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『ミラクルツインズ』イサベル・ステンツェル・バーンズさんインタビュー

miracletwins-s550.jpg『ミラクルツインズ』主演イサベル・ステンツェル・バーンズさんインタビュー
(2011年 アメリカ=日本 1時間34分)
原題:THE POWER OF TWO
監督:マーク・スモロウィッツ
出演:アナベル・ステンツェル、イサベル・ステンツェル・バーンズ他
2012年11月10日(土)~渋谷アップリンク、12月15日(土)~第七藝術劇場他全国順次公開
公式サイト⇒http://www.uplink.co.jp/miracletwins/
(C)Twin Triumph Productions, LLC 

※写真は、イサベル・ステンツェル・バーンズさん(左)とお母様のステンツェル・ハツコさん(右)

 

miracletwins-1.jpg 日本人の母とドイツ人の父から生まれた一卵性双生児のアナベルとイサベル。二人は共に幼いころから「嚢胞性線維症(CF)」という遺伝性疾患を患い入退院を繰り返してきた。肺移植しか生き延びる道がない難病と共に生き、移植に成功した今、アメリカと日本で精力的に「嚢胞性線維症(CF)」患者を支える活動や、臓器提供や臓器移植の理解と支援を得る活動を繰り広げている二人の奇跡の姿を追ったドキュメンタリー『ミラクルツインズ』が、渋谷アップリンク、第七藝術劇場で公開される。

 映画公開に先立ち10月6日(土)に第七藝術劇場で行われた先行上映会では、残念ながらアナベルさんは急病のため来日が叶わなかったものの、イサベルさんと母親のハツコさんが登壇し、日本語でQ&Aや日本とアメリカの臓器移植に対する考え方の違いを語った。
 前日に行われたインタビューで、つねに「死」と隣り合わせで闘病生活を送ってきたからこそ今があると語ったイサベルさん。その人生や移植、ドナー家族との関係、そして本作で伝えたいことについてお話を伺った。 


━━━先に本を出版されてからの映画化ですが、その経緯を教えて下さい。 
本は先にアメリカで出版され、病気でどうやって普通の生活ができるかを医療関係者や患者家族の方の前で講演してきました。その本が翻訳され、日本で出版される前に、夫がボランティアで監督のマーク・スモロウィッツ氏に出会ったのです。「妻たちが日本でブックツアーをするので記録映像を撮ってほしい」と依頼したのが一番最初のきっかけですね。監督も快諾してくださり、来日を熱望したので、2009年10月に撮影チームも同行して日本に来ました。

日本の移植の状況は世界の中で一番難しいし、そのことをアメリカ人は知りません。私はハーフで、日本とアメリカの移植の状況を知っているので、これを比べたら映画になると思いました。マーク監督は素晴らしい人で、人の気持ちを引き出すのがとても上手です。移植や法律のことだけではなく、個人個人のヒストリーも取り入れています。

━━━上半身の手術の傷跡を見せたり、摘出後の肺の写真を見せたり、全てをさらけ出していることに驚きと強さを感じましたが、これらはお二人の意志ですか?
肺の写真は、私が作っていたスクラップブックを監督に「持ってきて」と言われたし、傷跡を見せることも監督の考えです。私たちは洋服を着ていると元気な普通の人みたいですが、監督に「ちゃんと観客にどうなったか傷跡を見せてあげて」と言われました。全てを理解していた監督を尊敬しています。

━━━お二人は双子ならではの強い心の結びつきで辛い入院生活を励まし合ってきた一方で、結婚や移植など人生の岐路は別々に迎えることになります。そのような時、どんな気持ちで過ごしてきたのですか?
双子に生まれたのはすごくラッキーでした。病気も一緒だったので、孤独を感じることはなかったです。アナと一緒に治療し、病院に行きました。でもお互いに競争や比較することもありました。双子に生まれるのは運命だと思います。私たちの遺伝子は同じですが、私たちの経験は同じではありません。パーソナリティーも少し違いますし、そういう事実を育ちながら学び、受け止めなければいけません。

(結婚や移植など)自分と違うときには、もちろん辛かったです。アナはよく私を羨ましがりました。私の方がもう少し健康で、早く結婚もしましたし。ちょうどアナは移植者リストに乗るぐらいの(病気が辛い)時期だったので、あのときはアナは私のことが嫌いでした。でも父や母のサポートもありますし、英語でgrowing pain と言いますが大人になるときには痛みも伴います。お互いに依存しすぎず、自立してがんばらないといけない部分があります。

miracletwins-s1.jpg━━━死が目前に迫ったギリギリのところで移植を受け、新しい肺で息を吸ったときはどんな気持ちでしたか?
もちろんすぐには大きな息は吸えなかったです。傷跡もひどかったですし、肺はドナーから摘出すると小さくなるので、風船みたいに少しずつ呼吸で大きくする必要がありました。死にそうになってだんだん意識を失い、「死んだ」と思ったので、目が覚めたときは「天国かしら」と思いました。バンドエイドを貼っていたので移植と分かり、すごく感謝したと同時に、ドナーのことを考えました。私は生き返り、ドナーは亡くなって、答えはないけれど、「どうして?」という気持ちと共に感謝がいっぱいでした。

