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『毎日がアルツハイマー』舞台挨拶、関口祐加監督インタビュー

maial-s1.jpg【STORY】 ひろこさんは認知症。娘のカメラを通した日々の暮らしは、愛しくてチャーミング。でも・・・ちょっと「お~っと!」な親子関係が紡がれていきます。関口祐加監督が自らカメラを回し、2年半にわたって記録してきたアルツハイマーの母との暮らしの動画です。せきぐち家の『毎アル』な日々をお楽しみ下さい。
7月14日(土)~ ポレポレ東中野/銀座シネパトス/横浜ニューテアトル夏休みモーニング・ロードショー!

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長編動画『毎日がアルツハイマー』の初日舞台挨拶が、7月14日(土)銀座シネパトスにて行われ、関口祐加監督に登壇頂き、本作の成り立ちやアルツハイマー病についてのご自身の考えなどを伺いました。

また、舞台挨拶では、本作にも出演している関口監督の息子・先人くん、姪っ子・樹子ちゃんも登壇し、監督に花束を贈呈し、本作の劇場公開を祝福した。
(写真左より、樹子ちゃん、関口祐加監督、先人君)


関口  『毎日がアルツハイマー』は、母がアルツハイマーになったからカメラを向けたのではなくて、アルツハイマーになった母が、すごく良いなと思ったからなんです。良妻賢母で硬い考えを持っていた母が、アルツハイマーの力を借りることによってすごく軽くなって、自分に正直に喜怒哀楽を出すようになった。アルツハイマーになった母が、人間としてすごく良いなと思って、それで母にカメラを向けたいと思いました。ドキュメンタリーの監督は、常に魅力的な被写体を探しています。本当に身近なところに、こんなに素敵な被写体がいたんた!という気持ちが強くて母にカメラを向けました。

関口 私は介護の専門家ではないので、最初に母がアルツハイマー病だと言われたときは、認知症の「に」の字も分からなかった。そうだろうなと思っていても、実際医者に言われると、焦りましたしパニックにもなりました。しかし、そんな私に何が助けになったかというと、自分が知らないことをオープンにして地域包括センターなどに助けてもらったこと。実は映画にしているくらいですから私は母のことをちっとも恥ずかしいとは思っていないんです。一番辛いのは母だと思っているので、母の気持ちをなんとか楽にできるように、色々な方に助けていただく。オープンにすることで、たくさんの人が助けてくれる。一人で抱え込まないことはとても大切だなと思っています。

関口 私自身が役得だったと思うのですが、お医者様にお会いしたりして、世の中には割りと知られていないようなアルツハイマーのあり方、アルツハイマーの病気についてしっかりと知ることが出来ました。そういう意味では、本作を通して一石を投じる、革命を起こすことが出来ればな、という気持ちがあるので、いろいろな方に見ていただきたいと思います。


『毎日がアルツハイマー』関口祐加監督インタビュー

maial-1.jpg関西での公開に先がけ、関口祐加監督がキャンペーンで来阪。これから誰でもなる可能性があるアルツハイマーに対して正しい知識で、介護される側の視点であることを心がけて楽しんでほしいというメッセージや、母娘、家族の絆について語っていただいた。

━━━お母様がアルツハイマーを患われたことを知り、どう感じましたか?
2009年の9月からずっと母を撮っていますが、自分が不安に思っていることを絶対に出さない人だったので、私にとってはそういう信号を送ってくれるのは、決して悪いことではない。危険信号が分かれば、一緒にいてあげようとか対応策が出てきます。そういう意味では、映画監督の人生はバンと決断することが多いので、ここは帰ろうと決意しました。その気持ちになれたのも、29年間好きなことをしてきたからだと思います。もし、自分が好きなことを出来ていなければ、よく介護で見られるように、「自分が犠牲になっている」という気持ちがすごく強くなりますが、私は全くないです。母がアルツハイマーになったことで、自分を日本に向かわせた。いろんなことが変わりました。

maiaru1.JPG━━━介護をしていて、しんどいと感じることはありますか?
あまりそういう風に考えないです。先生もおっしゃるように、母の残っている能力、そこが魅力的なのでさばけていく母が面白いと思って撮っていました。しんどいと思う裏には、自分たちの思うように動いてほしいと介護する側が思っているんですよね。介護の問題で、介護される側は全く問題がないと思うんです。どんどん機能が衰えてくるわけだから、それを理解できない介護する側に問題があるんです。母はアルツハイマーの患者であり、被写体なので、その母が何を感じているか、何を思っているかを常に感じていたかったんです。一番苦しいのは誰なんだと。果たして介護をしている我々なのかと。大変だと皆言うんだけど、大変にしているのは私たちと感じます。

