東出君は野心家、自分を狂わせたがっていた~『GONIN サーガ』石井隆監督、東出昌大さん(主演)、インタビュー
~「激流」「濁流」のような撮影を経て、19年ぶりに甦る『GONIN サーガ』と、バイオレンスアクションの魅力とは?~
『GONIN』(95)で、佐藤浩市、根津甚八をはじめ、本木雅弘、竹中直人、椎名桔平、ビートたけしら豪華キャストによるバイオレンスアクションが大反響を呼んだ石井隆監督。19年の時を経て、『GONIN』の続編となる『GONIN サーガ』が誕生し、いよいよそのヴェールを脱ぐ。
物語は、『GONIN』で襲撃の犠牲になった挙句、上部組織五誠会から汚名を着せられ破門となった若頭久松(鶴見信吾)の息子、勇人(東出昌大)、組長だった親(永島敏行)を同じく殺され、今は五誠会の三代目誠司(安藤政信)のボディーガードをしている大輔(桐谷健太)、誠司に弱みを握られ囲われる元アイドルの麻美(土屋アンナ)、そして勇人の母に19年前の事件の真相を探りに来たルポライターの森澤(柄本佑)の人生が交差し、クライマックスの弾けるようなシーンに結実していく。19年前の事件から逃れられない運命の遺児たちがみせる復讐劇には、新キャストのみならず、前作のキャストも登場し、前作のファンは懐かしさを覚えること必須だ。特に、今回限りの俳優復帰を果たし、19年前の事件の生き残り・氷頭を演じる根津甚八の俳優魂に、心撃ち抜かれることだろう。
降りしきる雨の中の銃撃戦、華々しい散り際の美学、そしてちあきなおみや森田童子の生きる儚さを感じる名曲。これぞバイオレンスアクションの醍醐味を堪能できる本作の石井隆監督と主演の東出昌大さんに、キャスティング、撮影秘話や、19年の時を経て実現した続編への想い、そしてバイオレンスアクションの美学についてお話を伺った。
■石井監督「ずっと、いつかはという思いで、『GONIN』のようなバイオレンスアクションものを書きためていた」
―――『GONIN』(95)以降、続編の構想はどんな変遷を経てきたのですか?
石井隆監督(以下石井監督):19年の中には色々なことがありました。『GONIN』(95)、『GONIN2』(96)と撮って、これから当分、バイオレンスをやっていこうと言われていたのですが、突然梯子を外されてしまって。僕としては、いつでも撮れるように、その時々のスターをイメージして「3」「4」「5」とシナリオを書いていたので、途方に暮れてしまった時期が00年から2年ぐらい続きました。なぜ自分がどこに企画を持ち込んでも撮らせてもらえないのか。それが、業界の大きな流れに巻き込まれてしまったということだったのですが、『花と蛇』(04)で久しぶりにオファーがあり、ヒットしたものですからしばらくはその路線が続き、あっという間に5~10年経ちました。その間もいつかはという思いで『GONIN』のようなバイオレンスアクションものを書きためていました。バイオレンスはある程度の予算が必要なので、やりたいと思ってもなかなか叶えられません。それに、最近は皆、原作ありきの映画化なので、完全オリジナルの脚本はなかなか通らない企画でした。
そんな中、角川さんで3本撮った後、重役の方の中にも何人か『GONIN』のファンがいらして、「石井さん、バイオレンスやろうよ。『GONIN』なんてどう?」と逆に声をかけられてビックリしました。「みんなで縛りを解こう」とまで言ってもらいました。そこからまた紆余曲折はありましたが、東出君とも出会え、続編の映画化に至った訳です。本当に感謝しています。
―――東出さんとの出会いも『GONIN サーガ』誕生の鍵となったようですが、東出さんをお知りになったきっかけは?
