レポートインタビュー、記者会見、舞台挨拶、キャンペーンのレポートをお届けします。

『NINIFUNI FULL VOLUME ver.』真利子哲也監督インタビュー

 nini-s1.jpg(2011年 日本 42分)
監督:真利子哲也
出演:宮崎将、山中崇 、ももいろクローバー他
2012年2月25日~シネリーブル梅田、京都みなみ会館、4月神戸アートビレッジセンター他全国順次公開
・作品紹介⇒ こちら
・公式サイト⇒http://ninifuni.net/
第64回ロカルノ国際映画祭 Fuori Concorso部門招待作品
第41回ロッテルダム国際映画祭 Spectrum Shorts部門招待作品

(C)ジャンゴフィルム、真利子哲也
 


『イエローキッド』 で鮮烈な長編映画デビューを果たした真利子哲也監督。『EUREKA ユリイカ』の宮崎将や人気アイドル、ももいろクローバーを配した最新作の中編映画『NINIFUNI FULL VOLUME ver.』について作品のイメージが浮かんだきっかけや、キャスティング秘話を語ってくれた。

━━━ももくろクローバーをキャスティングした理由は?
一番はじめの企画段階からアイドルグループのキャスティングを決めていました。人数の多いグループの何人かを軸に作りたいとプロデューサーと話をしていて、既存のアイドルをまず見ようと最初に行ったのがももいろクローバーでした。出てきた瞬間にプロデューサーと顔を見合わせて「この人たちしかいない。」イメージと合致したのがいた!本当に一目惚れというか、そのときに決めました。

踊りも歌も全力でやってしまっている人、はみだしてしまっているグループをここに置きたいと思っていたので、それがももいろクローバーにあり、かつ、色分けされていて分かりやすいという自分の好みともあったんですね。前作の『イエローキッド』も色分けしていましたし。

━━━ももいろクローバーに、演じるにあたって注文したことは?
彼女たちは『シロメ』というフェイクドキュメンタリーの映画で怖い目をさせたんですけれど、映画監督が来たということで、また騙されるんじゃないかといった顔をしていたので、まず最初に言ったのは「騙しじゃないですよ。」元々ももいろクローバーの本人役で出すつもりではなかったんです。あくまで日本一のアイドルグループという設定で脚本は決まっているので、「ももいろクローバーが日本一のアイドルグループだと思っているし、現場でもももいろクローバーらしさを全部出してくれ。」と伝えました。本人たちもすごく寒かったけど、何回もやってくれましたね。

━━━実際の事件が題材だが、監督が一番気になった部分はどこか。
結局最後はああいう結末になるわけですが、記事の扱いも小さかったですし、そこまで思い詰めるほどではない。けれども、本人は思い詰めて最後に至ったというところが何ともいえない感触で、それがまずベースにありました。その記事でなんとなく想像する男の姿があったんです。東京で話を聞いたときには最後の部分に関してはネガティブな考え方だったんですけど、実際その場所に行ってみたら、もしもこの場所に住んでいる人間だったら選択肢であったことだなと思いました。だから、何度もロケ場所に行って作ってきました。

nini-1.jpg━━━監督は、宮崎君のどういう部分に期待したのか。
そんなに大きな事件ではなく、よくある事件で、だから主人公もどこにでもありうるようにして描いていこうというのがはじめからありました。宮崎君が演じるときもその辺は意識したと思います。宮崎君は『ユリイカ』の印象があったのと、『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』(主人公の兄役)のあの出方の印象がとにかくすごかったので、何をどうやって演じているのか分からないけど、ただならぬものを持ってきてくれるだろうという気はしていました。セリフがない以上、そういうのがいいなと思ったんです。

━━━ もともと主人公にセリフをつけないつもりだったのか。
ちょっと説明的なシーンの並びになったとき、別の方法はしましたが、セリフは脚本のときから一言もなかったです。今回脚本も監督もやったので、イメージの共有がかなりやりやすかったです。そこで構築できたかなと思っています。

