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『チャップリンからの贈りもの』グザヴィエ・ボーヴォワ監督インタビュー&トークショー@フランス映画祭2015

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『チャップリンからの贈りもの』グザヴィエ・ボーヴォワ監督インタビュー&トークショー@フランス映画祭2015
 

~「神を信じていないけれど、チャップリンは信じています。」

グザヴィエ・ボーヴォワ監督×ミシェル・ルグランが綴る

チャップリン遺体誘拐の顛末とほろりとする結末~

 
伝説の喜劇王、チャーリー・チャップリンは、いつも社会の底辺で生きる人たちに目を向け、その苦しみや歓びをユーモアと皮肉を絶妙なさじ加減で取り入れながら描き続けてきた。そんな偉大なチャップリンを思わぬ形で取り上げ、現在に”甦らせた“のが、実在のチャップリン遺体誘拐事件を題材にした、グザヴィエ・ボーヴォワ監督最新作の『チャップリンからの贈りもの』だ。
 
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<ストーリー>
1978年、スイスのレマン湖畔に住む、移民のオスマン(ロシュディ・ゼム)は、刑務所から出所したばかりの親友エディ(ブノワ・ポールヴールド)を離れのバラックに住まわせながら、娘サミラと共にギリギリの生活を送っていた。ある日、エディとテレビを見ていると、チャールズ・チャップリン逝去のニュースを目にする。妻の入院費が払えず窮地に陥ったオスマンのためにエディは、前代未聞のチャップリンの遺骨を誘拐し、身代金を奪う計画を立てるのだったが・・・。
 
チャップリンの遺族が本作へ全面的に協力し、作品中でもチャップリンの妻役やサーカス座長役で出演している他、なんといっても感動的なのは『シェルブールの雨傘』をはじめ、数々の素晴らしい映画音楽を手がけたミシェル・ルグランが、本作で久しぶりに音楽を担当していること。往年の名画を観ているような壮大な音楽に胸が熱くなる。
 
遺体誘拐事件の犯人側にスポットを当て、彼らが当時置かれていた状況や、誘拐事件を起こさねばならなかった理由、そして映画ならではの結末に希望が見える、グザヴィエ・ボーヴォワ監督流ファンタジー。ファンタジー要素をより高めたのが主役のブノワ・ポールヴールド演じるエディがサーカス座で職を得、二人組のパントマイムを演じるシーンだ。チャップリンの姿がかさなるようなエディの姿やラストシーンは、記憶に残ることだろう。
 
グザヴィエ・ボーヴォワ監督へのインタビューでは、チャップリンへの思いやサーカスシーンの裏話をお聞かせいただいた。
 

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―――チャップリンの存在の偉大さや、グザヴィエ・ボーヴォア監督が学ぶべきものを引き継いでいる偉大さを感じましたが、監督にとってチャップリンはどのような存在ですか?
私は神を信じていないけれど、チャップリンは信じています。チャップリンが語る言葉は、私の前作『神々と男たち』の修道僧に語らせても、ぴったりくるような台詞がありました。『チャップリンの独裁者』でのスピーチも修道僧に語らせても非常にしっくりくるもので、そういう意味でもチャップリンは偉大な存在だったと思います。
 
 
―――犯人が移民であることも、この事件や本作の脚本を書く上で大きな要素となっていたと思いますが、当時の社会的背景や移民たちの置かれていた状況について教えてください。
事件はスイスで起こっていますが、フランスとスイスで実は状況は違っていました。スイスは移民を街の中に溶け込ませ、住まわせていましたが、フランスの場合は移民を郊外に追いやり、ゲットーのようなところで住まわせていたのです。スイスは最初から移民に滞在許可を与えていましたが、フランスはなかなか滞在許可を与えませんでした。しかも当時フランスは労働力確保のために移民を来させておきながら、滞在許可や労働許可を与えなかったのです。これがそもそもフランスの間違いだったと思います。労働力として入国させたなら、スイスのように街の中に住まわせ、労働許可を出すべきでした。それが今フランスで起きている様々な事件の根源になっていると思います。
 
 

