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『欲動』/『禁忌』杉野希妃さんインタビュー

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~杉野希妃が鮮やかに映し出す、男女の性/生への欲求とその行く末~

 
深田晃司監督『歓待』、内田伸輝監督『おだやかな日常』と、プロデュース、主演作が世界で反響を呼び、来年公開の初監督作品『マンガ肉と僕』が第27回東京国際映画祭「アジアの未来」部門でワールドプレミア上映された、世界が注目する日本映画界のミューズ、杉野希妃。監督2作目で初劇場公開作品となる『欲動』と、主演作『禁忌』が12月20日(土)からシネ・ヌーヴォを皮切りに関西にて同時公開される。
 
今までは社会的な題材を内在させていた感のある杉野プロデュース作だが、この2作品はむしろ普遍的な男女の性や生を取り上げているのが特徴的だ。ヒロインを演じる三津谷葉子との出会いからプロジェクトが動き出したという『欲動』は、全編インドネシア・バリ島ロケの神秘的かつ情熱的な作品。ヒロイン、ユリの中に眠っていた性の欲動が駆け抜ける様を、三津谷が体当たりの濡れ場を交えながら、情熱的に演じ、煌めく女の姿をみせる。冒頭からバリ島の「ジャジャジャ」という歌や踊りで始まり、全編に渡って観光地とは違った地元の風情に触れることができるのも、大きな魅力だ。
 
一方、同時公開される『禁忌』は、監禁、レイプ、同性愛、少年愛とセクシャルマイノリティーの世界がモーツァルトの調べにのって、抑えたトーンで描かれる。どこか観るものに想像させる余地を与える描写は、衝撃的な設定ながら、厳粛で時には美しい儀式のようにも映る。本作が初の商業長編監督作となる和島香太郎の描く性的マイノリティーの世界は、ふと韓国のキム・ギドクを思わせるようなえぐみや深みがあった。杉野演じる、内心が読めない美人教師サラや、太賀が演じる監禁された少年、望人(モト)、そして佐野史郎が演じる望人を監禁したサラの父が繰り広げる奇妙な三角関係や、その行く末にも注目したい。
 『欲動』で監督、プロデューサー、出演を務め、『禁忌』でプロデューサー、主演を務めた杉野希妃に、両作品の企画段階の話や、撮影秘話、作品の狙いについてお話を伺った。
 

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『欲動』

―――とても土着感を感じる作品で、バリ島の神秘性や祭りの躍動感に溢れていました。インドネシアスタッフを多数起用し、全面バリ島ロケをされたのも国境を越えて活躍する杉野監督らしい作品ですね。この『欲動』の企画はどのようにスタートしたのですか?
杉野:6年前、ちょうど私がプロデュースのお仕事を始めた頃、まだ監督になれるかどうか分からないけれど、出来るのならこういう話を描いてみたいと、簡単なアイデアを書いていました。元々は、主人公の歌手がバリ島に行き、性的に解放され、殻を破って一歩外に踏み出すというストーリーでした。当時、私自身が表現の仕方に悩んでいたのでこのような話を考えたのですが、この6年間でやりたいことが変わり、もう少しドラマの部分を構築しないと映画として成立しないし、私自身もやりたくないと、一旦企画を寝かせていたのです。ただ、絶対にバリ島で撮影したいということだけは決めていました。インドネシアのガリン・ヌグロホ監督作品を観て、興味深い場所だと思っていましたし、民族音楽のガムランやケチャも間接的に知っており、バリは私自身が殻を打ち破れそうな何かがあると思いました。行ったことはなかったですが(笑)。
 

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―――バリで撮影したいという強い願望があったとのことですが、寝かせていた企画が再び動き出したのは、何がきっかけですか?
野:私の主演作、『おだやかな日常』を三津谷葉子さんが気に入ってくださっているという話を耳にし、直接お会いしたのです。三津谷さんは人間的に素晴らしいし、とても真面目な方で、直感的にこのバリの話を一緒にやれば絶対に面白くなる。そして、三津谷さんの今までにない姿を焼きつけられる作品になると思いました。
 
