「京都」と一致するもの

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『息もできない』で一躍脚光を浴び、日本でも大人気となった韓国の女優キム・コッピ。彼女が出演した、日本人監督2作品『蒼白者 A Pale Woman』、『クソすばらしいこの世界』が大阪、京都、神戸で11月2日(土)から8日(金)まで同時多発1週限定公開される。CO2助成作品に選ばれ、大阪アジアン映画祭でジャパンプレミア上映された常本琢招監督のクラッシックな香り漂うロワール・ロマンス『蒼白者 A Pale Woman』。ゆうばり国際ファンタスティック映画祭に正式出品された朝倉加葉子監督デビュー作のスラッシャー・ホラー『クソすばらしいこの世界』。作品のテイストは真逆だが、犯罪の陰に漂うテーマや人種間のあつれきを時には激しく、時にはナチュラルに作品に盛り込んだ稀有な二本立てだ。いずれの作品もキム・コッピの可憐さから妖艶さまで、その魅力を存分に堪能でき、『蒼白者 A Pale Woman』では日本語、『クソすばらしいこの世界』は英語とキム・コッピが第二外国語をしゃべるところも、映画のカギとなっている。

両作品当日連続鑑賞で3000円となるお得な「キム・コッピ割」も実施。
さらに『クソすばらしいこの世界』朝倉加葉子監督、大畠奈菜子、『蒼白者 A Pale Woman』常本琢招監督、宮田亜紀さんの舞台あいさつも各劇場で開催予定だ。(京都みなみ会館は『クソすばらしいこの世界』朝倉加葉子監督のみ)。

 


『蒼白者 A Pale Woman』
(2012年 日本 1時間30分)
監督・原案:常本琢招
出演:キム・コッピ、忍成修吾、中川安奈、宮田亜紀、長宗我部陽子、木村啓介、渡辺譲
舞台挨拶:元町映画館:11月2日(土)18:00の回、第七藝術劇場:11月2日(土)20:40の回、京都みなみ会館:11月3日(日)18:45の回
登壇者:常本琢招監督、宮田亜紀

(C)ZEBKEN TSUNEMOTO-KE

韓国で暮らしていたキム(キム・コッビ)は、祖母亡き後、闇社会のフィクサー平山の後妻となった母フミ(中川安奈)の家に戻ってきた。キムの目的はただ一つ、かつて一緒に住み、ピアニストとしての才能に恵まれた少年シュウ(忍成修吾)が、今や母の愛人となり闇社会の住人となっているところから救い出すことだった。ある事故がきっかけで片耳が聞こえなくなったシュウは、ピアニストの夢を捨て、汚れた仕事に手を染めていたが、捨て身でシュウを救おうとするキムの姿を見て、少しずつ心境に変化が訪れるのだった。

20代で作った処女作がPFF入選、30代はオリジナルビデオの世界で注目を浴び、40代はテレビの世界で活躍してきた『蜘蛛の国の女王』『アナボウ』の常本琢招監督が、キム・コッピをはじめ、『ヘヴンズ ストーリー』の忍成修吾、『CURE キュア』の中川安奈、『先生を流産させる会』の宮田亜紀ら豪華キャストを集結させて撮りあげた、大阪舞台のロワール・ロマンス。愛する男を救うため、危険を顧みず突き進む女性像をキム・コッピが熱演。母親役のフミ演じる中川安奈は、久々の映画出演となったがその圧倒的な存在感で、作品を大いに盛り上げる。一方、夢挫折し、自分を見失い彷徨うような影をみせるシュウを演じる忍成修吾の苦悩に満ちた表情がなんとも色っぽく、魅力的だ。商店街の様々な表情や、海辺の朝など、観光地ではない大阪の何気ない風景が映り込み、独特の風情を感じる点も非常に新鮮。観終わったとき、「一途な愛」が心に残ることだろう。


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『クソすばらしいこの世界』
(2013年 日本 1時間18分)
監督・脚本:朝倉加葉子
出演:キム・コッピ、北村昭博、大畠奈菜子、しじみ他
台挨拶:第七藝術劇場:11月2日(土)18:35の回/元町映画館:11月2日(土)19:50の回/京都みなみ会館:11月3日(日)20:35の回 
登壇者:朝
倉加葉子監督、大畠奈菜子(京都みなみ会館は朝倉加葉子監督のみ)

(C)2013 KING RECORDS

日本人留学生に誘われ、男女グループでロサンゼルス郊外の田舎町のコテージでキャンプすることになった韓国人留学生アジュン(キム・コッピ)。誘ってくれた友人以外は、英語を理解せず、日本語で話してばかりでアジェンは孤立してしまう。英語の勉強は建前で、酒やドラッグに興じてばか騒ぎをする日本人留学生たちに呆れ果て、一人で家に帰ろうと決意するが・・・。
山の中のコテージという孤立したシチュエーションで、斧で人間を切り刻む残虐な殺人鬼と死闘を繰り広げる中にも、一ひねりした展開があり、ただのホラーに収まらない奥行きを感じる。「黄人!」と罵声を連発する白人の犯人に訪れる思わぬ展開や、女性脚本家らしい反撃の決め台詞など、クスリと笑わせてくれる場面も。血まみれのキム・コッピが怖すぎる、日本語、英語、韓国語が入り混じった異色ボーダレスホラーだ。

 

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~世界でただひとつ「歴史」をテーマにした映画の祭典~

京都ヒストリカ国際映画祭の概要が29日、大阪・北区の東映関西支社で発表された。5回目の今年は、11月30日から12月8日まで9日間、京都文化博物館を拠点にTジョイ京都、MOVIX京都の両シネコンで開かれる。

オープニングは東映の正月作品『利休にたずねよ』、クロージングは松竹『武士の献立』でいずれも京都撮影所で作られた時代劇。5回目で最初と最後を日本映画が飾るのは初めて。“映画の都”にふさわしい映画祭になりそうだ。

historika13-4.jpg  世界各国からの名作のほか、今年は修復された歴史的名作を上映する「ヒストリカ・クラシックス」も決まり、ファンの期待を集めている。クラシックス上映予定作品は、日本から小津安二郎監督の初カラー作品『彼岸花』(58年)、ドイツからエルンスト・ルビッチ監督『ファラオの恋』(22年=05年修復版、11年修復版)、ヒッチコック監督は『リング』(27年)、『恐喝(ゆすり)』(29年)はサイレントとトーキーの2種類。もう1本、事実上のデビュー作と言える『快楽の園』(25年)もある。来年、映画デビュー100年を迎える世界の喜劇王チャップリンはじめ、彼の先輩世代の作品を収めた『ヨーロッパの初期喜劇映画からチャップリンへ』(09~14年)も貴重な日本初上映。

 またアジア映画ファンが喜ぶラインナップも盛りだくさん。『ソード・アイデンティティ』(OAFF上映名は『刀のアイデンティティ』)のシュ・ハオフォン ュ監督最新作『ジャッジ・アーチャー』日本初上映や、OAFF2011ABC賞を受賞した『アンニョン!君の名は』パンジョン・ピサンタナクーン監督の最新大ヒット作『ピー・マーク』も上映。いずれも監督によるティーチインが予定されている。ショーン・ユー、イーサン・ルァン、ホァン・シャオミンと中華圏のスターが集結したアンドリュー・ラウ監督『フライング・ギロチン』の日本初上映も見逃せない。

historika13-3.jpg 期間中、上映作品と連動したトークショー、ティーチインもある。ゲスト予定者はオープニング上映『利休にたずねよ』の田中光敏監督、原作の山本兼一。クロージング作品『武士の献立』の朝原雄三監督、主演の上戸彩、高良健吾のほか是枝裕和監督、原田眞人監督、滝田洋二郎監督、井筒和幸監督、海外から『ジャッジ・アーチャー』のシュ・ハオフォン監督、『ピー・マーク』のバンジョン・ピサンタナクーン監督(タイ)、さらに映画史家デイヴィッド・ロビンソンも登場する。また、作家でタレントの飯干景子さんが映画祭キャラクターとして参加する。

※入場料は1回券が前売り券1000円(当日1200円)。3回券前が売り券2700円(3回券3300円)。オープニングとクロージングは前売り当日ともに2000円(クロージングは舞台挨拶あり、当日券は残席ある場合のみ)。

  映画祭スタッフが世界各国約140本の候補から厳選した今年の歴史映画、クラシックスの上映日程は以下の通り。


【11月30日】
中国『ソード・アイデンティティー』、伊仏スペイン『ダリオ・アルジェントのドラキュラ』、日本アニメ『伏  鉄砲娘の捕物帳』(京都文化博物館)。
オープニング~トークショー、東映『利休にたずねよ』、中国・香港『フライング・ギロチン』、中国『ジャッジ・アーチャー』 (T・ジョイ京都)。

【12月1日】
独『ハックルベリー・フィンの冒険』、韓国『風と共に去りぬ!?』、タイ『ピー・マーク』(京都文化博物館)

【12月2日】
クラシックス=英独『快楽の園』(MOVIX京都)

【12月3日】
米『スウィート・エンジェル』、クラシックス=『ヨーロッパの初期喜劇映画からチャップリンへ』(京都文化博物館)
クラシックス=英『リング』(MOVIX京都)

【12月4日】
ノルウェー『エスケープ  暗黒の狩人と逃亡者』、クラシックス=英『恐喝(ゆすり)』トーキー版(京都文化博物館)
ヒストリカ、英『恐喝(ゆすり)』(MOVIX京都)

