「京都」と一致するもの

第 13 回 京都ヒストリカ国際映画祭 提携企画

『インフェルノ』(1911 年 ミラノ・フィルムズ)/

『小さな聖女』(2021 年 レイン・ドッグズ)特別上映会のお知らせ

 

イタリア文化会館-大阪(大阪市北区中之島、代表:ジョヴァンニ A. A. デサンティス/在大阪イタリア総領事館文化担当アタシェ)は、来年 1 月に開催される「第 13 回 京都ヒストリカ国際映画祭」において、1911 年製作の無声映画『インフェルノ』(ミラノ・フィルムズ/68 分/モノクロ)と 2021 年製作の最新のイタリア映画『小さな聖女』(レイン・ドッグス/97 分/カラー)を上映いたします。


今年はイタリア文学最大の古典と呼ばれる『神曲』の著者 ダンテ・アリギエーリの没後 700 年にあたります。『インフェルノ』は、イタリア映画の草創期に『神曲』の地獄篇をもとに当時の技術の粋を集めて製作された特撮映画で、2007 年にイタリアのボローニャにあるシネテーク「チネテカ・ディ・ボローニャ」映画修復ラボラトリーの「リマジネ・リトロヴァータ」で修復し、2021 年のボローニャ復元映画祭で上映しました。その作品を、今回は鳥飼りょう氏のピアノの生伴奏とともにご紹介します。また、上映後のビデオアフタートークでは、チネテカ・ディ・ボローニャのカルメン・アッカプート女史がインフェルノおよび映画修復の仕事などについて語る予定です


一方、『小さな聖女』はヴェネツィア国際映画祭を主催するヴェネツィア・ビエンナーレの映画部門の若手育成プロジェクト「ビエンナーレ・カレッジ・シネマ」の作品で、2021 年のヴェネツィア国際映画祭で上映されました。なお、監督のシルヴィア・ブルネッリ(1988 年生まれ)は、2020 年、ヨーロピアン・カウンシル主催 Euroimages の新人監督賞に選ばれ、今後の活躍が期待されています。映画上映に際してブルネッリ監督から日本の皆さまへ宛てたビデオメッセージを上映する予定です。


このプログラムは、イタリア映画の草創期と最新の長編映画を上映することで、イタリア映画の 1 世紀、ひいては映画の歴史に想いを馳せるとともに、ボローニャ復元映画祭と京都ヒストリカ国際映画祭、そして「ビエンナーレ・カレッジ・シネマ」とヒストリカの人材育成部門「京都フィルムメーカーズラボ」とを繋ぎ、映画分野においても日本とイタリアの交流を促進することを目的に企画されました。
 



Inferno-500-1.jpg【チネテカ・ディ・ボローニャ提携企画】

『インフェルノ』L’Inferno

日時:1 月 23 日 (日)16 時 10 分~ 
会場:京都文化博物館フィルムシアター

 

ダンテの『神曲』完成から 700 年、

映画草創期の特撮技術を駆使して地獄の暴力と恐怖を表現する


この映画は 2007 年にチネテカ・ディ・ボローニャ財団のラボラトリーであるリンマジーネ・リトロヴァータで修復されました。

ダンテ・アリギエーリの「神曲」第 1 篇地獄篇が原作。薄暗い森で迷子になった詩人ダンテ、煉獄山の頂の救いの光に向かう彼に貪欲、傲慢、色欲の獣が立ちはだかる・・・。地獄のイメージ、恐怖とバイオレンスを当時最先端の特撮技術と幻想的なモンタージュを駆使して表現した記念碑的作品。本作は 2007 年にチネテカ・ディ・ボローニャがデジタル復元し、ダンテ没後 700 年にあたる 2021 年にボローニャ復元映画祭で上映された。


●ピアノ伴奏:鳥飼りょう
●ビデオアフタートーク:カルメン・アッカプート(チネテカ・ディ・ボローニャ)
●日本語字幕付き

監 督:フランチェスコ・ベルトリーニ、ジュゼッペ・デ・リグォーロ、アドルフォ・パドヴァン
出 演:サルヴァトーレ・パパ、アルトゥーロ・ピロヴァーノ、ジュゼッペ・デ・リグォーロ
(1911 年 ミラノ・フィルムズ製作/2007 年 チネテカ・ディ・ボローニャ修復/68 分)
© Cineteca di Bologna
 


LSP-500-1.jpeg【ヴェネツィア・ビエンナーレ、ビエンナーレ・カレッジ・シネマ提携企画】

『小さな聖女』La Santa Piccola

日時:1 月 26日 (水)18 時 30 分~
会場:京都文化博物館フィルムシアター


美、エロス、神聖、卑俗 全てを飲み込んで、二人の進む道は・・・


住民皆が互いを知っている、ナポリの日当たりの良い地区。マリオとリーノは離れがたい友人同士。彼らは変わらぬ日々を過ごしていたが、リーノの妹が奇跡を起こし地区の守護聖女となってから、二人に新しい世界への扉が開き・・・。ナポリの貧しい若者たちの、永遠に変わらないと思われた日常と友情にひずみが生じていく過程を、エロティシズムと神聖さを混濁させつつ、瑞々しく描いた LGBTQ 作品。


●シルヴィア・ブルネッリ監督ビデオメッセージあり
●日本語字幕付き

監 督:シルヴィア・ブルネッリ
出 演:フランチェスコ・ペッレグリーノ、ヴィンチェンツォ・アントヌッチ、ソフィア・ グアスタフェッロ
(2021 年 レイン・ドッグズ/97 分)

※ 詳細は添付の京都ヒストリカ国際映画祭公式リーフレットをご覧ください。
※ 本状に記載されている内容は発表時点の情報です。予告なしに内容が変更となる場合もあります。あらかじめご了承ください。

© Rain Dogs



【イタリア文化会館 – 大阪 とは】

イタリア外務・国際協力省の海外出先機関である当館は、世界に約 90 あるイタリア文化会館のひとつとして、日本におけるイタリア文化の普及と日伊文化交流の振興を目的として活動しています。


日本におけるイタリア文化会館は 1941 年に東京に、1978 年に京都に開館しました。イタリア文化会館-京都は 2010 年に大阪・中之島に移転、イタリア文化会館-大阪となりました。当館は音楽、美術、映画、演劇、ダンス、ファッション、デザイン、写真等の多様な分野で文化催事を多数企画・開催するほか、日本の諸機関や企業などが主催するイタリア関連イベントの積極的な後援も行っています。また、ネイティブ教授陣によるイタリア語コース やイタリア文化コースを開講し、図書コーナーでイタリア語・イタリア文化についての図書や映像(書籍約 4500 冊、DVD等)、イタリア語教授法の資料を提供しています。


※ 現在は、新型コロナウィルス感染症対策のため、イタリア語・イタリア文化コースの開催(オンラインレッスンを除く)および図書コーナーの運営・一般来館の受付を休止しております。
 


〒530-0005
大阪市北区中之島 2-3-18 中之島フェスティバルタワー17 階
Tel: 06-6227-8556
Fax: 06-6229-0067
公式サイト:https://iicosaka.esteri.it
 

代 表 者:在大阪イタリア総領事館アタシェ(文化担当)
     ジョヴァンニ A. A. デサンティス(Giovanni A. A. Desantis)
開館時間:月曜日・水曜日 10:00-13:00 / 14:00-18:30
      火曜日・木曜日・金曜日 10:00-13:00 / 14:00-18:00  
休 館 日:土・日および規定の祝祭日

 


(オフィシャル・リリースより)

★書影『フェイドアウト』帯付.jpg


小説『フェイドアウト 日本に映画を持ち込んだ男、荒木和一』

《 読者の書評 》

(筆者、東龍造(本名:武部好伸)さんのご友人、荒川英二さんからの寄稿です。)

 

ケルト文化、映画、洋酒、大阪など多彩なテーマで精力的な執筆活動を続ける畏友・武部好伸氏が初めての小説「フェイドアウト 日本に映画を持ち込んだ男、荒木和一」(幻戯書房・刊行、1800円<税別>)に挑んだ(武部好伸ではなく「東龍造」というペンネームで。すでに書店には並んでいる)


武部氏は5年前、日本映画発展の歴史の中で、大阪と映画の関りを幅広く紹介する「大阪『映画』事始め」(彩流社・刊)を著した。なかには日本映画史を塗り替えるような新事実も含まれ、貴重な調査報道とも言える労作だった。


大阪・難波のシネコン「TOHOシネマズなんば」の1階ロビーには、「1897年<明治30年>2月15日、この地にあった南地演舞場で日本で初めて映画興行が行われた」ことを記念する金属製のプレートが、壁に埋め込まれている。1953年<昭和28年>につくられたプレートには、その興行に尽力した会社・稲畑商店の名も記されている。


しかし実は、その約2カ月前の、1896年<明治29年>12月、荒木和一(1872~1957)という男が、大阪・難波の鉄工所内で「日本で初めて」スクリーン上に映画を映し出していた新事実が、武部氏の綿密で粘り強い調査の結果、浮かび上がったのだ。この経緯は「大阪『映画』事始め」の第一章で綴られた。この小説は、作者曰く「その第一章を膨らませ、物語に紡いだ」ものである。

 

荒木和一(1872~1957)。大阪・天王寺の文具店の長男に生まれたが、事情があって16歳で、ミナミで舶来品の雑貨販売業を営む荒木家の養子となる。若干24歳で単身渡米し、エジソンが開発したヴァイタスコープという「映写機」を、ニューヨークで持ち前の英語力を活かして本人に直談判して購入。日本で初めてスクリーン上で動く画像を映し出した男である。

武部氏はこの小説「フェイドアウト」で、荒木を主人公として、その行動力と情熱に満ち溢れた人生を、様々な取材によって、濃密に肉付けしながら描いた。


物語は、荒木がエジソンと出会う場面(序章)から始まる。そして、一転、荒木の生い立ちを時系列でたどる。読者は読み進むうちに再び、エジソンとの直談判に場に引き戻される。そして、念願叶ってのヴァイタスコープの輸入、東京や名古屋にまで興行に走り回る日々、ライバルとも言える稲畑勝太郎(稲畑商店店主)のシネマトグラフ興行との攻防を同時並行で描きつつ、飽きることなく読ませる。


本業(舶来品輸入販売など)そっちのけで、あまりに働き過ぎて健康を害した荒木。魑魅魍魎がうごめく興行界に嫌気もさして決別した後、本業に戻りつつ、語学の才能を見込まれて、政府や経済界の「通訳」などとしても活躍するが、より詳しい話は本をお読み頂きたい。


興行界からの決別シーンの後は、一転、59年後の1956年<昭和31年>に場面が転換する。84歳になった荒木は、堺の自宅書斎で、新聞記者からインタビューを受け、映写機初輸入など自らの映画との関りをあれこれと振り返った。


