「京都」と一致するもの

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★【京都ヒストリカ国際映画祭】の原点“忍者への映画旅”

 

秋恒例の京都ヒストリカ国際映画祭(第8回)は先ごろ“歴史と映画の都”京都市内の文化博物館で行われた(11月2~13日)。注目の「ヒストリカ・フォーカス」は今、外国人に人気を集める忍者映画を特集、1921(大正10)年のマキノ省三監督、尾上松之助主演の『豪傑児雷也』を活弁付きで上映したほか、リアル忍者映画の元祖、山本薩夫監督、市川雷蔵主演『忍びの者』(62年大映)など、さまざまな忍者映画が上映され、幅広い映画の歴史から「感動と驚きを運んだ」(高橋剣映画祭ディレクター)。

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“フジヤマ・ゲイシャ”の次に外国人に人気が高い日本アイテムは「ニンジャ」ではないか。今年「ヒストリカ・フォーカス」の目玉企画は日本で“最初の映画スター”として1000本以上の作品に出演したと言われる尾上松之助の“当たり役”のひとつ『豪傑児雷也』。歴史遺産と言うべき95年前の映画を、現役の活動写真弁士・坂本頼光氏の解説付きで上映するところが「京都ヒストリカ映画祭」の強みだ。


  『豪傑地雷也』 (1921年/日本/21分)
  監 督:牧野省三
  出 演:尾上松之助、市川寿美之丞、片岡長正
  弁士:坂本頼光

 

マキノ省三監督は日本で最初の監督でありプロデューサーとしても名高い。そのマキノ御大が旅芝居の役者から見出だした“目玉の松ちゃん”こと尾上松之助の『豪傑児雷也』は“重要文化財”級の骨董品。事実、先ごろ見つかった同じマキノ省三監督、尾上松之助主演の『忠臣蔵』は「見つかったことがニュース」になって報じられた。いわば貴重な文化財を、今では見られない「活弁付き」で見られるのがヒストリカの存在理由、映画ファンの“プチぜいたく”に違いない。


約21分のフィルムは、旧劇(時代劇)の主役だった忍者映画の成り立ちを証明する内容。悪者の前で大見得を切った児雷也(松之助)が、次の瞬間に消え、遠く離れた場所から現れるなど、講談で言う「ここと思えばまたあちら」の大あばれ。逆回転や二重露光など「主に偶然による」トリック撮影の効果をふんだんに駆使して、ファンタジックな“英雄豪傑談”に仕上げている。CG全盛の今見れば“子どもだまし”かもしれないが「初めて活動写真を見た」子どもたちには大変なインパクトだったはずだ。実際、当時映画を真似て木から飛び降りる子どもが続出したという。


マキノ省三監督&尾上松之助コンビは「日本映画史」の第1ページ。岩波書店版「講座日本映画」第1巻内「マキノ映画と少年」(足立巻一著)によると「(横田)商会が合併して日活(日本活動写真株式会社)となると(省三は)京都撮影所長として敏腕をふるい、松之助を当代随一の人気スターに育て上げ、大正期の忍術ブームを巻き起こした」とある。『豪傑児雷也』の歴史的価値が分かる。
 


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★忍者映画の原点・山本薩夫『忍びの者』

 

  『忍びの者』 (1961年/日本/104分)
  監 督:山本薩夫
  出 演:市川雷蔵、藤村志保、伊藤雄之助

 

「ヒストリカ・フォーカス」ではこのほか、現代版忍者の『劇場版  忍者部隊月光』(64年)、お色気忍者映画『くノ一忍法』(64年、中島貞夫監督)、SFXを駆使したダイナミックな『伊賀忍法帖』(82年)、米独合作『ニンジャ・アサシン』(09年)、ハリウッドから『ミュータント・タートルズ』(14年)にアニメ・ニンジャ『ナルト』など“忍者映画のあれこれ”が幅広く特集された。


中で忍者映画の基礎で中興の祖にもなった『忍びの者』(62年大映京都、山本薩夫監督)が光る。忍者ファンタジー映画『豪傑児雷也』から40年、忍者の忍術とは何だったのかを考察したリアル忍者映画だ。


戦国末期、延暦寺や石山本願寺を攻撃した織田信長は伊賀忍者たちの怒りを買う。忍者勢力を二分する百地砦の三太夫と富士林の長門守はそれぞれの配下に信長暗殺の密命を下す。三太夫は妻・イノネを五右衛門(雷蔵)と密通させて妻を殺害、代償として、五右衛門に信長暗殺を命じる…。


“日陰の存在”だった忍者の宿命と悲哀をリアリズムで描きあげた佳作で、以後、第8作まで続く人気シリーズになった。“ドロン”も煙幕もない、忍者のイメージを築いた元祖で、党派のお頭に忠誠を尽くす助っ人技能集団は、現代のサラリーマンにも共感を呼ぶものだろう。


his2016-11-11-B-500-1.jpgヒストリカ映画祭の『忍びの者』上映後には“ラスト忍者”川上仁一さんがトークショーに参加する特別サービスもあった。川上さんは「伊賀と甲賀は仲が良かった。縁戚関係のような共同の寄り合いだった。忍者は室町時代から1600年初頭までいた。全部入れて数千人ぐらいでしょうか。資料はなく、詳しいことは不明だが、傭兵集団だったのではないか。忍者の修業は“体を作る”“知識を得る”“呼吸法を学ぶ”など、やることは多い。修業期間は10年はかかりますね」と語っていた。


(安永 五郎) (2016-11-11)

 

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「心の故郷は台湾」歴史に翻弄された湾生たちに密着したドキュメンタリー
『湾生回家』ホァン・ミンチェン監督インタビュー
 
1895年から50年に渡って続いた日本統治時代には、日本から渡った官僚や企業の駐在員、移民として渡った土地を開拓した農業従業者など、多くの日本人が住んでいた。「湾生」とは、戦前の台湾で生まれ育った約20万人の日本人を称する言葉。11月26日からシネ・リーブル梅田他で順次公開される『湾生回家』は、湾生たちが終戦で日本本土に強制送還された後、どのような人生を歩んできたか、そして彼らが生まれ育った故郷、台湾の地を再び訪れる姿を綴るドキュメンタリーだ。
 
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台湾でドキュメンタリーとしては異例の大ヒットを記録。大阪アジアン映画祭2016ではオープニング上映後スタンディングオベーションが起こり、観客賞にも選ばれた同作。終戦後70年以上経っても、心の故郷台湾にいた頃のことを思い返し、その地に戻りたいと痛切に願う湾生の皆さんの姿や、台湾から湾生の肉親のルーツを辿って日本を訪れる子孫たちの姿など、戦争で引き離された家族や友人たちが長い時を経て再会を果たす「絆」を感じる物語でもある。台湾と日本の、あまり知られることのなかった歴史の一面に光を当て、浮かび上がらせたという点でも必見作。劇中で流れる懐かしいメロディー『ふるさと』が、観る者の心の中にある故郷の記憶を呼び起こしてくれることだろう。
 
本作のホァン・ミンチェン監督に、湾生の皆さんにインタビューをして感じたことや、湾生たちを通して見つめた日本統治時代、そして湾生と台湾人との共通点についてお話を伺った。
 

■初めて知った「湾生」という存在。台湾の記憶も思い起こさせてくれた。

―――台湾はドキュメンタリーとして異例のヒットを記録し、若い観客も多かったそうですが、どんな感想が寄せられましたか? 
ホァン・ミンチェン監督:(以降ホァン監督)「とても感動している」との声が多かったです。言葉にならないという方も多く、自分のアイデンティティの拠り所など、心の奥の柔らかい部分を刺激したのではないでしょうか。 
 
―――本作を撮ることになった経緯は?
ホァン監督:元々、日本にはとても興味がありますし、初めて訪れた海外は25年前の京都でした。2013年にファン・ジェンヨウプロデューサーから電話でオファーされ、そのときに「湾生」という言葉を初めて聞きました。それから湾生の方を探して、取材を重ねた訳ですが、徳島の大学の先生から冨永さんを紹介していただきました。清水さんは早い時期に花蓮に来てくださり、色々とお話を伺うことができました。 
 
―――私も「湾生」という言葉を、この映画で初めて知りました。
ホァン監督:今回たくさんの湾生の方々にお会いし、彼らがこんなにも台湾のことを愛してくださっているのを目の当たりにしました。これは台湾人である我々が注目する点です。日頃そこで暮らしていると、台湾の良さになかなか気づきませんが、台湾の記憶までも思い起こさせてくれました。 
 

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■湾生の人たちが、自らのアイデンティティについて悩む姿は、台湾人も同じ。

―――映画で登場する湾生の方は、官僚として台湾に赴任した家族のご子息もいれば、開拓移民として台湾に行き、何代にも渡って現地で暮らしてきた方もいらっしゃいました。たくさんお会いになった湾生の方の中から映画の6名を選ばれた基準は?
ホァン監督:私を感動させてくれるかどうかが基準となっています。彼らの人生、日本に引き揚げてからどのように暮らしてきたのかについて、私が感動するということは、観客も感動するのではないかと思いました。
 
また、彼らの体験を共有できるかも重要でした。私の人生の中でも、アイデンティティについて考えることがよくあり、その部分は湾生の方と同じなのです。彼らが持っている疑念は共有できますし、人生の大先輩でもある彼らが自らのアイデンティティについて悩んでいる姿を見て、そう思いますね。
 
―――湾生の方は、常に自らのアイデンティティについて問い続けていましたね。
ホァン監督:彼らの持っている悩みは、中国と日本という2つの文化の狭間で、アイデンティティに悩んでいる台湾人が持っている悩みと同じです。文化の狭間で悩む一方、何かを生み出す力もあり、悩む部分も人間を成長させるのに大事な部分ですね。 
 
―――映画で登場された方以外にも、30人近くの湾生の方とお会いになったそうですが、インタビュー中、どのような様子でしたか? 

