「京都」と一致するもの

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「チュウしてええか?」中川大志、関西弁の決め台詞に観客悶絶!『きょうのキラ君』大阪先行上映会舞台挨拶(17.2.10 TOHOシネマズ 梅田)
登壇者:中川大志 飯豊まりえ 
 

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クラスで人気の学校一のモテ男“キラ”の秘密を知り、他人と関わることが苦手な少女”ニノ“が大きな一歩を踏み出す、胸キュン泣き必須のラブストーリー『きょうのキラ君』が、2月25日(土)から全国ロードショーされる。
 

原作は『近キョリ恋愛』をはじめ、女子憧れのラブストーリーを紡ぎ出しているみきもとの大ヒットコミック。学校一のモテ男という少女マンガならではのキャラクターを熱演したのは、『全員、片思い』やNHK大河ドラマ『真田丸』で豊臣秀頼を演じ、その演技力に次世代のスタートの呼び声も高い中川大志。周りから浮いてしまうう内気女子が勇気と愛を知り、成長していく姿を瑞々しく演じたのは、『MARS~ただ、君を愛してる~』でも好演、今年は主演作が続く注目株の飯豊まりえ。フレッシュな二人が一生懸命思いを伝え、かけがえのない存在になっていくまでの道のりを全力で見せてくれる直球ど真ん中のラブストーリーだ。

 
 

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一般公開を前に2月10日(金)TOHOシネマズ梅田にて行われた大阪先行上映会では、主演の中川大志、飯豊まりえが舞台挨拶で登壇。上映後だけに、中川や飯豊は観客の反応が気になって仕方がない様子。大歓声を前に、「映画良かった?(カッコ良かった!との声に)うれしいですね。すごく感想が気になります。短い時間ですが楽しんでください」(中川)、
「緊張しちゃうな。みんな泣いてる?短い時間ですが、楽しんでください」(飯豊)と挨拶し、いきなり観客と会話しているかのような雰囲気に。
 
 
少女マンガの映画化作品主演が初めてとなる中川は感想を聞かれ、「 ついに来たか!ついに自分がやるんだと思いました。今までやったことがないジャンルだったので、不安もあったけど、楽しみで。みきもと先生の原作を読み、初めての少女マンガでしたが、『こんなセリフを言うんだ!』と思って、すごく練習しました」と少女マンガ初体験の感想語り、堂々とした決め台詞の裏には練習あるのみだったことを明かした。
 
 

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一方、恋にひたむきで純粋な女の子、ニノを演じた飯豊は、「自分自身も恋にはまっすぐ。好きな人にタイムリミットがあるなら、楽しい時間を共有したいとニノちゃんみたいに思う。共感したので、準備もしやすかった」と劇中のニノそのままの柔らかい雰囲気で語った。 
 
 
バレンタインが近いだけに、学校でキラ君のようにもてたかどうかという話題に。「映画の世界とはまた違いますよ」とはぐらかしながら否定をしなかった中川に飯豊は「中川君はカーテンの刑をしているところを廊下から観ていたいタイプ」と劇中の萌えシーンを引き合いに出すと、「(自分でするのは)結構ハードルが高いので、そっと観ていたい」と中川も同意。 最後には飯豊が「やってみたいかも!」と肉食女子の顔を見せる一面もあった。
 

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そんな二人は印象に残っているシーンを聞かれ、「 二人がまだ恋に落ちる前に『すげえじゃん、おまえ!』と言われたとき。二人の始まりのシーンで、キュンときました」(飯豊)、「キラの誕生日会をニノが開いてくれたのに、途中で帰ってしまった彼女を追いかけて思いを伝えるシーン。 2月の夜の海沿いで、上半身裸で本当に寒くて、人間ってこんなに小刻みに動くんだというぐらい動いていました」(中川)とそれぞれ振り返ると、観客もお待ちかねのあの決め台詞が。
 
 
「こいつおれの彼女になったから、誰もさわらないように」。
クラスメイトがいる前で、言えて気持ちよかったという中川の言葉に、既に絶叫気味の観客をさらに熱狂される一言が。飯豊に関西弁でと促されて、一言、
 
 

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「ちゅう、してええか?」 
 
客席が「きゃあ~~~」の悲鳴で埋め尽くされ、場内のボルテージは最大に!さらに中川と飯豊の二人が、バレンタインのチョコレートを客席に配るサプライズの趣向もあり、後ろの方まで客席の中を周りながら観客と触れ合った二人。最後に舞台上から観客と一緒に自撮り写真撮影会も行われ、まさに舞台と客席が一体となった舞台挨拶になった。
 
 

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最後に「寒い中お集まりいただき、ありがとうございいました。みなさん笑顔だったので安心しました。私にとってもかけがえのない作品なので、みなさんにとってもかけがえのない作品になれば」(飯豊)、「公開前に観ていただいたみなさんは特別のお客さん。『キラ君、超いいよ!』といいことだけを伝えてほしい。大阪に久しぶりに来れて良かった。また来ます!」(中川)と挨拶し、最後まで観客に手を振りながら二人も舞台挨拶を楽しんでいたことが伺える、熱気あふれた時間となった。映画の中のキラとニノのように息ピッタリな二人。その10代の輝きが、そのまま作品にも表れた初々しいラブストーリーをお見逃しなく!

(文:江口由美   写真:河田真喜子)

 

<作品情報>
kyounokirakun-500-1.jpg『きょうのキラ君』
(2017年 日本 1時間49分)
監督:川村泰祐
原作:みきもと凛「きょうのキラ君」(講談社「別冊フレンド」刊)
出演:中川大志 飯豊まりえ 葉山奨之 平祐奈 
2017年2月25日(土)~TOHOシネマズ 梅田、TOHOシネマズ なんば、TOHOシネマズ 二条、T・ジョイ京都、OSシネマズミント神戸、109シネマズHAT神戸他全国ロードショー
公式サイト⇒ http://kirakun.jp/
(C) 2017「きょうのキラ君」製作委員会
 

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~小芝風花(『魔女の宅急便』)×香川京子の新旧ヒロインが贈る、ズレズレ女子の成長物語~

 
史跡や自然の豊かな奈良県葛城地域を舞台に、周りとズレているために仕事やコミュニケーションがうまくいかない新米司書の成長を描くヒューマンストーリー『天使のいる図書館』が、2月11日(土)からTOHOシネマズ橿原、イオンシネマ西大和、18日(土)から大阪ステーションシティシネマ、シネマート心斎橋にて公開される。
 
監督は、『リュウグウノツカイ』(14)でゆうばり国際ファンタスティック映画祭オフシアター・コンペティション部門「北海道知事賞」を受賞、『桜の雨』(16)で合唱を通して成長する高校生たちを瑞々しく描いた奈良県出身の新鋭ウエダアツシ。『魔女の宅急便』以来の主演作となる小芝風花をヒロイン、さくらに、巨匠たちに愛され、今も現役の大女優・香川京子を、さくらが図書館で出会い大きく心動かされていく女性・礼子に配し、世代を超えた友情と、時を越えた愛の詰まった優しい物語に仕立て上げた。
 
 
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周りとズレているさくらのコミカルなキャラクター造詣や、忘れられない人を胸に抱き続ける礼子の人生が滲み出る演技など、両女優の演技に惹き込まれる本作。図書館を舞台にしているだけあり、司書の仕事ぶりや図書館の日常だけでなく、名書『天の夕顔』(中川与一著)に重なるエピソードや、『海辺のカフカ』(村上春樹著)の主人公を彷彿とさせるような謎めいた青年(横浜流星)も登場。本好き、図書館好きの楽しめるツボが満載だ。また、奈良県民の日常が垣間見える細やかなエピソードも随所に盛り込まれているのも見どころだ。
 
本作のウエダアツシ監督に、小芝風花×香川京子の新旧ヒロインを起用した理由や、撮影での印象的なエピソード、本作の見どころについてお話を伺った。
 

■『ミツコ感覚』山内ケンジ監督の「フィクションでリアリティを突き詰める」演出法に影響を受ける

―――ウエダ監督は、映画は独学で撮り方を身に付けてこられたとのことですが、映画監督を目指したきっかけや経緯を教えてください。
ウエダ監督:大学は経済学部でしたが、この4年間で何かしら掴みたいと思っていました。当時は楳図かずおや手塚治虫にはまっていたので、漫画家になれなくても、自分で面白いお話を書きたいという欲求が芽生えていたのです。その頃、同級生から映画研究会の上映会に誘われ、映画は観るものと思いこんでいたのに作れることを知り、「僕でもできるかもしれない」と2年生から映画研究会に所属しました。そこからは映画ばかり撮る生活でしたね。その後関西で情報誌の編集をしていたのですが、東京事務所から「昔映画を撮っていたらしいな」と声をかけてもらい、映画関係の記者会見、インタビュー動画や出版社が作るWEBシネマのメイキング、出版物につけるDVD映像を手がけるようになりました。誰に教えてもらった訳でもありませんが、仕事をしながら映像のノウハウを身につけました。演出もメイキングで映画現場に入ったときに、監督の手法を学んでいきましたね。 
 
―――演出で一番参考にしている監督は? 
ウエダ監督:DVD特典映像のディレクションをしたのが山内ケンジ監督の『ミツコ感覚』で、監督インタビューも撮らせてもらいました。アドリブかと思うようなリアリティのあるお芝居ですが、脚本を見ると全てきちんと書かれているんです。わざと言い間違いをする台詞まであり、フィクションできちんとリアリティを突き詰めているところは影響をすごく受けましたね。 
 
 
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■小芝風花へのお題は、「コメディーで通用する女優に」「香川さんとの共演から学んで」

―――『天使のいる図書館』というタイトルから想像すると、気持ちの良い地域映画のように思えましたが、作品を観ると、小芝風花さん演じるさくらのキャラクターがかなり個性的で驚きました。コメディエンヌの素質がありますね。 
ウエダ監督:角川映画を観ていた世代なので、自分の作品のヒロインには羽ばたいてほしい。時間は限られていましたが、色々なアイデアを小芝さんと出し合いながら、キャラクターを作り込んでいきました。小芝さんが、新垣結衣さんみたいなコメディエンヌが似合う女優になってくれればうれしいですし、関西弁がしゃべれるので、大阪でも活躍してほしいですね。
 