6年前は主人公を自分で演じたいと考えていたのですが、監督としてもまだキャリアが浅い上に合作映画ですから、単独主演の役を自分で演じるのは無理だと思っていました。でも三津谷さんなら一心同体になってやっていただけそうな気がしたので、この企画のことをお話してみると「面白そうですね」と快諾いただいて。結局撮影に入る1年ぐらい前から、三津谷さんと脚本家と私の3人で、どういうお話にしていけば、より三津谷さんの良さが活かせ、作品としても面白くなるのかを考えていきました。ある程度の段階で脚本を三津谷さんに見せ、意見をもらって、またこちらで書き直すという作業をしていきました。
 
―――三津谷さんは後半になるにつれ情熱的になり、自分を解放していく妻ユリを大胆かつ繊細に演じていました。実際に脚本でも意見を出したという三津谷さんですが、現場での様子や撮影が進む中での変化はありましたか?
野:三津谷さんはこの作品に対する気合が凄かったです。私も三津谷さんも気持ちは同じで、三津谷葉子という女優がイキイキとした作品にしたかったですし、海外でも通用する作品にしたいという思いがありました。一緒に企画開発しているときから気合を入れて臨んでくれましたので、現場でも並々ならぬ覚悟で臨んでくれたと思います。
 
三津谷さんは普段からすごく肝が据わった方です。太陽のように明るく、人に対しての気遣いも素晴らしいし、今回演じたユリのキャラクターはとは全く違います。現場では監督の私の方が助けられました。どんなハプニングが起こっても、「大丈夫です。やります」と言ってくれ、スタッフの誰よりも冷静だったのは三津谷さんと斎藤工さんだったのではないかというぐらい、一番落ち着いていました。三津谷さんや斎藤さんと組むことで、監督の私の方が勉強になりましたね。
 
―――ユリの夫、千紘を演じた斎藤工さんは、死に直面し、苦悩しながらも、最後はユリと情熱的に交わることで夫婦の絆を取り戻していく難しい役どころです。
野:普通は監督が役者をケアしなければいけないのですが、斎藤さんは短編映画の監督もされているので、「何か大変なことがあれば言ってくださいね」とよく声をかけてくださいました。三津谷さんも同じように声をかけてくださり、大変なシーンがたくさんあるにもかかわらず、監督の私の方が逆にケアをしていただいた感じです。
 
例えば、私が演じる千紘の妹・九美の出産シーンがあり、事前にカット割りを指示していたのですが、いざ出産のためいきむシーンを演じはじめると、途中で段取りが分からなくなり、頭の中が混乱したことがありました。そんな時も斎藤さんは、さり気なく「監督、ここから撮ればすごくキレイですよね」と言ってくださり、助かりました。気遣いがありながら、絶妙のタイミングでケアをしてくださるので、本当に素晴らしい方だと思います。役者としても、今回は怒りをぶつけたり、それに対して自己嫌悪に陥ったり、(死んで)妻と離れなければならないことに対して葛藤する、とても繊細な役でしたが、千紘の激しさや切なさを自然に演じてくださいました。
 
―――最後に、撮影中に様々な「奇跡」が起こったそうですが、印象的なエピソードはありますか?
野:本当にたくさんのハプニングがある現場でした。バリ島は神聖な場所ですし、こちらが予想もできないようなことが色々と起こる場所でした。例えば、元々予定していたユリと地元のジゴロ・ワヤンとのラブシーンも、最初は浜辺の近くで撮るつもりでしたが、神聖な場所だから駄目だと直前に言われ、別の場所を探したら満月の日だったので今度はセレモニーが始まってしまいました。皆準備して行っているのに、いつ終わるか分からないセレモニーを待機するのは大変なのですが、現地のスタッフは「明日撮れるよ」と呑気な声をかけてきます。でも日本人スタッフはきっちりしていて、撮影スケジュールがただでさえ押しているので駄目だと、意見が食い違ったりもしました。
 