 

ホァン監督:子どもの頃カエルを膨らませたりしたイタズラや、些細なことも色々はなしてくださいました。子どもの頃の話は嘘がありませんし、体で覚えている記憶を皆さん、うれしそうに話してくださいましたね。 
 
―――本作の中でも小さい頃から台湾人やタイヤル族の子たちと遊んでいたという冨永さんが、様々なエピソードを語っておられ、非常に印象に残ります。 
ホァン監督:冗談を言うのが大好きなおじいさんといった感じですね。撮影の時はとても喜んでくれましたが、普段はとても孤独な感じを受けました。今回、この映画の撮影を通じて、周囲に人がいることや、多くの湾生の知り合いと出会えたことを本当に喜んでくださっていたようです。 ちなみに冨永さんは元大学教授で台湾原住民の研究をされていたそうです。
 
―――台湾では映画を見て冨永さんのファンになった若いファンもいたそうですね。 
ホァン監督:台湾では冨永さんにサインを求める方もいたそうです。撮影中には「この映画の主役は私」ともおっしゃっていました(笑)。 
 

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■湾生の方が台湾で過ごした一つ一つの経験は、書物でも探すことはできない。

―――70年以上昔の話でありながら、湾生の皆さんは昨日のことのように、時には涙を浮かべながら語っておられました。当時の台湾を知る上でも、非常に貴重な証言です。
ホァン監督:今まで自分たちが経験したことに興味を持って下さった人がいなかったので、このように取材で話を聞いてもらえるということを嬉しいと思っていただいたようです。日本の戦争の記憶は決まりきった部分だけのように感じます。湾生の方の存在という、今まであまり注目されなかったところを今回取材し、時間を共有することに対して、とても協力的。話せることは何でもという気持ちが、伝わってきました。湾生の方が台湾で過ごした一つ一つの経験は、書物でも探すことはできません。多くの台湾人に、日本統治時代の知られざる一面を明らかにすることになったのではないでしょうか。 
 

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■50年の統治を受けた日本をなぜ台湾人が好きなのか。その疑問が映画を作る原動力に。

―――それぞれの個人史を紐解くドキュメンタリーである一方で、日本統治時代の知られざる歴史を湾生たちの語りから綴っています。監督ご自身は日本統治時代をどうとらえていらっしゃいますか? 
ホァン監督:とても複雑ですね。日本はとても好きですが、多くの台湾人が日本を好きだというのは、少し誇張されている気がします。50年も植民地としての統治を受け、私自身も、なぜ台湾人がこんなに日本を好きなのだろうと思いますから。私が知っていることの多くは本やメディアから得たものなので、完全には信じられません。やはり自分が湾生の方たちと直接交流して得たものの方が信じられますね。50年の統治を受けて、なぜ台湾人が好きなのかという疑問がこの映画を作る原動力になりました。
 
―――なるほど。そのような疑問を原動力にした『湾生回家』を撮り終え、ホァン監督の中で何か新しい気付きはありましたか?

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ホァン監督:普段興味があるのは、台湾人が日本人をどう思っているのかという点でしたが、日本人が日本人をどう思っているのかをあまり考えたことがありませんでした。今回撮影で気が付いたのは、日本人の中に、台湾に対して申し訳ないという気持ちがあるということです。松本さんのお嬢さんが「アジアの国は日本のことを嫌っているのに、台湾は日本のことが好きだ」とおっしゃっていたのには、非常に驚きました。今まではその意味を理解することができなかったし、そして今回の撮影で一番困難な部分でした。
 
―――台湾語を話せる湾生の方は、直接監督とお話されたのでしょうか?
ホァン監督:湾生の方が台湾に住んでいた頃からかなり時が経っていたので、そこまで多くはなかったです。ただ、家倉さんと松本さんは、日本が戦争に負けてから本土に帰るまで2年ぐらいかかったので、国民党政権下での学校にも通い、中華民国の国家も歌っていたそうです。それは多くの人が知らなかった事実です。この2年間は私にとっては非常に興味深いのですが、一般的にはあまりそう思われていません。
 

―――今回密着した湾生の皆さんの存在を、どのように捉えていますか?
ホァン監督:人類の歴史の中の、一つの証明と言えるのではないでしょうか。人はある時期愚かであり、興奮しすぎたこともありましたが、戦争は二度と起こしてはいけません。

 
―――湾生に密着することで、日本と台湾の歴史に触れる作品を撮られましたが、今後、また別の切り口での構想はありますか?
ホァン監督:私は『湾生回家』を撮るずっと以前から、どのような題材がいいか考えています。感情的に日本が好きという部分もありますが、やはり台湾の歴史の中で日本がもたらしたことの重みはとても大きい。ドキュメンタリーにせよ、劇映画にせよ、感動できるかを念頭に置いて、取り組んでいきたいですね。
 
―――最後に、メッセージをお願いします。
ホァン監督:日本と台湾の交流だけではなく、人間の普遍的なテーマを描いています。自分の心を失ってしまうと、自分が住んでいる社会に溶け込めず、孤独に陥ってしまいますから。『湾生回家』を通して、日本と台湾で心の交流や絆があることを感じていただけるでしょう。それは、私にとって非常に光栄なことなのです。
(江口由美)
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<作品情報>
『湾生回家』
(2015年 台湾 1時間51分)
監督:ホァン・ミンチェン
出演:冨永勝、家倉多恵子、清水一也、松本治盛、竹中信子、片山清子他
2016年11月26日(土)~シネ・リーブル梅田、ユナイテッド・シネマ橿原、12月17日(土)~京都シネマ、今冬~元町映画館他全国順次公開
公式サイト⇒http://www.wansei.com/
(C) 田澤文化有限公司
※11月27日(日)シネ・リーブル梅田にて、出演者冨永勝さん、家倉多恵子さん、松本治盛さんの舞台挨拶あり
 

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目標体重100キロ!松山ケンイチ、命がけの役作りを語る。
『聖の青春』舞台挨拶
登壇者:松山ケンイチ、森義隆監督、森信雄師匠(16.11.8 なんばパークスシネマ)
 
弱冠29歳の若さで亡くなった伝説の棋士、村山聖。病魔と闘いながら、将棋に命を捧げた村山の生涯を描いた大崎善生のノンフィクションを、『宇宙兄弟』などの森義隆が映画化した。村山聖役には自ら名乗りを上げた松山ケンイチが、外見、内面の両面から人物像に肉薄し、命を削って将棋に打ち込む姿を熱演。村山の最大のライバルである羽生善治は東出昌大が扮し、手に汗握る対局シーンをはじめ、尊敬しあう二人の関係を見事に甦らせた。村山の師匠であり、病魔に侵された村山を支え続けた森信雄師匠をリリー・フランキーが演じ、その包容力で村山ら若き棋士、そして映画を支えている。
 
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一般公開を前に11月8日(火)なんばパークスシネマで行われた先行上映会では、主演の松山ケンイチと森義隆監督が登壇。大阪・福島の将棋会館や、村山が住んでいた前田アパートでロケも行い、ゆかりの地での凱旋試写会に満席の客席から熱い拍手が送られた。スペシャルゲストも登壇し、在りし日の村山聖さんそのままの松山ケンイチ版「村山聖」を絶賛した、話は尽きない舞台挨拶の模様をご紹介したい。
 

satoshi-bu-240-1.jpg(最初のご挨拶)

松山:みなさん、こんにちは。村山聖役をやらせていただきました松山ケンイチです。今日はお越しいただき、ありがとうございます。関西の将棋会館や、前田アパート周辺でも撮影させていただき、ある意味地元で試写会ができたことをうれしく思っています。短い時間ですが、よろしくお願いいたします。

森監督:『聖の青春』の監督を務めさせていただいた森です。満席の中、ロケをした大阪で初めて観ていただけるのは、緊張もありますがすごくうれしい思いです。今日はよろしくお願いします。
 
―――松山さんご自身から村山聖役に名乗りを上げたそうですが?
松山:村山聖さんのことを知ったのは、僕が29歳の時でした。本棚を整理していたら、奥から『聖の青春』が出てきて読んだのがきっかけで、村山さんの生き方、命に対しての向き合い方に僕自身胸に突き刺さるものがあったのです。人生は人それぞれに向き合うテーマでもあるので、色々な人に村山さんの生き方を知ってほしい。そこから何か受け止れるものがあるので、ぜひやりたいと思っていました。
 
―――ポスターに写っている主人公が、松山ケンイチさんですよね?
松山:サモ・ハン・キンポーではないですね(笑)。今年の1~2月に撮影していたのですが、当時はいていた下着のパンツを僕はいまだに履いているのですが、(当時のサイズに伸びてしまい)パンツが元のサイズに戻っていないんです。だから、ズボンを履くと逆にずり上がって、ずっと食い込んでいるという・・・ネタバレでした。
森監督:そんなシーン、撮ってないですよ(笑)
 

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―――撮影中の松山さんの様子は?
森監督:企画から8年の歳月がかかった映画ですが、(村山聖役は)本当に難しい、命をかけないと演じられない役であり、自ら手をあげてくれた松山君を除いて選択肢はありませんでした。8年というのは、松山君が29歳になるのを映画が待っていた。それに僕自身も29歳のとき原作に出会いましたから、同じ時に、同じものが刺さり、そこに松山さんと向き合った時間でした。スタートからそうでしたから、僕ももちろん太ることを提案しようと思っていましたが、(松山君にとっては)そんなことは当たり前で、勝手に目標体重をきめていました、100キロと。それだけの意気込みで来ていたので、僕の現場での仕事は村山が命を燃やし続けるのですが、順撮りしながら、最後まで 燃やし続けるように見守ること。松山君が命を燃やす姿を見るのが幸せでした。
 
―――撮影を順撮りにした理由は?
森監督:村山さんは時間が限られた中で生きていた人。松山君自身も刻々と迫りくる時間の中で一つ一つ感じた意味をシーンの中で表現してほしかったのです。順撮りは時間もお金もかかります。でも、僕ギャラ要らないと申し出たぐらい、村山さんが生きた軌跡を撮るために順撮りすることはとても重要でした。松山君自身が、この映画の中を迫ってくる時間の中で生きていたと思います。
 
 
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―――福島(大阪)の将棋会館で撮影されていますね。
松山:朝、将棋会館で取材があり、久しぶりに出入り口からエレベーターに入るのを見るだけでも撮影当時が蘇ります。対局室でプロの方の対局も見学させていただきました。今はただの部屋ですが、その中に刀を持って切りあいをしていたような殺気がみなぎっていたのだなと。僕らはプロ棋士ではないので、醸し出される空気感をどう表現していくかという闘いでもありました。
 