石井監督:吉田大八監督は同じ大学出身で、直接の映研の後輩というわけではありませんが、劇場公開作品は見ていました。その中で『桐島、部活やめるってよ』に出演している東出君の立ち姿を観たのがきっかけです。彼が根津さんや、椎名桔平さんなど、僕が長いお付き合いをしている事務所に所属していることが分かり、ご縁があるかもと思いました。当時、既に東出君は人気がありましたから、撮影のスケジュールとりが厳しかったけど、やっと「来年ですが」と1ヶ月空きそうなところを押さえていただいた。ですから、1ヶ月で撮り終えないと、と。
東出昌大さん(以下東出):怒涛の勢いで撮りましたね。
石井監督:1ヶ月丸々空けてくれて。映画に理解の深い事務所なので本当に有り難かったです。
東出:その1ヶ月は他の仕事はなし。最後の方のダンスパーティーシーンは本当に昼夜を問わず撮影しました。朝6時に撮影が終わって、9時には別の現場とか。それぐらい詰め込んでやっていましたね。
石井監督:だから、あまり飲まなかった?
東出:そうです。シャンパンも出たのですが、それどころじゃなかったですね。疲労感もすごかったし、今飲んだら寝てしまうと思って・・・。
■東出「アクションはイキイキとやらせてもらった。勇人の人生を考えると、解放、理性をとばして輝いていた瞬間」
―――19年前に大ヒットした石井監督『GONIN』、待望の続編ですが、主演に選ばれたときの気持ちは?また、プレッシャーはありませんでしたか?
東出:僕は『GONIN』ファンで、石井監督と一緒にお仕事ができるのは、とてもうれしかったです。リメイクとなるとプレッシャーを感じるかもしれませんが、今回は新たなストーリーでもあります。根津甚八さんが事務所の先輩で、当時を知るスタッフからも熱い想いは伺っていましたが、特にプレッシャーはなかったです。アクションシーンは、イキイキとやらせていただきました。親に嘘をついて建設現場で働いている勇人の人生を考えると、解放できたというか、理性をとばして輝いていた瞬間だと思います。
―――かなり密度の濃い撮影だったようですが、エピソードや、共演者との思い出は?
東出:桐谷さんは「激流」と言い、僕は「濁流」だと思っていましたが、混沌と色々なものが混ざり合い、勢いの強い日々でした。桐谷さんと顔を合わせても、お芝居のことは覚えていますが、その時に何をしゃべったとか、何をしたか全く覚えていません。それぐらい撮影に集中し、熱量があったのだと思います。桐谷さんは、男らしくて兄貴肌で、見た目の意味ではなく、背中の広い人です。役では幼馴染であり舎弟という設定だったので、現場ではお互いに役の愛称で呼び合っていました。今、改めてお互いを本名で呼ぶのは照れるよね、とさっき桐谷さんと話をしていたところですよ。
■東出「撮影現場で、根津甚八さんと佐藤浩市さんが寄り添う姿に、胸の中でものすごく熱いものがこみ上げてきて、現場の隅で泣いた」
―――ベテラン、同世代を含め、俳優のみなさんやスタッフの熱量が詰まった作品ですが、共演して一番刺激を受けた方は?
東出:根津さんですね。撮影現場で、佐藤浩市さんと根津さんが寄り添う姿を見たときに、俳優として人生をかけているということや、19年の重みなど、胸の中でものすごく熱いものがこみ上げて、現場の隅の方で泣いてしまいました。あとは、石井監督です。人生を映画にかけていらっしゃるような。
―――東出さんは他の現場も経験されておられますが、その中でも石井監督は特に「人生を映画にかけている」と感じたのですか?
東出:そうです。先日、柄本明さんにお会いしたときには「石井監督、変態だったでしょ?」と言われたのですが(笑)。土屋アンナさんも「この世で存在する本当に一握りの天才の一人」とおっしゃっていましたが、本作で竹中直人さんが演じた明神にも通ずる“狂気”みたいなものを感じます。集中されているのは分かるのですが、どこか飄々とされていて、誰も見ていないところに目を向けて、海を潜るように深いところで思考されている姿が、狂気を感じさせますね。
石井監督:いいのか、悪いのか。変態と言われたり、天才と言われたり、どっちなのかな?(笑)
東出:“狂人”です。
石井監督:落ち着くところは、そこか!