【12月5日】
独『ハックルベリー・フィンの冒険』、クラシックス=『ヨーロッパの初期喜劇映画からチャップリンへ』。クラシックス=松竹『彼岸花』(MOVIX京都)

【12月6日】
米『スウィート・エンジェル』、クラシックス=独『ファラオの恋』(05年修復版)(京都文化博物館)
独クラシックス=『ファラオの恋』(11年修復)(MOVIX京都)

【12月7日】
ノルウェー『エスケープ  暗黒の狩人と逃亡者』、中国・香港『フライング・ギロチン』、タイ『ピー・マーク』(京都文化博物館)

【12月8日】
韓国『風と共に去りぬ!?』、伊仏スペイン『ダリオ・アルジェントのドラキュラ』(京都文化博物館)
クロージング、松竹『武士の献立』(MOVIX京都)


第5回京都ヒストリカ国際映画祭公式サイトはコチラ


(安永 五郎)


 

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We_Are_the_Best!_main.jpg10月25日(金)に閉幕した第26回東京国際映画祭。最終日にコンペティション部門、アジアの未来部門、日本映画スプラッシュ部門の審査結果および観客賞が発表された。今年の東京サクラグランプリに輝いたのは、審査委員長のチェン・カイコー氏が、「最高賞には、卓越した完成度を求めました。情熱と魅力にあふれ、本物の人間の絆を、生き生きとしたエネルギッシュな演技で描いたこの作品に、審査委員は満場一致で決めました」とコメントしたスウェーデン映画『ウィ・アー・ザ・ベスト!』が受賞。また、観客賞にはキム・ギドク氏が脚本を担当した韓国映画『レッドファミリー』が受賞した。以下本年度の受賞結果と受賞コメントを紹介したい。


<受賞結果および受賞コメント>
コンペティション
東京サクラグランプリ東京都知事賞『ウィ・アー・ザ・ベスト!』(監督:ルーカス・ムーディソン)

受賞コメント:「思いもよらない受賞なので驚いています。東京国際映画祭に参加できるだけでも光栄ですので、本当に感無量です。私の妻であるココが、この原作を書きました」

・審査員特別賞『ルールを曲げろ』(監督:ベーナム・ベーザディ)
受賞コメント:「この賞を、イランの若者、アーティストやレッドラインを超える勇気ある人々に捧げます」

・最優秀監督賞ベネディクト・エルリングソン(『馬々と人間たち』)
受賞コメント:(トロフィーを頭の上に掲げ「重要な賞です。これは私だけでなく、クルー、スタッフ、ミュージシャン、出演者、そして馬たちのものです。馬たちに言いたいのは、ヒヒーン!」

・最優秀女優賞ユージン・ドミンゴ(『ある理髪師の物語』)
受賞コメント:「緊張しています。思いも寄らない受賞で、賞金もいただけるなんて!この賞をとても重要な方と共有したいと思います。皆さん、信じられないかもしれませんが、実は私は喜劇役者なんです。電気も電話もないみじめな気持ちになるような現場の撮影に私を呼んでくださった、本作品の監督であるジュン・ロブレス・ラナさんに感謝します」

・最優秀男優賞ワン・ジンチュン(『オルドス警察日記』)
受賞コメント:「監督が頑張ってくださったおかげで、この賞を手にしています。私は、家族を愛し、友人を愛し、映画を愛しています。翼をいただいた気分です。世界を照らす翼です」

・最優秀芸術貢献賞『エンプティ・アワーズ』(監督:アーロン・フェルナンデス)
受賞コメント:(ビデオメッセージで)「コンニチハ!先ほど素晴らしいニュースをいただきました。本当に嬉しいです。今回の受賞には、特別な意味があります。製作チームが初めて受賞した賞だからです。東京で私の代わりにお酒を飲んで祝ってください!」

・観客賞『レッド・ファミリー』(監督:イ・ジュヒョン)
受賞コメント:「キム・ギドク氏の素晴らしい脚本とここにいる素晴らしい俳優に感謝します。作品からのメッセージが観客に伝わっていると感じていましたが、この賞がそれを証明してくれました」

アジアの未来
作品賞『今日から明日へ』(監督:ヤン・フイロン)

受賞コメント:「ありがとうございます」

・スペシャル・メンション『祖谷物語-おくのひと-』(監督:蔦哲一朗)

日本映画スプラッシュ
作品賞『FORMA』(監督:坂本あゆみ)

受賞コメント:「このような賞をいただき胸がいっぱいで言葉が出ません。6年前に製作を始めたのですが、体調を崩したりと、6年もかかって作りました」

(TIFF2013プレスリリースより抜粋)

 

dakota-550.jpg日英交流400周年記念作品『飛べ!ダコタ』油谷誠至監督インタビュー

 

(2013年 日本 1時間49分)

監督:油谷誠至  音楽:宇崎竜童
出演:比嘉愛美、窪田正孝、洞口依子、中村久美、芳本美代子、蛍雪次郎、園ゆきよ、マーク・チネリー、ディーン・ニューコム、綾田俊樹、ベンガル、柄本明

2013年10月5日(土)~シネマスクエアとうきゅう、塚口サンサン劇場、10月19日(土)~布施ラインシネマ、11月2日(土)~十三セブンシアター、京都みなみ会館、他全国順次公開

★作品紹介⇒ こちら 

★公式サイト⇒ http://www.tobedakota.com/

 (C)「飛べ!ダコタ」製作委員会


 

~佐渡の人々が教えてくれた日本人の真心~

dakota-3.jpg今から67年前、佐渡島でj実際にあったお話。終戦間もない冬、佐渡島の小さな村にイギリス軍の要人輸送機《ダコタ》が不時着し、難儀しているイギリス人を助けようと村をあげて協力した。さらに、再びダコタを飛び立たせようと浜辺に滑走路まで造ったという。厳しい冬の佐渡の海を背景に、村人とイギリス人が戦争という辛い過去と言葉の壁を超り越えて絆を深める様子を、芸達者な演技陣により人情深く描かれた感動作である。

戦争が終わったとはいえ、ついこの間まで敵国として戦ったイギリス軍である。村人の中には家族が戦死したり傷付いたりした者もいる。複雑な感情を胸に、イギリス人を助けた村人たちの無償の行為は今まで知られることはなかった。だが、当時整備士をしていたイギリス兵の息子が、今は亡き父親の「この地で大変お世話になった。もう一度佐渡へ行きたい。」という思いを告げに佐渡を訪れたことから、「国境を越えた絆を風化させてはならない」とこの映画の製作が始まった。

『飛べ!ダコタ』が初監督作となる油谷誠至監督(59歳)。厳冬の佐渡島で、少ない製作費の下、それこそ劇中のイギリス人のように佐渡の人々に助けられながらの撮影だったようだ。こうして苦労しながら撮ったからこそ、作品に思いやりや優しさが滲み出ているのであろう。油谷監督に、作品に込めた思いやオールロケを敢行した現場の様子などを伺った。

 


 

【油谷誠至監督プロフィール】

 dakota-s3.jpg1954年広島県出身。フリーの助監督として、五社英雄、松尾昭典、実相寺明雄などの下で活躍後、88年より総合ビジョンにて深町幸男監督に師事。89年山田太一脚本の連続ドラマ「夢に見た日々」で監督デビュー。04年「牡丹と薔薇」では、昼ドラ・ブームの火付け役となった。主な作品に、「母親失格」(07)「Xmasの奇跡」(09)などの東海テレビの昼帯ドラマ、二時間ドラマ「救急救命センター」シリーズ(00~)月曜ドラマスペシャル500回記念作で矢沢永吉主演ドラマ「雨に眠れ」(00)がある。本作で、初の映画監督に取り組む。
 


◆ 映画に込めた思い


 

――― 製作のキッカケは?
知り合いが佐渡のフィルムコミッションからこの話を聞いて、TV向けに情報発信したら、映画プロデューサーの耳に入り、偶然私にこの企画を持ちかけられた。

――― 初監督作品ですが、この話を初めて聞いた印象は?どこに焦点を当てて映画化しようと思ったのですか?
このような美談をそのまま伝えても薄っぺらくなってしまう。それならTVのドキュメンタリーで十分。今までに自分の中でいろいろ考えていたことがあり、それをこの話の中に盛り込めるのではと思って、脚本作りに手間をかけた。

――― 今回3人で脚本を手掛けていますが、盛り込もうと思った事とは?
  
dakota-2.jpg2つあって、1つは日本人が持っている国民性を再認識すること。歴史が育んだ日本人の文化は戦後間もない頃までは残っていた。その後、民主主義が入って来て物質中心の社会が拡がり現在に至っている。それが戦後の在り様だと思うので、それを悲観的には考えてはいない。戦後の頃まではあった日本人の心は、今もひとりひとりが持っている。外見がいくら変わっても、祖父母や両親から受け継いだ日本人のDNAは変わらない。この映画がそうした日本人が持っている美徳を再認識するいい機会になればと思う。

もう一つは反戦。終戦直後の日本を舞台に、女性の目を通して戦争の悲惨さを描ければ、戦争で得るものなど何一つないんだと理解してもらえるのではないかと思った。この二つをダコタの実話の中に盛り込めんで映画化した。

――― そうした明確な意図があるからこそ分かりやすい映画に仕上がっていると思う。真っ先に「おもてなし」という言葉を思い浮かべたが?
日本人は傷付いた人を助けるという思いやりの気持ちや慈悲の心を持っている。それが「おもてなし」という形で表現され、日本人の美徳という評価に繋がったのだと思う。