事実に基づいた創作ではあるが、作者は(あとがきで)どこまでが事実で、どの部分が(イマジネーションをふくらませた)創作なのかを詳しく明かしている。元・新聞記者らしい「誠意」が感じられてよい。荒木和一の「影」の部分も含めて、ほぼ全人間像を描ききった「評伝」としても立派に成立していると言っていい。


練達のジャーナリストであるから、文章が巧みなのは至極当然とも言えるが、物語の展開が見事である。場面(シーン)の転換は、まるで一つの映画を観ているような錯覚にも陥る。文章も奇をてらった、純文学的な小難しい表現は皆無で、実に読みやすい。300ページ近い長編なのだが、あっと言う間に読み切った。


武部氏は、初の小説ですでに、ジャーナリスティックな技量だけではない、シナリオライターとしての才能までも開花させた。ただただ凄いというしかないが、これは長年、彼が(映画ライターとして)膨大な映画を観続けてきた蓄積=努力の賜物でもあろう(欲を言えば、巻末に荒木と稲畑の写真、それに年表/年譜があれば、より物語への理解がすすんだであろう)。

 

【追記】読み終えて思ったのは、大阪や京都が主な舞台となるこの小説、これは(NHK大阪局制作の)朝の連続ドラマにぴったりの脚本にもなるということ。この私の文章をお読みのNHK関係の方々、ぜひ社内でご提案を。
 


【荒川英二氏プロフィール】

 1954年生まれ、元朝日新聞記者。在職中から全国のバーを巡りながら、2004年以来、バー文化について自身のブログで発信し、クラシック・カクテルの研究もライフワークとしてきた。14年5月、大阪・北新地にオーセンティック・バーBar UKをオープン。お酒(モルトウイスキーやオールドボトルなど)、洋楽(ジャズやロック)、ピアノ演奏が大好きなマスターとして知られている。切り絵作家の故・成田一徹氏没後に出版されたバー切り絵作品集『NARITA ITTETSU to the BAR』では編者をつとめた。

★Bar UK:大阪市北区曽根崎新地1-5-20 大川ビルB1F  06-6342-0035)

★Bar UK Official HP & Blog(https://plaza.rakuten.co.jp/pianobarez/)


 

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  今回で13回目となる京都ヒストリカ国際映画祭(以降、ヒストリカ)が、2022年1月22日(土)から1月30日(日)まで、京都文化博物館3階フィルムシアターにて開催される。今年もヒストリカスペシャル、ヒストリカワールドをはじめ、昨年以上の多部門でオンライン上映を行うハイブリッド開催となる。
 
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  世界でも類を見ない歴史にフォーカスした映画祭として実績を重ねてきたヒストリカ。「歴史映画を通じて、未来へと繋がる」というビジョンのもと、京都ヒストリカ国際映画祭、京都映画企画市、京都フィルムメーカーズラボ、太秦上洛まつり、HISTORICA XRの事業を総称した【KYOTO HISTORICA】プロジェクトの新しいロゴも完成。時代劇とゆかりの深い馬が過去を振り返る姿をあしらい、さらなる飛躍を目指している。
 
 
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  ヒストリカ一番の目玉となる<ヒストリカスペシャル>では、2012年、2014年と2度にわたり、ヒストリカで上映してきた『るろうに剣心』シリーズを、2020年の最終章まで全5本、2日間にかけて一挙上映する。この日本初となる企画では、トークゲストとして大友啓史監督他、制作側の豪華ゲストを迎える予定だ。
 
 
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  国内の名作に新たな光を当てる<ヒストリカ·フォーカス>では、東映創立70周年にちなみ、長年に渡り撮影所で活躍したスクリプター田中美佐江さんと映画女優に注目した10作品をフィルム上映する。沢島忠監督、深作欣二監督という名匠らと、編集部の“天皇”と呼ばれていた宮本信太郎さんとつなぐ重要な役割を果たしていたという田中。『鬼龍院花子の生涯』『蒲田行進曲』などの80年代大ヒット作をはじめ、美空ひばり主演、マキノ雅弘の『おしどり駕篭』他がラインナップ。オンライン上映は、34作品の時代劇が大特集される。
 
 
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  世界各国からの最新歴史映画の秀作を上映する<ヒストリカ・ワールド>では、北マケドニア共和国より、ミルチョ・マンチェフスキ監督の3部作より、94年。ヴェネツィア金獅子賞受賞作の『ビフォア・ザ・レイン』を思い起こさせる、女性の普遍的な問題を痛切に描いた『柳』がヒストリカのオープニングを飾る。ミルチョ・マンチェフスキ監督もオンラインでゲスト登壇予定だ。バスク発のヴァンパイアホラー『すべての月の夜』、ロシア発のバカ息子更生コメディ『放蕩息子』、第一次世界大戦下で知的障がいのある息子の徴兵に母が立ち上がるデンマーク映画『戦場のエルナ』、徴兵フランス革命の時代にもう一つの食の革命を起こしたシェフを描く『Delicieux(原題)』がラインナップ。さらに京都府とケベック州の友好提携協定5周年を記念して、ケベック州にて2019年より開催されている、歴史映画に特化した「モントリオール国際歴史映画祭」とも連携し、フランソワ・ジラル監督の『オシュラガ 魂の地』を日本初上映する。※『Delicieux(原題)』以外はオンライン配信対象。
 
 
  

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  今年から復元した旧作を上映する<ボローニャ復元映画祭提携企画>が始まり、その第1作として、2007 年にボローニャで修復され 、ダンテ没後700年の今年、ボローニャ復元映画祭で再び紹介された1911年のイタリアで作られたサイレント映画『インフェルノ』を、鳥飼りょうさんのピアノ伴奏付きで上映する。もう1本、<ヴェネチア・ビエンナーレ-ビエンナーレ・カレッジ・シネマ連携企画>では、今年制作されたイタリア映画『小さな聖女』を上映。ナポリの貧しい若者たちの、永遠に変わらないと思われた日常と友情にひずみが生じていく過程を、エロティシズムと神聖さを混濁させつつ、瑞々しく描いたLGBTQ作品にも注目したい。
 
 そしてこちらも恒例の<京都フィルムメーカーズラボ連携企画~カムバックサーモン・プロジェクト~>では、2010年同ラボに参加したさかはらあつし監督のドキュメンタリー映画、『AGANAI 地下鉄サリン事件と私』を上映する。また、京都映画企画市(企画コンテスト)の優秀企画受賞者、金子雅和監督の『水虎』(パイロット版)も無料上映する。
 
 今年初の試みとして、時代劇への愛を語るフリンジ企画「夜のヒストリカ」オンライントークを、連日You Tube Liveにて配信。企画ディレクターの西尾孔志監督と映画研究者で『教養としての映画』著者の伊藤弘了氏が司会を務め、多彩なゲストと共に、映画祭を盛り上げる。
 
第13回京都ヒストリカ国際映画祭 公式サイトはコチラ 
 

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井之脇海、大ファンのピアニスト角野隼斗から

一足先に誕生日のお祝いに生演奏のプレゼントを!

「主演映画を多くの方に観てもらえて、

さらに生演奏まで26歳最高のスタートになりそうです」


■日程:11月22日 (月)

■場所:TOHOシネマズ日比谷 スクリーン5

登壇者(敬称略):井之脇海、松本穂香、ゲストプレゼンター 角野隼斗

■MC:伊藤さとり


 

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musico-550.jpg文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を2度にわたり受賞している漫画家・さそうあきらによる音楽シリーズ三部作の最終作『ミュジコフィリア』(第16回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作)が全国公開中!主人公・漆原朔を、本作で長編映画初主演となる井之脇海!朔の異母兄・貴志野大成には、山崎育三郎、朔に想いを寄せるヒロイン・浪花凪を、松本穂香が演じる。そして脇を固める阿部進之介川添野愛、さらに石丸幹二神野三鈴濱田マリといったベテラン勢が作品にさらなる厚みをもたらす。脚本・プロデューサーは『太秦ライムライト』の大野裕之が担当し、監督を務めたのは、『時をかける少女』『人質の朗読会』などを手掛け、自身も京都生まれである谷口正晃


この度、本作の公開を記念し、公開記念舞台挨拶を実施し、主演の井之脇海、共演の松本穂香が登壇し、さらにゲストプレゼンターとして大人気ピアニスト角野隼斗が駆けつけました。


musico-bu-240-1.JPG主演作が公開となった今の心境について井之脇は「今までは、番手は関係ない。主演でもセリフのない役でも、取り組み方は変わらないと思っていました。映画が公開されて、たくさんの方から“映画観たよ”“よかったよ”と声をかけていただくことが増え、知り合いからのメールもたくさん来ていて、“主演してよかった”と思うようになりました。映画に携わる身として、自分が主演する作品が公開される喜びを噛み締めています」と明かし、深々とお辞儀をした。


セリフは京ことば。関西出身の松本から井之脇へのアドバイスはあったのかという質問に松本は「アドバイスは……特にありません。私は関西出身というだけでアドバイスするなんておこがましいと思ったので。井之脇さんが何度もセリフを練習して“どうかな?”“大丈夫かな?”と確認してくるので、“大丈夫だと思います”と返事をするくらいでした。私(のアドバイス)は全然必要なかったと思います(笑)」と撮影を振り返る。これに対し井之脇は、「たくさん練習しましたが、不安はありました。お芝居で気持ちが優先し発音やアクセントにズレが出てしまうといけないので“合ってる?”とその都度、確認してもらいました。“大丈夫ですよ”と優しく答えてくれるので、本当に助かっていました」と感謝を伝えた。同じく関西出身の共演者・阿部進之介については「役柄同様、撮影以外でも僕を振り回してくれました(笑)。“その関西弁違うやろ!”って。松本さんからは飴と鞭の飴をたくさんいただき、阿部さんからは鞭でビシバシ叩かれていました」と笑顔を浮かべていた。


musico-bu-240-2.JPGNHK連続テレビ小説「ひよっこ」以来、2度目の共演となる2人。井之脇は「『ひよっこ』では、松本さんが所属するコーラス部の指導者役でした。部員が20人くらいいるコーラス部の中でも、松本さんの強いパワーを感じていたので、いつかガッツリ一緒にお芝居をしたいと感じていました。今回、松本さんが演じる凪をみたときに“あのとき感じたパワーは間違いじゃなかった”と実感しました。凪として投げてくれたパワーに呼応してお芝居ができました。ありがとうございました」と再共演のよろこびを語った。


