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森川葵×菅田将暉が魅せる青春のまわり道~『チョコリエッタ』風間志織監督インタビュー

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~森川葵と菅田将暉が表現する青春のさすらいと映画愛~

 
『劇場版零~ゼロ~』や宮藤官九郎脚本ドラマ『ごめんね青春!』で見事な存在感をみせた新星森川葵と、『そこのみにて光輝く』、『共喰い』といったシリアスドラマから、ファンタスティックな女装を披露した『海月姫』まで作品ごとに様々な顔を見せて我々を魅了する菅田将暉。この2人だからこそできる独特の空気感を楽しみたいのが、青春ロードムービー『チョコリエッタ』だ。大島真寿美の青春小説『チョコリエッタ』を、風間志織監督が約10年の構想を経て映画化した。作品中には巨匠フェデリコ・フェリーニ監督の『道』が様々な角度から取り上げられ、名画ファンなら思わずニンマリしてしまうようなシーンも盛り込まれている。
 
東日本大震災を経験することで、空想と近未来のリアルが入り混じる物語へ昇華させた風間監督に、主役二人のことや、10年もかけたという制作の経緯、全編に渡ってさりげなく滲む放射能の描写や関西と関東反応の違い、風間監督ご自身の映画原体験についてお話を伺った。
 

■知世子役の森川葵と政宗役の菅田将暉について

―――今、最も旬な二人のキャスティングですが、森川さんが知世子役に選ばれた経緯を教えてください。
原作では知世子がムシャクシャして髪を切って坊主頭になるところから始まるので、坊主頭になってくれる人を探す必要がありました。事務所に「坊主頭にしてくれる女の子はいますか?」と声をかけてオーディションをしたのですが、なかなか人数が集まらず10人ぐらいの中から選考していきました。お会いした中で、森川さんは「この子が知世子だ」と思うような不思議な雰囲気を持っていましたね。他の子は知世子役をするために髪を切ろうとします。「髪の毛切るのは大丈夫です。頑張ります!」という人がほとんどである中、森川さんは「一回坊主にしてみたかったんですよね」という感じで、全く気負いがなかったです。
 

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―――なるほど、オーディションでもかなり独特の雰囲気を放っていたとのことでしたが、撮影中はいかがでしたか?
森川さん演じる知世子が面白いので、そこから映画が出来てきました。最初リハーサルをしたときに「森川さんはできるな」と思っていましたが、そんなにすぐに役作りができるとは思っていなかったのです。森川さんだけ先にリハーサルをしていると、ものの数十分で彼女の中からすっと知世子が出てきたのです。「それだ!」と私が言ってから、すぐに知世子が出来上がっていきました。こんなことがあるのかと思うぐらいの速さですね。森川さんは猫を飼っているのですが、本作では犬の鳴きまねをしなくてはならなくて、最初はうまくできなかったんです。初日は「犬ってどうやって鳴くんですか」と聞いてきましたが、二日目は自分で研究してきたようで、「鳴けますよ」と。
 
 
―――菅田さんのキャスティングはどのような形で実現したのですか?
男の子も同時にオーディションをしたのですが、なかなかいい子が見あたらなかったのですが、キャスティングに関する情報が事務所にも流れるようで、菅田くんの事務所の方から「この期間だったらスケジュールが空いてるけれど」と打診してくれました。
 
 
―――正宗演じる菅田君は知世子を輝かせる役どころですが、見事に受け身の役に徹していました。何か監督から演出されたのですか?
自由にやっていましたね。菅田君はしっかりしていて、自分が違うと思えば「僕は違うと思う」とはっきり言ってくれました。私はそういう役者の方が好きなので、やりとりをしているときは面白かったですね。菅田君が着用していたアロハシャツは、おじいさんの服という設定でビンテージものばかりを集め、その日の気分で菅田君に選んでもらって決めていました。役作りの一環ですね。正宗は結構文語的な言葉を話しますが、それもキャラクター作りに役立ちましたし、菅田君だから違和感なく自然に演じられる。それは非常に大きいと思います。
 
 
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■フェデリコ・フェリーニの名作『道』と『チョコリエッタ』の関係について

―――二人の空想めいた世界が見事にフェリーニの『道』とリンクしていました。
自分の子どもの頃を思い出してみると、辛いときには空想していました。空想の世界が一番居心地が良かった時代が自分にあったので、その感じを知世子と正宗の二人に対しても非常にスムーズに当てはめることができたのでしょう。20歳前の年代の人たちにとって、フェリーニや小人の世界に入っていくことは、ごく自然だと思います。
 