――― そういう気持ちが薄れてきているのでは?
個人主義、物質主義、何でも人や社会のせいにする責任転嫁、また自由=権利主張、それには責任が付いてまわるという認識が薄れてきている。でもすべてが悲観的なものばかりではなく、心のどこかに日本人が継承してきた思いやりの気持ちを持っているはず。この映画がその琴線に触れてくれればいいなと思う。

 


◆ 撮影現場について


 

dakota-s2.jpg――― 佐渡の皆さんも、自分たちの歴史を映画化してくれて嬉しかったでしょうね?
全島を挙げて協力してくれた。寒い中、婦人会や町内会の皆さんが、公民館などで温かい炊き出しをしてくれて、本当にありがたかった。寒い時は最高ですよ。とても感謝している。

――― 佐渡でのプレミア試写は如何でしたか?
8000人ぐらいの方が見て下さり、とても喜んで頂いた。それに、これは佐渡だけではなく、日本のどこででも共通するテーマだと言われた。

――― 周りの期待や初監督作ということで緊張は?
今回のスタッフの平均年齢は60歳。全部今村昌平監督の『うなぎ』や『カンゾウ先生』などのスタッフばかりだった。みんな私が20歳代に助監督をしていた時代の仲間たち。私は30歳位でテレビの世界へ行ったが、他の人はそのまま映画の世界で活躍されてきた。松竹の時に知り合った仲間ばかりだったので緊張しなかった。

――― 日本人なら誰でも共感できる内容で、低迷する邦画界の希望にもなりました。
観客がいい映画を求めるか、作り手がいい映画作りに努めるか、コロンブスの卵みたいな問題。NHKドラマ部門で、『夢千代日記』の深町幸男さんが僕を監督にしてくれて、その後山田太一さんらと一緒に仕事をしてきた。助監督の仲間はその後Vシネマの方へ進み、バイオレンスやエロやホラーなどを作っていたが、僕はTVで人間ドラマを中心にやってきたので、それが良かったと思う。TVドラマを撮っていても、人間性や心情面を重視したドラマ作りをしてきた。

――― やはり視点が違いますね?ところで、少ない製作費だったようですが?
最初の2億5千万円という予算では製作会社が資金を集められずに頓挫してしまった。それでも、佐渡の人たちが是非作って欲しいという気持ちが強く、資金は佐渡の方で用意して下さることに。結果、1億5千万円で撮ることになり、スタッフの給料減らしたり、宿泊費や食事代、交通費など、あらゆることを節約して、何とか完成することが出来た。

――― ダコタは本物の飛行機を使った?これだけでも相当費用がかかったのでは?
 どうしても本物のダコタを使いたかった。分解、輸送、組立と、ダコタだけで3000万円かかった。本来もっと費用がかかるものを、今村組のスタッフだから節約現場には慣れていて、自炊でも何でも自分たちでやる。そういう姿勢が佐渡の皆さんの共感を得て、いろいろ協力してくださった。

――― まさに映画の中の高千村の人々とイギリス軍との関係と同じですね?そういう交流があったからこそ、人情味溢れる作品に仕上がったのでしょう。
製作するのに精いっぱいで、宣伝費を残せなかったのが残念!(笑)

dakota-6.jpg――― 素晴らしい映像でしたが、厳冬での撮影は大変だったのでは?
佐渡の“シベリアおろし”には驚いた。1日のうちでも天候はころころ変わり、暗くて重い雲に覆われ、雪と強風にあおられる厳しい現場だった。

――― 撮影の時期は?
1月~2月にかけて2回に分けて撮影。室内のシーンもオール佐渡ロケ。撮影終了して我々が引き上げてからも、小松原茂キャメラマンは一人残って、ベストショットを撮り続けていた。お陰で佐渡の素晴らしい風景を盛り込むことができた。

 


◆ キャストや作風について


 

――― キャスティングは?
比嘉君とは初めての仕事ですが、他の皆さんはTVドラマからの仲間。柄本明をはじめ劇団東京乾電池のメンバーをはじめ個性的なキャストがそろった。柄本明さんと奥さんの角替和枝さんが共演したのは初めてなのでは?

――― 戦争責任についての重要なシーンを二人に語らせていますね?

そう、「天子様もおらたちも騙された」と言う村のおばちゃん(角替和枝)に対し、「騙されたんじゃない!騙されたと思っている内は、いつまで経っても次の戦争も止められん!」と村長(柄本明)が激昂する重要なシーン。

dakota-5.jpg――― 息子の戦死の知らせを受けて慟哭する洞口依子さんの演技は真に迫っていましたね?
皆さんそう仰って下さる。洞口君とは何回か一緒に仕事をしてきたが、今回の母親役は「女性の姿を通して反戦を語る」という重要な役柄を、迫真の演技で表現してくれた。

――― 銃後の人々を描いているが、戦争で傷付いたことには変わりないですね?
その通りです。窪田君や洞口君が演じた人たちは当時はどこにでも居た人々。生還した人々もまた生きるために必死だった厳しい時代に、外国の人にこれ程親切にできる精神は素晴らしいと思う。

――― 人物描写が丁寧ですね?
テレビの仕事をしているとある程度の職人にはなれる。限られた時間で、そのキャラクターを印象付ける事には慣れている。そういう執念は若い頃から鍛えられてきた。

――― 若い映画監督について?
自分の思いも必要だが、それを観客に伝える技術を、様々な経験を積んでもっと研いてほしい。

――― ご自身の作風について?
木下恵介監督の『二十四の瞳』や『喜びも悲しみも』のような、どちらかというと分かりやすく感動的な作風に近いかなと思う。

――― 木下恵介監督のファンでしたか?
いえ、私は若い頃から溝口健二監督が好きでしたが、私にはあれほど女性を執念深く撮れない。今では成瀬巳喜男が好きになってきた。特に『乱れる』は凄い!

――― 女性の内面をスリリングに描いて惹き付けられますね?
男のダメさ加減もしっかり描いて、その対称的な構図が面白い。それに、名監督の作品に共通する特徴は、「品性」。テーマにしても、描写にしても、品のない映画は人の心に残らないと思う。

 


 

最後は映画談議に花が咲いて、インタビューを忘れて“映画ファントーク”となってしまった。油谷誠至監督は59歳で長編映画監督デビューとなったが、それまで培った経験と幅広い人脈、そして人を見つめる確かな目、さらには日本映画界の巨匠たちに共通する「品性」をわきまえた信頼できる監督だと感じた。このような監督にこそ、日本人が自信を取り戻せるような映画をもっと撮ってほしいと思う。今後さらなる活躍の場が広がることを心から願う。

 

11月2日(土)~29(金)、大阪は十三・セブンシアターでも公開されることになりました。ゆるゆるのご当地映画と違い、史実を基に、普遍的テーマと明確な作り手の意図が映像に盛り込まれ、また俳優陣の的確な演技力によって引き締まった作品に仕上がっています。全国に上映の輪が広がって、一人でも多くの方に見て頂きたいと、心からそう思える映画です。お友達やご家族と、ご覧頂きたいです。

(河田 真喜子)

HOMESICK-550.jpg『HOMESICK』廣原暁監督インタビュー

(2012年 日本 1時間38分)

監督・脚本:廣原暁

出演:郭智博、金田悠希、舩崎飛翼、本間翔、奥田恵梨華

10月26日(土) ~第七藝術劇場、11月2日(土)~元町映画館、12月~京都シネマ

公式サイト⇒http://homesick-movie.com/

(C) PFFパートナーズ / 東宝


 

~自分の居場所を探す若者たち~

HOMESICK-2.jpg家族は離れ離れで、取壊し間近の古びた実家で、ひとり暮らしをしていた30歳の健二。失業して、無気力になり、ひきこもりになりかけた矢先、3人のちびっこたちが家に乱入してくる。突然の訪問者に戸惑い、怒ったりしながらも、いつしか童心にかえって、毎日訪ねてくる子どもたちと一緒に、夢中になって遊んでいる健二。ダンボールで恐竜をつくったり、楽しい夏休みが始まる。3人のうち母がいない少年ころ助と夕飯を食べたり、健二は仲良しになっていくが…。

PFF(ぴあフィルムフェスティバル)スカラシップを獲得し、本作で劇場公開デビューを果たした廣原暁(ひろはら さとる)監督。東京藝術大学大学院を修了し、これからますますの活躍が期待される若手監督の一人。映画の宣伝のために来阪された廣原監督に、映画づくりについて興味深いお話をうかがいましたので、ご紹介します。

 


◆子どもたちについて


 HOMESICK-s3.jpg―――ちびっこ3人組の子どもたちが実に生き生きとしていて、すばらしかったです。

100人以上の候補者の中からオーディションで絞った十数人に遊んでもらい、その様子を観察して選びました。ころ助役の金田悠希君はいい目をしていて、最初会った瞬間に「いいな、この顔を撮りたい」と思いました。ヤタロー役の舩崎飛翼君は、最近見ない昭和っぽい顔、オッチ役の本間翔君は変化球みたいな少し変わった子でおもしろかったです。

―――水鉄砲を使うというアイデアはどこから出てきたのですか?