一方の松本は「井之脇さんが演じていた雄大先生(が指導するとき)のモノマネをみんなでやっていました。実際にお話しする機会がほとんどなくて、思い出と言えばモノマネをしたなぁという薄い思い出しかありません(笑)」とおどけつつ、「今回、映画を撮影し、舞台挨拶では4回ご一緒したのですが、思っていた以上に真っ直ぐで芯のある素敵な方。そういう一面を知ることができて、またご一緒できたらいいなと思っています」と微笑み、2人で顔を見合わせて照れる場面もあった。


musico-500-2.jpg山崎育三郎との共演について井之脇は「異母兄役の大成にピッタリで、現場ではどの瞬間を切り取っても大成としていてくれたのでありがたかったです。撮影中だけでなく撮影以外でも、いつも優しいお兄ちゃんとして僕のことを見守ってくれました」と支えになっていたことを明かす。松本は「私は現場でみなさんとすぐに仲良くなれるタイプではないんです。山崎さんは人見知り全開の私に積極的に、そして優しく話しかけてくれました。“みんな、ソフトクリーム買ってあげるよ!”とか、声をかけてくれて……、おいしくいただきました(笑)。優しくて面倒見のいいお兄ちゃんという印象です」と山崎の現場での振る舞いに触れた。


イベントにはそんな山崎からのビデオメッセージが上映された。公開を祝うとともに、11月24日生まれの井之脇へ、“ハッピーバースデー”をアカペラで披露し、その美声に会場では大きな拍手が鳴り響いた。山崎のメッセージを受け井之脇は「共演の思い出とか、お互いの印象を語るものと思っていたので、答えをいろいろ準備していたのですが、まさかの“ハッピーバースデー”に感動しています」とコメント。山崎の美声に感動しすぎて「感想がまとまらない!」とアタフタしながらも「とにかくうれしいです」と満面の笑みを浮かべた。

 

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さらに、ゲストプレゼンターとしてピアニストの角野隼斗が登場し、井之脇と松本に花束をプレゼント。第18回ショパン国際ピアノコンクールのセミファイナリストでもあり、 “Cateen(かてぃん)”名義でYouTubeでも活動する角野の大ファンだという井之脇は「動画で観ている人だ!」と大興奮。「角野さんはこんな音、絶対鳴らせないという音を鳴らすんです。音のひとつひとつに魂が感じられて、本当に大好きです」と喜びを爆発させた。トイピアノで「トルコ行進曲」を弾く動画で角野の虜になったという井之脇。「コロナ禍の支えでした」と伝えた。


12日(金)より先行上映されている京都で映画を観たという角野の「音楽とは何かを考えさせられました。葛藤がありながらも本当に音楽を楽しんでいる純真な姿に“これこそ音楽”と改めて感じました。音楽についていろいろなことを考えさせられた作品です。素晴らしかったです」という感想に井之脇は「音楽を経験している方に“音楽とはなにか”“音楽をやる意味”のようなものが届くといいなと思っていたので、映画をそのように受け取ってくださり、とても光栄です」と感無量の様子だった。


イベントでは角野が「角野隼斗 Happy Birthday To Everyone 12の調によるバースデイ変奏曲」を生演奏。圧巻の演奏に、井之脇、松本は大興奮。会場は割れんばかりの拍手に包まれた。松本は「体にじんわりと(感動が)来ています。テーマパークに来たみたいな(ワクワク気分の)感じがします」と感想をコメント。井之脇は「僕も映画の中で(天性の音楽の才を垣間見せる役として)ピアノを弾いていますが、それとは比べものにならない奥行きを感じて……。大ホールで聴いているようなスケール感に圧倒されています。主演映画の公開をたくさんの方に観ていただき、今日この舞台挨拶で育三郎さんのアカペラ、角野さんの生演奏とたくさんの素敵なものを受け取り、26歳最高のスタートになりそうです」と喜びを伝えた。


musico-pos.jpg最後の挨拶で角野は井之脇に「改めまして、映画公開そしてお誕生日おめでとうございます。お祝いできて嬉しかったです。いつかセッションしましょう」とニッコリ。松本は「この映画を通して “音楽って底知れない、こんなにパワーがあるものなんだ”と感じています。楽しく観ていただけたらいいなと思います」と笑顔で語った。井之脇は「この映画での舞台挨拶は今日で5回目ですが、行く会場、行く会場で温かいお言葉をいただいきました。初主演映画をたくさんの方に観ていただいただけでも嬉しいですが、今日は誕生日までお祝いしていただき、本当にありがとうございます。この映画は、音楽が大好きな人たちがぶつかり合いながらも成長していく物語です。理屈じゃないパワーがあります。コロナ禍でこの2年ほど、なかなか思うように本音がぶつけられない時期が続いています。しかし、そういう時期を経験した私たちだからこそ、(心に)届くものがあると思っています」と作品の魅力を改めて語り、イベントを締めくくった。


監督:谷口正晃
出演:井之脇海 松本穂香 山崎育三郎 川添野愛 阿部進之介 石丸幹二 濱田マリ 神野美鈴
配給:アーク・フィルムズ
2021/日本/113分
©2021musicophilia film partners
©さそうあきら/双葉社

 TOHOシネマズ日比谷 他 全国絶賛公開中!


(オフィシャル・レポートより)

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  第34回東京国際映画祭のクロージングセレモニーが11月8日に開催され、2年ぶりのコンペティション部門他各賞の発表が行われた。東京グランプリ/東京都知事賞は、コソボ出身、カルトリナ・クラスニチ監督の初長編作『ヴェラは海の夢を見る』(コソボ/北マケドニア/アルバニア)が見事輝いた。
審査委員長のイザベル・ユペールは、
「この映画は、夫を亡くした女性を繊細に描くとともに、男性が作った根深い家父長制の構造に迫る映画でもあり、監督は国の歴史の重みを抱えるヴェラの物語を巧みに舵取りしています。歴史の重みは静かに、しかし狡猾にも社会を変えようとする者に暴力の脅威を与えるのです。確かな演出と力強い演技、撮影が、自信に満ちた深い形で個々の集合的な衝突を映画の中で生み出しています。コソボの勇気ある新世代の女性監督たちの一作が、新たにコソボの映画界に加わったと言えます」と講評。
 
 
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 また、池松壮亮、伊藤沙莉主演の松居大悟監督『ちょっと思い出しただけ』が、スペシャルメンションと観客賞のW受賞を果たした。松居監督はセレモニー後の記者会見で、「言語化できない感情や想いを伝えたくて映画をつくっているので、今回、なかったはずの“スペシャルメンション”という特別な賞を作っていただけで、とても嬉しかったです」。さらに観客賞については「お客さんに観てもらって映画は完成すると思っているので、観てもらって選んでもらったので、この賞を貰って一番うれしいです」と喜びを語った。
 
全受賞結果と、審査委員長スピーチは次の通り。
<コンペティション部門>
●東京グランプリ/東京都知事賞『ヴェラは海の夢を見る』(カルトリナ・クラスニチ監督)(コソボ/北マケドニア/アルバニア)
●審査委員特別賞『市民』(テオドラ・アナ・ミハイ監督)(ベルギー/ルーマニア/メキシコ)
●最優秀監督賞ダルジャン・オミルバエフ監督『ある詩人』(カザフスタン)
●最優秀女優賞フリア・チャベス『もうひとりのトム』(メキシコ/アメリカ)
●最優秀男優賞アミル・アガエイ、ファティヒ・アル、バルシュ・ユルドゥズ、オヌル・ブルドゥ『四つの壁』(トルコ)
●最優秀芸術貢献賞『クレーン・ランタン』(ヒラル・バイダロフ監督)(アゼルバイジャン)
●観客賞『ちょっと思い出しただけ』(松居大悟監督)(日本)
●スペシャルメンション『ちょっと思い出しただけ』(松居大悟監督)(日本)
 
<アジアの未来部門>
●作品賞『世界、北半球』(ホセイン・テヘラニ監督)(イラン)
●Amazon Prime Videoテイクワン賞『日曜日、凪』(金允洙⦅キム・ユンス⦆監督)
●Amazon Prime Videoテイクワン賞審査委員特別賞『橋の下で』(瑚海みどり監督)
 
審査委員長イザベル・ユペールさんスピーチ
「私たちが拝見した15作品で感じたのは、映画の多様性の豊かさです。コンペディション作品の一部には言語の多様性、言語の違いがテーマになっている作品もありました。世界には多くの言語が消滅の危機にあると嘆くシーンが描かれていた反面、『ちょっと思い出しただけ』では世界の人が皆おなじ言葉を話したらいいのではないかとも話しています。詩もコンペティション部門では多くテーマとなっていました。
その他、非言語的な映画芸術も含め、あるいは音楽、演劇、舞踊、映画そのものという表現も取り上げています。私たち審査委員はコンペティション部門の審査で、現代文化における映画の位置づけについて考えることを求められました。もうすでに地位を確立しているアーティストと新しいアーティストの声、世界の多様なコミュニティを扱っている作品に対面することになりました。社会の現状を観る事ができました。こうした作品の社会のイメージの現代的なものに感動しました。以前は文化を民族的なフォークロアなものとして観る事が多かったのですが、今年の東京ではそうしたことはありませんでした。
また、コンペティション部門では多くの女性が描かれていました。ここで3作品だけ挙げると、『ヴェラは海の夢を見る』と『市民』、『もうひとりのトム』。これらの作品の登場人物は途方もない苦境、犯罪、暴力、虐待に直面しています。どの映画でもこうした社会の問題と人々を抑圧し続ける過去のレガシーを描いています。それでありながら、3作の主人公ともに、被害者としては描かれず、一人ひとりが敵を見極め対峙していくことができるようになっていく。最後に戦いの勝ち負けに左右されず、これらの作品は未来へ向かっていきます。こうした15作品と、世界を様々に探求していくのは楽しいことで、こうして審査委員として携われたことを大変光栄に思います」
 

 
<第34回東京国際映画祭 開催概要> 
■開催期間: 2021年10月30 日(土)~11月8日(月) 
■会場:日比谷・有楽町・銀座地区
■公式サイト:www.tiff-jp.net
©2021TIFF
 
 
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 東日本大震災後、亡くなった人に宛てて書いた手紙を受け取る漂流ポスト3.11が陸前高田市に置かれ、今では被災者に宛てた手紙のみならず、全国から今はなき大事な人に宛てた手紙が届いているという。2020年3月31日に急逝した佐々部清監督の作品に携わってきた野村展代監督が、佐々部作品常連の俳優、升毅と漂流ポスト3.11や被災地の人々、また佐々部監督ゆかりの人をめぐり、亡き人への思いを抱えて生きる人たちを映し出すドキュメンタリー『歩きはじめる言葉たち 漂流ポスト3・11をたずねて』が、10月22日(金)よりシネ・リーブル梅田で公開、23日(土)より元町映画館で絶賛公開中、29日(金)より京都シネマ他全国順次公開される。
本作の主演、升毅さんに、お話を伺った。
 

