
亡き篠田昇キャメラマンに捧げる『花とアリス殺人事件』岩井俊二監督舞台挨拶
2015年2月21日(土)梅田ブルク7にて
・(2015年 日本 1時間40分)
・原作・脚本・音楽・監督:岩井俊二
・声の出演:蒼井優/鈴木杏/勝地涼/黒木華/木村多江/平泉成/相田翔子/鈴木蘭々/郭智博/キムラ緑子
・制作:ロックウェルアイズ/スティーブンスティーブン
・(C)花とアリス殺人事件製作委員会
・特別協賛:ネスレ日本 配給:ティ・ジョイ
・公式サイト⇒ http://hana-alice.jp/
2015年2月20日(金)~梅田ブルク7、T・ジョイ京都、109シネマズHAT神戸、ほか全国ロードショー
11年前の『花とアリス』以来、プロデュース作品はあったがあまり監督作品を生み出してこなかった岩井俊二監督が、『花とアリス』の前日譚となる二人の出逢いの物語を、初の長編アニメーションで映画化した。『Love Letter』『スワロウテイル』『リリィ・シュシュのすべて』と思春期の繊細な心情の変化を瑞々しい映像で捉えた作品は、“岩井俊二ワールド”と称され、撮影はすべて篠田昇キャメラマンによるものだった。その篠田キャメラマンが『花とアリス』が公開された2004年に亡くなられ、その後実写映画はカナダ製作の『ヴァンパイア』だけとなっている。
世界でも評価の高い岩井俊二監督は、日本のみならず世界中のファンが彼の新作を待ち望んでいた。2004年当時闘病中の篠田キャメラマンに読んでもらおうと徹夜で執筆していたが、書き上げたその朝、篠田キャメラマンは帰らぬ人となった。届かなかったシナリオだったが、作品の中には彼を思わせる病気の老人が登場する。アリスと他愛ない会話をしながら過ごすひと時が、黒澤明監督の『生きる』の一場面と重なり、切ない想いが胸に迫る。
長い時を経て、今回自ら脚本・監督・音楽を務めて作り上げた『花とアリス殺人事件』。舞台挨拶に登壇した岩井俊二監督には、「完成してやっと篠田キャメラマンに捧げることができました」とその胸の内を明かした。
また、実写版で主演を務めた花(鈴木杏)とアリス(蒼井優)も本作をきっかけに女優として大躍進を遂げているが、さすがに11年経って前日譚となる中学生を演じるには無理がある。主演の二人をはじめ、当時同じ役の俳優たちが今回のアニメーションでは声優を務めているのも大きな魅力。懐かしい声から11年前のあの感動が甦るようだ。「続編を作ってほしい」という蒼井優の言葉に応えるように岩井監督は、「花とアリスが主人公だと、物語は止めどなく生まれてくる」と語る。
公開2日目の梅田ブルク7、この日集まった観客の殆どが実写版『花とアリス』を見ているという。新作を待ちかねたファンを前に登壇した岩井俊二監督は、下記のように語った。
――― 初の長編アニメーションは如何でしたか?
初めての体験で試行錯誤することばかりでしたが、実写とは違う感覚でとても新鮮でした。細かいところでいろんな問題が発生するのがアニメの恐ろしい処で、なかなか苦しめられました。毎日一コマずついじり倒しているような状況でして、後で全体を見て「こんな話だったんだ~」と久しぶりに物語に触れた気がしました。実写だとそんな細かくチェックすることはないので、今回のように一コマずつ作り上げていく作業は、作り手としては快感でしたね。
――― 11年前、実写版『花とアリス』が公開された時には今回の脚本は作られていたんですね?
はい、完成後にプランはあって書いていたんですが、製作に至るまでいろいろあって時間がかかりました。
――― ずっと岩井監督作の撮影監督だった篠田昇さんが亡くなられて、そのシナリオを篠田さんに捧げられたというエピソードがありますが?
この本を書いている時に篠田さんは闘病中だったんです。何とか篠田さんに届けたいと思って徹夜で書いていたんですが、やっと書き上げた朝に「篠田さんが亡くなられた」と連絡がありました。本作の中に渡辺という老人が登場しますが、篠田さんのつもりで書きました。彼に捧げるというより、闘病している篠田さんを書いている自分に、作家の業(ごう)を感じました。10年経ってこのような形で完成したので、結果的には彼に捧げられたかなと思っています。
――― 出演された蒼井優さんも同じようなことを仰ってましたが?
二人に久しぶりに会ったのも篠田さんのお葬式の時でして、二人は号泣していました。篠田さんは撮影中はムードメーカーのような“いいおじさん”だったので、二人ともとても懐いていましたので、残念で仕方なかったですね。
――― 実写版と同じメンバーが声優を務めていますが、収録の様子は?
