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橋口亮輔監督共同インタビュー@生誕百年 木下惠介全作品上映

橋口監督-1.jpg~『二十四の瞳』の2012年版予告篇づくりをとおして~


大阪シネ・ヌーヴォにて開催中の「生誕百年 木下惠介全作品上映」。7月28日、橋口亮輔監督(『ハッシュ!』、『ぐるりのこと。』)が来館され、トークショーが行われました。橋口監督は、今回、松竹の初ブルーレイ化したDVDの発売に当たり、『二十四の瞳』の2012年版予告篇を監督されました。トークショーに先立ち行われた共同インタビューの内容をご紹介します。


―――今回の『二十四の瞳』の予告篇づくりで感じたことは?
学生時代、木下惠介監督の作品は叙情的でセンチメンタルな作品が多く、今村昌平監督や大島渚監督について語る方がかっこいいというイメージがありました。しかし、今回、『二十四の瞳』(1954年)を観て、なんて美しいのだろうと思いました。人生の理不尽により子どもたちの運命が変わっていく様子が描かれ、個人の人生がゆがめられたり、踏みつけにされてはならない、という木下監督の憤りが映画の底辺にあって、監督は、その怒りや悲しみを直接的に描くのでなく、映画の話法でもって美しさに浄化させました。表向きは涙ものにみえても、現実への激しい憤り、こうあってはならないという怒りに気付きました。

―――予告篇は短いですが、どんなふうにまとめたのですか?
反戦や女性の生き方といろいろな切り口がありますが、今の日本において、何を伝えるのが、一番いいのかを考えました。大石先生(高峰秀子)は、分校に赴任後、わりとすぐにけがをしてしまい、本校に移ることになります。子どもたちとのふれあいはわずか1、2か月ですが、その絆は一生続くことになります。このかけがえのなさを伝えたいと思いました。とりわけ、大石先生が、教室で子どもたちと初めて出会い、一人ひとりの名前を呼んでいく場面での子どもたちの表情がすばらしいです。大石先生だけでなく観客もまた、この子達の瞳が汚れないでほしいと感じるでしょう。社会環境が変わっても、そのときそのときに生きる人々へのメッセージがあり、時代を超えた名画だとあらためて気付かされました。

橋口監督-2.jpg―――木下監督の作品で、初めて映画館で観たのはどれですか?
長崎で高校生時代に観た『衝動殺人 息子よ』(1979年)です。ひとり息子を通り魔に殺された父親(若山富三郎)が、「犯罪被害者補償制度」という法津をつくろうと奔走し、最後は過労で死んでしまいます。そこまで息子を思う親の姿をみて、ちょうど両親が離婚した後だったこともあり、映画館で、未だかつてあれほど泣いたことはないほどに泣きました。木下監督は両親に愛されて育った人で、「そこまでやるのが(親の)愛情だ」とインタビューでも答えており、監督が自分の信じるままに本気でつくった作品は、何もわからない高校生にもちゃんと伝わるのだと実感しました。つくり手の人柄は作品にも出ますし、家族のためにやり遂げる話で、公開当時よりも今の方が、広く人々の心に通じるのではないでしょうか。

―――木下監督の作品の中でお薦めの作品を3本ほど挙げるなら?
『二十四の瞳』、『カルメン故郷に帰る』(1951年)、『楢山節考』(1958年)です。ほかにも、『お嬢さん乾杯』(1949年)や『破れ太鼓』(1949年)は、洒落ていて好きですし、人間としての強さを描いた『笛吹川』(1960年)もよいです。

―――木下監督の作品に出てくる役者さんで好きな方は?
女優なら高峰秀子、男優では佐田啓二です。観客が自分の気持ちを投げかけられるという安心感があります。高峰秀子はどんな役をやっても汚れず、すっとまっすぐな感じを失いません。

―――『ぐるりのこと』から4年経ちますが、次の作品の構想は?
 プライベートな話になりますが、『ぐるりのこと』の公開後、印税などをずっと盗まれていたことがわかり、弁護士に相談しても、裁判は多額な費用がかかるし、やめるよう言われ、泣き寝入りの状態が続き、疲れ果てた時に、この仕事の依頼がきました。何の落ち度もなく、平凡に日常を生きてきた人たちが、ある日いきなり、不幸に巻き込まれる。一方的に被害にあい、原状回復さえままならない。一度失ってしまった人生を取り戻すことの大変さを、身をもって感じました。木下監督は強い意思を持って映画をつくってきた人で、本物の映画人の仕事に触れて、僕も元気になりました。

次回作についてですが、今の日本には、振込詐欺でなけなしの年金を盗まれたお年寄りや、僕以上に理不尽な目にあって、どうしようもできない人がたくさんいます。だまされて家も人生も奪われ、絶望しかない中で、もう一度人生を始めることが、どれだけ大変なことか。どうやって希望を見出して、生きていったらいいのか。今の日本は、悪いことをした者勝ちのような社会で、悪を訴えたりすることもままなりません。これでも法治国家なのか、この国はどうなっているのかと、負の感情で生きていけない気持ちになります。こういった弱者の怒りを描きたいと思います。

日本では、戦争による大空襲や原爆で何十万人もの命が奪われました。それでも、戦後は、やっと自由になり、次は自分たちのための時代がくる、豊かな未来がくると信じて、皆頑張ってきて、今よりも元気だったのではないでしょうか。現在の日本は、バブルも体験して、お金の先には何もないこともわかっています。次の作品では、戦時中から2000年頃までを描き、震災、原発事故と幾つも重なった“今”という時代を、どうしたら生きていけるのかを描きたいと思っています。


橋口監督が『二十四の瞳』を観ることで、いろいろなことを感じ、考え、次回作への足がかりをつかまれたというのがとても印象的でした。いつもみごたえのある作品をつくりあげる橋口監督。新作を楽しみに待ちたいと思います。
さて、シネ・ヌーヴォでの木下惠介監督特集上映は9月7日まで続きます。橋口監督がつくられた予告篇も8月末には発表され、同館でも上映される予定です。ぜひこの機会に、日本人の強さ、弱さ、美しさ、喜びや悲しみの物語を通して、人間の真摯な姿を描き続けた木下監督の作品にスクリーンで浸ってほしいと思います。(伊藤 久美子)


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