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■僕はただ聞くしかできなかった。

―――升さんが主演のドキュメンタリーということで、佐々部監督のお名前がタイトルについている訳ではありませんが、佐々部監督に向けた気持ちが現れるような作品になっているのかもと思いながら映画を見始めると、多くの関係者やご家族の佐々部監督への気持ちが詰まった作品になっていたので、思わず見入ってしまいました。本作で、升さんはご自身が大事な人を亡くされた当事者でありかつ、ゆかりの人の話を聞くインタビュアーであり、佐々部監督へみなさんが書いた手紙を朗読もしておられますね。それぞれ、どんな気持ちで臨まれましたか?
升:このドキュメンタリーのお話をいただいた時は佐々部監督が3月31日に亡くなってから1ヶ月ほどしか経っていない時期でしたから、僕自身そこへ行って何もできなさそうだし、役に立てないのではないかという気持ちと、本当にやるのであれば僕にやらせてほしいという気持ちの両方が拮抗していました。実際はいろいろな方のお話を聞くということで、この映画をご覧になるみなさんの代表という立場で臨めばいいのではないかと思うと、少し気持ちが楽になり、やらせていただこうと思いました。結局、東日本大震災後、復興に携わった方々、漂流ポスト3.11を守っている赤川勇治さん、佐々部監督にまつわるみなさん、それぞれのお話を僕はただ聞くしかできなかった。意図して何かを質問するのではなく、お話を伺ってる時の僕の気持ちが素直に出て、純粋に共感したり、頷いたり。だから僕がどういう役割を果たしたのかは、ご覧になった観客のみなさんに感じていただきたいと思っています。
 
―――佐々部監督が亡くなって1ヶ月しか経っていない時期に本作の話が動き出したんですね。
升:もともと、佐々部監督が準備していた劇映画で、僕は赤川さんが担っている役を演じる予定でした。その映画が頓挫してしまい、東日本大震災にまつわる劇映画を佐々部監督が撮る予定で話が進んでいた矢先の訃報でした。手紙を受け取る側や出す人の思いを客観的に受け止めようとしていたのが、自分たちが亡き大切な人へ手紙を出す側になってしまった。だから大きな方向転換が行われ、僕にも再度オファーが来たのです。
 
―――1回目の緊急事態宣言発令直前の時期だったので、監督の葬儀に参加することも難しかったのでは?
升:佐々部監督の地元、下関で、限られた親戚の方々だけが集まって葬儀をされたそうです。僕も下関までは行ったのですが、コロナ禍なので参加は叶わず、お別れができていないんです。
 
 
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■佐々部監督との出会いで「これから先役者をやっていくきっかけを掴めるのではないか」

―――映画の中で、佐々部監督と初タッグを組んだ『群青色の、とおり道』で、演技指導に衝撃を受けたエピソードを語られていましたね。おいくつの時ですか?
升:僕が58歳、佐々部監督が56歳の時ですね。佐々部監督の演出は、僕の中ではそれまでも40年近くお芝居をやってきたことが全否定されたぐらいのショックではありました。でも、自分がこれから先役者をやっていくきっかけを掴めるのではないか。今までのやり方ではダメなんだということを感じたので、それならば監督の言う通りにやってみようと思えた。それは佐々部監督の人柄であったり、僕自身がそういうことを求めていたのかもしれませんね。
 
―――『群青色の、とおり道』の次は、本作でも撮影シーンが登場する、佐々部監督自身が資金集めに奔走し、地元山口で時間をかけて作り上げた入魂作、『八重子のハミング』で主演を務めました。取材時にも映画化までの長い道のりをたくさんお話いただきましたが、主演としてやはりプレッシャーもあったのでは?
升:企画が実現するまでのお話を全て聞かせていただき、僕もすごく悔しい思いをしましたし、佐々部監督を男にしたいとか、成功させなきゃという気持ちになりました。監督にも「片棒を担がせてもらいます」と宣言しましたから。一方で、主人公を演じる上でのプレッシャーもひしと感じていました。
 
―――認知症の妻、八重子に先立たれた誠吾が、妻亡き後も心にいる妻と共に生きるように、今の升さんと佐々部監督にも当てはまる気がしました。
升:自分の中に佐々部監督はいますし、これから僕が俳優として生きていく中で、監督の思いを形にしたい、伝えていきたいという気持ちは常にありますね。この作品が出来上がり、監督がこれを観てどう思うかわからないけれど、監督の思いや監督への思いが込められているだろうし、その意味で共に作った作品ではないかと思っています。
 
 
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■漂流ポスト3.11と亡き人への思いを込めた手紙

―――共に作ったといえば、佐々部監督が構想していた企画を通じて、漂流ポストのことも既にご存知だったんですね。
升:その時は、大切な人を亡くしてしまった人の手紙を受け取る人間って、想像もつかないようなすごい人なのだろうなと思い、佐々部組のメンバーとしてしっかりと演じようという気持ちでした。結局演じることは叶わなかったけれど、漂流ポストを続けている赤川さんにお会いすることができた。僕が想像した以上にナチュラルな普通のおじさんだったので、だからこそできるんだなと思いました。強い責任感と決意のもとにはじめたのでは、続けられないでしょうね。
 
―――今回は升さんご自身が、佐々部監督への思いを書いたみなさんの手紙を漂流ポストに届けていますが、そのときはどんなお気持ちでしたか?
升:そうですね。正直に言えば、なぜ僕がこんなことをしなくちゃいけないんだと抗う気持ちが今でもあります。一方でみんなの思いをきちんと届けようという気持ちがあり、常に複雑でした。実際に、本作の野村監督からみんなの手紙を、声を出して読んでと指示されたときは、絶対に泣いちゃうから無理だと思いました。「気持ちを入れずに淡々と読んでほしい」と言われて、なんとかできたのですが。
 
―――升さんの手紙も、最後が「会いたい」ではなく、「じゃあまた」という感じでしたね。
升:スケジュールが合えば会えるなという、今までと同じような気持ちでまだいたかった。後から思うと、ちょっと子どもじみていて恥ずかしい気持ちにもなりますが。
 
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■『群青色の、とおり道』同期3人組だからできた撮影と、「亡くなった人と共に生きている人はたくさんいる」

―――突然の訃報だけでなく、コロナ禍で仕事がキャンセルになったりとエンターテイメント業界が大変な時期でしたが、逆に撮影をすることが気持ちを停滞させない原動力になったのでは?
升:僕が関わる仕事の撮影も止まり、本当に大変な世の中になりましたが、俳優として、もしくはひとりの人間としてやるべきことがあったことは、とても良かったと思います。大人数での撮影となると、今は無理とストップが入っていたでしょうが、今回は撮影監督の早坂伸さんと野村展代監督の3人というコンパクトな編成でしたし、3人とも『群青色の、とおり道』で初めて佐々部組に参加した同期だったこともあり、このメンバーだからできるんだろうなと思いながら動いていました。
 
―――佐々部組同期の3人で監督ゆかりの場所や人を訪ねる旅をする中で、当初はきっと心の整理がつかないままだったと思いますが、何か心境の変化はありましたか?
升:3人それぞれが同じような立場で悲しみを抱えたまま動いていたはずなのですが、僕が勝手に自分だけ悲しいと思うところに行ってしまっていた。陸前高田のみなさんや赤川さん、川上住職のお話や、漂流ポストの手紙を読ませていただく中で、もっともっと悲しい別れをし、亡くなった人たちと共に生きる人たちがたくさんいることも知りました。佐々部監督にまつわる人たちとの話を聞いても、僕なんかよりもっと悲しんでいる人たちがたくさんいる。反省ではないけれど、自分ひとりで何やっているんだという境地になりました。
 
―――ありがとうございました。悲しみを抱えて生きるというのは、年をとると自然とそうならざるをえない部分でもあり、それを受け入れていこうと思える作品でした。最後に、これからご覧になるみなさんにメッセージをお願いします。
升:年を重ねていくと悲しいお別れが増えてきて、自分の中でどう消化すればいいかわからない。僕もそうだし、おそらくみなさんもそうだと思います。僕というフィルターを通して、もしくはいろんな方のお話を聞いて、みなさんの気持ちにどのような変化が起きるのか。それぞれの立場の中で感じていただければいいなと思います。悲しいお別れが気持ちの上でまだできていない人たちに何かが届けばと願います。気負わず、空き時間に観ていただければいいような映画です。「ぜひ観てください!これをヒットさせたい!」という映画ではありませんから。佐々部監督は「ヒットした方がいいんだよ」と言うかもしれませんが(笑)。
(江口由美)
 

<作品情報>
『歩きはじめる言葉たち 漂流ポスト3・11をたずねて』(2021年 日本 90分)
監督:野村展代 
出演:升毅、伊嵜充則、三浦貴大、比嘉愛未、中村優一、佐々部清他
シネ・リーブル梅田、元町映画館で公開中、29日(金)〜京都シネマ他全国順次公開
公式サイト⇒https://hyoryu-post.com/ 
(C) 2021 Team漂流ポスト
 
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  武田信玄生誕500年の記念イヤーとなる2021年に、信玄の父、武田信虎の最晩年を描く本格時代劇が誕生した。甲斐国を統一したものの、信玄に追放された信虎が80歳にして武田家存続のために知略を巡らせる姿を描いた本格時代劇『信虎』が、11月12日(金)よりTOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば、TOHOシネマズ西宮OS、TOHOシネマズ二条にて公開他全国ロードショーされる。
 
 監督は『DEATH NOTE デスノート』シリーズの金子修介。相米慎二監督作品をはじめ、多彩な俳優活動で出演作は数知れず、今回36年ぶりの主演作となる名優・寺田農が、信玄との葛藤を内に秘めながら、最後の力を振り絞って武田家存続のために打って出る信虎のどこか滑稽にも見える部分を見事に体現。榎木孝明、永島敏行、渡辺裕之、隆大介と戦国時代劇には欠かせないベテラン陣を揃えた他、信虎の若き娘、お直を演じる谷村美月も隠れたキーパーソンになっている。
 『影武者』など後期の黒澤明作品や今村昌平作品に携わった巨匠・池辺晋一郎による音楽が映画に風格を与え、ロケ地をはじめ美術、衣装と細部にいたるまで本物にこだわった、戦国時代モノに新たな視座を与える作品だ。信虎を演じた寺田農さんにお話を伺った。
 