皆さんとは久しぶりにお会いしたのですが、そんな長い時間ではなく1週間ぶりの再会のようなとても近しい感覚でしたね。これが現場の不思議なところだなと。意外と懐かしい感じではなかったですね。皆さんさっとその役に入るという感じでした。平泉成さんは、アリスの父親役ですが、アリスのファザコンのシンボルみたいな存在なので、渡辺老人の声も平泉さんでなくてはと思ったんです。それで、後日「実はもう一つ役をお願いしたいのですが」と。これはアニメだからできることです。
――― シナリオを書く時に、どうやって14歳の心情になれるのですか?
当時を思い出したりもしますが、あの年齢ぐらいになる大人とあまり変わらなくなるので、敢えて大人がやっていることを子供たちにやらせると、行動と結果がまた違ったものになったり、ちぐはぐにズレてしまったりするところを楽しみながら書きました。
――― 男性より女性キャラクターにした方がやりやすいですか?
そうですね、自分の中で距離を置けるので書きやすいです。男性を主人公にすると自分と直結してしまい、業のようなものが出て、大体変質者か殺人者になることが多いですね(笑)。
――― 少女を主人公にすると、ピュアなものになれるんですね?
そうです。
――― 蒼井優さんが、是非続編もやりたいと仰ってましたが?
「花とアリス」は腐れ縁の悪友みたいな話なので、ストーリーは止めどなく出てきてしまいます。続編を作る機会があれば楽しいだろうなと思いますけどね。
――― 最後に。
長い時間が掛かった新作ですが、製作だけで1年半かかり死ぬような思いをしました。とても可愛らしい映画なので、皆さんの中でいい思い出になって、お友達にも勧めて頂ければいいなと思います。どうかよろしくお願いいたします。
(河田 真喜子)
橋本愛、大阪初の舞台挨拶に緊張!? 『リトル・フォレスト 冬・春』舞台挨拶
ゲスト:橋本愛、森淳一監督
2015年2月21日(土) 大阪ステーションシティシネマにて
『リトル・フォレスト 冬・春』
(2014年 日本 2時間)
・原作:五十嵐大介「リトル・フォレスト」(講談社「アフタヌーン」所載)
・監督・脚本:森淳一
・フードディレクション:eatrip、
・音楽:宮内優里、主題歌:FLOWER FLOWER「冬」「春」(gr8!Records)
・出演:橋本愛、三浦貴大、松岡茉優、温水洋一、桐島かれん
・公式サイト⇒ http://littleforest-movie.jp/
・コピーライト: ©「リトル・フォレスト」製作委員会
2015年2月14日(土)~大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際会館、ほか全国ロードショー
東北の山奥で農業しながら女性としても成長していく「いち子」の姿を通して、日本の四季の美しさや大地の恵みの豊かさを再認識させてくれた『リトル・フォレスト』。昨年夏に公開された『リトル・フォレスト夏・秋』に続いて『リトル・フォレスト 冬・春』が先程公開された。最初、「あのツンデレ愛ちゃんが田んぼで草取りしてるよ~!?」と、地道な農作業や山奥での暮らしぶりに素朴な瑞々しさを見せた橋本愛の意外な表情に、驚きと感動を覚えた。汗水流して農作物を育て、収穫した農作物や山の恵みを様々な形で調理して、そして感謝の気持ちを持って美味しくいただく。岩手県奥州市の山奥で約1年かけて撮影された本作は、美しい日本の四季を捉えたしっとりとした映像もさることながら、意外な魅力を発揮した橋本愛の吸引力はかなり大きい。彼女の独白のようなナレーションがまたいい!
その橋本愛と森淳一監督が大阪の劇場での舞台挨拶に登壇した。大阪での舞台挨拶は初めてという橋本愛は、藍染め模様のワンピースに長い艶髪を垂らして、ハッとするほど美しく成長した姿を見せた。彼女のナイーブさは演技を見てもわかることだが、こうした舞台挨拶でも質問に対して真摯に答えている様子が伺えた。劇中登場した数々の料理のことや撮影秘話など、さらには2月10日ベルリン映画祭での上映イベントの秘話など、森淳一監督と共に楽しく語ってくれた。
(敬称略)
――― ようこそ大阪へ! 大阪での舞台挨拶は?
森:僕は舞台挨拶には何度か来ています。
橋本:私は初めてです。大阪へはプライベートでも来たことがありません。
――― 大阪で何か味わられたものはありますか?
森:去年の年末にドラマの撮影で1か月半くらい滞在しまして、その時よく食べたおでんです。先ず昼間からよくおでんを食べているのに驚きました。お店もあちこちにあって、それぞれ味も違うしタネも違って、とても美味しかったです。今回愛ちゃんを連れて行こうと思ったのですが、予約がとれなくて残念。
――― 粉もん以外の食べ物を気に入って頂けて嬉しいですね。この映画は美味しそうなお料理が沢山出てきますが、特に印象に残っているものは?
橋本:どれも美味しかったのですが、特に「ひっつみ汁」が美味しかったです。私の出身地熊本にも似たような料理があって、なんだか懐かしくて美味しく頂きました。
森:撮影が終わると出された料理をみんなで食べるのですが、いつも奪い合いになってしまって(笑)。監督だからって優先的に食べられる訳ではなく、ちゃんと順番に並んでいました。僕は2色のケーキが美味しかったですね。和と洋の混じり具合が良かったです。
――― キャベツのケーキは本当に美味しかったのですか?
