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『ベニシアさんの四季の庭』ベニシア・スタンリー・スミスさんインタビュー

Venetias-550.jpg『ベニシアさんの四季の庭』ベニシア・スタンリー・スミスさんインタビュー
(2013年 日本 1時間38分)
監督:菅原和彦
出演:ベニシア・スタンリー・スミス他
2013年9月14日(土)~シネスイッチ銀座、テアトル梅田、京都シネマ、10月~シネリーブル神戸他全国順次公開
公式サイト⇒
http://www.venetia.jp/
(C) ベニシア四季の庭製作委員会

 

~どんな時も心穏やかに過ごす、ベニシア流自然と共生する生活の極意とは?~

Venetias-s1.jpg 庭仕事も、古民家で暮らすことも、憧れはするけれど日常の手入れが大変だと、物ぐさな私はつい諦めてしまう。でも、そのエッセンスをほんの少しでも生活に取り入れられたら、リラックスできて、さらに力をもらえるかもしれないと思った。
  京都新聞での連載を経て、テレビ番組「猫のしっぽカエルの手 京都大原ベニシアの手づくり暮らし」でハーブを使用したレシピや、大原の自然と共生した暮らしが話題を呼んでいるベニシア・スタンリー・スミスさん。その暮らしぶりに憧れる女性ファンも多いというベニシアさんと家族に密着し、大原の四季を背景にベニシアさん自身の人生を浮き彫りにしたドキュメンタリーが公開される。テレビで見る以上に心癒されるベニシアさんが育て上げた庭や、丁寧に手入れをした築百年のベニシアさんの自宅をはじめ、山々に囲まれ四季折々の自然が残る大原の風景は、日本の美しさを再発見した思いがする。
  一方、テレビでは深く触れられることのなかったベニシアさん自身の生い立ちや、次女ジュリーが統合失調症を患っていること、そして夫、正との心の擦れ違いなど、家族の問題にも切り込んでいる。イギリス貴族出身のベニシアさんが日本にたどり着いてから、切り拓いてきた自らの人生を振り返る様子や彼女が作った詩が紹介され、ベニシアさんの内面に触れることができる。

 京都での合同インタビューでは、昔からの職人が作った天然素材の服に身を包んだベニシアさんに、自然のある暮らしや子育て、人生について語っていただいた。


Venetias-4.jpg━━━ご自身のことが映画になった感想は?
まだちょっと信じられません。今、日本の様々な場所から講演会に呼ばれているのですが、番組を見ていつも元気になっている方もいるし、いろんなアイデアを実行していると言う方もいらっしゃるし、皆感動してくださって、私にとってもありがたいです。そんな中で映画ができたので、「ベニシアはただいつも庭の中に座って、平和な感じでゆっくりお茶を飲んでいる」というイメージしかない人も、別の面を見てもらえるでしょう。私の人生はハプニングが多いので、映画の中にはまだ入りきらないぐらいです。小さい時に私の母は、4回結婚したんです。すると4人の父がいるわけですが、いい人ばかりで、皆から愛をもらいましたし、それぞれ違う生き方をしていることも覚えました。その経験で、男の人の考えがわかりました。人生は勉強になると思ったら、いいことでも悪いことでも何かの理由があると思います。この映画でもそんな部分がでてきますね。

Venetias-s3.jpg━━━現在お庭に150種類のハーブを植えていらっしゃいますが、元々ハーブを生活に取り入れようと思ったきっかけは?
初めて日本に来たときは、あまりハーブはなかったですね。借家にいたときには植木鉢でお料理のためにハーブを育てて使っていました。でも長男の悠仁を妊娠したとき、40歳の出産でちょっと心配だったので、妹にハーブの本を送ってもらいました。その本からハーブを使えばどんな病気でも治ることを習い、使い方もいろいろあることを知り、ハーブを使った生活をするようになりました。そこから英会話でハーブレッスンを行っています。

━━━大原のご自宅でもハーブレッスンをされていたのですか?
悠仁が小さい時は、小学校から帰ってきたときできるだけ家にいてあげたかったので、10年ぐらいハーブを自宅で教えていました。若いときの母としての経験と、年をとってからの母としての経験は違います。自分の子どもを見たら、若い頃忙しくしていたときの子どもは、今38歳になりますが、まだまだ大人になっていません。絶対に仕事をしなくてはいけないという状況でなければ、3歳までは母は家にいる方がいいと思います。自分が若い頃仕事し過ぎたので、そう実感します。日本のことわざ「三つ子の魂、百まで」は本当ですね。

━━━今回ご家族も出演されていますが、ずいぶん話し合われたのでしょうか?
1人出演を拒んだ娘はいますが、後の息子2人は応援してくれました。ジュリーは病気ですが、私がテレビにでると喜んでくれ、自分が出演するときもすごくうれしいのです。病気になっても隠したりしていません。例えば娘が統合失調症なのでお店の中でも大きな声でしゃべったりするのですが、お店に入るとき「病気を持っているから心配しないで」と声をかけています。統合失調症は今100人に1人かかっていますし、この映画で統合失調症のことも理解してもらえればと思います。

