「京都」と一致するもの

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 『孤狼の血』シリーズの白石和彌監督最新作、『死刑にいたる病』が、5月6日(金)より梅田ブルク7、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、kino cinema神戸国際他全国公開される。
 原作は、「ホーンテッド・キャンパス」の櫛木理宇。24件の殺人容疑で逮捕され、そのうちの9件の事件で立件・起訴、死刑判決を受けた榛村大和(阿部サダヲ)が、犯行当時営んでいたパン屋の客で大学生の雅也(岡田健史)に手紙で最後の1件の免罪を証明してほしいと依頼する。それまでの用意周到な犯行とは違う手口の殺人事件を追ううちに、雅也がたどり着いた衝撃の真実とは?柔和な態度と細やかな気配りで相手と信頼関係を築きながら、自らの餌食にしてしまうシリアルキラーの榛村と、彼に引き寄せられる雅也から眼が離せないサイコサスペンスだ。
 本作の白石和彌監督にお話を伺った。
 

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■とにかく魅力的なシリアルキラー、榛村大和

――――原作で一番魅力を感じた点は?
白石:原作者の櫛木理宇先生は、作家になる前にシリアルキラーのウェブサイトを作っておられた筋金入りのシリアルキラー好きなのですが、小説家としてデビューしてからあまりそこに触れる作品を手がけてこられなかった。「チェインドッグ」(「死刑にいたる病」の改題前タイトル)ではじめて登場させているので、櫛木先生が理想とし、そのとき推しのシリアルキラーを全部詰め込んでいるのが主人公の榛村大和なのです。
 実際に日本でシリアルキラーはいませんが、本当に日本という土地に根付いているかのような人物造形ですし、とにかく榛村大和が魅力的なのでまずは見てみたい。榛村に巻き込まれて話がどこに行くかわからない感じに強く惹かれ、これはやっておかないとダメだなと思いました。
 
――――今回、脚本は初タッグとなる高田亮さんですね。
白石:荒井晴彦監督の『火口のふたり』の試写に招かれたとき、偶然、高田さんも同じ回で観ておられ、試写の後、いつも東映の方に連れていってもらっているお店に、「いいとこありますから、行きましょう」とお誘いしたんです。高田さんと初めて話をするなかで、こういう面白い方と仕事をしたいなと思いました。ちょうど『死刑にいたる病』の映画化について考えていたころだったので、高田さんに脚本をお願いできてよかったです。
 
 

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■阿部サダヲの「底知れない眼」をもっと見たかった

――――高田さんに書いていただくにあたり、何かリクエストしましたか?
白石:衝撃的な24の事件を全て語ると時間がかかるので、最初は『親切なクムジャさん』(パク・チャヌク監督)のように冒頭に固めたらどうかと提案し、高田さんも了解されたのですが実際に書いてみるとうまくいかず、そこからお互いにキャッチボールを重ね、高田さんの良さが引き出せるようなものに着地していきました。原作では榛村の魅力を語る上で、彼の両親についての記述にページを割いていたのですが、今回は阿部サダヲさんの魅力があれば、それで十分観客を惹きつけられると思い、できるだけ現在の話に主軸を置きました。
 
――――なるほど。最初から榛村役は阿部さんと決めておられたのでしょうか?
白石:『彼女がその名を知らない鳥たち』で、阿部さんの眼がときどき真っ黒になり、底知れない感じを覚えました。それは阿部さん演じる陣治と蒼井さん演じる十和子が電車に乗り、イケメンを突き飛ばした後、満員電車だったのがいつの間にかふたりきりになり、陣治が十和子を見るというシーンです。「阿部さん、5分前に人を殺してきた眼で、十和子のことを見てもらっていいですか」とオーダーし、陣治の寄りのショットを撮ったときの阿部さんの眼が、僕の中でこびりついて離れなくなった。本当にときどき思い出すような眼をしていました。今回脚本で榛村のことを書いてもらっているときも、そんな阿部さんの眼が思い浮かび、あの眼をもっと見てみたいと思ったのです。
 
 
 
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■雅也とシンクロする岡田健史

――――その闇まで引き摺り下ろされるような榛村の眼に立ち向かう雅也を演じた岡田健史さんも大健闘されていました。岡田さんの代表作になりますね。
白石:この作品が初主演作です。経験豊富でこなれすぎているよりは、ちょっと戸惑いながら取り組んでもらった方が、彼が演じる雅也とシンクロするのではないかと考えました。岡田さんは青春映画にも多く出演されていますが、陽と陰のどちらかといえば、陰の要素の方が強いように感じたのです。初対面のときも、すごく真面目で、曲がったことが大嫌いで、とても頑固な雰囲気が漂っている。阿部さんが吸い寄せられるような眼なら、岡田さんの眼は真っすぐに迫ってくる。その出会いのときの感覚が大きかったですね。
 
――――教師の父の期待に応えられず、三流大学に入った雅也が、学校でも孤立する様子が強く印象付けられるシーンも何度か登場します。
白石:雅也は他の大学生と生きている時間のスピードが違うというを表現したくて、雅也が歩く時はノーマルスピードで撮影し、後ろの大学生たちはよく見るとスローモーションになっています。スローモーションのところはカメラが2倍で動かなければいけない。それをノーマルスピードに戻して雅也と同じスピードになるというとても面倒臭いことをやってました。最後にCGで合成するのですが、なんでこんなことを考えついちゃったんだろうと(笑)思うくらい大変なことになってしまって。
 
――――そんな孤独な雅也は、どんどん榛村に取り込まれたり、どこかでそれに反抗する変化を表現する演技が必要でしたが、白石監督から岡田さんにどんな演出をしたのですか?
白石:岡田さんはポイントを的確にプランニングしていて、「次はこうしたいです」と自ら提案してくれ、自分で考えをしっかり持って演技をしていました。雅也の恐る恐るという感じも非常に抑制の効いた芝居でちゃんと計算を演じていましたし、予想以上の手応えを覚えました。ほとんど僕からお願いすることはなかったです。素晴らしい役者になると思います。
映画においてイメージが固まりすぎていないということが、大きな武器になると最近感じています。阿部さんと共演経験がないというのも、出て頂く上で重要な要素でした。何度も共演の経験があるとそれはそれで、関係が出来上がっている利点はあると思いますが、面会室で久しぶりに会う緊張感は初共演の方が絶対に面白い。本人たちもお互いどんな芝居をするのかドキドキしていましたし、僕も不安と楽しみでよくわからない感情で面会室に臨んでいました(笑)。
 
 
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■中山美穂、岩田剛典が個性的な役をどう演じたのか

――――イメージが固まりすぎていない俳優が映画にもたらす力と共に強く印象付けられるのが、パブリックイメージのある俳優たちがその気配を消すかのような新境地に挑んでいることです。今回、雅也の母、衿子を演じた中山美穂さんはいかがでしたか? 
白石:子どもが母親に「土壁食べてたんでしょ?」と問い詰めるわけですが、実際、そんな会話したことないですよね。聞かれる母を中山美穂さんが演じてくださいました。中山さんは僕にとってずっと大切なアイドルなのはもちろん、頂点の景色を見た方ですよね。そんな方がこの役を演じたらみんな驚くだろうなと。松尾スズキ監督の『108〜海馬五郎の復讐と冒険〜』に出演されていたのを見て、やってくださる予感はしていました。実際に中山さんもすごく楽しんで演じてくださいましたね。榛村に触られたところは、心のかさぶたのように見えるといいなと思って演出しました。
 
――――謎の男を演じた岩田剛典さんも、贅沢な配役だなと。
白石:岩田剛典さんもスターオーラを消して、あっという間にこの作品世界に溶け込んでくれました。作り込み、彼のスキルや経験値の高さを感じました。岩田さんは『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』で日本アカデミー賞新人俳優賞にノミネートされたとき、テーブルが同じだったのでご挨拶し、ぜひ一緒にやりましょうとお話したのです。岩田さんは「『孤狼の血』じゃないのか!」と思われたかもしれませんが、ちょっとひねりをきかせて、今回謎の男として出演していただきました。でも、こうやって出ていただけたので、次は『孤狼の血』をとオファーしやすいですよね(笑)セリフや登場シーンはあまり多くないですが、追いかけたり、肉体的なパフォーマンスが必要な箇所もあったので、さすが岩田さんだなと、より大好きになりました。
 
――――阿部さんが演じるシリアルキラー、榛村には独特のスタイルを感じますが、白石監督とお二人で作り上げたのでしょうか。
白石:要所要所は相談しながらです。原作同様に、阿部さんには今回中性っぽい雰囲気でいきましょうと、最初の衣装合わせではスカートを履いてもらったりしました。最終的には、太いラインのパンツスタイルで、榛村独特の美学を表現しています。また、小屋を建てることができ、水門のあるロケーションを見つけられたのも大きかったですね。毎回ロケ場所からイメージが湧くことが多く、そこがいい場所を見つけられれば、映画がうまくいく可能性が飛躍的に上がりますね。今回も脚本上では川の設定でしたが、水門があるし、現場のスタッフたちがどんどん作り込んでいく。榛村が被害者とお別れするシーンですが、美しく撮りたいと、結構こだわっています。
 
 
 
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■シリアルキラーだが、何周かすると笑える榛村は「完璧な人」

――――シリアルキラーの物語である一方で、雅也と父との関係だけでなく、謎の男の子ども時代に出会った身近な大人など、トラウマを植え付けてしまう関係性も描いていますね。
白石:優しく近づいてきても優しい大人とは限りません。榛村のようなシリアルキラーは中々いないだろうけど、一つひとつの事件は実際に起こっても不思議ではない。ネグレクトやDVのニュースは毎日のように目にするわけで、社会との向き合い方は考えざるを得ません。ただ、この話はスリラーでもあるけれど、榛村目線で物語を反芻すると笑えてくる。だって映画館で高校生が入ってくるのを先に入って待っているんです。どんなリサーチ力だよ!と思いますね。榛村はパン屋をワンオペで経営しながら、毎日いろんな学生たちと仲良くなる努力をしている。一方で家に獲物がいれば、その相手もするわけですから、本当に忙しい人ですよ。例えシリアルキラーであっても自分の欲望を叶えるには努力が必要なんだなと(笑)。
 
――――榛村は、手紙の字もとても美しいですよね。あの字で丁寧に手紙を書かれたら、それがたとえ殺人犯だとはいえ、説得力がありました。
白石:そうなんです。演出部の松本さんが書いてくれたのですが、本当に今までたくさん勉強してきた几帳面な人の字ですよね。今回はスタッフ内で、匿名の手紙を書いてもらってオーディションをしたのですが、段違いに美しかったです。字は人を表すといいますから、榛村はたまたま人を殺さないと生きている実感をもてないだけで、実際は優しくて人当たりが良く、自分に素直で、純粋で、嘘をつかない。完璧な人です。たまたま社会とはうまくやっていけないだけなのです。
 