子どもたちとこの家で何をやったらおもしろいか考えました。アクションをやりたくて、子ども達と撃ち合うというのをやりたくてやってみました。子ども3人対1人なので、健二には大きい水鉄砲を持たせ、それは子どもの頃使っていたという設定にしました。

―――相米慎二監督の『夏の庭The Friends』(’94年)も閉じこもっていた老人と3人の少年との出会いを描いていて、どこか似てるなと思いました。

相米監督の作品は好きですが、『夏の庭~』は観てなくて、脚本を書いている時に、人に言われて観ました。まねするつもりは全くなく、『ションベン・ライダー』(’83年)とかの自由な感じ、爽快さがすごく好きです。僕は、黒沢清監督の『ニンゲン合格』(1999年)が大好きで、ああいう映画を撮りたいと思ったのが、出発点です。家族が出てくるけれども、父も母も、親としての役割を終え、個人として生きているところや、主人公役の西島秀俊さんが10年間眠り続け、目覚めて同級生に会っても、何も変わっていない。多少変わったところはあっても、全然成長してないところとか、皆そうだよなあ、それが真実だなと思いました。そういうところに影響を受けたと思います。ベースは子どもで、いろいろ無理したり、頑張っちゃったりしながら大人になっていくというふうに思っています。

―――ダンボールで恐竜をつくるシーンがすごくおもしろいです。

ただ遊ぶだけでなくて、皆で何かひとつのことを成し遂げたいというのがありました。自由に色を塗ってと皆に言ったのですが、あの時の皆の顔は本当に真剣で、まじめに働いてるなと思い、子どもたちも郭さんも、それがよかったですね。カメラもどんどん自由に撮っていきました。健二役の郭智博さんは塗装職人という設定なので、いろいろ子どもたちに教えてあげるというのもありましたが、皆で、ここはこの色にしようと話し合ったりして、本当に真剣にやっていました。仕事とか労働って、ああいうものであってほしいなと思いました。全然お金にも何にもならないのですが、仕事してるなという感覚があのシーンにはあって、いいなと思いました。

―――あのシーンで流れるトクマルシューゴさんの音楽がぴったりでしたね。

トクマルさんの音楽は、前からずっと好きで、今回も脚本を書いている時から「Lahaha」という曲は使いたいと決めていました。すごくポップで、いろんな楽器を使っていて、おもしろいけど、どこか切実な感じもあって、そういうトクマルさんの音楽みたいな映画にしたいと思っていました。トクマルさんに脚本を読んでもらって、会って、何曲か使わせてほしいとお願いしたら、OKしてもらえて、アレンジしてもらったり、音楽もやってもらいました。映画のテーマは何ですかと聞かれたら、この曲ですといいたいぐらいに、聞きながら脚本を書いていましたので、切り離せない存在です。

HOMESICK-6.jpg―――子どもたちへの演出はどんなふうにされたのですか?

撮影までの期間は、毎週集まって遊んだりして、役を遊びの中で意識してもらったりはしていました。現場では、「よーいどん」といった感じでしたが、どんなに楽しくても、自分の役割みたいなのは意識してもらい、その中でどれだけ楽しいことをするかというのを皆で考えてやってくれたのがよかったです。3人集まるとおもしろくて、それぞれ勝手に動き始めたり、即興みたいなのも始まります。家まで走っていくシーンも、誰が一番速く家に入れるかといったゲームにして、やってもらったりしていました。いつも、何かやってくれそうと思いながら、楽しみにしていました。

―――撮影中、子どもたちと過ごす中で、何か感じたことはありますか?

子どもたちとやっていて感じたのは、何もない場所を特別の場所に、楽しい遊び場に変える力があるということです。脚本を書いている時に震災があって、避難所の映像がテレビで流れ、そこで子どもたちは楽しそうに遊んでいました。そういう力ってすごいと思いましたが、それは今回、撮りながら感じたことで、それがこの映画におけるひとつの希望なのかもしれません。どこだって特別な遊び場に変えられるのだとしたら、自分のいる場所になんか、こだわらなくてもいい。このことは、映画を撮って完成させ上映していく中で、僕自身やっとわかったことですね。だからこそ健二は、最後に家の鍵を返すことができたと感じてもらえたらいいなと思います。

水族館かどこかわからないようなところで、いるかが泳いている映像が上映され、健二がころ助を肩車して遊んでいるシーンがあります。退屈な日常を少し楽しく変えてみせるということは、子どもたちが健二に教えてくれたことではありますが、逆に、健二が子どもたちに伝えることができたことでもあると思って、撮りました。

 


◆主人公の健二について


 

HOMESICK-s2.jpg―――失業して自由なのに、自分が何をしたいのかわからず、一か所に居続けるという健二の設定がおもしろいですね。

健二の人間像は、特にはっきりとはなくて、「ある家にとどまり続ける」という設定が、まずありました。そこで何が起きたらおもしろいか考えていくうちに、子どもならずかずかと家に入っていけるし、主人公が何もする気がなくても、いろんなことを巻き起こすことができるということで、子どもたちが出てきました。主人公に、何か特別な性格みたいなことを決めたわけではなく、どこか受身な人物、何を考えているかよくわからないような人物、脚本を書いている僕自身にもよくわからないような人物で(笑)、どうしようと思っていたのですが、実際に何人かの俳優さんに会って、郭智博さんにお会いした時、この人、何を考えているかよくわからないと思って、それで健二役をお願いしました。何を考えているかはわからないけれど切実さは感じる、何か秘密を持っていそうな感じがして、それは俳優としてすごく魅力だと思いました。

―――健二役の郭さんへの演出は?

郭さんとは、撮影前に何度か会ってお話しましたが、現場では、具体的な動きも含め、そんなに細かく言わなかったです。難しい演出をした記憶はありません。撮影前に心配だったのは、郭さんは、一人で映る場面は、きっとうまくできるだろうと思っていたのですが、子どもたちと大声を出してはしゃいだり、むきになってやったりするのができるかなと不安でしたが、いざ現場に入ってみたら、わりと一緒になって遊んでくれてた感じで、なんの不安もなかったです。

―――健二の昔の同級生ののぞみは、健二に向かって「人間の屑」と言ったり、かなりきつい性格ですね。

健二を見ていて、むかつく人は絶対いるだろうと思い、そういう視点は欠かせないと思いましたので、のぞみを演じた奥田恵梨華さんにやってもらいました。

 


◆ロケーションと脚本について


 

 ―――黒沢清監督の『ニンゲン合格』に感動して、家族のドラマとして本作が撮られたとのことですが、黒沢監督からは大学院でも師事されて、何か影響を受けましたか?

HOMESICK-4.jpg黒沢監督は場所の構造をとてもうまく使って、物語に取り込んでいくと感じるので、台所の窓から映すのはうまく使いたいと思いました。撮影の準備をしている時、家の裏庭に、近所の子ども達が秘密基地をつくっていて、それを台所の窓から見ると、とてもおもしろい感じだったので、脚本にはなかったのですが、健二がダンボールでつくった恐竜を運んでいく姿を、台所の窓から撮ることを思いつきました。この家は、大きくて、庭のつくりとかも変わっていて、そういう映画としておもしろい装置というのは使わずにはいられませんでした。そういう装置が物語を生み出していくわけで、単純に楽しんで撮っていました。撮り方だけでなく、動き方もいろいろ自由にできたので、子ども達もわりとこんなふうに動きたいと言って、楽しみながらやっていました。

―――現場で、脚本はかなり変わったのですか?

脚本を書いていくうちでも、撮っていく中でも、変わっていきました。自分の思ったとおりの物語にしたいとは、はじめから思ってなくて、最初、主人公は死んでしまう設定でした。あの家がロケ地に決まった時、ここで何ができるんだろうと考え、壁に落書きすることや、台所から映したりいろいろ思いつきました。本当は、脚本と撮影という境界をあまりつくりたくないんです。常に物語が生まれていくというのが一番の理想です。準備のため、スタッフを説得するため、仕方なく脚本を書かなきゃいけないのですが、本当の理想は、脚本を書くのは、企画・撮影段階から編集段階までずっと全部だと思いたいんです。

 


◆撮影について


HOMESICK-3.jpg―――家の中では、カメラを固定して撮るシーンが多かったように思いますが、どうですか?

部屋を撮るというか、状況や空間を撮りたいと思っていたので、主人公がいてもいなくても関係ないという感覚で撮っていましたので、映画の最初の方では、主人公がいないシーンを幾つか撮っています。そこにいろんな人が入ってきて、何かが動いたり始まったりして、アクションが生まれていく…、カメラもそれにあわせて動いていく、というところがうまくいけばいいと思いました。

―――健二が台所で食事したりするのを、少し離れたところから、いつも同じ構図で撮っているのは?

