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あきらめんボクサー『ジョーのあした 辰吉丈一郎との20年』インタビュー

joe-int-550.jpgボクサー辰吉丈一郎を20年間追いかけたドキュメンタリーの労作『ジョーのあした』を撮った阪本順治監督と、辰吉の会見風景


あきらめんボクサー『ジョーのあした 辰吉丈一郎との20年』インタビュー

ゲスト:阪本順治監督、辰吉丈一郎

■ (2015年 日本 1時間21分)
■ 監督:
阪本順治
ナレーション:豊川悦司
大阪先行公開!2016年2月20日(土)~シネ・リーブル梅田、塚口サンサン劇場、2月27日(土)~シネマート心斎橋、順次~京都シネマ ほか順次公開
■公式サイト⇒ http://www.joe-tomorrow.com/
■ (C)日本映画投資合同会社



~“あきらめんボクサー”ジョーの執念~

 

joe-462.jpg阪本順治監督が一世を風びした天才ボクサー・辰吉丈一郎を20年間にわたり追い続けたドキュメンタリー映画『ジョーのあした  辰吉丈一郎との20年』(2月20日から大阪先行公開)が完成。先ごろ大阪・ABCホールで完成披露試写会が行われた。ようやく陽の目を見た“奇跡のドキュメンタリー”を、舞台挨拶で訪れた阪本監督と主人公ジョーに聞いた。


‘90年代、“浪速のジョー”の登場は衝撃的だった。日本人選手の世界タイトル戦での連敗が続いていた1991年2月、大阪帝拳ジムの辰吉丈一郎が、WBC世界バンタム級王者グレグ・リチャードソン(米国)を10回終了TKOで破り、第24代バンタム級世界チャンピオンの座に着いた。当時21歳、デビュー8戦目の世界タイトルは具志堅用高(9戦)を抜く日本最速の快挙だった。阪本監督のデビュー作、ボクシング映画『どついたるねん』の評判を聞いた雑誌編集者の企画で2人が対談したことから、監督とジョーのロングラン・インタビューが始まった。1回目の撮影は、’95年8月、ラスベガスでのノンタイトル戦。だが、映画には派手なファイトシーンは少なく、1人の人間をこんなにも長く追い続けた「記録映画」は珍しい。


joe-550.jpg阪本監督は「最初はそんな(長く撮る)つもりじゃなかった」と言う。辰吉も「気がついたら20年経って、45歳になっていた」。1989年に19歳のボクサー辰吉がデビュー。同じ年に阪本監督もデビューした。雑誌のインタビュー以来、監督が辰吉の試合を見に行ったり、るみ夫人も含めて食事するなど、家族ぐるみの付き合い。「サカP」と「辰ちゃん」の付き合いはもう25年になるという。取材=インタビューといった堅苦しい“撮影”ではない。「彼は自分の試合のことを作品と表現する。その感性に惚れた」と監督。辰ちゃんは「監督が取材に来たら、自然に話せた。初対面の印象はうっすらと残っている。監督と思ってモノ言ってない」。サカPはことあるごとにジョーのインタビューを重ねた。大阪に戻るたびに「守口へ行き、ジョーと話した。彼には矛盾がない。自由に撮れて、NGもない。ホントに清々しい気持ちになれた」。監督には、ジョーとの会話は一服の清涼剤に違いない。その穏やかな雰囲気が画面から滲み出る。


joe-500-3.jpg撮りためた20年間、1000分のフィルムを1回まとめたい、自分が見てみたいと、出来あがったのがこの映画。だが、画面にくっきり姿を現すのは「まだ辞めない」ジョーの姿だ。今も「4度目(世界タイトル)を狙っている」ときっぱり。「これで引退したら、フツーのボクサーになってしまう」と答える表情は大まじめだ。“途中経過”のこの映画についても「勝手なこと、すんなよ。まだ現役やし。引退したら映画にする、と聞いていた」という。  天才と言われたジョーもこれまで何度か“引退の危機”にさらされた。最初の王座奪取から1年後、ラバナレス(メキシコ)との初防衛戦、9回TKOでプロ初黒星。’93年にラバナレスを相手に世界再挑戦、判定勝ちで王座に返り咲くが、網膜はく離が判明し事実上、引退を余儀なくされる。


joe-500-2.jpgだが奇跡的に手術が成功し、現役続行。’94年、フィアレス(メキシコ)を3回TKOで下し、3度目の世界チャンピオンに。同年12月、薬師寺保栄との世界統一戦で注目を集めるが、判定負けで陥落。大阪帝拳から引退勧告を出される。ジョーはこれも拒否するが「引退選手扱い」となり、国内で試合が出来なくなる。これほどの逆境。普通の選手なら諦めてもおかしくないがジョーは違う。「海外でやる」とタイなどで試合を続けた。引き際などまったく考えないこの執念はどこから来るのか?  このとてつもない執着こそがジョーという男だ。今も現役ボクサーとしてトレーニングは欠かさないという。


阪本監督は、’94年にドキュメンタリー・ドラマ『BOXER JOE』撮っているが「不満が残った。引き続きカメラを回したい、と彼に申し出た。“引退するまで追う”つもりだったが、まさか20年経っても引退しないとは、想像も出来なかった」。

 
joe-500-1.jpg映画のスーパーヒーロー『ロッキー』は時の流れに忠実に、スタローンが宿敵アポロの息子のトレーナーを務めるが、難波のジョーの現役はまだまだ終わらない。辰吉の次男・寿以輝がプロデビューしたのが「辰吉君にも区切りになるかなと思った」阪本監督だが「かえって現役への闘志が燃え上がったよう」というからオソロしい。


だから『ジョーのあした』には間違いなく続編がある。4度目の世界チャンピオンの座を射止めた時が真のフィナーレ=クライマックスになるのだろう。これはもう、どんなボクシング映画にも出来ない破天荒な『夢』に違いない。      

(安永 五郎)

 

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