―――小芝さんと初対面時の印象は? 
ウエダ監督:『魔女の宅急便』を初めて観たときは、お芝居以上に伝わる懸命さ、観ている側に芝居を越えて訴えかけてくる純粋さみたいなものを感じました。それは、主演女優の素質です。実際にお会いすると、お芝居がしたくてたまらない時期の人だという印象がありました。今回、小芝さんがさくらを演じるにあたって、2つのお題を出しました。一つは、彼女は今までまじめな役が多かったそうですが、僕は絶対にコメディーに向いていると思うので、コメディーで通用する女優になってほしい、挑戦してほしいということ。もう一つは、香川京子さんとの共演は、僕にとっても小芝さんにとっても勉強になることがたくさんある。 学んでほしいということでした。
 
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■監督人生、この作品で終わってもいいと思えるぐらい感動的な香川京子の出演と、『夜明けの歌』採用秘話

―――さくらが図書館で出会い、心を通わせていく老婦人礼子役、香川京子さんの存在感が物語を豊かにしていますね。 
ウエダ監督:僕が香川京子さんの大ファンだったので、出演していただけるのならと、オファーさせていただきました。ずっと香川さんの作品を拝見していましたし、撮影前にも25本ぐらいは見直しました。成瀬巳喜男監督の『おかあさん』や、今井正監督の『ひめゆりの塔』は特に好きな作品です。 
 
―――礼子のエピソードの中で、中河与一の小説『天の夕顔』が大きな役割を果たします。まさに小説のヒロインの晩年の姿は礼子演じる香川京子さんと重なりました。 
ウエダ監督:今でもすっとした佇まいをされていて、お美しいですし、僕の中では「スクリーンの中の人」なので、初めてお会いしたときは、同じ空間にいるんだと感激しました。日本映画界で伝説の女優ですから。溝口、小津、成瀬、黒澤という4人の巨匠と仕事をされ、今現役の女優は香川さんしかいらっしゃらないのではないでしょうか。そんな方が僕の作品に、しかも僕の生まれ育った奈良県まで来てくださったのですから、僕の監督人生、この作品で終わってもいいと思えるぐらい、感動的なことでした。  
 
―――香川さんには、どんな演出をされたのですか? 
ウエダ監督:「お任せされるより、ご指摘いただいた方がいい」とおっしゃっていただいたので、こちらから色々とご提案させていただきました。例えば、劇中で礼子が『夜明けの歌』を歌うシーンがありますが、実は脚本にはなかったのです。撮影前に香川さんの出演作を観たり、調べものをしていたときに、2年ぐらい前に香川さんが出演されたテレビ番組「サワコの朝」で歌を紹介するコーナーがありました。そこで思い出の歌として挙げておられたのが、この『夜明けの歌』。歌詞の内容も礼子のことを歌っているような、「悲しみに暮れている女性が、前を向いて生きていこうとしている」ものでした。僕の中では、『ひめゆりの塔』のように香川さんは劇中で歌っているイメージがあったので、本読みの時に、劇中で『夜明けの歌』を歌っていただけないかとお願いしました。香川さんも喜んでいただいて、「練習してきます」とおっしゃってくださり、あのシーンが出来たのです。 
 
―――香川さんと小芝さんは共演シーンが多かったですが、現場ではどのような感じでしたか? 
ウエダ監督:小芝さんは役柄もそうですが、物怖じしない人でしたね。前半はあの大女優の香川さんに対してすごく無礼ですが(笑)、そこは役柄として遠慮なくやっていただきました。二日目ぐらいから二人のシーンを撮りましたが、最初から安心して観ていられましたし、小芝さんも長セリフをすぐに覚えてくれたので、撮影期間が限られた中プラスアルファの演出も色々できました。大変なことをやらせたかったので、突然左利きに変えてみたりもしましたね。
 

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■「映画女優の中で引き継がれていくものがある」と感じた香川×小芝の撮影エピソード

―――お二人のシーンで、特に印象に残ったエピソードは?
ウエダ監督:最後、すすきの原で、さくらが泣くシーンがあるのですが、小芝さんは気持ちがなかなか入らず、苦労していました。日没も近づき、リテイクしてもダメで、しばらく時間を置くことにしたのですが、その時に小芝さんの隣で、香川さんが自分の台詞を小さな声でやさしく呟き続けてくださったのです。撮影中に香川さんから、「役者には浮き沈みがある」というお話を伺っていたので、小芝さんのためにずっとそれをやって下さっている風景を見て、手を差し伸べてくれているのだなと。こうして映画女優の中で、引き継がれていくものがあるのだと感激しました。小芝さんもずっとその声を聞いて、感情を高めた後に撮ったのが、映画のシーンに使われています。
 
―――本作はリファレンスサービスをはじめ、図書館員の日々の仕事や、図書館の日常が細やかに描かれ、図書館映画の一面もあります。
ウエダ監督:色々な世代が集い、本を借りるだけではないコミュニケーションスペースとして図書館は成立していますし、それが必ずどの地域にもあるというのは、とてもいいことだと感じます。さくらという偏った知識を持つ女の子がコミュニケーションによって心が開けるようになり成長していく物語ですから、そういう意味でも図書館という場所の意義を改めて認識しました。
 

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■「大阪の食い倒れ、京都の着倒れ、奈良は寝倒れ」奈良の空気感を大事に

―――舞台となっているのは、奈良でもいわゆる修学旅行で行くような観光地ではない、非常にのどかな場所ですね。
ウエダ監督:舞台の葛城地域は、のどかで、歴史のある場所や綺麗な景色がたくさんあります。奈良県は少し歩けば、歴史の教科書に載っているようなものがある場所ですから、「ここに竹取物語の場所があったんだ」とか、調べていても楽しかったです。奈良は昔から悠然としていますから、小芝さんにも「大阪の食い倒れ、京都の着倒れ、奈良は寝倒れ」と、のんびりと穏やかな人たちがたくさんいて、そのような空気感をこの映画では出したいという話をしましたね。
 
―――最後にメッセージをお願いします。
ウエダ監督:奈良県葛城地域の魅力が詰まっていますし、更に図書館の普段利用しているだけでは分からない司書のお仕事も取り上げているのも魅力の一つです。ヒロイン映画としては、小芝風花さんをぜひ観ていただきたいし、85歳で現役の香川京子さんも観ていただきたい。魅力がたくさん詰まった作品です。
(江口由美)
 

<作品情報>
『天使のいる図書館』(2017年 日本 1時間48分)
監督:ウエダアツシ 
出演:小芝風花、森永悠希、小牧芽美、飯島順子、吉川莉早、籠谷さくら、櫻井歌織、松田岳、美智子/内場勝則、森本レオ、香川京子 
2017年2月11日(土)~TOHOシネマズ橿原、イオンシネマ西大和、18日(土)~大阪ステーションシティシネマ、シネマート心斎橋他全国順次公開
※2月12日(日)15時~の回、上映前舞台挨拶あり(登壇者:小芝風花、ウエダアツシ監督)
(C) 2017「天使のいる図書館」製作委員会
 

homeless-bu-550.jpgライバルはトミー・リー・ジョーンズ!?
『ホームレス ニューヨークと寝た男』のマーク・レイが日本で就活中!

(2017年2月4日(土)シネ・リーブル梅田にての舞台挨拶



日本大好き!サントリーのCM狙う“世界一ファッショナブルなホームレス”!?

 

homeless-pos.jpg元々ファッション・モデルだけあって、歩く姿も立ち姿もゴージャス!身長188cm、デザイナーズスーツを着こなすロマンスグレーのナイスミドルの彼は、実はホームレス!?  40代後半からホームレス生活をしながらモデル兼ファッション・フォトグラファーとして働くマーク・レイは、1959年生まれの現在57歳。元モデル仲間でピエール・カルダン等の企業PVを手がけるオーストリア人監督、トーマス・ヴィルテンゾーンがNYでマークと再会した際マークの実状を知り、3年間密着して完成させたのがドキュメンタリー映画『ホームレスニューヨークと寝た男』だ。


マーク・レイは6年間、アパート屋上にこっそりと忍び込んでは寝泊りを続け、屋根のないペントハウスでニューヨーク生活を楽しんでいた。といっても、スポーツ・ジムのロッカーに荷物を保管し、公園のトイレで身だしなみを整えいつも小奇麗にし、ファッション・ショーの撮影やエキストラのアルバイトをしながら稼いでいたが、アパート代を払えるほどの収入はない。なぜ彼がホームレスになったのか?本当の自由な生活とは?自由の代償として失ったものとは?…様々な問い掛けをしてくれるマーク・レイという人物は、知れば知るほど興味の尽きない魅力がある。


homeless-bu-500-1.jpgそんなホームレス男のマーク・レイが大阪にやって来た!! 公式に劇場公開されたのは日本だけということで、昨年11月のキャンペーンに続いて2度目の来日を果たした。東京・大阪・京都・名古屋と、公開日に合せて日本各地で舞台挨拶を敢行。日本では映画の反応が良く、とても歓待してくれるので、できれば日本で仕事をしたいと切望する。かつて『メン・イン・ブラック』のエキストラとして出演したこともあるマークは、「東京でトミー・リー・ジョーンズの大きな看板を見てびっくり!彼のようになりたい」と、現在日本で就活中である。


homeless-bu-240-1.jpg「日本は、とにかく綺麗で、落ち着いていて、静か!」と大絶賛。また「大阪・京都へも新幹線で速く移動できてとても便利!」。映画館のロビーではマークのオリジナル写真集も販売され、「帰国するのにヒッチハイクしなくて済むよう、どうか買って下さい」と、サインにも気軽に応じていた。さらに、観客からの質問に応じる際には自らマイクを持っていき、バラエティ番組のMCさながらのサービスぶりだった。