■石井監督「東出君は野心家。自分を狂わせたがっていた」
―――東出さんと一緒に仕事をする前と後で、イメージは変わりましたか?
石井監督:東出君は、動き方や表情、天然でイノセントな感じがファンに支持されていたのですが、『GONIN サーガ』は従来のイメージを壊さずに、東出君の違う面を引っ張りださなければならない内容です。彼の内面性がそれを受け止めてくれるのか不安もありましたが、東出君はどんどん違う方向に行きたがる野心家。自分を狂わせたがっていましたね。もっと狂わせればよかったかなと。
東出:今後もよろしくお願いします!
石井監督:なかなか、そうは思わないですよ。東出君は容姿端麗で、スターの条件をそのまま持っているので、普通は企画の方が彼に合わせるでしょう。映画会社からは、お客様が遠ざかってしまうかもしれないから、狂った芝居なんかさせない方がいいという話になりますよ。でも、本人は自分の好きな方向に走ろうとしているので、みんなで止めた方がいいです(笑)。
東出:いやいや・・・走らせてください!その時々で、求められるものはあるかもしれませんが、いろんな役をやりたいですから。お芝居は難しいものですし、毎回同じような感じでは、お客様に飽きられてしまいます。ご飯も食べていけなくなりますから、いい役者にならなくてはと思いますね。
■石井監督「(根津さん出演に)これが最後でいいのかという気持ちで撮影した。とても優しく、ファンの気持ちに応えようと、そちらの方で一生懸命頑張ってしまう方」
―――本作限りのスクリーン復帰となる根津甚八さんの役柄やその演技、演出がとても印象的でした。
石井監督:根津さんはキャリアが長く、様々なところで活躍されてきましたし、この出演が最後だといわれると、「これが最後でいいのか」という気持ちに囚われながら撮影していました。後で、奥様から、根津さんが銃を撃つ稽古をされていたというお話をお聞きしたので、それなら一人で撃つシーンを用意すればよかったと後悔しましたね。根津さんはとても優しい人で、ファンの気持ちに応えようとそちらの方で一生懸命頑張ってしまう方です。それで身体を壊してしまう典型的な憑依型の役者さんでした。外国でも、物凄いことをやる役者さんで、体を壊し、精神を病んでしまう方が少なからずいます。そういった役者たちが纏った業やリスク、危うさを根津さんはいつも持っていました。
―――『GONIN サーガ』は、これから長く続く東出さんの俳優キャリアにおいて、どんな位置づけの作品になると思いますか?
東出:『GONIN サーガ』に携わることができたのは、誇りです。俳優業ではよくあるかもしれませんが、初めてのガンアクションであり、初めての人殺しという非日常な行為を経験できたのも『GONIN サーガ』でした。僕の俳優人生の中で、勇人同様に“弾けた”作品になったと思います。
―――最後に、石井監督がバイオレンスアクションを描く上で、外せない美学とは?
石井監督:雨と血と闇と逆光……かな。銃や刃物を持ちながらよろよろと立ち上がる、血がどんどん流れ出る男。それと逆境に屹立するファムファタール。この5つをどう組み合わせるかが、僕にとっての映画かもしれない。
(江口由美)
<作品情報>
『GONIN サーガ』
(2015年 日本 2時間9分)
監督・脚本:石井隆
出演:東出昌大、桐谷健太、土屋アンナ、柄本佑、安藤政信、根津甚八、竹中直人他
2015年9月26日(土)~TOHOシネマズ新宿、大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズなんば、OSシネマミント神戸、MOVIX京都他全国ロードショー
公式サイト⇒http://gonin-saga.jp/
(C) 2015『GONIN サーガ』製作委員会