―――風間監督は、若い頃からフェリーニがお好きだったのですか?
フェリーニは好きでしたが、『道』という映画はよく分からなかったというのが正直なところです。ただ、『道』は『チョコリエッタ』には絶対的に必要なので、たくさん使用しています。「『道』にオマージュを捧げる」とよく言われますが、原作に登場するから使用しているのが本当のところで、個人的にはおこがましいと思っています。原作でも「私は、前は死にたいと思っていたわ」という『道』での台詞が出てきますし、(『道』でジェルソミーナを演じた)ジュリエッタ・マシーナから愛犬の名前を取っているので、この物語を語るのに『道』は絶対にはずせません。ただ、本物の映像も音楽も一切使用を許可してもらえなかったので、テレビで『道』を鑑賞しているシーンは合成ではなく、一から作り込んでいきました。きちんと作らないと、それこそフェリーニに申し訳ないですから。名作だからこそ遊んでいいのではないかと思って、まじめに遊びました。
 
―――森川さんと菅田さんは、『道』を観たことがあったのですか?
二人とも最初は『道』のことを全然知りませんでした。『道』製作60周年でブルーレイのニュープリントをイマジカさんが焼いたこともあり、主要な役者さんを集めて試写に行かせてもらいました。今回高校生役の子たちは全員観ています。森川さんは「私、全然分からなかったです。でも知世子って分からなくていいんじゃないですか?」といった感想でした。確かに、『道』を好きなのは知世子の両親ですから、知世子自身が理解する必要はありませんよね。 菅田くんは「すごく良かった。俺、昔女の子にザンパノみたいなことをしたことがある」と言っていました。
 

■『チョコリエッタ』映画化のきっかけと、大きな影響を与えた東日本大震災/原発事故について

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―――10年近くの構想を経て作られたそうですが、『チョコリエッタ』を映画化しようとしたきっかけや、それだけ時間がかかった理由についてお聞かせください。
原作に惚れ込んだ知り合いのプロデューサーから、この作品を映画化しようという話が出たのは2007年~2008年頃です。原作者の大島真寿美さんと私は偶然知り合いで、大島さんが『それでも彼女は歩き続ける』という映画監督が主人公の作品の取材で私に声をかけてくださり、取材がひと段落したときに「『チョコリエッタ』を映画化したいという話があるのだけど、監督が決まっていないのよね」「それって私じゃないの?」「この作品は風間さんよね」ということで映画化に向けてのプロジェクトが始まったのです。そこからすぐに脚本を書き始め、資金集めを始めたのですが、なかなか思うように集まらず、企画をしばらく寝かせておくことになりました。
 
―――企画を寝かせていた間に東日本大震災が起きた訳ですが、作品を見ているとその影響が色濃く感じられます。
震災が起こったときに最初は自分の子どもを守ることを考えはじめていました。ただ時間が経つにつれて、日本が変な方向に来ている気がして、「おかしいな、これは。全てを隠そうとしている」と思うようになりました。東京には確実に放射能が降っているのに、そんなことを微塵も感じさせないようなふりをしている。福島の人を政府の人たちが誰も守ろうとしないことがすごく気持ち悪かったのです。でも、これは昔からあることがはっきり見えてきただけで、ずっとこのような世界であることが震災後はっきり分かっただけなのだと悟りました。そこで映画を撮る人間として何を撮るのかと考えたときに、『チョコリエッタ』のことをふと思い出したのです。『チョコリエッタ』は若い少年少女が自分の中で感じていたぐちゃぐちゃした悩みや憤りを、映画を撮ることで解消していくというお話です。これからの子どもの未来は私たちが子どもの頃より見たくない、辛いものになる可能性がある中で、そういう辛いものや若者の憤りを3.11以降の時代に置き換えてもすんなりくるのではないか。それが自分の中でカチッと合わさった感じで、脚本を書き直し、絶対に撮ると決めて動いていきました。
 

■『チョコリエッタ』に対する関東と関西の反応の違いについて

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―――教室の後ろに置かれた生徒の遺影がある風景や、寂れた商店街など、福島をどこか感じさせるような表現がいたるところに見られますが、本作の時代設定は?
2010年夏の原爆事故が起こる前から物語は始まります。それから11年後、千代子が高校生になった2021年のお話で、少し近未来ですね。このままではどこで地震が起こっても原発が爆発する可能性があるわけです。前から指摘されていたし、さらに実際に事故が起こっても何も変えようとしないですよね。福島とは限定しないけれど、放射能のイメージをちりばめていますし、近未来の設定にしたのも「どこでもありうる」という意味が込められています。
 