橋本:私は基本的にお砂糖が入っていれば何でも美味しく思っちゃうのですが、三浦さんは「僕はちょっとムリだな」と仰ってました。
森:ソースを掛けて食べると美味しかったですよ。
――― 料理をする橋本さんの指先が、品があってとても綺麗だなと思ったのですが?
橋本:そう言って頂けて嬉しいです。ありがとうございます。
――― パンをこねるなんて難しそうですが、とても手慣れた感じだったのですが、普段から作っておられるのですか?
橋本:いえそんなことはないです。初めてだったのでこねるのはとても難しかったです。
森:フードコーディネーターの人に、「男っぽい」と言われていましたよ(笑)。繊細なんだけど思い切りがいいってね。
――― シーン毎に違う「いただきます」と言うのがとても印象的でしたが、何か監督からの指示があってそうされたのですか?
森:いえ僕は何も指示していません。
橋本:はい、監督からの指示は何もなかったです。あれは「こだわらない」という「こだわり」があって、それぞれのシーンでのいち子の心情や体調とかが色としてほのかに滲み出ればいいなと思ってしましたので、そう感じて下さって嬉しいです。
――― あれほど長いナレーションは初めてですか?
橋本:ホントきつかったです。何時間もスタジオにこもってひとりで喋るというのは大変でした。
――― 映画を導いていく大切な役割ですものね。
橋本:はい、原作はコミックなので、台本だけだとどの視点で喋っているのかよく分からなくて、とても難しかったです。
森:説明のためのセリフと心情面のセリフとは違うので、使い分けるのが難しかったと思いますが、一生懸命やっていましたね。
――― 特に言いにくかったものはありますか?
橋本:しょっちゅう嚙んだりイントネーションを間違えたりしていました。今でも言えないのが「かばねやみ」、「なまけもの」という意味なんですが難しいですね。
森:特に方言は難しいですよね。なかなか覚えられずに苦労していました。
――― 岩手の地元の方々が沢山出演されていましたが、オーディションとかされたのですか?
森:セリフのある人はオーディションしました。仙台などロケ地から近い所でやりました。特に方言の強い方は地元の方です。
――― 1年に渡るオールロケでしたが、一番辛かった季節は?
橋本:真冬とか真夏はそれなりに覚悟していたのでそんなに大変ではなかったのですが、冬になる前のまだ覚悟ができてない秋とかの寒さは堪えましたね。まだ薄着なのに急に寒くなってしまって。真冬になってしまえば、雪の中でも楽しめました。
――― ベルリン国際映画祭では?
森:去年の夏にはスペインへ行って、この間はベルリンへ行ったのですが、日本の食材や料理にとても興味を持って頂きました。それから、日本にこんなにもはっきりとした四季があることにも驚かれていました。親子関係など人間関係にも自分のことに置き換えて感想を言って下さり、とても好評をいただきました。
――― 日本の方とは違った見方をされるので、新しい発見もあったでしょうねえ?
森:直接感想を言いに来てくださるので、それが楽しかったですね。
橋本:ベルリンは真冬で曇りの日が多かったせいか、夏と冬の強いコントラストを面白がって見て頂いたようです。
――― 二つ星クラスの有名シェフに特別なお料理を作って頂いたとか?
森:ベルリンでは夏篇と冬編を上映したのですが、それにインスパイアされて作ったという料理をご馳走になりました。微妙な味でした。
橋本:繊細な日本料理に対しダイナミックなドイツのお料理でした。例えば、メインでは瑞々しいおナスにカレー粉に味噌が混ぜられた大胆なソースがかけてあったり、前菜ではウスターソースがベースにあったりと、口の中が面白い感じになっていました。これが食の国際交流か!? って思いました(笑)。
――― 最後にメッセージを。
森: 「リトル・フォレスト」の場を広げて頂いたら嬉しく思います。本日はお出で下さいまして誠にありがとうございました。
橋本:この作品は長い間お付き合いさせて頂いた作品ですので、これからは皆さんに末永く見守って頂きたいと思えるような映画になりました。届くべき人に届いて欲しい、ご覧になった皆さんの心の中で豊かな時間となれば光栄に思います。今日は本当にありがとうございました。
(河田 真喜子)
『女神は二度微笑む』スジョイ・ゴーシュ監督インタビュー
(Kahaani 2012年 インド 2時間03分)
監督:スジョイ・ゴーシュ
出演:ヴィディヤー・バーラン、パラムブラト・チャテルジー、ナワーズッディーン・シッディーキー
2015年2月21日(土)~ユーロスペース、3月14日(土)~シネ・リーブル梅田、4月11日(土)~京都シネマ、近日~神戸アートビレッジセンター ほか全国順次ロードショー
★公式サイト⇒ http://megami-movie.com/
大きなお腹を抱えた妊婦ヴィディヤ(ヴィディヤー・バーラン)がロンドンからインドのコルカタ(旧カルカッタ)に行方不明の夫を探しにやってくる。地元警察の協力を得ながら、夫が泊まっていたはずのホテルや勤務先を訪ねるが、夫の名前もなければその痕跡すら残っていない。混沌とする街と不気味な組織の影に覆い尽くされそうになりながら、ヴィディヤは果敢にも優れたハイテクの知能と妊婦という女の武器をもって真相に迫っていく。次第に夫の本当の姿が明らかにされるにつれ、ヴィディヤの身にも危険が及んでくる。果たして、夫を見つけることはできるのか?