撮る対象にあまり寄りたくないというのがあります。これを見せるというのを決めずに、舞台のように撮りたい、映像的な工夫をなるべく排除して撮りたいという意識があります。全部じゃないですが。特に、今回は家の話だったので、家という場所は、人がいてもいなくてもそこにあるものとして撮りたかったのです。映っている時間だけではなく、映っていない過去や未来もそこにはあるという感覚にならないかなと思ってやっていました。

 


◆印象的なシーンについて


 

HOMESICK-s550.jpg―――ラストシーン近くの、健二が花火を見るシーン、余韻があってよかったです。

脚本には、自転車に乗って去っていくとしか書いてなくて、どうしようと思いました。主人公のラストだし、どう去っていくか、フレームアウトが微妙だなと考え、いろんなロケ地を見ていく中で、目の前に空き地がある、あの場所を見つけました。空き地で若者たちが花火しているのを、映画の最後で健二が見ているというのがいいなと思いました。でも、その空き地が花火禁止で入れないといわれ、どこか遠くを見てほしいというのがあって、最後、健二が遠くを見て去っていくということで、打ち上げ花火を見ている―花火の映像は合成なんですが―というのを入れました。

―――夕方、風船が飛んでいくロングショットの長回しがよかったです。

奥の団地を見せたかったんです。風船が飛んでいく映像は全部で4回ほど撮ったのですが、最後のカットで、風船がひっかかってしまい、そのせいで1本ずつ飛んでいきました。それが逆にすごくきれいだったので、その映像を使いました。バックに映っている団地は、今、ころ助が住んでいて、かつては健二が住んでいたところで、帰り道という設定です。

―――最後に、ころ助が団地の自分の家に帰っていく表情が印象的でした。

健二がタイムスリップしているような感覚がほしかったんです。ころ助自身も、健二を見ていて、いつか僕も大人になるんだということを感じている、何かがそこで受け継がれるというような感覚がありました。皆で家で遊んで、わいわいやった後に、ころ助と健二がどういう関係を結び、最後、健二がどう去っていくのかというところは、悩みましたし、一番大事なところだと思ってつくりました。

 


 

HOMESICK-5.jpgとにかく子どもたちがよく走る。すごい勢いで坂道を、商店街を走っていく。そのエネルギーに健二もいつのまにか感化される。水鉄砲、ダンボールで作った恐竜トリケラトプス、風船、健二ところ助の二人乗りする自転車と、魅力的なイメージにあふれている。めいっぱい遊び、遊びを通じて、魂がつながる。何がやりたいのかわからず、居場所を探し続けていた健二が、子どもたちと過ごしたひと夏を通じて、何かをつかむ。それは、明快なものではなく、曖昧でしかなくても、これから生きていく自信につながるもの。一か所に留まろうと、あちこち飛び回ろうと、自分の居場所は今ここにあると思えることが、どれだけ、生きていく支えになることか…。

健二のとらえどころのない存在感、ころ助のさみしそうな表情が、言葉にならない思いを伝え、観る者の心を引き寄せる。「大人になるって、寂しいこと?それとも、楽しいこと?」映画は、明快な答を用意することはない。でも、ラストシーンの、原っぱで遊んでいる子どもたちをとらえたロングショットのすてきさが、そっと答を教えてくれるようで、バックに流れるトクマルシューゴの軽快な音楽に導かれ、不思議な世界にたぐり寄せられる。

セリフや言葉でなく、映像や動きで伝えようとする監督のセンスが随所に光り、深い余韻の残る作品になった。監督からじかにお話をうかがい、ロケーションや俳優さんたちのたたずまい、撮影現場の熱気から、随時インスピレーションを受け、映画が立ち上がっていく過程を垣間見たような気がする。若いスタッフたちの力が決してプロにひけをとらないことを証明したくて、同世代の人たちでつくりあげたそうだ。映画が、数多くのスタッフたちの力を結集してつくった総合芸術であることを実感した。1度観ただけでは味わい尽くせない魅力に満ちた世界。ぜひスクリーンで味わってほしい。

(伊藤 久美子)

 

pecoros-okano1.jpg『ペコロスの母に会いに行く』原作者岡野雄一さんインタビュー
(2013年 日本 1時間53分)
監督:森崎東
原作:岡野雄一 『ペコロスの母に会いに行く』西日本新聞社
出演:岩松了、赤木春恵、原田貴和子、加瀬亮、竹中直人、大和田健介、松本若菜、原田知世、宇崎竜童、温水洋一他

★作品紹介はこちら 

★公式サイト→http://pecoross.jp/

2013年11月16日(土)~新宿武蔵野館、ユーロスペース、梅田ガーデンシネマ、シネマート心斎橋、京都シネマ他全国ロードショー
(C) 2013『ペコロスの母に会いに行く』製作委員会

 


 

~認知症の母の瞳に映る若き日の思い出。男やもめ、笑いと涙の介護日記~

「ボケるとも、悪い事ばかりじゃなかかもしれん」
生まれ故郷の長崎で、認知症の母を介護しながら介護エピソードを4コマ漫画で書き綴り、
2度の自主出版の後、西日本新聞社から発行した『ペコロスの母に会いに行く』が大反響を呼んだフリーライター、漫画家の岡野雄一さん。この実話を、『生きているうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言』、『ニワトリはハダシだ』の名匠森崎東監督が映画化。監督のもと、同じく長崎県出身の岩松了、原田貴和子や89歳で初めて主演を務める赤木春恵、そして日本映画界を代表する名スタッフが集結し、岡野親子の可笑しくも切ない介護の日々を綴る、感動的な人情喜劇が誕生した。

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岩松了演じる主人公ゆういちと、赤木春恵演じる認知症の母みつえとの日常のエピソードがユーモラスに綴られ、従来の認知症を題材とした映画とは一線を画す。息子が介護するのも新鮮ならば、みつえが亡くなった夫(加瀬亮)をはじめ、自分が子育てに奮闘していた若き日のことを思い出し、みつえの歩んできた人生も描かれていく。若き日のみつえを演じたのは久しぶりの映画出演となる原田貴和子。戦後、酒癖の悪かった夫のもとで必死に生きてきた母親を熱演し、原作とは違った映画ならではの見せ場を作り上げていく。全編長崎ロケで、坂の多い、ちんちん電車の走る街の風景や、長崎の風物詩である「ランタンフェスティバル」が映し出され、郷愁を呼ぶことだろう。観終わったとき長崎弁の心地よさと、母の認知症と対峙することで、過去の自分に戻った母親の姿に自分の子供の頃を重ねた主人公ゆういちの気持ちが、じんわりとからだを包む。

本作の原作者であり、主人公ゆういちのモデルである岡野雄一さんに、原作ができるまでの経緯や、認知症の母親と対峙することで見えてきたこと、そして映画化された本作への想いについて、お話を伺った。

 



―――40歳で長崎に戻られてから、お仕事のかたわらマンガを描き続けてきて、自主出版ののち、今これだけ『ペコロスの母に会いにいく』がヒットした要因は何だと思いますか?
時代に合ったとしか言いようがないですね。昔だったら売れなかったし、今だからヒットしたのです。団塊の世代は親が生きるか死ぬかの時期で、私のような介護パターンが多いんですよ。読書カードを見てもほぼ同じ世代で、40代後半から60代にかけての女性が多いです。親を看ているのは女性の方が圧倒的に多いのでしょう。「介護はこんなに甘いものではないんだけど」と断りながらも、介護をがんばって疲れたり、余裕がなくなったときに、この本を見てほっとするというお声が多いです。シビアさから目をそらす時間がほしいというときにこの本を見てくださるようですね。

 

―――お母様が認知症を発症されてから、岡野さんがマンガを書き始めるまで、さまざまな葛藤があったのではないですか?
pecoros-2.jpg母は、百姓の娘で10人兄弟の長女で典型的なしっかり者で、常に父の後ろにいる印象でした。家計をしっかり守り、世間的にもきっちりした家庭を作るというところから解放されてボケていく感じがしました。よその家の花壇に入って植木鉢を全部持ってきたり、現実にはどんどん汚れたままになっていくんです。介護するのが娘だったら、もっときちんと汚れにも対処するのでしょうが、僕はある程度のところで会社に行かなければならないので、折り合いをつけてやっていました。家の中もだんだん臭くなってきましたが、その時はまだ、時間はかかっても一人でお風呂に入れるぐらいのボケでとどまっていたんです。
でもだんだん「火事が怖い」等と近所から言われ、苦になる部分や、施設に入れることを決めても親戚から「え~母親ば施設に入れるとや?」と言われたりしました。8年前でもまだそんな風潮だったんですね。こうやって映画に取り上げていただいて「まあよかったのか」と思うようになったのですが、今だに後ろめたいところはあります。後ろめたさがありながらというのが、正解なのかなと思います。マンガにするという作業は面白い風に解釈して、8コマ目で落とすという作業ですから、自分の精神的にも良かったですね。

 

pecoros-pos.jpg―――映画は原作に忠実にエピソードを盛り込んでいますね。 
ここまで忠実に描かなくてもいいのにというぐらいですね。でもそれは途中までで、そこからは映画独自の世界に入っていくので、そこがいい映画の特徴だし、この映画の醍醐味だと思いました。

―――度々物語で笑いを誘う「ハゲ」ですが、岩松さんのハゲぶりは見事でした。
僕は岩松さんのインテリっぽい白髪の感じが好きなのですが、原作が原作だけにカツラをつけていただきました。3時間かけてカツラをつけ、撮影が終わって外すのにも2時間かかったそうです。本当はとにかくかっこいいのですが、役作りのためよく僕と飲んでくださったんです。私が出張のときも「君の行きつけのところで飲んでいるから」と連絡を下さって、遅い時間から何回か飲んだりしました。やはり役作りする前と後では全然違っていたので、撮り直したシーンもあったそうです。

 

―――赤木さんの母役も見事に認知症の症状の進行を演じ分けていましたね。
赤木さんはご自身も現在車いすで生活をされているので、長いセリフは無理だとのことだったのですが、私の母も車いすなので、リアル感がありますね。脳梗塞で入院してから、認知症が進行してグループホームに入所する頃までの様子を上手く演じていただいています。今、母は生きているのがやっとの状態なので、この映画を見せたいけれど、もう映画を観ても、分からないでしょう。それでも見せたいですね。

 

