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『若き詩人』ダミアン・マニヴェル監督インタビュー

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『若き詩人』ダミアン・マニヴェル監督インタビュー
 

~詩人を夢見る青年、レミの迷い道が瑞々しく描かれる、珠玉のフランス発インディーズ作品、上陸!~

 
まるで水彩画のように淡く、透き通った色合いの映像が、陽光降り注ぐ南仏の海辺をやさしく映し出す。そこにいるのは、詩人になりたいと、ノート片手に街を歩き回る青年、レミ。カッコイイのに、どこかファニーな部分も漂う非モテ男子は、街の漁師に話しかけ、リゾートで親戚の家にやってきたカメラ女子の手モデルをしてみたり、大好きな詩人が眠る墓地で向かい合い、自分が作った詩を披露したりする。
 
詩を作るというとても私的、内面的かつ地味に思える行為をテーマにしながら、一方で街の人々とコミュニケーションを取りながら自分を見つめ、苦悩する青年のリアルな姿を、独特のテンポでカラリと描いた『若き詩人』。本作が初長編作となるダミアン・マニヴェル監督と、今回併映される短編『犬を連れた女』でも主演のレミ・タファネルががっぷり組んで作り上げたインディーズ作品の本作は、ロカルノ映画祭で特別大賞を受賞し、フランス映画界でも大きな話題となった。フランス映画の新しい時代を予感させる才能に、思わずワクワクさせられることだろう。
 
本作上映に合わせて来日したダミアン・マニヴェル監督に、映画着想のきっかけや、主演のレミ・タファネルとの映画づくり、どんどん進化してきた自身の映画制作手法についてお話を伺った。
 

 
―――本作の舞台となった場所は海や坂があり、作品中でも「詩を作るのに適している」と言われるほど魅力的でしたね。
フランスのセットという地中海に面したリゾート地で、イタリア系の方がとても多い地域です。僕自身が小さい頃からよくバカンスで行っており、既に街全体の雰囲気や、小さい通りをよく知っていました。映画を撮るにあたって、自分が既によく知っている場所であることは必要不可欠でしたから。
 
―――詩を作るという非常に個人的、内面的で地味な行為を映画の題材にしようとした理由は?
レミの人物像に、詩の創作がとても合うと思いました。レミの世界の見方や考え方、それを言い表す方法は、彼が現代の詩人になることが可能であると思わせてくれます。
 
 

■皆、こっそりと詩を書いていたことがあるけど、個人的すぎて誰にも見せたくないのではないか。

―――日本人はあまり詩を身近に感じる環境ではないように思いますが、フランスは小さい頃から詩に親しむ習慣があるのでしょうか?
日本と同じような状況ではあると思います。生活から詩はすでに遠いものになっています。だからといって、詩が我々に全く必要ではないとは言い切れません。若者は詩という表現方法だけに固執せず、音楽や絵など、様々な表現方法から自分に合うものを探しています。僕の映画を上映したときに、若い観客が僕のところまでわざわざやってきて、自分も詩を書きたいんだとそっと告げてくれることがあります。皆、こっそりと詩を書いたことはあるけれど、誰にも見せないし、誰にも伝えたくないのではないかと感じています。私も18歳の頃詩を書いたことがありますが、とても個人的なものすぎて、誰にも見せたくないものでしたから。 
 
―――主人公、レミが度々墓地を訪れ、墓石に向かって対話するシーンが描かれていますが、実際に有名な人の墓があるのですか?

