「京都」と一致するもの

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アイルランド神話の不思議な世界へ冒険の旅にでた幼い兄妹が、悲しみを乗りこえ、家族の愛を取り戻すまでを描く感動のファンタジー、『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』が、8月27日(土)よりシネ・リーブル梅田ほかにて公開される。
 
これに先立ち、劇場公開記念トークイベント&展覧会が開催。本作を制作したのは、アカデミー賞に2度ノミネートされ、今最も注目を集めるアイルランドのアニメーション・スタジオ“カートゥーン・サルーン。その圧倒的な映像美を生み出した創作の秘密を解き明かす、ストリートボード、キャラクター設定、背景スケッチなど貴重な資料を展示する。
また8月27日(土)は、アイルランドフューシャ奈良書店の代表、荒木孝子さんによる“アイルランドの神話と民話”と題して、映画に描かれている世界を紐解くトークショーが開催される。そのほか、アイリッシュ・ミュージック・ユニットPooka(プーカ)によるアイルランド音楽の演奏も。映画の世界観を体感できるイベントだ。 
 

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★ソング・オブ・ザ・シー 海のうた展  8月19日(金)~8月27日(土)    ≪入場無料≫ 
日・月定休日/火・木・金 12:00~19:00/水・土 12:00~18:00  ※8/27のみイベントのため15:00にて営業終了
 
★ソング・オブ・ザ・シー 海のうた 公開記念イベント 8月27日(土)16:00~
TALK:荒木孝子(奈良アイルランド語研究会代表)
LIVE:Pooka 山本晴美(コンサーティーナ、フルート)、山本篤(イリアン・パイプス、ギター)
料 金:1,000円(1ドリンク付) ご予約:info@calobookshop.com ※お申込みはメールのみとなります
会 場:Calo Bookshop & Café カロ ブックショップ アンド カフェ (大阪市西区江戸堀1丁目8-24 若狭ビル5F)
 
◆◇◆荒木孝子◆◇◆ 「奈良アイルランド語研究会(通称フューシャ)」の代表。また「アイルランドフューシャ奈良書店」という小さな出版社の代表でもある。アイルランド語とアイルランドの童話と民話を研究、翻訳している。フューシャは、2015年10月にアイルランド語の童話作家コルマーン・オラハリー氏を、今年2016年2月にアイルランドの妖精物語の作家であり、世界的に有名な語り部であるエディ・レニハン氏を招聘したイベントを奈良、京都、広島、東京で開催した。現在、奈良大学非常勤講師。
 
◆◇◆Pooka◆◇◆ 山本晴美(コンサーティーナ、アイリッシュハープ、フルート他)/山本篤(イリアン・パイプス、ギター他)
イリアンパイプス、コンサーティーナ、フルート、ハープなどさまざまな楽器を2人で持ち替えながらアイルランドの伝統的なダンス曲やゆったりしたエアを演奏するユニット
 

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<作品紹介>
 
驚異の満足度99%!
アイルランド神話の不思議な世界へ冒険の旅にでた幼い兄妹が、悲しみを乗りこえ、家族の愛を取り戻すまでを描く感動のファンタジー!
【STORY】海ではアザラシ、陸では人間の女性の姿をとる妖精・セルキー。そのセルキーの母親と人間の父親の間に生まれた兄妹。妹が生まれた夜、母は家族を残して突然海へと姿を消してしまいました。そして妹シアーシャの6歳の誕生日、兄妹はおばあちゃんに町へ連れて行かれますが、そこで突然、シアーシャがフクロウ魔女マカの手下に連れ去られてしまいます。兄のベンは妹を救うため、消えゆく魔法世界へと不思議な旅に出発します…
 
『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』
吹替版声優: 本上まなみ 、 リリー・フランキー、  中納良恵(EGO-WRAPPIN’)/日本版テーマソング作詞・歌:中納良恵( EGO-WRAPPIN’)
監督: トム・ムーア 脚本:ウィル・コリンズ 音楽:ブリュノ・クレ、KiLA 後援:アイルランド大使館 
2014年/93分/アイルランド・ルクセンブルク・ベルギー・フランス・デンマーク合作 
©Cartoon Saloon, Melusine Productions, The Big Farm, Superprod, Nørlum 
 

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『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』
マリー=カスティーユ・マンシオン=シャール監督インタビュー

~ベテラン歴史教師の情熱、歴史を“体感”することが、生徒たちを変えていく~

 
近年、移民を含む多人種の子どもたちが在籍する学校現場を題材にした力強い作品がヨーロッパから誕生している。実話を基にしたマリー=カスティーユ・マンシオン=シャール監督のフランス映画『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』も、その流れの作品であるだけでなく、「歴史の継承」という大きなテーマを内在した作品だ。
 
<ストーリー>
貧困層が多く通うパリ郊外のレオン・ブルム高校に赴任した歴史教師アンヌ・ゲゲン(アリアンヌ・アスカリッド)は、落ちこぼれ学級の担任を任される。「退屈な授業はしない」と生徒たちに真摯に向き合うアンヌに対し、多人種の子どもたちが在籍するクラスでは言い争いが絶えない。歴史の奥にある真実を考えさせようとするアンヌの授業を受け、少しずつ変わってきた生徒たちを前に、アンヌは「アウシュビッツ」のことを発表する全国歴史コンクールへの参加を提案するのだったが……。
 
 

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寛容と威厳を兼ね備えたベテラン教師が、問題児呼ばわりされている生徒の集まったクラスを、「レジスタンスと強制収容についての全国コンクール」出場へ導き、生徒たちの成長を捉えた本作。ホロコーストという悲劇の歴史を、語り部として活動しているホロコーストの生存者、レオン・ズィゲル氏が証言するシーンもあり、観客も歴史の継承を体感できる。フランスの今を、クラス活動を通して描く部分も、非常に興味深く感じられるだろう。
 
フランス映画祭2016のゲストとして来日した本作のマリー=カスティーユ・マンシオン=シャール監督の上映後トーク(抜粋)と、インタビューをご紹介したい。
 

<上映後のトークより>
 
―――事実を基にした物語ですが、この題材との出会いは?
マリー=カスティーユ・マンシオン=シャール監督(以降、シャール監督):今回マリック役で出演しているアハメッド・ドゥラメさんは、高校生時代に映画の題材となっているプレテイユという街に住んでおり、映画の世界に入りたいと思い、シナリオを書いていたそうです。プロのアドバイスをもらうため、インターネットで調べ、色々な監督に連絡する中、私にも「脚本を読んでほしい」とメールが届きました。なぜこの脚本を書いたのか会って話を聞いてみると、アハメッドは「抵抗と習慣」に関するコンクールに出たことで、自分の人生が変わったと話してくれました。これは面白いと思い、一緒にシナリオを書くことになったのです。
 