―――加瀬亮が演じたお父さんは、岡野さんのお父さんの事実をかなり反映しているのでしょうか?
pecoros-okano2.jpg父はすごく酒に弱かったんですよ。精神安定剤のような感じで短歌を始めたのですが「いつの頃からか自分は精神を病んでいる」という歌があるように、いつも追いつめられているような感じで、定時以前に父がガクガク震えながら帰ってきて、「電信柱の影におるけん」と隠れたりしていました。
日本酒は大好きで、「三杯目から砂糖水に変わる」と言っていました。砂糖水に変わった瞬間から暴れ始めるらしく、一番被害を受けたのは母でした。僕が覚えているだけでも何度か実家に帰っていますが、結婚していない妹がたくさんいるので、長女が失敗して帰ってきたとなったら世間体がよくないと帰らされるのです。父が「一緒に死んでくれ」と言って、包丁を持って母を追いかけまわしていたちょうどその時期に、僕は長崎を出ました。このままいたら自分もおかしくなるし、父の血が自分に流れていると実感する瞬間があって、東京へ出てきたのですが、一番父がひどいときに母をおいて出てきた申し訳なさがずっと心の中にあるんです。

40歳で離婚して長崎へ戻ってきたのも、そういう過去をもう一度やり直すという気持ちがどこかであったと思います。こうやって取材を受けてうれしいのは、そうだったんだと、もう一度自分を振り返ることができたことですね。

 

―――若い頃、辛い目に遭わされたお母様ですが、認知症になってから「帰ってきてほしい」とご主人の帰りを待ちわびている姿に、夫婦の絆を感じますね。
子供心には母が弱者に見え、父がひどい男という簡単な見方しかできていませんでしたが、自分が父の年に近づいてみると、実は母の方が強かったということが分かってくるんですよ。母は父が弱い男と分かって、叩かれていたりします。母が認知症になり始めた頃、父のことを聞くと「とにかく弱いけど、いい人だった」とよく言っていました。シナリオライターの阿久根君にも、「あれだけ酒で叩かれた妻がなぜ酒を買いに行って用意して待っているのか」と聞かれました。そのとき監督も一緒にいたのですが、まずそのころは世間体が強くて、それに合わせていたことや、父がちゃんとお金を稼いできてくれていたこと、父が弱いということも分かっていて、その上で酒を買いに行っている。今と違うそのころの男と女の愛情や、主人をたてるというところがあったんでしょうね。

 

―――映画ができて一番思ったことは?
いい映画のもっている高揚感や、高いところに持っていってくれるところをこの映画が持っていたのが、すごくうれしかったですね。いい映画ができたという実感がうれしかったです。

 

―――「昔に戻っていく」ことがテーマなっていますが、この作品によって認知症に対するマイナスイメージを払拭しているのでは?
面白いことに、森崎監督は「記憶は愛だ」がテーマなんですよ。私の本にある「忘れるのも悪いことばかりではない」という言葉とは相反するので、どうなるのかと思っていましたが、両方ともきちんと融合したラストになっていました。しかも、いい感じに楽観的でしたね。

 

―――どんな人に見ていただきたいですか?
同年輩の人たちは何回か見る人も多いと思いますが、もっと幅広い年代や若い人たちにも見ていただきたいです。たぶん、若い人も見て面白いと感じる人が多いのではないでしょうか。
(江口由美)

R100-s550.jpgSMネタQ&Aトークに爆笑!『R100』松本人志監督、大森南朋舞台挨拶&ティーチイン  (13.10.5 梅田ブルク7)
登壇者:松本人志監督、大森南朋 MC:倉本美津留
(2R100-1.jpg013年 日本 1時間40分)
監督:松本人志
出演:大森南朋 、大地真央、寺島しのぶ、片桐はいり、佐藤江梨子、冨永愛、渡辺直美、松尾スズキ、前田吟、渡部篤郎他
2013年10月5日(土)~新宿バルト9、梅田ブルク7、なんばパークスシネマ、OSシネマズミント神戸、MOVIX京都他全国ロードショー
公式サイト→http://www.r-100.com/
(C) 吉本興業株式会社

 

~「『そして父になる』と『そして父、Mになる』の二部構成で観て!」 松本人志監督、大ヒット舞台挨拶も舌好調!~

 

 日本での公開に先立ちワールドプレミア上映されたトロント国際映画祭では賛否両論を巻き起こし、劇場公開前から話題沸騰の松本人志監督最新作『R100』。大森南朋演じるサラリーマン片山が謎のSMクラブ「ボンデージ」に入会したことから繰り広げらる女王様にいたぶられる非日常と、日常生活にまで浸食し、更に予測不可の事態に巻き込まれていく様子を独特の映像美で描く。まさに全く新しいエンターテイメントだ。


R100-550-2.jpg 趣向を凝らしたSMの数々を披露する「女王様」を演じるのは、大地真央、寺島しのぶ、片桐はいり、佐藤江梨子、冨永愛、渡辺直美といったゴージャスな面々。快感を超えた恐怖まで感じる片山が、ドMを極めた先にどのような境地に達するのか。物語は、最後まで観る者の想像を裏切り続ける。

R100-2.jpg 公開初日に行われた地元大阪での大ヒット舞台挨拶&ティーチインでは、松本人志監督と主演の大森南朋さんが登壇。MC倉本美津留さんによる「ゲストのお二人がどんな質問にも答えます。松本監督はジョニー・デップよりもNGが少ない方ですから」という呼びかけに次々と質問の手が上がり、観客を交えての『R100』トークは大いに盛り上がった。普通のティーチインよりどこか親密で、SMというプライベートな趣向をあっけらかんと語り尽くす公開SM談義のようなユニークさが印象的だった。このティーチインの模様をご紹介したい。

 


(最初のご挨拶)
松本:どうだったでしょうか?コメディー映画ではないのですが、人それぞれ楽しむところや、ひょっとしたら笑いのこぼれるところがあるのではないかと思っています。みなさんのリアクションを見ることができなかったのですが、「割と良かったんじゃないかな」とよく分からない通行人が言っていました。
MC:それはスタッフの人ですね。それでは大森さん、お願いします。
大森:大森南朋です。今回は宣伝もたくさんやらせていただいたので、お客様がいっぱい入ってくれるとうれしいなと思っています。(自身が演じた)あの姿を見られてうれしいのかな?(会場、笑)とにかく、今日は大阪に来ることができてよかったです。今日はよろしくお願いいたします。

 

R100-matsu-1.jpg―――映画面白かったです。相方の浜田さんは映画には起用しないのですか?
松本:毎回のように聞かれて、ずっと「ありえない」と言い続けてきたのですが、最近それも言い疲れ、一周回って「逆に出演してもいいのではないか」と思ったりもしていますが、なかなかギャラが高いので、事務所をうまく通してやらないと、事務所が厳しいですから。
大森:僕はそういう(浜田さんがいる)現場を見てみたいですけどね。
松本:浜田を緑に塗って、実写版『シュレック』をやらせたらと(場内大爆笑)

―――とても変わった映画で楽しく拝見しました。松本さん自身はテレビやラジオでご自身がMだと公言されていますが、今回の映画は自身の願望がアイデアのもとだったのでしょうか?
松本:(映画で描かれているようなことを)されたいとまでは思いませんが、されてもいいかな。
大森:僕は普段したことのない経験をさせていただき、現場で縛られながら「監督はこういうことをされたいのかな」と思ったりしました。さすがに直接監督に聞くことはできませんでしたが。プロの縛り師が待機して、少しゆるめにしてくださったり、寄りで撮るときはきつめに締めたりしてもらいました。

 

R100-Omori-1.jpg―――松本さんや大森さんの父親もMですか?
大森:父親(麿赤児)がMやSと考えたことはないですが、MもSも越えている父なので、両方お持ちではないかと思います。
松本:僕は小学校高学年のときに親父のタンスからSMの本を見つけたことがあります。読んでいるとずっと縛られている女の人ばかりで、完全に親父はSだと思いました。他にも「あれは何だったんだろう」と思った経験があります。母親と和気藹々と団らんしていたときに「人志、お父さんはすごく噛んでくるんやで」と言われ、そのときは意味が分からなくて「お母ちゃんが悪いことしたから?」と聞くと、「いや、そういう意味じゃないねん。そのうち分かるわ」と。そんなことをなぜ僕に言ったのかいまだに分かりませんが、親父は相当なSだったと僕は思います。

 

―――私は大学生で、まだ自分がSかMかが分からないのですが、自分がSやMだと気づいたのはいつ頃ですか?
大森:役者は監督の指示を受けて動いているので、そういう意味ではMではないかと思います。仕事をしていて気付かされたところもありますね。
松本:本当に高校ぐらいのときだとよく分からないですね。自分はSかなと思っていたのですが、この仕事を選んでコンビを組んでお笑いをやっていくと、だんだんとボケ役がMとなっていくのは仕方がないかなと。笑いを追求していくときに、ツッコミ役はどんどん「もっとやれ!」と駆り立ててくるし、ボケ役は追い込まれた中からアウトプットするというところがあって、気が付くと相方の浜田はSとなり、僕はどんどんMになっていきました。もともと持っていたものなのか僕はよく分からないのです。
職業や相手によってもSやMは変わる部分があって、映画を撮っているとやはりSじゃないと役者さんに指示をだすのは難しいです。監督はSではないとダメで、編集するときはMになっているというか、悩んで自分で首を絞めているという仕事かなと思います。

 