――――榛村と雅也の面会室のシーンが度々登場し、だんだんとふたりの関係性が変化していきます。迫力のあるシーンも多かったですが、どのように撮影したのですか?
白石:『凶悪』の時はカメラを動かさず、面会室で向き合うそれぞれの正面のバストショットをカットバックするだけというある種ストイックな方法論で臨んだのですが、今回は逆にやれることはなんでもやろうと挑みました。カメラを感情に合わせて動かしたり、ガラスの写りを照明の強弱で調整したり、美術の今村さんがカメラが行き来できるように弧形の壁を作ってくれたり、と撮影しながらみんなでアイデアを出し合って、二人ともがその眼に吸い寄せられそうなシーンを構築していきました。
 
 

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■製作現場を健全化しなければ、観客も安心して映画を見ていただけない

――――最後に、今映画界ではセクシャルハラスメント、パワーハラスメントに対して次々に被害者から声が上がり、映画監督たちや原作者が声明を出すなど、業界の悪しき部分を変える動きが起こり始めています。白石監督は以前からハラスメント研修を取り入れておられましたが、改めて今の映画界や、これから取り組みたいことについてお聞かせください。
白石:この作品もリスペクトトレーニングをしてから撮影に臨みましたが、それをするのがマストになってほしい。また、監督やプロデューサーは映画を作るという場面においては当然権力を持っていることをきちんと認識して仕事をしなければ、当たり前の現場を作れないと自覚しなければいけません。
 本当なら、スタッフのリスペクトトレーニングという全体のものと並行して、プロデューサーや監督など権力がある人専門のトレーニングも作って受けるべきかもしれません。そういうことから始めていかなければ、一般の観客のみなさんには納得いただけないでしょう。やはり、安心して作れない映画を、観客が安心して見てくださるはずがないですから。そういうところから健全化することが必要です。
 また、性被害を受けた人が声をあげてくださったことで、ようやくこのような動きが出てきたわけですから、被害を受けた方々を孤立させてはいけないしケアを忘れてはいけません。一方、加害をした人たちには、映画会社も映画業界も厳しい態度で臨まなければ、性加害の再発につながってしまいます。
 あとフリーの俳優にはオーディションの情報がなかなか届かず、ワークショップでツテを作り、なんとかキャスティングしてもらうという状況だと思うので、フリーの俳優にも平等にチャンスを与えられるシステムを考えていくことも必要でしょう。
 これだけ様々な問題が噴出しても、大手映画会社や映連、日本映画監督協会がきちんとした声明を出したり、システムを変えようという動きが起こらないのは残念の極みですが、もはやそれでは立ち行かないところに来ています。だから、映画業界のために何か少しでも力になりたいと思っています。
(江口由美)
 

 
<作品情報>
『死刑にいたる病』(2022年 日本 129分)
監督:白石和彌  原作:櫛木理宇著「死刑にいたる病」早川書房
出演:阿部サダヲ、岡田健史、岩田剛典、宮崎優、鈴木卓爾、中山美穂他
2022年5月6日(金)より梅田ブルク7、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、kino cinema神戸国際他全国ロードショー
公式サイト https://siy-movie.com/ 
(C) 2022映画「死刑にいたる病」製作委員会
 
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 高畑勲監督、宮崎駿監督と共に数々の名作を世に送り出してきたスタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサー。その人生やキャリアを、影響を受けた本や映画を切り口に紐解きながら、スタジオジブリの作品作りの裏側に迫る「鈴木敏夫とジブリ展」京都展が、4月23日(土)に開幕した。(6月19日(日)まで。月曜休館※4月25日(月)、5月2日(月)は臨時開館)
 
 
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 名古屋での幼少期、青年期から、上京し、学生紛争の最中で過ごした大学時代、そして徳間書店でのキャリアや、スタジオジブリ設立にもつながった日本初の商業アニメ専門誌「アニメージュ」編集長時代、さらに初めて明かされるスタジオジブリ設立秘話と見どころが満載の4階展示。子ども時代の4畳半部屋を完全再現した他、大きな影響を受けた『大菩薩峠』(内田吐夢監督)、『ポリアンナ』(デヴィッド・スウィフト監督)や、人生初のファンレターを書いたヘイリー・ミルズの逸話を紹介。尾形英夫氏、徳間康快氏、氏家齊一郎氏ら人生のキーパーソンとの出会いやエピソードも興味深い。また、ジブリ映画の印象的なセリフを鈴木プロデューサーが筆書きした文字が立体化して展示されたフォトスポットや、湯婆婆と銭婆のおみくじスポットも出現し、ジブリファンには嬉しい仕掛けもたくさん用意されている。
 
 
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 鈴木氏個人のライフワークにスポットを当てた3階展示では、自己表現とも言える書の数々をはじめ、なんといっても圧巻なのは、人生で読んできた本、8800冊を集めた本の小道だ。鈴木氏の隠れ家「レンガ屋」で4部屋に分かれて収納されている本たちが、レンガ屋同様に、一面にウィリアム・モリスの壁紙が貼られ、とても落ち着いた雰囲気の中、知の財産に浸れる空間になっている。自身の書も展示されている本の部屋にて23日鈴木氏が取材に応じた。
 

■本に囲まれた中にいる幸せ

 

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「この夏で74歳になりますが、人生を振り返るような展示です。今まで自分から何かしたいと言ったことはなかったけど、『自分が今まで読んできた本を一堂に介したい。子どもの頃から70年ぐらいの本を並べて、真ん中に立ちたい』という希望があったので、今回実現してうれしいし、本に囲まれた中にいるのが幸せだったんです」と喜びを表現した鈴木氏。2019年夏に長崎で開催して以来3年ぶりに京都での開催となったが、「京都と奈良は日本最大のテーマパーク。ある時代のものがあまりいじられることなくそのまま残っています。そういう街は見るものがたくさんあるわけで、そこでこの展示を企画した人は大胆だと思うし、そんな街でジブリの展示を見てもらえるかどうか、僕としてはハラハラドキドキです」。
 

■本も映画も名セリフで内容を掴む

 

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 会場でジブリ作品の印象的なセリフが展示されていることに話が及ぶと「色々な本を読むと、一冊の中のあるフレーズをまるごと覚えるのが得意なのですが、同様に映画も、セリフで映画の印象をかためたりするので、名セリフが好きでしたね。ドイツの劇作家、ベルトルト・ブレヒトの『英雄のいない時代は不幸だが、英雄を必要とする時代はもっと不幸だ』という言葉がすごく好きだったので、それを少し変えて引用させてもらったことがあります。『ゲバラのいない時代は不幸だがゲバラを必要とする現代はもっと不幸な時代だ』(『チェ 28歳の革命/39歳の別れの手紙』)」と名キャッチコピーを数々生み出してきた鈴木氏ならではの発想を語った。
 
本展示では、今まで読んできたほぼ全ての本を展示しているが、実は引越しなどの度に処分するか悩んだ本も多かったと鈴木氏は明かす。「『キネマ旬報』で一番古いものは大正時代からあります。戦後の昭和21年に復刊し、それ以降は持っているのですが、本当に何度も捨てるかどうか悩みました(実際には膨大なバックナンバーが並んでいる)。一方大好きだった『少年マガジン』はあるとき全て捨てたんです。悩みながら持ち続けてきた本たちを今回展示していますので、純粋に、それを多くの方にみていただければと思っています」

 

■自分の置かれた状況を楽しむ

 

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 今回の書籍展示にあたり、柳橋閑氏による15時間に渡るインタビューを刊行(その内容は会場で平日限定配布される「読書道楽」に収録されている)。書籍リストを見た柳橋氏から鈴木氏が最初に指摘されたのは、ベストセラーはあまり読んでいないということだったという。「通常プロデューサーだったら読むべきなのでしょうが、結局自分の好きな本しか読まなかった。読んだら楽しそうだなというのが基準でしたね。ふと思い出しましたが『千と千尋の神隠し』の速報を、日頃は予告編も速報も見ない宮崎駿が突然観ることになり、観終わった瞬間彼が『面白そうだね』と。自分で作っているのにと思いながらも、そう言われたらもう成功ですよね。つまり誰かを楽しませようと考えるのではなく、一緒に楽しむことですね」。簡単なようで難しい、何事も「楽しむ」のが鈴木流であることは、どんな逆境に置かれても自分の状況を客観的に見ているという姿勢にも通じる。
「自分がある危機に遭遇したとき、『今、俺大変なんだ』と客観的に見て笑っている、もうひとりの自分がいるんです。自分の置かれた状況を楽しんだ方がいい。誰でも一つや二つ、辛いことがあると思いますが、その状況をチャンスであり、次に進むステップだと考えますね」
 
 最後に鈴木氏は、「僕たちが子どもの頃は、娯楽といえば映画や本しかなかった。今はゲームをはじめいろいろな楽しいものがある中、映画に特化していく人はなかなかいないと思う。それでも今回の展示を見て、『映画をやってみよう』と思う人が現れたらうれしいですね」と期待を込めた。
 
 
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本展示を開催している京都文化博物館の3階フィルムシアターでは、4月23日(土) から6月19日(日)まで、「みんな映画が好きだった、僕も  -京都府所蔵映画作品より鈴木敏夫セレクション」を開催。鈴木氏が中学、高校時代に観た日本映画の中でも強い印象を受けたという名作を自らセレクト。日本映画で一番好きな作品に挙げた『人情紙風船』(山中貞雄監督)をはじめ、小津安二郎監督、増村保造監督他、日本を代表する監督の名作が勢揃いする。4月22 日にトークイベントとともに上映された『座頭市物語』(三隅研次監督)も5月に再上映される。
(江口由美)
 
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※会場で無料配布される「名古屋の鬼ばばあ」には鈴木氏と娘の鈴木麻美子氏、月間「アニメージュ」5代目編集長を務めた渡邊隆史氏のエッセイを収録。平日限定で無料配布される鈴木氏と柳橋氏のインタビューを収録した全287ページの「読書道楽」もお見逃しなく!
 
 

<開催概要>
展覧会名: 鈴木敏夫とジブリ展
会期   :2022年4月23日(土)〜6月19日(日)
休館日  :月曜日※ただし4月25日(月)、5月2日(月)は臨時開館
開室時間:10:00~18:00 ※金曜日は19:30まで(入室はそれぞれ30分前まで)
会場   :京都文化博物館 4階・3階展示室(京都市中京区三条高倉)
展覧会公式HP:https://suzukitoshio-ghibli.com/ 
 

2022 年 大スクリーンで観るべき、“ベスト・オブ・ザ・ベスト”の至高の 1 本!

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各界の”ベスト・オブ・ザ・ベスト”が集結!!

『トップガン』を愛してやまないおいでやすこが、

『ウマ娘 プリティーダービー』より

宣伝パイロット・マヤノトップガン役 星谷美緒、トウカイテイオー役 Machico

トップガンの”胸熱”ポイントを徹底ナビゲート!!

日本にただ一つ!"胸熱"巨大ヘルメット型スタンディも初お披露目!!