 
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―――ゲゲン先生役にアリアンヌ・アスカリッドさんをキャスティングした理由は?
シャール監督:アハメッドさんと脚本を書いている時、実際にコンクールを指導していた先生に会い、アスカリッドさんと重なる部分がすごくありました。人間性豊かで、教師として皆をまとめて管理する一方、色々なことを伝えていかなくてはいけない。本物の先生はそういう立派さをもっており、それとつながる部分がアスカリッドさんにはありました。またお父様がレジスタンスで活動していたとお聞きしたので、是非ゲゲン先生役をやっていただきたいと思ったのです。
 

<インタビュー>
 
―――冒頭にスカーフを巻いた学生と先生が衝突するシーンがありますが、その意図は?
マリー=カスティーユ・マンシオン=シャール監督(以下、シャール監督): 教育委員会の方や校長先生にお話しを伺うと、毎日一番大変なことはスカーフ着用禁止に関する話し合いだそうです。宗教的なモチーフを学校に持ち込むことは禁止されているにも関わらず、生徒たちは持ち込もうとします。教育の場である学校に、宗教という教育以外のことが入ってしまう現状には、私自身も非常に驚きました。
 
今は人と人の間に宗教という障害物が介入している時代です。例えば日本では制服があり、貧富の差や宗教上の違い、社会的地位の違いなどは感じられず非常にシンプルです。残念ながらフランスの学校ではそのようなことはありませんので、教育を考える場合に、まずそのことを挿入することから始めたかったのです。
 
―――知の継承は本作のテーマの一つですが、記憶の継承で最も困難なこととは?
シャール監督:人に何かを伝える、受け継ぐという行為をするためには、まず理解をすることが必要です。遺産の場合は、家やお金を渡すだけで済むかもしれませんが、歴史の場合、そうはいきません。特にフランスの移民3世の人たちは、親もフランス生まれであるのに自分たちがフランス人だと思っていない人が多いのです。それは、彼らがしっかりとフランスの歴史を相続できていないことに問題があります。つまり移民3世の人たちとフランスの遺産を分かち合えていないのです。そういう意味でも「受け継ぐ」という行為は非常に大事です。
 
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―――子どもたちのクラスでの様子やゲゲン先生とのやりとり、大会に向けてワークショップをする様子などを、ドキュメンタリーのようなタッチで描かれていますね。
シャール監督:この映画の中で唯一ドキュメンタリーと言えるのは、(少年時代、アウシュビッツから奇跡的に生き延びた)レオン・ズィゲル氏が証言をしてくれるシーンです。ズィゲルさんに関しては、演技指導も一切しませんでしたし、台詞もつけていません。ズィゲルさん自身の言葉で語っています。それ以外は全て脚本で台詞をつけています。ただ、ドキュメンタリーのように見える手法をとった理由は、観客がクラスの他の生徒と一緒に参加するような気持ちで、映画を観てもらいたかったからです。そのため、カメラを数台使い、接写だけでなく、引いてクラス全体が見えるシーンを組み合わせ、ドキュメンタリーのような手法を使いました。ドキュメンタリーというより、真実を見せるためという意味で、このように撮影しています。
 

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―――真実を見せるという部分では、脚本を練る段階で監督自らが高校に足を運び、教育現場の今を取材されたそうですね。今の高校生は、監督ご自身が高校生だった頃と比べてどのような違いがありましたか?
シャール監督:本当に違いますね。生徒たちの話し方や、友達との関係性、男子生徒と女子生徒の関係性も違いますし、それ以上に先生に対する態度が全く違います。かつて先生は威厳のある存在で、先生の言うことは嫌でも聞かざるを得ない部分がありました。でも、今の先生は生徒が言うことを聞かないと悩んでいる人が多く、先生の発言に対して「それは違います」と生徒の反対意見がすぐに返ってきます。その状況に私は大変ショックを受けましたし、それ以上にどうして今の教育現場は先生の威厳が損なわれた状況になっているのか、どうしたら変わるだろうかという部分に自分の注意が向いていきました。その答えを、映画で表したわけです。
 
―――多人種の生徒たちが集まったクラスでのやり取りは、時には人種差別を感じさせるものもありましたが、これも教室での真実なのでしょうか?
シャール監督:子どもたちはいつの時代も残酷なもので、私も小さい頃は赤毛だということでからかわれましたが、成長の過程で起こるものと捉えています。育って成長していくうちに変わっていくでしょう。色々な違いを越えて、一つのまとまりのあるクラスになっていく。それを映画で再現することに努めました。問題を語ることは簡単ですが、それがどうすれば良くなるかを語ることは難しい。私はよく「日常のヒーローは先生だ」と話します。何でもないことでも、きちんと答えを用意してくれる。本作では、そんな先生のことを描いています。
 
―――映画の中でホロコーストの証言をしたレオン・ズィゲル氏は本作をご覧になりましたか?また、語り部として活動されているズィゲル氏は、本作に対しどのような思いを持っておられましたか?
シャール監督:本作を観てくださいました。ズィゲル氏の話をすると、感動しすぎてしまうので、驚かないでくださいね。最初、映画に出演依頼をしたとき、「なぜ録音音源やビデオ映像を使わないのか。なぜ映画に出なくてはいけないのか」と全く理解をしてくださいませんでした。元々映画をご覧にならないそうで、映画に出演する意味を感じられなかったそうです。全く相いれない感じでしたが、時間をかけて説得していきました。映画を通せばもっと多くの人にズィゲル氏が今まで語ってこられた「人生の闘い」を伝えることができる。また若い人に戦争は二度とあってはならないと伝えることもできると、私は説得したのです。
 
結局ズィゲル氏は映画を二度観てくださいました。ズィゲル氏の奥様をはじめ、息子さんやお孫さんも一緒に観てくださったのですが、その息子さんがこの映画をいかに誇らしく思うか態度で示してくださいました。また観客のリアクションからも、なぜその場面でズィゲル氏自身が登場しなくてはならなかったのかを瞬時に理解してくださいました。レオン・ズィゲル氏の体験を受け継ぐことが、この映画の中でできたのだと思っています。
(江口由美)
 

<作品情報>
『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』“Les Héritiers”
(2014 フランス 1時間45分)
監督:マリー=カスティーユ・マンシオン=シャール
出演:アリアンヌ・アスカリッド、アハメッド・ドゥラメ、ノエミ・メルラン、ジュヌヴィエーヴ・ムニシュ、ステファン・バック
2016年8月6日(土)~YEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町、角川シネマ新宿、8月13日(土)~テアトル梅田、今秋~京都シネマ、元町映画館他全国順次公開
公式サイト⇒http://kisekinokyoshitsu.jp/
(C) 2014 LOMA NASHA FILMS - VENDREDI FILM - TF1 DROITS AUDIOVISUELS - UGC IMAGES -FRANCE 2 CINEMA - ORANGE STUDIO
 
