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『聴こえてる、ふりをしただけ』今泉かおり監督インタビュー

kikoeteru-furi-s550.jpg『聴こえてる、ふりをしただけ』今泉かおり監督インタビュー
(2012年 日本 1時間39分)
監督:今泉かおり
出演:野中ハナ、郷田芽瑠、越中亜希他
2012年11月3日(土・祝)~第七藝術劇場、京都みなみ会館、12月1日(土)~元町映画館他全国順次公開
公式サイトはコチラ
※第62回ベルリン映画祭ジェネレーションKプラス部門子ども審査員特別賞受賞

kikoeteru-furi-1.jpg母の喪失からはじまる、思春期入口の少女の葛藤が、ここまで静かに、冷静に、そして繊細に描かれることに驚きを隠せなかった。第7回CO2助成監督に選ばれ、本作が初長編作品となる今泉かおり監督の少女たちの目線に立った人物描写が秀逸。主人公サチが母の喪失を受け止めるまでを、友人との関わりや、親戚や先生などの大人との関わりを絡めて表現した「行間を読む映画」だ。

現在は2人の子どもの母であり、看護師の仕事にも復帰間近の今泉かおり監督が、ご主人で同日公開の『こっぴどい猫』監督の今泉力哉監督とお子様を連れてのご家族来阪キャンペーンを決行。たくましい母の顔を見せながら、自身初長編作品となる本作の脚本や演出のこだわりについて、語っていただいた。

━━━元々短編を膨らませて本作の脚本を執筆していったそうですが、主人公のさちを初めどうやってキャラクターを作り上げていったのですか?
今泉かおり監督(以下かおり監督):のんちゃんが理科の授業で脳の話を聞いたとき、おばけが怖くなくなったというのが私自身小学校6年生のときに本当に体験をしたので、それを元に短編を作り始めました。片方はおばけが怖くなくなる子、片方は魂は残ることを信じたい子という話を作ったのですが、短編でなかなかちゃんと表現が出来なくて長編へと直していくうちに、主人公の子に自分のことを投影した感じになりました。

━━━脚本も手掛けられていますが、一番こだわった点はどこですか。
かおり監督:一度書き上げたときは、さっちゃんが橋の上で泣くシーンで終わっていて、半年ぐらい脚本を触らない時期がありました。第7回CO2(シネアスト・オーガニゼーション大阪)助成作品だったので、事務局長の富岡さんに脚本を見ていただくと「その終わり方は無責任だから、もう少し大人として責任のあるストーリーにしなさい」とアドバイスがあり、そこから後ろを考えていったんです。自分の頭では一旦終わっていたので、付け加えるのにすごく苦労しました。

━━━セリフではなく、動きやたたずまい、ちょっとした表情の変化でさちの感情を観客は読み取っていきますが、そういう演出をするのは難しかったですか?
かおり監督:さち役の野中ハナさんとはリハーサルを何回もしましたが、その時に一緒に脚本を読んで、読みながらさちの気持ちを話し合いました。野中さんも話し合ったことを台本に書いて、本番の時に自分なりの演技でやってくれた感じです。そんなに色々言わないで、野中さんの感じるように演じてもらい、ちょっと動きが早いとか、間が短いという指摘はしましたが、そこまできっちりはしなかったです。

━━━子どもの中に生まれる鬱屈した感情も描かれていましたが、監督の中にも子どもがただ「純粋で希望に満ちている存在」だけではない部分を浮き彫りにしたいという気持ちはあったのでしょうか?
かおり監督:5年生の女の子は男子よりも大人っぽくて、私自身も友達に嫉妬したことがあります。でもそんなことを忘れてただきれいなことだけを書くのは、私はそういう映画を観ると「いやだな」と思ったりするので、きたないところも持っていて、そこを描くのが正義かなと思っています。

kikoeteru-furi-s1.jpg━━━「お母さんが見守ってくれているよ」という大人たちの声掛けがとても空々しく聞こえましたが、徹底的に少女目線で描く中で、周りの大人に対してはどういう描き方をしようとされたのですか?
かおり監督:私も12歳の頃父が病気になり、なかなか気持ちを消化しきれないまま引きずって大人になったのですが、幸せなファンタジックなものを否定することで少し楽になる部分がありました。そういうのがなく、普通に真っ直ぐに大人になった人は、逆にファンタジーな部分をないと分かっていながら、どこかでまだあると信じて大人になっているんです。

