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『僕の中のオトコの娘』窪田将治監督インタビュー

boku-naka-550.jpgboku-naka-s1.jpg『僕の中のオトコの娘』窪田将治監督インタビュー
(2012年 日本 1時間40分)
監督・脚本・編集:窪田将治
出演:川野直輝、中村ゆり、草野康太、木下ほうか、ベンガル
2012年12月29日(土)~シアターセブン、2013年1月5日(土)~元町映画館他全国順次公開

公式サイト⇒http://www.boku-naka.com/
(C) 2012『僕の中のオトコの娘』製作委員会
※第36回モントリオール世界映画祭のフォーカス・オン・ワールド・シネマ部門に正式出品作品

~マイノリティーの人たちへの応援歌、そして一歩踏み出す勇気を伝えたい~

心はオトコだけれど、女装をするのを楽しむ男子を“女装娘(じょそこ)”と呼ぶことを、みなさんはご存知だろうか。ここ数年一つの個性として認知されながらも、まだまだ偏見の目で見られてしまう女装娘を取り上げた青春物語が誕生した。就職したものの、会社に馴染めず半年で退職、以来5年も引きこもっていた謙介(川野直輝)が、女装に興味を持ったことがきっかけで、自分らしさを取り戻し、社会で胸を張って生きていくまでを、魅力いっぱいなキャラクターや、主人公を取り巻く家族との関係を絡めながら、瑞々しく描いている。自ら脚本、編集も務める窪田将治監督に、異色成長物語である本作着想のきっかけや、その狙い、そして生きづらい世の中で「自分らしく生きること」について話を聞いた。


boku-naka-2.jpg━━━女装娘を映画で取り上げようとしたきっかけは?
もともと7年前に友人と新宿で飲んでいたときに、偶然仲良くなったカップルに連れて行かれた店が女装バーだったんです。お客さんは皆女装をしていて、おかまバーかと思ったら、「ここは女装を楽しむ店だ」と聞いてびっくりしました。最近はテレビでも女装家が登場して活躍していますが、7年前はまだ全然知られていなかったので、ものすごく面白くて、異性が好きなのか同性が好きなのかも曖昧で、それを名言しないのがきまりとしてあるというのも面白くて、これは映画になるのではないかと思いました。それから時が流れ、2年前次の企画を考えていたときにプロデューサーが女装の企画があったことを覚えていて、今だったらいけるのではないかと、ようやく動き始めました。

━━━女装娘を題材に、どのようにストーリーを組み立てていったのですか?
ニッチなマイノリティーの世界が自分の立場にすごく似ているんです。映画界という狭い世界にいて、最初の頃は自主映画を撮っていても「おまえ、バカじゃないの。食えるの?」と言われましたが、好きだからやり続けるんですね。ニッチの世界に生きている人、女装はまさにそうだろうし、周りから「バカじゃないの。気持ち悪いね」と言われながらも、自分たちはそれがやりたいからやるという部分は、すごく近くて、マイノリティーの世界と映画の世界が表裏一体みたいな感じなので、そこに投影したような感じです。そういうマイノリティーの人たちへの応援歌のつもりで作りました。

boku-naka-1.jpg━━━女装娘を、就職がうまくいかず引きこもる主人公に結びつけたのはユニークですね。
一人の男の子が女装をきっかけに成長していく物語にすることが前提にありました。脚本を書き始める最初のきっかけは、ベンガルさん扮するお父さんが最後に「胸を張って生きろ」と言うのですが、それを言わせたいがために逆算した感じです。

主人公の立ち位置がマイナスであればあるほど、最後の台詞が効いてきます。引きこもりから社会復帰をするけれど周りから非難も受け、これ以上続けられない、今までさんざん迷惑をかけてきたから真っ当になろうとしたときにお父さんがその台詞を言うといった形を作りたかったんです。

━━━お姉さんは何があっても徹底的に弟を尊重するような天使のようなキャラクターなのに驚きました。
もっと言えば、そういう姉だから引きこもるんです。弟のやりたいようにさせてあげる姉だから引きこもるのであって、別にいい意味でもないんです。もし何やかんや言う姉だったら、5年間も引きこもれないと思いますね。

━━━脚本を書く際に実際に女装をされている方に取材されたと思いますが、その中で実感したことや、映画に活かしたことはありますか?
全くありません。というのも、極力最初は脚本を書くときに情報を入れないようにしているからです。キャラクターがどう生きていくのかを考えるので、謙介が(職場で)失敗して、引きこもりになって、社会復帰するという分かりやすいベクトルがあって、その中でどういう風に動いていくのか。それを作った上で、これでいけるかどうかを確認してもらった感じです。文化的な面で、最初はネットを通じてなど、今どのように女装娘に出会っていくのかは調べましたが、一人間のキャラクターとしては謙介がどうなったかということだけなので自分で作り上げましたね。