 
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戦後70年の2015年夏に公開され、第89回キネマ旬報ベスト・テン「日本映画ベスト・テン」第2位、第70回毎日映画コンクール監督賞&男優主演賞をW受賞するなど好評を得た塚本晋也監督&大岡昇平原作の映画『野火』が、今夏、東京・渋谷ユーロスペースほか全国24カ所でアンコール上映される。
 
塚本監督の「『野火』を戦後70年だけで終わらせたくない」という思いと、劇場側の「終戦記念日にまた上映したい」という思いが合致して実現したアンコール上映。昨年7月25日の公開を皮切りに全国83館で上映され65館(7月15日現在)を塚本監督が行脚したが、引き続き今回も各地で舞台挨拶を行い、観客との対話を重ねていく予定だ。
 
《塚本晋也監督のコメント》
映画『野火』は、製作当初から毎年終戦記念日で上映されるような映画にしたいと思っていました。
その思いは全国各地でお客さんと接し、より一層強くなっていきました。
昨年は戦後70年とあって戦争を考える機会が多かったですが、戦後71年の夏もその熱を継続して持ち続けていただき、有意義な上映にしたいと思っています。
 
『野火』 戦後71年アンコール上映
<関西>
シネ・ヌーヴォX 、塚口サンサン劇場(8/6~8/19)
シアターセブン(8/13~8/26)
神戸朝日ホール(8/19~8/20、8/20家永知史さん舞台挨拶あり)
京都シネマ(9/10~9/16、9/10塚本監督舞台挨拶あり)
豊岡劇場(9/10~9/16、9/11塚本監督舞台挨拶あり)
 
さらに7月24日(日)には衛星放送「WOWOW」でテレビ初放映、8月5日には自主製作から自主配給に至るまでのすべてをまとめた「塚本晋也『野火』全記録」(塚本晋也・著。洋泉社・刊)も発売される。戦後71年の今年も映画『野火』を通して、戦場を”体感”し、戦争について考える機会にしてほしい。
 

【戦後71年の映画『野火』関連情報】
●WOWOWでテレビ初放送 7月24日(日)21:00、7月30日(土)1:15
 放送に合わせて『鉄男』など旧作11作を放送する「映画作家・塚本晋也特集」を7~8月に実施
 
●衛星劇場「戦争と映画2016〜戦後・70年ミニシアター精選作品〜」特集の中で放送
 8月1日(月)18:30、13日(土)13:00、18日(木)12:00
 
●Blu-ray&DVD発売中!
 BD/DVD映像特典として中篇ドキュメンタリー『野火』(監修:塚本晋也)を収録
*「SHINYA TSUKAMOTO Blu-ray SOLID COLLECTION」と題し、6月から3ヶ月連続で旧作8タイトルをニューHDマスターにより初Blu-ray化で発売中。また『野火』及びSolid Collection全作品デジタル配信中
 
●Blu-ray発売記念・オールナイトイベント
池袋・新文芸坐にて「塚本晋也の世界 ~進化する激情~」8月27日(土)22時30分〜  トーク:塚本晋也監督他
上映作品:『鉄男 TETSUO』(89)、『東京フィスト』(95)、『六月の蛇』(02)、『ヴィタール』(04)
 

●書籍「塚本晋也『野火』全記録」(塚本晋也・著)が8月5日(金)に発売
 「終戦70年で終わらせたくない。“戦争という地獄”」(塚本晋也)
 
《主な内容》ヴェネチア国際映画祭、騒然! 完全自主製作・自主配給映画のすべて
●塚本晋也超ロングインタビュー
●絵コンテ、秘蔵メイキング写真、スタッフインタビュー全網羅
●熱狂の1年! 日本全国『野火』全国劇場行脚64館全掲載 
 ・関連座談会:ミニシアターの楽しみ方 
塚本晋也×評論家・柳下毅一郎×写真家・中馬總
●『野火』を通して見つめた日本映画の今、変動する世界の映画地図
 ・ミニシアター篇座談会 
  塚本晋也×ユーロスペース・北條誠人支配人×シネマ5・田井肇支配人×シネマテークたかさき・志尾睦子総支配人
 ・海外映画祭篇座談会
  塚本晋也×市山尚三(東京フィルメックス・プログラムディレクター)×相原裕美(映画祭コーディネーター)
 
《仕様》
■A5判型:ソフトカバー■272ページ
■定価:本体2,200円+税■洋泉社:刊
 
 

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『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』マリー=カスティーユ・マンシヨン=シャール監督トークショー
 
貧困層が暮らすパリ郊外の高校の問題児クラスが、ベテラン歴史教師に導かれ「アウシュビッツ」という難しいテーマの歴史コンクールに参加し、生まれ変わる様を実話を基に描いた『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』。8月6日からの劇場公開を前に、6月27日フランス映画祭2016で上映が行われ、上映後はマリー=カスティーユ・マンシヨン=シャール監督によるトークショーが行われた。日本の観客の皆さんがどう観て下さるのか、感想を聞くのを楽しみにしていたというシャール監督。高校三年生だったアハメッド・ドゥラメさん(本作でもマリック役で出演)が監督に送った自らの体験による脚本が全ての始まりだったという本作のメイキング秘話や、アウシュビッツの生存者として歴史を継承する語りを行っているレオン・ジゲルさんが作品に参加したことにより生徒たちに与えた影響など、たっぷり語ってくださった。その模様をご紹介したい。
 

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―――事実を基にした物語ですが、この題材とどうやって出会い、映画化に至ったですか?
マリー=カスティーユ・マンシヨン=シャール監督(以降、シャール監督):前作で『はじめてのとき“MA PREMIERE FOIS”』という映画を撮りましたが、そこでも若い男の子が出演しています。今回マリック役で出演もしているアハメッド・ドゥラメさんが高校生の時、私の映画を観てくれました。彼は当時高校三年生で映画が大好きでしたが、この映画の題材となっているプレテイユという街に住んでおり、あまり映画文化に触れられない中、自分の中でその思いを高めていたのです。彼は映画の世界に入りたいと思い、実際にシナリオを書いていました。プロに見てもらいアドバイスが欲しいと、インターネットで調べた色々な監督にメールを出したのです。私にも「脚本を読んでほしい」とメールが届いたので、了承し読んでみました。映画で取り上げたのではないコンクールでしたが、それをきっかけに学生がポジティブに生きているという内容でした。そこで、なぜこの脚本を書いたのか会って話を聞いてみたいと思ったのです。アハメッドさんは「抵抗と習慣」に関するコンクールに出たことで、自分の人生が変わったと話してくれました。これは面白いと思い、一緒にシナリオを書くことになったのです。
 