 
――――2018年に大阪のシネ・ヌーヴォで開催されたATG大全集で寺田さんが初主演された『肉弾』(岡本喜八監督)を初めて拝見したときの衝撃が大きかったのですが、本作の信虎役も圧巻でした。
寺田:映画史に残る名監督の五所平之助さんや中村登さんの作品に出演したり、テレビで「青春とはなんだ」などの青春モノに出た後、岡本喜八さんの『肉弾』で主演を務めました。26歳の時でしたから、若く元気。芝居のことは何もわからなかったけれど、監督の言われるまま、野球のピッチャーに例えれば150キロの直球を投げることができたし、それしか投げられなかった。歳を重ねるごとに変化球が増えてきて、『信虎』は直球を投げる気力がもうないから、七色の変化球を駆使するんです。たまに直球を投げたつもりでも120キロぐらいで、途中で落ちるんじゃないかというぐらい。だから、役者っていうのはうまくならないんだなと本当に思いますね。『信虎』は77歳の時に撮影しましたが、50年以上役者をやる中で、ただ老けていくのか、そこに魅力が生まれるのかというだけの話です。
歳相応の風格が備わり、いい役者にはなるけれど、演技そのものは変わらない。今回、それがよくわかりました。
 
 
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■隆慶一郎の論考で、信虎へのイメージが覆される。

――――武田信玄の父、信虎に対してどんなイメージを持っておられたのですか?
寺田:僕は昔から本を読むのが好きで、司馬遼太郎さんや池波正太郎さん、天才だった隆慶一郎さんの戦国物を山のように読んできましたから、戦国時代のイメージはありましたし、東映映画『真田幸村の謀略』にも出演したのでその輪郭も大体わかっていました。ただ信虎については、息子の信玄に追放されたことしか知らなかったので、80歳のじいさんになった信虎がどうしたのかを描くところに興味を持ちました。
そこからはさらに本を読み、信虎の理解を深めたのですが、中でも面白かったのが隆慶一郎さんの武田信玄の父信虎追放をめぐる論考でした。信玄は親父の追放を、生涯の十字架のように背負っていたのではないか、そして追放したのは信玄ではなく、重臣たちだったというのが信虎追放劇の真相とする説です。隆さんは、関ヶ原の戦い以降の徳川家康は影武者だった(「影武者徳川家康」)と書くぐらいひねりの効いた作風なのですが、親父を追放した割には、信虎にお金や側室も送り、京都に行った信虎は最新の情報を信玄に送っていた。そういう話を読むと、今まで漠然と持っていたイメージがひっくり返されますよね。
 
 
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■戦略家であり知将だった信虎の妄執。

――――戦国時代の映画といえば、どうしても戦いの描写が中心となりますが、遠くから戦況を憂い、なんとか武田家を残そうとする信虎の物語は、また新たな視点ですね。
寺田:戦国時代はなんとか領土を拡大するため戦をするわけですが、専用軍人などいない時代ですから、戦のときだけ百姓を動員し、領土は拡大したものの、田畑は荒れてしまう。だから信虎も領土を広げて甲斐を統一したというのに、追放されたら民は手を叩いて喜んだというのです。ただそれは一面でしかない。日本人はキャッチフレーズで物事を捉えがちですが、そうじゃないのではないかと思うんです。今年、武田信玄生誕500年を迎えましたが、信玄が日本の武将の人気ベストテンでかなり上位に入るのは、親の七光りではないか。信虎はかなりの戦略家であり、今でいうプロデューサー的素質で、現状をしっかり見る目を持つ知将でもありました。ただ悲しいがな、80歳になっても信玄が危篤と聞けば「俺がやらねば」と老いの一徹で、周りも止められない。望郷の念と、もう一度返り咲きたいという妄執ですよね。そしてもはや織田信長の時代になるとわかったら、武田家をなんとか残そうと方向転換をしますが、それも妄執でしかないのです。
 
――――とにかく武田家をなんとかして残したいという思いで、信虎は命尽きるまで、あらゆる手を使って尽力します。
寺田:家を残すという言葉があるように、500年前の日本人は家名に誇りを持っていたし、逆に言えば恥を知っていた。近代とは違い、当時は日本人の原点とも言えるいいところをたくさん持っていました。そこが信虎の魅力ですね。粗忽で早とちりで愛嬌もある。一方で悲しいかな老いの眼で現実をわかっていない。周りの誰もがついてこないという苦悩もあるわけです。
 
――――50代で息子から甲斐を追放され、一人になったことで一国一城の主人とは違う、広い視点を獲得できたのではないかと想像しながら観ていました。
寺田:戦国時代は加藤清正や福島正則のような戦闘集団の武将系もいれば、石田三成のような官僚系もいる。信虎の場合は武将としても力があり、頭も良く、世の中の動きを見通せる両方兼ね備えた人物であり、だからこそ信玄と衝突したのかもしれません。
 
 
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■ゆかりの場所での撮影が作品の匂いに。「主役だからと力を入れる必要はない」

――――36年ぶりの主演作ですが、どのような意気込みで臨んだのですか?
寺田:僕は努力、忍耐、覚悟とか、こだわりという言葉が大嫌いです(笑)。すっと現場に行って、さっと終わるのが一番いい。「もう一度甲斐国に戻って、面白いことをやっちゃおうかな」というひょうきんさは似ているかもしれませんが、信虎が抱いていたような妄執なんて、僕には全然ないですから。
時代劇で大事なのは演じるための舞台背景です。特に今回は全てゆかりの場所で実際に撮影させていただいています。例えば渡辺裕之さんが演じた織田信長がお茶を飲みながら語るシーンは、本当にあの場所で、あの茶碗で飲んだわけです。美術の小道具から太刀や鎧など、全てが限りなく当時の本物に近い。そういう背景を作ってくれることが大事で、それが映像としての美しさになり、作品の匂いになる。役者の役割なんて大したことはない。特に主役は脚本に必要なことを書かれているわけですから。信虎の場合、坊主頭になり、黒い袈裟を着てセリフを喋れば、さまになる。そこで力を入れる必要はないんです。
 
 

■役になりきるのではなく、20〜30%は役者自身がその時持つ魅力を出す。

――――確かに、時代劇を演じる上でのロケーションや美術の細部に至るまで、本作はこだわり抜いていますね。その上で信虎というキャラクターを自由自在に表現されていました。
寺田:脚本に書かれたものを立体化して(観客に)お目にかけるのが役者の仕事ですが、そのキャラクター自身が生きていなければ面白くない。ただセリフを言うだけではダメなので、そこに何かがあればいいんです。よく「役になりきる」と言いますが、なりきったらその俳優はいらないわけで、僕は大嫌いなんですよ。役になりきるのではなく、70〜80%がその作品におけるキャラクターだとしたら、残りの20〜30%は役者自身がその時持っている魅力なんです。マーロン・ブランドやロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノもそういう部分が魅力的ですよね。若い俳優が可哀想だと思うのは訓練する場がないので、どうしても比率が逆転してしまう。80%その人のまま演じてしまうから、何をやっても同じに見えるわけです。
 
――――訓練というのは、監督の演出なども含まれるのでしょうか。
寺田:良し悪しはともかく、僕の場合は誰も何も言わないんです。ジジイの特権かもしれませんが(笑)金子さん自体が相米(慎二監督)とは違って、しつこく演出するタイプではありませんから。この作品を相米に撮らせて、僕が信虎をやったら、きっと考え込んじゃって(撮影が)終わらないだろうね。
 
 
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■骨格はシェイクスピアの悲劇。

――――信虎は信玄と直接対面することはありませんが、ずっと心の中で信玄と対話しているような気がしました。
寺田:映画の最初は「恨みもあるが、まあ褒めてやろう」と言うし、死ぬ間際では謝ろうと思ったりもする。歴史ものはどうしても、うまく描けば描くほどシェイクスピアの悲劇に重なるんです。最初脚本を読んだときは、「リア王」の狂ったジジイみたいな感じがすごくしたね。コスチュームプレイですし、骨格はまさにシェイクスピアです。
 
――――信虎と周りとの会話が中心となって進行するのも演劇的といえますね。
寺田:上手い脚本は周りがストーリーテラーとして動くことで主役像が見えてくる。今回オリジナル脚本を担当した宮下玄覇さんは歴史研究家なので、史実を重視しているのですが、登場人物がかなり多い割に信虎と彼らとの絡みが少ない。だから信虎がストーリーテラーにならないと進行しないんです。ラストも、主役が死んでから15分以内に終わらないと作品がダレるとアドバイスしたのですが、最終的には宮下さんの思いを貫かれましたね。
 

■映画音楽はイカリ。池辺晋一郎さんの音楽で作品がぐっと引き締まる。

――――歴史研究家ならではのこだわりといえば、音の面でもこだわりが感じられますね。
寺田:刀がぶつかる音や、鎧が擦れる音も本物にこだわっていますし、何よりも池辺晋一郎さんの音楽がいい。池辺さんが携わった『影武者』より、はるかに好きですし、135分の作品がぐっと引き締まるのはこの音楽があればこそだと思います。
出来上がった映画を船に例えると、船の乗組員が役者やスタッフで、船自体は脚本で、その船の方向を定める船長は監督です。音楽はイカリの役割で、最後にそれを下せば船が安定するように、音を入れて映画がぐっと引き締まる。映画を作るにあたって、まず脚本を作り、そこから撮影現場、編集と一つ一つの作業を通じてグレードアップしていき、最後に音楽という順番が一般的ですが、最後なものだから日本では一番割りを食う部分なのです。予算を使い果たしてお金はないし、携わる人数が限られる。その困難な状況にもめげず、これだけの曲をお書きになる。その音楽で作品の価値が決まるわけです。
 
――――信虎は煩悩を捨て、武田家を残すことのみに気持ちを向けていきますが、寺田さんがもし煩悩を捨て、一つだけにフォーカスするとすればどんなことに気持ちを向けますか?
寺田:生まれてから今まで煩悩の塊みたいな人生でしたし、無数の煩悩の中に生きているので、それを嫌だと思わないし、今から何かをしたいと思わない。ただ今までのように好きな絵を見て、好きな本を読み、好きな音楽を聴いて、みんな死んじゃっていなくなっちゃけど、昔の仲間とお酒を飲んでいるような、そんな感じがいいですね。あと、もう自分の感性では見つけられないので、ワクワクするようなことを誰か教えてほしいですね。だからよく若い人と話すし、知りないことを知りたいという好奇心はまだあります。
 
 
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■映画界の偉人のことを自ら学んでほしい。

――――最後に、若い世代に伝えたいことは?
寺田:昔、西島秀俊さんと仕事をしたときに、飲みに行って相米さんや実相寺さんの話を聞いていいですかと言われたことがありますが、そうやって聞いてきてくれる人には僕で良ければ、いくらでも話します。今の若い俳優を目指している人たちは、三船敏郎さんや市川雷蔵さんのことも知らない。音楽を志す人がベートーベンやブラームスを知らないことはないはずですが、なぜ役者の業界はそんな偉人のことを知らなくてもやっていけるのか。もっと自ら学んでほしいと思いますね。
(江口由美)
 

<作品情報>
『信虎』
(2021年 日本 135分)
監督:金子修介 
共同監督・脚本・製作総指揮・企画・プロデューサー・編集・時代考証:宮下玄覇
出演:寺田農、谷村美月、矢野聖人、荒井敦史、榎木孝明、永島敏行、渡辺裕之、隆大介、石垣佑磨、杉浦太陽、葛山信吾、嘉門タツオ、左伴彩佳、柏原収史 
11月12日(金)よりTOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば、TOHOシネマズ西宮OS、TOHOシネマズ二条にて公開他全国ロードショー
公式サイト → https://nobutora.ayapro.ne.jp/
(C)ミヤオビピクチャーズ
 

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森田芳光70祭(ななじゅっさい)

 

森田芳光監督生誕 70 周年記念(没後 10 年)として、様々なハードルを乗り越え、ほぼすべての作品を Blu-ray 化したボックスセット、記念本出版、ゆかりの劇場での特集上映、海外でのレトロスペクティブ上映など、夢のプロジェクト「森田芳光 70 祭」が始動しました!