―――政治的な方向で表現するのではなく、映像に凝るところから入っていますね。
政治的なことを匂わせはしようと思って、周りに配置していますが、それに関しては一言も言わずに感じさせるということをやりたかったのです。今の世の中って、そんな感じですよね。どれだけ不安はあっても、普段は何も言わないで暮らしている。そういう人多いから、匂わせる表現で分かってもらえるかと思ったのです。
 
―――東京のマスコミから、放射能の描写に関する質問は来ましたか?
全くこないです。大阪の記者の方は皆放射能に関する部分を聞いてくるので、とても健全だなと(笑)。東京国際映画祭のQ&Aでも、1日目に司会者との話でも、なぜ撮ろうとしたのかと聞かれ「3.11があったのでどうしても撮らなければならないという思いがありました」と答えると、「ああ、そうですか」でさらっと終わってしまいました。2日目にようやく客席から(放射能に関する)質問があったのですが、「こんな場所でこんなことを聞いていいか分からないのですが、この表現は放射能を表しているんですよね」と。質問してはいけないことだと皆が自己規制しているのかと思い、ビックリした覚えがあります。言わない方が逆にリアルだと思い、映画で雰囲気だけ映し出そうと思ったのですが、それすら言及しないぐらい東京はひどい状況だったのだと、大阪に来てようやく気づきました。分かりやすく表現したつもりなのに誰も質問しないので、「こんなに分かりにくい映画を撮ったのか」と実は悩んでいたのですが、大阪では普通に皆が質問してくれたのでホッとしました。
 

■風間監督が高校時代の映画にまつわる原体験について

―――風間監督ご自身は、知世子ぐらいの年頃の時にどんな映画を観ていたのですか?
フェデリコ・フェリーニ、鈴木清順、スタンリー・キューブリックに最初の衝撃を受けました。フェリーニは『サテリコン』というローマの貴族が酒池肉林するようなメチャクチャ狂った作品、鈴木清順さんは白黒の『殺しの烙印』、そしてキューブリックの『時計じかけのオレンジ』。映画ってなんだか分からないけれどすごい!という言葉では言い表せられない衝撃ですよね。
 
―――高校時代から映画を撮り始めたのですか?
クラスの文化祭の出し物用で、劇をするぐらいなら映画にしないかと提案したのが最初でした。ある女の子が白血病になったと同時に未来が見える能力を持ってしまうという設定で、今を楽しむしかないと学校をムチャクチャにして死ぬというストーリーでした(『お楽しみは悲劇から』)。ただ学校をムチャクチャにするくだりで、台本にたばこを吸ってお酒を飲むと書いていたら、先生にチェックを入れられてしまうし、家で編集作業を頑張ったために学校を休んだりしたため呼び出され、文化祭での上映は却下されてしまったのです。結局クローズドで上映を許可されたところ、最終的には文化祭での上映も許可されたことを今思い出しました。意識はしていなかったけれど、そういう自分の経験があったからこそ、『チョコリエッタ』を撮ったのだと思います。
 

■「だって映画は永遠だから」

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―――映画研究会のメンバーが作った短編アニメの中のセリフ「だって映画は永遠だから」。そして知世子が自宅で途中からフェリーニ作品を見ようとしたときに父親が言ったセリフ「初めてはもっと大事なものだ」。どちらも非常に印象的でした。
この2つのセリフは、原作にあったもので、一言も変えていません。原作の中に入っている言葉は、変える必要のないものはそのままやりたいし、そういう日本語で自然に演じたてもらいたいという意図で作っています。「だって映画は永遠だから」は小説『チョコリエッタ』で絶対に言わせなければいけないセリフです。そこが良かったと言ってもらえるのは、とてもうれしいですね。
 
―――風間監督ご自身も「映画は永遠だ」という気持ちで、撮っているのですか?
私はそうでもないですよ(笑)「永遠だったらいいな」ぐらいの気持ちですね。高校生の子が「映画は永遠だ」と信じていることがいいのだと思います。私自身はそこまで純粋でもないし、「フィルムもなくなるし、どうするんだ」という気持ちが強いです。フィルム時代は永遠に保存されるのかもしれませんが、これからデジタル化していくとデータを書き換え続けなければいけないので、永遠かどうかはこれから実証されていくでしょうね。
(江口由美)
 

<作品情報>
『チョコリエッタ』
(2014年 日本 2時間39分)
監督:風間志織
原作:大島真寿美『チョコリエッタ』角川文庫
出演:森川葵、菅田将暉、市川実和子、村上淳、須藤温子、渋川清彦、宮川一朗太、中村敦夫
2015年1月17日(土)~新宿武蔵野館、1月31日(土)~テアトル梅田、2月以降、元町映画館、京都シネマ他全国順次公開
©寿々福堂/アン・エンタテインメント
※第27回東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門出品作品
※第39回香港国際映画祭正式出品

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