と言った単純なサスペンスではない。インド版『ゴーン・ガール』のような、失踪事件の裏にひそむ国家組織ぐるみの陰謀がからんでくる。そこで本作の大きな特徴と言えるのが、主人公のヴィディヤである。妊婦という一見弱い立場の存在を活かして、警察やホテルの従業員や周囲の人間を取り込んで協力を得ていく。これは今までにないヒロイン像だ。見ていてハラハラしながら彼女の動向から目が離せなくなる。
そして、街は「ドゥルガー・プージャー」という祭りの最中で、ただでさえ人の多い街がさらにごった返してくる。その中に混じって姿をくらますあたりは、祭りで祝われるヒンドゥー教の戦いの女神ドゥルガーがヴィディヤに乗り移ったように見えて面白い。優雅な容姿と激烈な気性を兼ね備えた女神こそ、本作の主人公ヴィディヤにオーバーラップして、とてもエキゾチックなヒロイン像に魅了されることだろう。
本作を監督したのはコルカタ生まれでロンドン育ちのスジョイ・ゴーシュ監督。俳優としても活躍する監督の次回作は、東野圭吾原作『容疑者Xの献身』のボリウッド版を手掛ける予定だとか。なお本作はハリウッドでのリメイクが決まっている。そんなスジョイ・ゴーシュ監督のインタビュー記事を下記にて紹介します。 (河田 真喜子)
――― 本作はコルカタが舞台となっていますが、コルカタを選んだ理由についてお聞かせ下さい。
私はコルカタで生まれ育ちました。その為この街のことについて熟知しています。私は以前からコルカタを舞台にした作品を作りたいと思っていましたので、この地を選びました。
――― 主演のヴィディヤー・バーランの存在感が素晴らしかったのですが、どのようにして彼女を主演に抜擢されたのでしょうか?
私はずっとヴィディヤー・バーランと一緒に仕事をしたいと思っていました。この映画の企画が浮かんだときに彼女にアイディアを伝え、それから彼女と相談しながらストーリーを作り上げていきました。
そしてこの役を演じる上で、彼女には多くを説明する必要はありませんでした。彼女は主人公のキャラクターについて私と同じくらい理解してくれていましたし、インドでも抜きんでた女優ですから、自分の役柄をしっかりと演じてくれたのです。
――― インド映画でサスペンスというのは日本人にとって馴染みがなくとても新鮮で驚きました。この作品は監督のオリジナルのアイディアなのでしょうか?
はい、その通りです。このストーリーは私の中で、何年もかけてあたためてきたものです。最初の発想は、私の妻が最初の子どもを出産したときに、一晩で変わった彼女の姿を見たことがきっかけでした。前の夜まで知っていた彼女とは違う、別の誰かに一瞬で成長したのです。それは私にとって大変魅力的な光景でした。突然生まれた責任感、わが子を守ろうとする本能、無条件の愛。それがアイディアに結び付いたのです。
また、主人公のキャラクターについては私の母親がモデルなのです。母は無条件に愛を注ぎ、全力で私たちのことを守ってくれる人です。
母親というものは全く見知らぬ環境の中でどう反応するのか?どのようにして自分自身や自分の子供を守ろうとするのか?このアイディアをヴィディヤー・バーランに相談し、そこから作り上げていきました。
――― インド映画というと歌って踊るイメージが強いのですが、なぜそのようにされなかったのでしょうか?
映画は絵画のようなもので、一つ一つの作品に違う色彩や形式が要求されるものです。この映画では、観客がヒロインと伴に彼女の旅や捜索に加わることが求められました。そのため今回は歌や踊りは入れずに、少々ドキュメンタリー的な感じも加えて撮影しました。
――― 最近日本では、今までのボリウッド映画のイメージとは異なる多種多様なインド映画が公開されているのですが、今インド映画界は大きく変化しているのでしょうか?
確かにそうです。私は世界がどんどん小さくなっていると感じています。インドの観客も進化していて、より新しい題材を経験することに許容的になっています。彼らは要求が厳しくもあり、そのため私たち製作者は油断するわけにいきません。でもそれこそ進化そのものだという気がします。私たちは進歩するために常に変化する必要があるのです。
――― 巡査役ラナを演じたパラムブラト・チャテルジーも素晴らしかったです。どういう経緯で彼を抜擢されたのでしょうか?