Venetias-2.jpg━━━自然と共生する丁寧な暮らしを営むベニシアさんですが、子供の頃どのような生活をされてきたのでしょうか?
私が6歳の時に、母とジャージー島の大きな家に引っ越しました。召使いはたくさんいたのですが、母は自分で庭をつくるのが好きで、私が学校から帰ると「鶏の世話をしなさい」と私たちに仕事を与えたのです。ハーブや野菜を植えている場所に水をあげたり、草を抜いたりという仕事もしました。学校から帰ってくると「宿題をしなさい」ではなく、「庭を見てきて、水をあげなさい」だったのです。だから大原で庭を造ったときも、自分の子どもに宿題をする前に庭仕事をするようにしつけました。子どもにとって、土をそのまま触るのはいい経験です。悠仁は日本で生まれたので反発しましたが「イギリスではそうしているのよ」と言うと、渋々納得していました。

━━━なぜ大原に惹かれたのですか?
絶対に田舎に住みたいと思い、一年間かけて悠仁をベビーカーに乗せて探し回りました。大原の今すんでいる家に初めて入ったのは冬だったので、暗いし、寒いし、ご先祖様の写真がたくさん飾られていて、なぜか「ここが最後の場所ではないか」というカンが働いたのです。今まで20回ぐらい引っ越しましたが、初めてそう思ったんですよね。

Venetias-s2.jpg━━━「庭は人生」とおっしゃる言葉に感動しました。
植物も春夏秋冬で変わるじゃないですか。人間も若い女の人は、水仙やチューリップのように春に咲くかわいい花です。夏の花はカラフルで赤や大柄な40歳の女性のような雰囲気で、秋になると60歳の私のような落ち着いた感じの花となります。最後、冬はおばあちゃんの髪が白くなるように雪に包まれます。私たちも春夏秋冬のように変わっていくんですね。植物にとって台風がきたら、私の庭もめちゃくちゃになってしまいます。でもそのときは、落ち込むのではなく、今までの場所がダメになったからもう一度作り直す。それが楽しいです。人生も泣きそうなことはあるけれど、そこから新しいものが始まると思います。

━━━ご主人が家を出ていって大変なときに、ベネシアさんは「祈った」そうですが、実際どのようにその状況を克服されたのでしょうか?
メディテーションをしていました。私たちは何も考えずに呼吸していますが、意識してゆっくり呼吸するのです。象はすごくゆっくり呼吸するのですが、長生きです。人間も同じで、ゆっくり息をする人の方がストレスが少なく、長生きするのです。「ひとつひとつの呼吸を意識してゆっくり呼吸すれば、長生きするよ」とインドで教えてもらったのを思い出して、イヤなことがあるとパニックにならないようにゆっくり呼吸をします。朝30分ぐらい座禅を組んでゆっくり呼吸すると、一日そのゆっくりした空気が続きます。家族のこと、庭のこと、仕事と忙しいですが、忙しい日々のチューニングのような役割を果たしているので、逆に私の家族にもいい影響を与えていると思います。

━━━なぜ旅先のインドでとどまらず、日本に来られたのですか?
小さいとき、祖父の家に博物館があり、伊万里の壷をはじめとした日本の器などがあるのを見て、日本に対して興味を持ちました。また高校生のときには尺八のレコードを聞き、その音色もすごく印象がありました。その後インドからネパールを訪れたとき出会った日本の学生から、「今学生運動をやっていて、若い人ががんばっている」と聞いたので、日本に行こうと思ったのです。鈴木大拙さんの書かれた禅の本や、桜沢如水さんの書いた玄米食の本をイギリスで読んだことも影響しています。

Venetias-3.jpg━━ベニシアさんの古いものを大事にし、ハーブに囲まれた暮らしが日本で支持されるのはなぜだと思いますか?
自宅でティーバーティーをしたときに、みなさんは英国的部分と和の部分がすごくマッチしていることに驚かれます。「古い家を持っていたのに、壊しちゃったわ」と、後悔したような感じですね。古いものに関連して言えば、古いものは自然のものでできていて、自分の使ったものが最後どうなるか考えると、土に戻せないものはゴミになってしまうのね。だから、いつも買い物をするときは、土に戻るかどうか考えます。

 

 

━━━映画の最後に、「心の贈り物は心の庭にある」と詩を読んでおられましたが、その意味は? 
自分の頭の中に考えている場所があって、呼吸すればすごく気持ちが庭みたいに静かになり、暖かい気持ちになるのです。それを私は内側の庭と呼んでいます。外側の庭がある人はいいですが、ない人も自分の心の中に庭はあるのです。
(江口由美)

 

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