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『1+1=1 1(イチタスイチハイチイチ)』矢崎仁司監督インタビュー

yazaki-2.jpg『1+1=1 1(イチタスイチハイチイチ)』矢崎仁司監督インタビュー
(2012年 日本 1時間6分)
監督:矢崎仁司 
脚本:矢崎仁司・武田知愛
出演:喜多陽子、粟島瑞丸、松林麗、気谷ゆみか、田口トモロヲ他 
2012年11月3日(土)~シネ・ヌーヴォにて公開
公式サイト⇒http://eiga24ku.jp/projects/product.html
※11月3日(土)矢崎仁司監督、武田知愛さん(脚本)による初日舞台挨拶あり。
※『1+1=1 1(イチタスイチハイチイチ)』公開記念、矢崎仁司監督特集をシネ・ヌーヴォにて同時開催。上映作品は『三月のライオン』(92)、『花を摘む少女と虫を殺す少女』(00)、『ストロベリーショートケイクス』の三本。

 都会の片隅で暮らす登場人物23人の日々の断片が、パズルのピースのように散りばめられた青春群像劇『1+1=1 1(イチタスイチハイチイチ)』。その日だけの関係で終わってしまう男女や、夢のために割り切って体を差し出す女たち、自宅から少女を覗き見する男、自殺した娘の部屋でバースデイケーキに光を灯す父など、双方向の関係を作ることができない人間たちが重なっていく。

1+1-1.jpg  孤独と虚しさだけが残る乾いた関係を独特の感性で切り取るのは、『ストロベリーショートケイクス』、『スイートリトルライズ』の矢崎仁司監督。本作は映画人の育成や意欲的な映画づくりを掲げて発足した「映画24区」第2回製作映画であり、同シナリオワークショップで学んだ武田知愛と矢崎監督が脚本を共作、オーディションで選ばれた23人の俳優と共に作り上げた、新しい息吹を感じる作品だ。

キャンペーンで来阪した矢崎監督に、本作着想の制作秘話や、映画で何を表現するのか、そしてこだわりの挿入歌についてお話を伺った。


━━━都会に住む人間の孤独や関係性の希薄さが滲む作品でしたが、23人の男女を使って本作を作り上げた経緯をお聞かせください。
もともと映画24区の三谷プロデューサーから話が来て、一般公募でシナリオを募集していたのですが、23人出すというときに、誰かを主人公にして、誰かが通行人Aみたいな映画にはしたくないな、全員主役にしてあげたいなと思っていたのは確かです。

1+1-2.jpg━━━シナリオは公募された中から選ばれたのでしょうか?
条件に書いてあったことがあるのかもしれませんが、たくさんの人を出そうとすると、劇団やバンドの話などストーリーメインのシナリオが多かったです。僕はもともと物語に興味ないから、「こんな話です」というのは撮りたくないのです。「こんな人が出ています」というのを撮りたいだけなんです。結局一般公募の方はダメになって、映画24区のシナリオライターコースの生徒さんたちに一度書いてもらいました。その中で一番長く、シナリオらしいものを書いてきた武田さんとゼロから共同で作っていきました。 

━━━23人みんなが主役の映画ということですが、撮影で気を付けたことはありますか? 
みんなで一本の映画を作ろうということをしたかったので、今回は誰かが何かに困っていたら、全員がその困っていることを知っているという現場でした。
衣装合わせはちゃんとするんですけれど、衣装もみんな自分で持ち寄って、基本的には自分で買ってきたり、そこから自分で役作りに入っていったと思うし、他の人にも貸したり、本当に手作りの現場でしたね。

━━━日頃矢崎監督が撮影される現場とは違う部分が多々あったと思いますが。
バジェットは厳しかったですけれど、映画の長さや内容はやりたい放題やらせていただきました。ここのところ原作ものが多かったので、久々に好き勝手やらせてもらいました。

yazaki-1.jpg━━━タイトルの『1+1=1 1』は3.11からの意味付けもあるのでしょうか?
そんなには意識していませんが、空を撮る女の子のエピソードで出てくるのは、実際僕が写した9.11の日の写真ですごく赤い空だったんです。3.11もしかりですが(11は)自分の中のことで、3.11や9.11と結びつけて考えようとは思ってなかったです。むしろ一人と一人を足しても絶対二人にならないということの方に、ずっと一人みたいな。戦争で何万人亡くなろうが、何万人ということではなく1+11が二人になるときっと何万人になってしまうので、いいことも悪いことも皆同じ方向を向いてる時、1+1が2なる空気感が怖いなと。