彼はベンガル語圏の映画界で人気のある俳優です。そしてこの映画にとって、彼は命の恩人なのです。実は当初、このラナの役は他の俳優が演じるはずでしたが、直前で出演できなくなってしまいました。そのときチャテルジーはイギリスにいたのですが、彼に電話をして相談したところ翌日なんと帰って来てくれて、そのまま撮影に参加してもらうことができました。彼は本当に素晴らしい俳優です。私は今でも、一晩で全てがうまく行ったことに驚いています。
――― ハリウッドリメイクが決まったと聞きました。ハリウッドリメイクとされたことについてどのようにお考えですか?
私はハリウッドリメイクのプロジェクトには関わっていないのですが、とても嬉しく思っています。本作と同じような面白さをもった作品になったらと期待しています。
(プレスリリースより)
撮影現場スタッフからの情報と、台本を開いているところを見たことがないことを指摘されたNAOTOは、「僕は心配性で石橋を叩きすぎて割ってしまうぐらいの男なので、台本を読み、五十嵐という役にどうアプローチしていけばいいのか考えました。身体は弱っていくけれど、気持ちは強くて、まるでロウソクが消える瞬間に燃え上がるような状態ではないかと思い、現場で迷いがないように、事前にしっかり叩き込みました。役作りのために6日間断食し、体重を6、7キロ減らして臨みました」と事前の準備を徹底的に行ったエピソードを明かした。
『娚(おとこ)の一生』舞台挨拶
日時:2015年2月5日(水)19:00~
場所:大阪ステーションシティシネマ
ゲスト:豊川悦司(52)、廣木隆一監督(61)
(2014年 日本 2時間)
原作:西 炯子(「娚の一生」小学館 フラワーコミックスα刊)
監督:廣木隆一
出演:榮倉奈々、豊川悦司/安藤サクラ、前野朋哉、根岸季衣、濱田マリ、木野 花/向井理
★作品紹介⇒ こちら
★公式サイト⇒ http://otokonoissyou-movie.jp/
© 2015 西炯子・小学館/「娚の一生」製作委員会
2015年2月14日(土)~新宿ピカデリー、大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、イオンシネマ京都桂川、神戸国際松竹、109シネマズHAT神戸 ほか全国ロードショー
最近大人の女性としての魅力が増してきた榮倉奈々(26)と、男のクールな色気で魅了する豊川悦司(52)との歳の差カップルが話題の『娚の一生』が2月14日(土)から公開される。公開を前に舞台挨拶が行われ、豊川悦司と廣木隆一監督が登壇した(榮倉奈々は仕事の都合上来阪できなかった)。いつもは口の重い豊川悦司だが、この日は有料上映会にもかかわらず集まった大勢の観客を前にリラックスした表情で語ってくれた。
特に、榮倉奈々を絶賛し、「彼女がつぐみでなければ、海江田醇は演じられなかった!」とまで言い切った。撮影前「本気で榮倉さんに恋してみたい」と言っていたトヨエツは、撮影が進むにつれて彼女の存在が気になって仕方なかったそうだ。榮倉の方も「海江田教授に愛されたことは、愛おしい思い出です」と別誌で述べているように、ふたりの息の合った恋愛模様はリアルな感情として見る者をドキドキさせることだろう。
【STORY】
不倫の果て心身共に傷付いたつぐみ(榮倉奈々)は、仕事を辞め祖母の住む田舎へと帰ってくる。ところが、祖母が亡くなり、その葬儀の翌日、染色家だった祖母の教え子だったという海江田醇(豊川悦司)が現れる。祖母から離れの鍵を預かっていた海江田は、厚かましく屋敷に居着くようになり、つぐみが作った料理を食べ、勤務先の大学へ通う生活を送る。かつて祖母に憧れた海江田は未だに独身で、つぐみに祖母の面影を見出すと同時に、つぐみを失恋の痛手から救い出そうと懸命になる……。
――― 最初のご挨拶。(敬称略)
豊川:こんばんは。こんなに沢山の方が集まって下さり、嬉しく思います。
廣木:本当は榮倉さんが来る予定でしたが、仕事の都合上来られませんので、代わりに私がまいりました。短い時間ですがお楽しみ下さい。
――― お二人は『やわらかい生活』以来8年ぶりのコラボですが?
豊川:廣木監督には絶大な信頼を寄せていますので、この映画の責任はすべて監督にあります(笑)。大好きな監督ですので、今回廣木監督がメガホンをとられると聞いて、是非やらせてほしいとお願いしました。
廣木: 『やわらかい生活』も難しい役でしたが、今回もこんな人ホントにいるのか?と思えるようなキャラクターを、豊川さんはリアルに演じてくれました。
――― コミックだとわかりやすいけど、実写ではどうなるのかな?と思ったのですが、豊川さんはぴったし!でした。
豊川:ありがとうございます。実年齢も52歳と海江田醇(じゅん)と同じなんですが、原作のコミックファンのイメージを壊さないよう色々考えて工夫した処もあります。私が演じた役を納得してお楽しみ頂ければ嬉しいです。
――― 廣木監督は豊川さんに何か要望を出されたのですか?