R100-matsu-2.jpg―――主人公の家をみていると昭和テイストを感じました。バロムワンやレインボーマンの影響を受けているような女王様や、劇中流れるダウン・タウン・ブギウギ・バンドの『サクセス』などは、松本さんの思い出から盛り込まれているのでしょうか?
松本:映画監督をするということは、自分の内面、自分のワガママや自分の経験したもの、考えを出していかなければいけません。どうしても子供の頃の体験が知らず知らずのうちに出ているし、それを隠すつもりもないので、僕の思い出から来ているのでしょうね。
「この映画は懐かしい感じがした」とおっしゃっていただきましたが、そもそもこれが僕の好きなテイストであることと、この映画はパロディーではなく、むしろシリアスな怖い緊張感があります。その感じを出すために、ちょっと昔のイメージが必要でした。少なくともこの映画に関しては、携帯電話やパソコンが出てくると緊張感がなくなると思ったのです。
車が疾走するシーンのBGM用には2曲候補があり、もう一つが『身も心も』という同じくダウン・タウン・ブギウギ・バンドの曲でした。だからといってコンビ名を「ダウンタウン」にした訳でもないのですが、どこか惹かれるものがあるのでしょうね。

 

R100-Omori-2.jpgMC:大森さんは様々な映画に出演されていますが、監督松本人志は他の監督と比べていかがですか?
大森:存在感というか、監督が一番上に立って、スタッフや役者が皆同じ方向を向いて、一つの作品を作ろうとする。監督が悩めば、スタッフや役者もちょっと待ったりする。すごくいい空気というか、巨匠の空気がありました。
松本:マジですか?巨匠の風味が!?
MC:じゃあ、今日から巨匠の空気と呼びましょう!
松本:あまりいい感じじゃないですね(会場、笑)。

 

R100-s2.jpgMC:それでは最後のご挨拶をお願いします。
大森:今日は皆様ご足労いただき、ありがとうございました。初日、ついに来ました。みなさん、初日に見ちゃった人はお友達にちゃんとこの映画を観るように紹介してください。「あいつがあんなひどいことになってたぞ」と。よろしくお願いします。
松本:この映画を観て、友達にどうだったって聞かれたら、「嵐ががんばっていた」「嵐、パンツ一丁で走り回ってたよ」って言うと、ダマされて見に来る人もいるでしょう。嘘じゃないですから(笑)。『そして父になる』を観て、それから『そして父、Mになる』を観る二部構成と考えていただければ、抱き合わせでいけるのではないかと思っております(会場爆笑)。これからも機会があれば、新しいことにどんどん挑戦していきますし、一人ぐらいこんなおかしな監督がいてもいいのかなと思っておりますので、もし応援していただけるなら、次回作があるかもしれません。よろしくお願いします。

 


 

ティーチイン後に行われたマスコミによるフォトセッション時には、会場から「松ちゃん、面白かった!」「R100Ⅱはあるんですか?」と次々に声がかかり、「写真を撮られているときにこんなに話かけられるのもあまりない!」と松本監督が驚いた一幕も。大阪の観客に暖かく迎え入れられた舞台挨拶&トークショー、最後の挨拶で松本監督の目にうっすらと涙が浮かんでいたように見えた。従来から「SとM」の世界観にこだわり続けてきた松本監督が振り切った作品を目指して作り上げた『R100』。鑑賞した後、話したくなるネタも満載だ。(江口由美)

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 女優だけでなく、プロデューサーとしてリム・カーワイ監督『マジック&ロス』(10)、深田晃司監督『歓待』(10)、イム・テヒョン監督『大阪のうさぎたち』(11)、内田伸輝監督『おだやかな日常』(12)などを世に送り出し、国内外を問わず精力的な活動を続け、映画界で独自の存在感を放つ杉野希妃さん。『歓待』以降の作品はいずれも東京国際映画祭や東京フィルメックスのコンペティション部門(『大阪のうさぎたち』はアジアの風部門コンペ対象作)入賞を果たし、今年の台北映画祭では杉野希妃特集上映「Filmmaker In Focus: Kiki Sugino」が組まれ、日本未公開作品をはじめとする全7本が上映されるなど、海外の映画祭でも高い評価を得ている。

 来年1月、二階堂ふみを主演に迎えたプロデュース兼出演作『ほとりの朔子』(14)の公開も待望される杉野希妃さんが、自身が主演する最新作「女による女のためのR18文学賞」シリーズ第三弾『マンガ肉と僕』で、いよいよ監督デビューを果たす。主演に三浦貴大さんを迎え、三浦さん演じる青年ワタベと杉野さん演じるサトミをはじめとした3人の女の8年に渡る関係を描く、女の本音が満載の本作は、ほぼ全編京都ロケで京都の名所が多数登場するのも大きな見どころだ。

 

manga4.jpg 9月後半、12日間をかけて行われた撮影のうち、私は物語の大きなターニングポイントとなるシーンの撮影に立ち会うことができた。今まで『歓待』、『大阪のうさぎたち』、『おだやかな日常』と来阪のたびにインタビューさせていただいた杉野希妃さんが、プロデューサー、主演をしながら今回は監督業にもチャレンジ。記念すべき初監督姿をぜひ現場で見てみたい!その一心で早朝の撮影に合流し、まずは現場の緊迫した空気に圧倒された。杉野監督は、自身もずっと現場で登場するシーンのため、自ら「用意、スタート」と言った途端に演技に入り、演技を終えて「カット!」と声をかける。カット後は、真剣な表情で早速モニターチェックをし、三浦さんやワタベの恋人サヤカ役のちすんさんに細かな演出を行い、まさにフル回転だ。開店前の店舗を借り、時間に限りのある撮影だったため、杉野監督の「もう1回やらせてください」の声に周りもどんどん集中力が高まる。ちょっとした間合いや、顔の角度など納得のいくまでテイクを繰り返すこだわりぶりをみせた杉野監督をバックアップする周りのスタッフの声掛けも見事で一体感のある現場だった。

 朝一の撮影を終了し、次の現場に向かう移動の車中で、初監督作となった本作への想いや、杉野監督が表現したい女性像、初挑戦したプロデューサー兼監督兼主演のメリット、デメリットについてお話を伺った。


━━━長編監督デビュー、おめでとうございます。20代のうちに監督デビューというのは予定通りですか?
杉野:30歳までにデビューできればいいなと思っていました。昨年釜山国際映画祭のAPMという企画マーケットに日本、韓国合作映画の企画を提出し、それを長編一作目にしたいと考えていたのですが、合作ですし時間もかかるし、監督デビューは三十路をすぎるかもしれないなと思っていました。ちょうどそのとき本作のお話をいただき、タイミングがよかったです。

 

━━━今まで杉野さんはオリジナル脚本にアイデアを出され、脚本に対するこだわりを見せていましたが、今回杉野さんが携わる作品としては初めての原作ものとなりましたね。
杉野:今まで原作ものはやったことがないのですが、今回お話をいただいて5作品ほどの短編小説を読みました。その中で圧倒的に『マンガ肉と僕』が面白いと思ったら、そのすぐ後に「R18文学賞」大賞を受賞したので、この作品をやりなさいということだなと(笑)。
原作は原作の面白さがあるのですが、その設定をそのまま映画に持っていくと、マンガ的になってしまいます。結構突拍子もない設定なので、それをどう映画的に置き換えていくか、リアルに持っていくかというところから考え始めました。
一番原作で惹かれた点は、主人公のワタベとヒロインのサトミの関係性が人間の食物連鎖的なものを描いている感じがして、その構図が面白かったことです。ちょうどその頃、橋下知事の慰安婦問題の発言が取りざたされていて、原作が持っている「男にあらがう女たち」というテーマでやれるのではないかと思ったときに、すごく面白い映画になる直感が働きました。「男にあらがう女たち」ということで3人の女性を登場人物にし、全員関西弁をしゃべらせることにし、彼女たちの設定や背景を少しずつ変えていきました。

 

manga1.jpg━━━最初から監督、主演の両方をされるつもりだったのですか?
杉野:製作の吉本興業さんから、私が監督でヒロイン役もやれば面白いのではないかという案をいただき、そこから話が進んでいきました。ただヒロインのサトミが太ったり痩せたりしなければいけないので、そこが悩みどころでした。本気で20kgぐらい太ろうかと思ったのですが、コンパクトに撮影しなければならなかったので、10日間で20kgも太ったりやせたりするのは現実的に無理ですよね。そして、20kgの増減では見た目がそんなに変わらないという指摘もありました。結局は特殊メイクで毎回3時間かけて太ったサトミを演じています。

 

━━━役者としてもチャレンジですね。太って卑屈になってしまう気持ちなど、杉野さんに今まで無縁の感情だと思いますが。
杉野:人間って誰でも卑屈な部分は持っていると思いますし、私も「自分のこの性格を直したい、自分の身体のここが嫌い」とコンプレックスの塊ですよ。でもその悔しさをバネにして人間は生きている部分があると思うので、自分の中の自虐的だったり、あらがう感情みたいなものから役作りをしていった感じですね。サトミの場合は、卑屈さよりも反抗心の方が強く、そういう部分も自分と近いかもしれないです。
 

━━━今までプロデューサーや女優として様々な監督と仕事をされてきた杉野さんですが、ご自身が監督をされるにあたり、作品づくりや現場演出で影響を受けている監督は?
杉野:私が尊敬する溝口健二監督も「男にあらがう女たち」というテーマでずっと京都で撮影されていましたし、この作品も、ある種溝口健二監督を意識した形で、京都で撮ったら面白い作品になるのではないかと考えたんです。また、フランソワ・トリュフォーやウディ・アレンは「女に翻弄される男」を描くことが多いですよね。主人公のワタベに関してはウディ・アレンからインスパイアされた部分があります。ワタベ役の三浦さんやサヤカ役のちすんさんには『アニー・ホール』を観てもらうように言いました。