自主製作『の・ようなもの』で 1981 年に商業映画デビューしてから 40 年、その後邦画メジャーでの大ヒットを連発し、また独自の表現でインディペンデント映画作家としてもその作風を残した森田芳光監督。惜しくも 2011 年 12 月 20 日に 61 歳でこの世を去ったものの、邦画のあらゆる製作体制にて、日本映画史に豊潤なフィルモグラフィーを遺しました。本プロジェクト「森田芳光70祭(もりたよしみつ ななじゅっさい)」新規情報ご案内いたします。


  【森田芳光プロフィール】

1950 年 1月25日東京都渋⾕生まれ。日本大学芸術学部放送学科に進学後、自主映画製作を開始、大きな話題を呼ぶ。1981 年に若い落語家を主⼈公とした『の・ようなもの』で⻑編映画監督デビュー。1983 年には松田優作主演の『家族ゲーム』でキネマ旬報ベスト・テン 1 位、第 7 回日本アカデミー賞優秀作品賞、優秀監督賞、優秀脚本賞など、同年の主要映画賞を総なめにし、⼀躍時の⼈となり、その後も数多くの名作や話題作を世に送り出す。映画界を閃光のごとく駆け抜け、2011 年に 61 歳で逝去。いまなお全世界に多大なる影響を与え続けている。


【森田芳光 70 祭/いろいろやります】

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★「生誕 70 周年記念 森田芳光監督全作品コンプリート(の・ようなもの) Blu-ray BOX」

(完全限定版)絶賛予約受付中(12/20 発売)


森田芳光監督の生誕 70 周年を記念して、デビュー作『の・ようなもの』から最終作『僕達急行A 列車で行こう』まで、貴重な特典を備えた、「生誕 70 周年記念 森田芳光監督全作品コンプリート(の・ようなもの)Blu-ray BOX」(完全限定版)を、12 月 20 日に発売。

日本映画界のトップランナーとして走り続けた、森田芳光の輝かしいフィルモグラフィー26 作品をワンボックスに収録する、空前絶後・歴史的な完全限定プレミアムボックス。

「生誕 70 周年記念 森田芳光監督全作品コンプリート(の・ようなもの)Blu-ray BOX」

【発売日】2021 年 6 月 10 日より先行予約受付中/12 月 20 日(月)発売

【価格】110,000 円(税込)

【収録内容】の・ようなもの/ボーイズ&ガールズ/(本)噂のストリッパー/ピンクカット 太く愛して深く愛して/家族ゲーム/ときめきに死す/メイン・テーマ/それから/悲しい色やねん/愛と平成の色男/キッチン/おいしい結婚/未来の想い出 -ラストクリスマス-/(ハル)/失楽園/39 -刑法第三十九条-/黒い家/模倣犯/阿修羅のごとく/海猫 umineko/間宮兄弟/サウスバウンド/椿三十郎/わたし出すわ/武士の家計簿/僕達急行 A 列車で行こう

※『そろばんずく』に関しましては、版権元および関係者許諾が得られず、収録がございません。


【特典情報】

●映像特典(計 180 分予定)■森田芳光の原点/モリタを巡る証言~「森田組」スタッフコメント集(予定)/森田芳光の撮影風景&森田芳光インタビュー(予定)※既発 DVD 等に収録された素材を再編集

●封入特典 ■ブックレット/森田芳光秘蔵資料集

★【初回限定予約特典】「BEAMS DESIGN」の森田芳光生誕 70 周年スペシャル”TARIMO”T シャツ
 



★『森田芳光全映画』2021 年 9 月 16 日、リトルモアより発売!


「⼀貫性のある自己変革」を繰り返した稀代の映画監督。その全キャリアを⼀望する。

【濃密徹底解説】宇多丸(ライムスター)×三沢和子による全作解説トークショウ掲載

 

唯⼀無二の「森田芳光研究」

70 年代から 00 年代の日本映画界を概観する超⼀級資料

【ユニーク考察】超豪華参加者による寄稿+インタビュー



★ゆかりの映画館で森田芳光の映画⼈生を辿る特集上映の旅

~2021 年上映スケジュール~(上映会済含む)

【東京】

9 月 12 日(日)& 19 日(日) 「第 43 回ぴあフィルムフェスティバル」

pff.jp 会場:国立映画アーカイブ(小ホール)

9 月 12 日(日)12:00『ときめきに死す』(104 分)

冨永昌敬(映画監督)トーク ※終了

9 月 12 日(日)16:00『それから』(130 分)

沖田修一(映画監督)トーク ※終了

9 月 19 日(日)12:30『39 -刑法第三十九条-』(133 分)

石川慶(映画監督)&向井康介(脚本家)トーク

9 月 19 日(日)17:00『メイン・テーマ』(101 分)

松居大悟(映画監督)トーク

 

10 月 2 日(土)~ 新文芸坐 03-3971-9422 shin-bungeiza.com

10 月 2 日(土)時間未定※各回入替 『家族ゲーム』|『ときめきに死す』|『黒い家』

『黒い家』終映後:ライムスター宇多丸&大森寿美男(脚本家)&三沢和子 トーク(予定)

※11 月下旬~ 時間未定 『間宮兄弟』

 

11 月 3 日(水・祝) 飯田橋ギンレイホール 03-3269-3852  ginreihall.com

『キッチン』(106 分)|『(ハル)』(118 分)|『僕達急行 A 列車で行こう』(117 分)/篠原哲雄(映画監督)&三沢和子 トーク(予定)

 

【大阪】

2021 年 10 月 22 日(金)~11 月 11 日(木) シネ・リーブル梅田 06-6440-5930 ttcg.jp

上映予定作品:「の・ようなもの」「家族ゲーム」「ときめきに死す」「キッチン」「(ハル)」

「間宮兄弟」「僕達急行 A 列車で行こう」

※新型コロナ感染状況による変更もあります。ご了承ください。

※各劇場・上映会場の詳細は、決定次第「森田芳光 70 祭」公式サイト、また劇場 HP 等にてご案内いたします。


(オフィシャル・リリースより)

 

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“音”と“感情”が溶け合い、心を震わせる珠玉の青春群像劇!

音楽コミックの伝説的傑作がついに映画化!!

 

井之脇海(『サイレント・トーキョー』『俺の家の話』

松本穂香(『この世界の片隅に』『みをつくし料理帖』 

 山崎育三郎( 『青天を衝け』『エール』


 

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原作は、文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を2度にわたり受賞している漫画家・さそうあきらによる同名作品。音楽への深い愛情と知識に溢れ多くのファンを魅了し、『神童』『マエストロ!』に続く、音楽シリーズ三部作の最終作『ミュジコフィリア』(第16回⽂化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作)が2021年11月12日(金)京都先行公開、翌週11月19日(金)に全国公開を迎えます。

主人公・漆原朔は、若手実力派として活躍をつづけ本作が長編映画初主演となる井之脇海!朔の異母兄・貴志野大成には、ミュージカルからドラマ、映画と幅広い活躍を見せる山崎育三郎。そして朔に想いを寄せるヒロイン・浪花凪を、透明感溢れる歌声で物語をエモーショナルに彩り、本作の主題歌も担当する松本穂香が演じる。脚本・プロデューサーは『太秦ライムライト』の大野裕之が担当し、監督を務めたのは、『時をかける少女』『人質の朗読会』などを手掛け、自身も京都生まれである谷口正晃。風景と音の街、京都で<ミュジコフィリア(音楽に情熱を注ぐ者たち)>が奏でる青春の協奏曲。皆さんの心へ、新しい「音楽」をお届け!


この度、本作の公開を前に、9月30日(木)に全編ロケが行われた京都でのプレミア舞台挨拶を実施いたしました!イベントには、主演の井之脇海ほか、松本穂香、山崎育三郎、谷口正晃監督が登壇し、ロケ地での思い出や本作への想いを語りました。
 


映画「ミュジコフィリア」京都プレミア舞台挨拶 概要

【日付】:9月30日(木)

【劇場】:TOHOシネマズ二条

【登壇者】:井之脇海/松本穂香/山崎育三郎/谷口正晃監督(敬称略)



冒頭の挨拶で、井之脇は「初めて一般のお客様に観ていただく機会なので、映画をどのように受け取っていただけるのか楽しみにしています」とニッコリ。松本は「思っていた以上のお客様が入っていてちょっと驚いていますが、とてもうれしいです」とお礼を述べた。山崎は「短い時間ですが、みなさんに楽しんでいただきたいです。よろしくお願いいたします」と会場を見渡してお辞儀をし、谷口監督は「感無量です。京都での撮影では、たくさんの方に支えていただき、ようやく完成した作品なので、感謝の気持ちでいっぱいです」と感謝を伝えた。


musico-main.jpgのサムネイル画像京都での撮影について、撮影のため1ヶ月近く京都に長期滞在した井之脇は「京都を堪能しました。どのロケ地も歴史的な流れ、自然の中にも時間を深く感じられる街だと思いました。予告にも登場する賀茂川の中洲で朔が演奏し、凪が歌を披露するシーンがあるのですが、こんな素敵な景色を見れているのは僕と凪役の松本さんしかいないんだなとか思いながら、とてもうれしくなりました。景色を存分に味わいながら撮影することができ、京都の街には感謝しかありません」とうれしそうに振り返った。大阪出身の松本は京都によく足を運んでいたことを明かし、「ずっと観光地ばかり行っていました。今回は賀茂川や、大文字山など京都の新しい一面を撮影を通して見ることができて幸せでした。井之脇さんがおっしゃっていた賀茂川での撮影は、いろいろなことを感じながらお芝居ができ、すごくいい経験になりました」としみじみ語った。山崎は「役柄的にいろいろなロケ地には行けなかったんです。大成は、ホールと学校での撮影がほとんどでしたので……」とちょっぴり残念な表情を浮かべつつ、「中でも泉涌寺(せんにゅうじ)での撮影はとても印象的でした。夜の撮影で、泉涌寺をバックにオーケストラの前で指揮をするシーンです。圧巻の景色なので注目してください」とおすすめした。京都出身の谷口監督は「音楽を志すアーティストたちが、音楽を奏でたり、壁にぶつかりながらエネルギーをスパークさせるようなシーンが多い作品です。パワーや魅力のある場所で芝居をしたり演奏シーンを撮りたいと思っていました。賀茂川、大文字山や泉涌寺、無鄰菴(むりんあん)などでの撮影は、役者の皆さんの芝居をより掻き立てるものになったのではないかと思っています」と満足の表情を浮かべていた。なお、泉涌寺、無鄰菴での映画撮影は本作が初となる。