━━━川野さんを主役に起用した理由は?
最初キャスティングにすごく難航し、半年から一年ぐらいかかりました。その最大の理由は、引きこもりに見えないといけないのである程度根暗に見えなければいけない。また映画的な部分で女装したときに見栄えがよくないと、全体の流れとして最後が効いてこない。そうなるとなかなか難しかったのですが、川野さんを紹介してもらい、一緒にお酒を飲んで話をして、最終的には川野直輝という人間性で選びました。女装も似合いそうでしたしね。

boku-naka-s2.jpg━━━もっと重く描いたり、コミカルにも描けそうなテーマをある意味爽やかな路線にしたのはなぜですか?
確かに僕の作品で初めて人が死なないし、血も出ないですね(笑)。マイノリティーに対する応援歌にしたかったので、自分自身葛藤がある中で、どういう形を作れるのか模索した部分はあります。あと、震災の時に公開したのが前作の『CRAZY-ISM クレイジズム』で人がメチャクチャ死ぬような映画で、その瞬間が重たかったので、多少は震災の影響で心境の変化もあったと思います。

━━━木下ほうかさん、草野康太さんは監督の過去作品にも出演されていますが、監督から見てお二人の魅力は?
僕は個性のない役者が好きなんです。スクリーンの中だけで個性を出してくれたらいいと思っています。草野さんや木下さんや柳憂怜さんはスクリーンの中だけで輝いてくれるんです。僕の中では役者として最高です。何にでも見えるし、脇役でも邪魔をしないで輝いてくれるのがいいですね。

━━━実際に女装娘をされている方は、謙介のようにかなりの逆風を受けているのですか?
もちろんそういう方もいますし、自分勝手にやっている方もいるし、ひっそり誰にもバレずにやっている方もいます。実際に東京での試写会で女装娘の方に見ていただいた時には、身につまされるという方もいますし、ちょっと違うよねという意見もありました。ただ一般的に女装娘と呼ばれている人たちには受け入れられている感じはあります。

━━━親身にしてくれていたゲイの客とラブホテルに行くシーンでは、女装娘の謙介が男性を受け入れるのかをあえて見せているのですか?
謙介の悩みは親バレから、オカマだと言われたり色々ありますが、本人が女装したいからやっている訳です。それで家から出れたというプライドもあれば、頼りにしている静香ママに聞いても「そんなこともあるわよね」と軽く聞き流される。そうなると、謙介自身もどうしたらいいか分からなくて、優しくしてくれる男の子にいってみてもいいかなと一瞬思ったんですね。でも駆け出しだからまだ男同士で関係を持つところまでは行けないという部分を見せておきたかったのです。

boku-naka-4.jpg━━━子どもが自由にやっていることを認める覚悟を、親自身も持つ必要があるのでしょうね。
そうあってほしいという希望はあります。家族は難しいですね。かつての大家族が核家族になって、本当に今はペットまで家族になってきたという家族の形があり、しまいには子どもを捨てる親もいれば、何もコミュニケーションを取らない親もいます。自分も父親に謝ることもないし、父親から「胸を張って生きろ」と言われることもない。応援していたとしてもリアルな家族は放っておくだけです。ただ映画だから言わせることでそれが効いてくるし、今の家族に対するアンチテーゼだったり、一つのメッセージになればと思っています。そして結局、子どもが犯罪を犯したときに守れるのは家族しかいないんです。そういうものをちょっと忘れかけているかなと自分を含めて思います。

━━━モントリオール国際映画祭に3年連続選出されていますが、同映画祭の選出作品の特徴や、現場での反響についてお聞かせください。
3作品とも全然作風が違いますので、僕はちょっと気に入ってもらっているのかもしれませんね。今回は8月に行ってきましたが、日本のお客さんと反響は全然違います。ゲラゲラ、ドッカンといった感じで、たくさん笑ってくださいます。こんなに受けるんだと思うぐらいですね。3年行っていると、全作品見て下さっているお客さんや、全上映を見て下さっているお客さんもいらっしゃって、現地の方が「来年も絶対フィルムをもってこい」と言って下さるとすごくうれしいですよね。がんばる!と思います。

━━━最後に生きづらい世の中ですが、「自分らしく生きる」とはどういうことなのでしょうか?
やりたいことをやるのは本当に大変で、年をとればとるほど新しいことをするのがスゴく大変なんです。本作で言えば女装という新しい文化に入っていく若い人たちがたくさんいるわけですが、年をとればとるほど、女装一つにしても一歩踏み出るのはなかなか大変です。だから一歩踏み出る勇気や、新しいことを始める勇気というテーマを伝えたいという部分もあります。それもある意味震災の影響があるかもしれませんね。すごく生きづらい場所になったけど、頑張って踏み出す訳じゃないですか。頑張って歩んで、最後に「ざまぁみろ」と笑いたいです。
(江口由美)