━━━キャメラを廻し始めた当初から映画化を念頭に置いていたのですか?
最初から映画にするつもりでした。ホームビデオの先には家族ぐらいしかいないです。映画にしようとすると、キャメラの先の母は被写体であり、その先にはお客さんがいるんです。最初からお客さんに見せる。母は絶対映画になると思っていたので、DAY1から映画にするぞという気持ちで撮りましたね。
日本みたいに手弁当でオーストラリアは誰も作ってくれないんですよ。プロの世界なので、撮るとなると映画にするという覚悟が要ります。撮りたいものをどいういう風に撮るか、なぜ撮るのかをいつも自分に問いかけるわけです。それは全く撮れているものが違います。

━━━撮影しながらの介護で、キャメラを通して客観的になる部分もありましたか?
カメラの力は大きかったと思いますね。なぜ『毎日がアルツハイマー』かというと、母だけでなく家族も『毎日がアルツハイマー』で、家族のあり方も撮りたいと思うようになってきたからなんです。

もう一つはオープンにすることですよね。いまだに共同生活している感じなんです。母が残っている能力で洗い物だったらお任せするとか、掃除当番と書いておくと一生懸命やってくれたりとか、残っている能力で素敵なところをフルに活用する。そういうところが一緒に暮らしていて楽しいですし。介護される側を追いつめない。

デヴィッド・リンチの言葉なんですけど「(年をとると)教養や人生の体験で良くなっていると思われがちだけど、老化とはイマジネーションが狭まれることだ」と。我々介護する側も中年になって、想像力がなくなってきている。カメラで客体視できますが、それができなくなっている。だからぶつかるんですね。

maiaru2.JPG━━━お母様との暮らしで心がけていることは?
出来なくなっても親なので、人間の自尊心を尊重してあげることですね。30年間私はオーストラリアでマイノリティーで生きてきて、日本人ではなく、アジア人であるとしか見られなかったんです。それは私を奮闘させ、よりよい面白い映画を作ることで勝負できたのですが、そのレッテルは剥がれないし、レッテルを貼られる人間の気持ちがよく分かります。「アルツハイマーだからできなくなっていく人間」とレッテルを貼るのが許せないし、やってはいけない。

━━━映画を通じて描きたかったことは?
私の考え方、やり方で(介護は)180度変わるので、それができるかどうか。作品中で先生も仰っていますが「60点でいいんです。無理しちゃいけない。認知症は95%はまともなんです」というメッセージをこの映画を通じて送りたいです。いかに「認知症になったら大変だ」という間違ったメッセ―ジをマスコミが日々我々に送っているかですよね。新井先生(順天堂大学教授)の言葉の力は「ああそうだ」とすごく腑に落ちたし、取材されてもすごくマイナスのイメージを持たれがっかりしていたので、この映画に出会って私たちお互いにガチッときたんですよね。

人生のたそがれの時を、アルツハイマーの力を借りて母がやっと楽しくなれた。それまでの母は逆に嘘だったと思うんです。ごっそり仮面をかぶって、ずっと主席の優等生だったけど、「あんなのなんの意味もなかった」と今はじめて言うんです。「あんなのは本当に辛いだけだった」と。それを抱えて「人生変だったな」と思って終わるよりは、やっぱり言えるという、やっとそこにきたかという部分を受け入れてあげたいです。

━━━今お母様はどんな状態ですか?
今母が一番怖がっているのは、母から見て愛してくれている家族の顔が分からなくなることなんですね。「どなたさん?」って聞かれるけれど、私はそれでいいんです。「隣のおばさんです~」とか、姪っ子は「レディー・ガガです~」とかいろんな人になるんです。私たちのことを忘れてもいいんだよというメッセージを母に送るんです。 

━━━これから関西で映画をご覧になるみなさんにメッセージをお願いします。 
関東ではアルツハイマーで笑うのは不謹慎だと言われるんですけど、笑いの発祥の地大阪でどの辺で笑ってくれるのか、すごく知りたいです。だから大阪で上映していただけるのはすごくうれしいです。 介護は辛くなくならない方法があります。それは、正しい認知症やアルツハイマーの知識と、みんながオープンにすること。助けてほしいとカミングアウトすることです。もう一つは、“一日一笑”笑う力ですね。関西の人が持っている笑う力が人生においても介護でも一番大事なことです。だから、それを是非生かしていただければと思います。


第七藝術劇場での公開初日(9/8土11:00回、15:20回 上映後)は関口監督のトークショーおよびサイン会が開催される。「関西のお客様がどこで笑ってくれるのか、楽しみにしている」と関西公開を楽しみにしている関口監督の『毎日がアルツハイマー』。“笑い”が介護もアルツハイマーも人生も楽しくできる力があることを実感するだろう。
(江口 由美)

    

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