―――息詰まる対局シーンが見事でしたが、撮影は大変でしたか?
松山:この作品に携わる皆に共通することですが、村山さんに惚れ込んでいる。将棋が大好きで、好きという気持ちは何でも越えるんですね。苦しさや楽しさをも越え、どこまでも深くもぐっていける気になるし、これができるなら何もいらないという気持ちにさせてくれたのが、将棋であり、将棋に生きる人たちでもあり、村山聖さんでした。 
 

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(ここでスペシャルゲストとして、村山聖の師匠であり、献身的に村山さんを支えた森信雄師匠がご登壇、大きな拍手で迎えられた。)

 

森師匠:この映画は村山聖を、松山ケンイチさんが熱演を越えたような、途中で村山君と声をかけそうになったぐらいでした。今日は松山ケンイチでカッコいいですけれど。映画の時は村山聖で、声をかけても村山聖であり、親しくさせていただきました。今日はゆっくり映画を観てください。

 
―――松山さんは、師匠とは何度も会っているのですか?
松山:撮影前には取材で、撮影中も将棋会館の対局シーンでは将棋指導として、とてもたくさんアドバイスをいただきました。最後にお会いしたのは京都で、撮影が終わって全てを出し尽くした後に森師匠に会いたいからと呼び出して。初対局をさせていただきました、麻雀で。村山さんも麻雀をやっていたし、師匠もやっていたので、これはぜったいにやらなければと。結果、師匠にボコボコにされました。
 
―――映画では松山ケンイチさんが骨身を削って演じた村山聖と、師匠がご存じの村山聖さんとはかなり一致していましたか?
森師匠:大阪ロケのとき、間違えて声をかけたくなるぐらいでした。演じているのではなく、村山聖がいて、18年ぶりに彼に会えたような気持ちでした。
 
 
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―――劇中で森師匠役はリリー・フランキーさんが演じています。
森師匠:リリーさんは淡々とされているので、だいぶん皆に「森さんよりカッコいい」と言われました。
森監督:村山さんの人生にとって森師匠は本当に大きな存在。動物のような方であり、愛のかたまりであり、原作の大崎さんは「純真がヘドロをかぶったような人」と上手い表現をしていますが、映画の中では純真の部分を描こう。森師匠のもっている変なものに縛られない自由な生き方の匂いを感じとり、そういう佇まいを持っている人がリリーさんだったのです。 
 
―――森師匠とお話することで、在りし日の村山さんの雰囲気を吸収されたのですか?
松山:実際の村山さんを知っている人に取材することが、スタート地点でした。森師匠やプロ棋士のみなさん、ご両親などにインタビューしましたが、皆言うことが違うんです。すごく多面的で、自分のある面を出す人、出さない人がいる。そして、皆笑って村山さんの話をするので、それだけ愛された人なのだと思いました。
 
―――森師匠から見て、村山さんはどんな弟子でしたか?
森師匠:かわいかったですね。時々憎ったらしいのですが、冷静なところと子どもっぽいところがあり、色々な表情がありました。
松山:森師匠の人柄をみることで村山さんを感じました。血のつながっていない親のような存在です。師匠を通して村山さんを見つけていきました。
 
 
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―――森師匠から見て、将棋のシーンはいかがでしたか?
森師匠:ロケのとき、僕は「もういい」と言ったシーンでも、松山さんは納得せずに、微妙なところを感じてくれ、頑固な部分が垣間見れました。最後はいい駒音がでていました。
松山:将棋は未知の領域です。プロ棋士の美しい指す仕草もそうですし、みなさんは何十年も指し続けていらっしゃいます。撮影では、とにかく頼りになるのは森師匠でしたから、対局のときはずっと師匠の顔を伺っていました。
 
―――羽生さんとの対局シーンは見事でしたね。
松山:棋譜は全部覚えていました。
森監督:2時間半の長まわしで最初から最後まで全部撮りました。本当の瞬間、村山さんが生きた魂の瞬間を少しでも撮りたいと。最後の最後に撮ったシーンですが、松山さんは、そのときは村山聖でした。病でせっぱ詰まったところでの対局シーンを、「用意スタート!」「カット!」の連続では撮れません。そこまで俳優ができるか、博打のような部分がありましたが、松山君も東出君も「やりたい」と言ってくれました。
 

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(最後のご挨拶)
森師匠:村山聖が18年ぶりに帰ってきた映画なので、じっくり見てください。
森監督:将棋の映画ですが、生きるということの映画です。村山さんは限られた時間で命を燃やしましたが、それは僕もみなさんも一緒。無限の時間を生きている訳ではないと僕も村山さんに教わりながらこの映画を作りました。感動とか、泣けたということではない、何か刺さるようなもの、自分の生き方に照らし合わせて見てもらえたら、うれしいです。
松山:役者を15年やらせていただいて、スタート地点に立つまでに、一番役を作る時間がかかりました。役者の自分がそうではない自分を暴力でたたきのめす時間が長かったです。完膚なきまでに叩きのめされた自分がどこかにあり、自分にとってすごく貴重な経験でした。命を燃やすということは手放しでいいことだとはいえない部分があります。ただ自分の意志で、自分の好きなように燃やすことは誰も文句が言えないし、すごく美しいことです。村山さんの中でも、自分に暴力をふるってしまう部分もありますが、公開されてから、役者の自分をまた完膚なきまでに叩きのめしてやろうと思っています。
(江口由美)
 

<作品情報>
『聖の青春』
(2016年 日本 2時間4分)
監督:森義隆
原作:大崎善生『聖の青春』(角川文庫/講談社文庫)
出演:松山ケンイチ 東出昌大 染谷将太 安田顕 柄本時生 北見敏之 筒井道隆 竹下景子 リリー・フランキー
2016年11月19日(土)~大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ他全国ロードショー
公式サイト⇒ http://satoshi-movie.jp/
©2016「聖の青春」製作委員会
 

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あの“宇宙人ジョーンズ”!? いえいえハリウッドの大スター、
トミー・リー・ジョーンズが《京都ヒストリカ国際映画祭》にやって来た!

 

【第8回京都ヒストリカ国際映画祭】

 11月6日(日)14:00~『ホームズマン』 の上映後、監督・主演のトミー・リー・ジョーンズ(70歳)のトークセッションが行われた。上映前にも予定外の挨拶を行い観客を驚かせたが、「本日の上映が本来の上映方式のデジタルDLPではなくブルーレイ上映となってしまって申し訳ない」とお詫びの挨拶となった。


『ホームズマン』について
his-2016-500-E.jpg19世紀半ばのネブラスカ準州(現在のネブラスカ州とダコタやワイオミング、モンタナを含む広域)、中西部開拓盛んな時代、荒涼とした土地で過酷な環境にさらされた女性たちに焦点を当てた、異色西部劇。神経を病んだ3人の主婦を開拓民の起点であったアイオワ州へ、信心深く几帳面で善良なメアリー(ヒラリー・スワンク)と流れ者の男“ジョージ・ブリックス”(トミー・リー・ジョーンズ)の二人で送り届けるロードムービー。3人の主婦を受け入れるアイオワの女性を演じたメリル・ストリープや牧師役のジョン・リスゴー、無慈悲なホテル経営者役のジェイムズ・スペイダーなどが脇を固め、厳しいながらも美しさの際立つ映像も印象的な作品。


【トークの概要】
homesman-bu-240-2.jpgテーマについて、「西部とか東部とか、女性とか男性とかは関係なく、今まであまり描かれる事がなかった19世紀半ばのアメリカ人がどのようにして生きていたか、そのためにどのような代償が払われてきたかを描きたかった。本作は女性の視点だが、広い意味で人間そのものを捉えている。」知られざる西部開拓史の一面を見たようでとても興味深い物語で、ペリー艦隊が浦賀に現れた頃のアメリカ中世部の歴史を改めて調べたい衝動にかられた。


ヒラリー・スワンクが演じたメアリーについて、「女性は家庭的な良妻賢母であるべきと考えられていた時代、独りで荒野を耕す女性は珍しい。そんな強い彼女を追い詰める程の厳しい状況を表現。」メアリーは信心深く、家も土地も家畜も貯金もあり、料理上手で音楽を好むしっかり者の女性。だが、特別に美人で魅力がある訳ではないので、この上なく不細工な男に「退屈でうるさそう」と言われて結婚を断られたり、流れ者のジョージからも邪険にされたりする。女性として尊重されなくて歯がゆさをつのらせるヒラリー・スワンクの表情がいい。


homesman-bu-240-3.jpg陰影の効いた美しい映像については、「ニューメキシコでのロケはとにかく天候が一番重要だった。大きく変わりやすい天候に振り回されながら、照度計とにらめっこの撮影は本当に大変だった。そのため苦楽を共にしたクルーとはより親しくなったよ」と。また、トミー・リー・ジョーンズが演じた流れ者の男のラストシーンについて、「メアリーもお金も失い、再び自由に生きられる西部へ行くしかなかったんだ。筏の上で踊っていた音楽は、当時のフォークソングです」と、当時の音楽を再現し、筏の上でバンジョーを弾いていたのは自分の息子だと紹介した。また、冒頭メアリーに教会への道を教えるシーンには娘が出演していたことも明かした。

 



映画祭は、月曜日は京都文化博物館の休館日のためお休み。11/8(火)~11(金)までは“ニンジャ”をテーマにした新旧作品を上映。11/11(金)には、無声映画『豪傑児雷也』が弁士付きで上映され、その後市川雷蔵主演の『忍びの者』の上映。11/12(土)・13(日)には再び新作映画を上映。『ホームズマン』も12(土)にも上映されます。お楽しみはこれからです♪
 

★京都ヒストリカ国際映画祭の公式サイト⇒ http://www.historica-kyoto.com/ 
★映画祭のおすすめ新作について⇒ 
こちら

 (河田 真喜子)

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『でんげい』チョン・ソンホ監督トークショー
登壇者:チョン・ソンホ監督(16.11.5 シネ・ヌーヴォ)
 

大阪アジアン映画祭では『いばらきの夏』というタイトルで上映され、生徒たちのパフォーマンスと共に大反響を呼んだ青春ドキュメンタリー映画が、『でんげい』とタイトルを改め、大阪・九条シネ・ヌーヴォで11月5日(土)より先行ロードショーされている。