 

リアルな映像にこだわった迫力のスカイ・アクションシーンと、常識破りの伝説的パイロット・マーヴェリックと若きパイロット達が繰り広げる”胸熱”なドラマが期待を集める、全世界待望のスカイアクションムービー最新作『トップガン マーヴェリック』が、5 月 27 日(金)からいよいよ日本公開。ハリウッドのベスト・オブ・ザ・ベスト、トム・クルーズが 36 年間誰にも企画を渡さなかった渾身のハリウッド超大作が、ついに劇場に!36 年ぶりの最新作、いよいよ公開 36 日前!


この度、4 月 21 日(木)に、『トップガン』 を愛してやまない、おいでやすこがと、ウマ娘 宣伝パイロット・マヤノトップガン(星谷美緒)、トウカイテイオー(Machico)が登壇のカウントダウンイベントを実施いたしました!


イベントでは、筋金入りの映画好き・おいでやすこがのお二人が“ベスト・オブ・ザ・ベスト”アンバサダーとして登場!全世界がその公開を待望してやまない『トップガン マーヴェリック』の”胸熱ポイント”をエンジン全開で語り尽くしました! また、昨年に本作の“宣伝パイロット“就任が発表され大きな話題をさらった、「ウマ娘 プリティーダービー」のマヤノトップガン(星谷美緒)、トウカイテイオー(Machico)も参戦! 初公開のメイキング映像も公開されつつ、日本にただ一つしかない特製巨大ヘルメット型スタンディの除幕式を実施! 公開36日前を大いに盛り上げる華やかなイベントとなりました!


《『トップガン マーヴェリック』カウントダウンイベント 概要》

■日時:4月21日(木)19:00~19:40

■会場:TOHOシネマズ日比谷 スクリーン7 (東京都千代田区有楽町 1-1-2 東京ミッドタウン日比谷4F)

■登壇者:おいでやすこが、星谷美緒、Machiko(敬称略)

映画『トップガン マーヴェリック』公開カウントダウンイベント LIVE!
アーカイブ視聴<4/22(金)正午より配信・期間限定>:https://twitter.com/i/events/1512084581742047236


<イベントレポート詳細>

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前作公開から 36 年。史上最高のパイロット、マーヴェリックはなぜトップガンチームに戻り、若きトップガンたちと共に前人未到のミッションに挑むのか?―いよいよ全世界待望の続編『トップガン マーヴェリック』の公開が迫る中、日米公開 36 日前を記念して執り行われた本イベントでは、本作の【ベスト・オブ・ザ・ベスト アンバサダー】に任命された、筋金入りの映画好き、おいでやすこがのお二人が登壇。開口一番、小田が「カウントダウンイベントに、どうも皆様、おいでやす~!」と軽快に挨拶を済ませ、こがけんも「大好きなトップガンの宣伝に携われるということで興奮しております!」と感慨深げにご挨拶。


本作の魅力を最大限に伝えるために今回のアンバサダーに就任した二人だが、こがけんは生粋のトップガンファンとして、この作品が伝説たるゆえんとなる”胸熱”ポイントを語り尽くす役目を担い、小田は戦闘機のエンジン音と同程度となる約 120db の発声量を武器に、映画ファン以外にもアピールする役目を担いイベントに臨んだ。


TOPGUN-ivent-おいでやすこが-500.JPG小田が持ち前の音量全開でキーワードを叫びつつ本作にまつわる【『トップガン』のココが凄い!】のキーワードトークを繰り広げる展開に。まず初めに数々の危険なアクションに挑んできたトム・クルーズ自身が劇中で本当に戦闘機に搭乗し、撮影に臨んだ【トム・クルーズ、凄いエピソード】では、いくつもの危険なスタントを自らこなしてきたトムのとんでもなさに、こがけんが「ジャッキーチェンが、スタントをもう出来ないとスタントマンに譲ったあたりのタイミングでトム自身がスタントをしだすという…考えられないですよ!このリアルが本当に凄いなと僕は思います」と驚愕。


TOPGUN-ivent-こがけん-240.JPG続いて、【ベスト・オブ・ザ・ベストのスタッフが集結】というキーワードではトムの飽くなき情熱を支える偉大なるスタッフたちにフォーカス。途方もない費用と熱い想いをかけて作り上げられた、まさに最大級のスケールの本作に、最高級のスタッフが一堂に会したことについて、こがけんは 「ここまでのクリエイターたちが集結した本作は、絶対に間違いない作品だと思っています。まだ見ることができていないんですけど…(笑)」と述べ、“前人未到の一作”が作り上げられたことをアピールしました。


そして、続いてのキーワード【リアル追及のベスト・オブ・ザ・ベスト】では、本作に登場する戦闘機は、“実物”を使用し、トム・クルーズの徹底したこだわりによって、CG を使用せずリアルに飛行・撮影したという驚きのエピソードが。また、共演者たちにはトム監修のスペシャル訓練メニューも敢行されたことが明かされ、その徹底的なこだわりにはおいでやすこがの二人も脱帽しきり。加えて IMAX カメラを戦闘機のコックピットに6台搭載し、その万全の体制での撮影に思わず「ほかの映画にはない、特殊な体験になると思います。」とこがけん。小田も「映画の技術や CG が発達しているのに、こんなにリアルにこだわりまくって映画の歴史変わる感じしますよね」と述べ、かつてない映像体験を後押しするというエピソードの数々に思わず小田が「制作陣もトムに頭を抱えていたのでは!?でもだからこそ、これだけ凄い映画が作れたんじゃないかと思いますね!」と笑う一幕も。


TOPGUN-ivent-おいでやす小田-240.JPGその他にも、前作に登場したグースの息子・ルースターが登場するという胸熱ポイントでは、「1 作目で少し登場したあの子が!?」と小田が驚く場面がありつつ、アイスマンについての話題では、こかげんが「めちゃくちゃ好きなライバルキャラクター!」と述べ、「ヴァル・キルマーが再び登場すると知った時は本当にオーマイガー!」とステージ上で倒れこむほどに大興奮。マーヴェリックとアイスマンの関係性について「青島と室井的な感じですか?」と日本人にはおなじみとなる絶妙な例えを小田が披露し、会場に笑いを誘う場面も起こった。


数多くの胸熱ポイントをまとめてもらった後、小田がこの映画の魅力の総括を求められ「言えるか!こがけんが全部言うとるやないかい!」と気合の入った本作の数々のエピソードにタジタジの様子だった。


キーワードトークの後、つい先日解禁されたばかりの最新予告編を放映。迫力の映像においでやすこがの二人も「鳥肌がスゴイ!」と感動した様子。こがけんは「『トップガン』が公開された当時、米海軍航空隊への志願兵が増えたり、マーヴェリックの愛車kawasaki の Ninja や MA1、レイバンのサングラスなど、本当に社会現象でしたよね」と熱気を振り返ると会場も共感。


TOPGUN-ivent-ウマ娘-500.JPGそんなトークの中、こがけんの口から今話題のスマホゲーム「ウマ娘」という単語が。同ゲームに登場する名馬「マヤノトップガン」について触れられると、ここから新たなゲストとバトンタッチすることに!そうして盛大な拍手の中登壇したのは、昨年に続き今年も日本のベスト・オブ・ザ・ベストなコンテンツとして人気を博しているゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」より、マヤノトップガン役 星谷美緒、トウカイテイオー役Machico のお二人!


TOPGUN-ivent-Machico-240.JPG登壇早々、MC より「マヤノトップガンの名前の由来は『トップガン』からですか?」と聞かれると、星谷は「はい!この名前は(マヤノトップガンの)馬主さんの好きな映画「トップガン」に由来していると言われてます!」とのこと。また、宣伝パイロット・マヤノ役の星谷をサポートするためにやってきた、トウカイテイオー役 Machico は「この映画が公開されていなかったら、私たちはこうして出会っていなかったかもしれません!繋がりというか運命のようなものを感じますね!」とステージは和気あいあいな雰囲気に!そんな中、前日 4/20 がトウカイテイオーの記念すべき誕生日だったということで、会場全体が祝福の拍手につつまれ、演じた Machico 自身も誕生日当日は SNS 上でイラストを描き祝ったと述べた。


いよいよ、本格的に宣伝活動が始動し、宣伝パイロットとしての活躍が期待される二人が「誇りを持ってつとめさせていただきます!」と宣言する中、なんとここで星谷が宣伝パイロットの任務として、本作の過酷な撮影の裏側を収めたトレーニングフィーチャレット特別映像を引っ提げてきたことを明かし、会場は大盛り上がり!豪華キャストたちが、過酷な訓練の後に実際に戦闘機に乗り、また戦闘機内での撮影は俳優自身がカメラを操作しつつ、演技も行ったというもので、二人はそのエピソードに触れ「私たち、声優が自分でマイクなどを調整しつつ演技するようなもの。凄いです!」と驚きの表情を浮かべ、本当に鳥肌がとまらない様子を見せた。


TOPGUN-ivent-星谷美緒-240.JPGまた、星谷は「これからも情報を発信していきます!5 月には、また特別な発表やスペシャルなコラボ企画をお届けできたらと思います!是非お楽しみに!」と、このコラボレーションに更なるサプライズがあることを匂わせ、今後の期待を煽りつつ、今後の宣伝パイロットとしての活動に意欲をみせた。1 作目ももちろん鑑賞しているという二人、星谷は「マーヴェリックがかっこよくて、イケイケな感じなのにグースとのシーンでは熱くなるものがあり…心を動かれることがすごく多かった!」と感嘆。Machico は「グースがすごく好きで、正反対の性格だからこそ、マーヴェリックとの男同士の友情やドラマに、惹かれました!」とマーヴェリックとグースが二人の推しであることが窺えた。


イベントの締めくくりには、おいでやすこがの二人が再び登壇し、4 人が勢ぞろいして賑やかなステージに。36 年越しの最新作、いよいよ公開まで 36 日となった本作から、"胸熱"仕様の巨大ヘルメット型スタンディ特別スタンディの除幕式を執り行うことに!除幕のスイッチをこの場を代表して星谷が押すと、戦闘機パイロットが被るヘルメットを模した特製スタンディが出現!ゴーグル部分から予告編が流れるという胸熱仕様のこのスタンディは、日本で唯一、TOHO シネマズ日比谷劇場ロビー内にて設置されるとのことで、会場は大いに盛り上がった。


TOPGUN-ivent-ヘルメットスタンディ02-500.jpgそんな興奮も冷めやらぬ中、Machico が「こだわり抜いたリアルを早く映画館で、大きなスクリーン、大音量で楽しみたいと私自身も思いましたので公開を楽しみにしております! そして、「ウマ娘 プリティーダービー」宣伝パイロットとしてのマヤノトップガンの 活躍にも是非、注目していただきたいです! 応援よろしくお願いいたします!」とアピール、星谷も「ウマ娘でマヤノトップガン役が決まった時にはまさか、自分がこんな素敵な公開カウントダウンイベントに立たせて頂けるなんて思わず、本当に光栄です。前作は劇場で観ることは叶いませんでしたが、今作は迫力あるスクリーンで観られると思うと本当にワクワクしています。これからも、宣伝パイロットとして頑張っていきたいと思います!テイクオーフ!」と続けて締めくくり、公開まで待ちきれなくなること間違いナシの熱気に包まれた。
 


<STORY>
TOPGUN-pos.jpgアメリカのエリート・パイロットチーム“トップガン”。しかし彼らは、ベスト・オブ・ザ・ベストのエースパイロット達をもってしても絶対不可能な任務に直面していた。任務成功のため、最後の切り札として白羽の矢を立てられたのは、伝説のパイロット“マーヴェリック”(トム・クルーズ)だった。記録的な成績を誇る、トップガン史上最高のパイロットでありながら、常識破りな性格と、組織に縛られない振る舞いから、一向に昇進せず、現役であり続けるマーヴェリック。なぜ彼は、トップガンに戻り、新世代トップガンと共にこのミッションに命を懸けるのか?大空を駆け抜ける興奮、そして“胸熱”な感動がここに!スカイ・アクション最新作がついに公開!
 

