後、パリに戻ったルイーズはそこでも居所のなさを感じているように見えました。監督がパリのシーンで表現したかったことは?
サーダ監督:マーティンさんが、ルイーズさんへ今回の体験で一番強く感じていることを尋ねたところ、すぐに答えることができませんでした。2日間ほど考えてから「この体験を通じて一番感じたのは、人間は本当に孤独だということ」と答えてくれました。その孤独は、誰もがその言葉を聞いてすっと思い浮かぶようなシンプルでわかりやすい感情では決してありません。でも、いつか分かるかもしれないという思いもあります。実際に本作が出来上がった後も、フランスではシャルリーエブド襲撃事件や、同時多発テロが起き、それらを通して色々なことを考え、体験した人がたくさんいます。ムンバイでテロに巻き込まれたルイーズはフランスに戻った後、どこにいても本当に孤独だった。その感情を、この映画で描きたかったのです。
(江口由美)  
 

<作品情報>
 
『パレス・ダウン』
 
・原題:Taj Mahal
・2015年 フランス 1時間31分
・監督:ニコラ・サーダ
・出演:ステイシー・マーティン、ルイ=ド・ドゥ・ランクザン、ジーナ・マッキー、アルバ・ロルヴァケル他
「カリコレ2016」にて上映 7月29日(金) 16:00/8月2日(火) 13:00/8月13日(土) 10:00
 

公式サイト⇒ http://www.vap.co.jp/palace-down/

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