━━━お二人とドナー家族の交流も描かれていますが、アメリカではドナー家族の名前を教えてもらったり、交流することが一般的に行われているのですか?
ドナー家族と交流する経験がある人もいますが、ごく少数です。憶測ですが、全体の5~10%ぐらいでしょうか。私たちはとても恵まれています。私の友達でも6人のうち2人がドナー家族から手紙をもらいましたが、会ったことはありません。会いたければドナー家族の方から始めるのです。ドナー家族のプライバシーが一番大切です。手紙を受け取るかどうかも選択できます。

もう一つ、ドナー家族から臓器を提供された患者側も全員が感謝の手紙を書くわけではありません。こういう素晴らしい贈り物をもらっておきながら、なぜ手紙を書かないのか、とても複雑な気持ちになります。

━━━アメリカと日本は移植の状況が全く違うことを、イサベルさんはどう感じていますか?
世界中に移植は増えています。こういう治療があるのになぜ使わないのかと。私は移植のあとこんなに健康になったことが信じられなくて、どうして他の人はこういう機会を「可能性がない」と思ってしまうのか、不公平だと思います。日本人がちゃんと臓器移植や脳死のことを本当に理解すれば、移植は良いことだと思います。ちゃんと教育するという意味ではメディアの役目はとても大切です。 

━━━日本とアメリカとの死生観の違いはありますが、もっとニュースなどで発信されていれば、日本でも移植に抵抗がなくなると思いますか? 
そうですね。また、若い世代はまた考え方も違うのではないかと思います。日本人は体と魂が分かれないと聞いたことがあり、死体を管理しようとしていますが、アメリカはどういう人だったかとか、どうやって次の世界に渡りたいと思っているのか。そのときに、他の人を助けることがいいという考え方もあります。

━━━本当に小さい頃から死を間近に感じていたお二人だからこそ、生きることへの強い意志を感じました。
それは病気の良いこと、贈り物です。みなさんと違って私たちは目の前に死があったので、若いうちにどんな決断をするか。本当に毎日やりたいことをしなければならないという中で育ったことには感謝しています。私たちは「後で」は、(この世に)いるかどうかわからなかったですから。テレビに出演したときはいつも言うのですが、一番大事なことは「愛と時間」の両方です。どちらかだけでも難しいというのは私の経験から言えますね。

━━━元気になったらこんなことがしたいと希望をたくさん持っていらっしゃったとおもいますが、今されている仕事について教えてください。
仕事をするのは普通の生活ですよね。子どもがいないので、夫を家で待つだけの生活はちょっとしんどかったのです。患者としての生活ではなく、普通の生活を送りたかったし、まだ生きていられるので、他の人を助ける仕事がしたくてソーシャルワーカーをしています。

健康な人でも病気の人でも人生は難しいです。どうやってこの苦しみを受け止めるか、どうやってもっと強い人間になるかをみんなで学ばなければなりません。

━━━執筆された本や講演活動を通じて、一番伝えたかったことは何ですか?
本を書き始めたのは、病気が末期のときです。出版や映画のことは全く考えていなくて、個人的なプロジェクトでした。移植の望みはありながらも、もうすぐ死ぬという思いもあったので、何か自分の人生を残したかったのです。書くことで気持ちが癒され、病気のことを受け止めることができました。その後本が出版され、その後このメッセージの中には何があるかと考えたとき、病気を持っている人も希望を持ち続けることが大事だということを伝えたいと。もうすぐ死ぬというときにも、ちょっとでも希望を持つことができれば大丈夫だと思いました。

また、この病気にかかるのは90%が白人です。だから私たちの話はちょっと珍しくて、どうやってこの病気と闘うのかを伝えたかったのです。両親の文化(父親がドイツ人、母親が日本人)が病気との闘いにどんな影響を与えたのかも見せたかったです。

私たちの体はとても弱いですが、生きる意志はとても強かったです。人間は体だけではなく、ほかの強さがありますので、難しい病気でも素晴らしい人生を送ることができというメッセージを送りたいです。もちろん私たちやドナー家族に、移植の素晴らしさも示したいです。

━━━最後にこれからご覧になる皆さんにメッセージをお願いします。
移植のことだけを描いた映画ではなく、仲間のサポートや希望を持つことなど人生の映画で、誰にでも通じると思います。


映画ではほとんど登場する機会のなかった母ハツコさんも同行してのインタビュー、大きく語られなかった母の支えを肌で感じることができた。生きる意志と希望を捨てず、臓器を提供してくれたドナーの分まで今を精一杯生きるイサベルさんとアナベルさんの姿が我々に伝える全力のメッセージを、映画からぜひ受け止めてほしい。(江口由美)

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