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「この映画で一子として闘ってみたい」~『百円の恋』主演、安藤サクラさんインタビュー

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~安藤サクラが全身全霊を注ぐ!時価百円の女“一子”のイタくて痛いパワフル再生劇~

 
伝説の映画俳優、松田優作の出身地である山口県で毎年開催されている「周南『絆』映画祭」。2012年に創設された脚本賞の松田優作賞において栄えあるグランプリに輝いた『百円の恋』を、『イン・ザ・ヒーロー』の武正晴監督が映画化した。オーディションによりヒロイン一子役を射止めた安藤サクラ、一子が恋するボクサー狩野役の新井浩文をはじめ、個性豊かなキャストたちが揃い、笑いを交えながら人間の可笑しさや弱さ、そして強さを描き出す。
 
32歳で実家に引きこもり、だらけきった生活を送っているヒロイン一子。百円ショップでアルバイトをし、一人暮らしを始め、ボクサーに恋をし・・・と気が付けば自分がボクシングを始めているのだから、「人間は気持ち次第でいつでも変われる」と大いに勇気づけられる。ジャージ姿から脇腹のはみだした贅肉が目を引く自堕落な一子や、引き締まった身体、獣のような鋭い目で一心不乱にパンチを繰り出す一子を、安藤サクラが見事に表現。仕事も恋もパッとしない、イタイだけの女、一子が、痛いパンチを喰らいながら、人間として大きく成長する。まさにボクシングを通して安藤サクラ=一子が放つ爆発的なエネルギーにノックアウトされそうな、しびれるぐらいカッコいい作品だ。
 
本作で一子を演じた主演の安藤サクラに、一子役に対する思いや、非常に難しかったという役作り、死ぬ気で練習を積んだというボクシング、そして新井浩文との共演についてお話を伺った。
 

■もし一子を演じられるのであれば、自分のやれることは全てやろうと思った。

―――脚本を初めて読んだ時、一子に対してどんな印象を抱きましたか?また、「一子役を演じるのは自分しかいない」と思えるぐらいオーディション段階から役に入り込んでいたのでしょうか。
安藤:とても素敵な脚本だったので、自分以外のキャスティングも頭の中で考えたりしました。どんな人が演じたら面白いのだろうという風に考えてしまうほど、すごく魅力を感じる役で、「この役を絶対に勝ち取ってやる」という気持ちとはまた違いますね。もちろん、やりたいと素直に思いましたし、私自身この映画で一子のように闘ってみたい。また、自分がそのように思える作品のオーディションを受けられることにも幸せを感じました。オーディションを受けるときも、「もし受からなければ、それでもいい」というふっきれた気持ちでした。それは受かる、受からないという次元を超えて、この作品がとても好きだったのです。
 
―――オーディションにはどういう心意気で臨みましたか?
安藤:もし一子を演じられるのであれば、自分のウンコみたいなものを全部出そうと思っていました。私は割と醜い女性の役や、だらしない女性の役を演じることが多く、オファーされる役が偏っていることを、気にした時期もありました。でもオーディションでこの役が決まったら、今まで演じてきただらしなさや醜さを全部出してやろうと思ったのです。逆に「ウンコでも何でも、ケツの穴でも映しやがれ!」というぐらいの気持ちで臨みました。
 

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■この作品に臨んだことは「人生最大のわがまま」

―――見事一子役を射止めてから、どのように役作りをしていったのですか?
安藤:自分のやれることは何でもやろうと思いました。一子は最初すごくだらしがない女です。私はそのだらしない部分に説得力がないとイヤなのです。見た目の説得力があるかないかで、この作品の面白さは違ってくると確信していました。たとえ監督が「いいよ、そこまで汚くならなくても」と言ったとしても、自分がもっとやりたいという気持ちが大きかったです。
 
ボクシングに関しても妥協したくはなかったです。「ウンコも出す」と決めたのだから、どんなに過酷なことでも出来てしまう。この作品で「死ぬ気でやる」という言葉の意味が分かったというぐらい、ボクシングの練習は過酷でした。
 
ただ、難しかったのは身体のコントロールです。ボクサー体型に絞らなければならないし、その一方で前半の一子はできるかぎり太らせたい。その部分は本当に苦労しました。でも撮影を終えて、この作品に臨んだことは「人生最大の幸せなわがままだった」と思いましたね。
 
―――撮影期間はどれぐらいでしたか?
安藤:撮影期間は2週間です。順撮りではなかったですし、下着姿の時は太っていたいので、それまではとにかく食べて太った体型をキープして、下着シーンの撮影が終わり、試合シーンまでの10日間で身体を絞りました。
 
―――一日の中で、太っているシーンと身体を絞り込んだ後のシーンの両方を撮影することがあったそうですね。
安藤:不思議なもので人間の顔つきは、気の持ちようで変わるみたいです。冒頭の一子は全く筋肉を使わないような生活をしていますから、顔の筋肉からはじまって全身の筋肉を全て弛緩させました。次に絞り込んだ後のシーンをいきなり撮るときは、1ラウンドぐらいミットを打ちました。格闘技をすると顔つきが変わりますし、むくみも取れて、それでどうにか乗り切りました。
 