musico-sub3.jpg映画初主演となる井之脇は「撮影中は言わないようにしていましたが、やっぱり不安やプレッシャーはありました。素敵なキャスト、スタッフのみなさんのおかげで撮りきることができたことを心から感謝しています。今日、初主演作をはじめてお客様に観ていただく瞬間に立ち会えることを心からうれしく思います」と撮影当時の気持ちを明かした。ピアノを弾く役については「役者を15、6年やってきましたが、僕の役者人生のターニングポイントとなったのが、12歳の頃に出演した黒沢清監督の映画『東京ソナタ』です。それまで習い事感覚でお仕事をしていたのですが、撮影でプロの現場の厳しさや自分の不甲斐なさを感じて、“この仕事を極めたい”と思った作品です。そのときの役がピアノを弾く天才少年でした。小さい頃にピアノをやっていましたが、ピアノから少し離れていた時期で、作品のためにまた練習を始めました。そして時は流れていつかやるだろうと思っていた初主演作でピアノを弾く役をいただきました。ピアノは僕の人生の中で切っても切れないものですし、とても深い縁を感じました。主演のプレッシャーもありましたが、ピアノが一緒だったので気持ちも楽になり、乗り越えられた気がします」としみじみと振り返った。


役作りについて松本は「上映前なので、余計なことを言ってハードル上げたくないかもと思っちゃいました」と微笑みつつ、「感覚で生きている女の子の役なのですが、歌を歌ったり、ギターを弾いたりと、初挑戦のことが多かったのですが、みなさんに助けていただきながら撮影を乗り切りました。井之脇さんにはいろいろ話を聞いてもらい、気持ちを共有しながら進められたので、とても楽しい気分で撮影を終えることができました」と語った。ダンスのシーンについては「独特の表現をする女の子なので、ダンスというよりは、おもしろいシーンだなという感じで楽しんでいただけたらと思います」と笑顔を浮かべた。


musico-sub1.jpg天才作曲家という役について山崎が「そのままやればいいかなと思いました」と自信たっぷりに語ると会場は大きな拍手に包まれた。恥ずかしそうに「嘘です(笑)」と否定した山崎は「すごく孤独を感じ、気持ちを押し込めているキャラクターで、あまり笑わないんです。朝ドラ『エール』の撮影直後だったので笑わないように心がけるのがちょっと大変でした。僕と似ていないキャラクターなので、彼自身に共感できる部分はほとんどなかったのですが、音楽家としての彼にはすごく共感するところが多かったです」と説明した。


印象に残っているシーンについて井之脇は「予告編に登場する賀茂川のシーンと、朔と大成の兄弟がぶつかり合うシーンです。山崎さんと二人でお芝居していて理屈じゃない部分で反発する兄弟がどこか繋がれたような気がしました。山崎さんと僕の芝居の熱量を感じていただけるシーンになっているので、注目してください」と観客に呼びかけると、山崎も「僕もあのシーンが一番印象に残っています。台本を読んだときはどのように表現しようかと考えたけれど、終盤の撮影だったので、いろいろ積み重なって二人の関係性もできていたので、自然に演じることができました。魂と魂のぶつかり合いができたシーンです」とおすすめした。松本も「台本でしか、朔と大成の二人の関係を見ていなかったので、出来上がった映像から“(二人は)こんなふうになっていたのか”と知ることができました」と振り返り、「大成のプレッシャーとかいろいろな感情が溢れ出るシーンは、誰が観ても共感できるし、グッとくると思います」と微笑んだ。


musico-sub2.jpg谷口監督も「朔と凪の賀茂川のシーンはもちろんですし、朔と大成の二人のスパークシーンを撮影したときには、映画の核となるものが撮れたという手応えがありました。あと、ピアノの下から凪がニョキっと顔を出すシーンは、原作にもある表現です。なんでもかんでも原作をなぞるわけではないですが、漫画的なシーンではあるのですが、抑制しすぎないで表現したほうが良いと思いました。チャレンジではあったのですが、やってみたら見事にハマって。リアリズムな表現ではないけれど、ちょっとポップで弾んだ感じが出た良いシーンだと思っています」と撮影を振り返った。


また原作の魅力について谷口監督は「いろいろな音楽が出てきます。とりわけ現代音楽に光を当てているところにおもしろさを感じました。その存在は知っていても、あまりよく知らないジャンルでした。現代音楽をやっている人たちのあり様、おもしろおかしい人がいたり、こだわりの強い人がいたりということ、人からどう思われても自分が良いと思ったものを探究するという姿が、どこか京都の人と通じるところがあると感じました。東京や他の街がどうであれ、うちはうち、みたいなところとか(笑)。また、古典的なものを守りながらも、革新的なものを受け入れる、生み出してしまうというところ、京都と現代音楽の関係性が京都出身の僕自身もストンと落ちてくるように理解できたという点です」と答えた。


M0930-1.jpg最後の挨拶谷口監督は「現代音楽と向き合い、凪との出会いや大成との関係を通して、朔の閉じていた(心の)扉が開いていく物語です。劇中のように、人と人が交わって、ぶつかり合うエネルギーにより、何か新しいものが生まれるような環境が早く戻ってくることを切に願っています」とコロナ禍でのディスタンスに触れた。山崎は「音楽も人も同じで、共感したり共有したり寄り添うことで、温かい気持ちになれたり、伝えることができます。自分の殻に閉じこもらないで人と関わっていく、そんなメッセージを受け取っていただけたらうれしいです。京都の魅力が満載なので、ぜひ堪能してください」と思いを伝えた。松本は「まだまだ不安とか残る状況で、鬱憤とかいろいろ溜まっているとは思いますが、今日は純粋に映画を楽しんでいただきたいです。笑って楽しい気持ちになっていただければうれしいです」と微笑んだ。井之脇は「いろいろな人と出会い、音楽を通してぶつかり合い、関係を深めていく朔の姿が丁寧に描かれています。音楽に向き合う様々なキャラクターたちと、同じような悩みを持つ方たちの後押ししてくれるような映画になっていると思います。初主演映画は僕にとって大切な作品になりました。ぜひ多くの人に観ていただきたいです」と挨拶し、舞台挨拶を締めくくった。
 


監督:谷口正晃
出演:井之脇海 松本穂香 山崎育三郎 川添野愛 阿部進之介 石丸幹二 濱田マリ 神野美鈴
配給:アーク・フィルムズ
2021/日本/113分
©2021musicophilia film partners
©さそうあきら/双葉社

2021年11月12日(金)京都先行公開

11月19日(金) TOHOシネマズ日比谷 他 全国ロードショー
 


(オフィシャル・レポートより)

 
 
 
 
 
 
 
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 京都大学大学院で共生人間学を学ぶ髙木佑透さんが、重度な知的障害をもつ弟、壮真君のことを「もっと知りたい!」と家族や自らにカメラを向け、コミュニケーションを重ねるうちに見えてきたものは?
時には自撮りを交え、兄弟が触れ合い、お互いをわかりあおうとする姿をまっすぐに捉えたドキュメンタリー『僕とオトウト』が10月22日(金)より京都みなみ会館、10月30日(土)より元町映画館、11月6日(土)よりシネ・ヌーヴォにて関西先行公開される。
 池谷薫監督が元町映画館を拠点に開催している「池谷薫ドキュメンタリー塾」に参加、髙木さんが池谷監督の指導のもと作り上げた『僕とオトウト』は、同館を拠点にした元町プロダクション作品として第10回「地方の時代」映像祭、市民・学生・自治体部門で見事、優秀賞に輝いた。劇場公開にあたっては、髙木さんは学生たちを中心にした上映委員会を立ち上げ、映画を届けるための宣伝活動に日々尽力している。
 プレイベントを間近に控えた監督の髙木佑透さんにお話を伺った。
 

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■“障害”を強く意識するようになったきっかけ

―――池谷さんのドキュメンタリー塾に参加するまではどんな学生生活を送っていたのですか?
髙木:もともと僕は日本史を学びたくて同志社大学に入学したのですが、大学3年時に津久井やまゆり園の殺傷事件が起きたり、レオナルド・ディカプリオが知的障害のある弟役を演じ、一躍脚光を浴びた『ギルバート・グレイプ』を観たり、石牟礼道子さんの『苦界浄土』いう僕のバイブルとなるような本に出会い、それまであまり意識していなかった“障害”について、そもそも何だろうと強く意識するようになりました。
 
―――映画では将来、弟は自分が面倒を見ることを想定しての言葉もあり、前々から障害について考えておられたのかと想像していました。
髙木:津久井やまゆり園の殺傷事件のときも、もっと憎しみや悲しみというわかりやすい負の感情が湧いてくるかと思ったのですが、不思議なぐらい湧かなくて、むしろ震災など人間がどうしようもできないことに巻き込まれたときにかたまってしまうというか、何もわからないという真空になった感覚でした。そこから障害についての疑問が湧き、同志社大学と早稲田大学の交換留学制度を利用して、1年間早稲田大学で障害に関する勉強や、介護の現場でアルバイトをしたり、いろいろなことをやりました。
 
 
 
 
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■自分が好きでないものは、続けられない

―――東京で勉強だけでなく、社会で様々な経験を積んだんですね。
髙木:ベンチャー企業でインターンをしたとき、自分が好きでないものには本気になれないし、続けられないと気づいたんです。そこで改めて自分が好きな事を考えたときにドキュメンタリーや教養番組などで親しんでいたテレビ局が就活先に浮上しました。ちょうど1年間の早稲田留学を終えて関西に帰るタイミングで、ドキュメンタリーを教えてくれるところはないかと「関西 ドキュメンタリー」で検索したときに、目に留まったのが池谷先生のドキュメンタリー塾。京都から神戸なら通えるなと思い、なんとなく申し込んで、まずは行ってみたら、元町映画館にたどり着いたんです。まさに就活序盤、4年生になる直前の3月が池谷先生との出会いでした。
 