━━━セリフがない分、音にこだわっているのか。
自分も東京出身でいわゆる地方に足を運ばないのですが、シナハンに行ったときに、とにかく風景にマックやユニクロはあるけど、特に何もない。本当に通り過ぎられる場所で、国道を車がたまに走ってくるけど、走り去るとまた無音になるというあの感覚がなかなか東京ではなかったので、すごく印象深く残っています。スタッフも東京以外の人が多いので、何でもないと言われるけれど、自分には印象的で音を映画の中で生かしていきたいなと思いました。今回はそういう風景と、主人公の男と、アイドルグループの3点だけはこだわらせてくださいと。逆に言うと、それしかこだわらずやったというか、だいぶシンプルに考えました。

━━━押し寄せる波や、波の音も印象的だったが。
もともとの企画(経済産業省実施の、3人の監督がそれぞれ中編をつくる「moviePAO」)が自由にやっていいというのと、海外の映画祭に出したいと言っていたんです。日本の独自のものをやりたいと話をしていた中に、こういうアイドルグループも当てはまると思いましたし、波自体が西洋だと永遠なるものと言うらしいですが、日本だと桜みたいな刹那的なニュアンスを盛り込めると。本当はラストカットは波だったんです。当初の想定とは違って別のものになりましたが、波というのはすごく重要な要素ですね。

nini-s2.jpg━━━震災が起こったことによって、この作品に関して受け止められ方が想像とは違うと感じることはあるか。
昨年1月末に海辺で撮った映画なので、震災と関連づけて考えられるのは当たり前ですけど、何よりも自分が3月の上映がなくなったときに「これおもしろいのか、おもしろくないんじゃないか。」と思って、6月の上映はすごく怯えながらやりました。結果的に住んでいる人が観に来てくださって、よかったと言ってくださいました。自分はここに住んでいないし、すごく大きい問題で、曲がったように考えてしまうんですけれど、決してこれが禁じられた映画ではなくて、むしろ地元の人は喜んでくれ、やってよかったなと思っています。

━━━311仙台短篇映画祭映画制作プロジェクト作品『明日』の真利子監督作品『スポーツマン』はパンチが効いていたが。
予算の関係で結局取れなくて、パイロット版で昨年夏に撮った作品『エルサント』の一部なんです。震災があって書き直した脚本ですし、成立しなかったのはそのせいでもあるので、とにかく準備してきたものをぶつけてやろうというタイミングで仙台の企画がありました。決して震災ガンバレみたいな映画ではないけれど、自分たちにしたらすごく関連した内容で、負けても負けても立ち上がる。そこは強引かもしれないけれど適しているのかなと思って提出しました。

━━━『NINIFUNI』は監督デビューして10年目となる作品だが、監督自身区切りと感じる点はあるか。
元々作っているときは意識していなかったですが、かなり処女作の『こぞ』に近いですね。それもセリフはないです。撮る前に、短編や中編はこれで最後にしようという気持ちでやったので、結局初心に返ったというか、難しいことを考えながらいろいろやっていましたけれど、原点でまた始められたなと。しかも『こぞ』というのは自分が出ているのですが、『NINIFUNI』は役者が出て、原点に帰れたなという気がしています。  


ロケハンを積み重ね、シンプルにこだわる点を見極めて撮り上げた真利子監督の節目ともなる作品『NINIFUNI FULL VOLUME ver.』。短期間で製作されたそうだが、監督のイメージを具現化するプロセスがくっきり浮かび上がるインタビューとなった。特別上映企画『NINIFUNI FULL VOLUME ver.』公開記念 「真利子哲也監督特集:虚・々・実・々」@シアターセブンでは、インタビューで紹介されたパイロット版『エルサント(仮)』や処女作『こぞ』も上映される。本作と合わせて、真利子ワールドを駆け巡ってほしい。 (江口 由美)

(C)ジャンゴフィルム、真利子哲也

月別 アーカイブ