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『蠢動-しゅんどう-』三上康雄監督インタビュー

shundou-s550.jpg『蠢動-しゅんどう-』三上康雄監督インタビュー
(2013年 日本 1時間42分)
監督・脚本:三上康雄
出演:平岳大、若林豪、目黒祐樹、中原丈雄、さとう玉緒、栗塚旭、脇坂智史
2013年10月19日(土)~有楽町スバル座、TOHOシネマズなんば、TOHOシネマズ鳳、ユナイテッド・シネマ岸和田、TOHOシネマズ西宮OS、TOHOシネマズ二条、ユナイテッド・シネマ大津他、全国34館ロードショー、今冬~元町映画館、シネピピア他全国55館順次公開(館数は10/8現在)
公式サイト⇒
http://www.shundou.jp/
(C) 2013 株式会社 三上康雄事務所


「観たい時代劇映画がないから、自分で創る」と私財を投げ打って、30年以上前に16ミリで監督した自作をリメイクしたという三上康雄監督入魂の時代劇『蠢動-しゅんどう-』。武士道がテーマとなっている本作では、現代社会と同じようにそれぞれの立場の正義や忠義を貫く男たちの苦悩が描かれる。若林豪演じる城代家老の荒木は、「藩のため、民のため」を行動規範に、公儀から睨まれることのないよう腐心し、平岳大演じる主人公の剣術師範原田は、藩士の面々に剣術を教える先生で、家老の娘婿として家老の命令に忠実な任務を遂行する。そして、原田が目をかけている弟子の香川は、藩のため殉死した父のようになるまいと自分を守るため泥臭い戦法もいとわない一匹狼のような気質を持ち合わせた藩士だ。

 

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戦のない平和な時代の武士の質素な日常や稽古ぶりをたっぷり見せる一方、城中での政治的密談や、公儀への対応に妙案が浮かばない焦りが高じる様子をじわりじわりと見せつけ、前半の「静」の部分で後半に向けての布石を黙々と打っていく。やや物語の核心に迫るが、後半は教え子を殺す命を受けた原田たちと香川との決闘ぶりが勇ましい太鼓の音に乗って繰り広げられる。真っ白な雪の中で繰り広げられる殺陣シーンは、「これぞ時代劇」の醍醐味を感じることだろう。原田の苦渋の決断や香川の運命、そして藩の運命など、最後まで興味は尽きない。

長年の想いを実現させ、時代劇を知り尽くしたスタッフと共に渾身作を撮りあげた三上康雄監督に、時代劇の醍醐味や、本作で描きたかったテーマについてお話を伺った。

 


 

―――平成の時代劇に物足りないと感じるのはどういった点でしょうか?また、逆に本格時代劇に必要な要素とは何だとお考えですか?
まず僕が思っているのは、時代劇は時代劇でしかできないものを作るべきだということです。『蠢動-しゅんどう-』は現代ではできない話です。僕は剣道、殺陣や居合もしていますから、斬り合いをどうしても取り入れたかったのです。平成の時代劇は、ちょんまげを付けた現代劇のように見えます。僕の好きな『切腹』『上意討ち』『仇討』という作品は、どんなことがあっても時代劇なんですよ。『蠢動-しゅんどう-』もその時代に同じことがあったかもしれないと思える点がとてもリアルなのです。事柄がリアルであり、衣装やカツラ、色や音などをリアルにすれば、時代劇の世界にみなさんが入り込んでいただけるのではないかと思っています。そして、それが「僕自身が観たい時代劇映画」です。

 

―――82年に自主映画で製作された『蠢動』を、その後社会人経験を経た後に、自らリメイクされた訳ですが、ポイントを置いた点は?
shundou-3.jpg82年当時は23歳でしたが、その後30数年間生きてきて、それぞれの立場を経験している訳です。香川の立場を経験すれば、師範の原田の立場も経験していますし、現代で言えば社長室長にあたる舟瀬の立場、社長にあたる荒木などそれぞれの立場が僕には分かるのです。立場の中の正義があるはずですから、今回はそれをうまく脚本に書き込めたのではないかと思います。そして、それぞれの立場の正義を映画として創りあげられたと思っています。

 

―――本作のクライマックスとなる雪上の斬り合いのシーンは撮影の大変さや、斬り合いの後の血をどう見せるか(本作ではほとんど血の跡がなかった)など、リスクが高かったと思いますが、あえてチャレンジした理由は?
斬られた後、血が流れなかったとのご指摘もありますが、基本的に血が飛ぶのは頸動脈しかないので、本来着物を斬ったら血が滲むぐらいがリアルな状態です。着物を斬るシーンを入れようとするとカット割りをしなくてはいけませんが、その部分のリアルが大事か、長回しのリアルが大事かの選択が必要でした。僕はやはり長回しでリアルに撮影したかったのです。その代わり、音を派手にして痛さを演出しました。「色は地味に、音は派手に」ですね。