■監督:ジョセフ・コシンスキー『オブリビオン』
■脚本:クリストファー・マッカリー『ミッション:インポッシブル:フォールアウト』、他
■製作:ジェリー・ブラッカイマー『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズ、トム・クルーズ、クリストファー・マッカリー、デヴィッド・エリソン
■キャスト:トム・クルーズ、マイルズ・テラー、ジェニファー・コネリー、エド・ハリス、ヴァル・キルマーほか
■全米公開:2022 年 5 月 27日(金)
■原題:Top Gun Maverick
■配給:東和ピクチャーズ
■コピーライト:(C) 2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.
■公式サイト:https://topgunmovie.jp/
■公式 Twitter:@TopGunMovie.jp
■公式 Facebook:@TopGunMovie.jp
■公式 Instagram:@TopGunMovie.jp

ベスト・オブ・ザ・ベストの胸熱スカイアクションムービー5 月 27 日(金)~全国ロードショー


(オフィシャル・レポートより)

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上の写真、前列左から、
団塚唯我(DANZUKA YUIGA)(23)『遠くへいきたいわ』
道本咲希(MICHIMOTO SAKI)(24)『なっちゃんの家族』
後列左から、
藤田直哉 (FUJITA NAOYA)(30)『LONG-TERM COFFEE BREAK』
竹中貞人(TAKENAKA SADATO)(28)『少年と戦車』



~日本映画の次世代を担う若き4人の監督の作品紹介とコメント紹介~


ndjc2021-pos-500.jpg次世代を担う長編映画監督の発掘と育成を目的とした《ndjc:若手映画作家育成プロジェクト》は、文化庁からNPO法人 映像産業振興機構(略称:VIPO)が委託を受けて2006年からスタート。昨年公開された、『あのこは貴族』の岨手(そで)由貴子監督や、『先生、私の隣に座っていただけませんか?』の堀江貴大監督、『ずっと独身でいるつもり?』のふくだももこ監督、他にも『湯を沸かすほどの熱い愛』で数々の賞に輝いた中野量太監督や、『トイレのピエタ』の松永大司監督などを輩出して、映画ファンも業界人も注目するプロジェクトです。


今回も、学校や映画祭や映像関連団体などから推薦された中から4人の監督が選出され、第一線で活躍中のプロのキャストやスタッフと共に本格的な短編映画(約30分)の製作に挑戦。コロナ禍で厳しい撮影環境の中でも完成度の高い作品が揃いました。作品紹介と共に、彼らがテーマとしたものや作品に込めた想いなどをご紹介したいと思います。
 


ndjc2021-『なっちゃんの家族』-500.jpg■監督: 道本咲希(MICHIMOTO SAKI)(24)
■作品名: 『なっちゃんの家族』

■作家推薦: PFF
■制作プロダクション: アミューズ
■CAST: 上坂美来 白川和子 斉藤陽一郎 須藤理彩 山﨑 光 
<2022年/カラー/ビスタサイズ /30分/©2022 VIPO>


【STORY】
いつもと同じ平日の朝。小学4年生のなつみは登校中に突然思い立ち家出する。ランドセルをコインロッカーに預け一人遠くに住むおばあちゃんの家に向かうなつみ。突然の訪問に驚くおばあちゃんだが、なつみの心境を察して温かく迎え入れてくれる。なつみは両親の不仲がストレスとなり疲れ切っていたのだ。おばあちゃんや気取らず楽しそうに暮らす隣人と接しながらなつみの心はほぐれていくが、翌日両親が連れ戻しにやってきて・・・


【感想】
なつみを通してしか話さない家族の異様さを端的に示したイントロと、なつみを演じた10歳の上坂美来の端正な顔立ちに先ず惹きつけられた。辟易とした様子や、一人でおばあちゃん家へ向かう不安そうな様子、そしておばあちゃん家で家族の思い出に浸る様子など、終始子供目線で捉えた映像に魅入ってしまった。白川和子演じる寛大で包容力のあるおばあちゃんは、作品全体をも優しく包み込んで、こちらまで癒されるようだ。それから、バドミントンの使い方がいい。ラリーを続けるには、二人の根気強い協力が必要だからだ。人物描写やセリフ、小物に至るまで、映像で語る要素に無駄がなくセンスがいい。


ndjc2021-michimoto.jpg【コメント】
子供が子供らしくいるべき時に周囲の環境によって子供らしくいられないというのはとても悲しいこと。分かりやすいネグレクトではなく、家庭で親が喋らないという苦痛は他人には伝えにくく、そうした中途半端に仲の悪い家族を描いてみたいと思った。

物語よりなっちゃんが生きている様子を撮りたかったので、カメラの距離感や編集の繋ぎにこだわった。現場では、俳優さんたちから出されたものと自分の考えを擦り合わせてから後はお任せした。なっちゃん役の美来ちゃんは10歳だがとても頭のいい子で、こちらの要望にちゃんと応えてくれて助かった。手の動きで心情や性格などを捉えるのが好きで、今回もなっちゃんの心情を表現するのに活かされていたと思う。

(映画製作を目指したキッカケは?)親と違うことをしたかったのと、映画を観て救われたことがあったから。ダルデンヌ兄弟や是枝裕和監督のような表現の積み重ねで物語れるような作品創りを目指したい。


【PROFILE】1997年、徳島県生まれ大阪府育ち。ビジュアルアーツ専門学校・大阪を卒業。

映画予告篇の編集を経て映像プロダクションのエルロイに制作として入社。CM などの現場に携わる。その後独立し、映像作家・横堀光範氏に師事。映画・CM・MVなど幅広い映像制作に携わるべく、日々活動中。学生時代に制作した映画『19 歳』がPFFアワード2018・審査員特別賞を受賞。
 


ndjc2021-LTCB-500.jpg■監督:藤田直哉(FUJITA NAOYA)(30)
■作品名:『LONG-TERM COFFEE BREAK』

■作家推薦:SKIPシティ国際Dシネマ映画祭 
■制作プロダクション:ジャンゴフィルム
■CAST:藤井美菜 佐野弘樹 福田麻由子 遊屋慎太郎 小槙まこ
<2022年/カラー /ビスタサイズ / 30分/©2022 VIPO>

 

【STORY】
大手企業に勤めるキャリアウーマンの優子は、ある日、直樹という男にナンパされる。職業は俳優、しかも自身の家を持たず、他人の家を転々と居候しながら暮らしているという、これまで出逢ってこなかったユニークなタイプの男・直樹に惹かれ、優子は一年後、彼と結婚する。結婚後、優子と直樹を取り巻くカップルたちに様々なトラブルが発生。優子の会社の後輩・みゆきは、上司との不倫が会社にバレて面倒なことに。直樹の親友・将太もまた、真希子という妻が居ながら不倫している様子。そんな中、直樹に対する優子の感情も徐々に変化していく…。


【感想】
まず優子のクールな人物像に魅了された。不倫や人事などの社内の雑音に振り回されることなく淡々と仕事をこなし、整然とした高級マンションで暮らしている優子。そこへ、自分とは真逆の風来坊のような若い男が現れ、意外性からか一緒に暮らすようになるという、そのギャップが面白い。情感より二人の関係性の変化を距離感のある描写でシンプルに描いているのが特徴。コーヒーにこだわりを持つ男に対し、明らかにある想いを膨らませていく優子の変化を捉えて、実にスリリングなのだ。優子を演じた藤井美菜の不気味なくらいの落ち着きと、思いを秘めた眼差しが作品に深みを出していたように思った。


ndjc2021-fujita.jpg【コメント】
普遍的な男女の関係をポップに撮りたかった。男性が女性を主人公に描くのにどう表現するかを特に考え、6人のキャラクターそれぞれの考え方、捉え方の違いを映画として多面的に描いた。観る人が誰に共感できるのか?というところに関心がある。

俳優さんたちの既に持っている佇まいがキャラクターに近い人を選んだ。意外とテーマ性に繋がる見え方が抑制や矯正に繋がっていたと思う。

(ラストの驚きのセリフの意味は?)それまで彼女の本心が見えてなかった部分を露出することで、意外性を狙った。

(落ち着いた映像については?)カメラを動かすのはあまり好きではなく、FIXで作った構図の中で動かすのにこだわった。

(映画製作を目指したキッカケは?)映画少年ではなかったのですが、大学に入ってからたまたま今村昌平監督の『神々の深き欲望』を観て、その凄みに魅了されて映画に興味を持ち始めた。最初は独学で実験映画を作っていたが、松本俊夫監督の『薔薇の葬列』などの作品を見始めてから本格的に始動。視覚的技術による感動、ストーリーテラーには興味がなくて、独自の映像表現が好き。アングラな実験映画を観たのがキッカケかな。


【PROFILE】1991年、北海道生まれ。明治大学法学部卒業。

大学時代より独学で実験映画を中心に自主映画制作を始める。芳泉文化財団より助成を受け制作された『stay』(2019)がSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020短編部門にてグランプリ受賞。2021年には短編映画でありながら、単独でアップリンク渋谷をはじめとした全国の映画館で上映。同年ドイツの映画祭、ニッポンコネクションに参加。ALPHABOAT合同会社所属。
 


ndjc2021-『少年と戦車』-500.jpg■監督: 竹中貞人(TAKENAKA SADATO)(28)
■作品名: 『少年と戦車』

■作家推薦:東京藝術大学 大学院 映像研究科
■制作プロダクション: 東映東京撮影所
■出演:鈴木 福 黒崎レイナ 笠井悠聖 林 裕太 松浦祐也
<2022年/カラー/ビスタサイズ/30分/©2022 VIPO>

 

【STORY】
中学二年生の田崎は鬱屈とした田舎町に息が詰まりそうだった。
内弁慶な友人、江田と過ごす退屈な日常やクラスメイトの滝口から受けるいじめにより、田崎の生活はとても窮屈なものになっていた。時々言葉を交わす少女、咲良に想いを馳せる事だけが彼の唯一の楽しみだった。そんなある日、湖に旧日本軍の戦車が沈んでいるという情報を手に入れる。田崎は戦車があればこの窮屈な日常を破壊できるのではないかと思い、捜索の旅に出る。そこで彼を待ち受けていたものは、自分自身の思春期と向き合う壮大な精神の旅だった。