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―――サーカスのシーンで、ブノワ・ポールヴールド演じるエディの二人組の出し物(パントマイム)が素晴らしかったですが、このシーンはどのように作り上げていったのですか?
本当のサーカスの出し物を見て、それが素晴らしかったので映画に採用しました。ブノワは、最初は道化師の役は絶対にやらないと言い張っていました。赤い鼻をつけた、いわゆる道化師ではないと話をしても、DVDを見せようとしても断固拒絶されたのです。最終的には、一緒にサーカスを見に行って、生のサーカスのパントマイムを見て、ようやく「これだったら、やってみる」と快諾してくれました。
実際のサーカスでのパントマイムは、本番一回だけですが、映画の撮影時は20回、30回と同じことをやらなければならなかったので、翌日ブノワは「筋肉痛だ!」と大騒ぎしていました。
 
 
―――墓を掘り起こすシーンと、埋め戻すシーンの曲は少し楽しそうな雰囲気がありましたが、監督からはどのような指示を出したのですか?
お墓を掘り起こす奇妙で奇天烈な人がいたということで、ファニーな音楽を起用しました。刑事ものであれば暗い感じの音楽になりますが、そういうものは作りたくなかったのです。
 
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―――『ライムライト』をアレンジした音楽が使われていましたが、その意図は?
『ライムライト』をアレンジしたのは、ミシェル・ルグランです。この曲を使ったのは、お墓を掘り起こしたときに、チャップリンの魂がもう一度表舞台に現れたという感じを出したかったのです。そこで、『ライムライト』の曲で登場させたのです。執事が「こんな事件でももう一度表舞台に(チャップリンが)出てきたので、私はもう一度ここにいなくてはいけない」と最後に言いますが、そこでも掘り起こされたことにより、生き返りはしませんが、やはり“チャップリンは出てきた”のです。
(江口由美)
 

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フランス映画祭2015上映後に行われたトークショーでは、東京を気に入ってくださった監督の熱のこもった挨拶に続き、音楽について話が及んだときは、担当したミシェル・ルグランになんと生電話という、うれしいサプライズも。きっとチャップリンも微笑みながら見守ってくれていたであろう、最後まで盛り上がったトークショーの様子をご紹介したい。
 
ゲスト:グザヴィエ・ボーヴォワ監督
(2015年6月29日(日)@有楽町朝日ホール)
 

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――― 最初のご挨拶。
皆様こんにちは~。この場を借りてこの作品を公開して下さった関係者の方々にお礼を申し上げます。
私は、私の作品を紹介してくれるいろんな国へ行って「この国に来られて嬉しい」といつも言っていますが、それはウソで、心の中では「本当は家に居たかった」と思うことが多いです。ですが、今回は本当に本心から日本に来ることができて嬉しく思っております。私の友達の多くは日本が好きです。日本映画は勿論、家並みやファッション、和食や文化、特に注目したのは自分以外をリスペクトする姿勢です。東京はこんな大都会なのに、物音があまりしません。車も静かで、あまりに静かなのでびっくりしたくらいです。今回は皆様とお会いできて大変嬉しく思っております。
黒澤明監督は、「映画について語ることは余計なことだ」と仰ってたと思いますが、「見ればわかる」ということでが、私は私の映画についてひと言説明させて頂ければと思います。
 
 
――― この映画は実際に起きたチャップリン遺体誘拐事件を基に作られていますが、今なぜこれを題材にして作ったのですか?
家で妻と『ライムライト』を見ていて、その事件のことを思い出して妻に話したんです。すると、「冗談でしょ!?」と信じなかったんです。そこで、インターネットで調べて説明していたら、「チャップリンの遺体を盗むなんて、こんな奇妙奇天烈なことは映画にすべきだ!」と思って作ったのです。
 
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――― 音楽を巨匠ミシェル・ルグランが手掛けておられるのに、先ずびっくり! さらに、滑稽で間抜けなシーンにそれが使われていたのにまたびっくり!彼を起用した理由は?
映画は魂を持った人間のようだと思っています。映画を作るということは、魂に導かれるように創り上げていくことだと。先ず、その作品は音楽が必要かどうかを考え、必要だったら魂からの呼びかけがあると思っています。
ミシェル・ルグランの音楽は大好きで、『シェルブールの雨傘』や『ロシュフォールの恋人たち』などずっと彼の音楽を聴いて育った人間ですので、「是非担当して欲しい!」とオファーしたら、OKして下さったのです。しかも、フランスにあるお城のようなご自宅に3週間泊めて頂いて、一緒に生活するという幸運に恵まれたのです。スタジオはハリウッドにあったのですが、フランス人女優の奥様がフランスに居たいと仰って、そうなったのです。
編集を担当していた私の妻は、編集機をルグランさんのピアノの横に置いて、ルグランさんはシーンを見ながら作曲するという共同作業ができたのです。彼は83歳ですが、若々しくてとても熱意のある方です。オーケストラのイメージも同時に出来上っていて、作曲も演奏もすべてやって頂きました。今思い出しても涙ぐんでしまうほど感謝しております。
 
