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『滝を見にいく』沖田修一監督インタビュー

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~7人のおばちゃんが主人公、あるあるオンパレードのリアルさに共感!~

 
本当に勇気のある作品だ。出演者は映画初出演もしくは演技初経験のおばちゃんたちばかり。一方ロケ地は深い山の中。わざわざおばちゃんを集めて映画を撮るなんて、日本中どこを探してもこの監督しかいないのではと思わせるのが、『南国料理人』『横道世之介』の沖田修一監督。「40歳以上の女性、演技経験は不問」というオーディションで選ばれた7人のおばちゃんが主人公の映画『滝を見にいく』が、東京で絶賛公開中だ。幻の滝を見に行くツアーに参加した年齢も境遇も違う7人のおばちゃんが、山中でまさかの遭難に見舞われてしまう。非日常の中それぞれが少しずつ自分を解放していく様子やバラバラだった7人が力を合わせていく様子を、少し遠くから覗き見るような目線で温かくとらえている。脚本も手がけた沖田修一監督に、オーディションの様子や撮影で感じたおばちゃんの魅力、そして合宿生活のようだった撮影エピソードについてお話を伺った。
 

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■「人間はこんなもんだよな」ということが滲む、生活感があるのは“おばちゃん”

━━━登場人物がほぼ全員おばちゃんという映画を作るにいたったきっかけは?
プロデューサーから「ワークショップで映画を撮りませんか。監督の好きな題材で構いませんので」というお誘いを受けたのがきっかけです。3人のおばちゃんがハイキングでずっとグチをいい続けながら歩き、滝を見るというのが面白いなと思ったのですが、普通に考えたらこんな話は映画になりません。でも、このワークショップの話のときにやれるのではないかと感じました。ワークショップによる映画づくりは何度か経験していますが、普通は俳優を目指した若い男女が応募してきます。今回は違う層を狙ってみようと思い、「40歳以上の女性なら誰でも応募できます」と銘打ったオーディションにしました。3人より人数を増やし、ツアーみたいな感じで話を展開すればいいのではないかと、どんどん話が膨らんでいきましたね。
 
━━━以前から、おばちゃんを撮りたいと思っていたのですか?
僕は「人間こんなものだよな」ということが滲むような生活感のあるものを撮りたくて、そうなるとおじちゃんやおばちゃんの方が絵になるのは確かです。おじちゃんやおばちゃんが飯を食っている光景は、生活臭しかしないですから。つい癖で年上の俳優さんに出演してもらいたくなりますね。
 

■湯あたりならぬ“おばちゃんあたり”に!?40人分の半生をじっくり聞くオーディション。

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━━━オーディションから始まり、撮影中もずっとおばちゃんと一緒だったわけですが、沖田監督がその中で感じたおばちゃんの魅力とは?
僕は「おばちゃん」という呼び方をあまりせずに、最初は「女性」と呼んでいました。今回オーディションで40名弱の方にお会いして、一人一人かなり時間をとってお話を聞き、7人に絞っていきました。三日間で朝から晩まで、オーディションに来られた方の人生を聞かせていただいて、湯あたりならぬ、”おばちゃんあたり”になっていました。脚本にも取り入れようと思っていたので、40人分の半生をじっくりと聞かせていただきましたが、やはり皆さん色々あるのだなと実感しました。そういうニュアンスが画面でもどこかにでればいいなと思っています。オーディションで選ばれた皆さんは、年下の若造監督をバカにするわけでもなく、皆が新人俳優のようでした。小道具一つとっても、「おばちゃんは大体こういうものを持っているわよ」と等身大で教えてくれるので、とてもやりやすかったです。
 
━━━今回映画に出演した7人が選ばれた理由は?
最初は演技経験がない人の方がいいのではないかと思っていましたが、試しに演技経験のある人と組んでお芝居をやってもらうと、それはそれでどちらも映えて面白い化学反応が起きました。最終的には演技経験のある人とない人を半分ずつぐらいにし、絡みがある場面は双方ペアになるようにしました。後は、俳優経験がある人でも家庭の部分のウェイトが大きいかどうかが重要でした。色々なことを聞き、嫌いな家事の話を聞いてどういう生活をしているか何となく探ったり、台本を自分の好きなように変えてもらったりしながら、バランスを見てオーディションで選んでいった形ですね。
 
━━━脚本はどのように作り上げていったのですか?
話の骨格は決めておいて、あとはそれぞれのキャストに合わせて役の詳細を決めていきました。本当は素性が全く分からないキャラクターを作りたかったのですが、それを演じられる人が全くいなかったので、スミスを演じた渡辺さんにそれを一任したりもしました。ワークショップと台本書きが同時進行でしたね。昼は稽古をして、持ち帰って台本を書き、翌日はその台本を演じてもらってと試行錯誤しながら何日間か繰り返しました。
 
━━━撮影期間はどれぐらいでしたか?
ワークショップは5日間で、撮影は11日間プラスアルファぐらいです。普通はワークショップの中から7人に絞り込んだりするのですが、体力を使いそうだったので、オーディションに時間をかけて7人を選び、ワークショップは稽古の時間にしました。皆さんまじめなので、一生懸命やってしまって、演技をしたことのない人が演じるという良さが失われていくような気がしたので、本人が出てくる意味を考えたときにはあまり稽古をしてほしくはなかったのです。ただ、皆が顔見知りになっておくのはいいなと思い、もはや仲良くなるための時間になっていました。『南極料理人』の女バージョンみたいな感じもやりましたね。撮影では、助監督が今回はどうしても順撮りがいいと主張し、僕もそれがいいと思っていたこともあり順撮りにしたのですが、初日に雨が降ったりして不安にもなりました。結局助監督が順撮りを貫いてくれたので、決行できました。
 