【感想】
あの“福くん”がいじめられっ子!? (映画『KAPPEI カッペイ』(3/18公開)で特攻服着たヤンキー中学生の鈴木福を観たばかりだったので笑ってしまった)。執拗な暴力に耐えながらも「何とかしたい」と思う田崎が葛藤する姿をシリアスに演じている。“松本人志”に憧れる友人の江田が「学校なんて面白くなくても10年後には笑える」と励ます姿は健気。それとは対照的に、自分の中のイヤな気持ちを助長する妄想の中の美少女との最後の対峙に、弱い自分との訣別を示していて痛快だった。思春期らしいハチャメチャな妄想の中で、伝説の戦車を登場させたのは効果的だったと思う。


ndjc2021-takenaka-500.JPG【コメント】
実体験を基に、スクールカーストの底辺にいる人たちの友情をテーマにした。自分の学生時代を描きたいという気持ちと、浜名湖に戦車が沈められているという話を聞いて、これらを組み合わせて作品を作りたいと思った。

空想シーンは、夢とは違って色彩に濃度があると思うので、濃淡が徐々に変わっていくあたりにこだわった。空想の中と現実の主人公との違いを見せるために、主に照明でその変化を付けていった。

鈴木福君は年下だが大ベテランなので、沢山ディスカッションを重ねながら主人公のキャラクターを深めていった。俳優さんたちと色々話し合いながら作っていくのは初めてだったので、とても貴重な体験となった。

イタリア映画が好きだが、日本人の生活に根付いたものがしっかり映っている作品であれば、それはそれでグローバルな映画になると思う。日本人の映画を芸術として捉えるイメージが少ないのは寂しいと感じている。

(映画製作を目指したキッカケは?)小学生の頃に、周防正行監督の『ファンシーダンス』『シコふんじゃった』『Shall weダンス?』を母から勧められて観たのがキッカケ。今後目指したい作風でもある。


【PROFILE】1993年、三重県生まれ。大阪芸術大学卒業。

卒業制作である『虎穴にイラズンバ』が第28回東京学生映画祭 観客賞を受賞。その後、東京芸術大学大学院へと進み、藤田弓子を主演に迎えた『羊と蜜柑と日曜日』を監督し2021年劇場公開を果たした。
 


ndjc2021-『遠くへいきたいわ』-500.jpg■監督: 団塚唯我(DANZUKA YUIGA)(23)
■作品名: 『遠くへいきたいわ』
■作家推薦:なら国際映画祭
■制作プロダクション: シグロ
■出演: 野内まる 河井青葉 フジエタクマ 津田寛治 金澤卓哉
<2022年/カラー/ビスタサイズ/30分/©2022 VIPO>

 

【STORY】
アルバイト先へ面接にやってきた竹内(39)をひと目見て動揺を隠せなくなる紗良(21)。自転車で帰宅する道すがら、同僚で恋人の悠人から、目を瞑って車道の真ん中に立つ竹内の姿を先日目撃したことを告げられる。怒りを露わにした紗良は去ってしまい、訳も分からず取り残される悠人だった。竹内の勤務初日、開店作業を終えたふたりはオープンを待つばかりのはずだったが…。互いに亡くしてしまった母 / 娘の面影を見出し合うふたりは、束の間の逃避行に何を求めるのか。


【感想】
母親の自死という喪失感に捉われた若い女性が、現実を受け入れ、心の折り合いをつけていく様子を冷静な眼差しで描いている。沙良を演じた野内まるの演技の硬さはあるものの、竹内に母の面影を見出そうとする一途な想いの強さは伝わってくる。一方竹内を演じた河井青葉は、突拍子もない沙良の言動に戸惑いながらも、彼女の喪失感を受け止める大人の優しさを示していた。一歩先に踏み出すようなラストは再生の可能性を感じさせたが、共感するまでには至らなかった。


ndjc2021-danzuka.JPG【コメント】
テーマは喪失。作品に込めた想いは、喪失感とどう折り合いをつけながら生きていくかということ。

本格的映画製作は初めてだったので気合を入れて撮ったが、正直きつかった。見て欲しいところをひとつに絞るのは難しい。主役の野内まるさんとは本読みしたりリハーサルを重ねたりして演じてもらった。俳優さんを信頼するのが大前提だと思っている。他のスタッフの方々とも、協力してもらうという関係性ではなく、一緒に作品を作っていくという感覚だった。

好きな監督は、レオス・カラックス監督、塩田明彦監督、黒沢清監督。それぞれの作品に共通するような緊迫感のある作品を撮って行きたい。


【PROFILE】1998年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部中退。映画美学校フィクションコース22期修了。

修了作品として制作した『愛をたむけるよ』が、なら国際映画祭、下北沢映画祭、TAMA NEW WAVE、うえだ城下町映画祭 等の映画祭で入選、受賞。
 


【上映劇場】

2/25(金)~3/3(木) 東京・角川シネマ有楽町

3/4 金)~3/10(木)大阪・シネ・リーブル梅田

3/18(金)~3/24(木)名古屋・ミッドランドスクエア シネマ


(河田 真喜子)

 

 
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 『害虫』『抱きしめたい -真実の物語』の塩田明彦監督が、前作『さよならくちびる』に出演した元さくら学院のメンバー、新谷ゆづみと日髙麻鈴を主演に書き下ろした最新長編作『麻希のいる世界』が、3月18日(金)より出町座、京都シネマ、シネマート心斎橋、3月19日(土)より元町映画館で公開される。
 
 重い持病を抱え、ただ「生きる」ことを求められてきた高校生、由希(新谷ゆづみ)は、海岸で、学校でほとんど見かけることのない同級生、麻希(日麻鈴)と運命的な出会いを果たす。麻希の歌声とその才能に魅了された麻希、由希と義理のきょうだいになるかもしれない不安を抱え、麻希に傾倒する由希に嫉妬心を覚える祐介(窪塚愛流)、そして自己肯定感を持てず、男や周りの人間を振り回してしまう麻希の3人が、孤立を恐れず、相手への自分の気持ちをぶつけ、自分の愛にまっすぐな姿は、破滅的である一方、清々しく、そして羨ましくもある。かけがえのない10代を全力で生きる彼らの姿は、自粛を強いられる今の学生たち、そしてわたしたちに強烈なメッセージを伝えているかのようだ。
強い眼差しで、映画を引っ張る新谷ゆづみ、周りを翻弄するキャラクターを歌とともに表現する日麻鈴、そして映画では本格出演作でありながら、ジャックナイフのような繊細さをみせる窪塚愛流。3人がみせる青春のひたむきさや輝きは、その強さとともに近年の青春映画の中で群を抜いている。
本作の塩田明彦監督にお話を伺った。
 

 

 

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■『さよならくちびる』でのふたりの演技に「もう一歩先に進んでもいいのではないか」

――――本作は、『さよならくちびる』のワンシーンで共演した新谷ゆづみと日麻鈴を主演に塩田監督が脚本を執筆したオリジナルストーリーですが、そこまでしたいと思わせたふたりの魅力とは?
塩田:ふたりが以前在籍していたアイドルグループ、さくら学院はその活動から派生したバンドユニットBABYMETALが生まれているので、面白そうな人たちがいると注目していたのです。演技に関しても何かいいものを持っているのではないかという直感から、新谷さんと日さんを『さよならくちびる』でキャスティングしました。小さな役ではありましたが、自分の見る目が間違っていないことを証明したかったという作り手の欲求もあったのでしょう。現場では、日さんが脚本にないのに突然歌い出したり、即興があり、それが確実に映画を面白くしてくれたという手応えがありました。
 
――――なるほど、見る目は間違っていなかったと。
塩田:そうなんです。それならばもう一歩先に進んでもいいのではないかと思ったのが動機の一つでした。もう一つは、様々な若手の女性監督から、僕の初期作で10代の若者を描いた『月光の囁き』や『害虫』が好きで、映画を撮るきっかけになったと言われることが度々あったこと。とても嬉しいし、それならば僕も歳を重ねたけれど、もう一度、今の自分に何がやれるかをふたりと共に試してみたい。そういう僕のチャレンジ精神がふたりと出会ったことでピタリと重なりました。
 
――――本作の脚本を書かれたのは、緊急事態宣言が最初に発出された2020年の春だそうですが、おそらく全ての仕事がなくなった状況下、そのことが脚本にどんな影響を与えたのでしょうか?
塩田:新谷さん、日さんを主役にした物語を書こうと思ったものの、他の仕事もあり、脚本を書くきっかけがないまま時間が過ぎていたところに、緊急事態宣言が発出され、本当に全ての仕事がストップしてしまった。何にもやることがなくなり、この先どうなるかわからない状況の中、いい機会だから懸案だった10代の少年少女たちの話に取り組もうと1ヶ月ぐらい集中して書き上げました。
 
 
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■コロナ下で考えた、人間が生きる意味

――――新谷さんが演じる主人公、由希は、病を抱え、無理をしないように医者からも釘をさされます。彼女の置かれた状況は、コロナ下で生きるわたしたちの状況ともどこか重なる気がしましたが、今だからこそ込めたキャラクターに対する設定はあるのですか?
塩田:命を大事にして生きなさいと言われている女性が、それを理由に自分の手足で色々なことを経験する機会を奪われているというのは、コロナ下の小中高校生たちの有り様そのままですよね。緊急事態宣言の時に、社会がどうあるべきかという議論があり、様々な有識者が持論を語るなかで、わたしが一番しっくりきたのは、イタリアの哲学者の方の言葉でした。イタリアでは、コロナに感染したら、亡くなって埋葬されるまで家族は患者と会うこともままならない。そんな極端な状況に異議を唱え、生きるためには感染しない生き方を第一にしていると、人間が生きる意味を失ってしまうので、そうではない道を模索するべきだと。僕も正にその通りだと思うし、その考えが本作に大きな影響を与えていますね。
 
 
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■振り回される由希は、徹底的に強い人物

――――今の若い世代は共感世代とも呼ばれ、周りと違うことを恐れる傾向にあるなか、本作では登場人物たちそれぞれが、自分の想いを全力で相手にぶつけていきます。破滅的である一方、どこか憧れを抱く部分もありました。セリフも強いものばかりですが、演じたおふたりに対して、どのような演出を行なっていったのですか?
塩田:麻希はファムファタールで、彼女の美しい歌声が、いつの間にか周りを惑わせ、破局へと導くような人です。日さんもファムファタールという言葉をご存知だったので、「すごく精神の強いファムファタールですよね」と意見が一致しました。一方、麻希からひどい目に遭いながらも彼女に食らいついていく由希を演じる新谷さんには「麻希に振り回されているからとか、病弱だからといって、弱い人では決してない」とお話ししました。
 由希が麻希と出会うことで呼び覚まされた力は、彼女が本来持っていたとても強い力であり、それは生きる力であったり、生きる手応えを掴む力かもしれない。今、自分を生きている証を掴むという意志は麻希以上に強いんです。設定的には過度なストレスで急激に健康状態が悪化してしまう人ですが、エモーションも強いし、いまどきこんな人はいないというぐらい、徹底的に強いという人物像にしました。
 
