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「今までで一番すっと入ってきた」八千草薫さんの言葉に奮起『ゆずり葉の頃』中みね子監督記者会見レポート

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~心の原風景を探す母の秘めた決意とは?~

 
息子にある決意を告げると決めた戦中世代の母が、幼き頃の原風景を探す旅。それは淡い恋心を思い起こす旅になるのだった。故岡本喜八監督の妻であり、長年、岡本作品のプロデューサーを務めてきた中みね子さんが76歳で監督デビューを果たした。シナリオライターを目指していた初心に戻り、時間をかけてオリジナルシナリオを書き上げ、シニア世代の原風景や、子世代につなぐ思いを詩情豊かに綴り上げた『ゆずり葉の頃』。八千草薫×仲代達矢のゴールデンコンビの演技に、この上ない深みと温かさを感じることだろう。
 

<ストーリー>
海外駐在中の進(風間トオル)は、一時帰国の際に女手一つで育ててくれた母、市子(八千草薫)を訪れたが、母の姿はなく、画家、宮謙一郎(仲代達矢)の新聞切り抜きが残されていた。市子は、幼い頃に心の支えとなった絵を探し、一人で軽井沢を訪れていたが、探していた絵に出会えず、しばらく軽井沢に滞在することを決める。軽井沢で様々な人と出会ううちに、宮謙一郎が軽井沢に滞在していることを知るのだったが・・・。

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市子を演じる八千草薫の、おっとりとした物腰に潜む強い決意が、彼女が今まで過ごしてきた人生の辛苦を静かに物語る。人生の終いを迎えつつある中、戦中の貧しい中に希望を見出した青春時代の淡い思い出に触れるラストチャンスと突き動かされる市子の姿は、周りの人を動かしていく。市子と謙一郎が出会い、二人だけの時間を過ごすシーンは、積年の思いが優しく溢れ出し、胸を打つ。
 
大阪で行われた記者会見では中監督が登壇し、冒頭に、市子がお世話になった軽井沢の人々に手渡す飴や飴が入った布袋のエピソードを披露した。私たち記者陣も飴玉をいただき、「NGなことは何もありませんから、何でも聞いてください。映画公開時にも参りますので、ぜひまたお会いしましょう」と、本当に飾らない姿で接してくださった中監督。ゼロからのスタートとなった本作制作の経緯や、監督をしたことで体得したことなど、岡本喜八監督のエピソードも交えながら話してくださった記者会見の模様を、ご紹介したい。
 

 

■岡本喜八(監督)の語り部を卒業し、ゼロに戻ってはじめたシナリオ書き。八千草さんに「今までで一番すっと入ってきたわ」と言われ、映画にしなくてはとの思いが強まる。

―――『ゆずり葉の頃』制作の経緯、中みね子として監督デビューした理由についてお聞かせください。
中監督:学生時代にシナリオライターとしてデビューし、岡本喜八(以降喜八)と結婚してからもテレビの仕事等コツコツとシナリオを書いていましたが、才能のある人のそばにいると、自分の才能のなさが分かってくるのです。プロデューサー、子育てをしながらシナリオを書くのはやはり難しく、シナリオを書くことを断念しました。ただ、喜八の最後の作品『幻燈辻馬車』(映画化には至らず)で、アクションはもう撮れないからとシナリオを書き直す作業を喜八と一緒にしたことがありました。シナリオを読みながら直すという日活のやり方ですが、今思えば、最後に私にシナリオの書き方を思い出させるためにしてくれた気がします。
 

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喜八の七回忌を終え、もう喜八の語り部は卒業するときだと思い、ゼロに戻って何かをはじめようと旧姓の「中みね子」の名前でシナリオを書き始めました。八千草さんのご主人の谷口千吉監督は喜八の師匠なのですが、谷口さんは八千草さんを主演にした映画をいつか撮ろうと思っておられたようで、よく喜八とその話で言い合っていたのを八千草さんと横で聞きながら、「(あの二人より)私たちで撮った方がいいわよね」と話していたのです。そんなことを思い出しながら、八千草さんを主役にしたシナリオを2、3本書いたのですが、どうしても気に入らず、脚本家の青木研次さんにご指導を仰ぎました。「主食が少し増えるのはいいけれど、おかずの多い映画は面白くならない」と最終的には完全に一人で書くように勧められ、ようやくオリジナルの脚本が書きあがったのです。
 
早速八千草さんに読んでいただくと「今までで一番すっと入ってきたわ」と言ってくださり、もう本当にうれしくて。あんな美人に言われたら、なんとか映画にしなくてはとの思いがさらに強まり、喜八とのつながりや、目に見えない皆さんの励ましをいただき、長い歴史の中から生まれた作品となりました。
 
 