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―――出演者のアンサンブルが素晴らしかったです。主な出演者はどのように選ばれたのですか?
シャール監督:オーディションを2種類行いました。プロの俳優用と、現場に行き学校で声を掛けるという方法のオーディションです。舞台となっている郊外のクレデイユで探しました。結果的に出演者の半分は少し経験のある若い俳優で、半分は高校生です。夏休み中に映画に出てみたいという人が含まれています。オーディションでは全員に会い、特に個々のパーソナリティーをしっかり見ました。シナリオを書いている時は、今の高校2年生を取材したのですが、それと同じ多様性のあるクラス、今の高校と同じようなクラスという形にしたかったので、それぞれのキャラクターが非常に有用でした。
 
 
―――最初にこの映画でアウシュビッツという言葉が字幕に出てきますが、フランス語ではどういう言葉を使っているのでしょうか?
シャール監督:アウシュビッツという言葉はフランス語でもきちんと使っています。今、子どもたちは色々な情報や映画、テレビ番組があるにも関わらず、ショアやアウシュビッツが本当に何なのかよく分からないのです。このコンクール(レジスタンスと強制収容についての全国コンクール)は防衛省が主催しており、毎年5万人の生徒が参加しています。若い世代にアウシュビッツを忘れてもらわないためのものです。
 
 
―――ゲゲン先生役のアリアンヌ・アスカリッドが素晴らしいですが、キャスティングの経緯は?
シャール監督:はじめからアリアンヌ・アスカリッド考えていたわけではありません。アスカリッドさんはロベール・ゲディギャン監督作品ばかりに出ており、私の作品には出てくれないだろうと思っていましたが、たまたま会い、シナリオを読んでもらうことができました。アハメッドと脚本を書いている時、実際にコンクールを指導していた先生に会い、アスカリッドさんと重なる部分がすごくあったのです。人間性豊かで、教師として皆をまとめて管理する一方、色々なことを伝えていかなくてはいけない。本物の先生はそういう立派さをもっており、それとつながる部分がアスカリッドさんにはありました。またお父様がレジスタンスで活動されていたとお聞きしたので、是非ゲゲン先生役をやっていただきたいと思ったのです。
 
 
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―――荒れていた生徒たちが真剣に取り組むようになったのは、先生のすばらしさであり、理性的な判断と学生たちの気持ちを理解する姿勢でした。特に、情緒的な人間関係の大切さを知るという意味で、ショアの生き残りの人たちの話、記念館を見ることに監督の力点があったのでしょうか?
シャール監督:今回、脚本だけでなく本作に出演したアハメッドは両親がマリ出身です。今まではフランスの学校で歴史を知っても、自分の歴史と思えなかったけれど、このコンクールを通して歴史を感じられるようになったと話してくれました。それはアハメッドだけでなく、他の生徒も感じていることです。レオン・ジゲルさんは元々高校で自分の体験を語ってくれていましたが、映画にも出演してほしいとお願いし、当時クラスで聞いたのと同じ話をしてもらいました。それによって、生徒たちが歴史を自分のものと感じることができるようになったのだと思います。
 
アハメッドはまた、コンクールに参加することにより、教室の他の人にも目を向けることができるようになったと言っていました。皆で同じプロジェクトに取り組むことで、周りと話し合い、理解をするようになるのが先生の狙いでした。レオンさんが話をすることで、歴史が本でもドキュメンタリーでもなく人間になったのです。彼は、「私があなたたちの年の頃こんなのだった。生きるとはどういうことか、仲間を大事に知るとはどういうことか。ありふれた人種差別をやめるように。肌の色や宗教で差別することをやめよう」と語ります。その話を聞いた全ての生徒が、歴史を理解することができるようになったのです。
 
 
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―――アハメッドさんとの共同作業や、彼が学んだこと、監督自身が刺激されたことは?
シャール監督:まず、アハメッドをよく知ることから始めました。文化も宗教も皮膚の色も性別、年齢も違いますから。この物語はとても面白いと思ったので、彼が体験したことをそのまま映画にしたいと思い、彼の自宅で何時間も過ごしましたし、彼が何を好きなのか、映画はどういうものを見るのか、質問、観察をし、協力し合いました。私が一つのシーンを思いついて書いたら、彼にアドバイスを求め、今の高校生がそのような言い方をするかどうかチェックしてもらい、ピンポンのようなやり取りをし続けました。アハメッドは俳優希望だったので、大学入学資格試験(バカロレア)で合格したら出演させてあげるという条件をつけました。受かるかどうかドキドキしましたが、無事合格できてよかったです。
 
 

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―――アドリブの部分をどれぐらい入れたのでしょうか?またこの映画を作るのに、どれぐらいの時間をかけたのでしょうか?
シャール監督:オーディションに6カ月、準備に8週間、撮影に8週間かけました。生徒たちが自発的に話し、イキイキした場面が重要でしたので、全くリハーサルをしなかったシーンもありました。ゲゲン先生が「コンクールに参加しましょう」と言ったときに学生たちが矢継ぎ早に質問をし、冗談を交えるシーンは、完全なアドリブです。重いテーマですが、その中にもユーモアがある彼らの様子を、検閲のようにチェックはせず、使っています。また、カメラは常に3台用意し、自発的に出てきたものを捉えるようにしています。レオン・ジゲルさん(アウシュビッツの生存者)の語りのシーンは完全に本当の講演でした。4台のカメラで1回撮りをし、高校生たちの生の反応を捉えたのです。
(写真:河田真喜子 文:江口由美)
 

<作品情報>
『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』“Les Héritiers”
(2014 フランス 1時間45分)
監督:マリー=カスティーユ・マンシヨン=シャール
出演:アリアンヌ・アスカリッド、アハメッド・ドゥラメ、ノエミ・メルラン、ジュヌヴィエーヴ・ムニシュ、ステファン・バック
2016年8月6日(土)~ヒューマントラストシネマ有楽町、角川シネマ新宿、8月13日(土)~テアトル梅田、今秋~京都シネマ、元町映画館他全国順次公開
公式サイト⇒http://kisekinokyoshitsu.jp/
(C) 2014 LOMA NASHA FILMS - VENDREDI FILM - TF1 DROITS AUDIOVISUELS - UGC IMAGES -FRANCE 2 CINEMA - ORANGE STUDIO
 
フランス映画祭2016(東京会場)は、6月24日(金)~27日(月)有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ日劇にて開催。以降、大阪、京都、福岡会場にて順次開催
 
 

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イザベル・ユペール団長を前に浅野忠信、是枝監督、深田監督も感動しきり!フランス映画祭2016、華々しく開催!
 