 
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■ふたつの眼差しの物語

――――眼差しの強さ、セリフの強さに圧倒されました。一度決めたことに揺らぎがないという精神面での強さですね。

塩田:ふたりに敢えて伝えなかったけれど、眼差しがとても大切だということは、脚本を書くときから映画が完成するまでずっと自分の頭のなかにありました。特に新谷さんは彼女の眼差しの奥に垣間見える感情がとても豊かで、些細な眼差しで感情表現が上手いことは『さよならくちびる』の芝居から伺い知ることができました。由希にはその眼差しが必要なのです。一方、麻希は人を吸い寄せるような眼差しで見るけれど、その瞳の奥では何を考えているのかわからない。ミステリーを感じさせる瞳なんです。日さんご自身はおっとりした方ですが、ミステリーを感じさせるルックスを持っておられる。そのふたつの眼差しの物語ですよね。
 
――――そのふたつの眼差しのなかに入ってくるのが、窪塚愛流さんが演じた祐介です。強い個性を放つふたりと関わる人物ですから、よほどの存在感がなければ食われてしまいかねない。キャスティングは難しかったと思いますが、窪塚さんをキャスティングした決め手は?
塩田:主演ふたりと祐介の父役で井浦新さんが先に決まっていて、祐介はなかなか決まらなかった。そこで窪塚愛流さんが本格的に俳優活動を始めたという情報を掴み、一度会うことになりました。もう会ったら、まさに一目惚れで、この人しかいないと思いましたね。僕としてはすごくうまくいったと思っています。祐介はマッチョなタイプではなく、繊細な心の持ち主である一方、ストイックに何かを求めている。由希は一途な眼差しですが、それとは少し違う真剣な眼差しを持っているんです。自分を律している人が持つ真剣さですね。
 
 
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■向井秀徳に託した、社会に対する情念の音楽

――――本当に、真剣さゆえの狂気も感じる、見事な存在感でした。最後に麻希の歌声が物語を大きく動かしていきますが、本作の音楽について教えてください。
塩田:脚本を書きながら、自分が思っている以上に世の中に対する静かな、言葉にならない怒りがこみ上げている気配がそこここに漂っていたので、社会に対する情念の音楽といえば、向井秀徳さんだろうとオファーを考えていました。書きあがって映画を作る段階で、すぐにメールを送りましたね。
 
――――劇中歌の「排水管」は、『さよならくちびる』のハルレオの曲とはまた違う野太さというか、突き上げる感情がありましたね。
 
塩田:『さよならくちびる』の設定は、かつて向井秀徳さんのバンド、ナンバーガールが急遽解散が決まったものだから、発表をしてから解散全国ツアーをやったときの記憶から生まれたものでした。映画が仕上がったらナンバーガールも再結成したので、映画とリンクしている気がしたのです。『さよならくちびる』のハルレオの音楽と、向井さんの音楽は違う気がしたので、あいみょんさんや秦基博さんにお願いしたのですが、今回は向井さんだろう!と。
 
――――麻希の辿ってきた人生と重なり、そして力強い曲でしたね。そして麻希の歌声と同様に由希が流す一筋の涙も美しかったです。
塩田:中森明夫さんから、「塩田さんの映画は、いつも美しい叫びなんだ」と言っていただき、とても感動したのですが、美しいのはそこに愛が込められているからなのです。麻希の歌声もある種、呪いのように響いているかもしれないけれど、それは美しい叫びです。それに応える由希の涙もまた、美しい叫びだと言いたいですね。
(江口由美)
 

<作品情報>
『麻希のいる世界』(2022年 日本 89分)
監督・脚本:塩田明彦
出演:新⾕ゆづみ、⽇⿇鈴、窪塚愛流、鎌⽥らい樹、⼋⽊優希、⼤橋律、松浦祐也、⻘⼭倫⼦、井浦新 
2022年3月18日(金)よりシネマート心斎橋、京都シネマ、出町座、3月19日(土)より元町映画館にて公開
公式サイト https://makinoirusekai.com/
(C) SHIMAFILMS
 

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(2022年2月11日(金・祝)大阪、梅田ブルク7にて)

ゲスト:甲本雅裕、戸田菜穂、錦織良成監督



名バイプレイヤー甲本雅裕、映画初主演

「この日が待ち遠しかった。感謝しかない!」

ほか戸田菜穂・錦織良成監督 登壇


公開延期から2年を経て、本日2月11日(金)に全国公開を迎えた映画『高津川』東京はバルト9に続いて、大阪は梅田ブルク7で、甲本雅裕、戸田菜穂、錦織良成監督による初日舞台挨拶が開催された。
 

一級河川としては珍しいダムが一つも無い日本一の清流「高津川」を舞台に、人口流出に歯止めのかからない地方の現実の中、歌舞伎の源流ともいわれる「石見神楽」の伝承を続けながら懸命に生きる人々を力強く描いた本作。コロナ感染拡大による緊急事態宣言を受け2020年4月に公開延期を強いられていたが、約2年を経て念願の全国公開を迎えた。

 


takatsugawa-bu-240-4.jpgこれまで名バイプレイヤーとして活躍し、錦織監督作品の常連でもあり、監督との兼ねてからの約束通り本作で映画初主演を果たした甲本は、「この日を待ち望んでおりました。世の中の状況はまだ大変ですが、僕はベストな日に公開ができたと思っています。感謝しかありません。頭や心が大変な思いでパンパンになって困っておられる方に、我々は一体何ができるだろうか?そう考えたら、少しでも心に隙間を空けて頂いて、楽しいことだけを詰めて差し上げることができればと思っております」と、公開を迎えた歓びを語った。



 


takatsugawa-bu-240-3.jpgまた、NHK大阪局制作の朝ドラに出演していた戸田は、「大阪でも公開されて本当に嬉しいです。あの頃が思い出されて懐かしい。この映画は、いつ観ても心に響く、心の豊かさとは?自分の幸せとは?本当に大切なものとは?といろんな想いを馳せられる作品だと思います。今日はこの映画を選んで下さいまして、心が響き合えるようです。」と初日を迎えて嬉しそうに語った。


地元・島根県で撮影を行った錦織監督は、「この2年間は長かったです。またしても感染拡大となりましたが、これも運命!キャストを始めスタッフや皆で丁寧に想いを込めて撮った作品です。本日は『スパイダーマン~』や『ウエスト・サイド・ストーリー』ではなく、この地味なタイトルの映画を選んで観に来て下さいまして本当にありがとうございます!舞台は島根ですが、日本全国津々浦々どこにでもある話です。勝手な思い込みですが、皆様の物語として少しでも勇気を持って頂けたら嬉しいです。」と本作への思いを語った。


takatsugawa-550.jpgのサムネイル画像1か月以上に及ぶ撮影期間でじっくりこだわり抜いて撮られたシーンの数々は殆どが現地の方の家や山林や田畑でのロケーションが中心。中でも牧場主を演じた甲本は、「衣装も道具も全て実在の牧場主の方が実際に使っておられる物をそのまま使わせて頂いて、食事のシーンでもそこの奥さんが作って下さった料理を食べさせてもらいました。普通、”消え物“はスタッフが用意するでしょう!? こんな現場ないですよ!」と当時の驚きを語った。


takatsugawa-bu-240-2.jpgそれに対して監督は、「そうなんです!ありのままの状態がいいんです。せっかく綺麗にお掃除して撮影隊を迎え入れて下さったのに、わざわざまた汚したりしてね。戸田さんが演じる役の実家のシーンも、地元のお菓子屋さんの店内や看板をそのまま使わせて頂きました。この映画はフィルムで撮っています。デジタルよりクオリティが高いことは皆様もご存知だと思いますが、細部までこだわろうと、丁寧に撮りました。」と自信をのぞかせた。


監督に地元に馴染むようにと言われた戸田は、「撮影があまりにも居心地がいいので、撮影が終わってほしくなかったです。特にスタッフの皆さんのエネルギーが凄くて最高でした。青々とした山、美しい川や田んぼがあって…」と言いかけると、甲本が、「土手に錦織監督が座ってると、まるでプーさんみたいで!」と場内を笑いの渦に巻き込んだ。確かに、恰幅のいいにこやかな錦織監督はプーさんのイメージにぴったし!


takatsugawa-bu-240-1.jpg最後に、戸田は、「この映画はこれから全国順次公開されますが、それぞれの土地で生きる人々の心の灯になれば嬉しいです。是非ロケ地巡りをしてみて下さい!」。錦織監督は、「少しでも気に入って頂けたらSNSなどで拡散して、皆さんのお力をお借りできれば嬉しいです」。甲本は、「面白かったと思って頂けたなら、観た後に誰かと話すキッカケにして下さい。こんな時期ですが、マスクをしてどんどん出掛けて、誰かとお話をして繋がりましょう!」と締めくくった。


錦織監督のお人柄からさぞかし和やかな現場であったことは容易に想像できる。過疎化が進む地方での暮らしの中で、人と人との繋がりの温もりや、本当の幸せについてなど、忘れてはならない大切なものを思い出させてくれる感動作。今どきこれほど身につまされて心揺さぶられる映画も珍しい。
 


【STORY】

~これはきっとあなたの物語~

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斎藤学(甲本雅裕)は山の上の牧場を家族で経営している。歌舞伎の源流ともいわれる「神楽」の舞いは地元の男たちの誇りだった。だが、息子の竜也は神楽の稽古をさぼりがちであまり興味がなさそうなのだ。多くの若者がそうであるように自分の息子もこの地を離れて行ってしまうのではと心配している。そんな時、学の母校である小学校が閉校になることを知らされ、各地に散った卒業生に連絡して、最後の同窓会を開催することを計画する。

 

■原作・脚本・監督:錦織良成  音楽:瀬川英史
■出演:甲本雅裕、戸田菜穂、大野いと、田口浩正、高橋長英、奈良岡朋子
■2020年 日本 1時間53分
■配給: ギグリーボックス  
■© 2019「高津川」製作委員会 ALL Rights Reserved.
■公式サイト:https://takatsugawa-movie.jp/

2022年2月11日(金・祝)~梅田ブルク7、2月25日(金)~京都シネマ ほか全国順次公開


(河田 真喜子)

 

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(2020年3月11日(水)大阪にて)

 

身につまされながらも清流のような優しさに癒される至福の映画

 

島根県西部の石見地方を中国山地から日本海へ流れる「ダムが一つもない一級河川・高津川」を舞台にした映画『高津川』が、2年間の公開延期を経て2月11日(金・祝)よりようやく公開される。中国地方では2019年11月から翌年の3月までロングランヒットを飛ばした作品の満を持しての全国公開となる。


takatsugawa-550.jpg高津川の清流沿いの豊かな自然の恩恵を受けながら、地元の産業や伝統芸能を大切に守り、そして継承しようとする人々の想いを、柔らかなタッチの映像とストレートに心に響く言葉で綴られている。今どきこれほど激しく共感できる映画も珍しい。「親心、子知らず」と言われるが、まさに我がことのように身につまされ、改めて故郷への想いがつのり心苦しいほど胸を打つ感動作なのである。


takatsugawa-inta-240-1.jpg本作を手掛けたのは、『渾身 KON-SHIN』(13)、『RAILWAYS-49歳で電車の運転手になった男の物語-』(10)や『白い船』(02)など、自身の出身地・島根県を舞台にした作品が多い錦織良成監督。本作では、「古事記」や「日本書紀」などの神話の郷でもある出雲の国の今を、自然の美しさや歌舞伎の源流ともいわれる伝統文化「神楽 KAGURA 舞」などを盛り込みながら、希薄になりがちな人と人との繋がりを今一度取り戻すことに成功している。


この錦織監督インタビューは、2020年3月に、翌月からの公開を前に大阪市内にある島根ビル内で行われた。「コロナ禍は今ここにある危機、『高津川』は20年後の危機。高齢化が進む地方を舞台にした映画ですが、カテゴリーに拘らず、若い人にも観てほしい。そして皆さんに考えて頂きたい。」と本作にかける熱い想いを語った。


takatsugawa-500-1.jpg「親の心、子知らず」、改めて親の心情に触れて、愛されていた自分の至福に気付いて、情けないほど心がかき乱されてしまいましたが――?