タイムリーな話題としてトランプ新大統領について質問されると、「次の質問をどうぞ!」とはぐらかそうとしたが、「トランプが新大統領に決まった去年の11月も、就任した1月にも私は日本に滞在していて、大混乱のニューヨークで最悪な思いをしなくて済んだ」と語った。パーティ・スタッフとして働いていた頃には、有名人が沢山集まるトランプ氏自宅でのパーティも経験したらしい。モデル時代にはヨーロッパでも活躍するなど華やかな世界を知るマークにとって、今の生活に満足している訳ではない。


観客から「かつてどん底の生活をしていたことがある」と打ち明けられると、「“どん底”という表現は面白いですね。私は“屋上”にいながら“どん底”でした」とジョークで返す。そして、「この映画は、人格について多面的に捉えられた作品です。人間について、人生についてのいろんな意味が含まれています。人生にはいい時もあれば悪い時もあります。肉体的にも精神的にも辛かったけど、これからは向上していくと思っています」と締めくくった。


homeless-500-2.jpg映画公開後、不法侵入していた屋上生活もできなくなり、今では友人のアパートの一室に間借りしているとのこと。現在クラウドファンディングで、マークの渡航費用や、日本でのPR活動や就職活動にかかる費用などの資金集めをしている。

サイトはこちら⇒ https://motion-gallery.net/projects/hommeless

 
いつも身だしなみに気を遣い、スポーツ・ジムで体を鍛え、言葉巧みに美しい女性に声を掛けてはファッショナブルな写真を撮る。“世界一スタイリッシュなホームレス”から目が離せない。近い将来、「宇宙人ジョーンズ」ならぬ「ホームレス・マーク」が日本のCMに登場する日がくるかも?


(河田 真喜子)


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登壇者:マーク・レイ (映画『ホームレス ニューヨークと寝た男』主演)
1959年6月25日生まれ。ニュージャージー州出身。少年時代は5人家族(両親・兄・姉)の中で育った。高校時代はバスケットボールをやっており、サウスカロライナのチャールストン大学へはスポーツ推薦で入学。大学では経営学部で教養課程の学位をとって卒業。ニュージャージーの輸入業者で働いた後、4年間ヨーロッパでモデルとして活動。1994年、演技の学校へ通いながら写真家としても働き始める。2000年には再びモデルとしてヨーロッパで活動、2007年にアメリカに戻り、ファッション・ウィークの期間中、「デイズド・アンド・コンフューズド」誌用の写真を撮影した。2008年よりニューヨークで人に知られないようにホームレス生活をしながらモデル兼ファッション・フォトグラファーとして働くようになる。


【作品情報】
音楽をクリント・イーストウッドの息子でジャズベーシストのカイル・イーストウッドが担当。全10曲のオリジナル楽曲を提供し、ニューヨークの光と影を映し出すドキュメンタリーに仕上がった本作は、ニューヨーク・ドキュメンタリー映画祭2014にてメトロポリス・コンペティション審査員賞を受賞した。


映画『ホームレス ニューヨークと寝た男』
監督:トーマス・ヴィルテンゾーン 
出演:マーク・レイ 
音楽:カイル・イーストウッド/マット・マクガイア
2014年/オーストリア、アメリカ/英語/ドキュメンタリー/83分
配給・宣伝:ミモザフィルムズ 後援:オーストリア大使館/オーストリア文化フォーラム  協力:BLUE NOTE TOKYO
© 2014 Schatzi Productions/Filmhaus Films. All rights reserved
公式サイト⇒ www.homme-less.jp

2017年2月4日(土)~シネ・リーブル梅田、京都シネマ ほか全国順次公開

 

 

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「初めて試写で泣いた」川口春奈が代表作宣言! 『一週間フレンズ。』大阪先行上映会舞台挨拶(17.2.3 大阪ステーションシティシネマ)
登壇者:川口春奈、関谷正征プロデューサー
 
「藤宮さん、俺と友達になってください」
一週間で友達のことを忘れてしまう女子高生と、図書室で初めて彼女と会った日から一目惚れし、月曜日になるたびに「友達になってください」と思いを届け続けるクラスメイト男子の淡く切ない恋物語を描いたベストセラーコミック『一週間フレンズ。』が、川口春奈と山﨑賢人のW主演で映画化された。
 
 
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川口演じるヒロイン藤宮香織は、過去のある出来事が原因で記憶障害となり、友達のいない孤独な学校生活を送る女子高生。何度も「友達になってください」と声をかけてくるクラスメイトの長谷祐樹(山﨑賢人)を、友達になっても相手を傷つけてしまうと頑なに拒否するが、そんな自分を受け入れてくれる長谷の優しさに触れ、徐々に心を開いていく。ラブストーリーでは王子様キャラ的役が多かった山﨑賢人が、何度リセットされても香織を見守り続ける切ない男心を表現。一方、好きな人のことを一週間しか覚えていられない香織の深い苦悩や、気持ちの移り変わりを川口春奈がじっくり魅せる。最後まで目が離せない、青春ストーリーだ。
 
 
一般公開を前に2月3日(金)大阪ステーションシティシネマにて行われた大阪先行上映会では、川口春奈、関谷正征プロデューサーが舞台挨拶で登壇。女性からも人気がある川口らしく、女性ファンからの「かわいい!」というかけ声や声援に応えて手を振りながら、「今、目が合ったから、もう友達だよ!」といきなりファンと交流、「大阪のお客さんは温かい」と感想を語った。
 
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ヒロイン香織役のキャスティングについて、関谷プロデューサーは「一週間で記憶がなくなるとても難しい役なので、お芝居で信頼できる役者にお願いしたいと思っていた。川口さんの初主演作(ドラマ『初恋クロニクル』)のプロデューサーもしたので、彼女にお願いした」と語り、「約8年ぶりだが、とても現場の雰囲気が良かった。緊張感と明るさが同居して若い人の情熱が詰まっていた」と撮影現場を振り返った。
 
香織役をオファーされ、脚本を読んだ段階で泣いたという川口は、記憶がなくなるという難役に、「香織の内に秘めているものをどうすれば伝えられるか。表情一つ、仕草一つ、目の動き一つを大事にした繊細なお芝居。これでいいのかなと思いながらやっていた」と試行錯誤を繰り返しながら役作りをした撮影を振り返った。
 
 
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香織に「友達になってください」と毎週一生懸命に想いを伝える長谷祐樹役の山﨑賢人については、「山﨑さんは、長谷君にしか見えない。彼の長谷君があったから自分も香織として生きられた。安心して演技をさせてもらえた」と絶賛。 撮影現場も「本当に和やかで、何をしゃべったかも覚えていないぐらい、自然体でいられた」といい雰囲気で撮影に臨めた様子をにこやかに語り、「試写で観て泣いたのは初めて。すごくいいものになった。自分の中で代表作」と力強く宣言。作品への強い想いが滲み出る一コマも。
 

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特に観てもらいたいシーンとして川口が挙げたのは、ランタン祭りのシーン。「みんな浴衣で行くランタン祭りは、朝から夜まで一日中みんなでがんばった思い出のシーン。スタッフやキャストの皆さんと色々な話ができたので、すごく覚えている」。一方関谷プロデューサーは、「山﨑賢人や川口春奈が『空気を読むことより、空気を作ることの方が大事』というテーマを具現化するために走り回っている映画。みなさんのタイミングでそのテーマを感じてもらいたい」と本作の狙いを語った。 
 
最後に「山﨑賢人や川口春奈が好きになる映画、ラスト15分間の川口春奈は特に素晴らしい」(関谷プロデューサー)、「人のことをこれだけ純粋に思えることはすばらしい。人は皆何かを抱えながらも全力で向き合おうとしている。『一週間フレンズ。』は皆の愛が詰まっている、私にとっての代表作」(川口)と挨拶し、何度も観客からの声援に応えた舞台挨拶となった。今までにないとてもピュアで切ない「イチフレ」が、この春温かい涙を運んでくれることだろう。
(江口由美)
 

<作品情報>
『一週間フレンズ。』
(2017年 日本 2時間0分)
監督:村上正典
原作:葉月抹茶著『一週間フレンズ。』スクウェア・エニックス刊
出演:川口春奈、山﨑賢人、松尾太陽、上杉柊平、高橋春織、古畑星夏、伊藤沙莉、甲本雅裕、国生さゆり、岡田圭右、岩瀬亮、戸次重幸
2017年2月18日(土)~大阪ステーションシティシネマ、梅田ブルク7、なんばパークスシネマ、神戸国際松竹、MOVIX京都他全国ロードショー
公式サイト⇒ http://ichifure.jp/
 (C) 2017 葉月抹茶/スクウェアエニックス・映画「一週間フレンズ。」製作委員会
 

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『島々清しゃ<しまじまかいしゃ>』新藤風監督インタビュー
 

~沖縄・慶良間諸島、日々たくましく生きる人々と音楽を奏でる豊かな時間を感じて~

 
沖縄の慶良間諸島を舞台に、音楽が人と人とをつないでいくヒューマンドラマ『島々清しゃ<しまじまかいしゃ>』がテアトル新宿、テアトル梅田他全国順次公開中だ。監督は、本作が『転がれ!たま子』以来11年ぶりの新作となる新藤風。脚本・音楽監督の磯田健一郎(『転がれ!たま子』、『ナビィの恋』、『楽隊のうさぎ』などの音楽監督)と二人三脚で作り上げた、豊かな音楽に心動かされる作品だ。
 
耳が良すぎるため、騒音や音のズレに反応し、周りからは変わり者扱いされている主人公うみ(伊東蒼)が、都会から演奏会をしに島へやってきたヴァイオリニストの祐子(安藤サクラ)と出逢うことで、心を開き、成長していく様は、日々なんとなく過ごしていた周りの大人や学校の生徒たちの意識をも変えていく。
 
うみが同居するおじい(金城実)が三線で歌う『島々清しゃ』や、海辺で祐子がうみに弾いて聞かせる『G線上のアリア』をはじめ、渋川清彦演じるサックス奏者の漁師と祐子のセッション、クライマックスのアンサンブルによる『島々清しゃ』など、島の人たちや主人公が奏でる音楽やグルーヴが風に乗って海まで駆け抜けるよう。小さく美しい島での日常だけでなく、本島で娘うみと離れて働きながら踊りの稽古をしている母さんご(山田真歩)の厳しい現実も映し出し、思いがうまく伝えられない家族の物語も胸に響く。
 