 
タイトルの「でんげい」とは、大阪市住吉区にある建国高等学校・伝統芸術部の通称。民族学校である同校の「でんげい」は、大阪代表として全国高等学校総合文化祭に2016年現在で12年連続出場を果たし、また総合文化祭でも常にトップクラスの評価を得ている。この「でんげい」に出会った韓国のテレビ局・釜山MBCのプロデューサー、チョン・ソンホ監督が、本番に向けて練習に励む部員たちの日々に密着。テレビドキュメンタリーとして放映され、その後映画版に編集、韓国で公開された本作が、キノ・キネマ配給により、日本にも届けられることになった。
 
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『でんげい』大阪先行ロードショー初日初回上映後には、チョン・ソンホ監督が登壇し、キノ・キネマ代表岸野令子さん司会のトークショーが開催された。冒頭で、日本劇場公開を祝って、建国高等学校・伝統芸術部員の皆さんが花束を持って駆けつけ、ソンホ監督に花束が贈られた。
 

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部員を代表して、本作でも撮影当時高校1年生ながら必死で練習に励む姿を見せていたカン・ソナさんが、「今日はこうして私たちの映画を観に来てくださり、本当にありがとうございます。私たちはご覧のとおり毎日伝統芸術部で一生懸命活動しています。2年前ドキュメンタリーとして作られたのが、こうして映画となり、日本にきて私たちもいい経験をさせていただいていると思います。ソンホ監督にも感謝しています。映画を観て、私たちのことを知っていただいた皆さんには、これからも頑張るので私たちのことを応援してください。よろしくお願いします」と日本と韓国語で挨拶。大きな拍手が沸き起こった。

 
渡された花束を、「韓国には持って帰れないのが残念。この花束を是非お渡ししたい人がいる」と配給を手掛けている岸野さんに贈呈したソンホ監督から、引き続き、本作をなぜ撮ったのか、そのいきさつや観客とのQ&Aが行われた。その内容を、追加インタビューを交えてご紹介したい。
 

 


■「韓国でも高校でこれほど熱心に伝統芸術に取り組む学校はない」という驚き。

ソンホ監督:最初は建国高校の伝統芸術部を全く知りませんでした。もともとは韓国の週刊誌「ハンギョレ21」に日本の朝鮮学校の写真が載っており、それが今、自分たちの子どもの運動会でも見られない、昔の運動会の雰囲気でした。当時自分が経験した運動会を感じたドキュメンタリーを作りたいと思い、2014年に会社の安息月制度(1ヶ月の休み)を利用し、写真に掲載されていた大阪の学校を訪ねました。ただ、そこでは「南北関係が非常に難しい時期なので撮影できない」と断られてしまいました。そこで、現地コーディネーターの方に勧めていただいたのが、建国学校だったのです。
 
当時の校長先生から、「運動会よりも伝統芸術部の方が10年以上大阪代表で全国大会に出場しているので、案内します」と申し出をいただき、練習を見学できるとのことだったので、皆が練習している柔道場に案内してもらいました。2月で寒いのに半袖半ズボンで汗をかきながら練習している姿に、私は本当に驚きました。 韓国では、大学では伝統芸術部はありますが、高校でこんなに熱心に伝統芸術を練習しているところはなく、無条件に「これは撮ろう」と思いました。 
 

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■伝統が継承されていくことへの興味。マイノリティの伝統は、守る側も少数。

ソンホ監督:伝統芸術の全国大会があるなんて、韓国では考えられません。考えようによっては、日本が持っている文化の底力です。伝統芸術部の先生はどこの学校の先生も厳しいそうです。伝統をそのまま継承するには、その厳しさが必要なのです。もう一つ驚いたのは、大阪代表で韓国の伝統芸術が選ばれていることです。例えば韓国で日本の和太鼓のチームが韓国の地区代表に選ばれることはないでしょう。というのは、韓国は日本に植民地支配された被害者意識があるからです。だから、建国学校の学生たちが大阪代表に選ばれて全国大会に出場し、演技の素晴らしさが認められて賞を獲得するということが、新鮮な驚きでした。私の考えですが、マイノリティの伝統は、守る側も少数です。そういうものに、日本側も力を貸してほしいというのが私の願いです。

 

■政府からの支援金を得て、本格的に撮影。テレビ局制作のドキュメンタリーが劇場映画となり、日本で公開されるのは初めて。

ソンホ監督:撮影すると決めると、校長先生に「韓国できちんと準備をします。MBCの上司を説得し、韓国政府から映画制作支援金をもらい、十分な制作費で準備をしてから戻ってきます」と宣言し、一旦韓国に戻りました。こんな素晴らしい話に、制作支援金をもらえないなんて、ありえませんから。もちろん支援金をきちんとゲットしました!「でんげい」部員と顧問の先生の前で映画を撮ると報告し、皆さんの許可を得たことは、今でも覚えています。

 

■会社主導ではなく、自ら映画化、劇場公開へと動く。

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ソンホ監督:このようにして、まずはテレビのドキュメンタリーが制作されました。その作品がここまでくるとは思いも寄りませんでした。韓国でテレビ局がテレビ用に制作したドキュメンタリーが劇場映画として上映されるのは珍しいですし、ましてや日本で公開されるというのは初めてのことです。
 
ただテレビ用ドキュメンタリーを劇場公開用素材にする別予算は会社にはなく、また劇場公開する体制もありませんでした。ですから、素材に関することや、編集面では釜山国際映画祭関係者の知り合いにアドバイスをもらいながら、自分で進めていきました。特に苦労したのは編集です。テレビ放映では2部構成だったロングバージョンを、劇場用に短くした訳ですが、「テレビ的だ」と指摘されました。映画の文法とテレビの文法は違います。8回編集し直しましたが、私は20年間テレビ畑を歩んできた人間ですから限界があります。でも、本作のコンテンツが持っている力、子どもたちが持っている力で勝負しようと思ったのです。編集する間に、劇場公開する投資会社を自分で見つけ、会社の支援なしに劇場公開にこぎ着けることができました。
 
 
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■この映画には3つのタイトルがある。

ソンホ監督:大切なのは、この映画には3つのタイトルがあるということ。韓国で放映したテレビ用のタイトルは、『17歳、鮮華(ソナ)の挑戦』でした。ただ、韓国で劇場公開をするときに、インパクトが弱いので、集客のためにタイトルを変えた方がいいという投資家たちの意見をうけて『いばらきの夏』と改題したのです。そして、今回岸野さんが日本で劇場公開してくださるので、いろいろ考えた末、伝統芸術部の通称「でんげい」を映画のタイトルにした方がいいのではないかということで『でんげい』となりました。 
 
岸野さん:大阪では「いばらき」というと「茨城」ではなく「茨木」を連想されますし、『でんげい』と聞いて、「え?これ何」というところから興味を持ってもらいたいという狙いもありました。

 

■顧問の先生が怒っているシーンから滲む、生徒との信頼関係。

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ソナさん:(「チャ先生は人情に厚いが、最初から厳しく怒られたりしたのか?」 との問いに)練習するにあたり、普段からどんどん詰めていくところに向かって、私たちがもっといいものを出せるように指導してくださっています。そのおかげで、もっと上にいけると思っているので、(映画では)怒っているイメージがついていますが、とてもありがたいことだと思っています。 
 
ソンホ監督:いつも怒っていたからそうなりました(笑)。先生の真心と生徒の真心がかみ合っていたから、撮ることができた訳で、変なことになっていたら私は撮らなかったと思います。 
 
岸野さん:チャ先生の愛情や、生徒との信頼関係が出ていました。日本の学校では今、先生と生徒の関係が希薄になっているような気がするので、ここにはアツいものがあるというのは一つの発見でした。在日の方だけで留まるのではなく、日本の方にも観ていただきたいです。今、日本は色々な民族、宗教、文化の方が一緒に住んでいる社会なので、お互いがもっと仲良くなり、理解し合える社会になるために、この映画の果たせる力がある。そう思ったのが、配給を引き受けた大きな狙いです。 様々な偶然が積み重なっての結果ですが、それも運命かなと思います。
 

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■テーマは「子どもたちの成長」

ソンホ監督:私のドキュメンタリーのテーマは「子どもたちの成長」です。 (演技が)技術的に優れているのに賞をもらわないということは、私の関心外です。最後の川の土手に生徒たちが座っている場面は、私が映画的に演出した場面です。子どもたちがあのように集中的に練習するのは夢のよう。彼らの日常は、夏休みになればラフな服装でアイスクリームを食べながらおしゃべりをするものだと考えました。 子どもたちのありふれた日常や、熾烈な経験を経たことで日本の社会で生きる力を身につけたと思うし、それを撮りたかったのです。在日韓国人がどのような思いで根をおろして子どもたちを育てているかというところを観てほしいですね。 

 

■ソンホ監督からのメッセージ

ソンホ監督:日本の方がご覧になっても、説明なしで感じてもらえると思います。受験で一生懸命な時期にでんげいのようなクラブ活動で一生懸命だったことが、きっと後々役に立ちます。これは現在子育てをしている父兄たちへのメッセージとしても残せると思います。
(江口由美)
 

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<作品情報>
『でんげい』
(2015年 韓国 1時間37分)
監督・プロデューサー:チョン・ソンホ  撮影:キム・ウクチン  ナレーション:パク・チョルミン(「もうひとつの約束」)
出演:キム・ヒャンスリ、コ・スンサ、ソ・ヌンヒャン、チャン・スギョン、イ・スンオン、カン・ソナ、キム・ソンファ、イ・サフェ、イム・モジョン、チャ・チョンデミ、パク・ジョンチョル
2016年11月5日(土)~シネ・ヌーヴォにて先行ロードショー、以降、元町映画館、京都みなみ会館、名古屋シネマスコーレ他全国順次公開
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his-2016-500-E.jpgいよいよ《京都ヒストリカ国際映画祭》開催!
 

★トミー・リー・ジョーンズが映画祭にやって来る!!!