(ここで突然携帯電話を取り出して、電話を掛けるボーヴォワ監督……相手はなんと、ミシェル・ルグラン!! 会場の大喝采を送ると、「日本の皆さんにカンパイ!」とミシェル・ルグランの元気な声でお返事が!―― 思わぬプレゼントに会場は大盛り上がり。)
 
 
――― 『ライムライト』を思わせるラストシーンが特に印象的でしたが、最初からそうするつもりでしたか?
社会の陰の部分で生きている人も光の方へ行ってほしい。人は立ち上がることができる。スイスで撮影したのですが、可能な限りの光を集めて撮影しました。刑務所から出所する時に「もう道化師は辞めろよ」と言われるのですが、結局サーカスで道化師をやることでエディは立ち直っていくのです。そこがとても重要なことだったのです。私の子供時代もとても大変なことがあり不幸でした。ですが、映画の力で光の方へ行けたのです。同じように立ち直ってほしいという願いを込めて撮りました。
 
 
――― 雨のシーンが多かったようですが、何か理由があるのですか?
チャップリンが亡くなったのはクリスマスで、必然的に冬のシーンが多くなって雨が多かったのです。自然の雨のシーンは好きで、よく撮ります。思い通りの気候を人工的に設定して撮影したい監督もいますが、私は自然に任せて撮る方です。
 
 

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――― 『神々と男たち』でも素晴らしい映像で魅了させてくれたキャメラマンのカロリーヌ・シャンプティエとの仕事について?
彼女とは5作品一緒に仕事をしています。彼女なしでは撮影は考えられない程です。言葉に出さなくても私の意図を素早く理解してくれます。私たちがよく考えていることはあまり美しくなり過ぎないようにすることです。俳優とのやりとりもよく理解してくれています。彼女は、半分はアーティストで、半分は「サムライ」だと思っています。芸術家としてのセンスも素晴らしく、モーターのような原動力があり、さらに確固たる意志を持った人なんです。体は小さいのですが、「サムライ」のような人だと思っています。
 
 
――― とてもユーモアのある作品でしたが、チャップリンの秘書の方や娘さんなどの身内の方はどう捉えていたのでしょう?
弁護士と検事のやり取りは実際の裁判記録から引用しています。結構、楽しんでいたのでは?と思われます。チャップリンの奥様は、最初「チャップリンは心の中で生きている」という理由で身代金は払わないと言っていたそうです。ですが、子供たちに危険が及ぶような脅迫をされ、それぞれにガードマンを付けたようなこともあったらしいです。ご家族にしてみれば不愉快な事件ですが、最後は粋な計らいで締めくくられましたので、今回の映画化にもとても協力して頂けたのです。チャップリンの偉大さは、亡くなってからもマスコミで大きく報道されて世界が注目し、死してなお二回目の生を生きた人なんだと思いました。
(河田真喜子)
 

<作品情報>
『チャップリンからの贈りもの』
原題:La rancon de la gloire  英題:THE PRICE OF FAME
・2014年 フランス 1時間55分
・監督:グザヴィエ・ボーヴォワ
・脚本:グザヴィエ・ボーヴォワ/エチエンヌ・コマール
・出演:ブノワ・ポールヴールド、ロシュディ・ゼム、キアラ・マストロヤンニ、ピーター・コヨーテ他
2015年7月18日(土)~YEBISU GARDEN CINEMA、シネスイッチ銀座、シネ・リーブル梅田、京都シネマ、シネ・リーブル神戸ほか、全国順次公開
公式サイト⇒ http://chaplin.gaga.ne.jp/
©Marie-Julie Maille / Why Not Productions
 

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