 

―――雪の中、香川を追って原田らが走り出すあたりからの太鼓の音は、非常に迫力があり効果的でしたね。
shundou-s1.jpg最初の『蠢動-しゅんどう-』というタイトルが出て、後半走り出すまで70分間は音楽を入れていません。音楽を入れたいところもあるのですが、走り出すところで爆発的なインパクトを与えなくてはいけないと思い、すごく我慢しました。テレビ映画ではないので、最後まで観ていただいて「良かった」と思っていただけるような作りにしています。走るシーンの太鼓ですが、香川の走りと原田の走りでは、太鼓の音色を変えています。討っ手が走るときは、太鼓の数を増やしたりしています。斬り合いのところの香川の太鼓に関しては、「香川の鼓動と同じように叩いてくれ」と頼みました。実際に録音するときは、映像を観ながら叩いてもらいました。最近の時代劇は、間に斬られる役のインサートが入り興ざめしてしまうので、ずっと香川をカメラで追うようにしました。カットが割れないので撮影は大変なのですが、そこはこだわって2台のカメラを使って撮っています。

 

―――他に雪の中での撮影で、苦労した点は?
雪の中の撮影なので、撮り直しが効きません。まっさらの雪に足跡を付けていますから、リハーサルはそれまでに行っています。あのシーンを撮影するために、半年間殺陣の訓練をして、何があっても動けるようにしました。だから、斬られ役ではなく皆斬り役で、互いに向かっていっているわけです。

 

―――主演の平さんの存在感が素晴らしかったですが、平さん起用の理由は?
shundou-1.jpg今回、原田役に誰をキャスティングするかが一番重要でした。平さんは大河ドラマ『江』に出演されているのを拝見して感動し、是非とオファーしました。この『蠢動-しゅんどう-』を撮るまでに30数年間ブランクがありましたが、ここに至るまでも、その時々に想像でキャスティングをしていました。15年くらい前は、渡辺謙さんが原田に適任と思ったりしましたが、今の渡辺謙さんは年齢的に違うんです。今はやはり平さんが一番ですね。現場でも寡黙な方で、原田のイメージにぴったりでした。

 

 

―――前半の武家屋敷でのやりとりのシーンは、現代の会社社会と合い通じる人間関係の難しさを感じました。 
会社よりも藩は厳しいですよ。会社は辞めることができますが、脱藩はできません。武士は数パーセントの選ばれた人たちなのですが、その中で様々なキャラクターはいます。特に原田の立場はどうしょうもないですよね。エンドロール後、登場人物たちがどうなるのかと観た方に聞かれることもありますが、それはみなさんで考えていただきたいのです。続『蠢動-しゅんどう-』はありませんが、彼らは生きていかなければならないことは確かです。ですから、原田のアップ、舟瀬のアップ、由紀のアップ、香川のアップとそれぞれアップで映像は終わっています。そうやって観客に投げかけてしまう映画も最近は少ないのではないでしょうか。

 

―――タイトル『蠢動-しゅんどう-』に込めた意味は?
その人にとって人生は激動なはずですが、大局的にみれば「蠢動」だと思うのです。ちょっと上から見て比喩した表現ですね。82年に20代で作ったときからそう思っていましたが、より深くやりたいと思って今回作りました。俳優さんたちが息吹を与えてくれたので、面白い群像劇になったと思います。

 

―――登場人物それぞれの立場が、切実に迫ってきますね。
俳優さんたちも自分の役が「正義」と思ってくれています。若林さんは撮影のインタビューで、自身が演じた荒木を「男の中の男です」とおっしゃっていますし、栗塚さんも西崎を「正義を一番に遂行する役」とおっしゃっていて、皆さん、そう思っているんですよ。舟瀬を演じる中原さんのポジションが一番大変でしたね。悪役になってはいけないし、インテリジェントプロフェッショナルという設定にして、中原さんと舟瀬の役作りをしていきました。『蠢動-しゅんどう-』は最初、ストーリーや殺陣を追うので精一杯だと思いますが、僕の大好きなスタンリー・キューブリック監督が『2001年宇宙の旅』のときに、「1回観て分かるようなら、この映画を作った意味がない」とおっしゃったように、2回、3回観てもらえれば『蠢動-しゅんどう-』のより深い面白さを見つけていただけると思います。劇場用映画として創りましたので、必ず劇場の大きなスクリーンと5.1chの重低音を体感してもらいたいです。
(江口 由美)

 

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