実際の現場では、今まで一緒にお仕事をしてきた監督さんの影響はやはり受けています。例えば深田晃司監督はある程度役者の個性を生かしつつ、「動詞」で演出されます。形容詞を使わないで「もっと攻撃してください」という風にアクションで演出される方です。それが私もすごくやりやすかったし、形容詞を使われるとイメージが制限されてしまうので、私もなるべく役者のイメージを膨らませるような演出ができればいいなと思っています。

先日福岡で撮影した『sala』の和島香太郎監督の現場も勉強になりました。ものすごく役者の気持ちや考えをリスペクトし、役者のタイミングを最優先される方だったので、そういうところも影響を受けていますね。本作では私の「どういう作品にしたい」「どういうキャラクター像にしたいか」「どういう台詞を言わせたいか」を全部伝えた上で、脚本を書いて下さっています。

 

━━━朝の撮影では、細かい間合いや顔の角度など演出のこだわりを感じました。
杉野:ここはこの構図にこだわりたいという部分と、ワンシーンワンカットでエネルギー重視の部分を決めて撮影しています。例えばフォーカスが合わなかったり、役者がフレームアウトしたとしてもその画面の中におさまるエネルギーみたいなものが凝縮していることが大事なシーンもあります。そこはバランスを取りながらやっていきたいです。(早朝のシーンは)視線が交差するので、結構こだわりました。

 

━━━監督と主演を兼ねることで、プラスになっていることや新たな発見はありますか?
杉野:「自分だったらどういわれたら動きやすいか」とか、「自分だったらどう考えるか、想像を膨らませるか」というところまで考えて、演出をするというのがすごく楽しいです。そういう自問自答や、こちらが説明した後の役者さんの反応を見るのも刺激的です。でもそれは、今回携わって下さっているスタッフやキャストのみなさんが、人間的にもすばらしい方々なので余計にそういうことがやりやすいのだと思います。予想した以上にやりやすい現場を作っていただいている感じですね。

 

manga6.jpg━━━今までと違い、自分で自分の演技をつけることについては、いかがですか?
杉野:テストやテイクごとにモニターチェックをしなければいけないのですが、チェックすることで自分の演技を客観的に直していけるので、自分の中でバランスを保ってコントロールをしなければいけないという感じが、新しいチャレンジだと思えますね。これまでは常に役に寄り添って、監督のおっしゃることを聞いていくというスタンスだったのが、もっと俯瞰的でいられるという感じがします。

 

━━━監督、主演だけでなく今まで通りプロデューサーもされていますね。
杉野:監督とプロデューサーを一緒にするのはかなり矛盾していることなので、大変ですね。まだ役者とプロデューサーとか、監督と役者ならバランスを取りやすいのですが、プロデューサーと監督はお金を管理する側とわがままを言いたい側なので、できる限り現場では監督で居続けたいという気持ちが強いですね(笑)。

 

━━━「女による女のためのR18文学賞」シリーズの映画化は今まで男性監督が手がけてこられましたが、今回杉野さんが監督されることで初めて女性の手で完結します。女性監督にしか出せない「女性のえぐみ」が出るのではないかと期待しています。
杉野:出せるといいなと切実に思いながら作っています。「女による女のためのR18文学賞」は元々エロスの要素を入れるようにという規定がありましたが、昨年ぐらいから女の目線の小説を描けばいいという風に変わりました。映画界でも例えばベッドシーンを描くとき、そのシーンだけのために物語を持っていかなければならず、そこだけ急にミュージカルが始まるような雰囲気にすごく違和感を感じていたんです。男目線という部分を変えていきたいと思っています。女性が感じるエロスは男目線のものとは少し違って、行為をすることだけがエロスではなく、ふとした横顔だとか普段着替えをしたり顔を洗ったりするときの裸の方がすごくにナチュラルで美しく、ドキリとするのではないでしょうか。性行為だけを強調してエロスと言ってしまう風潮に違和感があるので、今回の作品もそういうものは避けて、もっと女性目線で撮りたいと思っています。

 

manga5.jpg━━━共演の三浦貴大さんは「女に惑わされる男」ワタベ役ですが、キャスティングの理由は?
杉野:三浦さんと初めての顔合わせの時に、脚本を読んで何でも言ってくださいとお願いしたのですが、「いや、ないんですよ。ワタベに共感してしまって、聞くことがないです」と言われたのが意外でした。三浦さんをキャスティングしたのは単純に一緒に仕事がしたかったということが一番大きいです。色々な出演作を拝見し、陽の要素も陰の要素も持っていて、どちらにも振り切れる役者さんだと感じました。今回のワタベ役は19歳から27歳までを描いていて、はじめ純粋のように見えたワタベがサトミの影響を受けて、今度は別の女性たちに影響をもたらしていく非常に難しい役で、感覚の鋭さを持っていて、頭もちゃんと使える役者さんと考えたとき、三浦さんは絶妙なバランス感覚を持っているんですよね。こちらが指示したこともすぐに修正してくれ、びっくりするぐらい吸収力もいいですし、とても信頼しています。

 

━━━女性監督で、影響を受けたり、目指している人は? 
杉野:ヤスミン・アフマド監督(マレーシア)ですね。彼女の包容力や愛の深さ、人間の大きさは言葉では表現できないくらいで、ものすごく影響を受けている方です。例えば草の上で男女が横たわっているところを切り取っただけでも、愛や感情の深さを描けてしまう。宇宙レベルで人間が大きいんだなと思います。これまで日本や韓国、東南アジアなどでの沢山の女性監督たちとお会いしていますが、結構男化してしまう方が多い気がします。正に男にあらがいすぎているように見受けられるのですが、自分はそうなりたくはないという思いが強いです。本作では男にあらがう女たちを描いていますが、男に対抗するのではなく、生まれ持ったものを大事にしたいよねということを、簡単にいえば一つのテーマにしているので、自分もそういう感覚は忘れたくないですね。

 

━━━杉野さんは国際的に多彩なキャリアを積まれていますが、自分でしかできない表現方法や出していきたい「杉野色」はありますか?
杉野:役者も人間なのでちょっとしたことで動揺することもありえますし、緊張を強いるのではなく、リラックスして望めるような環境を作りたいです。誰もが絶対ではないし、常にディスカッションできるようなオープンな雰囲気を大切にしつつ、撮影現場の中でもしきたりや慣習に囚われず、枠を超えた新しいやり方を見出していけたらと思っています。あとこの作品に関しては、女の静かな狂気が過剰ではなく、ふとしたところで出てくる作品になればと思っています。

 

━━━監督業の体験を踏まえて、これからはどの方面に軸足を置いて活動したいと考えていますか?
杉野:今回監督をして、役者の演技を見ながら自分がめまいを起こしそうになることがあるんです。役者の演技を、自分が演じているかのように観てしまうので、2人で演じるシーンなら2人共の感情を交差させながらモニターで見ていると、ぐっときてしまうんです。もちろん今後の活動でプロデューサーや監督もやっていきたいと思いますが、演技そのものが好きで、演技を見るのも自分が演じるのもやはり好きなのだと、監督をしながら改めて感じていますね。そもそも人間の感情や動作の起源に興味があるのかもしれないですね。ただ何でも挑戦していきたいという気持ちは今後も変わらないです。

 

━━━最後に、『マンガ肉と僕』はどんな方に観ていただきたいですか?
杉野:ほぼ全編京都で撮影している作品です。特に女性に観ていただきたいですし、昔の映画が好きな方にも観ていただきたいです。いろいろなことにチャレンジをしていて、うまくいっているかどうかまだ分かりませんが、全身全霊で作りますのでぜひ観に来てください!


車中でインタビューさせていただいている間に、次の現場である哲学の道に到着。まだ夏のような陽気の日だったが、さっと日焼け止めを塗り、帽子をかぶって軽やかにワゴンから飛び出していく杉野監督を見送った。初体験の監督業も「楽しい!」と語り、監督をすることで吸収できることを、自身の演技にも生かしている“杉野希妃パワー”は全開だ。女性だからこそ描ける世界観や、男にあらがう女たちをどう表現するのか。作品が完成するまで、楽しみにしていたい。(江口由美)

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今年で9回目を迎える『ブラジル映画祭2013』が、全国6都市で開催される。関西は10月26日(土)から大阪:シネ・ヌーヴォ、11月16日(土)から京都:元・立誠小学校特設シアターで上映される。

全8本の上映作品で長編作品部門では、ブラジル音楽史に大きく名を残すルイス・ゴンザーガ、コンサギーニャ親子の実話に基づく話題作『ゴンサーガ~父から子へ~』や、ダウン症の主人公3人をダウン症の俳優たちが演じる異色コメディー『ぼくらは”テルマ&ルイーズ”』他1本が上映される。

ドキュメンタリー部門でも、ブラジル史に名を残すミュージシャンやサッカー選手、サントスのドキュメンタリーのほか、砂糖の過剰摂取問題を取り上げた社会派ドキュメンタリー『世界中の子どもが危ない』を上映。ブラジルの息吹を映画から感じてみて!

『ブラジル映画祭2013』公式サイト http://www.cinemabrasil.info/

 

busikon-550.jpg『武士の献立』 

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