廣木:全くありません。ずっと豊川さんが創る主人公に魅了されっぱなしで、リハーサルでも笑って、この役にとても溶け込んでいました。
――― 初共演の榮倉奈々さんは如何でしたか?
豊川:素晴らしい女優さんです。彼女がつぐみでなければ、海江田醇は演じられなかったと思います。
――― 廣木監督は『余命3ヶ月の花嫁』以来の榮倉さんでしたが?
廣木:とても大人になっていましたが性格は殆ど変わらず、そうした子供のような純真なところがつぐみを作っていたと思います。
――― 豊川さんは関西弁で喋っておられましたが、台本も関西弁だったのですか?
豊川:そうです。そこが僕と海江田醇との一番の共通点でした。でも大阪を離れて大分経つので、大丈夫かな?と心配したのですが、昔の上方漫才を聴いて勉強しました。若い人が喋る関西弁とは違う、大人の方が喋る関西弁だと思います。
――― 柔らかくて素敵ですよね?
廣木:ズバッと刺さっちゃうような言葉でも、関西弁だとポンと軽くハマっちゃう感じです。
――― 日頃関西弁を喋ることはあるのですか?
豊川:あまりないですね。今日の取材でインタビュアーの方が関西弁だと、段々とつられて移ってきましたが。
――― この梅田辺りの変化に驚かれたのでは?
豊川:びっくりしました!私の知っている梅田が表参道になってる!ってね。ここはどこでしょう?と思っていたら、歩いている人は関西人っぽい。やっぱ関西やなと(笑)。
――― 廣木監督は大阪のイメージは?
廣木:大阪は元気な気がします。その元気の源は何だろう?といつも思いますよ。
――― この映画は大阪の近所で撮影されていますね?
廣木:三重県伊賀上野と京都で撮影しています。映画の中の家はロケ班が見つけてきた家です。とにかく見晴らしがいいんです。
――― やはりロケーションは違いますか?
豊川:ロケーションは、実際の風や天気の変化などを実感できるので、大好きです。特に今回の家は良かったですね。
――― 撮影中、よくお飲みになったとか?
廣木:僕の部屋が宴会場になっていました。いつも開放されていて、学生寮みたいな「部屋飲み」はとても楽しかったですよ。
――― 気を遣うより、その方がいいですよね?
豊川:作品の内容にもよると思いますが(笑)。今回はとてもいいチームで、ほのぼのとした素晴らしいお話なので、俳優をはじめスタッフも皆、この映画を楽しんで作っていました。
――― 最後にメッセージを。
廣木:2月14日に公開されます。今日ご覧になって、気に入って応援してもらえたら嬉しいです。皆さんに薦めて下さい。
豊川:今日の特別上映会は2000円とちょっと高めなんですよね?高いお金払って見に来てくださり本当にありがとうございます。その差額を埋めるだけのトークができたかどうか分かりませんが(笑)、そこはご容赦頂いて、この後の上映をお楽しみ下さい。
(河田 真喜子)
『駆込み女と駆出し男』試写会プレゼント(4/28〆切)
■ 提供:松竹
■ 日時:2015年5月8日(金)
18:00開場/18:30開映
■ 会場:御堂会館
〒541-0056 大阪市中央区久太郎町4-1-11
TEL(06)6251-5820(代表)
FAX(06)6251-1868
地下鉄御堂筋線本町駅8号出口南へ200m
地下鉄中央線本町駅13号出口南へ50m
■ 募集人数: 5組 10名様
■ 締切:2015年4月28日(火)
★公式サイト⇒ http://kakekomi-movie.jp
2015年5月16日(土)~大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹 他全国ロードショー
『駆込み女と駆出し男』
国民的作家、井上ひさしが晩年11年をかけて紡いだ時代小説「東慶寺花だより」。平成26年歌舞伎座の新春大歌舞伎で上演され話題となったこの小説を原案に、原田眞人監督が映画化、初めて時代劇に挑戦した。いかなる時においても夢と希望を忘れず、独特なユーモアと台詞で温かく人間を見つめてきた井上ひさしと、第35回モントリオール世界映画祭審査員特別グランプリを受賞した『わが母の記』を世に送り出した原田眞人監督という組み合わせにより、全く新しい時代劇に出会うことになった。
本作では、現代の2倍あったと言われる江戸時代の離婚をモチーフに、縁切寺に駆込んでくる女たちが様々な出会いと別れを繰り返しながら明るく逞しく生きる姿を描くとともに、江戸時代後期の人々の暮らしや文化をも活写した。その重層的なエピソードと時代背景が織りなす交響楽的構成は清冽で繊細、それでいて大胆。本作は原田眞人の最高傑作と言っても過言ではない。