新藤風監督に、11年ぶりの本作への思いや音楽面のこだわりについて、お話を伺った。
 

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■何もないからこそ、全てがあるように感じる島で感じる、音、風とは。

―――波や飛行機、学校のチャイムの音など、登場人物たちが奏でる音だけではなく、様々な”音”を大事にした作品ですね。まずは、音に対するこだわりについて、お聞かせください。
新藤:ロケ地の島を探すとき、主人公のうみは耳が良すぎるという設定だから静かな島を探すと言うだけではなく、何もないからこそ、全てがあるように感じる島。何もないからこそ、風の音、海の音に意識が向くような島を目指しました。本当は島にはたくさんの音がありますが、それが島の風という一つの音になるのです。その分、ちょっとした音、例えば犬の遠吠えのような音をのせる時には音楽監督の磯田さんや録音部の吉田さんと相談し、あれこれしたいけど、引くことで聞こえるようにしたいねと。意識するほどではなく、潜在意識に語りかけるような音。それは私たちが撮影現場で体感したことでもあります。
 
―――映画からも音と映像で島の空気が豊かに感じられましたが、実際にロケ地の慶良間諸島はどんな風が吹いていましたか?
新藤:すぐそこが海なので、静かな月夜に、ササ~ッと海と風の音だけが聞こえます。その島の空気の中で深呼吸をすると、現場でのいやなこともスッと消え、体の中に風が通って空っぽになるんです。そして大事なものだけが残っているといった体験を何度もし、それに助けられてなんとか映画を撮りきることができました。私だけではなく、スタッフ、キャスト何人もの人が、同じ体験をしたと言うのです。映画を観た方にも島の空気を感じてもらえたらと思います。私が穏やかな気持ちで深呼吸をし、はぁーっと風が通ったような体験を共有できたなら嬉しいですね。

 

■脚本・音楽監督の磯田さんが大事にしてきた沖縄民謡とクラッシックへの恩返し。そして次世代の子どもたちに音楽を繋げていきたい。

―――音楽愛、特に沖縄民謡愛に満ち、非常に豊かという部分が本作の根底にあります。
新藤:磯田さんだから書けた脚本です。沖縄民謡と吹奏楽という組み合わせは、普通に考えれば突飛ですが、両方とも磯田さんがずっと大事にしてきた世界。磯田さんが体調を崩された時に、最後にきちんとした作品を撮りたい。今までお世話になった沖縄民謡やクラシック関係のみなさんへ恩返しがしたい。それは音楽を次の世代の子どもたちに繋げていくことだというところから、今回の企画がスタートしました。ただ、磯田さんの書くものを撮るとなると大変だろうなと、しばらくは「脚本を読んでくれ」と言われても逃げていました(笑)
 
―――最初から舞台は沖縄というところから企画がスタートしたのですね。
新藤:『ナビィの恋』で初めて助監督として就いたときに、私は一番若かったので、沖縄のおじいやおばあたちが「がんばりなさいよ」といいながら、サーターアンダギーやお菓子をたくさんくださって、いつもポケットはパンパン。島のみなさんの温かさに触れました。また、沖縄民謡の登川誠仁さん、嘉手苅林昌さん、大城美佐子さんなど、生きる伝説みないな本当に蒼々たる方々が出演されていて、登川誠仁さんが丘の上で曲をつま弾いているシーンで、カットがかかった後も、仕事を忘れて聞き入ってしまい、慌てて転んだこともありました。島で皆さんの名演奏を生で聴くという、とても贅沢な体験が沖縄との出会いでしたから、沖縄には良いイメージしかないんです。私ですらそうですから、磯田さんは尚更でしょうし、今回は沖縄でまず音楽を撮りたい。吹奏楽をやりたい。その2点がすんなり入っていましたね。
 

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■日々たくましく生きている沖縄の人の今の姿をしっかり描こう。だって『島々清しゃ』なんだから。 

―――その中でもなぜ『島々清しゃ』を取り上げたのでしょうか?

 

新藤:何度か磯田さんに聞いたのですが、明確な答えはもらえず、自分で解釈するしかありませんでした。ただ、結局この映画をどうしようかと考えたとき、『島々清しゃ』という歌が導いてくれた部分があります。舞台となった慶良間諸島の島々は、日本で初めて米兵が上陸した場所なのです。すごく大きな悲しみや痛みを持っている島なので、色々と悩みながら、沖縄の痛みや闇や悲しみの部分を、脚本直しの段階で加えたこともありました。でも、今回は政治的なことを前面に出す映画ではない。だって『島々清しゃ』なんだから。沖縄の人の生まれ島への思い、当たり前の風景、そこにある日常の美しさを讃えている歌だし、主人公も小学生の女の子です。たくさんの悲しい思いを抱えながらも、日々たくましく生きている沖縄の人の今の姿をしっかりと描くことを大事にしようと思ったのです。
 
―――『島々清しゃ』を朗々と歌いあげるのは沖縄民謡の重鎮、金城実さん。本当に染み入る歌声が素晴らしいです。
新藤:金城実さんにはおじい役を演じてもらいましたが、島の魂を体現する存在です。おじいには、すごく大きなものを託しました。例えば、生まれ島が戦場になり、失われてしまったことを嘆き悲しむ歌「屋嘉節」を歌っていただいたり、「うちなんちゅーはよ、うれしいときも、悲しいときも、いくさのときも、ずっと歌ってきたさ」というおじいの一言にも託しました。『島々清しゃ』は沖縄の人の生まれ島を思う歌。日常にある沖縄の美しい風景を重ねて歌うことで、生まれたところやそこにあるものに対する郷愁を描いています。歌に託そうと思えたのは、『島々清しゃ』だったからではないでしょうか。
 
―――おじい、さんご、うみの親子三代の物語でもありますが、描く上で監督が特に自身の境遇を反映させたのはどの部分ですか?
新藤:主人公の親子三代の部分を物語の軸にすえたのは、主人公うみにとって島や家族がすべての世界だからです。お互いに思い合っているけれど、親子だからこそなかなかハッキリと言えない家族ならではの感情のなかに求めてやまない愛がある。母のさんごは、本島で一人働きながら、おじいやうみにお金を送金していますが、フラー(沖縄の方言で馬鹿という意味)と言われるし、気の毒な境遇です。結局、お金のことを工面してくれる真ん中の世代がいるから、おじいと孫は苦労なく暮らせているのに、真ん中の境遇って可愛そうだよねというのが新藤家とうみ一家と似ている点ですね(笑) 父(本作のプロデューサー、新藤次郎氏)は共感するのか、さんごの見せ方に人一倍五月蝿かったですね。
 

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■うみ役の伊東蒼がいなければ、この映画は成立しなかった。 

―――主演でうみ役の伊東蒼さんは、台詞が少なく感情表現がとても難しい役どころを見事に演じていましたが、現場ではどんな演出をされたのですか?
 
新藤:蒼ちゃんは、素晴らしかったです!自分の望みのために懸命に手を伸ばす主人公、うみの姿に、自分の人生を一生懸命生きていると胸を張って言えないような大人たちや、周りの子どもたちが影響を受けていきますが、きっと蒼ちゃん自身すごくが一生懸命で、内にしっかりとした芯や情熱を持っているんです。でもそれを外に出すのは不器用で、ただ出したときにはすごい爆発力がある。蒼ちゃん自身が元々持っていたものと、うみを一致させてくれる確かな演技力が彼女にはありました。オーディションの時、難しい役なので個人の魅力だけでは乗り越えられないと思っていましたが、蒼ちゃんは一見地味で小さかったのに、お芝居をした途端に、とても豊かな表情になり、目が一気に生命力溢れる豊かな表情に変わったのです。本当に彼女でなければこの映画は成立しなかった。シーンの意図や、色々な話をしてから撮影に入っていくわけですが、しっかりと自分の中にうみを作っていける子だったので、任せることができ、子どもであることを忘れるぐらいでした。
 
―――安藤サクラさんも本作では、とてもナチュラルで等身大の魅力が出ていました。
新藤:「老若男女、誰にでも見てと言える映画に出ることはあまりないので、今回は色々な人に『見て!』と言えてうれしい」と言ってくれました。出演している子どもたちやプロの演奏家の皆さんはほとんど演技未経験。なかなか挑戦的なキャスティングでしたが、サクラさんは周りがプロでないからできないというのではなく、人として、この小さな島でカメラの前に立てる稀有な女優さん。お芝居に対する絶対的な信頼はありましたが、祐子という役が島の力、子どもたちの力、音楽の力を受け止めて、本来の自分がいる場所に帰っていくので、受け止めることができる人でないと演じられません。そこは、サクラさんが人としてそれができる役者であるからお願いできました。サクラちゃんにとって一年ぶりの映画の現場で、しかもヴァイオリニスト役だったので、撮影前は大分ナーバスだったのですが、島で子どもたちが一生懸命に練習しているのを見たり、島の人たちと触れ合っているうちに、スコンと抜けてきたようで。撮影後半は野性児のように島と一体になっていました(笑)。サクラちゃんの人としての魅力が現場に活気を与え、映画にも力を与えてくれましたね。

 

■祖父のために生きた6年間を経て、映画を撮ることで自分の人生を取り戻したかった。

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―――祖父である新藤兼人監督の現場では、どのようなことをされていたのですか?
新藤:『石内尋常高等小学校 花は散れども』の時は祖父がクレジットを考えてくれ、「監督健康管理」で参加しています。車椅子を押し、現場や宿での身の回りの世話を中心に、監督の体調を考えた撮影の進め方などのやり取りをスタッフと行いました。『一枚のハガキ』の時は、万が一途中で倒れた時のこともしっかり考えて準備していました。祖父は全カットの全演出が基本的には頭の中にある人なので、それをワンカットワンカット、画角も含めて私が把握するようにし、もしもの時は助監督や、もしくは私が変わって撮れる状態にしたのです。監督の意思を伝える仕事をするため、「監督補佐」という形で少し出世させてもらいました。『花は散れども』以降『一枚のハガキ』までの間、スタッフキャストがたびたび集まってもう一本祖父が撮れるように士気を高めてくれていたので、最後の作品に入るまで私がやっていたことを、最初は少し反目していたような方も認めて下さり、スタッフの方から私が入りやすいようなクレジットにしようと提案してくれた部分も大きかったです。
 