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今年で第24回を迎えるフランス映画祭2016が24日17時から有楽町朝日ホールで開幕し、オープニングセレモニーでは満席の観客を前に、イザベル・ユペール団長他豪華ゲストに、日本人ゲストも加わり、映画祭に向けての熱いメッセージが多数寄せられた。
 
最初に登壇したユニフランスのイザベル・ジョルダーノ代表は「今年も多種多様な映画を楽しんでいただけると思う。今回は12の新しい作品とジャック・リベットの作品をご紹介します。世界有数のキャリアを持つイザベル・ユペール団長の特別映像をまずはお楽しみください」と挨拶。特別映像で懐かしい出演作の数々を目に焼き付けてから、大きな拍手の中登壇したのは、会場もお待ちかねのフランス映画祭2016団長のイザベル・ユペール(『愛と死の谷』『アスファルト』出演)。
 
 

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深紅のジャケットに、タイトな黒のパンツ姿で登場したイザベル・ユペール団長は、「こんばんは。私とても幸せです」と日本語で挨拶した後、「次はもっと(日本語が)上手になってきます。日本で撮影すれば日本語を学ぶことになるので、ぜひ日本で撮影したいです。フランス人は日本の映画が大好きですから。24回目のフランス映画祭オープニングに来場でき、とても幸せに感じています。日本でこれだけフランス映画が好まれているのは、感受性が高く注意を向けて愛して下さる皆さんのおかげです。私は日本文化がとても好きで、日本を身近に感じています。私は溝口、黒澤、大島、小津の映画を観て育ちました。また、三島由紀夫原作の作品にも出演しています。ジョセフ・ロゼのマスという映画で、京都や富士山の近くで撮影することができた。また、河瀬、是枝監督、深田監督の作品もよく観ています。会場がこんなに埋まっていることは私にとっても、みなさんに撮ってもとてもうれしいことです。良い映画祭となりますように」と日本への関心と愛情あふれるコメントに、客席からも大きな拍手が。引き続き登壇したスペシャルゲスト、是枝裕和監督から熱い抱擁のあと花束を受け取ると、笑顔で客席からの歓声に応えた。
 
 
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是枝監督は「フランス映画祭2016開催、おめでとうございます。この場にこういう形でユペールさんに花束を渡す役を仰せつかり、とても光栄に思っています。一昨年、モロッコのマラケッシュ映画祭で大々的に日本映画の特集があり、僕が団長だったときに、壇上で僕らを迎えてくれたのがユペールさんでした。今回はその反対で、ユペールさんが日本に来て下さったので、僕が駆け付けなければ誰が駆け付ける!という気持ちで来させていただきました。フランス映画史そのもののような女優さんですが、今回上映される『愛と死の谷』はシリアスな元夫婦の話、『アスファルト』はファンタジーとコメディー色があり、どちらも彼女の存在がなければならない映画です。ぜひ皆さんもご覧ください。
 
黒沢清監督がフランスで撮った映画も公開され、映画人の日本とフランスの共同製作は増えていくべきだと考えています。僕もそういう懸け橋、お互いの映画が交流し、刺激し合い、新しい映画がどんどん生まれることを願っています。お互いの国にとって大事な時間になると思いますので、ゲストも楽しめるような素敵な時間をみんなで作っていければ」と、上映作品にも触れながら感動的な挨拶を行い、ユペール団長も感動の面持ちだった。
 
 
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引き続き、来日ゲストが紹介され、フランソワ・ファヴラ監督(『ミモザの島に消えた母』)、ローラン・ラフィット(『ミモザの島に消えた母』主演)、ウニー・ルコント監督(『めぐりあう日』)、ロッド・パラド(『太陽のめざめ』主演)、マリー=カスティーユ・マンシオン=シャール監督(『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』)、ルシール・アザリロヴィック監督(『エヴォリューション』)ら、総勢12名の来日ゲストが揃い、檀上は一気に華やかさに包まれた。さらに、カンヌ映画祭ある視点部門審査員賞受賞の『淵に立つ』深田晃司監督と浅野忠信(主演)がスペシャルゲストとして登壇。

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「『淵に立つ』は日本とフランスの合作ですし、フランス映画をずっと観てきましたので、このような場に呼んでいただいたことを非常にうれしく思います。イザベル・ユペールさんは一映画ファンとして高校の時から見続けており、同じ壇上に立てるのは夢のようです。日本人はフランス映画が大好き、フランス人も日本の映画を愛してくれているが、両方がもっと近づけるはず。一つ一つの活動を通じて、よりフランスと日本の結びつきが強くなることを期待しています」(深田)
「イザベル・ユペールさんの大ファンで10年前もお会いしたのですが、今日もうれしくて。何しろイザベルさんに会えますから。是非深田監督に、ぼくとイザベルさんを起用した映画を作ってもらいたい」(浅野)と、憧れのイザベル・ユペール団長を前に個性溢れるスピーチを披露した。
 

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オープニング上映となる『太陽のめざめ』上映前には、同作のエマニュエル・ベルコ監督よりメッセージが読み上げられた。
「私はクロード・ミレール監督の『ニコラ』で日本を訪れましたが、非常に温かい歓待を受けたことを覚えています。日本の観客の皆さんにお会いできる機会を逃したのがとても残念ですが、作品を観て、主人公マロニーを愛してくださることを期待しています。マロニーを演じるロッド・パラドは(本作を日本に紹介する)最高の大使です。皆さまのことを強く思っています」
 
また、フランス本国では新世代のアラン・ドロンとの呼び声も高く、本作の大ヒットでセザール賞有望男優賞、リュミエール賞有望男優賞を受賞したロッド・パラドは「東京にきてこの映画を紹介することができ、とてもラッキーです。よい夕べになってくれたらと思います。東京に来ることが出来、本当にうれしいです」と挨拶した。
 
写真:河田真喜子 文:江口由美
 

フランス映画祭2016は、6月24日(金)~27日(月)有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ日劇(東京会場)にて開催!
 