 

ポール・バレリーのお墓に向かって話をしています。世界的に有名な詩人ですが、私たちは映画の中で彼の名前を出していません。映画の中で誰の墓かは大切なことではなく、一番大切なのはレミ自身が偉大だと思っている詩人と会話をしているということなのです。
 
 
 
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■夢見がちな少年を探していて出会えた主演のレミ・タファネル。撮影中も合わせる努力をしながら、彼の提案を全部試してみた。

―――主演のレミ・タファネル君は、カッコイイのにちょっとヘンな独特の雰囲気を持つ好青年です。今回同時上映される短編『犬を連れた女』から2作連続で彼を主演に映画を撮っていますが、レミ君との出会いや、彼との映画づくりについてお聞かせください。
『犬を連れた女』の共同脚本、レミ・エステファル氏がレミ・タファネル君を見つけ、私に会うようにと勧めてくれました。その頃僕は、夢見がちな少年を探していたのですが、レミ君は会った瞬間、本当に気に入りました。まさにパーフェクトです。同時に彼はスペシャルな少年なので、通常なやり方では無理で、私が彼に合わせなければいけないこともすぐに分かりました。ですから撮影中もレミ君に合わせる努力をしました。彼はとても想像的な少年で、勇気もあり、リスクも取ります。様々なことを提案してくれるので、それを採るか採らないかは僕の判断ではありますが、それらは全部試してみました。特に『若き詩人』では、彼も私のやり方を分かっていますし、私も彼がどんな出方をするか分かっているので、とてもカッチリと組み合わさった感じで撮影できました。出演者もレミ君以外は、全てセットに実際住んでいる方ばかりです。エンゾ君も実際に現地で漁師をしています。バーでレミ君がおばちゃんに「あんた、迷ってそう」と話しかけられますが、それも本当にその場で起こったことで、何も仕込んでいません。
 
―――なるほど、シナリオが全てある訳ではなかったのですね。現場では、レミ君にどんな指示を出しながら撮影していたのですか?
古典的なシナリオという感じのものはありませんでした。毎日新しいアイデアを見つけるよう努力しました。まるで、映画を撮りながら物語を書いているような感じです。本来はまずシナリオを書き終えてからテストをし、撮影していくのですが、私たちはまず最初にテストをし、それからシナリオらしきものを書くような感じで進めていきました。いくつかのシーンは前もって書いていますし、いくつかは全く即興で撮りました。ですから1つだけのメソッドというものは私の映画にはありません。まず何が起きているかやってみて、眺め、それから決めていきました。
 
 

■新しい作品を撮るごとに、スタッフの数もシナリオの量も減っていき、逆にストーリーを語れるようになった。

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―――今まで短編4本を撮られていますが、短編時代から今回のような撮り方をされてきたのでしょうか?それとも、初長編の本作でシナリオではなく、まずはテストというやり方を取り入れたのでしょうか?
とても興味深い質問です。僕は1作撮るごとに進化を遂げ、今回のやり方に近づいていきました。最初の『男らしさ』という短編では、スタッフが20人もいました。新しい作品を撮るごとに、だんだんスタッフの数が減っていったのです。シナリオを書く量もどんどん減っていきました。撮影を重ねるごとに、段々ストーリーを語るようになってきたのです。今思えば、自分のやり方を探していたのでしょう。普通に考えると、変わったやり方で撮れば撮るほど、映画の内容は少し抽象的になっていくと考えられますし、そういう結果を得られるのが当たり前ですが、私の場合は正反対です。きちんとしたやり方でしないことにより、はっきりと物語性を帯びてきます。物語自体は全然ドラマチックではなく、とにかく自分の範疇に近いもので、僕はそういうものが好きなのです。
 
―――両作品とも、水性絵の具で描いたような透明感のある明るい色調なのが印象的ですが、色の面でこだわった点は?
色に関しては、自然光を使い、人工の明かりを使っていません。この街でどのような明かりがどこに降り注ぐかが分かってくると、後はひたすら待ちました。そこが大変でしたね。
 
 

■フランスの独立映画でも映画を作り続けることは難しい。日本の同世代の監督と、映画に対する思いを交換したい。

―――フランスのインディーズ映画業界は、今どのような構造になっているのですか?
フランスには商業映画、大きなお金を持っている人が独立映画を作る独立商業映画、そしてその下に独立映画があり、私はそこで映画を作り、自分で制作もしています。私たちにとって映画を作り続けることは本当に難しいことです。
 