結局は後日なんとか撮れ、そのときの月がとてもきれいで、小雨が降ったりやんだりしていたので幻想的な雰囲気の映像になりました。予定通りに撮っていれば、そんな雰囲気にはならなかったでしょう。このように、予定していた通りには撮れなかったけれど、結果的にいい映像になることがたくさんありました。京都や滋賀で撮影した『マンガ肉と僕』の場合は、ある程度こちらでコントロールして撮影できましたが、バリ島の撮影は、全くそういう手順ではできません。人間は自然に翻弄されながら生きていることを実感するような現場でした。私たちは、動物や植物や現地の人と共生しながら生きていることを、考えさせられました。
 

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『禁忌』

―――かなり過激な性的要素を盛り込みながらも、生々しく描写するのではなく、想像の余地を与えるような描き方がされています。また、徹底的に俯瞰した視点で描かれているので、ほどよい距離感を保ちながら作品と向き合えました。杉野さんは本作ではプロデューサー兼主演ですが、この作品の狙いや意図について教えてください。
野:私は和島香太郎さんの短編映画がすごく好きで、長編映画をまだ作っておられなかったことから、長編作品を初監督されるときは一緒に作りませんかと、こちらからお声かけしました。マイノリティーを描きたいと話し合い、和島さんが考えられたのがこの作品でした。ベースにある望人、サラ、サラの父親の親子で三角関係になるという構図が今までみたこともないものだったので、これは面白い作品になると思いました。マイノリティーの方々に寄り添うというよりは、今回俯瞰的に描いています。彼らの孤独や欲望を突き詰めた先に、どういうことが起こるのかという部分まで描いたら良いのではないかと考え、企画を進めていきました。
 
―――今回、杉野さんが演じたサラは共感を呼ぶキャラクターではありませんが、どこか目が離せない魅力がありました。複雑な内面や欲望を持つ女性を演じ、しかもほぼ全編に渡り登場シーンがあり、今までの女優キャリアの中でも一つ壁を超えるぐらいのチャレンジをされたのではないかと思うのですが。
野:今までは等身大に近い役が多かったと思います。また、私はまだ結婚や出産はしていませんが、母親役や妊婦役なども、日常生活に近い物語であり、私の中の何かを使って演じる感じでした。監督からも、役を自分に引き寄せることを求められていましたし、私もそのように演じるパターンが多かったです。今回のサラ役は、テーマ的に共感する部分はありますが、キャラクターも性格も全然違います。そのような役に対して、自分で作り込んで入っていかなければならなかったので、挑戦しがいがあり、ワクワクしながら演じる一方、難しさも感じました。
 
―――杉野さん同様にかなりの難役なのが、太賀さん演じる望人です。実年齢よりかなり下の年齢の少年や青年の顔を演じ分け、今回は杉野さん演じるサラとの激しい絡みもありました。今まで杉野さんは太賀さんとの共演や監督作にも起用されていますが、現場ではどのような感じでしたか。
野:太賀さんは今まで三作品でご一緒しているのですが、20代でこんなにすごい役者は他にいないのではないかというぐらい信頼している大好きな役者さんで、今後私が携わる作品には全て出演していただきたいぐらいです。ただ、今回は14歳の役ということで、オファーをしてから返事をいただくまでかなり時間がかかりました。太賀さんご自身が、本当に自分が望人役を演じていいのかと悩んでいたそうですが、私の中では、望人を演じられるのは太賀さんしかいないだろうと思っていました。
 
望人は両親に虐待され、親の愛に恵まれない辛い人生を送ってきたので、サラを盲信してしまいます。ひどい目に遭ってきたけれど、とても純粋な内面を持つ役です。太賀さんは20代ですが一つ一つの仕草をとても少年らしく演じてくれましたし、彼でなければできないような表現力を見せてくれました。ウルウルと目を潤ませた表情をされたときは、「こんな太賀さんは初めてみた!」と思いながら一緒に演技をしました。太賀さんの新しい一面が見えたのがうれしかったですね。
 
(江口由美)
 
<作品情報>
 
『欲動』
(2014年 日本 1時間37分)
監督:杉野希妃
出演:三津谷葉子、斎藤工、杉野希妃、コーネリオ・サニー
『禁忌』
(2014年 日本 1時間13分)
監督:和島香太郎
出演:杉野希妃、太賀、佐野史郎
2014年12月20日(土)~シネ・ヌーヴォ、2015年1月17日(土)~京都みなみ会館、元町映画館
 
 

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