 
時代劇ファンにとって最も楽しみな《京都ヒストリカ国際映画祭》が今年も開催されます。世界でただひとつ、「歴史」をテーマにした第8回京都ヒストリカ国際映画祭は、映画の都・京都ならではのもの。


今年は、缶コーヒーのCMでおなじみの“宇宙人ジョーンズ”ことトミー・リー・ジョーンズが監督・主演を務めた西部劇『ホームズマン』を引っ提げて、映画祭にゲストとしてやってきます。この秋公開されたばかりの『メカニック:ワールドミッション』や『ジェイソン・ボーン』などでは、ベテランならではの風格で存在感を出していましたが、19世紀半ばの西部開拓史の中でも、歴史に埋もれた女性たちにスポットを当てた異色西部劇を披露いたします。
 

日本初公開作品を揃えた〈ヒストリカ・スペシャル〉と〈ヒストリカ・ワールド〉では6本の新作を、〈ヒストリカ・フォーカス〉では「忍者映画100年進化論―忍者エボリューション」と題して、無声映画からアニメ映画まで忍者映画9本を紹介。他に連携企画①〈アジア・シネラマ〉、②〈京都フィルムメーカーズラボスクリーニング〉、③〈時代を彩る禁断の恋〉と、ヒストリカ映画祭ならではの特別企画は他に類のない豪華さで楽しませてくれます。


開催期間:11月2日(水)から11月13日(日)まで11日間(11/7(月)は休館日)
場所:京都文化博物館


★スケジュールや作品紹介、ゲストなどについての詳細は公式サイトをご覧ください⇒こちら


 

昨年の〈ヒストリカ・ワールド〉部門で上映された2作品が、『フェンサー』→ 『こころに剣士を』 、 『大河の抱擁』→ 『彷徨える河』というタイトルで年末年始に一般公開されます。今年の新作の中の5本について、少しご紹介いたします。

 

his-2016-500-E-2.jpg①『ホームズマン』 〈ヒストリカ・スペシャル〉
(2014年 アメリカ・フランス 122分 トミー・リー・ジョーンズ監督・主演)

トミー・リー・ジョーンズの監督・主演作は、『The Sunset Limited』(‘11)以来2作目。19世紀半ばのネブラスカ準州(現在のネブラスカ州とダコタやワイオミング、モンタナを含む広域)での開拓民の女性像を捉えた、珍しい西部劇。一昨年当映画祭で上映されたドイツ映画『黄金』では、ゴールドを求めてロッキー山脈北部(カナダ)へやってきたドイツ人女性の逞しさを描いたロードムービーでしたが、今回は女手一つで荒野を開拓する女性・メアリー(ヒラリー・スワンク)が、神経を病んだ3人の主婦をアイオワ州に住む教会の女性(メリル・ストリープ)の元へ連れて行こうとするロードムービーです。危険な道中の助手として吊るし首にされようとしていたならず者(トミー・リー・ジョーンズ)を雇っての長旅。彼のメアリーを女性として尊重しない言動に苦笑しながらも、当時の女性への酷い扱いが慮れるというもの。


未開拓の中西部では女性は大切にされてきたとばかり思っていましたが、子供を産む道具と扱われたり、過酷な自然環境の中でも労われることもなかったり、知られざる西部開拓史の一面を見るようでとても興味深い。今では大穀倉地帯のアメリカ中部ですが、開拓が始まった頃の状況を衝撃の映像で綴って、西部開拓史の中に埋もれた真実を描出。かつて、ラルフ・ネルソン監督の『ソルジャー・ブルー』(‘70)やアーサー・ペン監督の『小さな巨人』(‘70)といったインディアン戦争を描いた作品のように、虐げられた人々の衝撃の真実と強い想いを伝えようとする意図が感じられる逸品です。


 his-2016-500-D.jpg②『秘密が見える目の少女』 〈ヒストリカ・ワールド〉
(2015年 デンマーク、ノルウェー、チェコ 96分 ケネス・カインツ監督)

デンマークの作家リーネ・コーバベルによる4部作からなる児童文学書の第1部の実写映画化。主人公は10歳の少女ディア(レベッカ・エミリー・サットラプ)。心の奥底にある恥や罪悪感、劣等感などが相手の瞳を通して判る、不思議な力の持ち主。母親も同じ力の持ち主ですが、兄と妹にはその力がなく、ディアだけが「シェイマーズの娘」と忌み嫌われて、誰も目を合わせようとしません。そんな時、お城では王様とお妃と幼い子供まで殺されるという殺人事件が発生。王様と仲の悪かったニコ王子が捕えられ、その審議のためディアの母親が呼ばれますが、次いでディアもお城へと連れて行かれます。


ところが、地下で飼われている恐ろしいドラゴンの生血を吸って強靭な精神を保つ陰謀の黒幕が正体を現し、王国を乗っ取ろうとします。ニコ王子と母親を助け真実を暴こうと、持てる力を最大限に駆使して奮闘する少女の健気さと美しさに、目が釘付けになります。中世ヨーロッパの小さな王国を舞台に、不思議な力の持ち主・ディアの活躍を、スリルとサスペンスあふれる映像で描いた感動のファンタジー映画です。すぐにでも次作が観たい!と思えるほどの面白さです。


his-2016-500-B.jpg③『ウルスリのすず』 〈ヒストリカ・ワールド〉
(2015年 スイス 104分 サヴィアー・コラー監督)

アルプスの山奥で暮らす少年・ウルスリは、夏は両親と共に山小屋で暮らし、チーズ作りをする父親の代わりにヤギの世話をする働き者。でも、仲良しの女の子・セライナに優しい言葉をかけられない“はにかみや”さん。冬が近付き山を下りようとした時、沢山のチーズを積んだ荷馬車が谷川に落ちてしまい、冬を越すお金がなくなり、母親は遠くの町へ働きに出ることになりました。そんな困窮した一家に、商店を営む村長父子が何かと無理難題を言ってきます。実は、谷川に落ちたチーズを密かに拾って売っていたのです。セライナの気を引こうとする息子のためにウルスリが可愛がっている子ヤギのジラを取り上げたり、春を告げるお祭りで披露するウルスリの大きな鈴を横取りしたりと…。


困窮する両親のため子供ながら尽力する孝行息子ウルスリの健気さや、彼を想うあまり危険を省みない行動に出るセライナの献身、さらにウルスリを見守る山の主・狼との絆など、厳しい大自然の中で良心的な生き方で人々の心を見方にしていく少年たちの真心が胸を打ちます。監督は『ホープ・オブ・ジャーニー』(‘90)でアカデミー賞外国語映画賞を受賞したサヴィアー・コラー監督。スイスアルプスの美しい映像も見どころです。


his-2016-500-C.jpg④『バタリオン』 〈ヒストリカ・ワールド〉
(2015年 ロシア 120分 ドミトリー・メスヒエフ監督)

近年のロシア映画に駄作なし!人間性を深く掘り下げた描写力に迫力ある映像が備わり、その質の高さにいつも圧倒されっぱなし。本作は、第一次世界大戦末期、社会主義の浸透により評議会が力を持ち、上官の命令に従わない兵士たちが続出。そんな戦意を失くした兵士に代わりにドイツ軍との前線に立った女性だけの部隊「婦人決死隊・バタリオン」の死闘を描いた感動作。当時、身分に関係なく貴族や学生や一般市民や農民などの子女が志願した部隊があったとは……歴史に埋もれた知られざる人々の真実が、今まさに明かされます!


志願の動機は、祖国のためという理由だけでなく、愛する人をドイツ軍に殺されたから、大切な人を守るため、あるいは、無慈悲な男たちや社会から虐げられた女性たち。美しい髪を惜しげもなく切り、丸坊主にして女であることを捨て、厳しい訓練に耐え、戦闘能力を身に付けていく。彼女らの指揮を執った実在の人物マリア・ボチカリョーワを演じたマリア・アロノヴァの、厳格さと人情味が交錯する演技には、愛しいロシアの娘たちの命を戦場で散らす責任をひとり背負う葛藤と反戦の意が込められ、強烈な印象として胸打たれます。見た目にも中身も重量級のヒューマンドラマは必見です!


his-2016-500-A.jpg⑤『BAAHUBALI: THE BEGINNING(原題)』(バーフバリ) 〈ヒストリカ・ワールド〉
(2015年 インド 138分 S・S・ラージャマウリ監督)

ショーブ・ヤーラガッダ・プロデューサーがトークゲストで来日予定。

インド映画といえば、公開中の『PK』のように、ストーリーも俳優も映像も音楽も極上揃いで楽しませてくれますが、本作はボリウッドきっての歴史超大作映画として期待されています。日本では来年春の全国公開が決定。是非スクリーンでお楽しみ下さい。


(河田 真喜子)


期間中、ゲストとしてトークなどが予定されているのは『くの一忍法』の中島貞夫監督、『伊賀忍法帖』出演の“斬られ役”福本清三さん、『伊賀忍法帖』の殺陣師・菅原俊夫さん、『豪傑児雷也』の活動写真弁士・坂本頼光さん、現代の忍者の武術家・川上仁一さん、『隻眼の虎』のVFXスーパーバイザー、チョ・ヨンソク氏、『駆込み女と駆出し男』の原田真人監督、同映画の美術デザイナー、原田哲男さん、『古都』のYuki Saito監督、『わたしが棄てたナポレオン』のジョルジア・ファリーナ監督、香港国際映画祭事務局ディレクター、ロジャー・ガルシア氏、『忍者EX』のアーロン・ヤマサト監督


◆チケットは一部作品を除いて

前売り1100円、当日1300円【ヒストリカ・スペシャル】『ホームズマン』(6日)当日一律2000円(12日通常料金)
【連携企画】『古都』前売り1500円、当日1800円。
※販売はチケットぴあ店頭、セブンイレブン、サークルK、サンクス。「Pコード  556-060」

 

konosekai-550.jpg『この世界の片隅に』片渕須直監督インタビュー

■原作:こうの史代(『この世界の片隅に』双葉社刊)
■監督・脚本:片渕須直
■声の出演:のん、細谷佳正、他
2016年11月12日(土)~テアトル梅田、  イオンシネマ近江八幡、イオンシネマ京都桂川、イオンシネマ茨木、109シネマズ大阪エキスポシティ、シネ・リーブル神戸、MOVIXあまがさき、ほか全国ロードショー
公式サイト: http://konosekai.jp/
■コピーライト:©こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会


 

★戦火の中、健気なすずの暮らし

 