主人公、中村信次郎を演じたのは人気、実力ともにトップ俳優の大泉洋。よどみなくセリフを繰り出しヤクザの親分をやり込めるシーンは、舞台さながらの臨場感に富み、捧腹絶倒、拍手喝采間違いなし。愛すべき人物像を作り上げた。一方、夫の暴力から逃げてきた鉄練りのじょごに戸田恵梨香、豪商・堀切屋の愛人お吟には満島ひかりが配され、一癖も二癖もあるワケあり駆込み女を演じた。じょごは未来への希望と勇気を、お吟は内に秘めたしなやかな強さを、二人の女優が絶妙な演技で表した。映画で描かれる二人の共犯的な関係も秀逸である。また、堀切屋の主人を堤真一が色気たっぷりに演じたほか、名優、樹木希林が三代目柏屋源兵衛という、男名を持つ手練れの離縁調停人を懐深くチャーミングに演じて見せた。そして山崎(たつざきになります)努は江戸時代を代表する戯作者、晩年の盲いた曲亭馬琴を人間味豊かに演じている。更に、内山理名、陽月華、キムラ緑子、木場勝己、神野三鈴、武田真治ら個性溢れる俳優が競演を果たした。
撮影は京都、滋賀、大阪、兵庫、奈良などで行われ、特に東慶寺の映像は、トム・クルーズ主演の映画『ラスト サムライ』の舞台にもなった兵庫県姫路市の書寫山圓教寺で撮影された。限りなく荘厳かつ圧倒的な美しさ、そして随所に登場する自然描写はユートピアのような映像美に満ちている。笑って、泣いて、人生は続いていく。生きることは素敵だ。余韻に満ちたラストは、温かな感動に溢れ、観るものの心の奥底でいつまでも静かに輝き続けるにちがいない。
【STORY】
質素倹約令が発令され、庶民の暮らしに暗い影が差し始めた江戸時代後期。鎌倉には離縁を求める女たちが駆込んでくる幕府公認の縁切寺の東慶寺があった。但し、駆込めばすぐに入れるわけじゃない。門前で意思表示をした後に、まずは御用宿で聞き取り調査が行われるのだ。駆出し医者でありながら、戯作者にも憧れている信次郎は、そんな救いを求める女たちの身柄を預かる御用宿・柏屋に居候することに。知れば知るほど女たちの別れの事情はさまざま。柏屋の主人・源兵衛と共に離縁調停人よろしく、奇抜なアイデアと戦術で男と女のもつれた糸を解き放ち、ワケあり女たちの人生の新たな出発を手助けしていくが・・・・。
出演:大泉洋 戸田恵梨香 満島ひかり
内山理名 陽月華 キムラ緑子 木場勝己 神野三鈴 武田真治 北村有起哉 橋本じゅん 山崎一 麿赤兒 中村嘉葎雄 樹木希林 堤真一 山﨑努
監督:原田眞人
原案:井上ひさし「東慶寺花だより」(文春文庫刊)
(c)2015「駆込み女と駆出し男」製作委員会
公式サイト⇒ http://kakekomi-movie.jp
2015年5月16日(土)全国ロードショー
(プレスリリースより)
『繕い裁つ人』三島有紀子監督インタビュー
(2014年 日本 1時間44分)
原作:池辺葵(『繕い裁つ人』講談社「ハツキス」連載)
監督:三島有紀子
出演:中谷美紀 / 三浦貴大 片桐はいり 黒木華 杉咲花 / 中尾ミエ 伊武雅刀 余貴美子
★作品紹介⇒ こちら
★公式サイト⇒ http://tsukuroi.gaga.ne.jp
(c)2015 池辺葵/講談社・「繕い裁つ人」製作委員会
2015年1月31日(土)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、神戸国際松竹、シネ・リーブル神戸、OSシネマズ神戸ハーバーランド、MOVIXあまがさき、TOHOシネマズ西宮OS、宝塚シネ・ピピア、塚口サンサン劇場、MOVIX京都 ほか全国ロードショー
湖畔のカフェに集まる人間模様を風情豊かに描いた『しあわせのパン』、挫折した男が故郷でワイン作りに挑む『ぶどうのなみだ』と、北海道の美しい自然を背景に、こだわりを持って生きる人々の姿を優しい映像で描いてきた三島有紀子監督。人も風景も音楽も独特の世界観で形成された“三島ワールド”。そこには「人を幸せにする食」への強いこだわりが底通していた。そして、3作目となる『繕い裁つ人』は、池辺葵原作の同名コミックを基に、西洋文化がいち早く根付いた神戸の街に生きる仕立屋さんの、ものづくりへのこだわりと心の軌跡を描いた物語である。
――― 原作のどこに惹きつけられたのですか?
市江というキャラクターに寄り添いたいと思ったのが一番。市江は、職人として最高の技術を提供するために、細部にこだわる性格で、非常にストイック。それでいて、天才的な祖母から受け継いだものを守る使命感に縛られている、そんな市江を解き放してあげたいと思いました。いろんな人との出会いによって影響を受けながら少しずつ心が開放されて、新しい自分を見い出していく姿を描きたいと思ったのです。
――― 市江というヒロイン像について?
