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『千年の一滴 だし しょうゆ』柴田昌平監督インタビュー

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~日本に生まれて良かったと思える、「食」とその奥の「命」を感じるドキュメンタリー~

 
2013年12月、無形世界文化遺産に登録された和食。その中でもだし、しょうゆは和食の核となる存在だ。そのだしとしょうゆを、ネイチャードキュメンタリーのように美しい映像で、その素材や思想まで掘り下げ、和食を守る人たちの仕事ぶりにも目を向けたドキュメンタリー、『千年の一滴 だし しょうゆ』が関西でいよいよ公開される。

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4人の高校生が、森の生活の名人に直接インタビューし、名人の生き方や仕事に対する姿勢などを「聞き書き」する様子を紡いだ柴田昌平監督の前作『森聞き』と通じる、鰹節名人、椎茸名人、醤油名人…と和食を守る名人たちの仕事ぶりを丹念に追い、それらが集結してできあがった黄金色のだしがポトリとしたたる音、椎茸が発育し花のように開いていく様子、海中でダンスするかのように優雅にゆらめく昆布など、美しい映像と研ぎ澄まされた音で和食の魅力が静かに伝わってくる。観終わって、「鰹節を削りたい!」と思う人は私だけではないだろう。
 
その一方で、動物、植物関係なく「命をいただく」という考え方や、禅寺のシーンでは食事の最後の一粒ずつを差しだし、鳥たちに分け与えることで、地球上に生きる者が常に他人を想い、共生しているのだと実感する。
 
インタビューで、柴田監督が「映画そのものはそんなにインパクトのあるストーリーではないし、声高に何かを訴える訳ではないけれど、おだしのような映画ですよね」とさらりと口にされ、私は思わず唸ってしまった。目に耳に沁み込んでくるようなこのドキュメンタリーが、でも見終わったときに自分の食生活を見つめ直したくなったり、真の和食に触れたくなり、さらには六味の一つと言われる「淡味」の役割に深く共感したりする。本当に色々な気付きを与えてくれ、最後に「ああ、日本に生まれて良かった」と思えた。
 
撮影当時以上に今は和食離れが進み、和食を守る職人たちが廃業せざるをえない状況を招いているという話も含めて、柴田監督に、持ち込み企画からスタートした本作の狙いや、撮影や調査を通じて得た気付き、和食の原点のお話を伺った。
 

 

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━━━前半のだし編はネイチャードキュメンタリー、後半のしょうゆ編は科学ドキュメンタリーのようでしたね。
春日井康夫カメラマンは、このプロジェクトで初めて一緒に仕事をしたのですが、前作の『森聞き』を見てくれ、すごくいいから一緒に仕事をしたいと連絡をくれた人なのです。普段は自然を撮ることが多い人なので、面白いコラボレーションになったと思います。ベーシックにはネイチャードキュメンタリーですね。この撮影のときは最後の7,8ヶ月は京都に家を借りて撮影していたのですが、食を扱いながら、その向こうにある自然をどう撮ろうかと、ずっと考えていました。
 
━━━そもそも柴田監督がだしやしょうゆに興味を持ったきっかけは?
一番自分が興味を持っていたのは椎茸だったんです。『森聞き』を撮った後、クニ子おばあちゃんのもとに1年間住み込みながら、クニ子おばあちゃんのテレビドキュメンタリーを作りました。焼き畑は元々やりたかったテーマで、環境破壊だと悪者扱いされていますが、実際にどういう知恵があるのかを見たいと思ったのです。僕の映画の師匠は姫田忠義さんなのですが、姫田さんも「焼き畑は大事だと」おっしゃるし。森の一年を撮る中で、森の循環はキノコなのだと気がついたんです。キノコがあるからこそ、森の中で次の10年、20年があるというサイクルが面白いじゃないですか。
 
 
━━━今回椎茸の話も出てきますが、そこに一番興味を持っていらしたのは意外でした。
椎茸は400年前までは滅多に取れないものだったらしく、椎茸は超貴重で見つけたらお代官様に献上しなければいけないものだったのが、たまたま焼き畑をやったり、杉焼きをやっている作業の中で鉈に芽が入っているのに気づいた人がいた。そこにどんどん工夫を重ねていった訳です。あの方法が発見されたのは江戸時代初期なんですよ。きちんとそういうことを発明した人がいたということを膨らませたかった。今まで焼き畑とキノコを一緒に語った人は誰もいなかったと思います。
 

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━━━だしとしょうゆのドキュメンタリーというのは、監督の持ち込み企画だったのですか?
日本のドキュメンタリーはなかなか海外で見てもらえない現状があります。小川紳助さんは別格ですが、NHKのドキュメンタリーでも全く相手にされませんし、僕が作ったドキュメンタリーをヨーロッパで見てもらえることがほとんどない状況でした。2011年12月にインディペンデントの制作者集団が、世界のプロデューサーたちを30人ぐらい招致し、企画をプレゼンテーションを行う東京TVフォーラム(2013年12月から東京DOCSに改名)を始めたのです。ヨーロッパはテレビと映画の敷居が低いので、フランスやサンダンスの財団の方等助成金を出す人の前で私もプレゼンテーションを行った結果、助成対象に選ばれました。
 
