原題 | THE DUKE |
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制作年・国 | 2020年 イギリス |
上映時間 | 1時間35分 |
監督 | ロジャー・ミッシェル(『ノッティングヒルの恋人』『ウィークエンドはパリで』) |
出演 | ジム・ブロードベント、ヘレン・ミレン、フィオン・ホワイトヘッド、アンナ・マックスウェル・マーティン、マシュー・グード他 |
公開日、上映劇場 | 2022年2月25日(金)~TOHOシネマズ シャンテ、TOHOシネマズ 梅田、TOHOシネマズ なんば、京都シネマ、TOHOシネマズ 西宮OSほか全国ロードショー |
気骨のある愛すべき人物像と家族愛、
そしてあっと驚く展開まで、すべてが心にやわらか~い。
イギリス北部の町・ニューカッスルに住むケンプトン・バントン(ジム・ブロードベント)は、正義感が強く、“アンチ権力”を貫く男。だが、それゆえに何かとトラブルを招き、妻のドロシー(ヘレン・ミレン)は呆れ、小言を繰り返している。でも、父の側に立つ息子ジャッキー(フィオン・ホワイトヘッド)は、貧しい年金生活者や退役軍人が、イギリスの国営放送BBC(NHKと同じようですな)の受信料が払えないために番組を見られないのは、非常に不条理だと声を上げる父に寄り添って、一緒に街頭で署名を募ったりしている。
そんなある日、議会に抗議するため、ロンドンまで出かけたケンプトンだったが、その後、ロンドン・ナショナル・ギャラリーに飾られていたフランシスコ・デ・ゴヤの名画「ウェリントン公爵」盗難事件が報道されるとともに、その名画はケンプトンのアパートに。彼は、「名画を返してほしいなら、年金受給者のBBC受信料を無料にせよ」という脅迫状を送り付けるのだったが…。
これは、1961年に実際に起き、世の中を大きく騒がせた事件で、映画の最後にケンプトン・バントンご本人の写真が出てくるが、ジム・ブロードベントの面立ちとよく似ている。本作の見どころとして先ずあげられるのが、イギリスの名優ふたり、ジム・ブロードベントとヘレン・ミレンの演じっぷりだろう。この夫婦は、過去に長女を事故で亡くしており、その傷跡に触れたくない妻と、自ら戯曲に書いてまで覚えておきたいと思ってるのであろう夫の、スタンスの違いが強調されるように、さまざまな面で対照的である。対照的であるがゆえに揉める、揉めるけれど、実は心の底にある愛情は深い。その機微がみごとにあぶり出されている。
後半から、「実は…」という真相が明らかにされ、これは、前半のあるシーンを注意深く見ていないとなかなかわかりづらいのだが、ひねりのあるミステリー小説のようで面白い。また、終盤の裁判シーンは抱腹絶倒!ケンプトンの答弁が面白おかしくて、裁判長に「コメディアンのオーディションをやってるのではない!」と叱られるほど。傍聴人を熱狂させ、最初は全くやる気を見せなかったケンプトン側の弁護士ジェレミー・ハッチンソン(マシュー・グード)に熱弁を振るわせ、感動の結末へと導いていく。
「あなたは私だ、私はあなただ」というケンプトンの言葉にじ~んとくる。権力に媚びず、弱者の立場に立つ…。スタンダップ・コメディアンの松元ヒロさんにスポットを当てたドキュメンタリー映画『テレビで会えない芸人』を連想してしまった(この映画も必見ですよ!)。ちなみに、ジュリア・ロバーツとヒュー・グラント共演でヒットしたラブ・コメディ『ノッティングヒルの恋人』(1999年)でもメガホンを取った本作の監督ロジャー・ミッシェルは、昨年65歳で亡くなったそうで、これが長編遺作となった。合掌。
(宮田 彩未)
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