こうの史代の原作を片渕須直監督がアニメ映画化した『この世界の片隅に』が完成、公開を前に19日、片渕監督が来阪キャンペーンを行い、作品への思いを語った。


konosekai-di-1.jpg――今夏はアニメが活況だった。『この世界の片隅に』も泣けるアニメだが、原作のどこに惹かれたのか?
片渕監督:主人公が普通に生活していて、ご飯をつくるところがおもしろく丹念に描かれる。そうした普通の生活と、裏庭から見える軍港に浮かぶ戦艦大和が隣り合わせに存在する。そんな日常生活を営む主人公のすずさんは、多少おっちょこちょいでのどかな若奥さん。やがて、そんな普通の人々の上に爆弾が落ちてくることになって、それでも生活は続いてゆく、という物語なのですが、実は、ご飯を作っているあたりでもう感じ入ってしまいました。


――その時点でこうの史代さん(原作者)に連絡を? 
片渕監督:2010年夏に、こうのさんにアニメ化への思いを手紙に書きました。こうのさんのほうでも僕のそれまでの仕事を知っておられて、お互いに影響しあう関係であることが確かめられました。こうのさんは、日常生活の機微を淡々と描く僕の作品のことを、こうした作品を描きたいと思う前途に光るともし火、といってくれました。

でも、『この世界の片隅に』で今回は日常生活の対極に戦争が置かれています。それがかえって毎日の生活を営むことの素晴らしさを浮き上がらせています。アニメがテレビ放送されてから50年経ち、視聴する年齢層も高くなり、興味の内容も幅広くなっている。そうした観客を満足させられるものを作りたかったのです。自分がチャレンジするべき作品だと強く思いました。


konosekai-500-1.jpg――戦後71年の今年、公開される意義も大きいと思うが? 
片渕監督:今年の8月16日付け朝日新聞夕刊1面にこの映画の記事が載りました。原爆の日ではなく、終戦の日でもなく、その翌日に載ったことの意味は大きいと思います。戦争は終わっても、人々の毎日の営みは終わらない。生活は続いていきます。映画制作中に東日本大震災が起き、普通の生活が根こそぎひっくり返ってしまう、まるで昭和20年の空襲と同じようなことを経験しました。苦境にあえぐ人々がいれば、また彼らを救おうとする動きもありました。そうした人の心は空襲を受けた当時にもありました。たくさんの資料をリサーチする中で当時の人たちの気持ちがよく分かったんです。

あの時代のことはテレビや映画でいっぱい見ているつもりになっていますが、そうした時代を描く記号になっている女性のモンペだって、戦争中期まではほとんど履かれてないんですね。理由は簡単で、“カッコ悪い”からというのでした。素直に納得できて、あらためて当時の人々の気持ちが実感されてくるととても新鮮な感じがしました。『この世界の片隅に』は、そんなふうに当時の人々の気持ちを、今ここにいる自分たちと地続きなものとして捉え直す物語です。


――監督は当然、戦争体験はない。こうした戦争時代の映画を作るのはなぜ? 
konosekai-di-2.jpg片渕監督:私は昭和35年生まれなので、昭和30年くらいまでならば思い浮かべることが出来る。けれど、その10年前の戦時中の世界とのあいだには断絶があるように感じられた。でも、本来は“陸続き”なんです。ひとつひとつ”理解”の浮島を築いていって、この時代に踏み入り、やがて気持ちの上で陸続きなものとしていってみたい。そんな冒険心がありました。すずさんがその道案内です。


――すずの声はアニメ映画初出演ののんちゃん。「少しボーっとした、健気でかわいい」イメージ通り!ぴったりでしたね?
片渕監督:試写を始めると同時に彼女の評価が高まりましたね。彼女は、収録に先立って“すずの心の奥底にあるものは何ですか?”と問うて来ました。彼女は表面的にも面白く演じ、でもそれだけでなく人物の根底にあるものから理解した上ですずさんを作り上げようとしたのです。


――劇場用アニメは2000年『アリーテ姫』、2009年『マイマイ新子と千年の魔法』以来、3作目だが“やり終えた”感が大きい?
片渕監督:映画とは観ていただいた方の心の中で完成するものだと思っています。本当の満足は映画が多くの方々に届くはずの“これから”ですね。


 
konosekai-500-2.jpg★アニメ映画『この世界の片隅に』

 
第13回アニメ芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞したこうの史代原作を、片渕須直監督が劇場版映画にした素朴な珠玉のアニメ。「少しボーッとした」かわいいヒロインすずを女優のん(本名 能年玲奈)がアニメ初出演で好演。


1944年(昭和19年)、すず(のん)は18歳で呉にお嫁にくる。世界最大と言われた「戦艦大和」の母港で、すずの夫・北條周作も海軍勤務の文官。夫の両親は優しく、義姉の径子は厳しいがその娘の晴美はおっとりしてかわいい。配給物資が減っていく環境の中、すずは工夫を凝らして食卓を賑わせ、服を作り直し、時には好きな絵を描く。ある日、遊郭に迷いこんだすずは遊女リンと出会い、巡洋艦「青葉」水兵になっていた小学校の同級生・水原哲とも出会う。
 

苦しいながらも穏やかな暮らしが3月の空襲で破られる。そして、昭和20年の夏。8月6日へのカウントダウンが始まる。広島の隣町の、呉ですずは戦火をどう潜り抜けるのか…。ほのぼのとした穏やかな絵に滲むスリリングな予感が見る者を釘付けにする。
 


◆片渕須直監督(かたふち・すなお) 1960年8月10日、大阪・枚方市生まれ。

アニメーション監督、脚本家。日大芸術学部映画学科でアニメーション専攻。現国立東京芸術大学大学院講師。在学中に特別講師として来た宮崎駿監督と出会い、1989年宮崎作品『魔女の宅急便』の演出補に。その後、虫プロの劇場用アニメ『うしろの正面だあれ』の画面構成を務めた。1998年『この星の上に』はザグレブ国際アニメーション映画祭入選。1999年アヌシー国際アニメーション映画祭特別上映。2002年『アリーテ姫』東京国際アニメフェア長編部門優秀作品賞。2009年『マイマイ新子と千年の魔法』オタワ国際アニメーション映画祭長編部門入選。

 

(安永五郎)

kinmedaru-240-pre-2.jpg『金メダル男』 原作本 プレゼント!

  

★賞品名:映画『金メダル男』原作本

★プレゼント個数:4冊

★締切:2016年11月6日(日)

★公式サイト⇒ http://kinmedao.com/

★2016年10月22日(土)~全国にて大ヒット上映中!
TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば、TOHOシネマズ二条、T・ジョイ京都、イオンシネマ京都桂川、OSシネマズ神戸ハーバーランド、109シネマズHAT神戸ほか

 

 


 

 

秋田泉一の情けなくも愛おしい、七転び八起き人生が日本中をトリコにするっ!
内村光良×知念侑李×超豪華キャストが贈る、抱腹絶倒<全力>エンタテインメント!

 

内村光良&知念侑李(Hey!Say!JUMP)の豪華ダブル主演で贈る『金メダル男』が、10月22日(土)より全国公開いたしまして、ただいま大ヒット公開中です。

kinmedaru-500-1.jpgあらゆるジャンルで一等賞になることだけを生きがいにする、その男の名は秋田泉一。オリンピックイヤーに彗星のごとく現れた“金メダル男”が、この秋、とんでもないキセキを巻き起こす!内村にとって3本目の監督作となる本作は、2011年に上演された一人舞台「東京オリンピック生まれの男」がベース。監督のみならず原作・脚本・主演の4役を務め、まさに純度100%の内村ワールドを展開。

内村とW主演で若き日の泉一を演じるのは、かねてより内村に似ていると評判だった(?)、Hey!Say!JUMPの知念侑李。運動神経抜群の知念は、あらゆる種目にチャレンジする泉一にピッタリ!さらに波乱万丈の人生を送る泉一のパートナーとなるヒロイン・頼子を木村多江が演じるほか、驚きの豪華キャスト陣からも目が離せません。内村の熱烈なオファーにより実現した主題歌は、桑田佳祐の書き下ろし楽曲「君への手紙」!美しいバラードのメロディが、映画の余韻を彩ります。


 『金メダル男』

【出演】 内村光良 知念侑李(Hey! Say! JUMP)
木村多江 / ムロツヨシ 土屋太鳳 / 平泉成 宮崎美子 / 笑福亭鶴瓶
大西利空 大泉 洋 上白石萌歌 大友花恋 ささの友間 音尾琢真 清野菜名 竹中直人 田中直樹 長澤まさみ
加藤 諒柄本時生 山崎紘菜 森川 葵 ユースケ・サンタマリア マキタスポーツ 手塚とおる 髙嶋政宏 温水洋一(登場順)

【原作・脚本・監督】内村光良
【配給】ショウゲート


 (プレスリリースより)

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岡山の桃農家役にチャレンジ。「人のつながり、温かさを感じたままに表現した」
『種まく旅人 夢のつぎ木』主演、高梨臨さんインタビュー
 
第一次産業を応援する『種まく旅人』シリーズの第三弾、『種まく旅人 夢のつぎ木』が、10月22日(土)から岡山県先行ロードショー、11月5日(土)から大阪ステーションシティシネマ、T・ジョイ京都、11月12日(土)から109シネマズHAT神戸他全国順次公開される。
 
第一弾は大分県白臼市の有機お茶づくり、第二弾は兵庫県淡路島の玉ねぎ栽培と海苔養殖を描いてきたが、『種まく旅人 夢のつぎ木』では、岡山県赤磐市の桃農家を題材に、数々の地方を舞台にしたヒューマンドラマを世に送り出してきた名匠、佐々部清監督がメガホンをとった。
 
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東京で女優になる夢を諦め、兄亡き後は一人で桃農家を継ぎながら市役所で働くヒロイン彩音には、アッバス・キアロスタミ監督『ライク・サムワン・イン・ラブ』をはじめ、映画、ドラマと出演作が絶えない高梨臨。農林水産省から派遣された職員、治を今一番多忙な俳優の一人、斎藤工が扮し、二人が不器用に気持ちを通わせながら、挫折しても諦めず、つぎ木のように夢を膨らませていく様子が描かれる。薄暗い桃畑にオレンジ色の防蛾灯が灯る幻想的な風景や、たわわに実る桃の木、そして春には桜のように美しいピンクの色に包まれる桃の花。赤磐市の自然豊かな情景の中、地元の人たちと支え合いながらこの地に根を張って生きていく彩音を、高梨臨が等身大で演じ、共感を呼ぶ。第一弾で主人公を演じた田中麗奈や吉沢悠、農林水産省の上司を演じる永島敏行と、シリーズならではのつながりをさりげなく感じさせる演出も健在だ。
 