―――自身の作品としては11年ぶりの新作ですが、紆余曲折がありながら達成したという重みが感じられますね。
新藤:29歳から6年間、私は祖父と共に暮らしながら、祖父のために生きてきたのですが、同世代の仲間たちはその間、しっかりとした大人になっていくんですよ。しっかりと自分の仕事をするようになり、結婚や出産などを経て、必死で自分の人生に向き合って生きている。そうやって積み重ねている姿が、自信に満ちあふれ、キラキラして見えるのです。私も祖父といたときはすごく楽しかったですが、一方焦りもありました。いざ祖父が亡くなってしまうと、ずっと傍にいた人がいなくなった「空っぽさ」だけでなく、ずっと何もしてこなかった「空っぽさ」もあり、もう一度自分の人生を取り戻すために、映画を撮りたい。自分の人生をきちんと生きていると言える自信を得たいと思っていました。それでも、二の足を踏んでいた時に、磯田さんが「まずは人生のバッターボックスに立とうよ」と優しく言ってくださったのです。優しい穏やかな作品ですし、音楽映画ということで準備も長かったので、色々なスタッフやキャストとファミリーのようになりはじめている頃に現場入りでき、本当に良い「第二の一歩」になりました。

 

■「こんな風に沖縄を撮ってくれてありがとう」沖縄の皆さんの言葉から自信と勇気をもらう。

―――先行上映された沖縄では、どのように受け入れられましたか?
新藤:沖縄の方がどういう反応をされるかドキドキしましたが、とても暖かく受け入れてくださました。刺激のない、なんでもない日常を描いた作品ですが、沖縄の皆さんにとっては知っているからこそ、より多くを感じ取って頂けたのではないかと思います。「沖縄が描かれるときは、ハッピーな感じか、政治的なものか両極端なので、こういう日常を描いたものがうれしい」と言っていただいたり、泣きながらありがとうと伝えてくださった方もいらっしゃいました。「沖縄ってこんなに美しかったんですね。知らなかった」「こんな風に沖縄を撮ってくれてありがとう」と言ってくださった方が多かったので、自信になりましたし、勇気をもらいました。11年ぶりの新作で私自身とても不器用ですし、これだけ子供たちががんばったのだから、もっときちん撮ってあげたいと思っていても、やりきれなかった部分も多かった。それでも私がこの映画で好きな部分をちゃんと「好きだ」と言える勇気を、沖縄の皆さんからいただきました。
(江口由美)

<作品情報>
『島々清しゃ<しまじまかいしゃ>』(2016年 日本 1時間40分)
監督:新藤風 脚本・音楽監督:磯田健一郎 配給:東京テアトル株式会社
出演:伊東 蒼、安藤サクラ、金城 実、山田真歩、渋川清彦 / 角替和枝、でんでん 
テアトル梅田、シネ・リーブル神戸他にて絶賛公開中、2月25日(土)~京都シネマ他全国順次公開
公式サイト⇒http://www.shimajima-kaisha.com/  
(C) 2016「島々清しゃ」製作委員会
 

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フリーアナウンサー 加藤綾子さん『天使にショパンの歌声を』映画イベント初登壇!

 

音楽の力で閉鎖の危機に追い込まれた学校を守ろうと奮闘する教師と生徒たちを瑞々しく描いた映画『天使にショパンの歌声を』が、1月14日(土)より全国公開されます。それを記念し、本作の内容にちなみ、音楽の教員免許をお持ちで、音楽とともに青春時代を歩まれてきたフリーアナウンサーの加藤綾子さんをゲストにお迎えしたトークイベントを開催されました。

加藤さんは白のドレープが美しい「Akira Naka」のドレスを艶やかに着こなして登場、イベントに華を添えてくれました。


tenshini-ivent-500-1.jpg映画『天使にショパンの歌声を』公開直前トークイベント
●日時:2017年1月11日(水)

●会場:エスパス・イマージュ アンスティチュ・フランセ東京
●ゲスト:加藤綾子さん(フリーアナウンサー)、合唱:国立音楽大学室内合唱団カンマーコールの皆さん


【加藤綾子さんコメント】
 

Q.映画をご覧になっていかがでしたか?
A.大学時代を思い出して懐かしくなりました。先生と生徒が音楽を通して結びつきが強くなる姿に感動しました。音大は先生も生徒も個性的な方が多いのですが、音で心を通わせていて、その様子がきちんと描かれていると思います。


Q.どんな大学生活を送っていましたか?
A.授業がみっちりと詰まっていました。学校と家が離れていたこともあって、朝6時頃には家を出発して授業に臨んだり、ピアノの練習をしたりしていました。不思議なのは、最初は怖いと思っていた先生に教わることになっても、最後には必ずその先生を好きになることですね。なので、先生との出会いには恵まれていたと思います。


tenshini-ivent-500-2.jpgQ.音楽の先生を目指したきっかけは?
A.祖父が教師をしていて、先生というものに憧れていました。教育実習は、大学の付属中学へ行ったのですが、生徒がみんな可愛かったですね。もし、実際に先生として働いていたら、おちゃらけた先生になっていたかもしれないです。


Q.これからの目標はありますか?
A.アナウンサーとしての活動ももちろんですが、プライベートも充実させていきたいです。結婚と出産も夢なので、いつかは結婚して、お母さんになりたいと思っています。


Q.どんなお母さんになりたいですか?
A.やはり、自分の母親のようなお母さんになりたいです。子供には、ぜひピアノを習わせたいと思っています。


<ストーリー>
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白銀の世界に佇む小さなカナダの寄宿学校。そこは音楽教育に力を入れ、コンクール優勝者も輩出する立派な名門校だった。
しかし、ケベックの急速な近代化により、修道院による学校運営が見直され、採算の合わない音楽学校は閉鎖の危機に直面することに。校長であり教育者であるオーギュスティーヌは必死に抵抗し、音楽の力で世論を動かす秘策を考える。一方、転校してきたばかりの姪のアリスに天性のピアニストの才能を見出すが、アリスは一筋縄ではいかない問題児。オーギュスティーヌは、孤独で心を閉ざしたアリスに、音楽の素晴らしさを教えようとするのだが…。


◆監督:レア・プール 『天国の青い蝶』『翼をください』
◆出演:セリーヌ・ボニアー『アサインメント』、ライサンダー・メナード、ディアーヌ・ラヴァリー、ヴァレリー・ブレイズ、ピエレット・ロビタイユ、マリー・ティフォ、エリザベス・ギャニオン
カナダ/2015/フランス語/カラー/103分/G指定 
配給:KADOKAWA 
公式サイト:  http://tenshi-chopin.jp

(C)2015-9294-9759 QUEBEC INC. (une filiale de Lyla Films Inc.)

2017年1月14日(土)~ 角川シネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMA、シネ・リーブル梅田、神戸国際松竹、MOVIX京都 他全国ロードショー


(プレスリリースより) 

『マギーズ・プラン-幸せのあとしまつ-』
ポストカード(4枚入り)プレゼント!

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■提供: 松竹

■プレゼント人数: 3名様

■締切日:2017年1月22(日)

公式サイト: http://maggiesplan.jp/

2017年1月21日(土)~大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹 ほか全国ロードショー
 


  

夫を前妻にお返しします!?
前代未聞の、もつれまくった夫婦関係…さあどうなる?

 

maggiesplan-pos.jpg2017年1月21日(土)より全国公開決定、NYに暮す男女3人の、ちょっと”こじれた”三角関係を軽やかに描いたハートフル・コメディ映画「マギース・プラン幸せのあとしまつ」。

2015年北米最大の映画祭・トロント国際映画祭で上映され話題となり、なさそうでありそうな、不思議な三角関係を繊細に描くのは『50歳の恋愛白書』のレベッカ・ミラー監督。『フランシス・ハ』の個性派女優・グレタ・ガーウィグがおせっかいだけど愛すべき主人公マギーを、実力派俳優・イーサン・ホークが2人の間で揺れるダメ夫・ジョンを、アカデミー賞女優・ジュリアン・ムーアが前妻ジョーゼットをコミカルに愛おしく演じております。

3人の不思議な関係性、そして、マギーが【夫を前妻へ返す】というとんでもない計画を、なんと前妻本人に持ちかけるという前代未聞の展開に…三角関係なのに、観るとなぜか元気がもらえる、この冬1番の心が”ほっこり”とあたたまるハートフル・コメディの誕生です!!


『マギーズ・プラン-幸せのあとしまつ-』
監督・脚本:レベッカ・ミラー『50歳の恋愛白書』
出演:グレタ・ガーウィグ『フランシス・ハ』、イーサン・ホーク『6才のボクが、大人になるまで。』、ジュリアン・ムーア『アリスのままで』 
2015年/アメリカ/99分/ビスタ/DCP/原題:MAGGIE’S PLAN/
配給:松竹 日本語字幕訳:牧野琴子

(C)2015 Lily Harding Pictures, LLC All Rights Reserved.
(C)Jon Pack, Hall Monitor Inc.

