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故郷とは、家族のいるところ。『モヒカン故郷に帰る』沖田修一監督インタビュー

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故郷とは、家族のいるところ。
『モヒカン故郷に帰る』沖田修一監督インタビュー
 
『横道世之介』『キツツキと雨』の沖田修一監督が瀬戸内の島を舞台に描く家族物語『モヒカン故郷に帰る』が、4月9日(土)よりシネ・リーブル梅田、TOHOシネマズなんば 本館・別館、シネ・リーブル神戸、京都シネマ、TOHOシネマズ二条他で全国公開される。
 
デスメタルバンドのボーカルを務めながら東京で彼女と暮らすモヒカン頭の男、永吉を演じる松田龍平、永吉の彼女でイマドキ妊婦の由佳を演じる前田敦子のカラフルなカップルが、田舎に帰るところからはじまる本作は、父、治(柄本明)の突然の癌の知らせと余命宣告により、親不孝息子の最後の親孝行へと転じていく。矢沢永吉や広島カープなど、広島県民の心の拠りどころを散りばめ、疎遠だった父子が心の距離を近づける様子を、温かい笑いを散りばめながら描いた。島の風情や緩やかな空気を堪能し、本当に“笑って泣ける”最高の家族映画だ。
 
本作の沖田修一監督に、本作の発想のきっかけや、それぞれのキャラクターに込めた思いを伺った。
 
 
 

―――直球ど真ん中の家族ドラマなのに、絶対に泣かさないと言わんばかりの意気込みでシリアスな状況を笑いに変えていましたね。 
沖田監督:こういう題材なので、そんなに湿っぽくならないようにしました。家族の誰かが病気になるのはよくある話だけれど、どこかで笑っちゃうエピソードや瞬間がある。そういう感じの映画にできればいいなと思いました。 
 
 
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―――治は矢沢永吉の大ファン、春子は広島カープの大ファンとキャラクター設定に広島が活かされています。その時点ですでに広島を舞台と想定していたのですか? 
沖田監督:ロケハンと同時進行で、脚本を書いていました。そのときは瀬戸内の島々をまわっていたのです。普通瀬戸内といえば、しまなみ海道のある愛媛などの観光地が思い浮かびますが、そうではなく、観光地になっていない島に魅力を感じました。それが広島の方だったのです。ロケハンする中で本当に広島カープが好きな人もたくさんいましたし、矢沢永吉さんも治と同い年だと調べて分かったんです。 
 
 
―――オリジナル脚本ですが、発想のきっかけは? 
沖田監督:父を看取る映画を作りたいと思ったのが、最初です。その中で、笑える映画ができないかと思いました。僕年代になると、実生活で父親の具合が悪くなってくることも増えてきますし、僕に近い年代の息子と父の映画にしたい。最初に台本を書いた時は、その息子が結婚の報告をしに帰ってくることにしていました。そのとき、父や母が熱狂的にファンになれるものが何かあればいいなと思ったのです。息子が帰ってこないことに寂しさをそんなに感じていない。自分の世界を持っていて、逆に帰ってきたら面倒くさいなと思うぐらいの夫婦でいてほしい。後は長男でありながら何もしない永吉に似つかわしくない、父の癌に対してちゃんと対応する次男の存在ですね。ちゃんとしない長男がいて、ちゃんとする次男がいる感じがいいなと思いました。普通、逆ですよ。 
 
 
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―――前田敦子さん演じる、永吉の彼女、由佳は、ぶっちゃけキャラだけど抜けている部分や、永吉の母、春子ともすんなり馴染んでいました。独特のキャラクターですね。
沖田監督:台本を書いているときに、この人がこう言ったらおもしろいのではないかと考えながら書いています。由佳は永吉と結婚できるぐらいの子であってほしいなと思って書きました。二人とも子どもというか、これから人の親になっていくという少し満ち足りていない感じがいいなと思いました。 
 
 
―――松田龍平さんは永吉を演じるにあたって色々なアイデアを出してくれたとのことですが、具体的にはどんなアイデアですか?
沖田監督:毎日の髪型とか、本当に細かいところなのですが、色々なアイデアを出してくださいました。 モヒカンもピンと立っている時ばかりではないので(笑)
 
 
―――柄本明さん演じる治のパワフルさや矢沢永吉愛が至る所に散りばめられ、笑いを誘いますね。今回、柄本さんと初めて一緒に仕事をされての感想は?
沖田監督:柄本さんが出演されていたドラマや映画は観ていましたし、ご一緒できるのはうれしかったです。ご自分で色々こうしようと思っていただいて、見ているだけで楽しかったです。最初はやりすぎじゃないかと思ったのですが、後々、具合が悪くなって死んでいくのだと思うと、あれぐらいの明るさは前提があるような気がしました。この映画の笑いの部分を支えていただいたと思います。 
 
 
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―――春子演じるもたいまさこさんも沖田監督作品への出演は初めてでしたね。 
沖田監督:現場に行って色々なものを感じながら、もたいさんなりに春子を演じてくださっているのがすごく分かり、僕がちゃんとしなければと思いました(笑)。穏やかな「もたいさん」ではなく、違う「もたいさん」が映画に出ていればいいなと。ちょっと気性の激しいという感じのもたいさんがこの映画で見たかったのです。体力的にキツい撮影だったと思いますが、すごく頑張ってくださました。 
 
 
―――おおさかシネマフェスティバル2016にて音楽賞(『味園ユニバース』)を受賞した池永正二さんが、本作でも音楽を担当されています。「瀬戸内海のイメージで」とオファーされたと伺いましたが、全体的にも音楽へのこだわりをとても感じる作品でした。 
沖田監督:海の町の音楽ですね。池永さんとは前からご一緒したいと思っていました。今回、永吉がやっているデスメタルバンド、断末魔のプロデュースを池永さんがやってくれるのではないかと勧めてくれる方がいたので、お声をかけてみました。結局、断末魔のバンドの曲から、映画の音楽まで全て池永さんが手がけてくださることになりました。デスメタルというジャンルですが、一辺倒ではないものにしてもらいました。 
 
 
―――吹奏楽で矢沢永吉の曲が演奏されるのも初めて聞きました。
沖田監督:音楽プロデューサーの方から、矢沢永吉さんの「アイ・ラブ・ユー、OK」を吹奏楽バージョンに編曲してもらい、音数が少し足りていない感じにしてもらいました。吹奏楽はそもそも20人ぐらいでないと成り立ちませんから、島で部員が足りない感じを出しました。 
 
 
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―――沖田監督ご自身は、どんな家族映画が好きですか? 
沖田監督:プロデューサーの佐々木史朗さんが手がけたATGの『家族ゲーム』や、石井聰互監督の『逆噴射家族』が好きで、観ていました。あとは向田邦子さんや山田太一さんのドラマは、ビデオを借りて観ていましたね。 
 
―――最後に、沖田監督にとって、故郷とは? 
沖田監督:僕は埼玉出身なので、あまり遠いところではないのですが、やはりこの作品と同じで、家族がいるところではないかと思います。
(江口由美)
 

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<作品情報>
『モヒカン故郷に帰る』
(2015年 日本 2時間5分)
監督・脚本:沖田修一 
出演:松田龍平、柄本明、前田敦子、もたいまさこ、千葉雄大、木場勝己、美保純、小柴亮太、富田望生他
2016年4月9日(土)~シネ・リーブル梅田、TOHOシネマズなんば 本館・別館、シネ・リーブル神戸、京都シネマ、TOHOシネマズ二条他全国公開
公式サイト⇒http://mohican-movie.jp/
(C) 2016「モヒカン故郷に帰る」製作委員会
 

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