地方で生まれ育った若者は、そのまま地元に残る者は少なく、都会へ出て行く者の方が多い。次第に高齢化が進み、先祖伝来の山野や田畑の維持も難しくなりつつある。子供の希望を大事にするあまり、子供に家を継がせたくても言い出せない親。子供の幸せを一番に願う年老いた親の背中がいつの間にか小さくなっていく。進学のため苦労して仕送りし、生活の足しにと愛情いっぱい詰まった物資を送る。でも、卒業したらいつの間にか帰ってこなくなり疎遠になってしまい…「親はつまらん」とこぼしながらも、常に子供のことを心配する親。

そんな親の想いを感じて、たまには田舎に帰ろうかなとか、親に電話してみようかなとか、田舎の家を修理しようかななどと、少しでも思って頂ければ、それだけで嬉しいです。


今回島根の独自性を盛り込みながら家族愛を描いておられますが、地方を舞台にした映画を撮る事について――?

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よく「島根の映画を撮っている人」とか言われます(笑)。島根は「古事記」や「日本書紀」などの伝説の郷として知られていますが、映画は表現のためのコンテンツなので、誰かのためとか宣伝目的で作るものではなく、あるテーマを表現している作品でなければならないと思っています。島根で開催している映画塾でも、「本当に島根のための映画を撮りたいのなら、先入観を壊すような、人の心を動かすような映画を撮るべき」と教えています。YouTubeの時代だからこそ、フィルム撮影でしか出せないものを、じっくり時間をかけて、奇をてらわずふりきって撮りました。若い人も含めて映画の良さを再認識して頂くためにも、是非映画館で観てほしいです。


ストレートなセリフに心を鷲掴みされました。特に甲本雅裕さんと高橋長英さんのシーンに一番泣かされましたが――?

俳優さんたちにも「大丈夫かな?クサくならない?」と確認しながら脚本を書いてました(笑)。甲本さんには7本の作品に出てもらっていて、10年前に「いつか主役で撮りたいね」と言っていたので、今回は甲本さんあてがきにしました。寡黙な父親役ですが、台本変えなくてもキャラクターを理解して演じられるのも甲本さんの才能。高橋さんも3本目ですが、さすがにベテランの妙です。奈良岡朋子さんには、『RAILWAYS - 49歳で電車の運転手になった男の物語 -』(2010年)に出てもらった時、「今後も全部の作品に出るわ」と仰って頂いて、今回実年齢(91歳)より20歳も若い郷土料理が上手なおばあちゃん役を自然体で演じて下さいました。

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演出について?

今さら言うことではないのですが、俳優さんは皆さん素晴らしいので、俳優さんたちの力を引き出すのが僕の仕事だと思っています。才能以上のものを出してもらうための現場作りをするのが監督の役目です。今回は地味なタイトルで勝負しておりますが、WEBなどでいくら便利な世の中になっても、最後はアナログというか、直接心に響くものが伝わると信じて演出しています。
 



■原作・脚本・監督:錦織良成  音楽:瀬川英史
■出演:甲本雅裕、戸田菜穂、大野いと、田口浩正、高橋長英、奈良岡朋子
■2020年 日本 1時間53分
■配給: ギグリーボックス  
■© 2019「高津川」製作委員会 ALL Rights Reserved.
■公式サイト:https://takatsugawa-movie.jp/

2022年2月11日(金)~梅田ブルク7、2月25日(金)~京都シネマ ほか全国順次公開


(河田 真喜子)

 

 

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アカデミー賞®受賞製作チーム『ジュディ 虹の彼方に』『クィーン』
×
ロジャー・ミッシェル監督『ノッティングヒルの恋人』


オスカー俳優 ジム・ブロードベント『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』
×
ヘレン・ミレン『クィーン』


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知られざる名画盗難事件の背景を、徹底解剖!

 

ロジャー・ミッシェル監督長編遺作となる映画『ゴヤの名画と優しい泥棒』(2月25日(金)全国公開)。この度、本作の公開に先立ち、2月1 日(火)都内で先行上映を実施し、上映後に評論家・山田五郎さんと、ウェブ版「美術手帖」編集長の橋爪勇介さんが登壇しトークイベントを開催致しました。


◆日程:2022年2月1日(火)

◆会場:ユーロライブ(東京都渋谷区円山町1-5)

◆登壇:山田五郎(評論家)、橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)



オスカー俳優ジム・ブロードベントとヘレン・ミレン共演の映画『ゴヤの名画と優しい泥棒』公開記念イベントが2⽉1⽇(火)都内で開催され、評論家・山田五郎さんと、ウェブ版「美術手帖」編集長の橋爪勇介さんが登壇した。


goyadoro-pos.jpg本作は、ロンドン・ナショナル・ギャラリー史上唯一にして最大の事件、1961年に起きたフランシスコ・デ・ゴヤの肖像画<ウェリントン公爵>盗難事件の知られざる真相を描いた衝撃の実話。犯人は、60歳のタクシー運転手ケンプトン・バントン。TVに社会との繋がりを求めていた時代、孤独な高齢者のために盗んだ絵画の身代金で公共放送(BBC)の受信料を肩代わりしようと企てたのだ。橋爪さんから映画の感想を聞かれた山田さんは「本作の面白いポイントは台詞。夫婦のやりとりも面白いけど、特に裁判のシーンのセリフ回しは、イギリスらしくユーモアにあふれている」と語り、本作で主人公を陰ながら支える妻役のヘレン・ミレンのことも「実にイギリスらしい女優。エリザベス女王から、スパイ役、本作ではニューカッスルという田舎の労働者の奥さん役まで演じられる。役柄が幅広く、大好きな女優さんです」と語った。


まず、映画に登場するロンドン・ナショナル・ギャラリーについては「ヨーロッパの美術館は王室コレクションがベースとなった美術館が多いが、ここは個人コレクションから始っているのが珍しくて異色。銀行家であるジョン・ジュリアス・アンガースタインの個人コレクションがベースになっていて、その後国が買い上げて市民のために運営していっているので、非常に開かれた美術館であること。イギリスはヨーロッパ全体においてターナーが登場するまで、絵画の分野で美術後進国と言えるので、ナショナル・ギャラリーが美術史を教えようとしている教育的配慮があり、西洋美術史を俯瞰するようなコレクションになっている」と語った。


goyadoro-ivent-500-1.JPG自身の留学時代、パスポートを盗まれ再発行のために1カ月ほど思いがけずロンドンに滞在することになった思い出を語り、「大きすぎない、ちょうどいいコンパクトさで見やすく回りやすい美術館で、自分が一番勉強になった美術館だった。毎日のように大英博物館とナショナル・ギャラリーに通った。当時は地下にあった、今までナショナル・ギャラリーが買ってしまった偽物を展示している贋作の部屋が、本当に勉強になった。そういった絵を展示している美術館は、懐が深いというか、すごいと思った」と語った。


goyadoro-500-8.jpgまた、イギリスの英雄である絵画〈ウェリントン公爵〉のアメリカへの流失を防ごうとする映画のいくつかのシーンについては、「海外では自国の貴重な絵画が流出することに対して世論が高まり、その絵画を国として買い戻そうとした例がいくつかあるが、日本では驚くほどそれがない。さらっと流失して、里帰りして戻ってくることもある」と語った。


「『ウェリントン公爵』の表情については、無表情だ、冷たい顔をしている、と評されることがあって、ゴヤはウェリントン公爵に反感をもっていたのではないかと言われるが、そんなことはない。彼は数多くの戦勝を上げて公爵までスピード出世した軍人であり、ナポレオン率いるフランスからスペインを救った英雄なので、ゴヤは宮廷画家としてきちんと描いた。ゴヤは本当に絵が上手い人で、実際にウェリントンさんは戦争続きで本当に疲れた顔をしていたんだと思う(笑)。トーマス・ローレンスというイギリスの宮廷画家が描いたウェリントンも疲れているから、本来この顔なんだよ(笑)」と山田さんが語り、会場を沸かせていた。


goyadoro-500-7.jpg最後に、「60年代のロンドンが忠実に表現された、時代を感じる映画だと思う。おそらく当時の映像も使用されているんじゃないかな。主人公は労働者だけど、戯曲を書いたり本を読んだり、昔の労働者階級は教養があったんだなと思った。かつての日本も同じだったと思う。この事件が起こった1961年は、ガガーリンが月に行った、ケネディが大統領になった、日本ではトリスを飲んでハワイに行こう、と言っていた時代だった」と懐かしく語った。
 


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【STORY】

世界中から年間600万人以上が来訪・2300点以上の貴重なコレクションを揃えるロンドン・ナショナル・ギャラリー。1961年、“世界屈指の美の殿堂”から、ゴヤの名画「ウェリントン公爵」が盗まれた。この前代未聞の大事件の犯人は、60歳のタクシー運転手ケンプトン・バントン。孤独な高齢者が、TVに社会との繋がりを求めていた時代。彼らの生活を少しでも楽にしようと、盗んだ絵画の身代金で公共放送(BBC)の受信料を肩代わりしようと企てたのだ。しかし、事件にはもう一つの隠された真相が・・・。当時、イギリス中の人々を感動の渦に巻き込んだケンプトン・バントンの“優しい嘘”とは−!?
 

監督:ロジャー・ミッシェル(『ノッティングヒルの恋人』『ウィークエンドはパリで』)
出演:ジム・ブロードベント、ヘレン・ミレン、フィオン・ホワイトヘッド、アンナ・マックスウェル・マーティン、マシュー・グード
後援:ブリティッシュ・カウンシル 
配給・宣伝:ハピネットファントム・スタジオ
2020年/イギリス/英語/95分/シネマスコープ/5.1ch/原題:THE DUKE /日本語字幕:松浦美奈
©PATHE PRODUCTIONS LIMITED 2020

公式HP:happinet-phantom.com/goya-movie/ 
公式Twitter:
@goya_movie

作品紹介はこちら⇒

2022年2月25日(金)~TOHOシネマズ シャンテほか全国公開


(オフィシャル・レポートより)

 

 
 

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『プレゼントラフター』プレスシート(マスコミ向け非売品)プレゼント!