 (プレスリリースより)

 

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窪塚洋介、マーティン・スコセッシ監督最新作は「懐の深い作品」。
『沈黙 −サイレンス−』スペシャルトークイベントin関西学院大学
登壇者:窪塚洋介(『沈黙 −サイレンス−』キチジロー役)
    関西学院大学細川正義教授(遠藤周作研究者)
    ノートルダム清心女子大学山根道公教授(遠藤周作学会会員)
 
巨匠マーティン・スコセッシ監督が遠藤周作の代表作であり、世界中で読み継がれている『沈黙』を完全映画化、2017年1月21日(土)から全国公開される。激しいキリシタン弾圧下にあった江戸時代初期の長崎を舞台に、信じるとは何か、何を信じるのかを問う深淵で尊い物語を、ハリウッドや日本からキャスト、スタッフが結集して作り上げた渾身作だ。
 
全国公開を前に、12月16日、遠藤周作が若い頃に過ごしたゆかりの地、仁川にある関西学院大学にて『沈黙 −サイレンス−』スペシャルトークイベントが開催され、隠れキリシタンのキチジローを演じた窪塚洋介と、遠藤周作研究者の関西学院大学細川正義教授、遠藤周作学会会員のノートルダム清心女子大学山根道公教授が登壇した。『沈黙 −サイレンス−』の撮影秘話や、マーティン・スコセッシ監督の『沈黙』と向き合う姿勢および解釈について、熱いトークが交わされた模様をご紹介したい。
 

 

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―――マーティン・スコセッシ監督の『沈黙 −サイレンス−』を実際に試写でご覧になった感想は?
窪塚:懐の深い作品。自ら答えに到達するための事実を積み重ねています。スコセッシ監督はとても日本に敬意を示してくださり、ワンカットごとに、日本人キャストに顔が見えるところまで来て「良かった」と言ってくれました。京都・太秦の職人たちも撮影現場に呼ばれ、カツラをつけたりしていましたが、職人の皆さんにまで敬意を払っていました。時代考証から長崎弁がきちんとしゃべれているかまで、すごく繊細にチェックを入れてくれたので、うれしかったしやる気も出たのです。かなり寒くて震えながら撮影していましたが、それも喜びの一つ。参加できたことがうれしかった。おととい試写で作品を観たときに思わず手を合わせて「ありがたい」と思いました。
 
―――映画で一番伝えたいことは?
窪塚:「答えを自分の中で見つける」ということ。一人一人の中に答えがいくらでもある。それでいいと背中を押してくれる作品。だから神は沈黙していると思っているし、そこに意味があります。スコセッシ監督は、目線が本当にフラットで、キリスト教賛美でもなく、仏教賛美でもなく、僕らにゆだねてくれる。僕は、そこがこの作品の一番の醍醐味だと思っています。
 
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―――窪塚さん演じるキチジローは、非常に精神的な揺れのある役ですが、演じる上でどう解釈したのですか?
窪塚:醜く、弱く、ずるい、負のデパートみたいな書かれ方をしていますが、例えば踏み絵を踏むという行為一つとっても、踏んでしまう弱さという言い方と、踏むことのできる強さという言い方があります。絶対にだれも踏めないときに踏むのは、実際弱いことなのか、強いことなのか、もはや分からないのではないでしょうか。原作では独白がないキャラクターで、誰かを目線を通してのキチジローなので、余白がすごく多い人物でした。これだけ重厚で、史実に忠実な中、余白に何が埋まれば俺はキチジローを生きられるのか。そう考えたとき、イノセントさがキーワードになりました。イノセントだから弱く、強く、裏切ってしまう。子どもの頃のまま成長してしまったという役の捉え方をしました。スコセッシ監督が「28年間描きたいと思っていた作品の、一番大事なキチジローが本当のキチジローとしてここにいる」と言ってくれたのは本当にうれしかったです。
 

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―――キチジローを演じる上で、心がけたことは?
窪塚:現場の空気感やカメラの前でキチジローを追体験する感じで演じました。昔から役を演じるときに使ってきた言葉ですが、「キチジローを生きられた」と思います。試写を観たときに、スコセッシ監督に出演シーンをカットされてもいいと思える映画になっていました。監督がそう思うからいらないのだと。スコセッシ監督がカットするのなら納得できます。
 
―――学生と『沈黙』を読むときに、キチジローは皆イヤだと言いますが、最後には共感に転じる学生が多いキャラクターです。遠藤周作もエッセイで「キチジローは私」と書いていますが、映画ではロドリゴとキチジローの関係をどこまで描いているのですか?
窪塚:撮影はしんどかったですが、「しんどいのも喜びのうち」という気持ちになれるのは、キチジローが添い遂げるところまで描かれているからです。彼は“踏み絵マスター”というぐらい踏み絵を踏みながら、結局、晩年まで懺悔を願い出て疎ましがられます。宗教は親や牧師、お坊さんに教えてもらい魂を磨くもの、信仰はもっと自然なもので太陽を見て手を思わずあわせたりするようなものだとすれば、どちらをキチジローが選択していたのか。ひょっとすればブレブレだったかもしれませんが、それすらキチジローの中に収まってしまうのです。
 
―――ロドリゴが自分はキチジローのようなものだという心境に至りますが、キチジロー役のアンドリュー・ガーフィールドとはどんな話をしたのですか?
窪塚:アンドリューはメソッド俳優で、寝ても起きてもロドリゴでいるというやり方。みんなが苦しむ現場で、特にアメリカ人チームは一日スープ一杯やサラダ一杯でどんどん痩せなければならなかった。だから後半は挨拶もできないぐらいの雰囲気で、現場でも座長としてあるまじき行為や行動が増え、不快感を与えていた時もありました。でも試写を観て、それらを許せるぐらいの役への臨み方だと思い知らされました。
 

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―――撮影地の台湾で、見事に江戸時代が再現されていたのが印象的でした。
窪塚:最初は台湾で村を見つけてきたのかと思いましたが、京都の美術職人が体を張り、山の上に村ごと作っていたのです。ドアの開き方向や、鶏の種類が違うことですら怒っていましたから。僕らにとって、そのままでいいんだと思わせてくれるセット他の美術に、とても力をもらいました。
 
最後に「日本の役者たちが素晴らしいです。力強さがあり、堂々たる仕事ぶりに試写を見て泣きました。かっこよかった。映画も素晴らしい作品になっています。正直やめてもいいかなと思ったぐらい手応えがあり、新しい場所にたどり着けました。みなさん劇場で体感してください」と熱のこもった挨拶で締めくくった窪塚さん。構想28年のスコセッシ監督が「キチジローそのもの」と認めた熱演は、遠藤周作が込めた思いを一番切に伝えてくれるのかもしれない。
 

 
 
トークショー前半は、遠藤周作研究者の関西学院大学細川正義教授と、生前に遠藤周作と親交のあったノートルダム清心女子大学の山根道公教授による対談が行われた。一度目の映像化となった篠田正浩監督版『沈黙 SILENCE』の話題も交えて、遠藤周作が『沈黙』に込めた真意を考察した内容を、抜粋してご紹介したい。

■遠藤周作が最晩年に「誤解されている」と嘆いていた『沈黙』の解釈。篠田正浩監督版『沈黙 SILENCE』の場合は?

 
山根:遠藤さんは最晩年になっても「『沈黙』が理解されていない。誤解されている」とおっしゃっていました。そのこともあり、作家が込めた思いを読みとって伝えていくことが自分の使命と思っています。『沈黙』出版50年、遠藤先生没後20年の今、映画を巡りながら、遠藤周作が作品に込めた思いを読み説いていきたいと思います。
 
細川:スコセッシ監督が28年間強い気持ちで映画づくりに情熱をもって取り組んだ作品がようやく封切られます。篠田監督の『沈黙 SILENCE』も感動しましたが、映画の作り方、作品の読まれ方が変わってきているので、楽しみです。
 
山根:遠藤さんは、ご自分の作品がすぐに映画になるのを楽しみにしていました。『沈黙 SILENCE』はシナリオの段階から関わっていたようですが、後半は相当原作と変わっていき、ラストシーンはロドリゴに日本の妻を与えられ、妻を抱くところで終わっていきます。遠藤さんは「自分が『沈黙』に込めたもの、ロドリゴの最後は自分の思いとは違うからそれだけはやめてくれ」と言ったそうです。結局「篠田監督は芸術家として尊敬しているので、娘を嫁にやった限りは向こうの家風に沿ってやるのは仕方がないこと」と、エッセイでも書いている通り、遠藤さんが『沈黙』に込めたものを伝える映画ではなく、篠田監督が原作を読んで、自分のテーマで伝えた作品が『沈黙 SILENCE』でした。
 

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■遠藤周作が『沈黙』で伝えようとしたこと、スコセッシ監督に響いたこととは?

 
山根:スコセッシ監督自身がシチリア出身のイタリア系アメリカ人で、カトリックに熱心な家に育ち、神学校に入って神父になろうとしていました。遠藤さんも神父になろうとしたことがあるとエッセイで書いており、信仰を自分の問題として目指した時期がありながら、色々な疑問が生じて芸術の世界に入り、そしてそのテーマを持ち続けています。遠藤さんにとっての『沈黙』とは、疑問に思っていたことをすべて込めたもの。そこがスコセッシ監督にも響いたのではないでしょうか。
 
細川:ロドリゴは踏み絵を踏み、制度上では信仰を捨てますが、そのことにより本当の意味で信仰を知ることになります。最後に回想する中で、踏み絵を踏んだときの激しい喜びの感情が沸き起こるのです。神を疑うところまでいったロドリゴが、本当の意味で神と向かい合うことができた。遠藤さんが『沈黙』で書きたかったポイントはここだと思います。
 
山根:ロドリゴがずっと神を問い続け、実感したいと思いながら実感できる神に出会えなかった。「問い続ける中で神に出会えた喜びがそこに込められている」とスコセッシ監督は『沈黙』英語版の序文で書いています。さらに抜粋すると、「信じることと疑うことは同時。素朴なところに信仰、疑いから孤独へ、そのあと真につながることがはじまっていく。その過程を細やかに書いている。この本は私のいきる糧を見いださせてくれる数少ない芸術品なのだ」と。自分の人生の問いに答えてくれる。つまりそれは、本当に遠藤さんが込めた思いを、スコセッシ監督が受け止めてくれているということになるのではないでしょうか。

 