 
 
 
 
 
 
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豪華ゲストが勢ぞろいするフランス映画祭2016が、東京会場は6月24日(金)から27日(月)までの4日間、有楽町朝日ホールおよびTOHOシネマズ 日劇で開催される。
今年の団長は、10年ぶりの来日となるイザベル・ユペール。ジェラール・ドパルデューと久々の共演で元夫婦役を演じる『愛と死の谷』、郊外の団地を舞台にした出会いと奇跡の物語『アスファルト』の2本に出演、上映後のトークや、舞台挨拶が予定されている。
 
クラッシック1本を含む13本が上映されるフランス映画祭2016のオープニングセレモニーでは、上映作品の監督、俳優ゲストに加え、スペシャルゲストとして、今年5月のカンヌ国際映画祭<ある視点>部門に最新作『海よりもまだ深く』が正式出品された是枝裕和監督、さらに最新作『淵に立つ』が、見事今年のカンヌ国際映画祭<ある視点部門>の審査員賞に輝いた深田晃司監督、主演の浅野忠信も登壇予定だ。
 
 
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オープニングセレモニー後上映されるのは、カトリーヌ・ドヌーヴが厳しい状況に置かれる少年を導く判事役で見事な存在感をみせる主演最新作『太陽のめざめ』。注目新人のロッド・パラドをはじめ、ブノワ・マジメルらが体当たりの演技をみせるヒューマンドラマだ。また、同作監督のエマニュエル・ベルコがカンヌ国際映画祭女優賞を獲得した男女のあまりにも激しい10年間の恋愛、夫婦生活を描いた『モン・ロワ』。『ニンフォマニアック』の色情狂ヒロイン役が話題となったステイシー・マーティン主演、ムンバイ同時多発テロの実話を基にした『パレス・ダウン』、『エコール』のルシール・アザリロヴィック監督最新作『エヴォリューション(仮)』など、話題作が目白押しだ。
 
福岡、京都、大阪会場でも、必見作がラインナップ。夏目前、フランス映画をぜひ堪能して!
 
フランス映画祭2016公式サイト → http://unifrance.jp/festival/2016/
 

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家族の歴史を、カンボジア悲劇の40年の歴史と重ねて『シアター・プノンペン』ソト・クォーリーカー監督インタビュー

~映画館に残されたフィルムが語る、封印された母の過去と、美しきカンボジア~

 
第27回東京国際映画祭で国際交流基金アジアセンター特別賞を受賞したカンボジア映画、『シアター・プノンペン』(映画祭上映タイトル『遺されたフィルム』)が、7月2日(土)より岩波ホール、8月13日(土)よりシネ・リーブル梅田で公開される。カンボジアのソト・クォーリーカー監督長編デビュー作であり、同国の女性監督で初めて海外で上映され、高い評価を受けている作品だ。
 

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<ストーリー>
プノンペンで暮らす女子大生ソポンは、病を患う母と、厳しい軍人の父のもと、息苦しさのあまりボーイフレンドと遊んでばかり。ある夜偶然たどりついた古い映画館で、自分とそっくりの少女が映る古い映画を目にする。映写技師のソカは、クメール・ルージュ時代に作られたラブストーリーだが、最終巻が欠けたため上映できなかったという。ソポンの母が主演女優を務めていたことを初めて知り、病床の母が生きる希望を取り戻すためにと、ソポンは映画の結末の撮影を敢行するのだったが…。
 
女子大生ソポンを主人公に、古い映画館に残る最後のフィルムが欠けた恋愛映画が、ソポンの両親の秘密とカンボジアの歴史を手繰り寄せていく様を描く意欲作。現代のプノンペンはもちろんのこと、ポル・ポト独裁政権時代、そして独裁政権以前の豊かで美しかった時代とカンボジア40年の歴史を、ある母娘の歴史と重ねて描く壮大な抒情詩でもある。被害者も加害者も、それぞれが苦しい思い抱え、封印していたカンボジアの過去の記憶とただ向き合うだけでなく、世代を超えて過去を共有するところに、ソト・クォーリーカー監督の狙いが感じられる。家族の秘密という視点から見れば、非常に普遍的なテーマを扱った作品とも言えよう。
 
来阪した本作のソト・クォーリーカー監督と実母でプロデューサーを務めるタン・ソト氏に、自身の生い立ちや、本作の狙い、クメール・ルージュ時代を題材にした劇映画を撮ることの意味について、お話を伺った。
 

―――クォーリーカー監督は73年生まれで、幼少期にクメール・ルージュの圧政やその後の独裁政権下を体験しておられますが、当時のことや生い立ちをお話いただけますか?
クォーリーカー監督:私は73年生まれなので、ポル・ポト政権が始まったときはまだ2歳でした。3~4歳の頃から両親と離され、児童収容所に入れられていました。当時、父はまさしく母の腕の中で亡くなりましたが、その遺体はすぐにクメール・ルージュの兵隊に収容され、私の中で父の記憶はほとんどありません。母は父が亡くなった時のことをなかなか話してくれず、14歳になるぐらいまで、ほとんど状況が分からなかったのです。
 
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―――初監督作で現代の若者を主人公にし、クメール・ルージュと向きあう劇映画にした理由は?
クォーリーカー監督:主人公ソポンと母親の関係を軸に、クメール・ルージュの時代と現代の2010年代を描きました。ソポンは、私自身であり、私自身の感情を内在させています。この映画では、状況から語る部分と、心理的側面から語る部分があります。状況面では、クメール・ルージュの酷かった時代から現代に繋いています。母娘が生きた時代を40年ぐらいのスパンで描いた背景には、私自身も家族の歴史を知りたい、カンボジアのクメール・ルージュの時代を含めた歴史を知りたいという気持ちがありました。
 

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―――タン・ソトさんはクォーリーカー監督のお母様で本作のプロデューサーでもありますが、娘がクメール・ルージュの時代を取り入れた映画を作ることに対し、どう感じましたか?
タン・ソトプロデューサー:『シアター・プノンペン』までに、クォーリーカーはドキュメンタリーでクメール・ルージュを扱った作品を何本か制作しましたが、基本的には外国のTV会社やジャーナリストと作ったもので、外国人が作ったものは心の部分を切り離し、事実だけで被害の甚大さを強調して終わってしまうことに不満を持っていました。それ以外には、『トゥーム・レイダー』のラインプロデューサーを手掛けましたが、いずれにせよ外国の会社の仕事をカンボジアサイドから手伝うというスタンスでした。
 
一緒に仕事をした人たちが口を揃えて「あなたの娘さんは、素晴らしい才能を持っている。外国人の仕事を助けるだけでなく、自分で作れる力量がある」と言って下さったので、2013年にイギリス人の脚本家、イアン・マスターズ氏が素晴らしい脚本を持ってきてくださったとき、カンボジアだけでなく世界で勝負できる作品を作れると確信しました。このチャンスは娘、クォーリーカーにとって非常にいいチャンスになるし、学びにもなると思い、金銭面も含めてこの映画の作成に力を注ぎました。撮影をしながら、クォーリーカーが自分の家族のことを学ぶだけでなく、カンボジアの半世紀に及ぶ紛争、内戦の歴史を学んでいることを非常に頼もしく思いました。一方、カンボジアの本当の歴史を知ることで、娘が苦しんでいることも感じたのです。ただ、当時を思い返すと、娘に家族の真実を知らせたくないというよりは、クメール・ルージュの時代が終わっても、カンボジア中で生きていくのが必死な時代だったので、家族の歴史を知らせることができなかったのが真相です。
 