 
━━━海外のプロデューサーに評価されてスタートした企画とのことですが、日本のプロデューサーと違う部分や、やりやすさはいかがでしたか?
そのときに面白いと評価してくれたのがフランス人だったのですが、すごく地味なテーマなので、日本のお祭りの映像とか、エキゾチックな映像を入れた方がいいのかと思い、そのフランス人のプロデューサーに一度聞いたことがありました。すると「エキゾチズムはいらない」と明快に言ってくれたんです。「例えば整備された風景がきれいだというのは、みんな自然を支配しているのだ。君がやろうとしていうのは、それとは違う自然感だろう?人間と自然の境目がないものを撮ろうとしているのだったら、そこに踏み込んでやるべきだ」。なかなかこういう風に言ってくれるプロデューサーは日本ではいないです。とても本質的なことを言われたので、そこに集中することができました。迷わず専念できる環境だったです。
 
 

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━━━京都の旧家で泊まり込んでの撮影だったそうですね。
しょうゆ編を主に京都で撮影したのですが、カビを撮るのは結構大変なので、京都大学の先生にセカンドハウスを貸していただいて、一室は真っ暗のまま28度にして、カビを生やしながら、隣にベッドを置いて常に撮影しました。
 
 
━━━種麹屋さんの代々菌を守ってきた努力に目を見張りました。
助野さんたちはものすごく研究をしていて、お米のレントゲン写真も持っています。同じ麹菌アスペルギルスオリゼもいろいろな種類や性質があり、それを持っているわけです。遺伝子情報だらけのものを売って、商売あがったりにならないのかとよく聞いたのですが、性質を守るのが大変だから、大丈夫だとおっしゃっていました。日本酒屋が健全で、しょうゆ屋がいきいきとしている限りは大丈夫だと。一番問題なのは、日本酒を飲む人が減っているし、化学調味料がでてきていることですね。そういうことが一番種麹屋さんを厳しい状況に追い込むのです。
 
 
━━━鰹節作りの職人、今給黎さんのところも足しげく通われたのですか。
そうですね。ただすごく残念なことに、今はあの本枯節を作れなくなってしまいました。原料が値上がりをするけれど、売値は変わらず、それだけでは生活が成り立たなくなってしまったので、本枯節は少量しか作らず、もう少し手間がかからない鰹節にシフトしてしまっています。
 
 
━━━是非、手間暇かけた琥珀色の本枯節を削ってみたかったのに、残念です。
問屋さんからも情報を得ていたのですが、よく「和食が世界遺産だと言うけれど、過去の遺産だ」と言われていました。しょうゆ屋さんも小さなその土地ごとの味を大切にしているところは、本当に経営的な部分でギリギリのところで踏ん張っていらっしゃいます。澤井さんも、廃業しようと思っておられたところで、機械がなにもなく、本当に昔ながらの作り方しかできないところに出会った訳です。
 

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━━━お寺のエピソードで紹介されている「淡味」は人にも国の姿勢にも当てはまると思いました。この淡味を含めた「六味」を紹介しようと思ったのはなぜですか?
道玄が1237年に記した「典座教訓」で、食事はとても大事だと説いています。最初は食なんて大したことがないと思っていた道元が、学問を極めようと中国に留学したところ、道元が持参した、当時は貴重品の椎茸をきちんと調理したいと現地の名僧に言われたそうです。なぜそんなに椎茸が大事なのかと道元が聞くと、「食は日常の様々な物事の中でもっとも大事なことの一つ。食をおろそかにして何で頭でっかちの思想を唱えられるのか」と言われ、その中にでしゃばらない、そのものはすごく主張はしないけれど、すべてのほかの要素のものを調和させていく「淡味」というものがあったのです。ドキュメンタリーづくりも、人から聞く一方、こちらはベースを作っていくわけで、淡味的な要素がありますね。
 
 
━━━なるほど、曹洞宗大本山總持寺での食の修業は、和食の思想の原点を見た気がします。
禅寺の話がなかったら単なる食材の話になってしまいます。人が自然を利用しているという話はできますが、その奥にある理念を伝えたい。常に自己主張したがるヨーロッパの人たちに向けて、そうではない発想の人たちが生み出したということも伝えたかったですよね。最初から、これはやりたかったことでした。
 
 
━━━最後に、お母さんが自分で削った鰹節からだしをとって、赤ちゃんの初めての離乳食を食べさせているシーンは、自分がそこまでこだわれなかった分すごく驚いたし、希望が見えましたね。
築地の鰹節問屋さんが教えてくれたのは、「鰹節の売れ行きはあまりよくないけれど、たまに和食に興味のあるお母さんが買いに来てくれるんだよ」と。今多くの子どもは朝がパン食、昼の給食がパン、夜にはパスタみたいな食生活で、煮物なんて食べない子どももいるそうです。このままでは、鰹節屋さんもしょうゆ屋さんも、椎茸づくりも減ってしまいます。椎茸づくりをやめてしまうと広葉樹がなくなってしまいますから。そういう状況の中で、食に関心の高い若いお母さんは、まさに作り手にとって希望なのです。(江口由美)
 


 
<作品情報>
『千年の一滴 だし しょうゆ』
(2014年 日本・フランス 1時間40分)
監督:柴田昌平 
出演:藤本ユリ、三浦利勝さん一家、今給黎秀作、坪川民主、椎葉クニ子、澤井久晃、大野考俊、助野彰彦、福知太郎、加藤宏幸他
語り:木村多江(「だし」)、奥貫 薫(「しょうゆ」)
2015年2月21日(土)~第七藝術劇場、2月28日(土)~神戸アートビレッジセンター他全国順次公開。
※2月21日(土)10:30 / 12:40ともに柴田監督、澤井久晃さん(本作出演者・京都の醬油職人)トークイベント 「枯れ木に花を咲かせましょう!」 
 2月22日(日) 10:30 / 12:40ともに柴田監督+山中政彦さん(鰹節問屋・大阪鰹節類商工業協同組合) トークイベント「さまざまな鰹節の違い」試食あり