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『山田洋次の軌跡』山田洋次トークショー

torasan-s500.jpgtorasan-1.jpg『山田洋次の軌跡』山田洋次トークショー

ゲスト:山田洋次監督、浜村淳
2012年8月18日(土)、京都・南座にて

名匠・山田洋次監督(80)のすべてが見られる「山田洋次の軌跡」が8月18日、京都・南座で始まった。山田監督の監督生活50周年企画で監督作品全80本をすべてフィルムで上映する貴重なレトロスペクティブ。開幕初日には浪速の名司会者・浜村淳さんとトークショーを行い、48本続いた寅さんシリーズの裏話などを山田監督が披露、詰め掛けた満員の観客は大喜びだった。


浜村:伝統ある南座での全作上映は意義深いですね。
山田洋次監督: (南座は)海外で言えばオペラ座やスカラ座に匹敵するようなところ。こんな場所で僕の映画をやることがうれしい。観客として来たことはあるし、秋には新派の舞台で『麦秋』を上演するので最近はよく来ている。京都は映画、とりわけ時代劇発祥の地。伝統は絶やしたくない。
 
浜村:南座の舞台上に懐かしい寅さんの「くるまや」のセットが作られてますね。
山田洋次監督:寅さんシリーズは28年間、48本やったが、第1作で“くるまや”のセットを作って、バラして次に使う、毎年大事に使っているうちに愛着がわきましたね。みんなそんな思いでやってきた。衣裳も同じ。セットも年季が入っている。自然とそうなっちゃったのがこのシリーズです。

torasan-s1.jpg浜村:今回は全作フィルム上映だが、これが最後になるかもしれない。
山田洋次監督:映画はサイレントからトーキーになり、カラーになり、今はCG全盛時代。デジタル化は表現の幅を広げたというよりも主に経済的な理由が大きい。110年間、続いてきたフィルムが消えるのは大事件で、大変な変化の時期を迎えている。これから何が起こるか…。デジタルは50年間、ちゃんと保存出来るかどうか。フィルムなら大丈夫なんですがね。デジタルで撮っても保存はフィルムということになるでしょう。今のシネコンはデジタル上映で、映写機は要らなくなっている。フィルムの陰影を映すのが映画。劣化はするが、デジタルと違ってフィルムを通した映像は微妙な味わいが違う。音もスクリーンを通して出す。今回はそのために専門の業者に頼んで音響も満足出来るものになっています。何よりも大きな空間、高い天井、巨大スクリーンで見るのが本来の映画。この上映が最後のチャンスになるかも知れない。

浜村:映画館で見ることが大事ですね。
山田洋次監督:今はハリウッド大作がいっぱいあるが、お客さんは客席でシーンとして見ている。僕はお客さんがざわざわして、くすくす笑ってくれるのが理想的。お客さんが「オレもああいうところがあるかな」と親近感を感じてもらえたら、と思う。

浜村:山田監督作品もそうですが、かつては1 ~ 2分見たら監督が分かる、そんな監督さんがいました。
山田洋次監督:そうですね。黒澤(明)、小津、溝口(健二)監督たちは夜中のテレビで見ても、1 ~ 2分で誰の映画か、分かります。僕もそうなりたい、と思ってますが。

浜村:監督になって50年、最初から監督志望だったのか?
山田洋次監督:松竹に入ったころ、映画は最高の娯楽だった。ほかに遊び道具もなかった。映画館に行くだけでウキウキした。映画界に入るのは手続きが大変だし、コネもなかった。あちこち受けたがたまたま通ったのが松竹だった。最初は野村(芳太郎監督)さんの助監督をやったが、自分では監督は無理だろうから脚本家になりたかった。

torasan-s2.jpg浜村:野村芳太郎監督はあまり教えない人だそうだが、監督から学んだことは?
山田洋次監督:人間を客観的に見る、ということでしょうか。それは小津(安二郎監督)さんはじめ、松竹の伝統かも知れませんね。客観的に見たら人間はこっけいで面白いもんです。ただ、(野村さんは)作る作品ごとストライドを変える人なので“教えない”という評判になったんでしょう。

浜村:撮影現場では声を荒らげることもあった?
山田洋次監督:長い間やってるうちには大声を上げることもあったが、僕の理想は、静かだけど和やかな撮影現場。和気あいあいで楽しい雰囲気が大事ですね。渥美(清)さんの演技でみんな笑い転げてなかなか本番にいけないことがたびたびあって“いいかげんにしてくれよ”ということも何度かありましたけどねえ。『おとうと』では(笑福亭)鶴瓶さんが点滴に酒まぜるシーンがあって、僕が吹き出すこともあった。監督が吹き出すのは大事なこと。

浜村: 『男はつらいよ』はよく48本も続いた。それも失敗作などは1本もない。どうしてあんなに続けられたのか?
山田洋次監督:ある程度続き始めると、普段の生活、映画や小説などみるものすべてが(寅さんに)結びついていく。2 ~ 3本、もう出来ない、大変なことになった、と思ったこともあるが、どちらかと言えば楽しんで作ったという気持ちが強い。ラクに作れる方が楽しいものができますね。

浜村:寅さんではいしだあゆみマドンナの「 ~ あじさいの恋」が忘れられません。いしださんの演技も最高だった。いしださんに「頑張りましたね」と聞いたら、「私は監督のおっしゃる通りにやっただけです」と言ってましたが。
山田洋次監督:女優さんは皆さん、それなりの人生を歩んで来ていてその魅力が第一です。“そのままでいい”というのが第一歩。小津さんの映画でも、あれほど存在感があった笠(智衆)さんが「私は小津さんの映画では演技をした記憶がない。ただ人形のようにいわれる通り演技した」と言っておられました。

浜村:監督は「愛とは」「家族とは」、そして「幸せとは」というテーマをずっと貫いてきた。そこに落語的なテイストを感じさせた。
山田洋次監督:そうですね。噺家の立ち位置で話しかける、私の映画はそうありたいと思います。ユーモアは作って出来るものじゃない。武田鉄矢に渥美さんが「青年」と呼ぶだけでお客さんはドッと笑う。『男はつらいよ』で森川信さんが「バカだねえ」というとドッと笑いが来る。森川さんに「磨き抜かれた芸ですね」と言ったら「天賦の才ですよ」と言って笑ってましたが。


torasan-pos.jpg★『山田洋次の軌跡』全作上映は前半が9月23日まで。後半は10月6日から同24日まで3か月のロングランイベント(月曜休館、月曜祝日の時は翌火曜休館)。
日替わり上映は1作品500円。午前11時から「男はつらいよ」シリーズ、午後4時からは他作品上映。特別編2作品上映もある。
ほかに南座内ミニシアターで特別編集映像「京都から見た日本映画の歴史」と「男はつらいよ南座特別編集版」も上映される(300円)。「くるまや」セット体験コーナー(500円)など。(安永 五郎)

『監督生活50周年 The Work of Yoji Yamada 山田洋次の軌跡 ~フィルムよ、さらば~』公演情報はコチラ

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