本作のキャンペーンで来阪した主演、高梨臨さんに、岡山県赤磐市での撮影や、「夢のつぎ木」というサブタイトルに込められた意味についてお話を伺った。
 

―――『種まく旅人』シリーズ第三弾であり、岡山の桃農家を題材にした物語ですが、最初オファーされた時の印象は? 
高梨:脚本を読んだときに、人と人とが関わっていく温かい話だと感じました。私は岡山県には行ったことがなく、桃畑の風景も想像できなかったですし、小学校以来、農作業のような形で土を触ったことがなかったので、面白そうだなと思いながら、どんどん想像を膨らませていきました。他にも、脚本に書かれていた防蛾灯がどんな物か分からなかったのでインターネットで調べてみると、とても幻想的だったので、興味が湧きましたね。
 
―――実際にロケで舞台となる岡山県赤磐市に行かれて、どんな発見がありましたか?
高梨:桃の木は見たことがなかったのですが、接ぎ木をして、どんどん横に大きくなっていたのに驚きました。また、ロケのためにお借りした家から畑まで一本道で、撮影中は何度も往復していたのですが、そこを歩くだけで桃のいい香りがして、ワクワクしました。
 
 
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―――高梨さんが演じた彩音はどういう女性と捉えていますか?
高梨:本当に普通の人です。笑ったり、怒ったり何でもしますし、強い部分もあれば弱い部分もあって人間らしいなという印象です。佐々部監督からも、本当にナチュラルに演じてほしいと言われました。「彩音と高梨臨の中間で」と指示されていたので、桃についての知識はもちろん入れましたが、彩音を演じるための特別な役作りはせず、私そのまま。言うならば、「もし私が岡山に住んで、桃農家をやっていたら」という感じでしょうか。
 
―――クライマックスでは、ずっと彩音の様子を気にしていた地元の小学生が走り去るのを、ご当地の桃キャラクターに扮したままの彩音が追いかけるロングショットのシーンがあり、とても印象的でした。
高梨:暑い中、ももちゃん(赤磐市マスコットキャラクター、「あかいわももちゃん」)
の着ぐるみを着て走るのは大変なシーンではありましたが、ももちゃんにはすごく愛着があり、私の分身のように思っていたんですよ。赤磐市の備品で、元々は人が入っていない設定のキャラクターだったそうですが、映画で私が使わせていただいて解禁になったようです。ほぼ順撮りだったのですが、あのシーンでは撮影が終わりかけている淋しさを感じていました。リョウタ役の男の子が本気で走るので、私も走るのが好きですし、負けていられないと思って走りましたね(笑)。
 
―――彩音が桃の収穫や手入れをするシーンも多かったですが、地元の農家の方から手ほどきを受けたのですか?
高梨:収穫がほぼ終わった後に撮影に入ったので、実際には美術の方が包み直して下さったもので撮影したのですが、結構収穫しきれない桃が下に落ちていました。それほど収穫するのは大変だということを、実際に見ることができましたね。収穫の時期には、遠方に住んでいるご家族が手伝いに来られることも多いそうです。撮影中は毎日のように桃や、少し後の時期にはブドウなど本当に贅沢な果物の差し入れをいただきました。暑かったので、氷で冷やして持ってきてくださり、それがとてもパワーになりました。
 
―――映画からも赤磐市の方々が街ぐるみで応援されていることが伝わってきました。
高梨:エキストラの方もほとんどが赤磐市の方々が本当に暑い中協力してくださいましたし、市の職員の方とお食事しながらお話をしていても、映画に対する愛情や、赤磐市を盛り上げたいという話をしてくださいました。私も市長さんをはじめ、赤磐市の方の熱い思いを聞けるのはとても嬉しいですし、宣伝なども頑張らなければ!と思いましたね。
 
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―――東京からやってきた農林水産省職員、木村治役の斉藤工さんも普通の青年を独特のユーモアを交えながら演じていましたが、共演していかがでしたか? 
高梨:斎藤さんは面白いですし、安心できる空気感を作ってくださいました。くだらない話ばかりしていたのですが、私と斎藤さんの関係が、彩音と治の関係にもいい影響を与えているなと思います。たくさん会話をしたので、治がくだらないことを言って、彩音が呆れる等、自然とコミカルなテンポになっていきました。
 
―――佐々部組の常連俳優として、本作でも井上順さんが彩音の桃の取引先である酒屋役、や津田寛治さんが市役所の上司役で登場し、脇を固めていますね。
高梨:井上さんはすごく温かい方で、最初に「ご飯に連れていくから、場を作ってほしい」とおっしゃって、その場があったから佐々部監督ともさらにお話できるようになりましたし、みんなでご飯にも行くようになりました。太陽より明るいのではないかというぐらい、本当に明るい方でしたし、私にも気さくに話かけてくださいました。津田さんは、本当に課長ような感じで、彩音がちょっと舐めかかっている感じで接しているように、私も接することができました。優しいし、面白いし、津田さんが先に撮影が終わって帰られる時は淋しいぐらいでした。本当にいい上司でしたね。
 
―――本作はテーマが「夢」ですが、高梨さんご自身の夢や思い描いていることは?
高梨:とにかくやったことがないこと、知らないことには常にチャレンジしたいというモットーがあります。佐々部監督がおっしゃっていたのですが、本作は「夢のつぎ木」というサブタイトルがあります。彩音は東京で女優になるという夢を諦め、赤磐に帰ってきます。そこで、兄から受け継いだ桃があった。でも品種登録が許可されず心が折れてしまうけれど、斎藤さん演じる治に出会い、また桃を頑張ろうという新しい夢がつぎ木のように生まれ、また伸びていく。それはとても素敵だと思います。夢は必ずしも全てが叶うものでもなければ、達成できないこともたくさんありますが、それは別の夢に向かうような種を撒いているのかもしれません。ダメだったところからつぎ木をして、新しい芽が見えたらいいなと思っています。一つ一つの出会いを大切にしようと、この映画を通じて感じました。
 
―――普通は一度枝が折れてしまうと、挫折してしまいますが、とてもポジティブなメッセージですね。
高梨:「ここはどこですか?」「赤磐です。」というのが一つのキーワードになっているのですが、脚本を読んでいるときはピンとこなかったのです。でも、撮影で3週間赤磐市に滞在し、赤磐市の皆さんと触れ合い、お話するうちに、「ここはどこですか?」「赤磐です。」だけで成立するものを感じました。すごく素敵な街でしたね。
 
―――高梨さんは、20代前半でアッバス・キアロスタミ監督『ライク・サムワン・イン・ラブ』、後半で『種まく旅人』に出演され、それぞれご自身のキャリアにも大きな影響を与える作品になったと思います。高梨さんにとって、どのような位置づけの作品と捉えていますか?
高梨:アッバス・キアロスタミ監督の時は脚本も説明もなく、言われるがままに演じていたので、監督に上手く転がされてヒロインの明子が作られていきました。キアロスタミ監督に騙されましたね(笑)。本当にそのままの私で、とても素の自分に近い話し方や反応をしていました。当時は作品を観ても「なんだ、これは」と思ったのですが、数年後見返した時に、このお芝居は、やろうとしてもできないということに気付いたのです。いつでも撮影当時のフラットな状態に戻せるつもりでいたのですが、久しぶりに観ると、これが「自分の中の最高の芝居ではないか」と思うことがあります。それを越えたいと今も頑張っている感じですね。『ライク・サムワン・イン・ラブ』は私にとって運命の作品。これをきっかけにご縁をいただいて、仕事をたくさんさせていただくようになり、知らないうちに色々な技術が身についてきたと思います。
 
今回久しぶりに佐々部監督のような名匠の作品に出演することになり、芝居をフラットにし、監督が余分なものをそぎ落としてくれました。リセットしてくれた作品ですし、とても貴重なものになったと思います。
 
―――最後にメッセージをお願いいたします。
高梨:この映画は桃農家に関することも盛り込まれていますし、岡山県の皆さんが大切に思ってくださる映画になればいいなと思います。誰が観ても楽しめるエンターテイメント性のある人間ドラマですし、岡山県赤磐市で撮影をして感じた、人と人とのつながりがとても密で、温かいからこそ感じるほっこりした部分を、私が感じたままに表現しました。みなさんにも、この映画の温かさを感じてもらえればうれしいです。
(江口 由美)
 

<作品情報>
『種まく旅人 夢のつぎ木』(2016年 日本 1時間46分)
監督:佐々部清
出演:高梨臨、斎藤工、池内博之、津田寛治、升毅、吉沢悠、田中麗奈、永島敏行、辻伊吹、海老瀬はな、安倍萌生他
10月22日(土)~岡山県先行ロードショー、11月5日(土)~大阪ステーションシティシネマ、T・ジョイ京都、11月12日(土)~109シネマズHAT神戸他全国順次公開
 (C) 2016「種まく旅人」製作委員会
 

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珈琲を飲む時間のように「明日も頑張ろう」と思える映画を
『函館珈琲』西尾孔志監督インタビュー 
 
 “映画を創る映画祭”として函館でスタートした「函館港イルミナシオン映画祭」から、シナリオ大賞映画化プロジェクト第一弾として誕生した映画、『函館珈琲』が10月29日(土)からシネ・リーブル梅田を皮切りに、関西ではイオンシネマ京都桂川、京都みなみ会館、元町映画館他順次公開される。  
 
大阪出身の西尾孔志監督(『ソウルフラワートレイン』)がメガホンをとり、いとう菜のはが同映画祭シナリオ大賞を受賞した脚本を映画化。函館にあるアーティストの卵が集う「翡翠館」を舞台に、夢と挫折の狭間でなんとか自分の居場所を見つけようとする30代男女の群像劇をしっとりとした映像で描写。どこか飄々としたクスミヒデオ(赤犬)の音楽や、テディーベア、とんぼ玉、ピンホールカメラの写真などが並ぶアーティストたちの住まいなど、アート好き、カフェ好きが和める雰囲気が漂う。ゆったり珈琲を片手に、肩の力を抜いて楽しめる作品だ。 
 