 
―――映画館が時代の生き証人のような役割を果たしていますが、実際カンボジアで映画はどのような役割を果たしてきたのでしょうか?
クォーリーカー監督:クメール・ルージュなど内戦時代の前のカンボジアにおける映画の役割は、現実を忘れ、夢を見るための場所でした。また社会や文化について考える作品もありました。当時の映画業界は非常に豊かで、映画監督も大勢いましたし、映画館もたくさんあり、人々が多くの映画を楽しめる環境でした。さらに、シハヌーク国王が唯一古い時代のプロデューサー兼映画監督で、彼が作った初期の作品はカンボジアの美しい自然やアンコール王朝などの歴史を海外に示すようなものでした。当時の映画は、カンボジアの豊かさを象徴するものだったと思います。
 
クメール・ルージュの時代の映画は、政党のポリシーを国民に沁み込ませ、洗脳するような作品しか許可されませんでした。そして現在のカンボジアにおける映画の役割は、おおむね娯楽、しかもハリウッド映画が圧倒的に観客の支持を得ています。ハリウッド映画は質の高い娯楽ですが、社会的、教育的なものは少ないです。私にとっての映画は歴史をきちんと振り返り、他の人に分かってもらう。それは過去を掘り起こすことで、今、そして未来を良くするためのものです。クメール・ルージュの時代を直接知っている人と、若い世代とのコミュニケーションの一助にもなりますし、家族や友達同士のコミュニケーション、そしてカンボジアと諸外国とのコミュニケーションの大事なツールだと思っています。
 
 
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―――主人公のソボンと母の若い頃の一人二役を演じるマー・リネットさんがとても魅力的です。また、母親役のディ・サヴェットさんは60年代から活躍するトップ女優ですが、キャスティングの経緯や演出秘話をお聞かせください。
クォーリーカー監督:母親役のディ・サヴェットさんは早い段階で決まったのですが、ソポン役はなかなか決まりませんでした。今カンボジアでアクティブな役ができる女優がなかなかいないのです。カンボジアで生まれ、アメリカ、カナダ、フランスなどに住む人がたくさんいますので、周りからは国外でソポン役を見つけてはとアドバイスされましたが、私はカンボジアで生まれ育ったことにこだわりました。リネットさんはカンボジアのガールズグループに所属しており、最初はミステリアスな雰囲気を感じました。食事に誘い、映画のことを話す前に、彼女の個人的な話をじっくり聞くと、私と同様に父親を亡くした辛さを持っており、何か芯のようなものを感じたのです。ある程度ソポン役と見当をつけた段階で、6か月間私と共同生活をしてもらいました。例えば『エリン・ブロコビッチ』など、強い女性が主人公の映画を一緒に探して鑑賞し、その主人公の要素をどのようにカンボジア人女性のヒロインに注入していくか、または演じることについてなど、様々なことを話し合いました。
 
 
―――本作はクメール・ルージュ時代以前に作られたという設定の劇中映画も見どころです。非常に美しい自然の中、クラシカルなラブストーリーが展開しますが。
クォーリーカー監督:劇中で登場する『長い旅路』という映画は、クメール・ルージュ時代以前の美しく豊かな文化に恵まれたカンボジアを描いて観客に届ける“橋”です。カンボジア人として生まれ育つとアンコールワットや、豊かな自然を当たり前のように感じてしまうのですが、改めて古い映画を挿入することにより、カンボジアが持っていた良さを現代の観客に印象づけたかったのです。その後色々なことがあって壊れてしまいましたが、カンボジア人の心に残るべき深く、長く美しい遺産なのです。「過去を受け入れる」ことは、『シアター・プノンペン』の重要なテーマの一つですね。
 
 
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―――日本でカンボジア映画が劇場公開されることは今のところ稀ですが、この『シアター・プノンペン』で、クォーリーカー監督が特に日本の観客に注目してほしいところは?
クォーリーカー監督:日本の観客、特に若い世代の皆さんは、私たちカンボジア人とは違う体験を持っているので、押し付けることはできません。ただ、カンボジアの文脈で言えば私はこの映画を作ったことで、壊れた関係を修復する、異なる政治的立場の者の和解が実現することをポイントにしています。親世代からすれば、酷かった時代のことをあまり子どもに言いたくない。子世代は親世代が秘密主義、閉鎖的であることが分からないという関係になりがちなのをこの映画で壊し、対話の関係を作りたいと思っています。家族に限らず、壁を作って理解し合えないものを、話しあって解決していくという狙いを、日本の文脈で重なるものがあれば、感じてもらいたいです。
 
 
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―――最後に、日本の観客にメッセージをお願いします。
クォーリーカー監督:一つ目は、世代が違う場合の理解の欠如です。特に若い世代は親世代がなぜそのような言動をするのか分からないと感じるでしょうが、双方ともに歩み寄ることで距離を縮めることができるのではないでしょうか。
 
二つ目は、自国の歴史、文化を知ることです。自分がどこから来たか、どういう歴史的、文化的背景から生まれたかを知らなければ、自分自身が分からないし、今後何を選んで生きていくかが明確に分かりません。また過去の歴史から多くを学ぶこともできるはずです。
 
三つ目は、この映画は単純に「こちらは良い」、「こちらは悪い」とジャッジしていません。クメール・ルージュの時代を含め、時代背景や人間関係はとても複雑なので、作る私はその判断を避け、観る方に委ねています。大勢の人を殺りくしたクメール・ルージュ側の人間は、被害者にとっては殺したいほど憎い存在ですが、彼らも時代や社会の被害者です。単純な判断をする方が楽ですが、善悪を単純に決めないという態度や私の方針を知ってもらいたいのです。『シアター・プノンペン』は判決を下す映画ではなく、2014年のカンボジア・プノンペンを若者の視点から見せる、クメール・ルージュの時代を事実として見せる、そしてクメール・ルージュ以前の美しいカンボジアを見せています。そこから何を感じていただくかは、観る方のものなのです。
(江口由美)
 

<作品情報>
『シアター・プノンペン』“THE LAST REEL”
(2014年 カンボジア 1時間45分)
監督:ソト・クォーリーカー
出演:マー・リネット、ソク・ソトゥン、ディ・サヴェット、ルオ・モニー、トゥン・ソービー
2016年7月2日(土)~岩波ホール、8月13日(土)~シネ・リーブル梅田、今秋、元町映画館、京都シネマ他全国順次公開
公式サイト⇒http://www.t-phnompenh.com/
(C) 2014 HANUMAN CO. LTD
 

shokubutuzukan-bu-550.jpg“シーツ”に胸キュン!? 岩田剛典&高畑充希『植物図鑑 運命の恋,ひろいました』舞台挨拶

ゲスト:岩田剛典(EXILE、三代目J Soul Brothers)、高畑充希) 
(2016年5月21日(土)なんばパークスシネマにて)