―――インディーズ映画の上映環境は充実しているのでしょうか?
『若き詩人』はロカルノ国際映画祭でワールドプレミア上映をし、幸運なことに賞をいただき、世界の様々な国で映画を上映する機会を得ることができました。フランス、ブラジルでの配給に続き、日本でも配給されます。監督として映画を撮り、映画を上映することができるのは本当に幸運だと思っています。
 
―――今回の来日でダミアン監督は、日本のインディーズ映画の作り手との交流を図ろうとされているそうですね。
日本の同世代の独立系映画監督と出会いたいと思っています。最初に出会ったのは、ロカルノ映画祭での五十嵐耕平監督です。文化も人種も全く違いますが、映画人としては多くの共通点があると感じました。彼らと話をするにつれ、日本の若い独立系映画監督を取り巻く環境はとても複雑で、厳しいということが見えてきました。でもとても驚いたのは、そのような中でも彼らは映画を作りたいという熱い情熱を持ち続け、努力をやめないのです。私はそういう映画に対する思いを交換したいです。
 
 

■「僕はレミ君に似ている」という声も。日本で上映し、この作品が皆さんの心に触れていると感じられる。

―――既に、広島、福岡で短編が上映されましたが、日本の観客の反応はいかがですか?
国での違いもありますが、映画を上映する部屋が違えば反応は全く違います。日本の観客の方々の反応はとてもうれしいものです。映画を上映し、この映画が本当に皆さんの心に触れていると感じています。特に若い男の子が、「僕はレミ君に似ている」と言いに来てくれたりすると、うれしくて仕方ありません。
 
―――これからもレミ君の成長を、ダミアン監督の作品で観たい気がします。今、準備中の作品や、今後の構想があればお聞かせください。
レミ君に関しては、今後も一緒に仕事がしたいと思いますが、すぐではなく、何年か経て、僕も彼も成長したときに、また一緒に撮りたいですね。私は偶然仕事をするというスタイルが気に入っているので、彼との場合、あまり準備はしたくないのです。またバッタリ出会って、よし!といった感じで仕事をしたいです。今、編集中の長編第2作があるのですが、主人公は15歳の少女で、今までとは全く違った作品になっています。
 
―――ダミアン監督は、10代ならではの揺らぎや迷いを表現することに惹かれるのでしょうか?
青少年と働くのが好きなんですね。こうして考えてみると、全ての年代は興味深く思えます。私自身もよく自問するのですが、私の映画の大きなテーマの一つに「年齢」があるのではないかと最近思っています。年齢だけにフォーカスするだけで、とても多くの話が引きだせ、とても豊かなものが詰まっていると感じます。
 
 

■映画を撮る上で一番大事なのは、自分自身がリスクを取ること。快適な場所に居続けるならいいものを作ることはできない。

―――ダミアン監督が映画を作る上で、一番大事にしていることは?
一番大事にしているのは、自分自身がリスクを取ることです。もし自分がとても快適な場所に居続けようとするなら、全くいいものを作ることはできないと信じています。例えば、ただの道だとか、ただの顔として扱うと、それだけになってしまいますが、リスクを取ることでただ一本の道が映画の中で価値を持ちぐっと現れてきますし、ある人の顔にしても
そうだと信じています。撮影は毎日危険因子を含んだものです。私の撮影で一番リスクを取ることは、例えて言えば「待つ」ことです。とてもストレスが多いですし、イライラもしますが、同時にワクワクもします。まるで釣り師が魚を釣るのをじっと待っているような心持ちなのです。
(江口由美)
 

<作品情報>
『若き詩人』※併映『犬を連れた女』
(2014年 フランス 1時間11分)
監督:ダミアン・マニヴェル
出演:レミ・タファネル
2015年11月28日(土)~シネ・ヌーヴォ、2016年1月16日(土)~シアター・イメージフォーラム