『スリープレス・ナイト』インタビュー
ゲスト:フレデリック・ジャルダン監督、主演のトメル・シスレー氏、共同脚本のニコラス・サーダ氏 (2012,6,21 ホテルパラス東京にて)
(原題:NUIT BLANCHE/SLEEPLESS NIGHT )
(2011年 フランス・ベルギー・ルクセンブルク 1時間42分)
監督・脚本:フレデリック・ジャルダン 共同脚本:ニコラス・サーダ
出演:トメル・シスレー、ジョーイ・スタール、ジュリアン・ボワッスリエ、ローラン・ストーケル、ビロル・ユーネル
配給:トランスフォーマー
2012年9月15日(土)~ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル梅田(レイトショー) ほか全国順次公開
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© Chic Films - PTD - Saga Film
相棒とマフィアのドラッグ強奪事件を起こした刑事が、人質に取られてしまった息子を奪還するために、巨大なナイトクラブに乗り込んで、孤独な戦いを繰り広げるノンストップ・アクション。ワンシチュエーション、ワンナイト、マフィアからも警察からも追われ、誰にも頼れずたった一人で息子を救おうと、死にもの狂いで戦う父親。離婚後、ソリが合わなくなった息子の信頼を取り戻すことができるのか……父親の必死さが、リアルな映像と感覚で見る者を圧倒する。父親を演じたトメル・シスレーの、息子を心配する痛々しさと諦めない力強さは、切なくて胸に迫るものがあった。
本作を監督したフレデリック・ジャルダン監督と共同脚本のニコラス・サーダ氏、そして、主演のトメル・シスレー氏が第20回フランス映画祭参加のため来日し、インタビューに応じてくれた。
――― このようなシチュエーションを発案されたきっかけは?
監督:今の時代が反映されているのはその通りです。プロデューサーとニコラスとの出会いがあり、モダンなフィルムノワールを撮りたいと思いました。特に、限られた空間で、リアルタイムに、カオスのような状況の中で、動きのある父と息子の関係性を描きたかったのです。
――― 始めから巨大クラブを使おうと思ったのか?
監督:舞台はひとつの巨大なナイトクラブですが、実在しない場所です。ベルギー、ルクセンブルク、フランスの3カ国に分かれて撮っています。極端に言うと、ベルギーでパンチを受けて、ルクセンブルクに倒れて、起き上がったのはフランスということも(笑)。3カ国合作なので、3カ所で撮影する必要があったのです。幸い、観客はそんな風には見えないと思いますが(笑)。
――― 最初にこの脚本を読んだ感想は?
シスレー:緻密に書かれているシナリオでしたので、読んですぐに出演したいと思いました。このような細かい描写がされているシナリオは中々ないので、読んでいて役のイメージがどんどん湧いてきました。ヒーローのような役ではなく、不器用な普通の男という父親役にとても興味を持ちました。
――― 撮影中危険を感じたことは?
シスレー:スタントなしで演じたのでそう思われたのでしょうが、特に危険を感じたことはありません。でも、女刑事と闘うシーンでは、力の加減をするのが難しかったです。
――― ラブストーリーやアクション映画と大変なご活躍ですが、この役を演じる上で工夫したことは?
シスレー:撮影中ずっと「子供を失うかもしれない」という緊迫した気持ちを維持するのに苦労しました。アクションに関しては特に準備は必要ありませんでした。ただ、この映画の撮影に入る2週間前に『ラルゴ・ヴィンチ』という映画の撮影を終えたばかりで、ラルゴ役で付けた筋肉質の体形を、刑事ですが普通の父親のように見せるため少し太りました。何より、父親の感情が全面に出ることが、この役では一番重要なことでした。
――― 脚本を書くために、刑事やギャングなどに取材したのか?
監督:実際に刑事やナイトクラブの経営者にも会いました。映画の中のマルシアはその経営者に似せて書きました。アメリカ映画が大好きで、自分に酔っているような感じで、家族や親しい人にはとても優しいが何かあるとすぐにキレて残酷になる性格です。
――― 参考にしたノワール映画はある?
サーダ:監督とは何年も前からシネマテックへ通っていろんな映画を見てきました。『タクシー・ドライバー』も見ましたが、深作欣二監督や鈴木清順監督、それに韓国映画などがこの作品の至る所に投影されています。監督は限られた空間で撮りたいと言っていたので、メルヴィルの作品よりはアジア系の、特に韓国映画の影響を受けていると思います。
――― 好きなノワール映画は?
監督:ポン・ジュノ監督の『殺人の記憶』や、パク・チャヌク監督の『オールド・ボーイ』です。
サーダ:オーソン・ウェルズ監督の『黒い罠』、ウィリアム・フリードキン監督の『フレンチ・コネクション』、黒澤明監督の『天国と地獄』などです。
――― 意識していろんな外国の人物を登場させたのか?
監督:この映画は、ひとつのナイトクラブの中の出来事ですので、お祭り騒ぎをしている人や調理場で掃除をしている人など、いろんな人々が混じり合っている様子を描く必要がありました。不法移民のアジア系の人や、クロークにいる東欧系の女性など。今自分たちが生きている世界というのは、そうした人々が混じり合って成り立っています。そうした混沌とした世界を縮小したのがこのナイトクラブなのです。
――― ギャング同士の細かいセリフはどちらの案?
サーダ:監督の案です。
監督:最初は過激すぎるセリフかなと思いましたが、仲間内だとあり得るかも?と。コルシカ人とトルコ人との差別的セリフを盛り込んで、感情的になって喧嘩になりそうな緊迫感を出そうとしました。
――― ハリウッド・リメイクが決まっていますが、監督から見たハリウッド映画とは?
監督:リメイクについては、映画は産業なので、次の作品を撮るための資金作りだと割り切っています。ハリウッドがどのように作ろうが関知しません。
サーダ:『インサイドジョブ』や『ドライヴ』などヨーロッパ映画をリメイクした作品は多いが、テーマに即して最もいい時期に作らないとダメだろうね、という話はしています。
監督:2011年9月、トロント映画祭で上映された時、多くのリメイクのオファーが来ました。韓国のパク・チャヌク監督からもオファーが来たのですが、金額的にハリウッドの方に落ち着いたのです。
――― 出演してみたいハリウッドのシリーズ映画は?
シスレー:次回作のジェームズ・ボンドのオファーが来ましたが、お断りしました(笑)。作品が良ければ、アメリカであろうがどこの国であろうが出演したいと思っています。確かに、大ヒットに繋がるようなアメリカ映画に出演したら次の可能性も広がるかも知れませんが、私の関心はそこにはありません。エミール・クストリッツァみたいな監督がアメリカで映画を撮るというなら、是非出演したいですけどね(笑)。
フレデリック監督と脚本家のサーダ氏は、かなり世界中の映画を見ているようで、フィルムノワールの定義付けについて議論したり、アメリカやアジアの監督名がポンポン出てきたり、映画好きには堪らなく楽しいインタビューとなった。様々な映画を研究しては自分たちの作品に反映させているようだ。一方、トメル・シスレー氏は、終始緊張状態を保たなければならない難しい役を、情感たっぷりに演じて、演技の幅の広さを見せてくれた。特に、迷宮のようなナイトクラブ内で群衆の中を逃げ惑うシーンでは、喧噪の中の男の孤独を際立たせて、見る者の心を惹き付けて止まなかった。狭い空間での出来事ではあるが、現代の混沌とした社会状況の中で大切な人を守る男の悲哀がアクティブに描かれて、スケールの大きな人間ドラマを見たような手応えを感じた。(河田 真喜子)