レポートインタビュー、記者会見、舞台挨拶、キャンペーンのレポートをお届けします。

神戸が舞台!『シナモンの最初の魔法』インタビュー

cinamon-s-550.jpg『シナモンの最初の魔法』インタビュー

ゲスト:衣笠竜屯監督、白澤康宏(プロデューサー兼、黒葉役)、篠崎雅美(桂役)

・2015年 日本 1時間6分
・監督:衣笠竜屯
・出演:辻岡正人、栗田ゆうき、篠崎雅美、西出 明、松田尚子、白澤康宏、有北 雅彦
・2015年8月1日(土)から7日(金)まで元町映画館にて上映
公式サイト⇒ http://sweetsmpr.wix.com/cinnamon-cookie


 

~神戸の街を舞台の、心ときめくファンタジー~

 

あなたの前にいきなり、可愛い、白いエプロンをつけた少女が現れ、「私はシナモン、クッキーの妖精です。あなたをしあわせにするために、洋菓子のお店からやってきました」と言われたら、あなたはどんな顔をするだろう。

cinamon-550.jpg東京から神戸に出張でやってきた営業サラリーマンの川北龍成。契約は一つもとれず、上司からは、契約がとれなかったら倉庫にとばすと電話がかかる。このところ喧嘩ばかりの婚約者の桂からは、「食べたら幸せになるクッキー」を買ってきてほしいと何度も携帯に催促の電話がかかる。そんな龍成の目前に、いきなりチャーミングな少女シナモンが現れる……。


シナモンは落ちこぼれの見習い妖精。龍成を幸せにするという課題を与えられ、龍成につきまとう。シナモンの先輩の妖精メブキと謎の男、黒葉のほか、お菓子の学校のバニラ先生、妖精の仲間たちと、楽しい人物が登場する。龍成を演じるのは、総合プロデューサーでもある辻岡正人さん。今まで『クローズZERO』などアクションやホラー系の作品への出演が多かったが、本作では、自分で自分につっこむようなひとりごとの多い、人間くさい青年を演じていて、栗田ゆうきさんが演じる、ふわふわしたトリックスターのような、明るいシナモンとの組み合わせは絶妙。二人が、神戸の街を駆けめぐるドタバタ・ファンタジー・ラブコメディー。


cinamon-2.jpg映画は、龍成と桂が、互いの存在のかけがえのなさに気付くことができるかという話であると同時に、シナモンの成長譚でもある。シナモンが、自分の“生きる道”を見つけられるか…。“自分の幸せ”ではなく、自分が好きな人を“本当に幸せにする”ためには、どうあったらいいのか…。シナモンが唱える「お菓子の心得」の言葉が、映画を観終えた時、思いのこもった、あたたかいメッセージとして、あなたの心に届くにちがいない。


衣笠竜屯監督と、プロデューサーで黒葉を演じた白澤康宏さん、桂を演じた篠崎雅美さんにお話をうかがいましたので、ご紹介します。
 


 
◆お菓子の妖精シナモンについて

―――シナモンが本当に可愛くて、動きも楽しく、目が離せませんでした。シナモンのキャラクターはどのようにつくられたのですか?
cinamon-3.jpg監督:子どもの頃、お手伝いのコメットさんが魔法を使って手伝う『
コ メットさん』(1967~68年九重佑三子さん主演、1978~79年大場久美子さん主演)というテレビドラマがあり、学校でしんどいことがあっても、このドラマを観て、いやされたり、『メリー・ポピンズ』(1964年)というファンタジー映画を観て、次からはちょっと頑張ろうと思いました。映画ってそういう機能がありました。映画館に入って、ちょっと現実を忘れ、出た時には軽くなっている…、そういう映画をつくりたい。本作も、現実のつらいことを、ファンタジーとか神話、童話といった異界に助けられる話になっています。