―――ドキュメンタリー塾から立ち上げた映像制作団体、元町プロダクション(以降モトプロ)に所属し、髙木さん自身も本腰を入れて撮ろうと思ったきっかけは?
髙木:夏期休暇中に沖縄に長期滞在したりしつつ自分を見つめてみて、もっと真剣に障害について考えたいと思いました。そこから必死に勉強し、京大大学院に進むことになったのですが、京大に入ると2年間の余裕ができたので、塾だけでなく、モトプロにも関わらせていただくようになりました。研究もインタビューや質的調査をもとに障害を発達心理学や障害学の側面から研究しているのですが、映像はまた違う動きなので、そちらのアプローチでも考えることができればという狙いもありました。先々にマスコミで就活するとき履歴書にも書けるという裏の狙いもあったりしましたが(笑)要するに、なんとなく撮り始めたんです。
 
 
 
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■ホームムービーの枠を出れない。葛藤し続けた撮影と編集

―――まさにタイトルの通り、障害を持つ弟に向き合うことで、自分と向き合うことになっていく“僕”の物語でもありますね。途中で池谷さんに助言を求めるシーンが何度かありましたが、撮影を辞めたいと思うときもあったのですか?
髙木:ずっとしんどかったです(笑)。僕自身は修士課程でがっつり研究をしながら就活し、そして撮影もしていた。2年ぐらいかけてゆっくり撮っていきたいという思いもあり、時間がないのでの先生の期待するクオリティに到達するのは無理だとギブアップしようとしたら、速攻で電話がかかってきました(笑)。お前も自分探しをしている時期だから、その時期に15分でもいいから作品を作っておくのは自分のためにもなると説得され、考え直して撮影を続行することにしたんです。
でも撮り続けても、一つひとつはいいシーンなのに、ホームムービーの枠を出ることができない。何を撮っても先生に怒られ続ける苦しい撮影、編集をずっと繰り返し、先生は一体何考えているんだろうと思っていました。
 
 

■ラッシュを観ての気づきから、「僕自身のことを真剣に壮真に伝えてみる」

―――池谷さんから、髙木さんが壮真君に対し上から目線であることを指摘されたあたりから、映画も大きく変化し、髙木さんも自身とより向き合うことになります。優生思想を持っていないつもりでも、どこか自分の中に存在している。映画をご覧になる皆さんにも突きつけられる問いだと思います。
髙木:基本的に自分を追い込むことで生まれた映画だと思うのですが、池谷先生にラッシュは大事だと教わっていたので、その中で気づいたことがいくつもありました。例えば、壮真が変なことをして僕がフフフと笑う場面や、自分が撮られている場面もたくさんあるのですが、編集でずっと見ていると、僕自身がやたらと笑っているのに気づいたんです。もともと、笑いがあふれている家庭だからこそ、辛く重い感じにならずに済んだし、今まで生き延びてこれたと思っています。一方で、壮真が何か変なことをしても笑って流してしまう。そこで本当に彼が考えていることに目を向けず、笑いで覆い隠してしまう部分があったんです。そんないろいろな気付きを経て、僕自身のことを真剣に壮真に伝えてみることに集約されていきました。
 
 

■人のことをわかりたいという気持ちの表現

―――髙木さんが弟のことをわかろうとして奮闘する様子を捉え、さまざまな手段を試みていますが、そもそも人間は自分以外の人のことはわからない。自分自身のこともわからないというところからスタートすると、もう少し気持ちに余裕が生まれるのでは?何を考えているかわからないけれど、相手を信じるという姿勢が必要なのかもしれませんね。
髙木:映画の最後で僕が言った、ちょっと癖のある一言に集約されている気がしますね。僕の師匠でもある臨床心理学や発達心理学が専門の大倉得史先生は、他人のことなどわかりっこないとおっしゃり、一方大倉先生の師匠である鯨岡峻先生は性善説的で、人はわかりあえるはずだから、そこに食らいつくのだと。真逆なことを言っているようですが、人に対して誠実であるというところに戻ってくる。人のことがわからないからこそ、わかろうと努力し続けるし、人のことは絶対にわかりあえるはずだと信じるからこそ、知り続ける。その辺も映画の中に結果的に入ったのかなという気がします。
 
 
 

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■一緒にお風呂に入るのは僕たちのいつものコミュニケーション

―――壮真君と一緒にお風呂に入ったり、スキンシップもたっぷり取っていたのが印象的でした。私の子育ての経験上、男兄弟でも仲が良くないとできないことですよね。
髙木:感覚的にですが、僕が進学で家を出てからのほうが、壮真と仲良くなった気がします。僕が大学に入ったのが、ちょうど壮真が中一のときでしたが、そのころから壮真の兄ちゃん好きが加速しましたね。もともと風呂は壮真が小さいころから一緒に入って世話をしていたのでその延長で、今も結構喜んでくれるんです。壮真は言葉にするのが難しいので、その分表情やいろいろないたずらや、手言葉や触れることでこちらに気持ちを伝えてくれているんです。壮真が興奮したときは、とにかく手を握るとか、抱きしめてあげれば落ち着いて静かになる。壮真の鼓動が落ち着いてくるのが、手をつないでいるとつながってくるんです。身体的につながる感覚が昔からあったので、20代前半と10代後半の兄弟が一緒に風呂に入るのは一見妙なカットかもしれませんが、僕たちにとってはいつものコミュニケーションの風景であり、二人の会話なんです。
 
 
 
 
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■具体的にきょうだいとしてどんな風に接していけばいいのかが、映画を撮ることで見えた

―――壮真君の将来のことなど、きょうだいならではの今後に対する思いも語っていますが、本作を作ったことで、考えていたものとは違う未来が見えてきましたか?
髙木:作業所選びも親が実際にいくつか見学に行き、子どもに合う場所を自分の足で探すしかないのですが、そういうことや保険のことなども母が手筈を整えてくれたし、母と僕とはいろいろなことをあけっぴろげに話せる関係なので、もともとすごく心配していたわけではありません。
ただ、ひとりの兄として、壮真とどんな風につきあっていけばいいのか、壮真と共に生きていけばいいのか。それが映画を撮ることで変わりましたね。両親と壮真はどこまでいっても上下関係がある程度はあり、それがあるからこそ愛せる部分がありますが、僕は壮真にとってひとりの兄貴でしかなくて、もっと対等な関係であると思うんです。だから親が壮真のことを何か決めつけようとしても、「そんなの壮真に聞いてみないとわからないじゃないか」ということが言えるし、具体的にきょうだいとしてどんな風に接していけばいいのかが見えた。そこが一番変わりました。
 
―――ご家族の映画に対する感想は?
髙木:母は映画の出来うんぬんより、劇中で重大な事件があった日、壮真がせんべい布団に寝ていたところが映ってのをいまだにずっと文句を言われています。普段はもっといい布団に寝てるのに!って(笑)
あと実際に親父が出てくるシーンは、僕が結構真剣な感じで呼び出したので、男と男の直感で、何か仕掛けてくるんじゃないかということが伝わっているんです。ああいう場で出てきてくれる親父は言っている内容は関係なく、いてくれるだけで親父なりの映画を引き受ける覚悟があるし、そこは皆さんにも伝わるのではないかと思っています。3時間ぐらい撮影し、編集でかなり短くしましたが、それでも皆さんの感想を見ていると、伝わっている手ごたえがありますね。
 子どもの頃自宅が火事になる前はホームシアターで一緒に映画を観た記憶があるぐらい親父は映画好きなので、この作品がちゃんと世に出ていけばいいねと応援してくれています。壮真はもともと自分が映っている映像を見るのが好きなので、観てくれたけど特別な反応はなかったそうです。
 
 
 
 

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■学生が中心の上映委員会でプレイベント「僕オトの湯♨️」を企画

―――映画は作るだけでなく、届けるまでがとても大事ですし、その作業は本当に大変ですが、その大変な作業に学生のみなさんが中心になって取り組んでおられるそうですね。
髙木:コロナ禍で人と人とが触れあえないなか、一番原始的なふれあいや、コミュニケーションを描いた作品なので、ぜひ多くの人に届けたい。また、学生というのは自分探しの時期ですが、僕は映画を作ることで自分自身の行き先を決めることができたということもあり、学生のみなさんと一緒に宣伝活動をしたいと思い、活動しています。泥臭くマンツーマンで話をし、僕の思いを伝え、相手といい感じのグルーヴが生まれ、興味を持ってくれたなと思えば上映委員会に誘って仲間を増やしていく。京阪神の色々な大学や、様々なバックグラウンドの方が参加してくれています。
プレイベントとして、「僕オトの湯♨️」というオンライントークイベントを3回にわたり開催します。お風呂のシーンもありますし、一緒に湯に入るほど仲がいいとか、雑多な人がやってきて、今までできなかった話がポロっと出るようなイメージがあり、そこで銭湯という案が出てきました。また、触れていることで伝わるというのも『僕とオトウト』に通底することで、一緒の湯に入ることで相手の熱が伝わるという様々なモチーフがあるんですよ。
 
 

■昔からちょっとひっかかっていた“心のささくれ”をちゃんと見つめてほしい

―――ありがとうございました。最後にこれから御覧になるみなさんにメッセージをお願いします。
髙木:同世代の学生の皆さんの前でよくお話するのは、今回は障害を持つ弟と僕が向き合う映画ですが、障害というのは僕の”心のささくれ”だということ。数年前までは、気にしなくても生きていける程度のちょっと“気になること”だったんです。それをしっかり見つめると、本当にいろいろなものが見えてきたし、自分が本当にやりたかったことも見えてきた。どんどん広がって芯が出てくるのです。
よく卒業論文や卒業制作など、人生でこれが最後と思って取り組む人が多いですが、せっかく20代前半でそういうものと向き合うチャンスがあるのなら、人に言っても理解されないけれど、昔からちょっと引っかかっていたことをちゃんと見つめてみてほしい。そこを見つめて、期限のある中で卒業制作なり、論文にしてみると、これから先何十年生きるであろうなかで大事なものが見えてくる気がします。
僕にとってはそれがたまたま障害だっただけで、その等身大の感じが映画から伝わればいいなと思っています。
(江口由美)
 
 

<作品情報>
 
『僕とオトウト』(2020年 48分 日本)
監督、編集:髙木佑透
プロデューサー:池谷薫(『ルンタ』『蟻の兵隊』)
撮影:髙木佑透、髙木美千子
制作:元町プロダクション
10月22日(金)より京都みなみ会館、10月30日(土)より元町映画館、11月6日(土)よりシネ・ヌーヴォ関西先行公開
公式サイト https://boku-to-otouto.com
オンラインプレイベント「僕オトの湯♨️」詳細 https://boku-to-otouto.com/pre_event
 ©️ Yuto Takagi
 
 
 
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