■新井さんと俳優としての妥協しない部分は同じ気持ち。『百円の恋』の武組は、皆一緒に闘ってくれた。

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―――狩野を演じた新井さんとの共演はいかがでしたか?
安藤:身体を絞るという点で、新井さんが一緒だから頑張れた部分は大きいです。新井さんはプロのボクサーと同じメニューを撮影中も続け、身体を絞っていました。撮影の試合の日を本当の試合の日と想定して、水すら一滴も飲まないぐらい過酷なメニューをこなしていたのです。ボクシングを題材にした映画の中でも、なかなか男女2人ともボクサーで、身体を絞るようなケースはないので、私はとても心強かったです。お互い俳優としての妥協しない部分は同じ気持ちだったので、本当に一緒に頑張れたと思います。新井さんと一緒の現場はとても心地よくて、一緒に作品を作っている感じがとても強く、素直な、シンプルな気持ちで居られます。武監督も新井さんも、スケジュールや減量や身体の作り込みなど、肉体的にはきつい現場でしたが、精神的にはとても満たされていて、「なんて幸せな現場だろう」と感じていました。『百円の恋』の武組は、皆で一子のように一緒に闘っていました。
 

■「いつかボクシングと映画を一緒にできたら」中学時代抱いていた憧れに近づく。

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―――安藤さんはボクシング経験があったそうですが、ボクシングをはじめたきっかけは?
安藤:ボクシングがちょっとカッコいいなと思ったのは、中2の頃です。不良になりたくて始めたのですが、すごく真面目にボクシングをやってしまいました。新井さんに最近、「ボクシングをやっているから不良ではなくて、不良が更生するためにボクシングを始めるんだよ。逆だよ」と指摘されて、やっと勘違いに気づきました(笑)。
 
―――中学生でボクシングを始めた頃は、女優になろうと思っていたのですか?
安藤:ボクシングに出会ったときと、映画の現場を初めて経験した時期が同じだったのですが、今回私が『百円の恋』で一子を演じたような職業を女優と呼ぶのであれば、そういうことをしたいと思っていました。肉体的なことを除いても一子という役柄はとても難しかったけれど、周りのキャラクターも本当に素敵で、そこにも惹かれました。ボクシングを始めた頃に、『ガールファイト』というボクシング映画が公開され、自分が熱中しているボクシングと映画が一緒になっているのを観て、いいなと思う反面、少し悔しかったのです。その頃女子でボクシングをしている人がとても少なかったので、それからずっと「いつかボクシングの映画ができたら」ということが頭の中にありました。だから、ここまで一子という役に執着したのでしょう。『百円の恋』に出演したことで、当時抱いていた憧れに近づけた気がします。
 

■ボクシングというスポーツに感謝。「映画だから」「俳優がやる程度だから」と見られないように、プロになるつもりで練習。

―――安藤さんの人生において、ボクシングは映画と同じぐらい大切なのでしょうか?
安藤:私はボクシングというスポーツに感謝しています。私が生きてきた28年間の中のたった1年だけど、ボクシングを習っていたことの影響ってとても大きいんです。だから、ボクシングの関係の方々が「映画だから」「俳優がやる程度だから」と見られないようにと思いました。一子のキャラクター的にはそこまでのレベルは必要なかったかもしれませんし、実際最初の脚本段階ではもっとへなちょこでした。でも、思っていたより、10数年ぶりでも身体がボクシングを覚えていたことで、監督の中でもここまで上手くなればという制限がなくなったようです。上手くなれば上手くなるほどいいという感じでした。自分はプロになるつもりで練習しました。それは過酷なトレーニングでしたが、最終的に本当にプロテストを受けないかというお誘いをいただけたのでホッとしました。少し心は揺らぎましたけれど。
 

■2014年は私にとって節目であり、本当に大切な年になった。

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―――現在公開中の『0.5ミリ』でみせた安藤さんの顔と、『百円の恋』の安藤さんの顔を観ていると、全て出し切った感がありますね。
安藤:『0.5ミリ』は宇宙で一番自分のことをみてきた人(姉・安藤桃子)が監督をしているので、自分が28年間家族の中で見せてきたすべての表情が引っ張り出されています。『百円の恋』は残った肉体とすべての排泄物が出た感じですね。オーディションを受ける前から覚悟を決めていたので、私自身、ボッコボコになりました。両作品とも続けて公開されますし、2014年は私にとって節目であり、大切な年になったと本当に思います。
(江口由美)


<作品情報>
『百円の恋』(2014年 日本 1時間54分)
監督:武正晴 
出演:安藤サクラ、新井浩文、稲川実代子、早織、宇野祥平、坂田聡、根岸季衣他
2015年1月3日(土)~シネ・リーブル梅田、1月17日(土)~元町映画館、京都シネマ他全国順次公開
公式サイト⇒http://100yen-koi.jp/
(C) 2014 東映ビデオ
※「第一回松田優作賞」グランプリ受賞
※第27回東京国際映画祭<日本映画スプラッシュ部門>作品賞受賞
 

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