■神は沈黙ではなく、日向の匂いに感じるもの。

 
山根:「神の沈黙」ではなく、自分の人生を通じて神が語っているのだと思います。「日向の匂い」、私たちがどこかで人生を振り返るとき、目の前に神を感じるのではなく、自分の人生の中に、導いてくれた神を感じるのです。人生は挫折しても、挫折した中ではじめて日向の中にある神の気配を実感できます。遠藤さんは、自身が病気になりながらも、その中で神の眼差しを感じた体験を込めているのです。ロドリゴの恩師であるフェレイラも自分の人生を振り返る中で、日向のぬくもりレベルではあるが、神を感じていたと思います。
(江口由美)

 【ストーリー】
17世紀、江戸初期。幕府による厳しいキリシタン弾圧下の長崎。日本で捕えられ棄教したとされる高名な宣教師フェレイラを追い、弟子のロドリゴとガルべは日本人キチジローの手引きでマカオから長崎へと侵入する。想像を絶する光景に驚愕しながらも、弾圧を逃れた隠れキリシタンと呼ばれる日本人に出会った二人は、隠れて布教を進めるが、キチジローの裏切りでロドリゴは囚われ、長崎奉行井上筑後守に棄教を迫られる。犠牲となる人々のため信仰を捨てるか、大いなる信念を守るか。拷問に耐えながらも、自分の弱さに気付かされ、追い詰められたロドリゴの決断は…。
 
 『沈黙 −サイレンス−』
監督:マーティン・スコセッシ
原作:遠藤周作『沈黙』新潮文庫
出演:アンドリュー・ガーフィールド リーアム・ニーソン アダム・ドライバー
窪塚洋介 浅野忠信 イッセー尾形 塚本晋也 
公式サイト⇒ http://chinmoku.jp/
2017年1月21日(土)~TOHOシネマズ梅田他全国ロードショー
 
 

hamon-550.jpg大阪人なら120%楽しめる!『破門 ふたりのヤクビョーガミ 』舞台挨拶

ゲスト:小林聖太郎監督、原作者の黒川博行氏


■(2017年 日本 2時間)
■原作:黒川博行 「破門」(角川文庫刊)
■監督:小林聖太郎
■出演:佐々木蔵之介、横山裕、北川景子、濱田崇裕(ジャニーズWEST)、矢本悠馬、橋本マナミ、中村ゆり、木下ほうか/キムラ緑子 宇崎竜童 / 國村隼 橋爪功
■2017年1月28日(土)~大阪ステーションシティシネマ、なんばパークス、MOVIX京都、神戸国際松竹 他全国ロードショー

公式サイト⇒ http://hamon-movie.jp

■ (c)2017『破門 ふたりのヤクビョーガミ』製作委員会


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大阪人なら120%楽しめる!
漫才師顔負け!? 大阪弁炸裂のバディ・ムービー

 

黒川博行氏が大阪を舞台に書き上げた痛快小説『破門 ふたりのヤクビョーガミ』(松竹、来年1月28日公開=小林聖太郎監督)の完成披露試写会が11月28日夜、大阪・なんばパークスで行われ、原作者の黒川氏と小林監督が舞台挨拶を行った。
 


黒川博行氏: (試写会に)来て下さってありがとうございます。原作者がこんなところに出てくるのはおかしいんですが、とっても映画がよく出来ているので……。
小林聖太郎監督: (今の気持ちはという質問に)死刑は決まったがいつ執行か分からない、という気持ちです。なんせ撮影は1年前でしたから。


――(小林監督は)黒川作品はWOWOWで連続ドラマ『煙霞(えんか)』を撮って以来ですね?
黒川氏:原作者の気持ちをよく分かっている。その能力に自分を預けました。ドラマの『煙霞』もよく出来ていたし、今レンタルで出ているのでぜひ見てもらいたい。もちろん『破門~』の出来も素晴らしい。

――シリーズ5作目で初の映画化ということですが?
黒川氏:小説が映画になるかは分からないが、何作目でもうれしいもんです。ありがたいですね。ヒットしても、原作者には一銭も入ってきませんが(笑)。ただ『破門』がヒットしたら、次の『国境』という作品が映画化されたら面白いので……。

――小林監督も黒川さんと脚本を書いていますね。何か考えが?
小林監督:この原作では、どこを削らないとイケナイか、が問題でした。ここではしゃべりにくいが、やはり全体で見てほしいです。

――佐々木蔵之介さんと横山裕さんの掛け合いが見どころになると思いますが、そこは脚本から意識しましたか?
小林監督:絶妙な掛け合いをやりながら作っていきました。リハ前のホン読みの時から掛け合いを意識していたのですが、テンポ良すぎてこれで2時間はキツイ感じでした。コンビと思われたくない二人ですから(笑)。
黒川氏:佐々木さんは『超高速!参勤交代』で“きてる”感じだったので、そのままの勢いで来てくれたら、と。横山さんはトボけた感じがよく出ていましたね。

――何と言っても大阪弁のテンポが凄い。そこはかなり意識しましたか?
黒川氏:中心のふたりもそうですが、ワキの橋爪(功)さんですね。あの方は大阪出身で天王寺高校出て18歳で東京へ出て行った人。これぐらい下町の大阪弁しゃべれる人はいない。

――そうしますと現場はほとんど大阪弁?
小林監督:大阪弁が標準語でしたね。

――黒川さんは現場には?
黒川氏:1回だけ行きました。出演もしました。どことは言いませんので見つけて下さい。私は映画には“アルバム代わりに”出たい。その年の自分が分かりますからね。

――監督は黒川さんの出番は意識してますか?
小林監督:脚本を書いてる時は“どこがええかな”と思ってますけど。
――黒川さんは出番の時は何を?
黒川氏:女優さん見てるなあ。今年は女優さんと一緒の出番がなく、本もののスッチーさんがいた。他の女優さんとはあいさつも出来なかった。
小林監督:今度一回、お食事でも…(笑)。

――あべのハルカスや御堂筋、アメリカ村など随所に大阪が登場しますが、大阪テイストは満点?
小林監督:どうしても違法駐車出来なかったので、グリーンバックで合成しました。なんで大阪で合成せなあかんのか、と思ったけど。

黒川氏:完成版は1回だけ見ましたが、ホントにとても面白い。小説は長くて、全部映画にしたら6 ~ 7時間かかる。それを2時間以内に収めて、なおかつ華を入れている。全部やってくれたんやからたいしたもんや!
小林監督:あんまり郷土愛はないんやけど、ぜひ楽しんで観て頂ければ嬉しいです。

 



◆映画『破門 ふたりのヤクビョーガミ』 (2017年1月28日公開)

今年『後妻業の女』の映画化で注目を集めたミステリー作家・黒川博行氏の「疫病神」シリーズ第5作で 151回直木賞を受賞した『破門』を、大阪生まれの小林聖太郎監督が映画化。原作通り、大阪を舞台に、全編小気味いい大阪弁が飛び交う痛快無比の“バディ・ムービー”が誕生した。主演は京都生まれの佐々木蔵之介、相棒役に関ジャニ∞の横山裕が単独映画初出演。脇役にも大阪出身の名優・橋爪功ら「本物の大阪弁をしゃべれる」にこだわったキャスティング。


イケイケやくざの桑原保彦(佐々木蔵之介)と、彼を迷惑がりながらも離れられないヘタレで貧乏な“建設コンサルタント”二宮啓之(横山裕)のコンビのアブない“裏稼業”暮らしの日々…。「サバキ」と呼ばれる建設現場での“暴力団対策”を主なシノギにする二宮は仕事で「二蝶会」のコワモテやくざ桑原と知りあったのが運のつき。以来、何かとトラブルに巻き込まれっぱなしで、桑原は二宮の「疫病神」そのもの。仕事の都合上、縁を切ることも出来ず行動を共にしている。


そんなある日、二宮は映画プロデューサーの小清水(橋爪功)から映画企画を持ち込まれ、桑原のいる二蝶会の若頭・嶋田(國村隼)に紹介したことからとんでもないドツボにはまりこんでしまう。小清水が食わせもので、金をかき集めて愛人の玲美(橋本マナミ)とドロン。桑原と二宮は小清水を追ってマカオのカジノにまで追いかける…。


漫才も顔負けの大阪弁トークがすこぶる快調!このあたりは黒川氏の独壇場。加えて、大阪の名所「アベノハルカス」や「関空」、レストランも難波の老舗「はり重」などなじみの地名や店名がどっさり出てきて「大阪人なら120%楽しめる出来」が売り物になっている。


(安永 五郎)

式サイト

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美しき日本の文化を伝承する松雪泰子主演『古都』、京都プレミアイベントを開催
(16.11.16 ウェスティン都ホテル京都 葵殿)
登壇者:松雪泰子(主演)、Yuki Saito(監督)、新山詩織(エンディング曲)、小林芙蓉(書道)、松山大耕(禅)、門川大作(京都市長) 
 
文豪川端康成の代表作で、過去に岩下志麻、山口百恵を主演に2度映画化された、京都に生きる生き別れた双子の姉妹を描いた『古都』。原作誕生から50年以上経った現在の京都とパリを舞台に、主人公千重子、苗子の20年後を描く新しい『古都』が生まれた。
 
 
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監督はハリウッドで8年間映画作りを学び、京都ヒストリカ国際映画祭関連企画の京都フィルムメーカーズラボにも参加経験のあるYuki Saito。千重子、苗子を一人二役で演じる松雪泰子、千重子の娘、舞を演じる橋本愛、苗子の娘、結衣を演じる成海瑠子が、伝統を継ぐか、自分の好きな人生を歩むか葛藤する娘と若い頃の自分と重ねる母の姿を小説のように美しく、鮮やかに演じている。京都で暮しているかのようにはんなりと流れる時間を感じる一方、千重子が身に付けている着物や、物語の鍵となり過去の『古都』ともつながる北山杉の帯の美しさや、京都で受け継がれてきた様々な文化の豊かさを体感できる作品だ。
 
 
 
 
 