■面白いことをやっているという意識と、きちんと面白いものにしたいという空気が流れていた現場。

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━━━本作の撮影はこれまでの撮影と違う部分が多かったと思いますが、楽しかったところは?
合宿生活だったので、役者とスタッフとの垣根がなかったのは楽しかったですね。コミュニケーションが非常にとりやすかったです。最後に一組ずつ歩いてきて、最初と同じ台詞が繰り返されるのは、現場の美術担当が思いついたアイデアで、みんなで「これ、面白くない?」と言いながら、試して、採用することもありました。みんなで作っている感じが良かったです。今回は面白いことをやっているという意識と、だからきちんと面白いものにしたいという空気が現場に流れていた気がします。
 
後は衣装を自前とこちらで用意するものと半々にしました。普通は衣装担当が嫌うと思いますが、今回は本人と役柄が半分クロスする設定だったので、本人が日頃着ているものを持って着てもらう方が馴染みます。最年長の徳納さんは本当に稽古に着てきた格好です。
 

■この旅は何の人生の解決にもなっていない。山から戻ったとき少し後ろ髪を引かれるだけで十分。

━━━最後に見た滝が、「これ?」って感じでしたしね。
それが狙いですから。確かにこの旅は、みなさんにとって何の人生の解決にもなっていないですよね。今回は山で迷子になったということで、それが楽しくなってしまう人たちの話なのです。山から戻ってきたときに少し後ろ髪を引かれてしまう、それで十分なのです。主人公の根岸さんもどこにでもいるような、「説明しなくても知ってるでしょ」という感じだったので、あまり事細かに説明せずとも想像通りなのだろうなと。
 

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━━━キャンプファイヤーの時に、皆で『恋の奴隷』を歌っている姿は非常にインパクトがありました。なぜあの曲を選んだのですか?
なんか面白かったんですよね。美しい歌よりも『恋の奴隷』のようなヒット曲の方が、みなさんの少女時代を連想させる何かがある気がして。「悪いときはどうぞぶってね」という歌詞も面白かったです。昭和の雰囲気が出ますし。ワークショップの時に、『恋の奴隷』を歌ってもらったら、サビの「あなたごのみの~」という部分を皆さんで絶唱しているのがすごく絵になるなと思いました。
 
━━━ある意味サバイバル物語でもありますが、おばちゃんたちがそれぞれ持参していた食べ物やアウトドアグッズはどのようにしてアイデアを出していったのですか?
美術部のスタッフと食べ物は何を持参するかを一緒に考えるのが楽しかったですね。タッパに梅干しを入れて持っていこうとか。そこからゆで卵の話になり、アルミホイルに塩だけ包んで持っていくというアイデアから、バスで食べちゃおうとか。色々なことを考えながら、脚本にないところでアイデアを膨らませていくのに、道具は重要でした。お菓子もチョコレートならと言っていると「ルマンド」と具体名が出てきて。僕はあまり良くわかっていなかったので「ルマンドってそんなに有名なお菓子なんですか?」と聞くと、キャストのおばちゃんたちが皆、口を揃えて「えっ、ルマンドよ!」となぜ知らないのかという勢いで返されました。
 
━━━太極拳をやっている人がいたり、それぞれ好きなことをやっているシーンがありますが、全部脚本に書かれている通りですか?
全部脚本どおりです。あの場面がメインだと思っていますから。楽園っぽいというか、今までの生活とはかけ離れた状況ですね。遊んでいる部分は、「小学校6年生の気持ちでやってください」と言いましたが、それ以外のシーンでもみなさん若く見えますね。
 
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■脚本は根性で書くもの。自分が書いた脚本でないと、演出できない。

━━━脚本を書くときに心がけていることは?
脚本は根性で書くものですね。書く途中で1回や2回ぐらいは「もうダメだ」と投げ出したくなるときがあるのですが、そこで諦めないことです。脚本根性論ですよ。脚本を書くのは本当にキツいのでやりたくないのですが、他の人が書いた脚本で撮るぐらいなら、頑張って書こうと思ってしまいます。自分が書いた脚本でないと、演出できないんですよ。せめて最初と最後は書かなければと思っています。『キツツキと雨』や『横道世之助』は中間部分を何こうか書いてもらいましたが、最終的には自分で書かないと役者に説明できないのです。よく「間がいい」と言われることがありますが、全く間を計ったことはありませんし、役者さんご自身がこちらの方が面白いだろうと勘でやっているケースが多いです。
 
━━━おばちゃんたちと一緒に森林浴をしたり、夜を明かしたような気分になりました。
本作は88分でしたが、出ているキャストもずっと皆同じですし、ずっと山の中の話なので飽きるのではないかと、少し怖かったです。東京ではもう公開しているのですが、劇場の客層も割とおばちゃんが多くて、僕と同い年ぐらいの友人が見に行くと「客席周りまで演出されているみたい」と言われました。「一緒に森林浴をしたような気分になる」とよく言っていただいています。普段映画を見ないような人でも興味を持ってもらえたらと思います。(江口由美)
 

『滝を見にいく』
(2014年 日本 1時間28分)
監督:沖田修一  
出演:他
2015年1月17日(土)~シネマート心斎橋、1月24日(土)~京都シネマ、2月21日(土)~元町映画館他全国順次公開
※第27回東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門スペシャルメンション受賞
公式サイトはコチラ
(C) 2014「滝を見にいく」製作委員会