『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』
■2016年 日本 1時間52分

shokubutuzukan-550.jpg■原作:有川浩(「植物図鑑」幻冬舎文庫)
■監督:三木康一郎  脚本:渡辺千穂 
■出演:岩田剛典(EXILE、三代目J Soul Brothers)、高畑充希、阿部丈二、今井華、谷澤恵理香、相島一之、酒井敏也、木下隆行、ダンカン、大和田伸也、宮崎美子
■公開:2016年6月4日(土)~大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹 ほか全国ロードショー
作品紹介⇒こちら

公式サイト: http://shokubutsu.jp/
■コピーライト:(C)2016「植物図鑑」製作委員会



~初主演・初共演のフレッシュカップルが醸し出す、至福のグリーン・タイム~

 

「僕を拾って下さい」「6か月だけ置いて下さい」と謎の多い樹(いつき)との期間限定の同居は、さやかの渇いた日常に新鮮な風を吹き込む。樹が教える多様な植物への関心の高まりは、さやかの恋心を成長させていく。童話のようなシンデレラ・ストーリーだが、そこには「純粋な気持ちだけが本物の関係性を創り出す」という愛を生み出す秘訣を優しく教えてくれる。樹が作る野草を使った数々の料理を美味しそうに食べるさやかの素直な心根もまた、樹の秘めた志を後押しする。そんな二人を見ているだけで、リフレッシュするようだ。
 



shokubutuzukan-bu-500-2.jpg6月4日公開の『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』の先行上映会がなんばパークスで開催され、上映後に樹(いつき)を演じたEXILE、〈三代目J Soul Brothers〉の岩田剛典と、さやかを演じたNHK朝の連続ドラマ『とと姉ちゃん』主演で大活躍の高畑充希が登壇。映画を観た直後とあって、まさにスクリーンから主役の二人が飛び出してきたような興奮と熱気に包まれた。


shokubutuzukan-bu-iwata-240-1.jpg最初に、岩田が「今日は短い時間ですけれども、よろしくお願いいたします。」と挨拶し、岩田の一挙手一投足に黄色い歓声が上がった。それに対し、高畑は「すみません!今日はよろしくお願いいたします。」と、恐縮気味に挨拶した。また、大阪出身の高畑の「なんばパークスにはよく来てました」に対し、「お帰り!」という歓声が客席から上がった。岩田は大阪の印象について、「友人が大阪にいるのでよく来ています。大阪のお客さんの熱気は日本一ですね。圧が凄いし熱いですね」。


――― 初主演、初共演のお二人ですが、お互いの第一印象は?
岩田:高畑さんはテレビでよく拝見してましたので、「テレビによく出てる人!」という印象。テレビのイメージと同じ、明るくて楽天的でポジティブシンキングな人。最初は緊張していたのですがすぐに馴染めて、仲良く撮影させて頂きました。

shokubutuzukan-bu-takahata-240-2.jpg高畑:私も「テレビで踊ってる人だ。本物?」と。テレビでバリバリに踊っている姿しか見てなかったので最初は身構えていたんですが、マイペースだし、天然だし…私もマイペースなので、スケジュールはタイトだったのですが、撮影はとてものんびりと進められましたね。

――― 撮影の合間にはどう過ごされていたのですか?
岩田:ずっと二人で喋ってましたね。この作品を観て頂ければお分かりだと思いますが、殆ど二人しか登場しないし、喋る相手が二人しかいない状態でした。他愛ない話をずっとしてました。

高畑:喋り倒して、喋ることもなくなってまた喋るという繰り返しでした。ロケ先では、笹船作ったり、シャボン玉で戦ったりして遊んでました。

岩田:自然と戯れてましたね。

shokubutuzukan-bu-iwata-240-4.jpg――― キュンキュンくるシーンは?
岩田:逆に皆さんにお聞きします。一番キュンキュンしたシーンは?

観客: 「ひきがねのシーン!」「シーツのシーン!」などなど。

岩田:やっぱり「シーツ」か…納得です。

高畑:やっぱシーツですね。このシーンを撮った時は撮影も後半に入っていて、みんなあまり眠れてなくてナチュラルハイの状態でした。ですから、「恥ずかしい」という思いはあまりなかったです。でも、半年後に試写を二人並んで観たら、「どうしよう、このシーン」て急に心配になってきました。

岩田: 「これはオレじゃない」と思うようにしました。

高畑:かなり照れくさいので、私も「これは私じゃない」と思うようにしました。

shokubutuzukan-bu-iwata-240-3.jpg――― 役作りは?
岩田:この役は、監督やプロデューサーの方たちと相談していろいろ決めていったのですが、最終的には「岩田君のままでいいよ」と仰って下さいまして、ほぼ僕のまんまで演じました。ただ、料理をするシーンは、普段あそこまで料理しないので猛特訓しましたね。フライパンや中華鍋に刻んだ発泡スチロール入れてフライ返しの練習してました。

――― 地道に努力されてたんですね?
岩田:撮影は去年の6~7月に行われ、当時はよく自炊してましたが、1年近く経って、元の僕に戻ってしまいました。

――― 食べるシーンも、とても美味しそうに食べておられましたが?
岩田:冒頭のお腹空かせて最初にカップラーメン食べるシーンでは、30分で5杯くらい食べましたよ!1日の塩分量を軽く超えてましたね。監督に「もっといって、もっといって」と言われ、麺が大きく映ってましたね。

shokubutuzukan-bu-takahata-240-1.jpg高畑:岩田君の最初のカップ麺を食べる演技に感化されて、自分も本気で食べなきゃと、夜中の撮影でもガッツリ食べてました。それにお料理が美味しかったんです。

――― 特に美味しかったのは?
高畑: 「蕗ご飯」をお釜からしゃもじで直接食べるというのが、特に美味しかったです。

岩田:僕は「のびるのパスタ」です。

――― 関西でデートに行くならどこへ行きたいですか?
高畑:中崎町ですね。ちょっとレトロな雰囲気の中を手をつないで歩きたいです。

岩田:僕はUSJですかね。今年も友達と行ったんですが、男3人でミニオンズの恰好して、ミニオンズのポップコーン食べながら歩きました。ですから、ミニオンズの恰好してデートしたいですね。

 

ここでサプライズ! なんと観客にも撮影OKが出され、1分間の撮影タイムが設けられた。SNSなどでPR拡散を呼びかけられた。

 

最後に岩田から、「皆さん楽しんでくれましたか?」と問いかけられると、「イエーイ!」と大歓声。続けて、「初めての主演ということで人生のターニングポイントになる作品ができたと思っています。いろんな感想があると思いますが、先程撮って頂いた写真と共に一人でも多くの方に薦めて頂きたいです。今日は本当にありがとうございました。」と、舞台挨拶を締めくくった。


(河田 真喜子)

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