■八千草さんを中心に、風が吹いて止まることのないリズムを大事に。

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―――初めての演出はいかがでしたか?
中監督:撮影に入る前に、役者さんとは徹底的に話をしました。八千草さんには気持ちを全部お話し、準備の時間を取れたのですが、仲代さんからは「芝居中にこんなにセリフが覚えられるか」と言われたりもしました。仲代さんがお忙しいので、こちらの気持ちを全て書いたことをお話し、仲代さんからはセリフを削ったシナリオが戻ってきました。そこでまた八千草さんのセリフと調整したりといった作業を繰り返しました。演出部は私を入れて3人だけとコンパクトでしたが、その分やりやすくて良かったと思います。特にカメラマンには「八千草さんの所作や仕草など、全て彼女を中心に、風が吹いているような止まることのないリズムで撮ってほしい」とお願いしました。映画には映画のリズムがありますから、そこはまず大事にしたところです。
 
 

■映画監督の孤独さや陰の部分を、体で理解する。

―――初めての監督業に臨み、一番感じたことは?
中監督:よく喜八が「映画はEndがつかないとゴミにもならない」と言っていましたが、きっと上の方から「最後までできてよかったね」と言いながら見てくれていると思います。
作品が出来た後、自分の中でもっとこうすればよかったという思いが、どんな監督でもよぎるのでしょうが、喜八は自分以外立ち入り禁止の書斎に何分か籠って、私でも声をかけることができない時がありました。「孤独のカプセル」に入ってしまうのです。映画監督は他人のせいにはできない仕事で、総合芸術の長である映画監督の孤独や演出家という仕事の本質を、今回自分が監督することで少し覗かせてもらった気がします。仕事は頭で理解することと、体で理解することとは全然違います。そういう映画監督の陰の部分や孤独の部分を知ることができました。
 
―――ご自身で監督をされて、改めて岡本喜八監督を惚れ直したのでは?
中監督:喜八はいい意味で才能があり、大変厳しい人でした。よく、結婚した方がいいかと若い方に聞かれるのですが、一人ぐらいお互いの生き様を分かってもらう人がいてもいいのではないかとお話しています。子どもは縦のつながりなので、言わずともつながりがありますが、夫婦は横のつながりなので、お互いつなげようと思わないとつながりませんから。
 
 

■親の介護や家庭、会社で頑張っている息子世代にもぜひ見てほしい。

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―――『ゆずり葉の頃』はどのような世代に見てほしいですか?
中監督:最初は「善人ばかりの映画で大丈夫か」と言われたりもしましたが、私は、人を傷つけるために生まれてきた人はいないと思っています。どの人の中にもある優しさが出てきたらいいなと思い、シナリオを書きました。
 
『ゆずり葉の頃』は、知性が残っている間に、自分の終わり方を家族に伝える物語です。私は『楢山節考』が大好きで、あの中に老後が一番描かれていると思っています。この作品は、主人公の同世代はもちろんですが、世の中に出て、親の介護や家庭、会社で頑張っている息子世代にもぜひ見ていただきたいですね。
 
 

■人間の愛情表現はそれぞれ。ベッドシーン以上に心が揺れ動くようなラブシーンと思ってもらえたら、とてもうれしい。

―――八千草薫演じる市子と仲代達矢演じる謙一郎がダンスするシーンが非常に印象的かつ、心に残るラブシーンとなっていますが、どのように作り上げていったのですか?
中監督:八千草さんと仲代さんが手を合わせて踊るのは、バロック音楽のダンスを取り入れています。私はバロック音楽が大好きで、パリでロケをするシナリオを書いていたときにこのアイデアを思いつきました。実際は軽井沢ロケのストーリーになったので、音楽担当の山下洋輔さんに、日本の誰もが知っている「あかとんぼ」のように世界中の人が知っているような曲で八千草さんのテーマとなるメロディーを作ってほしいとお願いしたところ、「キラキラ星」を選んで、編曲してくださったのです。バロック音楽ではありませんが、二人とも子どもだった時代に戻してあげたいと思い、手を合わせて無邪気に踊っていただきました。このシーンは、仲代さん演じる謙一郎が抱えている心の原風景をイメージしています。10数分をワンカットで撮影しました。
 
私を知っている人たちからすれば、男みたいな私がラブシーンを撮るなんて想像できないみたいですが、人間の愛情表現は人それぞれです。ベッドシーン以上に心が揺れ動くようなラブシーンが撮れていたら、またそう思っていただけたら本当にうれしいです。
 
―――岡本喜八監督は、この作品をご覧になったらどうおっしゃると思いますか?
中監督:喜八は他人の作品の良し悪しは絶対言いませんし、作り手としていかに映画監督が辛いかを知っている人ですから、「途中でおかしくならずに、ちゃんと皆さんに観ていただける作品が出来てよかったね」と、上から言ってくれているでしょうね。
(江口由美)
 

<作品情報>
『ゆずり葉の頃』(2014年 日本 1時間42分)
監督・脚本:中みね子
出演:八千草薫、仲代達矢、風間トオル、竹下景子、六平直政、嶋田久作、本田博太郎、岸部一徳他
5月23日(土)~岩波ホール、6月20日(土)~シネ・リーブル梅田、7月18日(土)~元町映画館、7月25日(土)~京都シネマ、今夏、シネ・ピピア他全国順次公開
※第36回モスクワ国際映画祭特別招待作品
公式サイト⇒http://yuzurihanokoro.com/
(C) 岡本みね子事務所