私は何か覚悟を持って生きている人が好きです。市江も自分のこだわりを貫き通すだけの強さを持った女性だと思います。最高の技術を持って唯一無二のドレスを提供する。さらに、相手が何を大切にしているかを汲み取って、服にその想いを込める。「語らずに服で伝えていく」、そこに共感したのです。それを受け取った人たちが新たな行動を始めるという、間接的なコミュニケーションを描こうと思いました。それは映画として難しいことですが、挑戦する価値はあると考えました。
――― 神戸の街を舞台にした理由は?
私の中で仕立屋さんの映画を作るとしたら神戸しかない!と思っていました。
神戸は開港されてから約150年経っていますが、異国情緒豊かで、服飾文化も早くから浸透して、テーラーも多く、独特の「洒落感」が神戸にはあります。
今回の映画は小規模作品でしたので「全員で神戸に行くの?」という感じでしたが、プロデューサーも神戸出身で一緒に働くチームの人たちにも関西出身の人が多く、内容を考えても「やっぱり神戸だよね」という話になりました。また、市江のキャラに合った場所であることも重要でした。
――― 神戸女学院やカフェなどの思い出の場所は?
神戸女学院の図書館でのロケは初めてのことで、特別に許可してもらいました。大学時代に自主映画を撮っていたので思い出深い場所ばかりです。神戸の街自体が懐かしい感じです。震災で多くを失った光景を見ているので、今の美しく再生した神戸を撮っておきたいと思いました。
――― 市江がチーズケーキをホールで食べるシーンは?
女性ならホールで食べる気持ちは分かるのでは?職住一体の市江にとって家の外にホッとする場所が必要ですし、そこで他人の目を全く気にせず、とても満足げな顔をして食べています。ふと自分自身が解き放たれる瞬間でもあるんです。
――― 中谷美紀さんを起用した理由は?
初めて中谷さんを見たのは『BeRLiN』(‘95)という映画で、湖面のように美しい人だなと思ったのが最初の印象でした。いつかこの人と一緒に映画を作りたいと思ったのです。市江は完璧でこだわりの強い人なので、中谷さんの姿が浮かびました。でも、そんな完璧な職人がふとした瞬間ほころびを見せるところが面白いなと思い、それを同じく完璧な中谷さんがほころびを見せるところに大きな魅力を感じたのです。
――― 作品のテーマとして、衣食住へのこだわりは?
特に意識したことはありませんが、人間は何を大事にして暮らすかという、日々を丁寧に暮すということが重要かなと思います。
――― シーンの繋ぎに時間をかけるのが特徴のような気がしますが?
何かを感じる時間は長い方がいいかなと思います。これは私の考えですが、「余白にこそ意味がある」と思っています。市江の感情に寄り添って進む物語なので、余白を通して感じて欲しいと思い、そうしたテンポで繋いでいきました。
――― いつもこだわりの服を選んでいるのですか?
私は物を見たときに背景を考えてしまう癖があります。どういう想いで作られているのか。父親がテーラーで誂えた服を大切に着ていたので、服に限らずひとつひとつよく考えて買うようにしています。値段やブランドではなく、作った人の想いが見えるようなものが好きです。
最後に中谷さんから手作りポンチョをプレゼントされた三島監督。「とても器用な方で、ミシンの練習を1か月してもらったのですが、洋裁師の腕前になっていました。それで最後にポンチョを作って下さったのです。」と嬉しそうに語る。そんな三島監督とスタッフやキャストの想いがひとつになって紡がれた作品だからこそ、落ち着いた温もりと充足感を得られる映画になっているのかもしれない。
【STORY】
神戸の山の手に佇む瀟洒な建物「南洋裁店」では、市江(中谷美紀)が先代の作ったオーダーメイドの服を修理したり仕立て直したり、時々自分の好きなデザインの服を作ったりして、手作り仕事を大切に守り続けていた。そこへ百貨店の商品開発部の藤井(三浦貴大)が訪れ、商品のブランド化や百科店への出品を持ちかける。だが、頑なにオーダーメイドにこだわる市江は、大量生産を嫌がりその提案を断る。一着一着に着る人の想いを込めて仕立てられる服と、それを受け継ぐ人々の想いが交差する南洋裁店は、今日もおなじみのお客たちで賑わっていた。
そんな市江の姿勢に変化が訪れる。藤井の熱心なオファーに刺激を受け、また変わりゆく時代を感じ取り、オリジナルデザインの製作に心が傾いていく。美しい生地や小物などに囲まれた仕事場で一心に生地と向き合う市江の横顔は、凛としてとても美しい。
(河田 真喜子)
『台湾人生』『台湾アイデンティティー』と台湾の日本統治下に生きてきた日本語世代に取材を重ねてきた酒井充子監督。最新作『ふたつの祖国、ひとつの愛 イ・ジュンソプの妻』は、韓国では知らない者はいないという名画家ジュンソプとその妻、方子(まさこ)との愛を丹念に映し出したドキュメンタリーだ。
―――イ・ジュンソプさんの絵力と、封筒の宛名一つとってもとても味があり、手紙の文面も妻に対する愛がストレートに綴られていて印象的でした。ジュンソプさんの人生を語るにあたって、これらの作品や残された絵をどのように入れていこうと思ったのですか?