『夜明け前、朝焼け中』馬場良馬 平田裕一郎 高崎翔太、窪田将治監督インタビュー
(2013年 日本 1時間30分)
監督・脚本・編集:窪田将治
出演:馬場良馬、八神蓮、平田裕一郎、高崎翔太、肘井美佳、草野康太、川野直輝他
2013年11月2日(土)~新宿バルト9、11月16日(土)~梅田ブルク7(1週間限定公開)他全国順次公開
公式サイト⇒http://www.faith-pictures.com/
(C)2013「夜明け前 朝焼け中」製作委員会
馬場:この作品がみんなで「朝焼けに向かっていく」きっかけの一つとしてあればいいな。
平田:本当に終わったあと笑顔になれている作品。
高崎:何も考えないで観て、展開することを一つ一つ感じてほしい。
びっくりするぐらいイケメン揃い!爽やか青春ストーリーかと思いきや、すっきり気分になれるのはオープニングとエンディングだけで、あとは微妙な空気が支配するひと癖もふた癖もある異色群像劇、『夜明け前、朝焼け中』が11月2日(土)より新宿バルト9、11月16日(土)より梅田ブルク7で公開される。
監督は、前作『僕の中のオトコの娘』で、女装を楽しむ男子、女装娘(じょそこ)をテーマにマイノリティーの世界で自分らしさを取り戻す異色青春ストーリーを描いた窪田将治。今作では結成10年をなんとしても成功させたい、売れない劇団「フラッシュバック」のメンバーのすれ違いや葛藤をリアルに盛り込みながら、とんでもない事件に巻き込まれ、一世一代の大芝居を打つ様子をオール若手キャストで描いている。
『CRAZY-ISM クレイジズム』(11)に続き、窪田作品二度目の主演を務める馬場良馬をはじめ、八神蓮、平田裕一郎、高崎翔太とミュージカル『テニスの王子様』で女性に大人気の若手俳優陣が分裂寸前の劇団員をそれぞれの持ち味で熱演。窪田組常連俳優の草野康太、川野直輝が『僕の中のオトコの娘』とは全く違う、意外性のある役どころで物語に独特の間やユーモアを加えている。
公開に先がけて9月28日に大阪で開催された完成試写会&トークイベントでは、女性ファンが大集結!残暑厳しい大阪が更なる熱気に包まれた。トークイベント登壇前に控室にて馬場良馬 平田裕一郎 高崎翔太、窪田将治監督に独占インタビューを敢行。楽屋トークのようなにぎやかな雰囲気の中、本作の撮影秘話や見どころを語ってもらった。
━━━前作はマイノリティーへの応援歌ということで、女装娘をテーマにした作品でしたが、本作企画の狙いやテーマは?
窪田将治監督(以下監督):今回は僕自身もそうですが、「追い込まれないと、人間なかなかやらないよね」というところからスタートしました。本当はコツコツやっていかないと、上手くいかないのだけれど、本作の登場人物たちは「なあなあ」でやっていて、「もっとちゃんとやらないといけないよ」というのが一つのテーマとしてあります。
出演している役者も、今回は皆若い役者ばかりで、僕と同い年の草野さんが一番上なんです。「一緒にコツコツやっていこう」という、若手に対してだけでなく、作り手や自分に対する戒めに近いですね。『夜明け前、朝焼け中』というタイトルも、「日が昇るのか昇らないのか分からないけれど、一歩ずつやるしかない」というところに重きを置いています。今回の脚本は、人生でもっとも短い期間で書いているんですよ。
━━━具体的にはどれぐらいで書き上げたのですか?
監督:5日間です。もう5日間で書くことは二度とないと思います(笑)やりたいことがはっきり決まっていて、中盤から全く違う話にしようと決めていたので、あとは逆算だけだったから早く書けたのでしょう。
━━━この脚本を初めて読まれたときの感想は?
馬場:僕も役者をやっているので、泰介が感じている葛藤がよく分かりました。泰介自身30歳で僕と同じなので、台本を読んでいて自分に問いかけられている部分が大きかったです。そういった意味では、今の僕にしかできない役だなと思ったし、今現在の僕がやりたいと思っている役で、いつも以上にワクワクと興奮しました。
高崎:途中で構成がガラッと変わるところがワクワクしましたし、実際に演じた後に観ても同じ気持ちになりました。(バラバラだった劇団員が)団結して本番中にトラブルが起こるというのが普通の台本だと思っていたら、この作品は途中でガラッと変わるので、ああいう形もあるのかと思いましたね。
平田:何のストレスもなく、謎解きのような「どうなるんだろう」というところもさっと読めたのですが、後で残るんですよね。普通のリアルな僕たちが役者として演じているところも、ワクワクして読めました。演じていても楽しかったし、できあがった作品を観ても楽しかったです。先ほど監督が5日間で書いたと聞いて、ビックリしました。
━━━窪田組常連俳優陣のキワモノぶりも楽しかったです。特に合宿所の管理人役をされた草野さんは、実は黒幕だったり、何か中盤の事件に絡んでくるのかと思いきや、ただの変わり者の管理人で終わっていましたね。
監督:最初は劇団員が現場を撮られたテープを取り戻そうと合宿所から帰った後に、草野さん演じる合宿所のおじさんが、ヤクザ事務所へ「おまえら、掘り起こしてたぞ、あいつ」と電話するのを入れようかと思ったんです。でも、それはちょっと狙いすぎの気がして、逆に「結局いなくても別によかった」という感じが面白いのではと感じて今の形にしました。草野さんはそういう「いなくても別にいい」役も得意ですから。
━━━馬場さんは、ずっとストレスを抱えて葛藤する、笑うシーンのほどんどない役でしたが、そういう役は珍しいのでは?