シナモンの脚本段階でのイメージは、繊細で線の弱い少女という設定で、栗田さんのイメージではなかったですが、栗田さんをとおしてキャラがみえて、立ち上がってきたところがあります。シナモンがくるくる回りながら動いていくのは、栗田さんが自分で考えついてやってくれました。大半がアフレコだったのですが、遠くから撮影していて録音できない時でも、何度もウワワ~と声を出してやってくれました。


―――この映画をつくるきっかけは?
監督:私が監督した短篇『バニーカクタスは喋らない』(2012年)では、メブキというしゃべれない女の子が主人公で、サボテンと会話し、サボテンと友達になります。その映画では、メブキは人間という設定でした。辻岡正人さんがこれを観られて、2012年暮れに、辻岡プロダクションから一本つくってほしいとリクエストがあり、2年位かけて脚本を書き、昨年GWの5日間で大半を撮影しました。

 


 
◆色彩・特撮について

―――映画の始まり方もおもしろいですね。本が開いて、挿絵がそのまま実景に変わり、カメラがひくと、龍成の姿が映る。
監督:本が開いて、そこから映画が始まると、中に実景があって…というディズニーのような映画が大好きです。本好きの少年で、小学校の図書室に行って、30年くらい前の布張りの本とか探して、引っ張り出すワクワク感が大好きでした。

―――少しぼかしたような映画の色調は?
監督:私の考え方は、今の主流と違っていて、ピントが合ってリアルな色合いでやるという映画が多い中、子どもがクレヨンで描いたような映画があってもいいんじゃないかと思っていまして、そういう雰囲気にしたかったんです。

―――そういうイメージがあるから、UFOが出てきて文字まで出てきて(笑)、あれだけ大胆だと、楽しかったです。
cinamon-s-2.jpg白澤:あれはいろいろ意見ありましたが、衣笠監督ならではと思います。皆に何やってるのと言われながらも、絶対やらせてと引きませんでした。

監督:あれも無茶なことで、ないほうが映画としてまともと反対意見もありましたが、『コメットさん』でも、人間が風船の中に入ってしまったり、無茶なことをやっていて、最近そういうのがありません。

嘘というのが分かった上で楽しめるという特撮が、昔はあったと思います。今はCGでリアルに撮影された作品ばかりなので、レイ・ハリーハウゼン(特撮映画の監督)の映画のような、骸骨がガーツと上がってきて戦ったり、どうみても人形を動かしているのだけれど、おもしろい…そういう映画の可能性を追求したいと思いました。お菓子のお店も、小さいミニチュアをつくって映したら、若いスタッフから、監督、本気?と言われました(笑)。

 
―――シナモンがピョンと跳んで小さくなってミニチュアの家に入ったり、バニラ先生や妖精たちが、お菓子の学校の何かの画面で、シナモンと龍成の様子を見守っていて、賭けをしたり、助け舟を出したり、おもしろかったです。
監督:学校で画面を見ているシーンは、70年代の特撮の、皆で水晶玉に映る映像を眺めているイメージです。石森章太郎の漫画「二級天使」や、フランク・キャプラ監督の『素晴らしき哉、人生!』(1946年)のイメージで、皆で見ている感じを出したかったんです。

 


 

 ◆ファンタジーと現実が混ざり合うおもしろさ、神戸という街について

cinamon-500.jpg―――ファンタジーの世界に浸っている中で、いきなり黒葉が名刺を出して営業やら、現実の話になって、その対比が楽しかったです。
白澤:龍成がセールスマンで、持っている営業のチラシも全然ファンタジックではなく、どぎついちらしが映りこんできて、僕も現場でびっくりしました。あんな毒々しいものを売っている青年が、あんなピュアな恋をするというギャップがおもしろかったです。

監督:職業の設定をどうするかという時に、神戸のクッキーなら、東京のマムシドリンクだろう(笑)って感じになりました。

白澤:龍成のキャラと他のキャラクターのギャップがおもしろく、彼が現実のどぎつさみたいなのを引き受けて出てきてるのかなと、つまり人間側の人ということですね。ファンタジックなキャラの中に、一人、生々しい人間が混じっています。