(ブロードウェイ版の演出家、モリッツ・フォン・スチュエルプナゲル氏の貴重なインタビューが掲載されています。)

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◆提供:松竹

◆プレゼント数:3 名様

◆締め切り:2022年3月11日(金)

公式HP: https://broadwaycinema.jp/

 

2022年3月11日 (金)~なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹にて全国公開

 


 

“お相手の本音、おしえますー。”

ブロードウェイが熱狂した恋愛アカデミー!?

ケヴィン・クライン、トニー賞 演劇主演男優賞受賞作品!

人間は、いくつになっても恋をする。役者魂、ここにあり。

 

アカデミー賞&トニー賞をW受賞したキング・オブ・アクターであるケヴィン・クラインが主演し、第71回トニー賞演劇主演男優賞を受賞した記念すべき作品であり、英国の劇作家・俳優・音楽家として大成功を収めたノエル・カワードが、“ミドルエイジの危機と悲哀”に陥った大人気喜劇俳優の姿を描いた極上のコメディがブロードウェイシネマとして登場!

大ヒット映画『アベンジャーズ』シリーズのマリア・ヒル役を演じ、本作がブロードウェイ・デビュー作となるコビー・スマルダーズにもぜひご注目ください。
 

【STORY】

舞台はイギリスのロンドン、1900年代前半。ギャリーはミドルエイジの大人気喜劇役者。腐れ縁の(元?)妻、自分の事を親よりも知っている秘書、恋仲の女流作家と、ギャリーに好意を持つ男性作家に若い女性―。今日も個性的な面々に囲まれながら、本心を言い出せないギャリー。

果たして、ギャリーは最後まで“プレゼント・ラフター(今の笑い)”を演じきることが出来るのか!?


【キャスト/制作】

ノエル・カワード 作『プレゼント・ラフター』
出演:ケヴィン・クライン、ケイト・バートン、クリスティン・ニールセン、コビー・スマルダーズ
装置デザイン:デビッド・ジン
衣装デザイン:スーザン・ヒルファーティ
照明デザイン:ジャスティン・タウンセンド
音響デザイン:フィッツ・パットン
ブロードウェイ版制作:ジョーダン・ロスほか
映画版制作:スチュワート・ F・レーンほか
エグゼクティブ・プロデューサー:スチュワート・ F・レーンほか
ブロードウェイ版演出:モリッツ・フォン・スチュエルプナゲル
シネマ版監督:デヴィッド・ホーン
配給:松竹  ©BroadwayHD/松竹
〈米国/2017/ビスタサイズ/136分/5.1ch〉 日本語字幕スーパー版

公式HP: https://broadwaycinema.jp/

2022年3月11日 (金)~なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹にて全国公開
 


(オフィシャル・リリースより)

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イタリア初の長編映画『インフェルノ』、記念碑的作品の製作&復元舞台裏を明かす。
@第13回京都ヒストリカ国際映画祭
動画コメント:カルメン・アッカプートさん (チネテカ・ディ・ボローニャ財団) 
 
 
1月22日から開催中の第13回京都ヒストリカ国際映画祭。2日目となる1月23日は、今回新たに加わったボローニャ復元映画祭連携企画で、ダンテ没後700年にちなみ、2007年に復元、2021年に同映画祭で再び紹介された無声映画『インフェルノ』(1911)が、楽士、鳥飼りょうさんのピアノ伴奏付きで上映された。
※1月24日(月)~1月30日(日)までオンライン上映配信中。
 
 黒いアップライトピアノが置かれた京都文化博物館3Fフィルムシアターでは、本企画の立ち上げから交渉、実現まで尽力されたイタリア文化会館-大阪の山本慶子さんによるご挨拶の後、鳥飼さんの情緒豊かな演奏と共に、イタリアを代表する詩人、ダンテ・アリギエーリの「神曲」第1篇地獄篇を原作にした、地獄のイメージが折り重なる本作が110年前の作品とは思えないほどの鮮やかさでスクリーンに映し出される。私利私欲に蝕まれると、どんな恐ろしい獣の餌食になってしまうのか。映画誕生黎明期において、当時の最先端だった特撮技術や、山岳ロケ、そして幻想的なモンタージュを駆使し、当時の知識人や高階級の人々を虜にした圧巻の65分を多くの観客と共に味わい、京都ヒストリカ国際映画祭の新たな歴史の1ページが刻まれる1日となった。
 
 上映後は、『インフェルノ』の復元にあたったチネテカ・ディ・ボローニャ財団カルメン・アッカプードさんによる動画コメントが上映され、『インフェルノ』製作の舞台裏や、当時格下と見なされていた映画が文化としての地位を確立し、知識人に支持され、海外にまで広げる戦略、そして2年がかりの復元作業について細部まで詳しく説明してくださった。その内容をかいつまんでご紹介したい。
 
 
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■知的な観客層を獲得するための挑戦的な企画

 イタリア無声映画史上最重要作の一つである『インフェルノ』は、当時300mが通常だったフィルムの長さが一気に1000mを上回り、イタリア初の長編となった。長さだけでなく、かけた製作費、宣伝費も破格で、イタリアで初の映画賞を受賞した作品としても歴史に名を残しているという。
 
 もう一つ忘れてはいけなのが、演劇や文学と同様に、イタリア映画で初の著作権認定を受けた点だとアッカプードさん。当時、まだ生まれたての映画産業は、歴史のある演劇や知識人の集まる文化サロンと比べて、低俗な見世物とみなされていたが、徐々に映画が産業として確立され、1905年にミラノ在住の投資家グループが設立したサッフィ・フィルム社は、記録映画の技術者として有名なルーカ・コメーリオと提携し、知的な観客層を獲得する作品の製作を模索していったという。そのような文脈の中で挑戦的な企画として浮上したのが、ダンテ・アリギエーリの『神曲』最初の詩篇[『地獄篇』;インフェルノ]の映画化だった。監督には、ダンテ作品を専門とする文学者、アドルフォ・パドヴァン、
ダンテ研究の第一人者、フランチェスコ・ベルトリーニ、そして監督経験のあるジュゼッペ・デ・リグオーロの3人が招集され、映画の特殊効果の専門家に加え、芸術家や舞台美術家、さらに作品をより充実させるためのアドバイザーまで参加。書籍として出版された『神曲』の挿絵を描いたギュスターヴ・ドレの作品が、地獄篇を視覚的に物語るモデルとして採用されたという。
 
 
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■世界で大ヒットを果たしたことで、復元用の素材が残っていた

 撮影開始後、野外撮影で膨大なコストがかかり、1909年夏の終わり、地獄篇の冒頭が出来上がった時点で、サッフィ社幹部はミラノ初開催の映画祭に「ダンテの詩篇に関する試論」(仮題)で出品。未完成ながら大賞を受賞したことで、『インフェルノ』は大きな注目を浴び、完成版への期待度が高まったという。最終的に経営が圧迫したサッフィ社は倒産、新たな資本が入り、ミラノフィルム社が映画を引き継ぎ、1911年3月1日、ナポリのメルカダンテ劇場において『インフェルノ』は初上映された。当時から世界中でイタリア文化の振興に影響力のあったダンテ・アリギエーリ協会による助成の力も大きかったと語るアッカプードさん。以降 各地の協会支部がイタリアの主要都市での上映実現に尽力し、海外配給も実現。映画と共に、ダンテ文学の世界普及、さらにイタリア文化の振興役ともなった。数多くの上映用フィルムが複数の再編集を経て、様々な時代に作られていた『インフェルノ』は、フィルム復元に向けての素材調査の結果、14本ものフィルムが世界各地で残っており、「世界の無声映画の約80%が失われているので探すのはとても困難、こんなに残っているのは稀です」とアッカプードさんは力を込めた。
 

■2年がかりの復元作業、「物語としての完成度と見た目の美しさ」を目指して

 14本の素材のうち9本は不燃性の白黒フィルムに焼き付けられた複製物、残りの5本は可燃性フィルム(ナイトレート)で着色されたポジフィルムで、その中の1本が製作当時のものと特定されたという。
 
 復元にあたって大事な「物語としての完成度と見た目の美しさ」にのっとり、1911年の上映版(イタリア版)を製作者の望んだ通りの正しい順番のバージョンとして採用。美学的視点からは、作品の編集に使える最も画質の良い素材を探すのが復元者の仕事で、復元における最終的な色彩の決定も行うのだ。
 
 緻密に比べる作業を続ける一方で、トレントのダンテ像が最終カットに使われていたバージョンを見つけた時は、ほかのフィルムでは見つからなくても当時のパンフレットを調べ、物語の最後にダンテ像があったことを推測。また、題字やインタータイトルなどの
文字の復元では『インフェルノ』の直後にミラノフィルム社が製作した作品『オデッセイ』のタイトル装飾と照合し、正しいバージョンを推測する作業を行っていたとアッカプードさんは説明。欠損した箇所も調査研究により仮説を立て作業にあたるというアッカプードさん。「私たちに教える全ての材料を突き詰めて研究することで、復元者の疑問に対する答えは必ず見つかるのです」
 
 
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■ボローニャ復元映画祭と“未来のシネフィルを育てる”

 国際フィルムアーカイブ連盟FIAFに参加し、アーカイブでの保存という根本的な活動の
さらに先を見据え、保存する貴重な映画遺産を誰もが利用したり、鑑賞できるための復元を専門のラボ、リンマージネ・リトロヴァータで行うのが、チネテカ・ディ・ボローニャ財団の取り組みの中心になっている。今やパリ、香港にも新拠点が作られており、世界の映画祭でのクラッシック部門での上映だけでなく、イタリアの地元、ボローニャで毎年夏に開催される「ボローニャ復元映画祭」では、多くが35mmフィルムで500本ものクラッシック作品が上映され、期間中のべ10万人の観客が参加するという。中でも中心部にあるマッジョーレ広場の野外上映は市民に広く開放されており、まさに『ニュー・シネマ・パラダイス』さながらだ。また、小学生向けの上映付きセミナーの講師をチネテカ・ディ・ボローニャの技術者が担当することで新世代のシネフィルの育成も行なっている。また、チネテカ・ディ・ボローニャが復元した旧作や名作のプログラムを作り、イタリア国内約70スクリーンで月に1本ずつ再上映をするという試みも興味深い。
 
「60年代にボローニャ市の小さな映画担当部署として組織されたチネテカは、長年に渡り
映画文化の普及と広報、そして復元活動を通じて着実に成長を続けた結果、今では映画を評価するための基準として世界中が参考にするに至っています」
行政が映画文化の普及や復元活動を支援し、地道に人材育成を続けた結果、世界からもその取り組みが注目され信頼が置かれている様子が伝わってくる、とても貴重なトークだった。
©️Cineteca di Bologna
(江口由美)
 
第13回京都ヒストリカ国際映画祭はコチラ http://www.historica-kyoto.com/
 
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