━━━東京での舞台挨拶で、わかりやすい感動を呼ぶ最近の日本映画に警笛を鳴らすコメントがありましたが、監督の日本映画に対する思いは?
自分の中にはそれ(警笛を鳴らす)はありますし、そういう風に作れることを否定するつもりはなく、いろんな映画があっていいと思います。ただもっといろいろな映画があっていいと思う中で、ある(ジャンルの)映画が多すぎるかなと。本当は涙とかは、自分では理解できない涙を流すときの方が多いと思うんです。こういうストーリーだから流れる涙ではなく、自分では説明のつかない涙が流れる。そういう涙を流させる映画はもっとあっていいと思うんです。

━━━そのお考えは映画を撮り始めた当初から変化はないのでしょうか?
映画で何かテーマを訴えようとは全く思っていないですね。ただ、僕の映画でできることは、忘れていたことを思い出させる。かつてあんなに人を愛したことがあったなとか、私って死ぬよねとか、日常で忘れていることに触りたいんですよね。自主制作で撮ったときから、なんとなく音を小さくしてみせたり、いわゆる映画館でかかっている映画に石を投げたいと思ってましたね。

━━━どうやってキャストを選ばれたのですか?
今回はすごく怖くて、オーディションに来ました(笑)最初に脚本があって出演者を選ぶのではなく、今回は出演する人が先に決まっているんですから。24区は誰でも入れないので、しっかりオーディションをして選ばれます。呼ばれていないけどその現場に行って、どういう人が選ばれるのか見てきました。

1+1-3.jpg━━━最後までどうなるか分からないと思いながら完成した作品について、ご感想は?
公開したときに知り合いに見てもらった第一声は「大丈夫だった?」何度も繰り返し見れるのですが、人に見せたときに大丈夫だったか聞かざるを得ない感じです。でも珍しくエンディングで写真が流れてきたときは、うるっときました。今までは割とふっきって、これで大丈夫と思うか、何か言われても全部自分の責任と思うわけです。褒められたらカメラや出演者や他の人たちが褒められ、ダメなときは監督が出ていく。そういった腹をくくるんですけれど、今回はまだ・・・(笑)

━━━ラストに登場人物全員の現在から赤ちゃんまでの写真がパラパラと映され、見入ってしまいましたが、監督のアイデアですか?
脚本を書いている途中、みなさんに写真を持ってくるようお願いをしていましたが、それをどういう風に使うか自分でも全く分からなかったんです。編集中に、写真素材を合成して何度か入れてみてもうまくいかなくて、この方法ではだめなんだなと。自分で100円の傘を壊して、一枚一枚写真を貼って、パラパラマンガのマシンを作ったんです。暗闇で回したのを見て、これなら映画に入るなと。今回は合成なしでアナログでやりました。

━━━「kiss my 明日」など、挿入歌も非常に印象的でした。
高速スパムというバンドに出会ったのはもう5、6年前だと思いますが、出会った当時から映画のエンディングに使いたいとすぐにオファーしました。でもエンディングをなかなか監督が決められなくて、使えなかったんですよ。今回はエンディングを絶対頼もうとしていたら、ちょうど高速スパムも新しいCDが出たばかりで、その中の曲を使っていいと言ってくれました。「Today」とか「kiss my 明日」とか、この映画のために作ったのかと思うぐらいすごいクロスして、出会うべくして出会ったようなバンドでした。

━━━待っていてよかったという感じですね。
もう待ちきれずに、編集の途中でエンドロールに音楽を入れてもらいました(笑)。かっこいいバンドだなと思ってずっとラブコールを送っていたので。


エンディングで登場人物全員の生きている証のような写真が一気に流れたあと、全てを包み込むかのように流れる「KissMy 明日」。観終わっても頭の中をこの曲がグルグル巡り、シーンの残像がフラッシュバックしてくるのだ。矢崎監督がラブコールを送り続けてきた神尾光洋ひきいるバンド「高速スパム」は劇中でもライブシーンで熱いプレイを披露しており、印象的な映像が織りなす矢崎ワールドに今までにないインパクトを与えている。

1+1は2ではないけれど、一人であることを保ちながらも、どこか共鳴できる一瞬が光のようにすっと射し込んでいる。心の中のシャッターでその「瞬間」を切り取ってほしい。(江口 由美)