監督: 『メリ-・ポピンズ』、『コメットさん』でも、現実とまるで違う異世界に行って、最後は、必ず現実に、家に戻ってきて、現実の中の問題も解決していて、そういうところが好きです。

ファンタジーって、神様の力というか、異界の力、異界のキャラクターの力を利用するみたいなところがあります。黒葉のクローバー薬局はきっとこれからもずっと続けるでしょうし、あのサボテンも育てるでしょう。そういうファンタジーのあり方があるのではないか。

魔法を使えるお手伝いさんが普通に街にいる世界が成り立ちそうなのが神戸で、ファンタジーと日常との境界があまりないような感覚が子どもの頃からあって、初めから神戸で撮るつもりでした。神戸は、百年位経っている古い家とか、西洋の家とか、子どもの頃から不思議な光景がありました。街を曲がると不思議なお店があって、そこに入ると魔法を売っていて、もう二度と行けないみたいな話があっても、違和感がない街並みが神戸です。
 



◆テーマについて

―――桂は電話のシーンでしか登場せず、はじめは、わがままで、いい印象を受けませんが、段々変わっていきますね。
監督:自分の心の中に世界を持っている人が、外とどうやってつながっていくか、そういう人同士がどうやってうまくつきあっていくのかを、『バニーカクタスは喋らない』の時からずっと考えていて、本作も、桂が心の中で、婚約者の龍成の愛情を受け取れるかどうかという葛藤の物語です。龍成のことを愛しているけれど、うまくいくか心配で、自分が愛に値するかどうか、相手を信じられるか不安。いわば、結婚する前のマリッジ・ブルーをどう乗り越えるのか。それで愛が壊れることもありますが、心の中に、お菓子の妖精や神様をつくりだして、異世界の力を借りて、不安や迷いを乗り越えて、相手とつながる、そういう物語をずっとやりたかった。


―――シナモンが成長する話でもありますね。
監督:シナモンが龍成に恋をするというのはどうだろうと言って、最初は大反対されましたが、シナモン自身が自分の使命を忘れて、恋敵になってしまうところがおもしろいと思って、スタッフを説得した覚えがあります。

脚本の時に、「お菓子の心得」みたいなのを入れようと言って、1条「人を幸せにすること」、2条、3条と考えてみて、スッタフに「本気?」と苦笑いされたりしましたが、言葉にするとシナモンの気持ちが伝わるかなと思い、やってみました。
 


 
◆観客の皆さんに向けて

cinamon-s-3.jpg監督:今は、上を向いて歩こうとは、気恥ずかしいとか、いまいちリアルじゃないとかで、言えなくなっていて、映画を観てほっとできるような作品は、案外つくろうとされていない気がします。だからこそ、そういう映画をつくりたくなっていると思います。

篠崎:何かをつかもうとするには、勇気が要って、手を伸ばさずにやめてしまうことが多いですが、この作品で、スタッフもキャストも頑張って手を伸ばしてみようとした作品です。登場人物が皆幸せになるのを観て、観客の皆さんにも幸せを感じてもらうと同時に、幸せをつかむことを恐れなくていい、そう思ってもらえる力があるかなと思います。

白澤:長い期間をかけて、全員参加で、意見を寄せ合いながらやってきたので、作品は監督のものですが、スタッフ、キャスト一人ひとりの思いがたくさん詰まった映画になりました。キャストにとっても本当に自分の作品だと思えるものになっていて、そこが伝わると嬉しいと思います。
 



本作は、神戸で1989年から活動している自主制作映画サークル「神戸活動写真倶楽部 港館」による自主制作映画です。撮影予定の5日間のうち、1日雨に降られて、予定どおりの撮影ができなくなり、その日のうちにメブキ役の松田尚子さんの撮影を完了させるため、急遽、屋根があるところで撮れるシーンを即興で考えたそうです。映画をたくさん観て、映画をこよなく愛する人たちが集まり、その力が結集された作品。神戸の街がとても魅力的に撮られており、ぜひシナモンに会ってみてください。

(伊藤 久美子)

cinamon-satuei-500.jpg

月別 アーカイブ