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『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯』樹木希林、齊藤監督舞台挨拶

yakusoku-s550.jpg『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯』樹木希林、齊藤監督舞台挨拶
 (2013年3月30日(土)第七藝術劇場にて)

yakusoku-1.jpg(2012年 日本  2時間)
監督・脚本:齊藤潤一 
出演:仲代達矢、樹木希林、天野鎮雄、山本太郎
ナレーション:寺島しのぶ 
3月30日~第七藝術劇場、4月13日~神戸アートビレッジセンター、5月18日~京都シネマ
★公式サイト⇒http://www.yakusoku-nabari.jp/
(c)東海テレビ放送

1961(昭和36)年に三重県名張市で起きた「名張毒ぶどう酒事件」の犯人として投獄され、獄中から無実を訴え続けている奥西勝死刑囚の半生を、ドキュメンタリー映像を交えながら描いたドラマ。
 村の懇親会で、毒入りぶどう酒を飲んだ女性15人のうち5人が死亡。奥西は、三角関係を清算するため、ぶどう酒に農薬を入れたと一度は犯行を自白するものの、逮捕後、一貫して警察に自白を強要されたと主張。一審は無罪、二審で死刑判決、1972(昭和47)年最高裁で死刑が確定。事件から51年余り、奥西は、何度棄却されても諦めることなく再審請求を続ける…。

yakusoku-2.jpg仲代達矢が奥西を演じ、息子の無実を信じ続ける母タツノを樹木希林が演じた。製作陣は、ドキュメンタリー「司法シリーズ」を手がけてきた東海テレビ。事件発生当初から取材を続けてきた記録、証言を再検証し、みごたえのある作品となった。タイトルの約束とは、1987年から奥西の支援を始めた人権団体の川村(天野鎮雄)が、ようやく再審開始の決定がなされた2005年、面会室でガラス越しに奥西(仲代達矢)と手を合わせ「今度は晴れて、塀の外で握手しましょう、お互いしぶとく生きましょう」と約束をしたところからくる。このシーンで初めて見せる仲代の笑顔が印象的だ。
関西での公開初日、樹木希林さんと齊藤監督が舞台挨拶に立った。上映後には、樹木さんが「どんな感じでしたか」と満席立ち見の客席に問いかけ、次々と手が挙がり、興味深い質疑がなされたので、併せてご紹介したい。


【上映前】
yakusoku-s1.jpg監督: 「名張毒ぶどう酒事件」といっても、ご存知でない方が多いと思います。事件から52年になり、奥西さんは未だ獄中にあります。冤罪だと確信して、この作品をつくりはじめました。こういう一人の男の生き方があるというところを観てほしい」
樹木: 「この作品では、奥西さんのお母さん、タツノさんが(ドキュメンタリー部分で)出てきます。本当の母親を観ていただいた時、いかに役者の力量がないかが歴然とわかり、役者としては、恥をさらすような仕事でしたが、事件のもつ意味合いを考えると、やはり関わらせていただいてよかったと思います。15歳になる孫、男の子ですが、初回の上映を観て、今までたくさん映画を観てきたけれど泣いたことはなく、初めて泣いたそうです。いいものかわるいものかわかりませんが、何かに心打たれたんだと思います。作品は押し付けるものではありません。ただ、こういう現実があると観ていただければと思います」
監督:「ドキュメンタリーとドラマを融合した少し変わった映画だと思います。仲代達矢さんと樹木希林さんと、日本を代表する大御所俳優の演技を観て、たっぷりいろんなことを感じて観終わってほしいです」
樹木: 「撮影前に、インフルエンザA型にかかって、もう撮影現場の名古屋には行けないんじゃないかと思いましたが、大勢のスタッフが困りますし、インフルエンザを隠してマスクをして行きましたが、誰にも移りませんでした(笑)。この事件に関わった人たちの本当の顔をぜひ観てください」

【上映後の観客との質疑】
yakusoku-s2.jpgQ: 「人の命がかかっていることについて、裁判所は何をみているのか、憤りを感じました」
樹木: 「私がもし裁判官で、病気の子どもを抱えてたりしたら、出世とかいろいろ考えた時、どうするのか。自分が同じ立場に立ったとしたら、ちゃんと生きれるのか、自分自身が問われているような気がしました。村の人達も証言をころころ変えていますが、もし自分がその立場だったらどうなのか。齊藤監督らが、高みに立ってつくっていないからこそ、人に伝わっていくんじゃないかと思います」

Q:「奥西さん本人も含めて、あの状況で頑張って生きておられることに感心しました」
監督:「奥西さんは名古屋拘置所にいましたが、今は体調を崩して八王子の医療刑務所にいます。再審開始の取消しが決定された2012年5月以降、一口も食べることができず、点滴だけで生きている状態です。でも、なんとか生き続けて冤罪をはらしたいという気持ちは持っておられると聞いています」
樹木: 「時期を逸しても生き続けるというか、結果がすべてOKとはならなくても、奥西さんが生きたということによって、そこに関わった人達や、映画を観てくださった方々が、学んだり、成長したり、何かを受け止める、大きなメッセージになったのではないかと思います。冤罪をはらしたいという、ただその一念だけになってしまうと、まわりも当人も苦しくなります。だから、とにかく生きたことの意味はあるというふうに私は受け止めるように考えています」

yakusoku-s3.jpgQ:「奥西さんには子どもが二人いて、息子さんは62歳で亡くなられたとテロップにありましたが、取材はされたのですか」
監督:「死刑囚の息子と娘ということで、本当につらい人生をずっと送ってこられたと思います。だから、もちろん父親に対する思いというのはあるのですが、面会を重ねることで、今度はご自分の家族が石を投げられたりすることがあり得るので、父親とも距離を置かれているようでした。私も取材を申し込みましたが、『家族のいる身なので、取材は受けられない』とのことでした」
樹木: 「お墓でさえ疎外されたのですから、映画に子どもの映像や意見が出てこないというのは、それだけで、関係者として生きていくのがどんなに大変なことか、おしはかれますよね」

Q:「事件があった村の慰霊碑を訪れましたが、よそ者は立ち入れない雰囲気がありました。この映画が、まわりの方々の心をほぐし、奥西さんを助けてほしいと思いました。まだ何人か生きている村の方々のうち誰かが…と願いました」
樹木: 「この映画を観た私達も、事件当時、ああいうふうにせざるを得なかった、誰かを犯人にしてどうにか解決せざるを得なかったという、村の人達の気持ちをはかるようにしていくしかないんだなと思います」


yakusoku-3.jpg会場からの「希林さん、ぜひこれからも頑張ってください」とのエールの言葉に、樹木さんがにっこり微笑んで「そうもいかないのよね、病気を抱えて、もう70歳超えてね」とおどけて答えた後、「がんを告白してから、「大変ですね」とか「病気は大丈夫ですか」と言うわりには、皆さん、こきつかうんですよね(笑)。いい意味で生きていきたいと思います」と話されたのが印象に残った。作品についての感想をざっくばらんに観客に求め、意見交換しながら、当意即妙な答えで、会場の笑いをとったり、共感の輪を広げていく姿はさすがで、偉ぶらないお人柄がすてきだった。作品への深い理解に女優魂の懐の深さを感じ、印象深い取材になった。
(伊藤 久美子)

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