本作の西尾孔志監督に、このプロジェクトに関わった経緯や意義、脚本から浮かび上がらせたこと、函館で映画を撮った感想についてお話を伺った。  
 

―――本作を企画した函館港イルミナシオン映画祭(以下イルミナシオン映画祭)と接点を持ったきっかけは?  
西尾監督:イルミナシオン映画祭で『ソウルフラワートレイン』と『キッチンドライブ』を上映して下さったのですが、その時同映画祭のシナリオ大賞を受賞したのが、いとう菜のはさんのシナリオだったのです。映画祭に行くと、僕は関係者の皆さんたちと映画を観るのもさることながら、よく飲みに行くのですが、その席で受賞シナリオの監督をやってもらえないかと声をかけられたのが本作につながりました。 
 
 
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 ■社会に認められている自分という確たるものがないまま生きている30~40代を描く。 

―――実際に、受賞シナリオを読んでの感想はどうでしたか? 
西尾監督:自分も含め30~40代の人間が、「大人になる」ということが良く分からないまま、宙ぶらりんに生きている感じがあります。年を取ってきたので、大人の顔つきはしているけれど、社会に認められている自分という確たるものがないまま生きている。10~20代前半の人たちのこれから社会に出ていくドラマは昔からよくあるのですが、いとう菜のはさんの脚本は、30~40代が今どうやって社会で生きていこうかと考えている内容だったので、自分がやりたいテーマと合うと思いました。若い頃は感覚で動きますが、その年代は、まじめに考えすぎて身動きが取れなくなるのです。 
 
―――社会で一度挫折を経験したような年代の青春群像劇とも言えますね。 
西尾監督:菜のはさんとは受賞したシナリオから撮影用の脚本になるまで、かなりやり取りをしました。元々は登場人物それぞれがあまり対立しないので、小道具を盛り込んだりして登場人物が少し感情をぶつけ合う場面を書いては投げてというキャッチボールをしましたね。  
 
―――小道具といえば、皆が待っていた家具職人藪下の代わりにやってきた主人公、桧山は藪下が作った椅子を持ってきます。この椅子は藪下の不在を埋める重要な役割を果たしていました。
西尾監督:そうですね。その椅子には藪下を巡って過去にあったかもしれない様々なことを託しました。ファーストカットは椅子が荷物と一緒に運ばれるシーンです。時子や一子たちは座りますが、桧山はその椅子には座らず、ラストシーンも椅子で終わります。気付かない人も多いでしょうが、よく見ると「そういうことだったのか」と思えるように作り込んでいますし、桧山と先輩藪下との関係も新たな発見があるのではないでしょうか。  
 

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■函館は北海道のラテン。関西でのやり方で映画が撮れると確信した。 

―――西尾監督は今まで大阪で映画を作ってこられましたが、今回初めて函館で映画を作った感想は?撮りやすかったですか?
西尾監督:函館の映画は今まで割と「淋しい」とか「寂れている」という印象があったのですが、映画祭で出会った方たちは、みなさん陽気な方ばかりで、それこそ天神橋商店街のお好み焼き屋に入ったらいそうなおばちゃんとかがたくさんいらっしゃるんですよ。ぐいぐい来る感じで、函館の方自身も“北海道のラテン”と思っていらっしゃるようです。イルミナシオン映画祭の委員長も本当にムードメーカーですし、函館という街の温かさに触れ、僕が今まで関西でしてきたやり方で映画が撮れると思いました。とはいえ、関西色を盛り込み過ぎて、一度プロデューサーから怒られました。「登場人物が全員、関西人のノリになってる!」って(笑)。  
 
―――確かに、函館の方がそんなに陽気だというのは新たな発見ですね。西尾監督作品のカメラマンは今まで高木風太さん担当が多かったですが、今回は上野彰吾さんが担当されています。カメラマンが変わると、随分映画の雰囲気が変わりますね。 
西尾監督:撮影の上野彰吾さん、照明の赤津淳一さん、美術の小澤秀高さんという、この三人の力は非常に大きかったです。高木さんのように同年代の人たちとワイワイ作るという雰囲気ではなく、優しさの中にもどこかピリッとしたところもありました。僕の映画は軽いタッチが多いのですが、上野さんが撮ると重みとしっとりさが出るんです。また美術の小澤さんは、蔵のような場所を人が住んでいる場所に見事に変えて下さいました。 
 

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 ■「なんとなくいい話」より、帰ってからも思い出してもらえるシーンを盛り込んで。 

―――クスミヒデオさんの音楽は西尾さんらしさを感じましたが、今回のコンセプトは? 
西尾監督:音楽は僕の好みを表している部分なので、『ソウルフラワートレイン』から一緒にさせていただいているクスミさんにお願いしました。あまり欝々とした雰囲気にはしたくなかったんですね。上野さんのカメラはしっとりとしていますが、カット割りやカメラの感じ、音楽などの好みはしっかり加えたいなと。ちょっとあがきましたね。先ほどの椅子や音楽にこだわったりすることで、大量生産される地方の観光映画的な作品にはしたくなかったんですね。もちろん函館をいいイメージにしたいという気持ちはありますが、ただ単に風光明媚な場所が出てきたり、なんとなくしっとりとしたいい話で終わるより、映画として帰ってからも思い出すようなシーンを盛り込んでいきました。   
 
―――キャスティングですが、夏樹陽子さんが『翡翠館』館主役で出演されています。 

 

西尾監督:夏樹さんも『あいときぼうのまち』がイルミナシオン映画祭で上映されたときに、函館にいらしています。夏樹さんは最近インディーズ映画にもよく出演されていて、企画や脚本が良ければ出てくださるとのことだったので、読んでいただいて出演を快諾いただきました。  
 
―――劇中の台詞で「この街は流れる時間がちがう」とありますが、実際、函館の時間の流れ方をどう感じましたか? 
西尾監督:大阪とは全然違いますね。真ん中に路面電車が走り、和のテイストが入った洋館もたくさんあります。街の時間の流れ方が上品というか、ええ感じですね。冬になって雪が積もると、また雰囲気が変わります。それに港町なのであか抜けていますね。撮影前、2~3週間先に行って、しばらく住んでいましたが、もし別荘を持てるのなら、函館がちょうどいいなと。自転車で飲みに行けるところもあり、そこにきちんと文化があるという、コンパクトな規模感が本当にいいです。
 
―――今までとは全く違うスタッフとの映画づくりでしたが、それを通じて学んだことは?
西尾監督:プログラムピクチャーではないですが、職業監督なら誰もが経験することを僕は今回初めて経験させてもらいました。なかなか作品を客観視することができなくて、今回は今まで撮ってきたようなコメディじゃないので笑うシーンも少ないこともあり、きちんとお客様に作品が届いたのか分からなくてドキドキしましたが、公開初日に映画好きの友人が好意的なつぶやきをTwitterでしてくれていたのを観て、やっと安心しました。次はオリジナル脚本で映画を撮りたいですね。  
 

■みんなが悩んでいることを柔らかく取り込みながら、コメディー的作品を作りたい。 

―――それは楽しみです。オリジナル脚本の構想は既にあるのですか? 
西尾監督:全部で三本考えています。一つ目はこじんまりとしたコメディーで、都会からアートフェスティバルをしにやってきた人たちを田舎の街づくりNPOが食い物にされるのではなく、逆に食い物にしてしまうピカレスクロマン。二つ目は年代が違う4人の女性が団地で一人暮らしをするオムニバス。三つ目は60代になったらシェアハウスをして、有名アイドルオタク生活を続けようとする人たちのコメディーです。僕は社会をえぐるような硬派な作品を作るタイプでもないし、アートに近いような作家性を出すタイプでもありません。大阪育ちなので、目の前で生活している人の悲喜こもごもや、今みんなが気にしたり悩んでいることを柔らかく取り込みながら、コメディー的なパッケージで作品を作りたい。そういう方向が僕には向いていると思いますね。 
 
 
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 ■『函館珈琲』はイルミナシオン映画祭が資金、スタッフ集めから興行まで全て行った第一作。軌道に乗れば、他映画祭とは違う特色を打ち出せる。

―――西尾監督はCO2(シネアスト・オーガニゼーション大阪)の運営に携わっておられた時期があり、また本作はイルミナシオン映画祭から誕生した作品です。このような映画祭が次の時代の映画人を育てていく場所になればいいですね。 
西尾監督:イルミナシオン映画祭は受賞シナリオを映画化していますが、初期段階はグランプリをとった脚本を制作会社に渡して映画制作を行っていたそうです。今回初めてイルミナシオン映画祭がお金もスタッフも集めて作ったのです。そういう意味では、『函館珈琲』は自分たちで作った初めての映画で、みなさん本当に大変だったと思います。イルミナシオン映画祭は映画を作ると宣言し、もう2本目も制作中です。多くの映画祭は助成をしても一部で、残りは監督が負担することがほとんどなのですが、イルミナシオン映画祭はお金だけでなく、興行まで含めて全てやる訳ですから、気合が違います。この映画制作が軌道に乗っていけば、他の映画祭とは違う特色を打ち出せるのではないでしょうか。 
 
―――最後に、メッセージをお願いします。
西尾監督:『函館珈琲』は、珈琲を一杯飲むときの、立ち止まって考える時間や物思いにふける時間の大事さや、その時間そのものを映像にできればという気持ちで撮りました。忙しい生活の中、ほっと一息つきたいときに観ていただければうれしいです。人生をかけて気合を入れるような映画も大事ですが、アメリカのインティーズ映画の小品でよくあるような疲れない映画、明日も頑張ろうと思える映画がもっとあっていいなと思いますね。それこそ、昔のプログラムピクチャー的な作品がなくなっているのは、すごく勿体ないですから。
(江口由美)  
 

<作品情報> 
『函館珈琲』
(2016年 日本 1時間30分) 
監督:西尾孔志  
脚本:いとう菜のは 
出演:黄川田将也、片岡礼子他 
10月29日(土)からシネ・リーブル梅田、11月19日(土)、20日(日)イオンシネマ京都桂川、今冬京都みなみ会館、元町映画館他順次公開 
(C) HAKODATEproject2016 
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