馬場:特に今回は男性キャストが元々顔見知りの人が多かったんです。僕一人その中でぶすっとしてなければいけなかったので、撮影中も少し距離感がありました。特に車の運転をしているシーンで、僕はぶすっとした顔で実際に運転をしているのですが、後部座席ではいつカメラが回っているか分からないので常に盛り上がっていて、「もうやめてくれ~っ」て気持ちになったことはありました(笑)でも基本は楽しかったですね。
━━━本作で窪田監督作品に主演するのは2度目ですが、窪田組の印象は?
馬場:初めて主演をさせていただいた『CRAZY-ISM クレイジズム』で、窪田監督と初めてお仕事をさせていただきました。「ちゃんと芝居をする」ことを初めて頭で理解させてくれた方だったので、僕にとって芝居の恩師みたいなものであり、揺るぎないです。だから『僕の中のオトコの娘』の時も、窪田監督にお願いしてチョイ役で出していただきましたが、それぐらい慕っています。窪田監督は愛があり、お芝居以外の人間的なことや大人としての振る舞いも教えてくださるので、そういった意味でも人生の大先輩で師匠ですね。早く師匠に恩返しができればいいなと思っています。
━━━高崎さんは、男性キャラクターの中で一番年下でありながら、一番成長していく役でしたが、役作りはどのようにされましたか?
高崎:成長する役なので、映画一本を通してのテンションの変わり方に気をつけて演じました。テンションの移り変わりがすごく繊細なので、考えていることがうまくできなくて、へこんだりもしました。等身大で演じた感はありますね。
━━━平田さんは劇団きっての色男で、女の子に言い寄られると断れない、優柔不断男子を演じましたが、ご自身の役をどう感じましたか?
平田:今の子たちってあんな感じがしませんか?悪気もなく二股をかけたり、誘われると断れなかったり。ふわっとした感じだけれど、お芝居が好きで10年やめないで続けていたり。看板女優と付き合っているけれど、そちらにはバレないように別の女優と付き合うわけで、女たらしというか、なんかすごいですよね(笑)。もともと(劇団員男子役の)4人は知り合いだったので、(高崎)翔太は一番年下だけど締めるところは締めてくれるし、馬場さんはやはりリーダーらしく締めてくれるし、王子(八神漣)はふわふわしていて、僕はマイペースなので、コンビネーションとしては良かったです。
馬場:窪田組はみんな気を遣ってくださるので、毎回現場の雰囲気はいいのですが、特に今回は劇団の合宿という設定で、山梨で泊まり込みで撮影をしていたので、そういう意味では本当の合宿みたな感じで取り組め、すごく一体感があったと思いますね。
━━━一番好きなシーンはどこですか?
馬場:(高崎)翔太演じる圭吾に自分の今置かれている状況をカミングアウトするシーンがあります。「俺ももう30歳だし、先がない」と言っているところは、もちろん泰介として演じてはいるのですが、僕にとってもリアルな瞬間で、あそこはすごく演じていて気持ち良かったです。自分の気持ちの中でもすっと入ったお芝居で、印象的でした。僕も30歳目前で「これからどうしよう」と考えはじめることがありますからね。
高崎:劇団が一度団結を取り戻した後の切り替えが、やはりワクワクしましたね。何が起こるか、くるぞ、くるぞといった感じが好きですね。
平田:僕は雪の中でキャッチボールをしているシーンが好きです。後々思うと、キャッチボールしている人たち皆の心情が少しずつ出ている気がします。「台本が出来ていないから(稽古できないのは)仕方ないじゃないか」というのも本心だし、周りの人たちも「皆がやるなら・・・」と思っている。泰介が「ちゃんとやろう」と言っている気持ちも分かるけれど、俺らに言うなよという感じですよね。寂れた体育館の裏で、真っ白な雪の中というシチュエーションも好きでしたね。
━━━最後に、一言ずつメッセージをお願いします。
監督:逆説的な感じですが、「コツコツ、ちゃんとやった方がいいよ」ということが一つのメッセージです。とは言っても、追い込まれた人間は何でもできるから、「本当にやる人間はやるので、そんなに心配をすることはないよ」という部分もあります。この作品を観て笑ってもらえばうれしいし、スカッとしてもらってもうれしいです。僕の作品をご存じの方には、「いつも血がドバドバ出るけれど、今回はそうでもないよ」と言いたいですね。
馬場:泰介は30歳手前で色々と悩んでいますが、この社会、特に恵まれている日本だからこそ何かもがいてやりたいけれど、今の現状に満足してしまう。そんな風に大小かかわらず、誰しも抱えている問題を描いているのかなと思います。この映画を観て、やる気になったり、何かのきっかけになればいいですね。みんなが「朝焼けに向かっていく」きっかけの一つとして、この作品があればいいなと、すごく思います。
高崎:何も考えずに観てほしいなと思います。そこで展開していくことを、一つ一つ感じとってくれたら、最後はスカッとすると思います。その後に思い返してみると、「最初はあんなにドロドロしてたな」とか「ピンチもあったな」とか「でも頑張ったな」と、何か感じてもらえたらうれしいですね。
平田:本当に終わったあと笑顔になれている作品だと思います。
(江口由美)