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作品の舞台となり、全面ロケを敢行した京都で、11月16日にプレミアイベントが行われ、プレスや関係者、一般客の前で、本作にちなんだパフォーマンスや記者会見が行われた。
冒頭に横澤和也さんによる岩笛演奏と共に、本作にも出演され、題字を担当した書道家の小林芙蓉さんによる書パフォーマンスが行われた。舞を踊った後に大筆で、気合いのこもった掛け声と共に全身を使って見事な書が描かれ、池坊専好次期家元による生け花の横に飾られた。映画の世界をそのまま体現した会場に、引き続き主演の松雪泰子さん、Yuki Saito監督、エンディング曲を担当した新山詩織さんがレッドカーペットから登場し、感激の面持ちで挨拶してから記者会見へと移った。
 
 

 

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―――日本文化が色濃く描かれている作品ですが、特にこだわった点は?
Saito監督:まず、全て本物にこだわりました。お茶道具、着物も素晴らしいですが、なぜ本物にこだわったかといえば、そこに宿っている魂、本物だからこそ今まで培ってきたものが備わっているからです。
 
松雪:私は役を通して、この京都で生きることがどういうことなのか、私なりに作品に入る前に様々な稽古を通す中で学びました。できる限り、この土地に存在して生きている女性を自分の感覚と体、表現を通してしっかり体現したいと思い、撮影に臨みました。お茶や着物の所作、着付け、お料理など、肉体を通してしっかりと京都に存在することを丁寧にやりたい。それを体現することで文化を表現したかったのです。 
 

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―――名作『古都』を改めて映画化した意味は? 
Saito監督:偉大な中村登監督や市川昆監督が映画化し、名作として既に存在している映画『古都』ですが、過去あったものやその世界をそのまま焼き増しするのではなく、現代の京都、新しい視点を加えることができれば私でも撮れると思いました。『古都』には、日本人の精神性や、目には見えない宿命が描かれています。 川端香男先生からは「映画と小説は違うから、自由にやりなさい。ただ川端文学にあるように、今の京都をしっかり描く。その精神だけは受け継いでほしい」とおっしゃっていただいたのは、有難かったです。一番気を付けたのは精神性です。登場人物たちが京都やパリで生きることで、ある種の宿命や運命を背負います。私は、運命は変えられるもの、宿命は変えられないものと思っています。その狭間にいる京都の人を描いていきました。
 
松雪:川端先生の『古都』は、本当に偉大な作品です。改めて読み返すと、本当に美しく、京都文化の奥深さが、言葉による表現でありながらも絵のように広がります。その精神はかつての古都の時代から生きて、子をはぐくみ背負う宿命、渡す立場の人間でしたので、しっかり引き継いで表現したいという思いで臨みました。 
 
撮影で建物の歴史や存在する家の空気を感じた時に、全身に歴史の重みを感じながら演じることができました。簡単に「継承」などできませんが、どう若い世代に渡していくべきか。伝統の重みは計り知れない大きなものですが、母である役柄を通して、娘になにをどう伝えるか、苦労しながら演じました。若い世代の娘たちに対し、一方的に想いを押しつけるのではなく、同じ時間軸の中で葛藤しながらお互い成長する。どういう風に表現したら一番伝わるのか、皆でセッションをしながら作品を作り、一生忘れられない体験となりました。
 
―――中島みゆきさんの名曲『糸』をカバーした気持ちは? 
新山:学生時代からふとした時に耳にした曲で、年代を問わずにたくさんの人に響く曲です。 今回この映画の中でエンディング曲として歌わせていただきましたが、映画は京都の美しい景色に優しく寄り添えるように歌いました。名曲なので緊張感はありましたが、それも含めて、新山詩織としてこの曲を歌いましたし、観た方に届けばうれしいです。 
 
 
 
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―――日本の美、心を演じられるにあたって具体的にどのような部分を意識したのですか?

 

松雪:実際に伝統的な織物や建造物にふれていく中で、役を演じるにあたり歴史的背景を学び、そこに息づくエネルギーをすごく感じました。学ぶ機会があることは、日本古来の伝統的な美しさをより感じることができますし、この映画がそのきっかけになればいいなと思いながら、撮影しておりました。 準備にあたっては、着付けのお稽古や京言葉を1ヶ月半練習し、できる限り体現できるように準備をして臨みました。 
 
―――具体的に現場ではどのようなセッションをして、より作品を深めていかれたのですか?
Saito監督:1本の作品を撮るのに2年間準備をさせていただいたのは、すごく幸せなことでした。脚本も50稿まで書きましたし、撮影に入るまでに何度もディスカッッションできました。何度もロケハンで回り、全アングルが頭に入っているぐらいの準備をして撮影に臨みましたが、お着物姿の松雪さんが千重子として、町屋やお寺で現れた時、それらがパッと消えてしまう瞬間がありました。やはり松雪さんや橋本さんのお芝居を見せてもらい、現場で起きていることが正解ですから。町屋の撮影では、例えば「小津監督のフレームに自然と収まるようになるな」と学びながら行っていきましたし、娘と母の距離感は実際の現場でのお芝居を見ながら変えていった。そんなセッションでしたね。 
 
 
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―――川端康成の『古都』の原作が書かれたのは約50年前ですが、当時あったもので現代にはなかったものは?また、それに対してどう対処したのですか? 

 

Saito監督:精神は何かという見えないものを探っていくと、「川端先生はなぜ『古都』を書かれたのか」と考えました。50年前の当時、失っていくものを感じて「これは今、書いておかなければいけない」という思いから始まった。そうすれば、50年たち川端先生が見た景色より、失われたものはさらに多くなっています。特にオープニングシーンでは中村登監督の初代『古都』にオマージュを捧げる意味で、格子や鍾馗さん、瓦という京都のディテールから、クレジットとともに京都の街を描こうとしました。でも、絵を引けないのです。クローズアップでディテールは撮れても、引いた映像を撮ると、どうしても隣接するマンションや駐車場が映り込んでしまう。ただ、そこを排除して、昔の姿が残されている所ばかり撮っても、現代版にした意味がなくなる。ですから、引くことにより、マンションや工事中の現場もしっかり押さえることで、今の京都を描きました。2年間取材をする中でも町屋だったところが更地になったのが何軒もあり、現在進行形で起きているので今のうちに描かないと、と強く思いました。この感覚は50年前に川端先生が感じられたものに、少し近いのかもしれません。 
 
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この後、「奇跡的に発見した」という、東山魁夷の代表作『北山初雪』からイメージした北山杉柄の対の帯についても話が及んだ。「発見したとき、これは映画の軸に入れなくてはいけないと思った。夏の帯と秋の帯で、千重子と苗子がそれぞれ娘に受け継いでいくものを表現した」とSaito監督が語ると、財団法人川端康成記念会事務局長の水原氏は「それまで注目もされていなかった、あの美しい北山杉の美林を発見したのは川端さん。昭和38年に朝日新聞で連載を始めた『古都』で初めて取り上げ、有名になった。昭和30年代の半ば、京都にビルが建ち始めたときに『山が見えない京都は、京都ではない』と嘆き、激変する京都を描いて欲しいと親交が厚かった画家東山さんに頼んだ」と、物語のイメージを形作る北山杉や、東山魁夷と川端康成の秘話を語られた。
 
 

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「『古都』というタイトルが背負う意味として、京都の人が認めていないものを、世界に持っていけないというポリシーが自分の中にあります。まずは京都の人に観ていただき、まだ小さい産声ですが、その声を大きくしていくことでこの作品が成長していくと思います。京都から全国、そして最終的には日本人の精神が詰まったこの映画を世界に発信していきたいと思っています」(Saito監督)、「深く静かに、丁寧に時間が進む作品。今、映画館に足を運び、自分自身と向き合いながら観ることができる作品は少ないです。『古都』はすごく豊かな時間を過ごしていただける作品になったのではないかと思います。」(松雪)と記者会見を締めくくると、新山詩織さんがエンディング曲、『糸』を生演奏で披露。アコースティックギターを演奏しながら、奏でられる若々しくも少しハスキーな歌声が、聞きなれた名曲に新たな命を吹き込んだ。
 
 
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続いてスペシャルゲストとして登壇した書道家の小林芙蓉さんは、「川端康成の心と精神がとても出ている。美しい映像、テーマは水と祈りではないか」と作品にメッセージを寄せた。また、妙心寺退蔵院副住職の松山大耕さんは、「京都の人だったら躊躇して撮れなかったが、Saito監督は外から京都を見てくれた。京都の気持ちを伝えるのに一番難しいのは、歩き方や襖の開け方、足の運び方など日常の所作。若い世代の人が出演しているので、京都の美しい景色やお道具だけでなく、所作の美しさを少しでも味わっていただきたい」と作品の見どころを語った。
 

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最後に、門川大作京都市長が登壇。「伝えられる日本の伝統、伝えたい日本の心という言葉がぴったりの多くのことを考えさせられる映画。1000年を越えて伝わってきた精神文化、書道、華道、茶道、それらを支える伝統産業。なによりも大事なのは京都に伝わる心を京都市民が暮らしの美学、生き方の哲学として伝えていかなければなりません。この50年で日本中の伝統産業が危機的状況にあり、山林も荒れ、京町屋が毎日のように潰されていますが、我々は行動しなければなりません。何を大切にし、何を伝えていくか。それで豊かに暮らしていける循環が大事です。2年後に京都とパリの友好都市が60周年を迎えるにあたり、このような映画を作っていただき、本当にうれしい。どうぞ、多くの方にご覧いただきたい」と挨拶し、映画『古都』京都プレミアイベントを締めくくった。
映画制作のスタッフ、キャストだけでなく、京都の行政、文化人の方々が全面的に協力し、今後残していきたい精神と美を織物のように織り上げた新生『古都』。京都力、そして双子のようなフランスの古都、パリの魅力と共に、いつの世も変わらぬ母娘の絆が心に残ることだろう。
(江口由美)
 

<作品情報>
『古都』(2016年 日本 1時間57分)
監督:Yuki Saito
原作:川端康成『古都』新潮文庫刊
出演:松雪泰子、橋本愛、成海瑠子、蒼れいな、蒼あんな、葉山奨之、栗塚旭、迫田孝也/伊原剛志、奥田瑛二他
2016年11月26日(土)~京都先行公開、12月3日(土)~全国公開
公式サイト⇒http://koto-movie.jp/
(C) 川端康成記念會/古都プロジェクト
 
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