そういう真っ直ぐな人は多分幸せだと思うし、世の中の多くの人はそうなのですが、そういう人は逆に子どもの時の感情をあまり覚えていない気がします。だからおばさんや、先生は真っ直ぐに大人になった人という設定で、慰め方も決して悪意のある慰め方ではなく「正しい慰め方」なんです。100%子どものときに戻って、さっちゃんの気持ちになって慰めることはできないけれど、大人としての正しい言葉をただ言っているだけという感じにしました。

━━━一方、さちの父親はさちを支えるはずが、自分が病んで会社にも行けず引きこもってしまいますね。
かおり監督:お父さんのキャラクターは、私が5年生のとき父が病気になったときは、私や兄より母が一番精神的に落ち込んでいたところから着想を得ています。子どもは分かっていない分平気でいられるけれど、大人の方が将来のことを考えたり、責任の重さで潰れていってしまうということを、私も大人になって気付いたので、キャラクターに反映させました。

━━━出産を経験したことで、書き足したというラストの展開に影響した部分はありますか?
かおり監督:自分が母親になると、母親としての責任感が生まれた気がします。最初泣いて終わるストーリーにしていたときは、大人の自分から見て「泣けてよかったね」と思っていたのですが、実際この子が大きくなってよかったとは思えないだろうなと考えたときに、さっちゃんの状況は変わらなくても、彼女自身が強くなり、お母さんも残せるものがあるようにしていきました。

━━━力哉監督は、かおり監督の作品を見て、どんな感想を持たれましたか?
今泉力哉監督:脚本を書くのが大変そうでした。また撮影中もまずスタッフがいないので、助監督や撮影などメインどころは自分の組の人が入っていて、初日終わって帰ってきたとき「今日、3シーン撮りこぼした」、翌日も「2シーン撮りこぼした」、3日目も「何シーンか撮りこぼした」と言っていたので、終わらないよと話をしていました。それだけこだわっていたんですね。

自分の中で明確にやりたいことがあるのに言葉が身についていなかったり、スタッフの方が経験があったり、スタッフも男性が多かったので細かい描写は「いや、別にこれでもいいんじゃないですか」と言われたこともあったみたいです。でも細かいところも散々こだわったのは、観た時そうなってるなと思ったし、スタッフも終わった直後は「本当、大変でしたよ」って言ってましたが、出来上がりをCO2で観た時に、「今泉さんも、ちゃんとやりましょうよ!」って言われたりしました。(笑)

嫁は普段は監督といっても看護師をしていて、この作品もちょうど育児休暇やCO2があったから撮れたけど、次いつ撮れるかわからない覚悟も見えたし、演出もすごくしっかりして観ていてすごいと思いました。あと、嘘や単純にみんないい人みたいな、そういう映画やドラマの嘘が嫌いなのは僕と共通していますね。


大事な人を失ったとき、人はその喪失にどう向き合っていくのか。周りはどう支えていくのか。母が大事に育ててきた花は、もう一つの命のモチーフのように、母の死を受け止めたさちの心を照らす。積もったほこり、触れなかった母のエプロン、そこにそっとふれる指先にまで気持ちの入った静かに主張する演技が、観るものを最後まで掴んで離さなかった。喪失を受け止める永遠のテーマを少女の目線で表現した今泉かおり監督。映画監督の妻、二児の母として子育て、看護師の仕事を続けながら、ライフワークとして映画を撮り続けるという強い意志が同じ女性としても頼もしく映る。自身のキャリアを積み重ねることで、今泉かおり監督にしか撮れない作品を今後も生み出してほしい。(江口由美)